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観光資源活用促進

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観光資源活用促進
静
岡
県
議
会
観光資源活用促進特別委員会
報
告
平成 24 年2月 21 日
書
1
調査の概要
当委員会は、
「豊富な本県産食材や多様な観光資源を活用した観光誘客の促進
に関する事項」を付託調査事項として、平成 23 年6月 29 日に設置されて以来、
別表1「委員会の活動状況」に示すとおり、5回にわたって委員会を開催した。
この間、執行部に対して県施策の概要について説明を求めて質疑を行うとと
もに、当面、取り組むべき課題を指摘した。
また、観光誘客に関係するさまざまな意見を聴取するため、県内で活躍して
いるホテル・温泉施設等の経営者、観光交流ビューローの職員を参考人として
招致して意見聴取するとともに、旅館ホテル協同組合、観光協会、道の駅の関
係者等との意見交換を行った。
さらに、先進地視察として、国際観光都市の札幌市に隣接し、新千歳空港が
ある一般社団法人千歳観光連盟、北海道の支庁境を越えて斜里町ほか3町で構
成されている知床観光圏協議会、知床世界自然遺産の素晴らしさとルール、マ
ナーを伝える活動を展開している知床世界遺産センター、地域資源を生かした
観光とプロモーション活動に取り組んでいる北海道オホーツク総合振興局を訪
問し、その取り組みを調査した。
2
委員会の運営方針
第1回特別委員会において、次の2点を運営方針として決定した。
・ 執行機関に対する調査に偏ることなく、委員討議や参考人の意見聴取、先
進事例視察等を積極的に実施する。
・ 調査結果は、委員会の提言等として報告書にまとめ、速やかに議長に提出
する。また、直近の本会議で報告書を議場配布し、委員長報告を行う。
3
調査の観点
当委員会は、付託事項の調査に当たり、豊富な本県産食材や観光資源を活用
し、いつでも魅力と満足がある観光地として、誘客促進につながる施策などに
ついて、調査、提言していくこととした。
調査を進めて行く上で、本県産食材や観光資源の魅力を提起し、観光客増加
につながる情報発信の方策、海外からの観光客や多様な旅行形態の受け入れが
可能な人材育成、施設整備、社会基盤整備、隣接県を含めた観光圏域内の連携
強化による観光商品の開発及び誘客促進を主な観点とした。
-1-
4
本県における取り組みの状況
当委員会では、執行部から事業の執行状況等の説明を受けるとともに、質疑
を行った。委員会において執行部から説明のあった本県の取り組みのうち、主
なものを掲げる。
(7月 25 日 第2回委員会開催時における執行部説明による。)
(1) 文化・観光部
【国内外からの観光誘客の取り組み】
東日本大震災の影響に対応し、県内に観光客を呼び戻すため、海外における
風評の払拭に努めるとともに、首都圏、中京圏等に向けた誘客対策などを実施
している。海外誘客事業として、主要なターゲットである中国や韓国において、
海外観光展への出展や商談会を開催しているほか、海外の旅行社、メディアの
本県への招聘などを実施し、本県の魅力と安全に関する正確な情報を積極的に
発信している。
【観光人材の育成】
体験型や目的志向型に変化している観光ニーズに対応するため、研修会の開
催等を通じて、地域の観光資源を活用した旅行商品の造成、販売や、効果的な
観光情報の発信ができる観光人材の育成を推進している。
また、各地の観光ボランティアガイドの協力のもと、地域の歴史や文化を伝
える出前講座を実施するほか、ガイド技術向上のための研修会を開催するなど、
ボランティアガイドの地域活動を強化している。さらに、市町や団体などが外
国人観光客の受け入れ態勢を充実させるために実施する研修会に対し、県の観
光顧問や観光アドバイザーを講師として派遣するとともに、さまざまな場面に
おける外国人観光客への対応等を紹介した「おもてなしツール」を提供して、
市町等の受け入れ態勢の整備を支援する。
【多言語表記観光案内看板等の整備】
主要な観光地の鉄道駅やバスターミナルにおいて、広域路線図や乗りかえ案
内誘導等を表記した多言語の標識を設置している。また、国内外の登山客が急
増する富士山において増加している道迷いや外国人登山客に対応するため、環
境省や山梨県と連携して、富士山五合目以上の登山道上に統一したデザインで
多言語表記の案内標識を整備している。
【観光圏の整備促進】
2泊3日以上の滞在型観光を目指す観光圏として、本県では、
「浜名湖観光圏」
-2-
「伊豆観光圏」
「箱根・湯河原・熱海・あしがら観光圏」の3つの観光圏が国か
ら認定を受けている。
観光ニーズが多様化する中で、自然や歴史・文化、多彩な食などの地域資源
にさらに磨きをかけ、観光地の魅力を高め、圏域内での周遊や滞在を促進する
必要があるため、県としては、
「着地型旅行商品の情報提供と販売等が一箇所で
可能となる仕組みづくり」など、観光圏の形成を行う協議会の取り組みを支援
していく。
【伊豆半島ジオパーク構想の推進】
平成 23 年3月に伊豆半島の7市6町や県、関係団体から構成される「伊豆半
島ジオパーク推進協議会」が設立され、事務局を伊東市に置くとともに、地質
専門員を配置し、平成 24 年度の日本ジオパークネットワークへの加盟に向け、
推進体制を整えた。見どころを説明するジオガイドのリーダー養成を行うとと
もに、ツアーコースの選定やジオサイト整備計画の策定を行い、ジオツアーを
実施している。県としては、協議会が地域と一体となって各種事業を円滑に進
められるよう、引き続き積極的に支援していく。
【祝祭年間情報誌「アトリエ・ふじのくに」の発行】
平成 23 年2月からは、本県の四季折々の文化芸術の催しや地域の祭り、さら
には食の情報など、ふじのくにを彩るさまざまな魅力を春夏秋冬の季節ごとに
編集、紹介した、
「アトリエ・ふじのくに」の発行をしている。今後も、県民の
皆様や他県から来訪された方々が計画的に県内各地をめぐり、
「ふじのくに」の
魅力を満喫していただけるよう、地域の文化資源の発掘に努めて、内容の充実
を図り、「ふじのくに」の多彩な魅力を積極的に情報発信していく。
【滞在型グリーン・ツーリズムの促進】
農林水産物や景観などの農山漁村地域の資源を最大限に活用した「滞在型グ
リーン・ツーリズム」を促進するため農林漁家民宿の開業促進や「子ども農山
漁村交流プロジェクト」の取り組みを推進している。平成 23 年度の農林水産省
の「子ども農山漁村交流プロジェクト」の受け入れモデル地域として、静岡市、
下田市、西伊豆町、松崎町の4地域が新たに採択され、平成 21 年度に採択され
た森町とあわせて、県内で受け入れモデル地域が5地域となった。県では、各
