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淀川河川事務所の事業の概要

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淀川河川事務所の事業の概要
第44回京都地盤研究会 - 1 -
淀川流域
淀川河川事務所の事業の概要
大阪
琵琶湖
京都
桂川
瀬田川
平成22年 10月28日
淀川河川事務所長 森川一郎
大阪
淀川
流域面積:8,240k㎡
宇治川
木津川
幹川流路延長:75km
流域内の人口:約1100万人
(大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、
奈良県、三重県)
Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
大阪平野の変遷
1
淀川の氾濫実績図
①縄文時代中期前半
(5,500~4,000年前)
③古墳時代中期(5世紀)
明治18年洪水
②弥生時代中期
(約2,000年前)
大正6年洪水
昭和28年洪水
「松田順一郎 原図」
2
3
淀川
第44回京都地盤研究会 - 2 -
明治18年の洪水
過去の水害(大正6年)
大正6年 淀川
高槻市大塚地区の堤防決壊
大正6年 淀川
高槻市三島江兵隊舎の浸水状況
天満橋(てんまばし)
4
淀川
5
過去の水害(昭和28年)
淀川
過去の水害(昭和28年台風13号)
昭和28年台風13号洪水による宇治川堤防の決壊
芥川の堤防決壊(高槻市)
芥川の堤防決壊(高槻市)
京都府久御山付近
淀川 枚方大橋付近
6
7
◆新淀川開削
◆毛馬洗堰
◆毛馬閘門
◆堤防(拡幅・嵩上)
◆瀬田川洗堰
◆瀬田川拡幅・浚渫
◆宇治川付け替え
ヨハネス・デ・レーケ
沖野忠雄
第44回京都地盤研究会 - 3 -
淀川改良工事 (M29~M43)
淀川改良工事の主な工事
神崎川
中津川
●
毛馬
大川
新淀川
●
大阪城
8
9
淀川堤防の移り変わり
淀川水系河川整備計画の流れ
河川法に基づき以下の手続きを実施
平成19年8月16日 河川整備基本方針の策定
(各府県知事も参加した社会資本整備審議会での審議を経て河川管理者が作成)
平成19年8月28日 河川整備計画原案(意見聴取のためのたたき台)の作成
学識者の意見聴取
(流域委員会)
流域住民の意見聴取
自治体の長
の意見聴取
地元住民との対話
プロセス(ダムについて)
・4.25に流域委員会が
「意見書」提出
・委員会を20回開催
・延べ約90時間の審議
・住民意見交換会を34会
場で実施、約1,450名の
方が出席
・新聞折り込み、HP等
様々な方法により約
5,400名から意見等
・流域市町村長懇談会を
を計3回実施 延べ75
市町村が参加し約160
意見
・H19.12.28 に82市町村
長からの意見書
・個別意見聴取として約
300意見
・大津市、伊賀市で15回
開催
・約350名が参加
関係府県との調整
・6府県の会議を9回開催
・その他、個別の問い合
わせ等に随時に対応
※委員会回数は、意見書提示(H20.4.25)までの回数
平成20年6月20日
河川整備計画(案)の作成
各府県知事経由
府県知事への意見照会
市町村長への意見聴取
(平成21年3月2日 完了)
10
平成21年3月31日
河川整備計画の策定
11
【 治水・防災 】 淀川水系における治水・防災対策の考え方
○淀川水系の特徴
①三川合流部
宇治川・木津川・桂川という流域面積の大
きい三つの川が合流し、その下流部の淀川
では特に人口資産が集中
目標:
いかなる洪水に対しても氾濫被害をできる
限り最小化する施策をハード、ソフトの両
面にわたって推進する。
この際、
「一部地域の犠牲を前提としてその他の地
域の安全が確保されるものではなく、流域
全体の安全度の向上を図ることが必要」
との考えを基本に流域が一体となって対策
を講じる。
②狭窄部上流
木津川・桂川・猪名川の上流には、狭窄部
(岩倉峡、保津峡、銀橋周辺)があり、上野
盆地、亀岡盆地及び多田盆地はその狭窄部
により洪水が流れにくく、下流への流量増を
抑制していることから浸水が生じやすい。
下流域に比べて治水安全度が昔から低い地
域
琵琶湖
猪名川
桂川
亀岡
保津峡
瀬田川
保津峡
多田
銀橋周辺
銀橋周辺
岩倉峡
宇治川 岩倉峡
三川合流部
淀
川
木津川
③琵琶湖
琵琶湖は広大な湖沼であり、流入河川が
118本に対し、流出河川が瀬田川のみである
ことから、一旦水位が上昇すると高い水位が
長時間継続し広範囲に浸水被害等が発生
上野
淀川水系流域図
12
13
【 治水・防災 】 淀川水系における治水・防災対策の考え方
【 治水・防災 】 淀川水系における治水・防災対策の考え方
○淀川水系の現況
○治水・防災対策の考え方
①本来の機能を確実に発揮することがで
きない脆弱な堤防が全川にわたって存在
・ 安全・安心に暮らせる地域づくりを進めるため、一定規模の洪水は川
の中の対策(ためる・ながす)により、戦後実際に経験した全ての洪水を
淀川水系全体で安全に流下させることを目指す。
土砂で造られている堤防
②淀川本川は計画規模洪水が発生しても計画高水位以下で流下させることができる
(中上流部で氾濫が生じることもあり)
③中上流部は戦後最大洪水に対しても流下能力が不足
桂川 大下津地点(2.8k)
(m)
25
戦後最大洪水(昭和28年台風13号)を安全に流下できる
○量的な対応: 川の中で洪水を安全に流す。
【ながす:掘削、引堤 ためる:遊水地、洪水調節施設の整備】
本支川・上下流バランスを図り、整備を進める
平成16年台風23号洪水を安全に流下できる
掘削
現況断面
H W L
掘削
20
堤防
堤防
▽ H W L
15
大下津地区旧堤撤去
10
【整備メニュー】
・樹木伐採
・大下津地区引堤及び旧堤撤去
・河床の部分掘削
5
-50
0
築堤、掘削等による河積の確保
河床の部分掘削
(m)
50
100
150
200
250
300
掘削の実施にあたっては、河床の安定性や環境・景観を今後詳細に検討し、断面を決定する。
洪水調節施設の整備による流量低減
河川環境の保全・再生の観点を踏まえて実施
350
14
15
第44回京都地盤研究会 - 4 -
【 治水・防災 】 淀川水系における治水・防災対策の考え方
第44回京都地盤研究会 - 5 -
【 治水・防災 】 本支川・上下流バランスの確保
【 治水・防災 】 淀川水系における治水・防災対策の考え方
本支川・上下流バランスの確保にかかる実施メニュー
○治水・防災対策の考え方
・ 浸透・侵食に対する堤防強化を整備期間中に完成。これらの対策により、
堤防の強度が全体として増すことから、決壊による氾濫が生じる場合でも
避難時間の確保に寄与。
桂川・嵐山改修
桂川大下津地区
塔の島地区改修
45
○質的な対応: 堤防を強化する。
【つよくする:浸透・侵食に対する堤防強化】
堤防の詳細点検結果を受けて最優先で実施する
40
50
37
0
35
5
天端舗装
侵食防止工
30
断面拡大(難透水性材料)
10
計画高水位
植生工
堤防強化
(優先区間)
25
15
堤防強化
ドレーン工
植生工
20
天端までの護岸
既設護岸※
(緊急対策区間)
堤防強化
(人口稠密区間)
阪神なんば線
橋梁架替
20
35
30
15
25
10
※密着性に問題がある場合は撤去
5
河川環境の保全・再生の観点を踏まえて実施
0
高規格堤防整備
16
【 治水・防災 】本支川・上下流バランスの確保
【 治水・防災 】本支川・上下流バランスの確保
淀川でもかつては出水が多く水防は活
発に行われていた
最近30年大出水がない淀川
(O.P.+ m)
17
淀川(枚方地点)の既往著名洪水の水位
14.00
計画高水位
13.00
13.228m
12.00
11.00
はん濫注意水位
11.368m
10.00
水防団待機水位
9.568m
9.00
8.00
7.00
昭和34年8月 台風7号の増水
S2
8.9
.
