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ラテンアメ リカにおける先住民言語とアイ デンティ ティ

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ラテンアメ リカにおける先住民言語とアイ デンティ ティ
青 木:ラ テ ン ア メ リ カ に お け る先 住 民 言 語 とア イ デ ンテ ィテ ィ
75
ラテ ンア メ リカ にお け る先 住 民 言 語 とア イ デ ンテ ィテ ィ
ー ペ ル ー を 中心 に 一
青
木
芳
夫*
LenguasindfgenaseidentidadenAm6ricaLatina:elcasodelPer丘
YbshioAOK【
旨
要
グ ロ ーバ リゼ ー シ ョ ン下 の ラテ ン ア メ リカ 、特 にペ ル ー にお け る ア イ デ ンテ ィ テ ィ の将 来 を 先住 民 言
語 の 面 か ら考 察 す る 。 ケ チ ュ ア語 や ア イ マ ラ語 、 ア マ ゾ ン諸 語 は か つ て 白人 系 を 中心 とす る他 者 か らの
侮 蔑 の対 象 で あ った が 、そ れ ら を母語 とす る 人 々 の 言 語 意 識 に も変 化 の きざ しが見 られ る よ うに な った 。
彼 ら はス ペ イ ン語 習 得 へ の 意欲 が 非 常 に高 い一 方 、 い まで は先 住 民 言 語 を も維 持 ・回 復 しよ う と して い
る 。 つ ま り、 ス ペ イ ン語 モ ノ リ ンガ ル 化 で は な く、バ イ リ ンガ ル 化 が 進 行 して お り、 この こ と は 、先 住
民 系 の ア イ デ ンテ ィテ ィの多 重化 を示 唆 す る もの で あ る。
は じめ に
2001年6月3日
、筆 者 は 日本 ラテ ン ア メ リ カ学 会 第22回 大 会(名 古 屋 大 学)の
シ ンポ ジ ウ ム<
ラ テ ンア メ リカ の新 世 紀 〉 にお い て 「言 語 とア イ デ ンテ ィテ ィ」 につ い て報 告 した 。本 稿 は、 そ
の と きの報 告 を も とに して い る。
1先
国 際 労 働 機i関(ILO)が1989年
に関 す る条 約)は
住 民 条 約 とラ テ ンア メ リカ 諸 国 憲 法
に採 択 した 第169号 条 約(独
立 国 に お け る先 住 民 お よ び種 族 民
一 般 に先 住 民 条 約 と して 知 られ 、 土 地 ・雇 用 ・職 業 訓 練 ・社 会 保 険 ・教 育 な
どの 多 岐 にわ た る面 で 先 住 民 族 に対 して広 範 な権 利 を保 障 して い る 。 これ まで に 同条 約 を批 准 し
た 国 々 は14力 国 にの ぼ るが 、 そ の うち10力 国 が ラテ ン ア メ リカ に集 中 して い る。 具 体 的 に は、 ア
ル ゼ ンチ ン、 ボ リ ビ ア、 コ ロ ン ビ ア、 コ ス タ リカ 、 エ ク ア ドル、 グ ア テ マ ラ、 ホ ン ジ ュ ラス 、 メ
キ シ コ、パ ラグ ア イ 、 ペ ル ー の 国 々 で あ る。 これ ら批 准 諸 国 は憲 法 を は じめ とす る国 内 法 を整備
す る義 務 を負 うこ と とな る 。
ち な み に 、 グ ア テ マ ラ にお け る憲 法 改 正 案 が 否 決 され て しま っ た今 日、 こ の点 に お い て もっ と
も注 目す べ き事 例 は 、 メ キ シ コで あ ろ う。 メ キ シ コ の現 行 憲 法(1917年
平 成13年9月28日
受 理*文
学部 史 学 科
制 定 、1992年 改 正)は 第
奈
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良 大
学
紀
要
第30号
4条 に お い て 「メ キ シ コ国 民 は 、先 住 民 族 に始 原 的 に支 え られ 、 複 数 文 化 的構 成 を有 す る。 法 律
は、 彼 らの 言 語 ・文 化 ・習俗 ・慣 習 ・資 源 お よ び特 有 の社 会 組 織 形 態 を保 護 し、 推 進 す る と と も
に 、 国家 の 管 轄 権 に対 す る実 効 的 な ア クセ ス 権 を そ の 構 成 員 に保 障 す る(後 略)」[青 木 訳]と
、
一方 で は メ キ シ コ社 会 の 先住 民 性 を強 調 して お きな が ら、他 方 で は20世 紀 ラ テ ン ア メ リカ最 初 の
社 会 革 命 とい わ れ る メ キ シ コ革 命 の 所 産 と もい うべ き1917年 憲 法 第27条 に よ っ て 回復 され 、保 障
され た土 地 の共 同 的所 有 権 を否 定 す る とい う二 律 背 反 的 な内 容 を規 定 した。 形 骸 化 して い た とは
い え 共 同 的土 地所 有 権 を最 終 的 に否 定 す る憲 法 改 正 は 、 ネ オ リベ ラ リズ ム の象 徴 で あ る と ころ の
北 米 自由 貿 易 協 定(NAFTA)へ
加 盟 す る た め の前 提 条件 で あ っ た。 そ の 結 果 、 同協 定 が発 効 す