地域の取り組みが継続的なものとなるよう、修学旅行の誘致を支援するととも
に、研修会等を通じて県内各地域における取り組みの拡大を促進していく。
-3-
(2) 健康福祉部
【地域資源を活用した健康づくりプログラムの開発】
本県は、日本を代表する温泉地や山、海、緑茶などの豊富な地域資源を有し
ており、これらは肥満や生活習慣病予防の観点からも注目され、市町でもいろ
いろな取り組みが行われている。この地域資源を活用した健康づくりプログラ
ムは、
「ふじのくに健康増進計画」の健康づくり戦略として、ふじのくにの場の
力、自然、産業、文化、知識を活用した健康づくりとして位置づけている。
これまでは伊豆地域を中心に健康保養地構想を軸とした地域のNPO、団体、
民間企業や市町が連携・協働し、かかりつけ湯などの独創的な地域のメニュー
づくりが行われてきている。
本年度は健康増進に有効な温泉と緑茶を生かした健康づくりについて、モニ
ターによる実証実験を行い、専門家の指導、助言を得ながら、その効果を検証
していく。これらの検証結果を踏まえた上で、来年度に向けて関係機関の協力
を得ながら具体的な方策を検討して、普及を図っていく。
昨年度の実施状況については、県内の市町などにおける温泉療法や森林セラ
ピー、お茶の効用など、専門的な知識を有する方にアドバイザーを依頼し、
「ふ
じのくに健康づくりシンポジウム」を平成 23 年2月 24 日に三島市の県総合健
康センターで開催したほか、地域資源を活用した健康づくりの取り組み事例集
を作成し、市町など関係機関に情報を提供している。
(3) 経済産業部
【ふじのくに食の都づくり】
食材の王国であることを生かし、国内外の方々を引きつけ、あこがれを集め
る「ふじのくに食の都づくり」を平成 22 年度から推進している。具体的には、
県産食材を活用し、本県の食文化の創造等に貢献している料理人などを、
「ふじ
のくに食の都づくり仕事人」として 200 人を表彰したほか、仕事人ガイドブッ
ク1万部を作成し、3月から全国の書店で販売している。また、今年度は、引
き続き仕事人の表彰を行うほか、ほかの仕事人等の模範となるようなすぐれた
取り組みを行っている仕事人を「The 仕事人 of The Year」として表彰していく。
情報発信については、昨年度、仕事人が統一テーマにより創作した料理等を
提供する「食の都
仕事人ウイーク」や県産食材の魅力や静岡ならではの食文
化を学ぶ「ふじのくに食文化創造講座」を開催し、一定の成果を上げたことか
-4-
ら、今年度も引き続き開催していく。また、首都圏に対して積極的にPRする
ため、新たに東京都内で食の都のトップセールスを行っていく。
(4) 交通基盤部
【伊豆縦貫自動車道】
東駿河湾環状道路については、既に供用している 10 キロメートル区間に続く
函南塚本インターチェンジまでの約7キロメートル区間で、高架橋工事などの
本線工事が平成 25 年度の供用に向けて進められており、三島加茂インターチェ
ンジは、今年度の供用に向けて舗装工事等が進められている。天城北道路につ
いては、大平インターチェンジから(仮称)天城湯ヶ島インターチェンジまで
の約5キロメートル区間で、これまでに9割以上の用地が取得され、今年度は
日向トンネルに着手する予定となっている。河津下田道路については、Ⅱ期区
間の環境影響評価手続が7月に完了したため、平成 24 年度新規事業化を強く国
に働きかけていく。
県としては、新東名高速道路の一日も早い開通など、県内の高規格幹線道路
の整備促進に向けて、引き続き、国や中日本高速道路株式会社に事業の促進を
働きかけるとともに、高規格幹線道路の進捗にあわせてアクセス道路等の整備
を進めていく。
【富士山登山口におけるマイカー規制】
近年の富士山への来訪者の増加に伴い、富士宮口と須走口では、これまでマ
イカー規制期間外の週末を中心に、交通渋滞が激しくなってきていることから、
規制期間の拡大に向け関係者の合意形成に努めてきた結果、今年度から関係市
町や交通事業者等に費用を負担していただくとともに、利用者からも二合目の
乗換駐車場管理費用の一部として、1台当たり 1,000 円の駐車料金を負担して
もらい、両登山口とも旧盆時期と7月 15 日から8月末までの週末の 26 日間に
期間を拡大して、マイカー規制を実施している。
(5) 教育委員会
【文化財クローズアップ】
観光シーズンでもある 11 月上旬を「しずおか文化財ウイーク」と位置づけ、
市町や文化財所有者と連携して、文化財にかかわるイベントを県内各地で開催
している。イベントの内容は、見る、学ぶ、歩くというコンセプトで文化財の
-5-
公開や講演会、文化財の見学を兼ねたウオーキングなどである。教育委員会で
は、参加イベントを網羅したリーフレットを配布するなど、市町と連携した広
報により相乗効果を期待している。また、県主催のシンポジウムを開催地の特
色をテーマに掲げて開催しており、本年度は、歴史的なまちづくりを目指して
いる下田市での開催を予定している。
【静岡県民俗芸能フェスティバル】
民俗芸能フェスティバルは、年1回、県内の各地を巡回しながら、民俗芸能
の魅力を多くの人に知ってもらう機会として開催している。23 年度は、伊東市
で開催し、伊豆に残る鹿島踊りや虎舞などの貴重な民俗芸能を見ていただくよ
うに計画している。東日本大震災により観光産業等が打撃を受けた、伊豆の振
興の一助になることを期待し、文化財クローズアップとともに、今年度は伊豆
で開催したところである。
【魅力ある伝統的建造物発掘事業】
文化庁では、本年度、
「文化遺産を活かした観光振興・地域活性化事業」を立
ち上げた。これは、地域に残る文化遺産を、地域の活性化や観光振興に生かす
ことを目的としたものである。教育委員会では、県文化財保存協会と連携し、
県内にある今まで知られていなかった建造物を探し出して、専門的な調査を行
い、その文化的価値を明らかにして、地域の活性化や観光振興の核としていき
たいと考えている。調査に当たるのは、昨年度、県が養成した文化財建造物に
かかわる専門的ノウハウを持った建築士、文化財建造物監理士である。現在、
全国的に、まちづくりを進めるうえで歴史的建造物の活用は重要なコンセプト
となっており、この事業を通じて魅力ある文化財建造物が発見されることを大
いに期待している。
5
先進地調査(県外)
(1) 一般社団法人 千歳観光連盟(北海道千歳市)
【新千歳空港を活用した観光振興】
新千歳空港は、国内線 28 路線、海外 10 路線(うち震災以降運休2路線)
、年
間乗降客数 1500 万人。羽田-新千歳間の乗降客数は世界一のギネス記録がある。
国際線の年間乗降客数 94 万人。空路で結ばれた地域は隣町であるという考え方
