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コラージュ制作過程における自己と他者の理解 -個人制作と集団制作を

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コラージュ制作過程における自己と他者の理解 -個人制作と集団制作を
コラージュ制作過程における自己と他者の理解
―個人制作と集団制作を比較して―
心理教育実践専修
2513007
鎌田真理奈
Ⅰ.問題と目的
コラージュ療法とは、雑誌などから気に入った,または気になった写真やイラストを切り
抜いて 1 枚の台紙に貼り付けて作品をつくるアートセラピーの一技法である。コラージュ
療法には,自己理解,解放感,楽しさと熱中,コミュニケーション促進の効果があると言
われている(鈴木・佐藤,2000)今回はコラージュの効果研究の中でも言及されることの
少ない自己理解効果に着目する。
近年,コラージュ療法はリハビリなどの集団療法でも利用されている。コラージュ制作
を集団で行うメリットについては,自己理解・他者理解(杉浦達,1997),なじみの関係
づくり・コミュニケーションの活性化(青木,2005)等が挙げられる。しかし集団療法にお
けるコラージュ療法の研究や事例報告は少なく,参加者が実際にどのような体験をしてい
るかまだ明らかではない。そこで、コラージュの自己理解効果について集団制作と個別制
作という視点から問いを立て研究を行う。コラージュ療法を集団で行うことで自己理解効
果にどのような影響があるのか,
コラージュ制作を個別で行った場合と集団で行った場合,
自己理解効果にどのような違いがあるのかを探ることを目的とする。
Ⅱ.予備調査
目的:集団制作においてどのようなことを制作者は感じているかの調査
調査協力者:公開講座受講者 21 名
調査時期:2014 年 6 月
手続き:3,4 人のグループで 1 人 1 作品コラージュを制作後,参加者全員で作品の発表,
シェアリング(鑑賞)を行った。その後,制作過程で感じたこと,自己の感じ方について
自由記述式のアンケートに回答を求めた。
結果:アンケート内容を KJ 法によってカテゴリー化し,それぞれのカテゴリーの関連や
対立,因果関係について検討を行った。制作過程においては,制作前はコラージュへの『興
味・期待』
,
『不安・戸惑い』の対立するカテゴリーが得られたが,制作中はコラージュに
集中しつつも『自分との向き合い』のカテゴリーが得られた。制作前,制作中は『他者意
識』
,
『興味・交流』のカテゴリーが得られた。制作後にも『満足』のカテゴリーと関連し
て『自己との向き合い』のカテゴリーが得られた。シェアリングでは『他者理解』のカテ
ゴリーが得られた一方で,
『自己との向き合い』や『後悔』のカテゴリーが得られた。自己
の感じ方については,自己の意外な側面や他者と比較した自分に関する『気づき』
,性格や
好きな物に関する『再確認』のカテゴリーが得られ,『決意』と関連していた。
考察:コラージュ制作過程において制作前,制作中は『他者意識』や『興味・交流』のカ
テゴリーが得られたことから,制作に取り組みつつも他者を意識していたと考えられる。
その一方で,制作中,シェアリングでは『自己への向き合い』のカテゴリーが得られたこ
とから自己理解を深めていたと考えられる。シェアリングでは『他者理解』と『自己との
向き合い』のカテゴリーが得られたことから,他者理解をしつつも自己についても理解を
深めていたと考えられる。このことから,本調査においては自己についての見方に加え,
他者についての見方についても検討する必要があると考えた。
Ⅲ.本調査
目的:1.コラージュ制作を継続的に行うことで,自己と他者の見方にどのような変化が
起きるか,どのように自己理解が深まっていくのかについて明らかにすること
2.継続的なコラージュ制作において,個人制作群と集団制作群では自己と他者の
見方の変化や自己理解の過程にどのような違いが出るのか明らかにすること
調査協力者:個人制作群…大学生 11 名,集団制作群…大学生 12 名
調査時期:2014 年 10 月~2015 年 1 月
手続き:調査協力者を 2 群に分け,集団制作群はさらに 4 人ずつの 3 グループに分けた。
調査協力者にはコラージュ制作前に自己と他者の見方について質問紙に回答してもらった。
その後,全 3 回のコラージュ制作を行ってもらい,作品完成後に作品について,制作過程
で感じたこと,自己と他者の感じ方についてのインタビューとコラージュ制作についての