る1994年 の新 年 に メ キ シ コ辺 境 の チ アパ ス 州 で メキ シ コ革 命 の英 雄 の名 を冠 した サ パ テ ィス タ民
族 解 放 軍 が 蜂 起 し、 今 日 もな お 国 内外 か ら支 持 や 共 感 を集 め て活 動 中 で あ る 。彼 らの 主 張 の 基 盤
の 一 つ がILO第169号
条 約 な の で あ り、 国 民 行 動 党(PAN)の
フ ォ ッ クス 大 統 領 下 の メ キ シ コ新
政 権 との 間 で 国 内 法 の 整 備 をめ ぐっ て応 酬 を続 け て い る 。
本 稿 の 範 囲 か らは逸 脱 す る で あ ろ うが 、① 文 化 的 権 利 の み な らず社 会 的 ・経 済 的 権 利 もま た保
障 され てい るか 、 ② 個 人 的権 利 の み な らず 集 団 的 権 利 もま た保 障 され て い るか 、 ③ 国 内法 の整 備
は どの程 度 進 ん で い る か 、④ 規 定 が 明 示 的 か 否 か 、 の4点
を規準 と しなが ら、 ラ テ ンア メ リ カ諸
国 に お け る先 住 民 族 の現 状 を今 後 さ らに考 察 す る必 要 が あ るで あ ろ う。
教 育 に つ い て は 、 この先 住 民 条 約 は、 第6部(教
お い て以 下 の よ うに規 定 して い る[訳:宮
1当
育 お よび 通 信 手 段)第28条(児
童 の教 育)に
崎1993]。
該人民 に属 する児童 は、実行可 能な場合 は、彼 ら自身の先住民語 またはその属す る集 団に よって
最 もひろ く用い られている言語で読 み書 きを教 えられなければな らない。 これが実行不可 能な場 合に
は、権 限のあ る当局 は、その 目的 を達成 する措置の採用 のため に、 これ らの人民 と協議 しなければな
らない。
2こ
れ らの人民が国語 または国の公用語 の一 つを流 暢 に話す こ とので きる機会 を持 つ ことを確 保す る
ための適当な措置が とられ なけれ ばならない。
3当
該人民 の先住民語 の開発 と実行 を維持 し促 進するための措置が とられ なけれ ばならない。
母 語 に よ る識 字 化 を掲 げ な が ら母 語 か ら国 家 語 も し くは公 用 語 へ の 漸 進 的 な移 行 を当 然 の前 提
と して い た第107号 条 約(1957年
採 択)と 比 較 す る な ら ば、 こ の第169号 条 約 は母 語 に よる識 字 化
を謳 う と同 時 に、 公 用 語 につ い て は そ の 会 話 力 を習 得 す る機 会 の保 障 に と どめ て い る とい え る。
ま だ 国 際NGOレ
ベ ル で の 取 り組 み に す ぎ な い が 、 人 権 の 一 つ と して 「言 語 権 」 を主 張 す る運 動
と も軌 を一 にす る動 きで あ る 。
ラ テ ン ア メ リカ諸 国 憲 法 を実 際 に読 んで み て 第 一 に気 が つ くの は、 文 化 的 ・民 族 的 な 多様 性 も
し くは 多 元 性 を掲 げ る国 々が 少 な くない こ とで あ る。 た と えば 、 ア ル ゼ ンチ ン(「 先 住 民 族 の エ
ス ニ ック 的 ・文 化 的 な先 住 性 」)、ボ リ ビア(「 多 民 族 ・複 数 文 化 の 国 」)、コ ロ ン ビ ア(「 エ ス ニ ッ
ク 的 ・文 化 的 な 多様 性 」)、エ ク ア ドル(「 複 数 文 化 的 ・多 民 族 的 な … … 国 家 」)、グ ア テ マ ラ(「 マ
ヤ 系 の 先 住 民 族 集 団 を 中心 とす る多 様 な エ ス ニ ック集 団」)、メ キ シ コ(「 先 住 民 族 に 始 原 的 に支
え られ 、 複 数 文 化 的 構 成 」)な どが そ の 例 で あ る 。 ま た 、 ニ カ ラ グ ア の場 合 は多 様 性 が エ ス ニ ッ
ク的側 面 に と ど ま らず 、政 治 的 ・社 会 的側 面 さ ら には 所 有 形 態(私 有 ・国有 に加 えて 混 合 的 所 有)
青 木:ラ
テ ンア メ リカ に お け る 先住 民 言 語 と ア イ デ ン テ ィ テ ィ
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に まで 及 ぶ 。 そ して 国民 投 票 に よ り僅 差 で 否 決 され は した が 、 グ アテ マ ラの1998年 の憲 法 改 正 案
で は、 「マ ヤ ・ガ リ フナ ・シ ン カ諸 民 族 の ア イ デ ン テ ィテ ィ に対 す る権 利 」 と明記 され 、 そ の 明
示性 は1985年 憲 法 時 よ りも高 ま って い た。
第 二 に、 ラテ ン ア メ リ カ諸 国憲 法 に よっ て 先住 民 言 語 が どの よ う に位 置 づ け られ て い る か を み
れ ば 、全 国 的 な公 用 語 レベ ルで はパ ラ グ ア イ だ け が ス ペ イ ン語 とグ ア ラニ ー 語 の 二 言 語 併 用 を掲
