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高病原性鳥インフルエンザの 発生を防止するために

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高病原性鳥インフルエンザの 発生を防止するために
高病原性鳥インフルエンザの
発生を防止するために
平成19年10月
社団法人全国家畜畜産物衛生指導協会
はじめに
高病原性鳥インフルエンザは、伝染力が強く、死亡率の高い伝染病です。
わが国では、1925年以降79年間発生がなかったのですが、2004年1月、山口県下の採卵養
鶏場で発生し、以来大分県、京都府、茨城県、埼玉県、宮崎県、岡山県の各府県で散発的
に発生が認められました。
一方、海外に目を転じますと、わが国周辺の韓国、北朝鮮、中国、モンゴルのほか東南
アジア、南西アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、北米など、世界各地で発生が認めら
れるとともに、一部の地域ではヒトへの感染例も報告されるなど、本病の防疫は国際的に
喫緊の課題となっています。
本病の発生が懸念される中、当協会では、自衛防疫体制を強化すべく、農林水産省生産
局畜産振興課及び消費・安全局動物衛生課のご指導の下、独立行政法人農畜産業振興機構の
補助を受け、都道府県家畜畜産物衛生指導協会等により、
「高病原性鳥インフルエンザ防疫
強化緊急対策事業」を実施することとし、その一環として、養鶏農家向けの分かりやすい、
実用的なテキストを作成することといたしました。
ひとたびこの伝染病が発生しますと、発生農家にとどまらず、周辺地域、ひいては、わ
が国の養鶏界全体に大きな影響をもたらします。
2007年の発生においては、いずれの農場でも早期発見、早期通報がなされるとともに関
係機関による迅速な防疫対応により、発生規模は最小限に抑えられ、速やかに清浄化され
ました。こうした対応は世界的にも評価されています。
このため、本書が、地域の養鶏農家及び養鶏関係者に大いに活用され、高病原性鳥イン
フルエンザの発生防止に役立つことを念願してやみません。
最後に、業務ご多忙の中、テキスト作成の任に当たられた各委員の皆様方に深謝いたし
ます。
平成19年10月
社団法人全国家畜畜産物衛生指導協会
会 長
瀧口 次郎
高病原性鳥インフルエンザの発生を防止するために
←高病原性鳥インフルエンザウイルス
(1)人・車輌等による侵入の防止
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止
(3)飲用水、飼料の汚染による侵入の防止
(4)鶏舎内外の整理・整頓・清掃
(5)鶏の健康管理
及び取扱い
(6)鶏糞の処理
早期発見
病原体の散逸防止
早期通報
高病原性鳥インフルエンザが
疑われる場合には直ちに
家畜保健衛生所や獣医師に
連絡してください
(7)鳥インフルエンザに
対する理解と教育
高病原性鳥インフルエンザの発生を
防止するためのポイント
(1)人・車輌等による侵入の防止
・農場出入口 :外来者の出入りを監視したり、外来車輌の消毒等を確認しましょう。
・鶏舎出入口 :外来者の出入りは最小限度とした上で、衛生的な区画と非衛生的な
区画を分離しましょう。
衣服等に伝播するのを防止できる構造にしましょう。
・鶏 舎 内 :踏込消毒槽と手指消毒用手押し式消毒器または消毒薬噴霧器を設置
しましょう。
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止
・鶏舎には2cm角以下の網目の防鳥ネットを上から覆うように、ゆったりと垂らす
ように張り、間隙を塞ぎましょう。また、破損が見つかったら、直ちに補修しま
しょう。
・防鳥対策と同様、間隙を塞ぎ、ネズミの侵入を防止しましょう。
・ネズミを見つけた場合、その侵入経路を見つけ、捕獲装置の設置、殺鼠剤の使用
により駆除しましょう。
・鶏舎周辺、農場敷地周縁及び農場内道路へ消石灰を散布しましょう。
・鶏舎の中に入ったら、すぐに扉を閉めましょう。
(3)飲用水・飼料の汚染による侵入の防止
)
(貯留したままにすると塩素濃度が低下します。
・新鮮な水道水を使いましょう。
・水道水以外を使用する際には、鶏が飲む時に遊離塩素濃度が0.1ppm以上含まれ
るように調整を行い、濃度は定期的に確認しましょう。
・飼料タンク付近にこぼれ餌がないよう、常に清潔を保ちましょう。
・倉庫等は、鶏舎と同様に野鳥等の侵入防止及びネズミの駆除を徹底しましょう。
!