で事業を実施している。道内には、県人会、故郷会があり、交流事業で空路が
活用されている。平成 10 年度に、千歳市、苫小牧市、伊達市、恵庭市、長沼町、
-6-
由仁町、安平町の知名度が低い地域で、新千歳空港周辺地域7市町の観光協議
会で広域協議会を結成している。道央だけでも札幌や富良野を含み広域になる
ので、もう少しコンパクトでやろうと手を挙げた地域である。
空路で結ばれた地域との物産交流フェアを実施している。現在は東北復興フ
ェア、4月は静岡フェアとこれまで 20 回行ってきた。人と物の交流を目指して
いる。百貨店と提携したフェアを行っている。富士山静岡空港開港時に訪問し、
その縁で、伊勢丹で物産展を開催した。
【誘致、宣伝事業】
観光事業部、広域事業部があり、サテライト運営のほかに、マスメディアへ
の対応、空港会社へのセールス活動を行っている。関東で行われる定例記者会
に、月1回レジャーに関する記者会見があり、情報発信を行っている。また、
旅行会社への営業活動も行っている。商品を企画して代理店に売り込み、商品
化まで携わる。観光客は北海道をぐるりと回るので、千歳ばかりでなく札幌、
富良野周辺まで考えている。
プロモーションの展開では、海外は国土交通省のヴィジットジャパン計画、
北海道の観光振興機構施策があり、そこに参画している。また、独自に現地で
の宣伝活動も行っている。北海道のインバウンド数の順位は、1位台湾、2位
韓国、3位香港、4位中国で、割合では台湾が7割になる。コンベンション関
係では、名水に恵まれてキリン、サッポロの工場があり、エプソンのEU向け
製品の工場がある。視察、教育旅行も含め、産業観光として、工場も協力的で
ある。
オリジナル商品として、千歳市の由来である「鶴が多い」にちなみ、長寿に
もあやかり、自然景観でのウエディング、ハネムーンを国内向けに商品化した
ところ、海外からの反応があり、海外向けに仕掛けたところである。
会員数は交通事業者なども含み 350 社ほどある。他の事業として、おもてな
しを出来るように中国語会話教室を開講している。メニューの翻訳サービス、
空港でガイドまでは行わないが、乗り換え案内や高齢者への応対などのお出迎
えサービスなど、ニッチなサービスを行っている。そのほか、空港の駐車場管
理事業を行っている。教育旅行は、台湾、韓国、シンガポールから需要がある。
「体験と研修の街:千歳」をテーマとしており、空港エリアで研修が十分に可
能であることを発信している。酪農とアウトドアを1日で体験できる。千歳市
内で 60 軒、近隣農家で調整して 400~500 人の受け入れが可能である。農家と
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連携して受け入れ客数を拡大したいが、否定的な農家もある。海外からの教育
旅行は、昨年度実績2校。教育旅行は一度満足を得られるとリピーターが見込
める。
【今後の展開】
空港のある地域は通過型といわれるが、良い素材があるので、通過する客に
情報発信して来ていただくように努力している。また、台湾フェアを開くなど、
一方通行にならないように事業を展開していく必要を感じている。
(2) 知床観光圏協議会(北海道斜里町)
【活動内容】
観光圏4町の宿泊の 85%が斜里町にある。女満別空港は年間約 70 万人、中
標津空港は年間数万人の利用がある。知床へは、3地域(網走、阿寒、根室)
からの経路があり、当町は端にあるため通過型になっている。観光資源は知床
半島中央に集中している。オシンコシンの滝が年間 70~80 万人、知床五湖が
40~50 万人、観光船が約 30 万人となっている。冬には流氷での観光客がある。
海外からは、年間1万人程度と少なく、国別で多いのは台湾、香港、シンガポ
ールの順である。
観光客数のピークは団体客が多かった平成 10 年。平成 17 年には、世界遺産
指定で盛り返したが、その後減少し、昭和 61 年頃の水準(ピーク時の 65%)
になっている。平成 19 年以降、旭山動物園のある道央に客が集中している。航
空機も機材が小型化している。最近では、国内客の低下をアジアで埋めたいと
の意見が多い。実際にいろいろなことをしていかなければならない。滞在型、
着地型、面的、体験的、通年、個人など、他の観光地と同じことだが、方向性
を示している。世界遺産指定は生態系由来であり、自然由来の観光資源ばかり
である。知床と周辺で3泊4日の観光は可能と考えている。
団体旅行客が減少しているが、個人旅行は横ばいが続いている。お土産の売
り上げは減少しているが、全体的な消費動向分析はまだできていない。ガイド
付きの原生林案内や早朝夜間の動物ウォッチングなど付加価値を検討している。
エコツーリズムも模索している。現在は知床岬に上陸してはいけないので、30
人程度まで許可するなどのルールづくりを準備している。
課題として、10、11、12、4月の端境期対策が見いだせないでいる。
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【観光圏設立経緯と今後】
平成 20 年に北海道運輸局企画観光部から打診があり、4町で協議を重ねて設
立に至ったが、斜里町と羅臼町は支庁境であり、4町で観光連携はほとんどな
く、各町の考え方の違いなども後から判った。3年がかりで、4町間の信頼関
係が出来てきたところである。ホテルなどでも他町の観光施設の案内を行うよ
うになってきている。設立時に、新しい負担金は発生しないという説明があっ
た。実質的に取り組むのは、観光協会だったが、観光協会は事業運営に不慣れ
で、事業を盛り込み、総花的な内容になった。
開始半年で事業仕分けの対象になり、現在、再スタートラインに立ったとこ
ろである。旅行者目線での圏域はこれからと考えている。
【町と観光協会の役割分担】
役場の範囲は、計画づくり、施設管理、交通、基礎調査、協会はイベント、
集客、情報発信などになる。運営費の約3分の1を出している。現在は緊急雇
用事業で2名つけている。農協、漁協くらいになればよいが財源がない。
【世界自然遺産としての知床】
船からの上陸は、環境省からの意見を住民が受け入れているため、実質には
できないが、徒歩では制限がない。林野庁、環境省、国土交通省(港湾)など
関係省庁が多く、人間が入るためのルール作りの調整も難しい。
斜里町としては、自然保護、再生ナショナルトラストを重視しており、全て
観光という考え方がない。特に自然遺産であり、地形の問題もあり、人間が入
り込むということを考えていない。勝手に上陸してたき火をする観光客が存在
する状況では、モラルのない観光客には来てほしくない。
(3) 知床世界遺産センター(北海道斜里町)
【知床世界遺産の概況】