げ て い る 。 そ れ 以外 で は、 厳 密 に は先 住 民 言 語 で は ない が 、 カ リブ海 域 の ハ イ チ が フ ラ ンス 語 と
ク レオ ー ル語 の 両 方 を公 用 語 とす る二 言 語 併 用 社 会 で あ る。 ち な み に 、 ク レオ ー ル 語 はハ イチ で
は 国家 語 的 地位 にあ る。 なお 、 エ ク ア ドル の場 合 、 ス ペ イ ン語 は 「異 文 化 問 関係 言 語」 と呼 ばれ
て い る。 先 住 民 言 語 を地 域 的 ・共 同 体 的 な公 用 語 に指 定 して い る の は、 ボ リ ビア ・ブ ラ ジル ・コ
ロ ンビ ア ・ペ ル ー な どの 国 々 で あ る。 そ して文 化 遺 産 とい う位 置 づ け を して い る の が 、 エ ク ア ド
ル(「 文 化 は 人 民 の 世 襲 財 産 」)・ エ ル サ ルバ ドル ・グ ア テ マ ラ ・パ ラ グ ア イ(グ ア ラ ニ ー 語 以外
の先 住 民 言 語)な
どで あ り、 ベ ネ ズ エ ラ は先 住 民 言 語 を 「先 住 民 族 の た め に は公 用 に付 され 、 国
民 な ら び に人 類 の 文 化 遺 産 を構成 す る」 と規 定 して い る。
第 三 に、 二 言 語 ・異 文 化 問教 育 を憲 法 の 中 に規 定 して い る の は 、 アル ゼ ン チ ン ・エ ク ア ドル ・
ペ ル ー な どで あ り、 ブ ラ ジ ル ・コロ ン ビ ァ ・グ ア テ マ ラ ・パ ナ マ な ど は教 育 にお け る二 言 語 併 用
を明 記 してい る。 なお 、E・
ロ ペ ス は ラテ ン ア メ リ カ17ヵ 国 で 二 言 語 ・異 文 化 間教 育 が 実 施 され
て い る と指摘 して い る。
皿
1)憲
ペ ル ー にお け る先 住 民 言 語 ・教 育 事 情
法 か ら見 た変 遷
先 住 民 言 語 に言 及 した 最 初 の ペ ル ー憲 法 は1933年 憲 法 で あ ろ う。 そ こで は公 用 語 で あ るス ペ イ
ン語 へ の移 行 を促 進 す るた め に先 住 民 言 語 を利 用 す る こ とが 謳 わ れ て い た 。 同 化 の た め な ら教 育
手 段 と して先 住 民 言 語 を利 用 す る こ とが ペ ル ー 国 家 に よ っ て公 認 され た わ け で あ るが 、 これ は前
掲 したILO第169号
条 約 よ り前 の 第107号 条 約L(1957年)の
規 定 、 つ ま り母 語 に よる識 字 化 と同 時
に 国家 語 な い し公 用 語 へ の 移 行 を明 記 した第23条 の 規 定 を先 取 り した もの で あ る 。 この 憲 法 の 趣
旨 に の っ とっ て 、1952年 か ら は、 ペ ル ー の 国土 を形 成 す る海 岸 部 ・山岳 部 ・森 林 部 の う ち森 林 部
にお い て、 キ リス ト教 系(プ
言 語 研 究 所(ILV)が
ロテ ス タ ン ト)の 団体 で 、 聖 書 の 翻 訳 と普 及 を 主 目的 に掲 げ る夏 期
、1946年 の ペ ル ー教 育 省 との協 定 に基 づ い て 、 アマ ゾ ン諸 語 を利 用 し なが
ら二 言 語 教 育 を実 験 的 に 開始 す る 。 この 実験 教 育 は、1983年 に は9県 、20の 言 語 集 団、1万3508
名 の 児 童 を対 象 とす る に い た っ た。
1968年 に は 、 い わ ゆ る 「ペ ル ー 革命 」 と呼 ば れ る 軍事 クー デ タが 勃 発 し、 ベ ラ ス コ を首 班 とす
る左 派 軍 事 政 権 が 誕 生 す る 。 上 か らの 近代 化 と国民 統 合 を 目指 した 同政 権 は 、 ペ ル ー独 立 に先 駆
け る先 住 民 反 乱 の指 導 者 トゥパ ッ ク ・アマ ル を統 合 の新 た な 象徴 と して積 極 的 に採 用 し、1975年
に は政 令 第21156号 に よ りス ペ イ ン植 民 地 期 に先 行 す る イ ン カ期 の公 用 語 だ っ た ケ チ ュ ア語 を ス
ペ イ ン語 と同 等 の 公 用 語 に指 定 し、地 方 毎 に6種 類 の ケ チ ュ ア語 の 辞 書 と文 法 書 の編 纂 に の りだ
した 。 しか し、 ペ ル ーが ふ た た び民 政 移 管 す る1980年 の前 年 の1979年 に制 定 さ れ た憲 法 で は 、 ス
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ペ イ ン語 が 共和 国 全 体 の公 用 語 に指 定 され た の に対 して、 ア ン デ ス 地 方 の 先 住 民 言 語 で あ るケ チ
ュ ア語 や ア イ マ ラ語 もま た 地 域 的 な公 用 語 と して公 認 され る こ とに な っ た。 ア マ ゾ ン諸 語 な ど、
そ の 他 の 先 住 民 言 語 は 「国民 の文 化 遺 産」 と して 新 た に規 定 さ れ た 。 二 言 語 教 育 の 面 で は、1980