高病原性
鳥インフルエンザの
発生を防止するための
ポイント
(4)鶏舎内外の整理・整頓・清掃
・鶏舎内外の整理・整頓・清掃や鶏舎周辺の草刈りや木の伐採、電柱等の撤去によ
り、ネズミや野鳥の繁殖場所をなくしましょう。
(5)鶏の健康管理及び取扱い
・不健康な鶏は、病気に感染しやすくなります。健康な鶏を飼養するため、健康な
鶏の導入や死亡鶏の適切な処理を行うことが重要です。
・鶏舎内の環境整備(適正な飼養羽数と良い換気)や鶏への適正な飼料の給与など
一般的な飼養管理の向上に心がけることが重要です。
(6)鶏糞の処理
・鶏糞は農場内で適切な水分管理をして十分に発酵させましょう。
(中心温度70℃以上)
・やむを得ず、農場外に持ち出す場合は、鶏糞から他の農場への病原体の拡散に注
意しましょう。
・鶏糞処理施設には防鳥ネットを張りましょう。
(7)鳥インフルエンザに対する理解と教育
・日頃から従業員の鳥インフルエンザに関する知識の習得に努めましょう。
飼養衛生管理チェック表
〈飼養衛生管理チェック表〉
チェック項目
評価
備 考
参照ページ
(1)人・車輌等による侵入の防止
ア 農場出入口
ア)農場への人・車輌の入場制限
・農場出入口に門を設置し、常に閉めていますか
・農場出入口に「部外者立入禁止」等の看板を設置していますか
8
・入場車輌は指定された場所に駐車していますか
イ)入場車輌・物品の消毒
・入場車輌の消毒を行っていますか
9
・農場へ持ち込まれる物品を消毒していますか
ウ)農場専用衣服等への更衣
・更衣場所は、交換前の衣服等の汚れが農場専用の衣服等へ付着しないような構造になっていますか
・農場内専用の衣服、履物等は清潔に保たれていますか
10
・農場入場者は農場内専用の衣服、履物等に着替えていますか
エ)消毒槽の設置
・更衣場所の入口・出口に踏込消毒槽を設置していますか
・消毒槽の消毒液は毎日交換していますか
11
イ 鶏舎出入口
ア)部外者の入場制限
・部外者の鶏舎への入場は禁止していますか
11
イ)鶏舎専用の衣服等への更衣
・更衣場所は、鶏舎外の汚れが鶏舎内へ持ち込まれないような構造になっていますか
・鶏舎入場者は鶏舎内専用の衣服、履物等に着替えていますか
11
・鶏舎内専用の衣服、履物等は清潔に保たれていますか
ウ)消毒槽の設置
・更衣場所の入口に踏込消毒槽を設置していますか
・消毒槽の消毒液は毎日交換していますか
12
エ)器材等の洗浄・消毒
・鶏舎内へ持ち込まれる器材等は洗浄・消毒していますか
13
ウ 鶏舎内
鶏舎内での消毒
・鶏舎毎の鶏舎入口に踏込消毒槽を設置していますか
・消毒槽の消毒液は毎日交換していますか
13
・各鶏舎内に手指用の消毒器を設置していますか
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止
ア 防鳥ネット・金網を以下の場所に設置していますか
・鶏舎
・袋詰め飼料などを保管する倉庫
・鶏糞処理施設
・防鳥ネットの網目は2cm 以下ですか
13
・防鳥ネット等は上から覆うように、ゆったりと垂らすように張っていますか
・防鳥ネットは破損が見つかったら、直ちに補修していますか
・防鳥ネット等と屋根・柱の境等の小さな隙間を塞いでいますか
イ ネズミの侵入防止
・防鳥対策と同様に隙間を塞いでいますか
・ネズミの侵入経路を確認していますか
・捕獲装置や殺鼠剤などにより駆除していますか
15
飼養衛生管理チェック表
チェック項目
評価
備 考
参照ページ
(つづき)
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止 ウ 鶏舎・農場周辺の消石灰散布
・鶏舎周辺や農場敷地周辺へ定期的に 2∼3m幅で消石灰を散布していますか
16
エ 鶏舎入場後の閉扉
・鶏舎の中に入ったら、すぐ扉を閉めていますか
17
(3)飲用水、飼料の汚染による侵入の防止
ア 飲用水の汚染防止
・新鮮な水道水を使用していますか(貯留したままにすると塩素濃度が低下します)
・水道水以外を使用する場合、塩素の調整及び定期的な濃度点検を行っていますか
17
イ 飼料の汚染防止
・飼料タンク付近にこぼれ餌がないよう常に清潔にしていますか
・倉庫は、鶏舎と同様に野鳥等の侵入防止を徹底していますか
19
・倉庫は、鶏舎と同様にネズミの駆除を徹底していますか
(4)鶏舎内外の整理・整頓・清掃
・鶏舎内外の整理・整頓・清掃を定期的に行っていますか
20
・鶏舎周辺の草刈りや木の伐採、電柱などの撤去を行っていますか
(5)鶏の健康管理及び取扱い
ア 導入鶏の健康確認
・導入鶏の健康を確認していますか
21
イ 死亡鶏の取扱い
・死亡鶏は毎日取り出し、羽数を記録していますか
・死亡鶏の羽数が異常な場合、直ちに家保に届け出ていますか
21
・死亡鶏はポリ容器や厚手のビニールに入れていますか
・死亡鶏は専門業者に処理委託していますか
ウ 出荷鶏の引き渡し
・出荷鶏は指定の場所で処理業者に引き渡していますか
21
エ 家保等への連絡
・鳥インフルエンザが疑われた場合には、直ちに家保や獣医師へ連絡していますか
21
オ 鶏の抵抗性の向上
・良好な鶏舎環境や適正な飼料給与など一般的な飼養管理の向上に心がけていますか
・他の疾病の予防のための適正なワクチン接種をしていますか
21
(6)鶏糞の処理
・鶏糞は農場内で発酵により処理していますか
〈やむを得ず未処理の鶏糞を農場外へ持ち出す場合は〉
・運搬車輌からのこぼれ防止をしていますか
・ホコリの飛散防止をしていますか
22
・タイヤの洗浄・消毒を徹底していますか
・専用の衣服等を着用していますか
(7)従業員の知識習得
・日頃から従業員の鳥インフルエンザに関する知識の習得に努めていますか
注:評価欄
22
・適正に行われている場合 :○
・適正に行われていない場合 :×