1964 年に国立公園指定。1999 年に世界遺産に合致していると認識され、2005
年に世界遺産登録される。町が要望してから登録まで6年かかっているが、内
定からは2年で決定している。面積は7万1千 ha ある。自然遺産であり、登録
基準として、生態系と生物多様性が挙げられる。屋久島は生態系と自然景観。
白神山地と小笠原は生態系。特に、生物多様性として、シマフクロウ、エゾシ
カ等がいて、また、流氷の南限であり、豊富なプランクトンが運ばれ、陸に直
結していて、海に対する評価が高いのが特徴である。環境省から国立公園に指
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定され、また、鳥獣保護区、原生環境保全地域であり、林野庁からは森林生態
系保護地域に指定されている。
【センターの目的】
x 知床世界遺産の素晴らしさと利用にあたって守るべきルールやマナーの伝達
x 知床世界遺産の見どころや自然のリアルタイムな情報の紹介
x レクチャー映像を1時間に1回または随時上映。関連書籍や環境省の各種報
告書の閲覧
x 知床世界遺産の管理についての最新情報の提供
x 実物大の写真や動物の痕跡の模型の展示
【観光利用面での課題と対応】
x 240万人を超える利用者による荒廃が懸念される。また、静寂性が失われる。
x シーズン中は知床五湖に向かう自動車が渋滞し駐車場まで1.5時間かかり、木
道も長蛇の列になった。羅臼岳も登山者で一杯になった。
x エゾシカが逃げない。キツネがえづけされているなど動物との距離感に変化
がある。ヒグマが近寄るなどの危険がある。
x 類似施設が多く、目的が不透明になりやすい。
x レクチャーやインフォメーション施設としての認識向上。
x 22年度の利用者は年間10万人。23年4月から8月までで23万人。隣接の道の
駅利用者は年間50万人ある。
(4) 北海道オホーツク総合振興局(北海道網走市)
【観光の取り組み】
地域重点プロジェクトの5分野の1つに、
「地域資源を生かした新たな観光の
魅力づくりとプロモーション活動の推進」がある。
知床世界遺産、流氷、花々がある地域であるが、経済悪化、震災、原発事故
等で状況が変わっている。主な取り組みとして、①新たな観光素材を活用した
観光ルートづくり、②地元食材を生かした食の魅力アップ、③知床ツーリズム
など体験型観光の推進、④プロモーション活動の推進があり、これからも継続
していく。
道内外国人客数は、平成 11 年から増加し、平成 20 年、21 年は減少している。
国別では、台湾、韓国、香港、中国の順になっている。ここ5年間で中国から
の増加が目立っている。管内外国人宿泊客数は、平成 22 年は平成 11 年の2倍
- 10 -
になっている。香港、台湾、中国、シンガポール、韓国の順になっている。
管内交通として、紋別空港、女満別空港がある。羽田-新千歳間や他の空港
と比較して、理由はわからないが、航空運賃が高く設定されている。JRも高
速化対応できない路線が多く、道路も条件が悪い地域である。
様々な課題を整理して、取り組みの方向性を検討している。
主な事業として、①札幌圏を対象とした観光と物産のPR、②着地情報網の
整備(共有化して道の駅などで発信)、③滞在エリアの整備促進(地域連携によ
る滞在促進)、④外国人観光客の受け入れ態勢整備、⑤道東4振興局(釧路、十
勝、根室、オホーツク)の連携(公共交通機関の利便性向上)がある。
東日本大震災では、全道で 26 万人のキャンセルがあった。対策として、観光
業種の経営状況調査、経営相談会の開催、北見工業大学留学生に対する観光P
Rを行った。
【オホーツク「食」のブランド形成ネットワーク】
管内は、畑作と酪農が中心で帯広、十勝地域に次ぐ道内第2位の生産がある
地域であり、サケ、マスなど水産資源も豊富である。第1次産業が経済の中心
になっている。地域の現状、課題として、①北海道産品として認識されている
が、オホーツクのイメージに結びついていない、②道内 14 振興局のなかで、食
品工業出荷額は道内3位だが、付加価値率が 20.7%で 11 位と低いため、食品
分野における付加価値向上による競争力強化、③TPP、家畜伝染病、生産者の高
齢化など地域産業を取り巻く不透明な状況がある。
平成 18 年度から、地域の一体感を醸成し統一イメージの形成と浸透を図る、
オホーツク・エリア・アイデンティティーの取り組みを進めているので、「食」
のブランド形成は、相乗的に取り組む形になる。
産業の高度化に向けた施策の展開として、地域が有機的に連携して地域全体
の付加価値を上げる、将来を見据えたビジョンでエリア全体のブランド力強化
を図る必要があるという認識から、今年3月から、
「食」のブランド形成ネット
ワークを立ち上げた。生産者、企業、消費者、研究機関等が連携する。食を通
じて地域を元気にしようとしている企業や生産者が主役で、行政は橋渡し役で
促進していきたいと考えている。参画のメリットとして、情報の共有と発信、
連携促進、支援制度の紹介、先進事例の紹介があり、新商品の開発モデルに取
り組む。産業振興や観光に役立つことになる。
- 11 -
6
参考人の意見
当委員会では、有識者2組を参考人として招致し、意見聴取を行った。
(1) 株式会社時之栖
代表取締役社長
庄司清和
氏
【ホテル経営について】
x 最近のホテルは、眠ることができればよく、きれいな部屋の温泉旅館に1泊
することが大きないやしになるということでは全くない。ホテルに泊まって
次の日に何をするかということが大事なので、ただ泊まるということが目的
の旅館、ホテルは非常に厳しい状態になるのではないか。
x ホテルに泊まるきっかけをつくるためには何をすべきかが非常に大事であり、
当社ホテルの場合には、サッカー場を13面用意する、あるいはテニスコート
を何面か用意をする。こうした集客のための手段を各旅館ももう少し前面に
打ち出したほうがいいのではないか。
【県の役割について】
x 各市町村で非常に観光に対して力を入れていろんなイベントを組んでいて、
行事も新聞紙上にたくさん掲載されているが、何か自己満足にすぎないよう
なイベントであり、県外からお客さんを呼び込むだけの力を持たない。
x 観光というのは人間力のあらわれであり、だれがやるかということが大事な
こと。観光業というのは、24時間、休みなし、土日が忙しい、夜も夜中まで
仕事をする、こういうことを体で覚えている人でないとなかなかわからない。
静岡県下ですごい数のイベントをやっているが、ほとんど市役所とか県とか
そういう人たちが中心になってやっているので、どうしても中途半端になっ
てしまう。
x 観光業での仕事の中で、何人かの人が相談に来るが、やめたほうが良いと思
われることを必死で一生懸命やろうとしている。そういう意味で、人材の育