S3 25
1.9
.
S3 27
3.8
.
S3 26
4.8
.
S3 14
4.9
.
S3 27
5.8
.
S3 30
6.6
S 3 .2 7
6.1
0
S 4 .2 8
0.9
.
S4 18
7.9
.1
S5 7
7.8
.2
枚方かぎや裏の天端亀裂
昭和36年10月 台風26号による
漏水防止・釜段工(旭区)
18
19
第44回京都地盤研究会 - 6 -
【 治水・防災 】本支川・上下流バランスの確保
【 治水・防災 】本支川・上下流バランスの確保
最近30年おとなしい木津川
木津川(八幡地点)の既往著名洪水の水位
(O.P.+ m)
19.00
計画高水位
18.00
S57.8 淀川右岸(38.6+110k)
17.745m
17.00
16.00
はん濫注意水位
15.335m
15.00
水防団待機水位
13.835m
14.00
S5
7.8
.2
S4
0.9
.18
S3
4.9
.27
S3
6.1
0.2
8
S3
4.8
.14
S3
3.9
.27
S3
3.8
.26
S2
8.9
.25
S3
1.9
.27
13.00
S57.8 淀川右岸(38.6+110k)
20
21
【 治水・防災 】本支川・上下流バランスの確保
【 治水・防災 】 本・支川のメニュー
<淀川本川の河川整備の考え方>
5年に1回計画高水位を超えている桂川
5年に1回計画高水位を超えている桂川
(O.P.+ m)
(今後の対応方針と目標)
1.事業中の阪神なんば線橋梁架替事業の推進(H34年目標)
2.堤防補強対策17.0kmの完了(今後5ヶ年を目途)
3.高規格堤防整備事業の推進(左岸重点地区の推進)
桂川(羽束師地点)の既往著名洪水の水位
19.00
18.00
計画高水位 17.260m
阪神なんば線橋梁
計画高水位 17.101m
橋梁の桁下高
の余裕がなく、
洪水の流下を
阻害している。
17.00
16.00
淀川大堰
淀川大堰の耐震対策(改修事業)と
補修対策(維持事業)を同時に施行
することにより、コスト縮減を図る。
高規格堤防(伊加賀西地区)
整備前
15.00
昭和36年9月(第
2室戸台風)時
の高潮の状況
14.00
13.00
整備イメージ
S
28
.9
.2
S3 6
1.
9.
27
S
32
.6
.2
S3 7
3.
8.
S 26
34
.8
.1
4
S
34
.9
.
S 27
35
.8
.3
S
36 0
.1
0.
28
S4
0.
9.
18
S
47
.7
.1
S4 3
7.
9.
S 17
50
.8
.2
3
S
57
.8
.
S
58 2
.9
.2
8
H
1.
9
H .3
7.
5.
12
H
8.
8.
H 28
11
.
H 6.3
16 0
.1
0.
20
12.00
架替前
※H13に観測所の位置を変更
整備後
整備後
架替後
22
鉄筋の腐食状況
23
第44回京都地盤研究会 - 7 -
【 治水・防災 】本・支川のメニュー
【 治水・防災 】本・支川のメニュー
<宇治川の河川整備の考え方>
<桂川の河川整備の考え方>
堤防強化(左岸41.0k)
(今後の対応方針と目標)
嵐山地区
(今後の対応方針と目標)
戦後最大洪水(S28.9洪水)を安全に流下させるため段階的に整備を推進
整備前
1.戦後最大洪水に対応すべく、現在実施中の隠元地区改修
(H22完了) 、塔の島地区改修(H27完了目標)を推進。
併せて琵琶湖からの後期放流1500m3/sに対応可能。
2.堤防補強対策3.5kmの完了(今後10ヶ年を目途)
第一段階
平成16年台風23号対応【概ね15年】
:現況約2,000m3/s→約2,300m3/s(羽束師地点)
整備計画段階 戦後最大洪水対応【概ね30年】
:約2,300m3/s→約3,600m3/s(羽束師地点)
平成16年台風23号による洪水(渡月橋)
整備後
塔の島地区改修
桂川大下津地区
淀水垂町
淀大下津町
着色部掘削範囲
引堤事業
淀樋爪町
羽束師付近(5.0k)
護岸セットバック・道路嵩上
橋
宮前
現況
桂川
築堤完了区間
築堤計画区間
旧堤撤去計画区間
橘島の切り下げ
上野橋上流付近(14.4k)
引堤約100m
現状の川幅 約270m
締切堤撤去
落差工切下
河道内掘削(中下流部)
2.2k
導水管撤去
改修後
掘削
整備イメージ(緩傾斜部)
昭和時代の塔の島の形状は、現況のような直線的なものではなく、自然に中洲が形成さ
れていたので、今回の改修は、景観に配慮し、以前の形状に復元する。
凡例
現在
第1期
第2期
HWL
24
25
H22淀川水系総合水系環境整備事業(淀川鵜殿ヨシ原保全)
【 治水・防災 】本・支川のメニュー
<木津川下流の河川整備の考え方>
(今後の対応方針と目標)
人家が連担し、堤防が高い17.4km区間で緊急堤防補強対策を完了(10年)
位置図
平面図
高水敷切下げ
堤防強化(右岸1.6k)
整備前
鵜殿ヨシ原(高槻市)
整備後
導水路
切下げ地モニタリング
凡
例
H20 まで実施
H21 実
施
H21 補
正
H22 実
施
H23 以降実施
堤防強化(環境事業との連携)
脆弱な木津川の堤防の状況
断面図
洪水などで増水
堤防強化(改修事業)を実施する箇所において、たまり造成(環
境事業)を同時に行うことにより、横断形状の修復を図る。
たまり
切下げ範囲
堤防強化
洪水などで増水
・堤防強化
・伐木
・横断形状の修復
・流下能力の確保
・水位低減による堤防の危
険度の低減
・たまりの再生による、イ
タセンパラの保護
・ヨシ原の復元に貢献
・オオヨシキリやツバメのねぐらなど生物の
多様性の確保
・ヒチリキの材料となる良質なヨシの生育に
貢献
ヨシが水に浸かる高さ
26
27
淀川では5年ぶりに野生のイタセンパラを133個体確認
昨年(2009年)秋、大阪府環境農林水産総合研究所水生生物センターで飼育している
淀川産のイタセンパラ(保存集団)を野生に復帰させることを目的に、淀川本川への再導
入を試行的に実施
位置図
1987年
2002年
唐崎ワンド(唐崎地区)
第44回京都地盤研究会 - 8 -
H22淀川水系総合水系環境整備事業(淀川ワンド再生)
■ワンド造成イメージ■
繁殖環境、生息環境が一部で再生されたもの
と評価できる、野生に定着するにはまだ不十分。
(放流は雌雄計500)
唐崎地区
牧野ワンド(牧野地区)
牧野地区
凡
例