・行う必要がない項目
:−
<高病原性鳥インフルエンザの発生を防止するために>
目 次
Ⅰ 発生予防の基礎知識と留意点
1.高病原性鳥インフルエンザウイルスの生存性と抵抗力 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.各種消毒薬の特性と使用上の留意点(付属資料の別表1)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3.野鳥、野生動物及び昆虫などから感染を防ぐために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4.農場で働く人(従業員等)等からの感染を防ぐために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1
2
7
Ⅱ 具体的な発生予防のための効果的な手法
1.発生予防の考え方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
2.具体的な侵入防止方法
(1)人・車輌等による侵入の防止 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
(3)飲用水、飼料の汚染による侵入の防止 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17
(4)鶏舎内外の整理・整頓・清掃 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20
(5)鶏の健康管理及び取扱い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21
(6)鶏糞の処理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
(7)高病原性鳥インフルエンザに対する理解と教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22
Ⅲ 高病原性鳥インフルエンザについて
1.高病原性鳥インフルエンザの概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23
2.高病原性鳥インフルエンザウイルスの疫学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
3.鳥インフルエンザの診断 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25
4.殺処分と移動制限 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28
Ⅳ 発生時の防疫措置
1.発生農場の措置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30
2.移動の制限 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32
3.清浄性の確認のための検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
(付属資料)
別表1 高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する消毒薬使用上の留意点 ・・・・・・・・・・・ 34
別表2 主な畜産用殺菌消毒剤 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
Ⅰ 発生予防の基礎知識と留意点
わが国では、平成16年に高病原性鳥インフルエンザが山口県、大分県、京都府で発生して以来、
平成17年には茨城県、平成19年には宮崎県、岡山県で発生しています。本病の発生を防止するため
には、何よりもそれぞれの生産者の皆さんが各農場で飼養衛生管理の取組みを確実に行うことが重
要です。
本章では、農場で講じる予防対策の基礎知識と具体的な予防対策について解説しています。本対
策を参考にして、地域一体となって農場の飼養衛生管理の徹底に努め、高病原性鳥インフルエンザ
の発生を予防しましょう。
ポイント ・高病原性鳥インフルエンザウイルスは熱や乾燥に弱い。
・市販の消毒薬は高病原性鳥インフルエンザウイルスに有効→適切な
希釈倍数と消毒方法で使用すること。
1.高病原性鳥インフルエンザウイルスの生存性と抵抗力
ア.温度との関係
高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した鶏の口腔粘液や糞便から多量のウイルスが排
泄されます。ウイルスは60∼70℃の高温では速やかに感染力を失いますが、室温や低温下では
比較的長い間生き続けます。
イ.環境中の水分との関係
ウイルスは乾燥に弱いので、ホコリやフケなどの乾燥飛沫に付着した場合は比較的容易に感
染力を失います。逆に、糞など水分が存在する環境では感染性を保持します。
2.各種消毒薬の特性と使用上の留意点(付属資料の別表1)
ア.消毒薬の特性
実験室レベルでは高病原性鳥インフルエンザウイルスは市販の消毒薬で容易に死滅します。
また、強酸や強アルカリでも感染力を失いますので、消石灰も高病原性鳥インフルエンザウイ
ルスの消毒に有効です。オゾン水も十分なオゾン濃度が含まれていればウイルスを死滅させる
ことができます。
イ.使用上の留意点
上述のように実験室レベルでは高病原性鳥インフルエンザウイルスは市販の消毒薬や消石灰
などで容易に死滅しますが、実際の農場では、地形や鶏舎の状態などにより効果に差が出ます。