成が県がやるべき一番大事なことではないか。
x 人材の教育とは、例えば、静岡県の嘱託として、
「すき家」のゼンショーの社
長、軽井沢の星のやの社長、あるいはマクドナルドの社長とか、いろいろな
観光にたけた人を1週間に1時間でも2時間でも観光の人材育成のために来
てもらう。こうした人材育成機関を県でつくって、1週間のうちに3日か4
日を費やして各地からそれぞれのプロを呼んで教育をしてもらう。そして、
第二、第三の星のやの社長のような人を育ててもらいたい。
- 12 -
x 人材の育成が観光業にとって一番早道で、しかもコストが非常にかからない。
旅館の二代目、三代目、あるいは観光業を志している若者を50人、100人集め
て1年、2年と勉強の機会を与えてあげれば、観光業の基本をしっかりと身
につけた人たちがまちの核になって、大きな仕事、新しい仕事を見つけてく
れるのではないか。
【食について】
x 伊豆でも静岡でも浜松のほうでも立派な店はたくさんあるが、飲食は、その
お店のあるところに住んでいる人たちの質にもよる。いい店というのはすご
くあるけれど、お客さんが意外と知らない。知らないうちにそういう店はや
っていけなくなって、つぶれてしまう。いい店を探すことも大事だが、それ
をみんなで育てることが大事になる。
x 日本では定着していないが、チップ制というのはとてもいいと思う。サービ
ス料を10%とられるよりも、あなたにいいサービスをしてもらったから、チ
ップを置いておきますと机の上に置いていく。そうすると、その人は、また
次に一生懸命やる。やっぱりお店もみんなで育てるということが大事だと思
う。
(2) 富士山観光交流ビューロー
専務理事鈴木利幸氏
事業推進室長渡辺勝己氏
【富士山しらす街道事業】
x 平成21年度に、漁協の希望を受け、富士市観光課からしらす街道の推進事業
を受託し、
「富士山しらす街道」と名づけ、PRを開始し、10月から田子の浦
漁協食堂と名前をつけて実際の販売を開始した。
x 漁協食堂のコンセプトは、
「おいしく」
「安く」
「新鮮で量が多い」というイメ
ージ。朝、競りをする市場で長机といすを並べただけのシンプルな場所で、
実際にしらすをとる船が目の前に見え、漁場の海も見える場所に設置。
x 平成22年からは、漁協の青年部の協力を得て、4月から毎週土曜日と第4週
の日曜日にしらす丼を販売し、小女子の唐揚げ、しらすコロッケなどの新し
いメニューも一緒に販売をした。
x 平成22年度はまれに見る不漁で、やむを得ず年度途中で販売中止した。しか
し、中止をしたころからしらすがとれ始めたので、首都圏のバスツアー会社
にターゲットを絞りセールスを開始した。ちょうど秋から冬の企画を始めて
いるところで、いいタイミングで旅行会社にも採用された。
- 13 -
x 11月のJRさわやかウオーキングに富士山しらす街道を入れたコースを設定
してもらい、参加者は約1,000名を超え、漁協食堂は300食を販売した。クラ
ブツーリズムのバスツアー「東海道5食食べ歩き」コースでは、11月23日か
ら12月5日まで連続12日間、バスが104台で3,844名の方にミニしらす丼を味
わってもらった。
x 漁協食堂の効果として、しらす街道の店舗の売り上げが、平成21年度で対前
年比133%となっている。販売店の方は、既存の客や地元客を対象にしていた
が、バスツアーが来る、平日にもお客さんが来るということで、店舗の改装
や看板のかけかえなど積極的な取り組みが動き始めている。観光客を受け入
れることによって、地域消費から外部消費へと拡大している。
【産業体験観光事業】
x 工場を見るだけではなくて、実際に体験をする、そこまでを含めた企画を提
案し、昨年度から首都圏、中京圏のバスツアー会社にセールスをしている。
セールスポイントは、富士市はアクセスがよいということ。東名インター、
国道1号からのアクセスもよく、提案している施設がそれぞれ30分以内で移
動ができる。
x 食についての関心が強いので、富士市内にある食の工場見学とつくる体験、
事業者が実際にお客様についてこだわりを説明する、これを一つのプランに
してセールスをしている。事例としては、福泉産業のマイぽんず作り体験、
プラウドの豆腐工場、長谷川農産の高級マッシュルームなどがある。
x バスツアーの旅行商品として採用してもらうために、ほかの地域にはない、
ほかの旅行会社が使ってない、それが新しく価値があるもの、こういう観光
素材を常に求めているので、富士市でできる情報を随時提供している。
x 手配窓口をビューローに一本化し、手配や変更は1カ所ですべて完結してい
る。これにより、複数の施設見学、食事についても、1回の電話で済む。ま
た、希望した施設が受け入れできない場合は、代案の提示をし、お客様の団
体の特徴に応じて、施設の提案も行っている。
x バスツアーの受け入れのメリットは、受け入れ側は計画的な人の配置、仕入
れができること、個人客に比べお土産の購入額が多いことである。募集広告
に掲載されたバスツアーのコースを、他の旅行会社が、それを参考にして同
様のコースも設定してもらえる。また、しらす丼の写真、田子の浦漁協の漁
協食堂という名前を掲載してもらうことで、旅行に参加しなくても、広告を
- 14 -
見た方にPR効果が期待できる。
【漁協食堂・産業体験観光のターゲット】
x 富士市内には温泉宿泊施設がないため、1泊2日の宿泊プランは無理があり、
関東地方からの日帰りのバスツアーを対象にしている。高速道路などの整備
が進み、今まで1泊圏内だった群馬県や茨城県からも来ることができるよう
になり、富士市は日帰り旅行圏となっている。
x 旅行をするときに何を求めているかについては、アンケートでは地元のおい
しいものを食べたいという数字が上がってきており、それは、地元で今しか
食べられないグルメである。
x 今後の課題は、各施設との協力体制の確立である。もともと富士市は観光が
余りなかった土地であり、必要なのは地域として観光客を迎えることで、具
体的には観光事業を進める理解や協力、おもてなしの心をどう育てていくか
ということ。それから、観光客を呼ぶための基盤の整備。しらす街道といっ
ても、看板がない、付近を散策するのに歩道が一部ないといったハードの部
分の整備も進めていく必要がある。
7
現地調査(県内)
(1) 江川文庫・韮山反射炉
静岡大学人文学部教授
江川文庫史料調査主任
湯之上隆
氏
【江川文庫調査の成果と課題】
江川邸は、江戸時代の初めごろ、約 400 年前の建築で、一度も焼けたことが
ない。1261 年に日蓮聖人をお迎えしたことがあり、聖人の御曼荼羅を書き与え
られて守られているといわれている。このことは江戸時代の大名間の話題にな
っている。
現在 42 代目。取りつぶしになった代官職の家も多く、江戸時代を通じて世襲