H20 まで実施
H21 実
施
H21 補
正
H22 実
施
H23 以降実施
80
9000
70
50
46
55
51
・在来種を中心とした生態
系を再生
・水陸移行帯における連続
性確保による多様な生態系
の基盤を再生
8000
60
7000
6000
個体数
ワンド箇所数
60
40
5000
4000
30
3000
20
2000
1000
10
0
平成22年7月7日
大阪日日
0
H18
H19
H20
年度
ワンド造成箇所の推移
H21
H6
H7
H8
H9
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21
年度
城北ワンド群におけるイタセンパラ稚魚の推移
28
29
第44回京都地盤研究会 - 9 -
河川技術論文集,第16巻,2010年6月
論文
越流侵食・浸透のメカニズムを把握するための
小型堤防による越流侵食実験
EXPERIMENTAL STUDY TO UNDERSTAND MECHANISMS OF RIVER
EMBANKMENT BY SEEPAGE FLOW AND EROSION DUE TO OVERTOPPING
WATER BY USING SMALL-SCALE MODEL
與田敏昭1・中川
一2・関口秀雄3・岡二三生4・後藤仁志5・小俣
篤6
Toshiaki YODEN, Hajime NAKAGAWA, Hideo SEKIGUCHI, Fusao OKA,
Hitoshi GOTOH and Atsushi OMATA
1正会員
工修 株式会社ニュージェック(〒531-0074 大阪市北区本庄東)
2正会員 工博 京都大学教授 防災研究所流域災害研究センター(〒612-8235 京都市伏見区横大路下三栖)
3フェロー会員 工博 京都大学名誉教授(〒612-8235 京都市伏見区横大路下三栖)
4正会員 工博 京都大学大学院教授 工学研究科(〒615-8540 京都市西京区京都大学桂)
5正会員
工博 京都大学大学院教授 工学研究科(〒615-8540 京都市西京区京都大学桂)
6正会員 国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所(〒573-1191 枚方市新町)
There is not enough of the necessary scientific and technical data and method to enhance the measures
against seepage of river embankment due to high water-level and against its erosion due to overtopping of
river water. This experimental study was done to understand mechanisms of river embankment
deformation by seepage flow and erosion due to overtopping water by using small-scaled physical model
(height of embankment is one meter). Experiments were carried out under the several hydraulic and soil
conditions such as overflow depth, degree of soil compaction, moisture content in the embankment, etc.
From those experiments, it was found that wet condition in the embankment significantly effects on the
eroded locations, resulting shapes and sediment volume yielded that is strongly depend on the degree of
soil compaction. It was, therefore, shown that operation and management of embankment, especially soil
property, is very important to keep embankment safe from seepage and erosion due to overtopping.
Key Words : river embankment, small-scale model, overtopping water, erosion, seepage
1. はじめに
堤防強化にあたって,浸透については『河川堤防設計
指針』1)(国土交通省河川局治水課,平成14年7月,最終
改正平成19年3月)による安全性照査の技術的方法に基
づき点検・照査が実施されている.しかし,浸透による
土質力学的な安定性の評価については,より物理プロセ
スを適確に反映させる手法の開発が求められている2).
一方,越水については過去の破堤原因の多くを占めてい
るといわれているものの,現在のところ連続的な大堤防
で越水に対して効果的な対策を施すための技術的な知見
は不足しており,効果的な越水対策を具体的に検討する
ことが難しい状況にある3).
このため,筆者らは,淀川にある大堤防に関して,浸
透や越水あるいはそれらの複合した現象に対して,堤防
を強化するための具体的な検討を行うために,実験的な
検討および越流侵食・浸透現象の解析モデル構築を進め
てきた.ここでは,堤体高1mの小型堤防を用いた実験
的研究の成果について報告する.
堤防の越流侵食実験については,独立行政法人土木研
究所(旧建設省土木研究所)において,堤体高3m程度
の大型模型を用いた実験的検討が行われており,越流に
よる堤防破壊は裏のり侵食から天端崩壊に進行すること,
土質条件により堤体の侵食量が異なることおよび越流に
対する保護工の効果等についての知見が得られている
4),5),6)
.しかし,既往成果については,大型模型である
が故に,実験回数に制約があり,特に土質条件が同一で
ある実験ケースは限られている.