このため、養鶏場における実際の消毒に当たっては、消毒の目的や環境に応じて薬剤を選択し
(付属資料の別表2)
、適切な希釈倍数と消毒方法で使用しましょう。
なお、日頃の鶏舎の消毒に当たっては高病原性鳥インフルエンザ以外の感染症対策も考慮する
必要があるので、消毒薬の選択、消毒方法については担当獣医師や家畜保健衛生所に相談してく
ださい。
1
3.野鳥、野生動物及び昆虫などから感染を防ぐために
鳥インフルエンザの感染経路については、海外からの侵入は渡り鳥により、鶏舎への侵入は野
鳥や野生動物によるものと思われます。こうした野鳥等が鶏舎内に侵入しない工夫・対策をとる
ことが重要です。
ア.日本における野生動物の感染例
ポイント ・日本でも野生鳥類で、高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染が
過去に報告されています。
日本では家きん以外では、表のような動物から高病原性鳥インフエンザウイルスが見つかって
います。
表2 日本において家きん以外で高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出された例
種 類
ハシブトガラス
クロバエ
クマタカ
例 数
9羽
複数地点10∼30%感染
1羽
時 期
2004年3月∼4月
2004年3月
2007年1月
場 所
京都府、大阪府
京都府
熊本県
ハシブトガラスは京都府で家きんでの大発生があった直
後から4月にかけて、発生鶏舎から30km内で衰弱していた
り死体で回収された個体のうち、9羽からニワトリに感染
していたものとよく似たウイルスが分離されました。発生
鶏舎には大きな開放型の鶏糞置き場があり、発生当初はそ
こに鶏の死体も放置され、カラスが集まってそれを食べて
いました。カラスはそこで感染したと考えられています。
クロバエは発生約1週間後に行われた調査で、発生鶏舎
から2km程度までの複数箇所で採集したオオクロバエとケ
ブカクロバエからウイルスの遺伝子が検出され、オオクロ
バエからはウイルスも分離されました。鶏のウイルスと同
じウイルスで、発生鶏舎の鶏によって汚染(機械的伝播)し
たと考えられています。
クマタカは2007年の宮崎での発生の直前に衰弱して収容
されてすぐに死亡したもので、鶏に感染したものとよく似
たウイルスが分離されました。クマタカはノウサギ、キジ、
ヘビなどを主に食べており、1年中だいたい同じ場所で暮
らしています。大陸との行き来はしないと考えられており、
このクマタカは国内で鶏よりも前に感染したものと考えら
れます。感染源は不明ですが、ウイルスを持っていたほか
の野鳥などを食べたのかもしれません。ただし、このクマ
タカが暮らしていたと考えられる範囲では鶏も野鳥も、高
病原性鳥インフルエンザウイルスの感染は見つかりません
でした。
2
家きんでの発生との関係
京都府での発生後
京都府での発生後
宮崎県での発生前
推測感染原因
家きんから
家きんから
野鳥由来
図1 ハシブトガラス
図2
クマタカ(於:上野動物園)
イ.高病原性鳥インフルエンザの感染における野生動物の関わり
ポイント ・高病原性鳥インフルエンザの伝播には、いろいろな動物が関わっている
可能性があります。
2005年以降、中国で野生のガン類が高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染し、大量に死亡し
ました。さらにこの感染は、ヨーロッパやアフリカまで拡大しました。感染拡大の原因は鶏やシチ
メンチョウ、アヒルなどの家きんの移動によるものと判明している例もあるのですが、中には、日
本への感染など、野鳥が運んだのではないか、と疑われる例があります。外見上健康な野鳥から高
病原性のウイルスが検出された報告もあります。また、野鳥の大量死が起きた場所で、一緒にいて
も死亡しなかった鳥がいることも分かってきました。どの種類がウイルスに強いのかなどはまだよ
くわかっていませんが、こうしたことから、渡り鳥などの野鳥がウイルスを海外から日本に運ぶ可
能性は否定することができません。
しかし、渡り鳥などが直接鶏舎に入ることは日本では少ないと考えられます。鶏舎の近くまで運
ばれてきたウイルスを、鶏舎のすぐそばまで、あるいは鶏舎の中へ運ぶ可能性があるのは、小鳥類
や野生動物、昆虫などと考えられます。
次に、こうした野鳥や野生動物、昆虫などが、どのような行動をするのか、見てみましょう。
ウ.水鳥の行動特性
ポイント ・鶏舎の周囲に鶏の餌や穀類があれば、野鳥や野生動物を呼び寄せている
ことになります。
高病原性鳥インフルエンザに関して話題になる渡り鳥とい
えばカモやガン、ハクチョウなどの水鳥を思い浮かべる方が
多いのではないでしょうか。こうした水鳥は冬鳥と呼ばれ、
夏に中国やシベリアで繁殖し、日本で越冬します。しかし、
カルガモのように一年中日本で暮らす種類もあります。オシ
ドリには、日本の中で繁殖地と越冬地を行き来するものと、
中国で繁殖して日本で越冬するものの両方がいます。冬鳥に
はほかにカモメの仲間がいます。水鳥でもサギやシギ・チド
図3 冬の水鳥の例 オナガガモ
リの仲間は夏に日本で繁殖して東南アジアで越冬する夏鳥で
す。シギ・チドリやアジサシなどには日本には渡りの途中に立ち寄るだけのものいます。
これらの水鳥のうち、陸上で草や穀類などを食べる種類は、昼間は比較的安全な水の中にいて、
夜間に陸に上がり、水田や畑に来て草や落ち穂を食べます。中でもカモの仲間は比較的警戒心が弱
く、人間が気付かない夜のうちに、鶏舎の近くにやって来ることがあります。鶏舎の中まで入るこ
とは普通ありませんが、鶏舎のすぐ外に糞をすることはあるので注意が必要です。鶏舎の周囲に鶏
の餌が捨てられていたり、周囲の畑や田にカモの餌となるような穀類が放置されていると、カモな
