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掃除を楽しくしたダイソンとルンバ

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掃除を楽しくしたダイソンとルンバ
PULSE
「ワンタッチでたためる」
「片手でたためる」な
リットに変わる結果となった。
ど、赤ちゃんを片手に抱きながら、もう片方の手
でいかに簡単にたためるかが日本製ベビーカー
新しい価値を持つ日本製ベビーカーの登場を
の大きな差別化ポイントだった。電車やバスな
これらの要因をみれば、イクメンの登場がマ
どの交通機関で、外出先や自宅でもベビーカー
クラーレン躍進の要因の一端でしかないことが
はたたむことが常識だった。
ママたちは、オムツ
おわかりいただけると思う。また、ヒットの本当
やミルクなどの多い荷物と赤ちゃんを抱えて、
の理由もマクラーレンが日本市場に向けて策を
ひとりでベビーカーをたたむのだから、たたみ
講じた結果ではなく、変化しつつあった日本の
にくい外国製ベビーカーは実用的ではない、と
ベビーカー事情にたまたまマッチしていたと
以前は敬遠されていた。
いうべきものだったのだ。日本のメーカーは現
ところが、近年、電車などの交通機関やデパー
ユーザーの声と現チャネルの声ばかりに注視し
トなどの商業施設で、赤ちゃん連れのママたち
ていたために、世の中の変化への対応が後手に
を呼び込もうとする動きが活発化し、ベビー
回った印象だ。
カーのままでの利用に障害がなくなってきた。
現在では驚くほどのスピードで日本勢がマク
バリアフリーなどのインフラも急速に改善さ
ラーレンっぽいベビーカーを矢継ぎ早に市場投
れ、ベビーカーはたたむものではなく、そのま
入している。しかし、マクラーレンの改良モデル
まの状態でかまわないモノになったのだ。何よ
だけでなく、今度こそ次の変化を察知した、ベ
り、赤ちゃんと一緒の外出の価値自体の変化が
ビーカーの新しい価値を提案する日本製のベ
ある。電車などで周り乗客に遠慮しながら行う
ビーカーの登場を期待したい。
ものだった子連れ外出が、いまや堂々と
“アピー
ルしたいお出かけ”に変わったのだ。
両手でたた
まなければならない頑丈なマクラーレンのデ
メリットだった要素が、頑丈さゆえの走行性の
良さ・外国製ならではの見栄えの良さというメ
つのだ・ともこ/㈱ウエーブプラネット 取締役
電機メーカーの広告宣伝部から民放テレビ居へ転職し番組プロデュ
ーサーを経て現職。
企業での商品作り、メディアでの売れるコンテンツ作りの経験を活
かし、いまどきの生活者目線を大切にしたマーケティングを行って
いる。
H ome electronics
掃除を楽しくしたダイソンとルンバ
福田 博(縄文コミュニケーション)
成熟化している掃除機市場に異変が起きてい
レミアム掃除機”カテゴリーの販売が伸びてい
る。
家電量販店の掃除機売り場では、それまで一
るのである。
般的であった紙パック型掃除機と海外発のサイ
そのきっかけは、既に欧州で人気のあった英
クロン型掃除機が店頭のゴールデンラインを 2
国ダイソン社が、「吸引力の変わらない、紙パッ
分している。しかも両方式とも、より強い吸塵
クのいらないサイクロン式掃除機」を’93 年に
力、より小型軽量、より簡単に掃除が出来る
“プ
日本市場に導入しことによる。導入マーケティ
MH November 2010
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PULSE
ングは、店頭でも、広告でも
“集塵力を見せる”
販
の認知と理解を獲得。その後、TV通販を開始
促策を実行。
集塵力が高く、紙パックを使用せず
し、さらに家電量販でも販売するという“育て
簡単にゴミを捨てられるというベネフィットが
る”販売戦略をとって、30 ~ 40 代女性層の評