質問紙による調査を行った。集団制作群は作品完成後に発表会(シェアリング)を行った
後,個別にインタビューを行った。全 3 回のコラージュ制作後に,再び自己と他者の見方
についての質問紙に回答してもらった。
質問紙構成:
1.自己受容尺度(伊藤 1991)31 項目 5 件法
2.他者理解尺度(青木 2011)33 項目7件法
3.コラージュ質問紙(佐藤・鈴木 2000)27 項目 5 件法
結果:
1.質問紙の分析
全 3 回のコラージュ制作前後において,T 検定を行ったところ,個人制作群,集団制作
群共に自己受容得点に有意な差は無かった。また,個人制作群と集団制作群において群間
で自己受容得点に有意な差は無かった。他者受容感得点においても同様に,全 3 回のコラ
ージュ制作前後,群間で有意な差は無かった。
コラージュ質問紙の全ての下位尺度において,二要因混合計画で分散分析を行ったとこ
ろ,制作回数の主効果,制作回数と制作群の交互作用は見られなかった。しかし群間では
有 意 差 が 見 ら れ , 下 位 尺 度 「 自 己 へ の 理 解 」 得 点 で は 1% 水 準 で 有 意 差 が 見 ら れ
(F(1,21)=20.708,p<.01)
,下位尺度「自己への開放」得点(F(1,21)=8.560,p<.05)
,下位
尺度「楽しさと熱中」得点(F(1,21)=10.163,p<.05)では 5%水準で有意差が見られた。
2.インタビュー内容の分析
KJ 法の手法を用いてカテゴリーを形成し,各カテゴリーを実験協力者の発言数によっ
てクラスター分析を行い似たカテゴリーをまとめてクラスターを形成した。
制作前において,個人制作群では【制作や実験への緊張・不安】のクラスターがあった。
制作中においては,両群のクラスターにあまり差異はなかったが,
【自分の感情・思考】を
構成している KJ 法の手法を用いて得られたカテゴリーを見てみると,集団制作群では制
作中に『他者意識』
『他者配慮』等の他者を意識する内容や『会話からの内省』『会話での
後悔』等の他者との会話に関するカテゴリーが含まれていた。制作後においては,両群の
クラスターにあまり差異は無かったが,
【自分の感情・思考】を構成するカテゴリーをそれ
ぞれの群で見てみると,個人制作群では『自己分析』
『決意』など自己について考えたり決
意したりする内容が含まれており,集団制作群では『自己理解』もあったが,
『他者との比
較』
『他者意識』など他者に関する内容が含まれていた。シェアリングにおいては,クラス
ター1【自分の感情・思考】
,クラスター2【他者比較による他者への感情】
,クラスター
3【他者への面白さ】
,クラスター4【他者の個性理解】が形成された。
自己についての見方・考え方においては,個人制作群では【自己分析と今後の決意】の
クラスターが得られた。他者についての見方・考え方は,個人制作群では【自己への没頭】
,
【身近な他者】のクラスターが得られた一方で,集団制作群では,
【他者への気づき・分析】
【個性の確認】のクラスターが得られた。
3.作品の分析
今村(2004)の「コラージュ印象評定尺度用紙」から抜粋した 14 項目に,独自に作品のま
とまりについて尋ねる項目「統合度」を加えた 15 項目 5 件法の印象評定項目を用いて,心
理学を学ぶ大学生 1 名,大学院生 2 名の合計 3 名に印象評定を行ってもらった。
二要因混合計画で分散分析を行ったところ,下位尺度「安定性」
「表出性」
「統合度」得
点においては制作回数の主効果,制作回数と制作群の交互作用,群間で有意な差は見られ
なかった。しかし,下位尺度「創造性」得点では制作回数の主効果,制作回数と制作群の
交互作用は見られなかったが,群間で有意傾向(F(1,21)=2.878,p<0.1)が見られた。
考察:
質問紙の分析では,自己受容感,他者理解感にコラージュ前後と群間で有意な差が無い
という結果であった。
要因として,
各個人で効果にかなりの差が出ていたことが挙げられ,
コラージュ制作の効果は個人差があると考えられる。コラージュ質問紙の分析からは,個
人制作群の方が集団制作群よりも自己理解が深まっていることが明らかとなった。また,
自己解放感,楽しさと熱中も,個人制作群の方がより促進されることが明らかになった。
これは,個人制作の方が他者を気にせず,自己に没頭することができたためであると考え
られる。
インタビューの分析では,制作過程において,両群のクラスターにあまり差異は無かっ