本研究では,越流侵食現象と浸透現象の関係にも着目
第44回京都地盤研究会 - 10 -
【堤体詳細図】
【平面図】
図-1 小型堤水理実験装置
100.0
通過質量百分率(%)
し,これらのメカニズムを検討するために,土質条件や
施工条件を管理して製作した模型を用いて,堤体の土質
条件や外力条件と越流侵食・浸透との関係を調べること
とした.そのため,模型製作が比較的容易で実験回数を
多く実施可能であり,土質等の実験計測を密に行える小
型堤防(堤体高1.0m)を用いた実験を行うこととした.
90.0
材料①
80.0
材料②
70.0
材料③
60.0
材料④
材料⑤
50.0
材料⑥
40.0
材料⑦
30.0
適用範囲
20.0
適用範囲:
河川土工マニュアル
(不透水性部材料)より
10.0
2.小型堤防実験
(1) 実験方針
本実験では,以下の視点で土質条件等を設定し,管理
して製作した堤防模型を用いて実験を実施した.
① 外力条件,堤体締固め度,堤体内湿潤状態など条件
が異なる場合の越流侵食の違いの検討
② 同一条件での実験による結果のバラツキの検討
②については,土質条件や施工条件を管理した小型堤
防を用いた実験であっても,結果にバラツキを生じると
すれば,実スケールの堤防における安定性の評価を行う
上で重要な検討項目になると考えた.
0.0
0.001
0.01
0.1
1
粒径(mm)
10
100
図-2 実験に使用した土の粒度分布
型を越水時に越流水深30cmに相当する.
堤体および基礎部の材料は,淀川河川事務所管理区間
の堤防強化工事等で使用している混合改良土を用いた.
実験に使用した土は,土の物理試験(土粒子の密度試験,
含水比試験,粒度試験,液性限界・塑性限界試験,土の
保水性試験)および力学試験(土の三軸圧縮試験,土の
締固め試験,土の透水試験,土の圧密試験)を実施した.
実験材料の粒度分布を図-2に示す.また,土の透水係数
は2×10-4cm/s~4×10-4cm/sであった(90%調整時).な
お,実験材料は,実験の進捗にあわせて数回に分けて搬
(2) 実験装置
入し,搬入毎に土質試験を実施して,材料に大きな違い
小型堤水理実験装置を図-1に示す.実験装置は,気
がないことを確認した.
象・外気環境等の影響を避けるため京都大学防災研究所
堤体,基礎部の作成は,土の含水比を散水等により最
宇治川オープンラボラトリー実験棟内に作成した.水路
適含水比に調整しながら,層厚10cm程度ごとに締固めを
長は全長47.0m(沈砂池を除く),幅2.0m,高さ2.5mで
あり,堤体側面の一部は観測のためにガラス張りとした. 行った.堤体の作成方法および手順は常に同一として,
堤体の締固め度(本実験では90%と85%を作成)の調整は
模型堤防は,基礎部(高さ0.5m,延長17.0m)の上に,
転圧回数で調整した.また,基礎部は堤体より締固め度
高さ1.0m,天端幅0.7m,のり面勾配1:2の堤体を作成
3
を大きくして90%以上とした.なお,堤体・基礎部の締
した.なお,実験流量は最大0.600m /sであり,堤防模
第44回京都地盤研究会 - 11 -
表-1 越流侵食実験計測項目
計測項目
堤体内湿潤状況
裏のり面変形量
流況
侵食変形
計測方法
間隙水圧計(5箇所)
裏のり面に設置した直接変位計
ビデオカメラ撮影(3方向)
レーザー変位計
上流側
計測時期
湛水時
湛水時
通水時
通水一時停止時
下流側
実験の
種類
固定床
越流
侵食
No.
Ⅰ
Ⅱ-1
Ⅱ-2
Ⅱ-3
Ⅱ-4
Ⅱ-5
表-2 実験ケース
堤体目標
越流水深
締固度
10,20,30cm
30cm
20cm
10cm
30cm
30cm
-
90%
90%
90%
85%
90%
湛水
有無
実施
回数
-
あり
あり
あり
あり
なし
各1
13
3
3
8
3
※網掛けは基本ケース(Ⅱ-1)に対して変更した条件
▽
1:2.0
341
#1
○
150
#4
○
#5
堤体
1:2.0
○
#2
○
裏のり面変位計
#3
○
基礎地盤
○ 間隙水圧計
635
図-3 間隙水圧計設置位置
固めにおいて,各段階でRI試験を行い,目標の締固め度
となるように管理した.
(3) 実験方法
1) 固定床水理実験
土材料による実験では越流時の水面計(水深),圧力
分布,流速分布の計測が困難であるため,表面粗度をつ
けた合板で作成した固定床堤体を用いた越流実験を実施
して,越流水深を10cm,20cm,30cmと変えた条件での各
水理量を計測した.
2) 越流侵食実験
越流侵食実験は,堤体上流側の水位を,基礎部底面か
ら堤体天端高まで約9分で上昇させた後,天端水位状態
で24時間以上の湛水を行い,堤体内湿潤面が定常状態と
なった後に,所定の越流水深となるようにポンプ流量を
設定して越流させた.
計測項目は,越流時の流況撮影,レーザー変位計によ
る侵食変形計測,堤体内に埋設した間隙水圧計(5箇所,
図-3)による堤体内湿潤状態の計測および変位計による
浸透に伴う裏のり面の変形量計測である.堤体内湿潤面
が定常状態かどうかの判定は,裏のり面に近い間隙水圧
計♯3を常時観測して確認した.越流による堤体侵食量
は,通水時の堤体形状を直接計測することが困難であっ
たため,通水開始後2分,10分等の間隔で通水を一時停
止し,堤体および基礎部の侵食変形をレーザー変位計に
より計測した.
実験は,堤体天端が破壊されて所定の越流水深が維持
されなくなる時点(=「破堤」と定義)まで,越水と通
水停止(侵食変形計測)を繰り返し実施した.
施するものとした.ケースⅡ-1「越流水深30cm,堤体
締固め度90%,越流前湛水あり」条件は,比較評価の基
本ケースとするとともに,実験結果のバラツキ評価を行
うため,同一条件で13ケース実施した.なお,「湛水な
し」の実験では,基礎部底面から堤体天端高まで水位上
昇させた後,湛水を実施せず,一気に水位上昇・越流さ
せた.また,堤体土質は(2)に示すような管理を行うこ
とにより同一条件とみなす.
3.実験結果および考察
固定床水理実験および越流侵食実験結果について,条
件別に整理して越流侵食・浸透のメカニズムを検討した.
(1) 外力条件(越流水深)の違いによる影響
越流水深を10cm,20cm,30cmと変化させた場合の実験
結果を比較する.なお,越流水深以外の条件は,堤体締
固め度90%,越流前湛水あり,で統一する.