年 代 に はス ペ イ ン語 ・ケ チ ュ ア語 ・ア イ マ ラ語 の 三 言 語 圏 で あ る プ ー ノ県 農 村(テ
ィ テ ィ カ カ湖
を挟 んで ボ リビ ア と国境 を接 して い る県)に お い て、 旧西 ドイ ツ か ら技 術 協 力 を えて 、 二 言 語 ・
二 文 化 教 育 が 実 験 的 に 開始 され る 。 夏期 言 語研 究 所 が 指 導 した ア マ ゾ ン にお け る二 言 語 教 育 で は
先 住 民 言 語 はス ペ イ ン語 習 得 まで の 一 時 的 ・補 助 的 な教 授 言 語 に す ぎ なか った が 、 プ ー ノ県 に お
け る実 験 教 育 で は ケ チ ュ ア語 や ア イ マ ラ語 を母 語 とす る児 童 に は 、 これ らの 先 住 民 言 語 は教 授 言
語 と してス ペ イ ン語 を母 語 とす る児 童 に と っ て のス ペ イ ン語 と同 等 の 役 割 を果 たす こ とが 期 待 さ
れ る よ うに な っ た。 先 住 民 言 語 を母 語 とす る児 童 に対 して は 、 ス ペ イ ン語 は、 文 字 どお り 「第二
言 語 」 と して教 育 され る よ う に な った の で あ る。 こ の二 言 語 ・二 文 化 教 育 はや が て二 言 語 ・異 文
化 間教 育 と呼 ば れ る よ う にな る。 しか し、1980年 代 の ペ ル ー は他 の ラ テ ン ア メ リカ諸 国 と同 じ よ
うに 累積 債 務 問題 に苦 しみ 、 特 に1985年 か ら90年 に か け て 政 権 を担 当 した ア プ ラ党 のA・ ガ ル シ
ア政 権 は債 務 支 払 い の額 をペ ル ー の 年 間 輸 出 所 得 の1割
に限 定 しよ う と したが 、世 界 銀 行 をは じ
め とす る 国 際金 融 界 の 同 意 を え られ ず 、 孤 立 す る こ とに な る 。 そ の 結 果 、 ペ ル ー は超 イ ン フ レ に
見 舞 わ れ 、 プ ー ノ 実験 教 育 も また 世 界 銀 行 との融 資 交 渉 が 暗礁 に乗 り上 げ た。 や が て 、 そ の事 実
上 の 中心 的 な推 進機 関 だ っ た二 言 語 ・異 文 化 間教 育 養 成 プ ロ ジ ェ ク ト(PROEIB)も
、 活動 の 中
心 を ペ ル ー か ら隣i国の ボ リ ビ アへ 移 転 させ る こ と とな る 。 ち ょ う ど ボ リビ ア で は1994年 以 降 、 ア
イ マ ラ 出 身 の 副 大統 領 が 誕 生 し、 「
民 営 化 」や
「人 民 参 加 」 や 「福 祉 改 革 」 と並 んで 「教 育 改 革 」
が推 進 され よ う と して お り、 「教 育 改 革 」 の 柱 と して 二 言 語 ・異 文 化 問教 育(ス
ペ イ ン語 ・ケ チ
ュ ア語 ・ア イ マ ラ語 ・グ ア ラニ ー 語)が 期 待 され て い た と こ ろ だ っ た。
一 方 、 ペ ル ー で は 、1990年 に 「変 革90」 運 動 の フジ モ リ政 権 が 誕 生 す る 。 そ して 「自主 ク ーデ
タ」 後 の 自己 正 当化 の た め に制 定 さ れ る こ と とな る の が1993年 現 行 憲 法 で あ る 。 この 憲 法 に よれ
ば 、 もち ろ ん 共和 国 全 体 の 公 用 語 は スペ イ ン語 の ま まで あ るが 、 ケ チ ュ ア語 とア イ マ ラ語 に加 え
て ア マ ゾ ン諸 語 も また 地 域 的 な公 用 語 と して公 認 され て い る。 そ れ に先 立 つ1991年 に は、 クス コ
県 を含 む イ ン カ広 域 行 政 圏 で は ケ チ ュ ア語 が 正 式 に地 域 的 な公 用 語 に指 定 され 、 二 言 語 ・異 文 化
間教 育 も現 在 で は も はや 実 験 教 育 と して で は な く、 正 式 の 教 育 課 程 と して農 村 部 で す で に実 践 さ
れ て い る 。 ち な み に、 クス コ県 農 村 部 で は1年 次 か ら4年 次 まで算 数 と総 合 コ ミュニ ケ ー シ ョン
(言語 に相 当す る科 目)の 二 つ の 科 目 につ い て ケ チ ュ ア語 で教 科 書 が 作 成 さ れ 、利 用 され て い る 。
な お 、 第 二 言 語 と しての ス ペ イ ン語 の教 科 書 は 現在 で は使 用 さ れ て い な い 。 た だ し、 ペ ル ー の初
等 教 育 は6年
間 なの で 、彼 ら も5年 次 ・6年 次 に な る とス ペ イ ン語 で 作 成 され た 教 科 書 、 つ ま
りス ペ イ ン語 を母 語 とす る児 童 と同 じ教 科 書 を利 用 す る こ とに な る とい う。 した が っ て、 ス ペ イ
ン語 で作 成 され た 教 科 書 が どれ だ け異 文 化 間 性 を反 映 して い る か を考 察 す る こ とが 重 要 とな る で
あ ろ うが 、 そ れ は今 後 の 課 題 と して お き たい 。
青 木:ラ
2)国
テ ン ア メ リカ に お け る先 住 民 言 語 と ア イデ ン テ ィ テ ィ
