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20151121 第 2 回みやぎ地域復興ミーティング in 石巻市 話題提供:地域づくりのヒント③ 「浜の大文化祭『おらほのとっておき』」 ●登壇者 前浜地域振興会 畠山 幸治 氏 みなさんこんにちは。気仙沼市本吉町前浜地区の畠山で まして、市の関与はありませんでした。言うまでもなく、 す。今日は前浜マリンセンターと、これからの前浜地区の 地域の方々の絆、総合的な人間関係が、いざという時に大 方向性をご紹介させていただきたいと思います。よろしく きな役割を果たします。それは実際に前浜地区の避難所で お願いします。 確認された出来事でした。旧マリンセンターでは、文化活 動が非常に盛んに行われていました。例えば、民族芸能、 ○住民主体の避難所運営からマリンセンター再建へ それからコミュニティ開発の性格を持つ「前浜おらほのと 前浜地区は現在 110 世帯、震災前は 126 世帯がありま っておき活動」や、ふるさと祭、新年会、敬老会、大漁歌 した。350 名ほどが住んでおられます。今回の震災で 9 いこみなどそうした集いを通し培われた人間関係、役割分 名の犠牲者が出ました。気仙沼市の南のはずれの方に、小 担などの協力体制は、震災後の避難所、災害対策本部の運 さな港町がございます。ちなみに前浜というのはどういう 営にそのままシフトされました。お祭りや、地域行事など ところかと聞かれますと、まずポストがないです。公衆ト を開催してきた人たちが、行政の関与もなく、7 か所の民 イレもないです。公衆電話、自動販売機もコンビニエンス 間避難所を切り盛りしてみせました。 ストアもございません。 そしてその協力体制はそのまま前浜マリンセンター再 この写真は、震災前のマリンセンターでございます。こ 建へとつながっていきました。ここでは、防災・減災に関 こで多様な活動が頻繁に行われていました。震災後、集会 わるエコロジカルなコミュニティのあり方とは何か、その 所が津波で跡形もなく流出いたしました。この災害対策本 小さな試みを前浜マリンセンター再建と、椿という植物に 部、お寺なんですけれども、7 か所の民家が津波で流され 焦点をあてながら、考えていきたいと思います。 1/4 ○「めんどくささ」を楽しむ再建プロジェクト 押しをしてくれました。この再建プロジェクトは、従来の マリンセンターには、地元の木材が約 90%使われてい 行政主導の公共事業とは異なっています。すなわち住民や ます。蓄積された里の資源を活用した地産地消です。しか 支援者が主体的に公共のサービスを生み出すという意味 しこの再建プロジェクトは、見方によってはまだ完成され で、今日その実現が求められている「新しい公共」の事例 ておりません。建築木材の伐採地や、津波浸水地域や宅地 として全国から注目を浴びました。これがビスの頭に塗料 ののり面などの屋敷林の側面に、椿などの海岸植生を基本 を塗るワークショップです。多くの子どもが参加してくれ にした照葉樹の森をつくる試みが、静かに、着実に歩み始 ました。子どもたちに「私もやった!自分も参加した!」 めております。 というオーナーシップ感を自覚させるという意味のワー 津波を軽減した杉林の跡地に、椿を植えようという作業 クショップでした。つまりこれは後世に伝えるということ です。地域総出で、「めんどくささ」を楽しんでいる様子 をしているのだと思います。 ですね。 この餅は、愛知県豊橋市立大崎小学校の子どもたち・先 ○地元の資源・住民の「老テク」で進める再建作業 生・父兄・老人クラブ等が丹精こめて育てたもち米 90 キ あえて木造建築にし、ローテクを駆使し、ワークショッ ロです。上棟式に使用させていただきました。上棟式には プで住民参加を促し、楽しく協働することも促します。さ 校長先生、落成式には教頭先生、今年の 5 月の連休には新 らに海や畑仕事で培った高齢者の「老テク」です。アワビ しい校長先生が来られました。新しい校長先生は、前の校 も取れば、大工仕事もこなす、器用なじいちゃんたちの大 長先生に詳しく引継ぎを受けておりますので、また来たい、 活躍がありました。自分たちの木を使い、自分たちで設計 と頑張っておられました。 や作業に携わる「新しい公共」の推進において、地元の木 行政の資金に頼らず、自前で支援金を調達し、住民自ら 材という自然の恵みと高齢者の能力は大きな資源でした。 塩害林木の伐採にも参画し、屋敷林の木を建築木材として 自然環境に順応した伝統的な暮らしの中で培われたお年 提供し、製材、乾燥、組み立てなど設計も含めた多くの建 寄りたちのマルチな手仕事、環境と伝統とサバイバルの、 築行程に住民が参加しました。そうしたプロセス自体が復 そして社会参加などの木造によるマリンセンターの再建 興であり、コミュニティの再建であり、同時に地域の防 は、大切なことを教えてくれたように思います。 災・減災と、災害対応能力の向上につながると考えていま す。「暑い、重い、寒い、めんどくさい」ということより ○ 「 自 分 た ち で 自 分 た ち を 楽 し む 」、 共 同 作 業 の 中 に も、みなでその場その場でアイデアを出し合い、創造して 生まれるコミュニティ いく楽しさが大切だと思います。 こうした活動の母体となったのは、この地で戦前から積 み重ねてきた先人たちの活動です。自分たちで自分たちを ○「自助」を後押しする「共助」、「公助」 楽しむという、ある意味では楽しい共同作業に他ならない このコミュニティ再建プロジェクトの特徴は、いわゆる と思います。