越流時に侵食が開始する場所の評価は,通水時の把握
が困難であったため,短時間(2分間)で通水を一時停
止した時点で侵食されている場所を侵食開始場所とした.
通水2分後の侵食形状を図-4に示す.いずれの越流水深
でも越流侵食の開始場所は裏のり尻付近であり,違いは
見られない.また,図-5の固定床実験結果と比較すると,
裏のり尻付近の圧力水頭が大きく変化している箇所と侵
食開始場所が一致している.
堤体変形計測より算出した堤体全体の侵食量と通水時
間の関係を図-6に示す.これより,同じ通水時間では越
流水深が大きいほど侵食量が多くなっており,越流水深
が大きいほど侵食進行が速いといえる.
(2) 堤体土質の締固め度の違いによる影響
堤体土質の締固め度を90%および85%と変えた場合の
実験結果を比較する.なお,堤体締固め度以外の条件は,
越流水深30cm,越流前湛水あり,で統一する.
通水時間と侵食量の関係を図-7に示す.締固め度85%
(4) 実験ケース
小型堤防による実験ケースを表-2に示す.各ケースは, では早く破堤に至るため通水12分後までしか比較できな
いが,同じ通水時間では締固め度90%より85%の方が侵食
特異な実験結果を判別するため,同一条件で3回以上実
第44回京都地盤研究会 - 12 -
1.3E+03
【越流水深30cm、締固め度90%、湛水あり】全13ケース
1.0E+03
【締固め度90%,湛水あり】
6.0
(mm)
7.5E+02
▽
5.0E+02
5.0
侵食量(m3)
2.5E+02
0.0E+00
-2.5E+02
-5.0E+02
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
(mm)
0.0E+00
-1.0E+03
-2.0E+03
4.0
3.0
越流水深10cm(平均)
2.0
越流水深20cm(平均)
1.0
1.3E+03
越流水深30㎝(平均)
【越流水深20cm、締固め度90%、湛水あり】全3ケース
1.0E+03
0.0
0
(mm)
7.5E+02
50
通水時間(分)
100
150
▽
5.0E+02
図-6 通水時間と侵食量の関係(越流水深別の比較)
2.5E+02
0.0E+00
-2.5E+02
【越流水深30cm,湛水あり】
-5.0E+02
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
6.0
-2.0E+03
(mm)
5.0
1.3E+03
【越流水深10cm、締固め度90%、湛水あり】全3ケース
4.0
侵食量(m3)
1.0E+03
(mm)
7.5E+02
▽
5.0E+02
3.0
2.0
2.5E+02
締固め度90%(平均)
1.0
0.0E+00
締固め度85%(平均)
0.0
-2.5E+02
0
-5.0E+02
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
50
通水時間(分)
-2.0E+03
(mm)
図-4 通水2分後の侵食形状(越流水深別)
100
150
図-7 通水時間と侵食量の関係(締固め度別の比較)
60
セン断力τ(N/m 2 )
50
40
越流水深10cm
越流水深20cm
越流水深30cm
30
20
5時間後
10
0
10時間後
40時間後
30時間後
20時間後
(締固め度90%)
300
越流水深10cm
250
越流水深20cm
越流水深30cm
20時間後
10時間後
5時間後
圧力水頭(mm)
200
150
100
(締固め度85%)
50
図-8 堤体内湿潤面コンター図
0
-50
-3.0E+03
裏法肩
-2.0E+03
裏法尻
-1.0E+03
(mm)
0.0E+00
1.0E+03
図-5 固定床実験結果
量が多くなっており,同じ土質であっても締固め度が緩
いほど侵食進行が速いといえる.
間隙水圧計測結果より描いた湿潤面コンター図を図-8
に示す.これより,今回の実験では締固め度90%,85%と
も,浸透時の湿潤面が基礎面から平行に上昇している.
堤体内湿潤面がほぼ定常になる時間は,締固め度90%で
20~30時間程度,85%で10時間程度であった.また,湿
潤面高さは締固め度90%に比べて85%の方が高くなってい
る.
(3) 堤体内湿潤面の違いによる影響
越流前に湛水を行ったケース(湛水あり)と湛水を行
わなかったケース(湛水なし)での実験結果を比較する.
なお,湛水有無以外の条件は,越流水深30cm,堤体締固
め度90%で統一する.
湛水による湿潤面の有無別の通水2分後の侵食形状を
第44回京都地盤研究会 - 13 -
1.3E+03
5
1.0E+03
浸透後の裏のり変位量(mm)
4
7.5E+02
5.0E+02
3
(mm)
裏のり尻付近から侵食
2.5E+02
2
0.0E+00
欠測
-2.5E+02
湛水あり
-5.0E+02
1.0E+03
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
8.0E+02
-2.0E+03
6.0E+02
4.0E+02
裏のり尻からの距離(mm)
2.0E+02
1
0
0.0E+00
のり尻
(mm)
5
1.3E+03
1.0E+03
浸透後の裏のり変位量(mm)
4
7.5E+02
3
(mm)
5.0E+02
2
2.5E+02
0.0E+00
1
湛水あり
-2.5E+02
1.0E+03
-5.0E+02
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
8.0E+02
-2.0E+03
6.0E+02
4.0E+02
裏のり尻からの距離(mm)
2.0E+02
0
0.0E+00
のり尻
(mm)
1.3E+03
5
1.0E+03
4
7.5E+02
3
(mm)
5.0E+02
2
2.5E+02
0.0E+00
1
湛水なし
-2.5E+02
1.0E+03
-5.0E+02
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
8.0E+02
-2.0E+03
6.0E+02
4.0E+02
裏のり尻からの距離(mm)
2.0E+02
浸透後の変位量(mm)
裏のり面より侵食
0
0.0E+00
のり尻
(mm)
図-9 通水2分後の侵食形状と浸透による裏のり変位量
1.3E+03
1.3E+03
1.0E+03
裏のり尻から堤体全
1.0E+03
裏のり肩の侵食進行
7.5E+02
体が大きく侵食
7.5E+02
で天端幅が狭小化
5.0E+02
(mm)
(mm)
5.0E+02
2.5E+02
2.5E+02
0.0E+00
0.0E+00
-2.5E+02
-2.5E+02
-5.0E+02
3.0E+03
-5.0E+02
2.0E+03
1.0E+03
(mm)
0.0E+00
-1.0E+03
-2.0E+03
3.0E+03
2.0E+03
1.0E+03
0.0E+00
-1.0E+03
-2.0E+03
(mm)
湛水あり
湛水なし
図-10 湛水有無の侵食進行過程(侵食パターン)
図-9に示す.これより,湛水ありの場合の侵食開始場所
は裏のり尻付近,湛水なしの場合は裏のり面となってお
り,堤体内湿潤状態による違いが見られた.固定床実験
結果と比較すると,湛水ありの場合の侵食開始場所は圧
力水頭が急激に大きくなっている箇所であり,湛水なし
の場合の侵食開始場所はせん断力が最大値となっている
箇所と一致する.