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勢 調 査 に見 る現 状
ペ ル ー で は 、1940年 以 降 、 ほ ぼ10年 毎 に 国 勢 調査 が 実 施 さ れ て きた 。最 近 で は1993年 に実 施 さ
れ 、次 は2005年 に実 施 され る予 定 で あ る。
1940年 以 降1981年 まで4回
の 国勢 調 査 に よれ ば 、 常 用 語 別 で は 日常 生 活 に お い て ス ペ イ ン語 し
ノ
か使 用 しな い 「ス ペ イ ン語 モ ノ リ ン ガ ル」 が 絶 対 的 に も相 対 的 に も急 増 した。 す な わ ち 、1940年
に は約244万 人(44%)だ
っ た 「ス ペ イ ン語 モ ノ リ ン ガ ル」 が 、1981年 まで に約1457万 人(73%)
へ と、 絶対 数 で は じつ に6倍 弱 、 百 分 比 で も約1.66倍
に増 加 した。 一 方 、 先 住 民 言 語 の話 者 で
は、 た と え ば 「ケ チ ュ ア語 モ ノ リ ン ガ ル」 は 、 同 じ期 間 に、 約163万 人(31%)か
(8%)へ
と絶 対 的(0.7倍)に
も相 対 的(0.3倍)に
ら約111万 人
も急 減 した 。 た だ し、 「ケ チ ュ ア 語 モ ノ リ ン
ガ ル 」 が 「ス ペ イ ン語 モ ノ リ ン ガル 」 へ と直 接 、 全 面 的 に移 行 した わ け で は け っ して な く、 「ス
ペ イ ン語 とケ チ ュ ア語 の バ イ リ ンガ ル」 は 同 じ期 間 に相 対 的 に は16%か
ら14%へ の 微 減 に と どま
り、 絶 対 的 に は む しろ約82万 人 か ら207万 人 へ と2.5倍 の 増 加 を記 録 して い る 。 こ の よ う な傾 向
は 、他 の先 住 民 言 語 に つ い て もほ ぼ 認 め る こ とが で きよ う。
最 新 の1993年 の 国 勢 調査 で は、 調 査 規 準 に大 き な変 更 が 加 え られ た 。 第 一 に 、 そ れ まで は常 用
語 の調 査 で あ っ た もの が 、 今 回 は母 語 の調 査 へ と変 更 され た。 第 二 に 、 そ の結 果 、 母 語 と して い
ず れ か一 つ の言 語 を選 択 しな け れ ば な らな くな っ た 。 これ ら二 つ の変 更 に よ り、従 来 の 国 勢 調査
の 結 果 と比 較 す る こ とが 困 難 に な っ た こ と は確 か で あ る が 、A・ チ リー ノス は93年 の 国勢 調 査 に
基 づ く詳 細 な数 量 分 析 に よ り今 後 の 言 語 交 替 率 の予 測 を行 な って い る。 そ れ に よ れ ば 、 ケ チ ュ ア
語 や ア イマ ラ語 の よ うな ア ンデ ス諸 語 で は相 対 的 に は か な り減 少 し、 と りわ け モ ノ リ ンガ ル は急
減 して きた が 、 人 口の 自然 増 加 率 を加 味 した 絶 対 数 で は ほ ぼ安 定 して い る。1993年 で は 、5歳 以
上 人 口の16.6%の 母 語 は ケ チ ュ ア語 で あ っ た 。 人 口 の 自然 増 加 率 を25%、
ケ チ ュ ア語 か らスペ イ
ン語 へ の 言 語 交 替 率 を20%と 仮 定 す れ ば、2005年 に は絶 対 数 で は約350万 人 へ と5%の
増 加 を見
る で あ ろ う と予 測 した 。 そ の 結 果 、 ケ チ ュ ア語 を 母 語 とす る者 は 、 ペ ル ー全 体 で は13%な
いし
15%の 範 囲 に お さ まる こ と とな る 。
一方
、 ア マ ゾ ン諸 語 の 場 合 は、 チ リー ノ ス に よれ ば 、 言 語 間 の格 差 や 同一 言 語 内 の 格 差 が 激 し
く、 言 語 に よっ て は 消 滅 す る 場 合 もあ れ ば、 反 対 に 話 者 が 増 加 す る場 合 もあ る 。 た だ し ア ンデ ス
諸 語 と比 較 す れ ば 、 ア マ ゾ ン諸 語 全 体 と して は スペ イ ン語 へ の 言 語 交 替 率 は低 く、絶 対 的 の み な
らず 相 対 的 に も増 加 を見 る か も しれ ない 、 と した。 そ の 要 因 と して、 チ リー ノ ス は 、言 語 に対 す
る 「愛 着 」 と並 んで 言 語 の社 会 経 済 的 ・政 治 的 な 「
効 用 」 をあ げ て い る。
確 か に、 ペ ル ー の場 合 、1968年 以 降 の ベ ラス コ軍 事 政 権 の 時代 に、 差 別 的 な ニ ュ ア ンス を含 ん
だ 「イ ン デ ィ オ」 とい うエ ス ニ ック 的 な 呼称 は 「農 民 」 とい う階級 的 ・職 業 的 な呼 称 に変 更 され 、
ア ンデ ス 地 方 に は 「先 住 民 」 共 同体 が 政 治 的 に は もはや 存 在 しな くな る。他 方 、 アマ ゾ ン地 方 で