どを呼び寄せていることになります。
3
エ.鶏舎周辺の野鳥の行動特性
ポイント ・小鳥にも渡り鳥がいます。虫や木の実にひかれて鶏舎のそばに
やってきます。
鶏舎の周囲にはスズメやムクドリ、セキレイやカラスなど
が1年中見られます。しかし、鶏舎の周囲に現れる小鳥たち
の中にも渡り鳥がいます。例えば、ツグミやジョウビタキは
冬にはごく普通に見かけるのに、夏場は全く姿を見ません。
これらの鳥はガンなどと同様に中国やシベリアと行き来して
いるのです。ところが、同じように冬場に多く見かけるヒヨ
ドリは、海外と行き来する渡り鳥ではなく、平地と山地、あ
るいは国内で北と南を行き来しています。
図4 冬の陸鳥の例 ジョウビタキ
これらの小鳥は草の実や穀類、鶏の餌などのほかに、ハエ
やその他の虫を食べに鶏舎にやって来ます。鶏糞置き場などには虫がたくさんいます。野生の小鳥
は警戒心が強いものですが、慣れてしまえば鶏舎の隙間から鶏舎の中まで入ってくることもありま
す。特にスズメは慣れやすく、スズメが入っていればほかの鳥も安心して入ってくることになりま
す。なお、小鳥が活動するのは昼間だけです。
鶏舎の周辺に実のなる木があれば、その実を食べに来る鳥もいます。こうした鳥は普通鶏舎の中
には入ろうとはしませんが、鶏舎の周囲に糞をすることはあり、もしそれらの鳥がウイルスに感染
していれば、鶏舎の周囲にウイルスがまき散らされます。
カラスは雑食性で主に果実や昆虫類を食べますが、鶏の餌や動物の死体も食べます。つまり、鶏
舎の周囲に実のなる木や虫など餌になるものがなければ、野鳥は寄ってこなくなります。
オ.鶏舎周辺の野生動物の行動特性
ポイント ・ネズミには大きいネズミと小さいネズミがいます。どちらも鶏舎に出入り
している可能性があります。
・鶏舎の周囲に野生動物が来ていないか点検しましょう。
鶏舎に出入りして暮らす可能性がある哺乳類には、ネズミ、コウモリの仲間がいます。また、
そのネズミや鶏、卵などをねらってイタチやタヌキなどの肉食獣が鶏舎の近くに来ることもあり
ます。鶏舎が中山間地にあれば、イノシシやシカが近くを通ることもあります。これらの動物は
どのような暮らしをしているのでしょうか。
(ア)ネズミの仲間
人家などに出入りするネズミはイエネズミと呼ばれ、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミ
の3種を指します。これらのネズミは鶏舎の給餌パイプの中にまで入り込むことがあります。野生
のネズミは他にもいますが、鶏舎の中まで入ることは少ないと考えられるので、ここではこの3種
について説明しましょう。
4
ドブネズミとクマネズミは体の大きさ(尾を含まない。
)
が15∼20cmくらいの大きなネズミで、ハツカネズミは5∼
8cmくらいの小さなネズミです。糞の大きさもドブネズミ
とクマネズミは1cmくらいありますが、ハツカネズミは
5mmくらいです。実験動物やペットでは白いネズミがいま
すが、野生の家ネズミの体の色はいずれも茶色から黒っぽ
い色をしています。鶏舎では鶏の餌や虫などを食べていま
す。主に夜行性ですが、安全だと思えば昼間でも活動する
ことがあります。
クマネズミは建物の天井裏やビルなど、暖かく乾いた所
を好みます。登るのが得意で、細い管や電線、木の枝など
を移動します。主に穀物や種子などを食べますが、虫など
の動物質も少し食べます。ドブネズミはクマネズミよりや
や大型で、家屋のほか、下水、河川や海岸など比較的湿っ
た所を好みます。クマネズミより動物質の餌を多く食べま
す。ハツカネズミは家屋のほか、草地、畑、水田、荒地な
どに棲んでいます。主に穀類や種子、野菜などを食べてい
ます。
なお、コウモリも鶏舎の中にいることがあります。し
かし、過去の日本での高病原性鳥インフルエンザの発生
は冬季で、コウモリは冬眠中であるため、これまでの知
見では、発生には関係していないと考えられます。また、
コウモリは渡りなどの長距離の移動はしません。
図5
クマネズミ
図6
ドブネズミ
図7
ハツカネズミ
(イ)肉食動物
肉食動物は感染した鶏などを食べると鳥インフルエンザウイルスに感染することが知られてい
ます。したがって、ウイルスの運搬に関わらないとも限りません。
鶏舎の周囲に来る肉食獣としては、まずネコ、イヌが挙げられますが、野生動物には次のよう
なものがいます。いずれもネズミ、鳥類、昆虫、果実などを食べますが、動物の死体や人間の出
した生ゴミなども食べます。
イタチは体の大きさ(尾を含まない。
)が20∼30cmほどの小型の動物で、体は茶色から黄色っ
ぽい色です。西日本では少し大型のチョウセンイタチの方が多くみられます。単独行動で、主に
夜行性ですが、昼間も活動することがあります。年に1回、春に3∼5頭くらいの子供を産みます。
排水溝などかなり小さな隙間でも通れますが、壁や柵を登るのは得意ではありません。
タヌキは体の大きさ(尾を含まない。
)が50∼60cmほど
で、目のまわりの黒い模様が特徴です。外見が似た動物に
はハクビシン、アナグマ、アライグマなどがいますが、鶏
舎の周囲に来るのはタヌキが多いと思われます。同じとこ
ろに糞をする「タメ糞」の習性があります。数頭の家族群
で生活し、主に夜行性です。登ったり、ジャンプしたりは
得意ではありません。
図8 タヌキ(於:多摩動物公園)
5
キツネは体の大きさ(尾を含まない。
)が60∼75cmほどで、体の色は黄褐色でイヌに似ていま
すが尾が長くて太いのが特徴です。春先の出産から夏までの子育て期間は家族群で生活していま
す。鶏舎周辺には夜間に来ることが多いですが、安全であれば昼間も活動します。柵などを登る
のは得意ではありませんがジャンプ力はあります。
鶏舎の周囲をよくみると、肉食動物の糞がみつかることがよくあります。多くはネコのものと