湛水による湿潤面の有無による,代表的な侵食進行過
程(侵食パターン)の違いを図-10に示す.湛水ありの
場合は,「堤体が裏のり面から崖状に侵食され,堤体全
体が大きく侵食していく」形状で侵食が進行する.一方,
湛水なしの場合は「裏のり面がのり肩まで侵食され,の
り肩の侵食進行で天端幅が狭小化する」形状で侵食が進
行する.また,湛水条件が異なる場合の,通水時間と侵
食量の関係を図-11に示す.これより,湛水により堤体
内が湿潤状態である方が,同じ通水時間では侵食量が多
第44回京都地盤研究会 - 14 -
一方,各実験の堤体について,間隙水圧,締固め度,
含水比を整理したが,これらの侵食進行の違いとの関連
性が見られなかった.これより,実験結果で見られたバ
ラツキは,局所的な土質や施工上の違いが影響している
と想定されるが,バラツキを統計的に評価するためには
実験回数が不足していることより,定量的にどれだけ影
響しているかの判定は難しい.
【越流水深30cm、締固め度90%】
6.0
5.0
侵食量(m3)
4.0
3.0
2.0
湛水なし(平均)
1.0
湛水あり(平均)
0.0
0
20
40
60
通水時間(分)
80
100
120
4.まとめ
図-11 通水時間と侵食量の関係(湛水有無の比較)
【越流水深30cm、締固め度90%、湛水あり】
6.0
5.0
侵食量(m3)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
50
100
通水時間(分)
150
200
図-12 通水時間と侵食量の関係(同一条件)
【越流水深30cm,締固め度90%,湛水あり,全11ケース】
小型堤防による越流侵食・浸透実験により得られた知
見を整理すると以下のようである.
1)堤防越流時の裏のり面,のり尻の侵食場所,侵食量お
よび侵食進行過程(侵食パターン)については,堤体
内の湿潤状態が大きく影響すると推察される.小型堤
実験では,堤体内が湿潤状態で越流した場合は裏のり
尻から侵食が開始し,裏のり面やのり尻が不飽和状態
で越流した場合はのり面から侵食が開始した.また,
越流侵食過程(侵食パターン)も堤体内の湿潤状態に
より異なるものとなった.
2)同じ土質であっても,堤体の締固め度が異なると,越
流時の侵食進行の速さや,堤体内への浸透量に影響す
る.
3)土質条件や施工条件を厳密に管理しても,同一実験条
件において侵食時間などにバラツキが見られた.これ
は,施工管理や土質管理は浸透や越水に対する安全性
確保に関連することを示唆する.
いことが示された.これらより,堤体内湿潤状態は越流
時の侵食場所や侵食の早さに影響を与えるものといえる.
また,図-9には浸透に伴う裏のり変形計測結果を併せ
参考文献
て示す.湛水ありの場合は,浸透により裏のりが0.5~
1) 国土交通省河川局治水課:河川堤防設計指針,平成19年3月
2.0mm程度変形(はらみ出し)していることが明らかと
2) F. Oka, S. Kimoto, N. Takada & Y. Higo: A multiphase elastoなった.また変形は,裏のり尻付近が最大となっている.
viscoplastic analysis of an unsaturated river embankment
なお,この変形箇所は,越流時の侵食開始場所と一致す
associated with seepage flow, Proc. Int. Symp. On Prediction and
る.湛水なしの場合は,浸透に伴う変形は見られない
Simulation Methods for Geohazard Mitigation, Oka, Murakami
& Kimoto (eds), Taylor & Francis group, London, pp.128-132,2009.
(4) 同一条件での結果の比較
同一条件で実施した実験結果を比較して,実験結果の
バラツキについて分析を行った.比較検討を行った実験
条件は,越流水深30cm,堤体締固め度90%,越流前湛水
あり,である.
越流時の侵食開始場所については,いずれの実験でも
裏のり尻付近となり,結果にバラツキは見られなかった.
侵食量のバラツキについて,同一条件の侵食量と通水時
間の関係を特異な結果を除いた11ケースについて図-12
に示す.これより,同じ通水時間での侵食量にはバラツ
キが見られ,また途中から侵食量が増加するケースや,
逆に減少するケースがあるなど,侵食進行の進み方も一
定でない.
3) 社団法人 土木学会:「耐越水堤防整備の技術的な実現性の
見解」について,耐越水堤防整備の技術的な実現性検討委員
会報告書,平成20年10月27日.
4) 建設省土木研究所河川研究室:越水堤防調査最終報告書-解
説編-,土研資料2074号,1984.
5) 建設省土木研究所河川研究室:越水堤防調査中間報告書-資
料編-,土研資料1761号,1982.
6) 建設省土木研究所河川研究室:越水堤防調査報告書-資料編
(Ⅱ)-,土研資料2050号,1984.