は 「先住 民 」 共 同 体 が い ま な お存 続 して い る 分 だ け、 エ ス ニ ック性 を主 張 しや す い 政 治 的土 壌 が
存在 するのである。
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ア イ デ ンテ ィテ ィ と して の 先 住 民 言 語
現 在 ペ ル ー の 二 言 語 ・異 文 化 間教 育 課 の課 長 をつ とめ るJ・C・ ゴデ ン ツ ィ は、1990年 に プ ー
ノ市 で都 市 移住 者 の 意 識 調 査 を行 な っ た こ とが あ る 。 そ れ に よれ ば、 都 市 へ の移 住 や ス ペ イ ン語
化 は、 出 身 農 村 で の 習 慣 や ケ チ ュ ア語 の放 棄 に は つ な が ら なか っ た。 ス ペ イ ン語 の 習 得 は ス ペ イ
ン語 へ のモ ノ リ ンガ ル 化 で は な く、 ス ペ イ ン語 との バ イ リ ンガ ル 化 を意 味 した に す ぎ なか っ た。
彼 が 言 語 以外 に着 目 した調 査 項 目 に は 、 地 母神 信 仰 を意 味 す る 「土 地 へ の支 払 い」 や 、 祭 礼 ・舞
踊 、 通 過儀 礼 、 コ カ 占い 、 自然 薬 の 利 用 な どが あ っ た。
や や もす れ ば早 合 点 して しま い そ うに な る が 、 ス ペ イ ン語 を話 す よ うに な った か ら とい っ て先
住 民 系 で な くな っ た わ け で は な い 。 た だ し、 アイ デ ン テ ィ テ ィ の基 軸 を、 言 語 以外 に求 め る とす
れ ば、 何 に求 め た ら よい の で あ ろ うか 。 また 、 ア イデ ン テ ィ テ ィを規 定 す る 主 体 とは、 い っ た い
誰 なの で あ ろ う か。 少 な く と も主体 につ い て は、 当 事 者 こ そ 自 ら を規 定 す る主 体 とな らな けれ ば
な ら ない 。
こ の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 問題 を 、筆 者 の個 人 的体 験 を ま じえ な が ら考 察 す る。
次 の よ うな 言 葉 を紹 介 す る こ とか ら出発 した い 。 「い ま まで 孤 立 を も た ら して きた[先 住 民]
諸 語 が 、 自 らの消 滅 を早 め る 道 具 に変 わ るで あ ろ う。」(1950年)こ
れ は、 中央 政 府 の認 可 の も と
で は ペ ル ー で 最 初 の 二 言 語 教 育 を ア マ ゾ ン地 方 で 実 施 す る こ と と な る 夏 期 言 語 研 究 所 の 創 立 者
W・C・
タ ウ ンゼ ン トの言 葉 で あ る。 こ こで は 明 らか に 、 先 住 民 諸 語 の将 来 を定 め る主 体 は 、 当
事 者 で あ る ア マ ゾ ン諸 民 族 集 団 で は な か っ た 。
筆 者 が は じめ て ペ ル ー
一に 留 学 した の は1984年4月
か ら翌 年3月
にか け て の1年
当 時 ケ チ ュ ア 語 会 話 の 集 中講 座 が 開設 さ れ て い た の は 、 ア ンデ ス 司 牧 研 究 所(ク
1月 か ら2月
間 で あ った 。
ス コ市)が
毎年
にか け て 司 牧 関係 者 向 け に 開催 して い た講 座 だ け で あ った 。 一 般 の研 究 者 にす ぎ な
か った 筆 者 も参 加 を許 され 、 司 牧 関係 者 と寝 食 を共 に しなが らケ チ ュ ア語 を学 ぶ機 会 を得 た 。 司
牧 関係 者 とい って も外 国 出 身者 が 多 い参 加 者 の 中 に 「解 放 の 神 学 」 派 の 師 の も とで 学 ぶ 、 クス コ
市 出 身 の ミス テ ィ系 の 神 学 生 が い た 。彼 は 、 クス コ市 内 で も誰 彼 な くケ チ ュ ア語 で 話 し掛 け る筆
者 の 姿 を見 て 、 ケ チ ュ ア語 は 人 を見 て話 し掛 け る よ うに 、 とい う趣 旨の 忠 告 を して くれ た 。 「ケ
チ ュ ア語 はお くれ た言 語 だ」 とい う当 時 まだ 圧倒 的 に支 配 的 だ っ た風 潮 か らす れ ば、 当然 の忠 告
だ っ たの か も しれ な い。 た だ、 筆 者 に も、 ケ チ ュ ア語 を話 し掛 け る に も一 種 のTPOが
あ り(た と
え ば 、 まず社 会 的 威 信 言 語 で あ る ス ペ イ ン語 で 話 し掛 け よ)、 そ れ を決 め るの は ス ペ イ ン語 話 者
で あ る こ と、 ま た ス ペ イ ン語 とケ チ ュ ア語 との 間 に は厳 格 な境 界 線 が 存 在 す る こ とが 、 お ぼ ろ げ
なが ら も理 解 で きた。
1981年 の 国勢 調 査 に よ れ ば 、5歳 以 上 の都 市 人 口966万 人 の う ち、135万 人(13.9%)は
ケチュ
ア語 の常 用 者 で あ り、 そ の 大 半 の118万 人 が バ イ リ ンガ ル 層 で あ っ た 。 海 岸 部 に位 置 す る首 都 リ