した珍しい家柄である。石高 400 万石は人口でいえば大体 400 万人になり、代
官の仕事は、年貢徴収、法令伝達、訴訟審理などであり、幅広い支配を行って
いた。
江川家 42 代の中でも、特に有名なのが、江川英龍、号は坦庵である。江川家
には、古文書、書、絵、典籍、約 1,700 枚の写真、中にはアメリカに渡ったジ
ョン万次郎が日本に持ち帰った写真機によって日本人を撮影した最古の写真が
ある。これは専門家の鑑定を受けている。
- 15 -
平成 14 年度から静岡県が国庫補助を受け 10 年間の調査をし、23 年度3月に
報告書を作成し終了する。古文書で5万点、その他のものを入れて6万点以上
になる。これほどの量は、全国的に珍しく、大名ではなく代官なので、幕府の
支配の構造がわかる特徴がある。
江川家の文書は、年貢、民生、警察、司法などあらゆる範囲に及び、質、量
ともに近代化における全国屈指の史料として研究者の評価を得ている。伊豆地
方の史料というのではなく、幕府における全国支配の典型史料である。幕府勘
定所は、現在の財務省、法務省にあたるので、江川代官と幕府勘定所の関わり
から幕府の行財政の実態が具体的に解明される。これまで日本の代官所の史料
は少なかったが、江川代官所の史料は多く、代官の仕事がわかる極めて重要な
史料が保存されていた。
江川坦庵は、高島秋帆から西洋式の砲術の教えを受けている。それまでの日
本式の砲術の射程距離は 100mくらいだったが、西洋式砲術により 800mから1
km まで伸びている。高島砲術の伝授を受けて、鉄砲を研究し、さらに反射炉の
建設により、大砲の建造ができるようになった。日本で反射炉を最初につくっ
たのは佐賀藩だが、坦庵から指導を受け、坦庵のオランダ辞書から学んでいる。
このような他藩への技術協力をしており、坦庵は自分のところだけではなく、
日本のために何をするかということを考えていた。
幕府領と幕府行財政の関わりを全体的に把握することが可能になる。幕府に
おける全国支配の典型が江川家史料である。全国的にない史料なので、今後、
歴史の見直しが相当部分で起こるし、場合によって教科書の書き直しも考えら
れる。
調査が終了し、今後の課題は、いかにして広く県民、国民に公開するかとい
うことになる。前提として地域住民の方に、御理解をいただくことが大事なの
で、こういったところから積み重ねていきたい。
平成 25 年度に重要文化財指定を受ける予定であるが、数万点が一挙に指定さ
れることになる。それをきっかけに、歴史遺産を守り伝えることが大事である。
いわば伊豆の歴史の地層が刻みこまれているので、それを調査研究、公開する
施設が必要になる。重要文化財指定を受けると、公開承認施設として、公開条
件という制約がある。厳しい規制をかけることで保存がされる。
本物の歴史文化資源を知的観光として見るということが、これからますます
必要になる。そのためには、例えば、伊豆学調査研究センターや伊豆歴史文化
- 16 -
館という施設が必要になる。
反射炉は、九州・山口の近代化産業遺産の候補になったが、韮山反射炉だけ
では十分でない。江川一族と技術集団があり、資料がここに残っている。産業
遺産と江川資料を一体になって考えることに重要性があり、世界遺産に新しい
視点を入れていくべきべきではないか。幕末に、外国に侵略されないように私
財をなげうって反射炉の計画に取り組んだ、世界的にまれな軍事技術の近代化
過程を理解することができる唯一の例がここにある。
【江川坦庵について】
勝海舟や徳川慶喜より一世代前になる。渡辺崋山から外国事情を提出させる
が、書き直しをさせていて、2種類の史料が出ている。今回、肖像や坦庵筆の
絵画が多く発見されている。
【韮山反射炉について】
1854 年に建設され、実用化された現存する唯一の反射炉である。最近の調査
で明治5年の反射炉の写真が見つかっている。山口県に残存する反射炉は実用
化されず上部が崩れている。
御台場は 11 基築造計画があり、坦庵の指導により6基完成した。現在のホテ
ルラフォーレ御殿山から土砂を運んでいる。総工費は 75 万両、現在価値で 60
億円を財政窮乏している幕府に支出させているが、江川家にそれほどの実力が
あったということである。現在第3、第6御台場の2基が残存している。通商
条約を締結したので、実際に使用されることはなかったが、日本を守るために
坦庵が考えた結晶であり、その元が韮山反射炉である。
(2) 伊豆半島ジオパーク構想
ジオサイト候補
伊豆半島ジオパーク推進協議会
専門研究員
鈴木雄介
氏
【旭滝】
落差 100mくらいの滝で、溶岩がゆっくり冷えた時にできる規則的な割れ目
の柱状節理を見ることができる。一般の方へは、柱状節理とは田んぼのひび割
れのようなものであるという説明をすると理解していただけることが多い。同
じく柱状節理の滝として雄飛滝がある。どちらも観光客は少なく、こういった
マイナーなものも掘り出していく。溶岩の上に土が少しある状態なので落石が
多い。台風 15 号で倒木が多く出た。
伊豆市大平の国道 136 号から 100mほど徒歩で脇道に入る位置にある。看板
- 17 -
があって観察できる歩道と展望台があるが、専用の駐車場はなく、観光地とは
なっていない。
【大東館】
第2次世界大戦で掘られた防空壕の壁に、火山が噴火して出来たスコリア(黒
っぽい軽石)層を見ることができる。これほどはっきりしたスコリア層は、他
ではなかなか観察することができない。学術的に貴重であり、旅館が温泉への
通路に使用していることも面白い。
旅館内にあり、玄関から浴室への通路の一つとして防空壕跡を利用している。
手を触れるとざらざらとして、細粒程度の少し削れる感じがする。
【その他】
スバル天文台の職員 140 名が城ヶ崎に来たことがある。このように、ジオパ
ークがあることで学会誘致が見込めるが、当地のジオパーク関係者も通訳まで
は難しい。例えば、柱状節理をカラムナージョイントと訳しただけでは通じな
い。日本語での説明の“田んぼのひび割れみたいなもの”のような補足説明が
必要になる。
(3) 観光関係者との意見交換
ア
一般社団法人伊東観光協会、伊東温泉旅館ホテル協同組合
【取り組み】
伊東は温泉地であり、曽我物語がある。旅館は和であるので、花柳界を援助
して残し、商店街、特に酒屋と協力して、伊東温泉を整備していきたい。漁協
とも協力してお魚市を開いている。ちんちん揚げというB級グルメもあるが、
基本的にすべてA級グルメばかり。一次産業とのコラボレーションを進めてい
く。商工会議所を中心におもてなしマイスターの育成を行っている。
【インターネット予約について】
JTBなどのリアルエージェントが弱くなっている。ネットが 50%、リアル