思われますが、鶏舎の周囲は、点検して、掃除しておいた方がよいでしょう。
(ウ)イノシシなど
イノシシやシカは山林で暮らしていますが、夜間に農耕地や河原などに降りてきて、農作物を
食べたりします。鶏舎がその途中の通り道になっている場合には鶏舎のそばにも来ますが、鶏舎
が目当てでやってくるわけではありません。鶏舎周囲の草木を除き、茂みを切り払うなどして、
鶏舎周囲になるべく開けた空間ができるようにすると、こうした動物は近づきにくくなります。
カ.鶏舎周辺の昆虫
ポイント ・冬でも活動しているハエがいます。ハエがウイルスを運ぶ可能性も
あります。
鶏舎で一番目立つ昆虫はハエでしょう。鶏舎ではイエバエ、クロバエ、アメリカミズアブなどが
多く発生します。ハエは鶏糞や動物の死体、腐敗した鶏の餌や鶏卵、生ゴミなどを餌とし、そうい
う所に卵を産んで増えます。
京都府で高病原性鳥インフルエンザが発生した時には、クロバエからウイルスが分離されました。
鶏舎の外から中へ、あるいは逆方向に、ハエがウイルスを機械的に運ぶ可能性もあるようです。
ハエが活動するためには温度と光が必要です。適切な温度の時には明るい方が活発になります。
イエバエは8℃以下では成虫はほとんど活動せず、幼虫も成長しないようです。しかしそれ以下の温
度でもじっとしているだけで死なず、適度な温度が保たれる鶏舎の中では一年中ハエが発生するこ
とになります。
京都府のクロバエからのウイルス検出は3月でした。オオクロバエやケブカクロバエは夏ではなく、
春と秋の温度が低い時期に多発する種類で、冬にも見られます。オオクロバエは長距離飛翔し、大
陸から飛んでくるものもあると考えられていますので、注意が必要です。
ハエに似たアメリカミズアブは乾いた鶏糞などに好んで産卵し、大発生することがあります。こ
の幼虫は大型で活発で、糞をかきまぜて液状化し、イエバエの幼虫が育たない環境にしてしまうた
め、アメリカミズアブが大発生するとイエバエが減ります。
6
キ.野鳥、野生動物及び昆虫を鶏舎に入れない方法
開けた空間を作るとともに、
ポイント ・鶏舎の周囲には草刈りや木の伐採などにより、
鶏舎周囲の電柱などの撤去や農場内の清掃により、野生動物が近寄り
にくい雰囲気作りをしましょう。
このように見てくると、鶏舎の周辺に棲んでいる鳥やけもの、虫はたくさんいるようです。こう
した生き物を完全に排除することは無理です。しかしなるべく少なくする、鶏舎の中に入らないよ
うにすることは可能です。
鶏舎に出入りするような穴をふさぐことのほかに、野生動
物が近寄りたくなる誘因をなくします。それには、鶏舎の周
囲に餌がこぼれていたり、生ゴミが捨ててあったりしないよ
うに、鶏舎の外側も常に清潔を心がけます。動物の糞があっ
たら取り除きましょう。またできる限り、草やぶや実のなる
木などないように開けた空間を作りましょう。さらに、鶏舎
周囲の電柱などを撤去することも効果的です。時には野鳥や
鶏舎の内外の動物の糞などを観察し、自分の鶏舎にはどのよ
うな動物がどんな季節に来ているのかを知っておくことも大
図9 雑草が茂る鶏舎
(こういう所は野生動物も近づきやすい)
事です。
4.農場で働く人(従業員等)等からの感染を防ぐために
ポイント ・農場内へは、人や車、器材を介してウイルスが侵入します。これらに
ついて消毒の徹底、器材などの持ち込み制限、鳥類との接触防止に心
がけましょう。
高病原性鳥インフルエンザの感染は、これまで紹介した野鳥
や野生動物に加え、農場で働く従業員や農場内で使用する器材
を介して感染する可能性があります。
このため、農場で働く従業員の体(手指、毛髪)
、衣服、履物
へのウイルスの付着を防ぐとともに、農場外でもできる限り、
家庭で鳥類を飼育しない、野鳥の集まる場所へ出かけない、鳥
インフルエンザ発生国へは出かけないということを心がけまし
ょう。
また、車輌(座席、運転席足元を含む。
(図10)
)に付着して
鶏舎に侵入しますので、消毒などの徹底を心がける必要があり
ます。
さらに、物品に付着して鶏舎に侵入します。これを防止する
ため、器材の消毒を徹底するとともに、農場内への私物の持ち
込みは必要最小限にしましょう。
7
足マット
図10
農場で準備した足マット
Ⅱ 具体的な発生予防のための効果的な手法
この項では、人や野鳥、野生動物から鶏舎内への病原体の侵入を防ぐための方法を中心に、具体
的な感染を防ぐための手法を紹介します。発生予防を行うことは、自らの農場を守るだけではなく、
地域の養鶏を守ることにもなりますので、ここに紹介する発生予防の手法を参考に自らの農場の対
策に取り組んでみましょう。
1.発生予防の考え方
ポイント ・現実の高病原性鳥インフルエンザ対策は、ウイルスに汚染されている
可能性のある全てのヒト・物を対象として、養鶏場へのウイルスの侵入
防止を徹底することが最も重要な対策です。
一般的に家畜の伝染性疾病の発生を防ぐためには、
「防疫の3原則」である①感受性動物対策:病
原体に対する家畜の抵抗性を高める、②病原体対策:病原体を殺滅する、③侵入経路対策:病原体
の侵入ルートを遮断することです。
しかし、現実に高病原性鳥インフルエンザの発生を防ぐためには鶏舎内にウイルスが侵入してか
らの対策では手遅れになることから、ウイルスに汚染されている可能性のある全てのヒト、物を対
象として、養鶏場へのウイルスの侵入防止(バイオセキュリティ)を徹底することが最も重要な対
策です。
2.具体的な侵入防止方法
以下に記載する防疫対策は、実際に行われている侵入経路対策です。鶏を飼育する全ての生産者
は、このような実例を参考に、可能な限りの発生防止対策に取り組みましょう。
(1)人・車輌等による侵入の防止