マ な どの 「ア ンデ ス化 」 を象徴 す る よ う な現 象 の一 つ で あ る 。 クス コ市 で もそ うで あ っ た が 、 こ
の リマ市 で も、 タ ク シー 運 転 手 や 郵 便 局 員 な どに対 して ケ チ ュ ア語 で 話 し掛 け た りす る と、 ケ チ
ュ ア語 で返 事 が返 って くる経 験 をす る こ とが で きた 。 た だ し、 クス コ市 と比 較 す る と、 リマ市 で
返 っ て くる ケ チ ュ ア 語 は だ い ぶ んス ペ イ ン語 の ま じっ た 、 崩 れ た よ う な ケ チ ュ ア語 が多 か っ た よ
青 木:ラ
テ ン ア メ リカ に お け る先 住 民 言 語 と ア イデ ン テ ィ テ ィ
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う に思 う。 そ れ が よい のか 悪 い の か 、 とい う判 断 は別 問 題 で あ る 。筆 者 が外 国 人 で あ る とい う点
を割 り引 い て 考 え な けれ ば な らな い で あ ろ うが 、 ケ チ ュ ア語 話 者 の 意 識 が しだ い に変 化 して きて
い る よ う に筆 者 は考 え は じめ て い た 。
1994年4月
か ら5ヵ 月 間 、 筆 者 は 再 び ペ ル ー に留 学 す る機 会 を得 た 。 この と き に は、 クス コ市
近 郊 の ユ カ イ 地 区 に滞 在 し、 宗 教 儀 礼 を 中心 に調 査 した 。 と同時 に 、前 掲 の ゴデ ン ツ ィの プ ー ノ
市 に お け る都 市 移住 者 調査 に な ら っ て言 語 意 識 に 関 す る イ ン タ ビ ュ ー を行 な った 。 ユ カ イ地 区 は
ク ス コ市 か らマ イ ク ロバ ス で1時
間半 あ ま りに位 置 す る近 郊 農 村 で あ る が 、 ペ ル ー の 規 準 に よれ
ば そ の 大 半 が 「都 市 部 」 に 分 類 され て い る 。 現 在 で は クス コ市 の 通 勤 ・通 学 圏 に 入 っ て お り、
人 々 の学 歴 もか な り高 い 。 イ ン タ ビ ュー で は、 ケ チ ュ ア語 モ ノ リ ンガ ル の1名
を除 くと、 す べ て
ケ チ ュ ア 語 バ イ リ ンガ ル で あ っ た。 結 論 的 に は 、 ゴ デ ン ツ ィの 調 査 結 果 を裏 付 け る もの と な り、
バ イ リン ガ ル層 は地 元 の伝 統 や 慣 習 に愛 着 を抱 き、ケ チ ュ ア語 の 将 来 につ い て悲 観 的 で は あ る が 、
どこか 余 裕 を感 じ させ る 回答 ぶ りで あ っ た。 あ る女 性 は 、 ケ チ ュ ア語 で は な く意 識 的 に ス ペ イ ン
語 で 息 子 を養 育 した が 、成 人 した 息子 は医 者 を志 す よ うに な り、僻 地 で の 研 修 で ケ チ ュ ア語 に苦
しむ よ う に な っ た経 験 を、 雑 談 と して話 して くれ た 。
1999年4月
か ら5ヵ 月 間、 筆 者 は3回
目の ペ ル ー留 学 を果 た した。 再 び 、 主 と して ユ カ イ 地
区 に滞 在 しなが らパ ラ グ ア イ や ボ リ ビア に も旅 行 し、 二 言 語 ・異 文 化 問 教 育 につ い て考 察 す る こ
と と な っ た。 この と きにペ ル ー の ク ス コ県 で も二 言 語 ・異 文 化 間教 育 が 正 規 の 教 育 課 程 と して採
用 され て い る こ とに、 じつ は非 常 に驚 い た 。 しか も、 ユ カ イ 地 区 で も、 峠 を一 つ 越 え たサ ンフ ア
ン地 区 で 二 言 語 ・異 文 化 問教 育 が実 践 され て い る とい う の で 、 ほ ん と う に意 外 な気 が した。 ペ ル
ー の 場 合 、 特 に ク ス コ県 の 場 合 、 「上 か ら」 の 取 り組 み とい う印 象 が 強 い こ と は確 か で あ る が 、
また 「官 製 の 」 とい う修 飾 語 つ きに して も、 二 言 語 ・異 文 化 問教 育 は 、 従 来 の 教 育 方 式 よ り も希
望 を抱 か せ る もの で あ る。
また 、1999年 に はペ ル ー山 岳 部 中部 の フ ニ ン県 ワ ン カー ヨ市 を訪 問 した 。 第1回
目 の留 学 の と
き に旅 行 した こ との あ る思 い 出 の都 市 で あ る 。(第2回 目 の留 学 の と き には ペ ル ー 中部 大 学 に所 属
した 。)当 時 は リマ市 か ら高 山列 車 に 乗 っ て ワ ンカ ー ヨ市 まで 旅 行 した 。 同 市 は 、 ク ス コ市 や ア
ヤ クー チ ョ市 を リマ と結 ぶ 交 通 の要 衝 に 当 た る 。 そ の ため 、1980年 代 に は テ ロ リズ ムの 嵐 に見 舞
わ れ た都 市 で もあ る。 今 日で は、 長 距 離 バ ス が 主 要 な交 通 手 段 とな っ て い る。 フニ ン県 はか つ て