(2010.4.8受付)
第44回京都地盤研究会 - 15 -
河川堤防における亀裂調査について
淀川河川事務所 施設管理課 日朝洋明
1.調査背景
淀川管内の堤防天端においては、表面亀裂が集中して発生する区間が複数確認さ
れており、その中では亀裂を原因とする小規模な陥没も発生している。これら亀裂は、
極浅部に止まるものから GL-2m にまで達するものまで様々であるため、亀裂周辺の地
下状況や亀裂の発生原因に関係する地盤構造を調査することが重要と判断できる。こ
のような調査には、これまでのボーリングによる点調査ではなく、二次元的に連続的な
評価ができる物理探査の適用が岡,他
これら背景を踏まえ、岡,他
1)
1)2)
によって推奨されている。
が実際に淀川で試行評価した新しい物理探査技術を
取り入れ、亀裂の地下状況や地盤構造の特徴を調査した結果を報告する。
既往資料検討整理
2.調査内容
亀 裂 の分 布 状 態 および亀 裂 の重 軽 度 を把 握
亀裂状況踏査整理
するため、表 面 的 な亀 裂 の発 生 状 態 を踏 査 ・図
亀裂下空隙調査(地中レーダ探査)
化すると共に、地下 2m 程度の地中状況を連続的
かつ高精度で調査できる非破壊の地中レーダ探
亀裂現況評価
査 によって調 査 した。さらに、地 下 深 部 の地 盤 構
地盤構造二次元調査
・スリングラムEM探査
・連続波レーダ探査
造 を非 破 壊 で連 続 的 に把 握 できるスリングラムE
M探 査 (NETIS:HR-040013-A)および連 続 波 レ
ーダ探査の新技術を使って亀裂下の地盤構造の
地質構造評価
変化や特徴を明らかにした。
これらの探査結果とボーリングデータや開削調
亀裂発生原因の検討
査等の既存資料を併せて総合的に検討し、堤体
土質、堤体構造等との関連性を明らかにした。調
対策工の検討
査・検討の手順を図.1に示した。
図.1 調査・検討手順
3.調査区間
調査対象区間は、亀裂が集中して発生する下記6区間を対象とした。
表.1 調査地区(位置,区間)
調査地区
位 置
①菅原地区
②大子橋1丁目地区
③鳥飼中地区
④点野地区
⑤上牧地区
⑥水無瀬地区
淀川右岸
淀川左岸
淀川右岸
淀川左岸
淀川右岸
淀川右岸
対象区間
11k800
13k600
19k700
20k400
32k900
34k100
~
~
~
~
~
~
13k000
14k600
21k000
21k000
33k300
35k100
表層状態
アスファルト舗装
アスファルト舗装
未舗装
アスファルト舗装
未舗装
アスファルト舗装
第44回京都地盤研究会 - 16 -
4.非破壊探査手法
4.1 地中レーダ探査
地中レーダ探査(写真.1)は図.2に示すように、数百 MHz 帯の電磁波を地下に送信
して地下空洞や土質境界で反射して地表に戻る反射波を二次元的に計測する手法で
ある。可探深度は 2m 程度と浅いが、その深度内では地中分解能力が最も高い探査手
法である。この特徴を利用して地中亀裂の探査に適用した。
写真.1 地中レーダ探査
図.2 地中レーダ探査概要図
4.2 連続波レーダ探査(電磁波速度構造調査)
連続波レーダ探査(写真.2)は上記した地中レーダ探査の可探深度を飛躍的に向上
させた技術であり、地下 10~20m までの空洞や地層構造を探査することを目的として最
近開発された。本調査では、この技術を応用し、図.3や図.4に示したように地中の電
磁波速度構造を評価し、その速度値から客観的に土質構造を評価する方法を採用し
た。この方法は、国土交通省建設技術研究開発助成制度の研究課題「河川堤防の調
査、再生と強化法に関する研究開発(代表:岡 二三生、研究期間:平成 16 年度~平
成 18 年度)」で試行され、堤体構造の確認に適していることが確認されている。
写真.2
連続波レーダ探査
b) プリット展開法
X=0
X1
X2
X1
(地 表) Tx
Tx
Tx
Rx
Rx
Rx
地層境界などの反射面
Tx:送信アンテナ
Rx:受信アンテナ
共通反射点
図.3 電磁波速度計測方法
図.4 電磁波速度観測結果
4.3 スリングラムEM探査(NETIS:HR-040013-A)
スリングラムEM探査(写真.3)は図.5に示したように電磁誘導を利用して地下 10~
第44回京都地盤研究会 - 17 -
20m 程度までの電気構造を二次元的に計測する手法である。同様な電気構造を求め
ることができる高密度電気探査に対して、写真.3のようにコイルを利用して地表と非接
触で計測を進められることから作業性が良いことが特徴である。
写真.3 スリングラムEM探査
図.5 EM探査概要図
5.調査結果
5.1 亀裂現況調査の評価
踏査や地中レーダ探査を使って各調査区間の亀裂の現況を調査し、図.6のように
亀裂の分布性や地中亀裂の状態を評価した。
パッチ補修有
パッチ補修有
パッチ補修有
堤防天端幅
写真①
写真②
パッチ補修有
堤防天端平面図におけるランク評価結果
写真①
写真②
図.6 亀裂現況調査 評価例(菅原地区)
地中レーダ探査は、地表から確認できない地中埋没亀裂の発見にも貢献できた。埋
没亀裂が分布する代表地区には鳥飼中地区(未舗装)があり、写真.4に示したように
平成 19 年に陥没も発生した。これは、この区間の地下 0.5~2m に点在する埋没亀裂
が発達した結果であり、その反応を捉えた事例を図.7に示した。当該地区には、このよ
うな危険箇所が多数存在することが発見できた。
第44回京都地盤研究会 - 18 -
図.7 埋没亀裂検出反応(鳥飼中地区)
写 真.4 埋 没 亀 裂 による陥 没
(鳥飼中地区:淀川右岸 20k190 付近)
5.2 地盤構造の評価
上牧地区の連続波レーダとスリングラムEM探査両手法の解析結果を図.8に示した。
図.8上は、連続波レーダによる地中の電磁波速度を二次元的に解析した結果であ
る。地中の電磁波速度は、土の含水比が大きいほど早くなり、逆で遅くなるため、一般
的には粘土→シルト→砂→砂礫の順で電磁波速度は速くなる。
図.8下は、スリングラムEM探査による地中の導電率を二次元的に解析した結果で
ある。地中の導電率は、土の含水比が大きいほど高くなり、逆で低くなるため、一般的
には粘土→シルト→砂→砂礫の順で導電率は低くなる。
既存地質柱状図
亀裂発生区間
砂礫
玉石混砂礫
砂質シルト
シルト質砂
砂
シルト質砂
礫混じり砂
既存地質柱状図
砂礫
玉石混砂礫
砂質シルト
シルト質砂
砂
シルト質砂
礫混じり砂
図.8 地盤構造調査結果例(上牧地区)