消費者の心を捉え、サイクロン式という新市場
価を積み重ねてきた。結果として、ダイソンもル
カテゴリーを創り出した。
ンバも高価格帯でありながら、生活者に新しい
さらに、
’04 年、その市場に全く新しい発
利便性を提供したインセンティブとして、しっ
想の米国アイロボット社製自動掃除機ルンバ
かりと先行者利益を得ている。
が「とことん、かきとる、すいとるルンバ。
」を
ダイソンもルンバも日本市場導入時は、生活
キャッチに日本市場に参入。
この商品は、地雷探
者の潜在的ニーズに気付きを与え、その特徴を
索機器の技術を応用して開発されたという。形
訴求するのに大変な時間とマーケティングコス
状は円盤系で、人工知能とセンサーを搭載し、部
トをかけている。成熟した市場に新製品を投入
屋の形状や汚れ具合を判断し自動的に掃除を行
して成功させるのは確かに難しい。しかし、生活
い、電池残量が少なくなると、自動的に充電基地
者ニーズを先取りして新商品を開発し続けない
に戻る。
掃除エリアを設定しておけば、そこだけ
と企業の成長はあり得ない。新しい商品の芽は、
を自動的に掃除をしてくれる機能もある。掃除
市場の荒波、生活者の厳しい指摘に揉まれなが
機としては全く新しいタイプの商品でありなが
ら、お客様の生活品質向上のために、改良に次ぐ
ら、
単身世帯や共働きに人気となっている。
改良を積み重ね、強くたくましく育つものであ
単身世帯や夫婦共働き、子育て世帯にとって
る。「短期で利益を出せ」と言う経営手法は、ブ
平日は、仕事や育児、付き合いなどで多忙であ
ランド商品作りには合わない。その論点で見る
り、毎日の掃除は大きな負担である。
さらに、マ
と、最近の日本家電メーカーは、新しい商品を開
ンション居住の場合は、夜中に掃除機をかける
発して育てるという胆力に欠けるのではない
と階下への騒音などでの迷惑が頭をよぎる。ま
か。ソニーはアップルに、携帯メーカーはサムソ
た、老人世帯ともなると掃除そのものが大変で
ンにそのお株を奪われ、本来の強みである革新
あり、肉体的負荷を軽減するためにも、より小型
的開発力とマーケティング力が弱体化している
軽量で簡単操作、吸塵力の高い掃除機が必要に
気がしてならない。
なる。
この様に、住宅の変化や仕事、子育てなど
生活者は、“不と負”の家事労働を如何に“便
のライフスタイルの変化、そして高齢化が掃除
利にするか、快適にするか、楽しくするか”を潜
に対する意識とニーズを大きく変え、新しい
“掃
在的に求めている。生活者が、“気がつかない価
除ソリューション”
が求められていたのである。
値を創り出す”、また“顧客にとって無くてはな
この様な市場状況を先取りしたのがダイソン
らない嬉しい価値=顧客価値”を他社に先駆け
のサイクロン式掃除機である。吸塵力を強化し
て創り出すことが、企業としての勝ち残りの要
て労力を軽減。
当初、吸塵音の大きさやゴミを捨
件である。日本の家電メーカーには、世界の家電
てる時に粉塵が容器に付着するなどの問題点が
市場をリードし、世界の生活者を楽しませる新
あったが、改良に改良を重ね、世界で一番うるさ
商品開発を期待したい。
い日本の消費者に充分満足のいく商品として仕
上げていった。一方、自動掃除機ルンバは、
“掃
除を自動で行う”
、
“掃除の時間を他に使う”を
売りに、百貨店などで実演販売を繰り返し、一定
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ふくだ・ひろし/縄文コミュニーケーション㈱ 代表
マーケティング・プロデューサー。コミュニケーション力とマーケ
ティング力で、ワクワクする「ブランド・顧客価値」の開発から「広告・
販促・Web・PR・ダイレクト」の生産性向上を目指す。
URL http://www.jmcom.jp
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