エージェントが 20~30%、その他が 20%。伊豆地域にとってネットでの宣伝な
どをどのように展開するかが課題である。リアルエージェントは旅行会社が対
面で良いところを説明してくれるメリットがあるが、お客様はパンフをガイド
にネットで探している。伊東園などとの金額勝負になり、中小旅館ではファン
ド系に立ち向かえない。
- 18 -
【伊豆観光推進協議会、観光協会について】
伊豆観光推進協議会はひも付きで自由に発案ができない。観光協会は、市町
からの委託金や補助金での運営が主体になり、自由になるお金がない。地域の
特性があり協会数が多いが、市町の下部組織みたいな形に変わってきている。
数字的なものをいただいて、企画を出していきたい。
【交通】
伊東は遠いと言われている。下田、南伊豆はさらに遠くなるが伊豆縦貫道が
できれば、速くなるだろう。スカイラインの前に料金の高いターンパイクがあ
り、利用が悪くなっている。道路整備をお願いしたい。
【ジオパーク】
地元では、地層、活断層から群発地震に結びつくので賛否両論があり、横を
向いている人もいる。
【県への要望など】
伊豆半島を網羅したアクセスの窓口が必要。個々の地域で取り組みをする必
要もあるが、県内の温泉や施設などを一堂に紹介しているホームページが必要
で、そこでリンクしているシステムがあるのもいい。
イ
伊東マリンタウン株式会社
【現状、取り組み】
東日本大震災以降大幅に落ち込んだが、最近になって持ち直している。県の
観光大商談会が定期的にあれば、非常に効果がある。道路公社と合同でサービ
スエリアのPRをしている。道の駅には安全・安心、清潔というイメージのブ
ランドがある。開業 10 周年を迎え、20 店舗のテナントと協力してイベントを
開催している。他の観光施設の案内や各施設から道の駅に来てイベントをして
いる。JRとも協力していきたい。地元のものを他の道の駅でも販売すること
を広げていきたい。
【県への要望】
富士山静岡空港を利用したインバウンドの取り組みを強化してほしい。温泉
や食材を利用したヘルスツーリズムを推進してほしい。おもてなしの心を養う
学校教育の取り組みを強化してほしい。
- 19 -
8
提
言
以上の調査結果を踏まえ、当委員会に付託された「豊富な本県産食材や多様
な観光資源を活用した観光誘客の促進に関する事項」について、次の5点を提
言する。
提言1
多様な観光資源の活用
(1) 地域にある名所等の活用
富士山、伊豆半島、浜名湖は既に有名な観光地であり人気も高いが、県内各
地には、まだ、地元にしか知られていない景勝地や名所などが数多くある。こ
れらを観光に活用するためには、地元市町や観光協会などと連携し、広く情報
収集する仕組みをつくるとともに、例えばパワースポットなどの一般の地図に
掲載されていないもののマップを作成するなど、さまざまな観光客のニーズに
こたえることができるよう、積極的な広報を行うべきである。また、小さな観
光スポットでは、案内看板や駐車場がない場合も多いため、周辺住民の協力を
得るなどして看板の設置や駐車スペースの確保を進める必要がある。
(2) 伊豆半島ジオパーク構想への支援
県内最大の観光地である伊豆地域において、各観光協会や伊豆観光推進協議
会で誘客の取り組みが行われているが、新たな観光資源として、伊豆半島ジオ
パーク構想が注目されている。この構想を活用した誘客活動を積極的に進めて
いくためには、伊豆を一体とした活動が必要であり、伊豆半島ジオパーク推進
協議会の体制強化や広報活動を支援することが必要である。また、教育、研究
に加えて、新しい名所のPRや地産商品の開発など、地域の取り組みを積極的
に支援し、構想を推進する機運を高めていく必要がある。
(3) 「食」の活用
本県産食材は、農畜産物から海産物まで種類が豊富で高品質のため、料理人
からの評価も高く、地元のものを使った料理や加工品などが数多くある。観光
に「食」はつきものであり、最近は「地元ならではの食」を目的とした旅行が
- 20 -
ふえていることから、魅力的なパンフレットの作成等により、こうした本県産
食材、加工品、料理を積極的にPRしていくことが必要である。例えば、
「食の
都づくり仕事人」の取り組みは、観光情報誌への掲載やさまざまなイベントで
の PR などを通じて、観光誘客に結び付けていくべきである。また、
「食」には
「旬」があり、季節の味覚という付加価値が旅行への動機づけを強くすること
から、「旬のものであること」を強くアピールしていく必要がある。
(4) 教育旅行、ニューツーリズム等への対応
本県の豊かな自然や文化・歴史、温暖な気候などは、スポーツツーリズム、
医療ツーリズムを初めとしたニューツーリズムや教育旅行に適していることか
ら、県内の文化財や美術館、景観、スポーツ施設、医療施設などを活用できる
よう、様々な分野と連携した観光商品の開発が必要である。また、映画やドラ
マは撮影地の魅力を広く発信することができるため、本県の自然と歴史を活用
したフィルムコミッションの活動を積極的に支援していく必要がある。
(5) 交通のアクセスの整備
観光シーズンにおける道路渋滞の解消や移動時間の短縮など、観光客の円滑
な移動を確保するため、新東名高速道路のアクセス道路の充実、富士山静岡空
港や駿河湾フェリーの利活用など、誘客の流れをつくる社会基盤整備をさらに
推進する必要がある。特に、道路整備がおくれている伊豆半島においては、伊
豆縦貫自動車道の整備を引き続き促進するとともに、周辺のアクセス道路の整
備を進めることが必要である。
また、観光地の案内標識や案内看板については、目的地への円滑な誘導や地
域の魅力の向上を図るために、市町や民間事業者とも連携しながら、わかりや
すく、統一性のあるデザインのものを設置していくべきである。
提言2
人材育成の充実
(1) 観光の基礎を学ぶ仕組みづくり
観光事業者には、経営者としての最低限必要となる条件や知識を身につける
- 21 -
ことが求められる。このため、成功した各界の経営者から指導を受ける講座や
研修会を開催するなど、旅館や観光施設の経営者が観光業の基本を学ぶ仕組み
をつくるべきである。さらに、大学や高等学校において観光を学問としてとら
え、例えば観光学科の設置など、観光産業を地域経済や経営の視点から考え、
地域再生につながる教育や研究の場を提供する必要がある。
(2) 観光に関する青少年の体験学習の推進
青少年が地域の自然や歴史・文化を知ることは、地元への愛着を深めるとと
もに、将来的に地域の観光資源の「語り部」となり、来訪者のおもてなしにつ
ながっていく。また、子供たちが観光客と直接、間接に交流することも地域の
好感度が上がるために重要である。このため、静岡県のシンボルである富士山
への登山や地域の観光資源についての体験学習など、学校教育において観光に