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、ヒトを含むあらゆる物に付着して養鶏場に侵入します。
これを防止するためには、養鶏場に入場する際の衣服、履物、帽子の交換と消毒はもちろんのこ
と、養鶏場内に持ち込む私物は必要最小限とした上で、手指等の消毒を含む衛生対策を徹底する
ことが必要です。
ア.農場出入口での対策
ポイント ・農場出入口は、バイオセキュリティのかなめです。外来者の出入りを
監視したり、外来車輌の消毒等が確実に実行されていることを確認する
ことが大切です。
ア)農場への人・車輌の入場制限
・農場への人・車輌の入場は必要最小限にします。
・農場の入口(門)には「鳥インフルエンザ等鶏病持込み禁止のための部外者立入り禁止」
(図11)
の看板を設置します。
8
・農場の入口には門(または侵入防止柵・チェーン等)を設備し、人・車輌の入場時以外は、
常に、閉じておきます。
(図11)
・入場車輌は指定された場所に駐車します。
図11
農場入口の閉鎖と立入り禁止の看板
イ)入場車輌・物品の消毒
・農場入口には車輌消毒装置(ゲート式車輌消毒装置、動力噴霧機、踏込消毒槽)を設置し、
農場へ入場する車輌を消毒します。
(図12)
・寒冷地では消毒液(装置)の凍結防止対策(パイプでの防凍ヒーターの取り付け等)が必要
です。
(消毒液の温度が低いと効果が下がる薬剤が多いことから、温水を利用するか、通常よ
りも濃い薬液を準備します。
)
・養鶏資材や器材(医薬品、移動用金属コンテナ、鶏舎設備の修理業者の工具等)
、宅配便、郵
便物など養鶏場へ持ち込まれる物品(特に、他養鶏場と接触の可能性のある物品)は表面を
適当な消毒薬で消毒します。
図12 農場入口の車輌消毒装置
9
ウ)農場専用衣服等への更衣
・事務所には更衣室(更衣スペース)を事務室など
から分けて設置するなど、交換前の衣服・履物等
の汚れが交換後の衣服・履物等に伝播(交差汚染)
するのを防止できる構造(交換前後の衣服や履物
を分けて保管したり、一方通行等)とし、殺菌灯
を点灯します。
(図13、図14)
・更衣室にはできる限り、シャワー室及び洗濯室を
設備します。
・農場内専用の衣服等(ツナギ等、帽子、長靴)に
更衣します(鶏舎着と色を区別すると効果的)
。
・農場内専用の衣服等は、定期的に洗濯するととも
に、汚れた場合は直ちに洗浄し、清潔に保ちます。
出口
場内用
長靴
入口
スノコ
外来者
履物
図13
場内用長靴
スノコを利用した交差汚染防止例
場内用長靴
交差汚染
スノコ
出口
踏込消毒槽
農場内へ
農場内へ
駐車場より
改善前
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
出入口
入口
駐車場より
改善後
図14 農場入口における交差汚染防止の改善例
10
エ)消毒槽の設置
・事務所入口及び更衣室出口に踏込消毒槽を設置しま
す。
(図15)
・消毒薬は毎日、または汚れ次第交換します。
・踏込消毒槽にはオルソ剤系消毒薬を使用します。オル
ソ剤系消毒薬とは、巻末の殺菌消毒剤のリストの「複
合製剤」のうち、
「オルトジクロロベンゼン」を成分
とする消毒薬のことです。
図15
イ.鶏舎出入口での対策
更衣室出口の踏込消毒槽
ポイント ・鶏舎入口は、バイオセキュリティの最後の砦です。外来者の出入りを最
小限度とした上で、衛生的な区画と非衛生的な区画の分離を確実に行う
ことが必要です。
・衣服、履物の交換の際、交換前の衣服等の汚れが交換後の衣服等に伝播す
るのを防止できる構造にするとバイオセキュリティが一層高められます。
ア)部外者の鶏舎内への入場は禁止します。
イ)鶏舎専用の衣服等への更衣
・更衣場所は舎外の汚れを舎内に持ち込まない(交差汚染のない)構造(スノコ等の利用)と
します。
(図16、図18)
・鶏舎入場の際は、鶏舎内専用の衣服等(ツナギ等、長靴、帽子)に更衣します。
(図17)
・鶏舎内専用の衣服等は定期的に洗濯するとともに、汚れた場合は、直ちに洗浄し、清潔を保
ちます。
出入口
踏込消毒用槽
場内用長靴
(改善前)
図16
(改善後)
成鶏舎入口における交差汚染防止の改善例
場内着
出口
更衣棟
一方通行
入口
鶏舎着室へ
図17
鶏舎着への更衣棟とその内部
11
鶏舎用長靴
改 善 後
改 善 前
場内着ロッカー
舎内着ロッカー
舎内用長靴
場内用長靴と
舎内用長靴を
同じ場所で交換
スノコ
舎内着ロッカー
スノコ
噴霧消毒器
噴霧消毒器
交差汚染
場内着ロッカー
場内用長靴
鶏舎へ
鶏舎へ
踏込消毒槽
踏込消毒槽
サービスルーム入口
図18
サービスルーム入口
鶏舎出入口の更衣場所(サービスルーム)の交差汚染防止を目的とした改善例
ウ)消毒槽の設置
・更衣場所の入口に踏込消毒槽を設置します。
(図19)
・消毒槽の消毒液は毎日、または汚れ次第交換します。
図19
鶏舎入口の踏込消毒槽と消毒用噴霧器
<交差汚染防止の重要性>
・ 私服・靴(通勤着)から場内着・場内用長靴・場内用帽子(場内着)へ、さらに場内着
から鶏舎着・鶏舎用長靴・鶏舎用帽子(鶏舎着)へ更衣する際、同じ場所で更衣すると、
更衣前の汚れが鶏舎着へ伝播(交差汚染)し、鶏舎内へ持込まれることになります。
・ 交差汚染の防止には、必ずしも新たな施設や高額な建物が必要ではなく、既存の施設の
ままでもいろいろ工夫することにより、目的を達成することができます。
図16、図18のように、長靴を交換する場所にスノコを利用し、スノコの手前で履いて
来た長靴を脱ぎ、スノコに乗ってから鶏舎用長靴に履き替えるだけでも鶏舎(農場)外
の汚れを鶏舎内に持込むのを大幅に低減できます。
(踏込消毒槽があれば、さらに効果が
)
高まります。
12
エ)器材等の洗浄消毒
・鶏舎内で使用するプラスチックトレイ、