上記した両手法の物性値の持つ特徴と既往の地質柱状図を比較したところ、共に
整合性が良く、連続波レーダでは砂や砂礫、EM探査ではシルトや粘土の検出能力が
特に良いことが確認できた。
第44回京都地盤研究会 - 19 -
これら結果から考えられる上牧地区の堤体構造は、盛土表層に砂礫や玉石混じり砂
礫が分布し、中~下位にシルト~砂が分布する。ただし亀裂の発達区間に限っては、
堤体の中層域(GL-3~5m)に軟弱な粘性土が卓越して出現する。
亀裂発生地区で実施した地盤構造評価を表.2に整理した。対象とした6地区の内
3地区において、亀裂の発生や進行に地盤構造が強く関係することが考察された。
すなわち、上牧地区結果(前頁図.8)に示したように、亀裂集中範囲には特有の地
盤構造が堤体中層から下層に確認されたケースである。このような特徴は、上牧地区
以外にも鳥飼中地区や点野地区にも見られ、亀裂の発達程度が激しく、また亀裂は一
連区間に集中して発達する形態が見られた。
その他の地区では、ルーズな砂層が堤体表層に広く分布し、下層には比較的締まっ
た砂や砂礫が分布しており、このケースでは総じて地下極浅部に止まる亀裂が多く、ま
た亀裂は点在して分布する形態が見られる。
表.2 各調査区間における亀裂発生状況と地盤構造の関係
地区
距離標
菅原
淀川右岸
11.8k~
13.2k
太子橋
淀川左岸
13.6k~
14.6k
鳥飼中
点野
淀川右岸
19.7k~
21.0k
淀川左岸
20.3k~
21.0k
上牧
淀川右岸
32.9k~
33.3k
水無瀬
淀川右岸
34.8k~
35.1k
舗装
亀裂現況調査結果
亀裂深さ
分布性
As
最大で0.5m
程度、平均
的には0.2m
程度
As
最大で0.5m
程度、平均
的には0.2m
程度
未舗装
As
点在
砂
シルト~砂
堤体構造
下層
亀裂の発生原因
砂~砂礫
砂~砂礫
全体的には、上
層に緩い砂が分
布し、下層には
締まった砂~砂
礫が分布する。
亀裂と地盤構造に強い
軟弱地盤分布 因果関係はなく、交通
O.P+1~-19m 荷重あるいは堤防形状
砂・粘土
等の地盤構造以外の要
因が考えられる。
緩い砂
亀裂集中区間
は、上下層共に
一様に緩い砂が
厚く分布する。
亀裂と地盤構造には強
い因果関係有り。交通
軟弱地盤分布 荷重あるいは堤防形状
O.P+5~-12m 等によって発生した亀
砂・粘土
裂が全体にルーズな土
質によって促進された
可能性が高い。
亀裂集中区間
は、上下層共に
一様に緩い砂が
厚く分布する。
亀裂と地盤構造には強
い因果関係有り。交通
軟弱地盤分布 荷重あるいは堤防形状
O.P+4~-12m 等によって発生した亀
砂・シルト
裂が全体にルーズな土
質によって促進された
可能性が高い。
平均的に
0.5~1.0m
20k400~
20k900間
で集中分
布
亀裂集中区間
では緩い砂、
亀裂が認めら
れない区間で
は粘土~シル
トが分布
緩い砂
平均的に
0.5~1.0m
33k30~
33k100間
で集中分
布
砂礫
亀裂集中区
間では粘性
土、亀裂が認
められない区
間では砂~シ
ルトが分布
点在
基礎地盤
亀裂と地盤構造に強い
軟弱地盤分布 因果関係はなく、交通
O.P+3~-18m 荷重あるいは堤防形状
シルト・粘土・砂 等の地盤構造以外の要
因が考えられる。
亀裂集中区間
では緩い砂、
亀裂が認めら
れない区間で
は粘土~シル
トが分布
最大で0.5m
程度、平均
的には0.2m
程度
特徴
全体的には、上
層に緩い砂が分
布し、下層には
締まった砂~砂
礫が分布する。
20k50~
20k850間
で集中分
布
全体に深
く、1.5~
未舗装
2.0m。過去
に陥没有り
As
点在
上層
亀裂と地盤構造には強
い因果関係有り。交通
亀裂卓越区間に
軟弱地盤分布 荷重あるいは堤防形状
は、盛り土下層に
O.P+8~-3m 等によって発生した亀
粘土が卓越す
シルト・粘土・砂 裂が全体にルーズな土
る。
質によって促進された
可能性が高い。
全体に粘土~シ
表層に粘土~
ルトが分布する
シルト、中層に 粘土~シルト が、中層に締まっ
砂~砂礫
た砂~砂礫が分
布する。
※ 赤枠は亀裂と地盤構造に強い因果関係が認められた地区
砂質・礫質土
主体
亀裂と地盤構造に強い
因果関係はなく、交通
荷重あるいは堤防形状
等の地盤構造以外の要
因が考えられる。
第44回京都地盤研究会 - 20 -
6.亀裂発生原因と対策工
非破壊探査及び開削調査結果等から考えられる亀裂発生原因とそれを防ぐための
対策工としては以下のものが有効と判断する。
亀裂発生原因
対策工
①堤体材料・締固め不足
⇒ 掘削・締固め(全断面掘削・再盛土)
②交通荷重
⇒ 舗装設計の見直し
③盛土形状・応力条件
⇒ 天端幅の拡大,のり勾配の緩傾斜化
④材料劣化・亀裂からの雨水浸透 ⇒ 舗装更新,早期補修
⑤軟弱地盤分布
⇒ 沈下予測と適切な対策
対策工事施工箇所(写真.5)での経時観察から全断面掘削・再盛土区間においても
数ヶ月から 1 年半で交通荷重によると判断できる変状が再び確認される(写真.6,写真.
7)。このことから,全断面掘削・再盛土の適用と併せて交通荷重への対策が必要であ
る。また,基礎地盤に軟弱層が分布する区間では腹付け盛土等の施工により新旧盛土
境界に亀裂・陥没の発生が多く確認されることから工事に先立って沈下・変形に対する
検討・対策が重要である。
写真.5 対策工事施工状況
(施工:平成 18 年 2 月)
写真.6,写真.7 対策後の変状発生状況
(撮影:H21 年 2 月)
7.おわりに
今回紹介した物理探査技術は、国土交通省建設技術研究開発助成制度の研究
課題「河川堤防の調査、再生と強化法に関する研究開発(代表:岡 二三生、研
究期間:平成 16 年度~平成 18 年度)」の中で試行評価された技術を適用してい
る。またその代表者である京都大学大学院の岡 二三生教授には調査中にも多く
のアドバイスを頂きました。記して謝意を表します。
参考文献
1)岡 二三生、小高猛司,木元小百合、芝田弘一,服部浩二,北川義治,山田茂治:河川堤防の
内部構造調査における各種物理探査手法の適用性の検討、地盤の環境・計測技術に関す
るシンポジウム、地盤工学会関西支部、2005
2)岡 二三生、小高猛司,木元小百合、芝田弘一,服部浩二,北川義治,山田茂治:物理探査手
法を用いた河川堤防の構造調査、平成 17 年度土木学会第 60 回年次学術講演会予稿集、
土木学会、2005
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