は ケ チ ュ ア 語 圏 の 一 つ で あ っ たが 、 今 日で は ケ チ ュ ア語 話 者 は減 少 の 一 途 を辿 り、 高 齢 化 が 顕 著
で あ る 。 しか し、1999年 に は新 しい現 象 も見 られ る よ う に な っ た 。 ワ ンカ ー ヨ市 は 日系 ペ ル ー人
の多 い 町 の 一 つ で あ り、 あ る 日系 の 知 人 か らの情 報 に よれ ば、30代 、40代 の 年 齢 層 の 中か らケ チ
ュ ア語 を学 び 直 そ う とす る動 きが あ る とい う。 つ ま り、 ケチ ュ ア語 を 母 語 とす る両 親 か らス ペ イ
ン語 で育 て られ た 世代 が 、 成 人 した今 ・ ケ チ ュ ア 語 を第 二 言 語 あ る い は 第 三 言 語 と して 学 ぼ う と
して い る の で あ る 。 じっ さい 、 最 初 の留 学 の と き に ワ ン カ ー ヨ市 近 郊 の農 村 を案 内 して くれ た旅
行 ガ イ ドと偶 然 再 会 して み る と、 先 住 民 系 とい う よ りも ミス テ ィ に属 す る と思 わ れ るが 、 彼 自身
が そ の よ うな例 の一 人 で あ っ た 。
こ の よ うに 、先 住 民系 を中 心 と してペ ル ー 人 の先 住 民 言 語 に対 す る意 識 は着 実 に変 化 して きて
い る よ うに 、筆 者 に は 思 わ れ る。 少 な く と も、 ケ チ ュ ア語 の 将 来 を決 定 す る の は 、 グ ロー バ リゼ
奈
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良
大
学
紀
要
第30号
一 シ ョンの 波 と と もにペ ル ー各 地 、 さ ら には 海外 へ と旅 立 つ て い っ た 者 を も含 む 、 先 住 民 系 のペ
ル ー人 自身 で あ ろ う し、彼 らが ア イ デ ンテ ィテ ィの 多 重 化 を め ざす の な ら、 非 先 住 民 系 の人 々 も
彼 らに呼 応 して ア イデ ン テ ィ テ ィ の多 重 化 に 向 け て行 動 をお こす こ とが 重 要 に な るで あ ろ う。
最 後 に、 ペ ル ー を は じめ と して ラテ ン ア メ リ カ全 般 に1990年 代 に二 言 語 ・異 文 化 間教 育 を普 及
せ しめ て きた の は、 都 市 にお け る市 民 運 動 や 社 会 運 動 を含 む先 住 民 族 お よ び先 住 民 系 の運 動 で あ
り、 ラテ ン ア メ リカ が 累 積 債 務 危 機 に 見 舞 わ れ 、 「失 わ れ た10年 」 と呼 ば れ た1980年 代 に新 た に
興 隆 した政 治 ・社 会 面 に お け る民 主化 運 動 全 体 で あ る こ と を指 摘 してお きた い。
参考文献
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青木芳夫
「『ペ ル ー ・ボ リ ビ ア の 二 重 言 語=異
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同
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、1999年
、1987年
言 語 権研 究 会 編
『こ と ば へ の 権 利 』 三 元 社 、1999年
宮 崎 繁 樹 ほか 著
『現 代 日 本 の 人 権 状 況 一 未 批 准 国 際 条 約 か ら考 え る 一 』 大 村 書 店 、1993年
RESUMEN
EnesteartfculoelautorexaminasobreelfuturodeidentidadylaslenguasindfgenasdeAm6rica
Latina,sobretododelPer{i,enla(5pocadelaglobalizaci6n.LaslenguasindfgenasnohansidoestimadasadecuadamenteenlasociedadnacionaldelPer{i.Pero,laposturadelosindfgenascuyalengua
maternaesquechua,aymaraoamaz6nicaestacambiando.Ellosquierendominarelcastellanoansiosamente,yalmismotiempoesperanmantenerorecuperarsulenguamaternaolenguaindfgena.Esto
quieredecirlosiguiente.Elfen6menaqueestaocurriendoenelPertinoeslamonolingUenizaci6n
haciaelcastellanosinolabiling廿enizaci6nconelcastellano.Losperuanosindfgenasest盃nandando
hacialapluralizaci6ndesuidentidad.
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