それは地元の伝統や生活、生業文化の再発見、 「自助」、 「共助」、 「公助」が相互補完的に機能した点にあ 休耕地の再生、一人一品文化祭や、教養講座など、多様な ると思います。まず住民参加による「自助」を何よりも重 活動を継続してきたからだと思います。多様な共同作業の 視し、計画から資材調達、建設作業まですべての作業に住 中にはコミュニティがいっぱい隠れている、ということな 民が可能な限り参画する方法を採用しました。そうした住 んだと思います。それから、再発見というのは、新しいも 民たちの主体的な活動に、ボランティア団体や企業が設計 のを発見することではないと思います。忘れてきたもの、 その他で支援するという「共助」が加わりました。そして、 何か捨ててきたものが、いっぱいあるような気がします。 最後に「公助」として開発の許可申請や、農地転用などの 各種申請手続きに関しては、気仙沼市がプロジェクトの後 2/4 ○地域外からの力 るという、見守るという積極的な社会貢献の役割を担って 私たちは住民参加という内発性だけではなく、何らかの います。 外発的な力の贈与によっても支えられていることを忘れ このように共同して椿の森をつくりあげていくことだ てはならないと思います。その一つに、マリンセンターに けでなく、支援者が暮らす足元の地域活性化につながって はこぶしの大黒柱が鎮座しています。奥羽山脈を越え、北 いくことを特徴にし、前浜と早稲田大学との関係はボラン 上山地を越えて、三陸の小さな浜に送ってくれたものです。 ティア活動という言葉で一般的にイメージされる「支援− 山形県最上町民の温かい心意気を感じました。その後も野 被支援」の一方向的なあり方ではなく、両地域の関係と福 菜や米などを支援していただきました。私たちはこのこと 祉に双方向的な好影響をもたらす、復興の新しいあり方を を決して忘れません。昨年 11 月 8 日、人為的な行政区分 生み出しております。 を超えて、山と海の自然のつながり、伝統文化を基本に、 この写真は、今年の夏に早稲田大学、目白大学、東北学 また災害に総合支援などを含む、友好交流協定を締結いた 院大学の学生と、戸山団地の高齢者 3 名がいらっしゃり、 しました。 そして植樹をしていただきました。この植樹基盤の作業も 学生と住民の手作業で行いました。業者さんはいっさい使 ○先人から贈られた防災・減災の知恵 っていません。 このセンターの再建を可能にしたのは、今は亡き先人た お年寄りの「老テク」を駆使して、事業を行いました。 ちの植樹です。それは見方をかえれば、災害に見舞われた 新宿区の戸山団地という所は都心の限界集落と呼ばれる 子どもたちの未来への贈り物だったと思います。死者とい ところで、早稲田大学との学生も交えながら交流していま う過去が、災害からの復興という現在を支えている。その す。ここでの植樹も単に植えればいい、森ができればいい 贈り物を受け取り、マリンセンターを再建したことにおい というものではありません。樹木という素材の活用から種 て、私たちは過去の死者たちへの恩返しができております。 子の採集、植樹地域の整備といった植樹・育樹のプロセス 植樹ということを通して私たちは過去と未来を確かにつ に住民の参画を促すことが大切であります。市民の伝統 なぐことができるかもしれません。 知・経験値・老テクをその作業工程の中に生かし、未来へ それは未来のマリンセンターの建設プロセスの始まり の生態系サービスの向上につなげていくのです。ここでい でもあり、未来の人たちの防災、減災に寄与する、持続可 う「老テク」はカタカナの「ローテク」ではなくて、前浜 能な地域社会のための伝承的な反復だと思います。 は老人の「老」を使っています。これは前浜の特徴です。 ○大学との協働 ○将来像を楽しみながら育てる椿の森 二つ目の、外からの力として、早稲田大学ボランティア この写真は、私の家の裏の気仙沼線なんですけれども、 センターとの協働があります。生活に密着した防潮林とし 両端に椿を植えて地元の天然資源と「老テク」と手作業を ての可能性、そして地域固有の地形・地質に地域固有の植 使って、こんな風になればいいなと思っております。めん 生を復活させる、地域性を重視した取組です。この取組は どくささを楽しみながら、こういう風になったら楽しいな 学生のみで行うのではなく、大学が立地する近隣の地域住 と思っています。 民も交えた形で行われています。都心でも高度経済成長期 こうした地域文化、風土、生態系を生かした防災という に造成された団地等で高齢化が進み、独居老人の孤独死な のは、この前浜に椿の森をつくろうということであります。 どの社会問題が生じています。早稲田大学ボランティアセ 前浜には昭和 8 年の津波の経験値をベースとして、防潮堤 ンターでは、前浜から預かった苗木を団地の入居者などに が存在しております。ここののり面、斜面にぜひ植樹した 育ててもらうことで、今まで見守られるという受け身の立 いなと考えています。例えばこの両岸に椿の森をつくる、 場であった高齢者が、被災地の防潮林のための苗木を育て それも漁師たちが木を植えて、木を育てることが、海を豊 3/4 かにし、魚を育てることになると思います。しかしある人 は「結果的に時間がかかる」とか「自分はそれまで生きて いないから関係ない」という人もいます。自分が生存して いるスパンのことを考えている。でもわたしたちは、こん な風になるという将来像を楽しみながら、活動しないとい けないと思っております。 なんか、荒々しい説明でしたけれども、ありがとうござ いました。詳しいことはですね、ぜひ、前浜にいらしてく ださい。(終) 4/4