たが,集団制作群では制作中に『他者意識』
『他者配慮』等の他者を意識する内容や『会話
からの内省』
『会話での後悔』等の他者との会話に関するカテゴリーが含まれていた。この
事から,集団制作群では制作中も他者を意識しながら,他者との交流を楽しんだり,交流
から影響を受けながら制作をしていたのではないかと考えられる。シェアリングにおいて
は,クラスター1では自分の感情・思考に関する内容,クラスター2で他者と比較するこ
とで他者を分析的に捉える内容が含まれており,シェアリングをすることで自他の理解に
つながっていたのではないかと考えられる。自己についての見方・考え方は,集団制作群
では自己を分析的に捉える段階であったが,個人制作群では【自己分析と今後の決意】の
クラスターが見られ,
今後どのようになりたいかについて考えを深めている様子が伺えた。
他者についての見方・考え方は,個人制作群では自己に没頭していたためあまり無い場合
が多かったが,家族や友人といった身近な他者に関して考えを深めており,自己に内在化
された他者について考えていたと考えられる。集団制作群では,一緒にコラージュを行っ
たメンバーに対して,コラージュ制作や作品を通して気づきや確認をしながら他者理解を
深めていた様子が伺えた。
作品の分析から,集団制作群の作品の方が個人制作群の作品よりも創造的な印象を受け
るという結果が得られた。集団制作においては他者を意識して作っていたため,作品にス
トーリー性を持たせたり,
工夫を凝らしたりしていた事が要因の一つと考えられる。また,
集団制作では自分自身について直接的にテーマにすることが少なく,空想のストーリーを
考えながら作っていたため,創造的になったのではないかと考えられる。さらに,他者の
作品を見て,シェアリングで作品についての説明を聞くことで他のメンバーの作り方やテ
ーマ設定の仕方を参考にし,コラージュ表現のスキルを高めることができた結果が反映さ
れていたのではないかと考えられる。
Ⅳ.事例研究
個人制作の事例では,全 3 回のコラージュ制作を通して自己に関して考えを深めていく
様子が伺えた。第 1 回では制作を楽しむ段階であったのに対し,第 2 回では自己の過去や
悩みについて深く考えながら制作し,決意に至る様子が見られた。第 3 回では,自分にと
って重要な他者である家族に関して想起しながら作品を作り,他者へも目を向けるように
なったと考えられる。
集団制作の事例では,全 3 回を通して,制作中も会話を楽しみながら制作し素材を提供
し合う様子が見られ,お互いの個性を確認したり,新たな一面を発見することで理解が深
まる様子が伺えた。第 1 回では,初めて一緒にコラージュを作るメンバーに新奇性を感じ
たり,日常で感じていた個性を再確認する様子が見られた。第 2 回では,自分にない発想
をするメンバーから他者分析をする様子が見られた。第 3 回では自分のイメージとは違う
受け取り方されたと感じるメンバーが多く,自他の考え方の違いを確認したと考えられる。
Ⅴ.総合考察
個人制作ではコラージュ制作をしながら自己に没頭し,自己と自己に内在化された他者
に関する見方を深めていたのではないかと考えられる。一方,集団制作では,コラージュ
制作中の会話やシェアリングで作品を見たり,発表を聞くことで他者の考えを知る等の他
者との交流によって,自己と同じグループのメンバーに対して理解を深めていたのではな
いかと考えられる。
引用文献
青木智子 2005 「
『コラージュ』実践の試み : 痴呆性老人を対象としたレクの検討」東北文化学園大学
医療福祉学部リハビリテーション学科紀要 1(1), 13-25,
青木万理 2011 「他者理解尺度の作成と活用実践」鎌倉女子大学紀要 18,29-51.
伊藤美奈子 1991 「自己受容尺度作成と思春期自己受容の発達的変化―二次元から見た自己受容発達
プロセス―」発達心理学第 2 巻(2),70-77.
今村友木子 2004 「印象評定を用いた統合失調者のコラージュ表現の分析」心理臨床学研究第 22 巻
(3),217-227.
杉浦 京子 , 鈴木 康明 , 金丸 隆太 1997 『集団コラージュ制作の効果 : 社会心理学的, 臨床心理学
的考察』日本医科大学基礎科学紀要 23, 1-15,
鈴木由美・佐藤いづみ 2000 「大学生の授業内コラージュ作成が及ぼす心理的効果の研究」聖徳大学
研究紀要 短期大学部 33, 57-62,
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