かかわる内容を組み入れる必要がある。
提言3
情報発信の強化
(1) 歴史遺産群の拠点整備
各地域には、史跡、文化財が数多くあり、神楽舞などの伝統芸能も継承され
ている。これらの学習型、体験型の観光資源をより有効に活用するために、地
域にあるそれぞれの歴史資源を関連づけて解説し、由緒や歴史的背景を総合的
に学ぶことができる地域の歴史遺産群の拠点を整備し、各地への訪問につなげ
ていく仕組みづくりが必要である。
(2) 保存、公開のための施設整備
史跡や神社仏閣などの歴史的な価値がある文化財は、保全と公開の両立が必
要になる。文化財を後世に残し、観光資源としてさらに活用するためには、文
化財ごとに保存管理と十分な公開機能を持った施設の充実が必要である。また、
史跡などの維持管理や修繕が所有者又は地域住民により行われ、保存管理が十
分になされていない場合もあることから、積極的に支援していく必要がある。
- 22 -
(3) インターネットによる情報発信の工夫
インターネットによる観光情報の収集の比重が大きくなっていることから、
インターネットでの情報発信をさらに積極的に行う必要がある。県内の名所や
観光施設などをわかりやすく一覧で取りまとめたホームページや旅行目的に応
じた検索が可能なページなど、だれもが詳細な情報を簡易に入手できるように、
より一層の工夫をすべきである。例えば、県の観光ホームページである「ハロ
ーナビしずおか」についても、各市町の観光協会へのリンクや検索システムの
使いやすさなどを常に検証し改善を図ることが必要である。
また、ブログやツイッターなど新たな情報発信ツールへの対応を進めるとと
もに、観光事業者のインターネット環境の整備やホームページ作成などへの支
援を行うことも必要である。さらに、海外に向けては、多言語表記のホームペ
ージを充実していくことが必要であり、特に富士山静岡空港の定期便の就航が
予定されている台湾への情報発信を強化するべきである。
(4) 誘客宣伝事業の充実
今年度実施した「ふじのくにしずおか観光大商談会」の成功を発展継続させ
るため、都市圏でのプロモーション活動や商談会の開催などの誘客宣伝事業を
引き続き充実させていくべきである。また、個々の観光事業者や市町の観光協
会などの誘客事業についても支援をしていくとともに、事業を推進する体制の
整備を進めることが必要である。
(5) 観光資源を解説する案内看板等の充実
物見遊山的な観光ではなく学び・体験する観光が重視されており、観光客の
満足度を高めるとともに、地域住民への理解を促進させるため、地域の観光資
源の成り立ちやその価値をわかりやすく伝える案内看板等を充実させていくこ
とが必要である。また、外国人観光客向けの多言語表記もより一層進めていく
必要がある。
- 23 -
提言4
富士山ブランドの活用
(1) 富士山を活用した観光戦略の構築
富士山は広く海外にも知られている日本のシンボルであり、本県最大の観光
資源である。この富士山ブランドを活用することで、県内観光地への一層の誘
客が期待できる。このため、伊豆地域を初めとした県内各地域と連携した観光
ルートの開発や PR の充実、富士山に関連する商品の開発など、富士山を観光
資源として積極的に活用していく戦略を考えるべきである。
また、富士登山ができないときや山頂を眺めることができない日でも、富士
山のさまざまな美しい姿を見ることができ、富士山の自然や成り立ちについて
学ぶことができる施設や仕組みなどを富士山周辺の各地域につくる必要がある。
(2) 世界文化遺産としてふさわしい環境の整備等の促進
現在、富士山の世界文化遺産登録に向けた取り組みが進められており、観光
客や登山客の一層の増加が見込まれる。今後、受け入れ能力を超えるような人
数が来訪した場合には、交通渋滞や登山道の混雑などが発生し、富士山のイメ
ージを低下させる可能性がある。このため、富士山と構成資産の保全はもとよ
り、訪れた人が快適に富士山観光を楽しめるよう、受け入れ体制を十分に検証
し、周辺道路や登山道、駐車場、山小屋、休憩施設などの環境整備を進めると
ともに、利用のための適切なルールづくりを行う必要がある。
提言5
隣接県を含めた広域連携の推進
本県の周辺には、富士五湖、箱根温泉、南信州などの観光地が多数あり、本
県の多様な観光資源と結びつけることで、観光客のさまざまなニーズや行動範
囲に対応し、観光地域としての付加価値をより高めることが期待できる。富士・
箱根・伊豆地域はもとより、本県の中部地域と山梨県の身延地域、西部地域と
愛知県の三河地域・長野県の南信州地域などにおいても、広域モデルコースの
設定や相互案内システムの構築、情報発信など、広域での連携を進める必要が
- 24 -
ある。
例えば、浜松に伝わる、ひよんどり、田楽、歌舞伎などと共通する民俗芸能
が長野県においても伝承されており、両地域において、歴史や交流文化をテー
マにした観光商品の開発や広報などを積極的に行うべきである。
- 25 -
資
料
編
別表1
委員会の活動状況
回数
開催日
審査・調査の概要
第1回
23.6.29
委員会の調査運営方針
第2回
23.7.25
執行部からの説明、質疑応答
一般社団法人 千歳観光連盟
・商品開発、広報活動、ニッチサービスへの取り組み
知床観光圏協議会
・観光圏内での推進、保護と観光ルールの取り組み
県外視察
23.9.7~9
知床世界遺産センター
・情報発信とルール・マナーの周知活動
・観光と自然保護の課題への取り組み
北海道オホーツク総合振興局
・地域資源を生かした魅力づくりの取り組み
・食ブランドの形成
参考人招致
第3回
23.10.27
・株式会社
時之栖
・一般社団法人
代表取締役社長
庄司清和氏
富士山観光交流ビューロー
専務理事 鈴木利幸氏
事業推進室長 渡辺勝己氏
観光資源活用の現地視察
・江川文庫、韮山反射炉
説明者
第4回
23.12.1
静岡大学人文学部教授
湯之上隆氏
・伊豆半島ジオパーク構想のジオサイト2ヶ所
観光関係者との意見交換
・伊東温泉旅館ホテル協同組合、伊東観光協会、
株式会社伊東マリンタウン
報告書作成に向けた委員討議
第5回
24.1.17
報告書作成に向けた委員討議
- 26 -
別表2
観光資源活用促進特別委員会委員名簿
職
名
委
員
名
所
属
委 員 長
小
野
登志子
自民改革会議
副委員長
小
野
達
也
自民改革会議
副委員長
四
本
康
久
民主党・ふじのくに県議団
委
員
森
委
員
石
委
員
委
竹治郎
自民改革会議
橋
康
弘
自民改革会議
鈴
木
利
幸
自民改革会議
員
橋
本
一
実
民主党・ふじのくに県議団
委
員
池
谷
晴
一
民主党・ふじのくに県議団
委
員
前
林
孝一良
委
員
中
澤
通
- 27 -
訓
公明党静岡県議団
志士の会
Fly UP