プラスチックコンテナは洗浄・消毒後、
鶏舎内へ持込むようにしましょう。
(図20)
・未消毒の中古のダンボール箱やトレイ等
の器材・資材は鶏舎内へ持ち込まないよ
うにしましょう。
(中古ダンボール等の消
毒は、両性石けん等の消毒薬を噴霧して
行います。
)
図20
プラスチックコンテナ及びトレイの
高温浸漬消毒槽(左)と洗浄装置(右)
ウ.鶏舎内での対策
ポイント ・鶏舎入り口に、踏込消毒槽の設置と、アルコール系消毒薬による手指
消毒用の手押式消毒器等の設置が必要です。
鶏舎内での消毒
・鶏舎ごとの鶏舎入口に踏込消毒槽を設置します。
・踏込消毒槽の消毒薬は毎日、または汚れ次第交換します。
・鶏舎ごとの鶏舎入口に手指消毒用の手押式消毒器または消毒
薬噴霧器等を設置します。
〈手押式消毒器等にはアルコール系消毒薬等を使用します。
(図21)
〉
・鶏舎ごとに専用長靴等をサービスルームに置くことも効果的
です。
図21
(2)野鳥・野生動物による侵入の防止
鶏舎内の手押式消毒器
高病原性鳥インフルエンザウイルスは、カモ、ハクチョウ等の
水きん類にも感染します。さらに、このようなカモ等を捕食した猛きん類が保有していることも考
えられます。また、糞便等を介して汚染されたネズミ、ハエ等の衛生動物は、高病原性鳥インフル
エンザウイルスを持ち運びます。このように、野鳥(スズメ、カラス等)等の野生動物やネズミや
ハエ等の衛生動物が鶏舎内へ高病原性鳥インフルエンザウイルスを持込む可能性があります。この
ため、野鳥・野生動物による高病原性鳥インフルエンザウイルスの侵入を防止する必要があります。
ア.防鳥ネット・金網の設置
ポイント ・鶏舎には2cm角以下の網目の防鳥ネットを張りましょう。
・その張り方は、上から覆うように、ゆったりと垂らすように張り、屋根と
柱の境等の小さな間隙を塞ぎましょう。また、防鳥ネットの破損が見つ
かったら、直ちに補修しましょう。
13
野鳥対策については、やはり防鳥ネットや金網の設置が欠かせません。特に野鳥といいましても
今の状況で考えなければならないのは、小さいスズメのサイズになります。スズメはとにかく隙間
を狙って侵入します。したがって、まず防鳥ネット等の網目は2cm角以下にしましょう。
また、防鳥ネットを設置する時に、できるだけ隙間を作らないよ
う張るのがコツです。図22のように上部を覆う、あるいは上部から
垂らすように張るのがポイントです。張り方もピンと張らずに、ゆ
ったりと張ることにより、破れにくくなります。
図23は、防鳥ネットの一部が破け、補修はしているものの隙間が
図22 防鳥ネットの張り方は屋
開いている様子を、図24は、防鳥ネットは張ってあるものの、ネッ
根など上部から垂らす。
トを止める位置が柱の上であるため、屋根と柱の間にわずかですが
隙間がある様子をそれぞれ示しています。また図24では、ネットの横をきっちり止めており、隙間
がないのですが、これを止めていないとスズメにとって、絶好の入り口ができてしまいます。また、
金網についても同様で、破損箇所があれば早めに補修をする必要があります。
図23 ネットの一部が破損
図24 ネット設置後の屋根と柱
の間の隙間
鶏舎の隙間は、以上のように点検すると案外とあるものなのです。
1例として、手近な材料を使って隙間をうまく塞いでいる農場の様子を、図25で紹介しましょう。
どうでしょう。鶏舎の隙間は、この
ようにほんのひと工夫で塞ぐことがで
きるのです。防鳥ネットは定期的に点
検をし、こまめに補修をしましょう。
一方、ネットの設置・隙間を塞ぐこ
とにより、換気不良を招き、逆に鶏の
健康を害する(ひいては産卵率の低下
等経済的なダメージを受ける)ことが
懸念されます。こまめに箒等でホコリ
取りをする、コンプレッサーでホコリ
を吹き飛ばすなど、ネットの手入れを
心がけることは欠かせません。
図25 手近な材料で隙間を塞ぐ方法
14
イ.ネズミの侵入防止
ポイント ・防鳥対策と同様、隙間を塞ぎましょう。
・ネズミを見つけた場合、まず、その侵入経路を見つけ、次に捕獲装置の
設置、殺鼠剤の使用により駆除しましょう。
野生動物の中でも、一番頭を悩ませるのがネズミではない
でしょうか? というのも、いろいろな病原体を鶏舎に持ち
込む主要な原因となっているからです。
ネズミの種類にはいろいろあります。鶏舎で見られるもの
としては、ドブネズミ・クマネズミ・ハツカネズミの3種が
あります。
(詳細は、
「野鳥、野生動物及び昆虫などから感染
を防ぐために」の(ア)ネズミの仲間(4ページ)を参照し
てください。
)
3種類とも、ちょっとした隙間さえあれば、たやすく鶏舎
内に入り込んできます。
ネズミの駆除対策で注意することは、その通り道を見つけ
ることです。ネズミの行動の特徴は、必ず隅っこを通ること
ですが、消石灰を散布したり、餌を何ヵ所か通り道と思われ
る場所に置いておき、しばらく観察するのがよいでしょう。
足跡を見つけたり、餌が減っていれば、そこに捕獲装置を設
置するか、殺鼠剤を混ぜた餌を置くなど、定期的に駆除しま
しょう(図26、図27、図28)
。
図26 ネズミの定期的駆除
<捕獲装置>
捕獲装置については、以下のようなものがあります。
◆粘着シート
厚紙の上に粘着剤が付いている、ゴキブリ取りと同様な方式の罠です。そのまま捨てられ
るので便利です。
◆捕獲用のかご
かごの中に餌を付けて誘い込み捕獲します。これには、網かご式(図27)とボックス型
(図28)があります。
図27 網かご式の
仕組み
ネズミが餌に食い
つくと、バネ仕掛
けの戸がパチンと
閉じる仕掛けにな
っています。
15
図28 ボックス型のシャーマントラップ
これも中にバネがあって、ネズミが入ると
重みで戸が閉まる仕掛けになっています。
<殺鼠剤>
一般的な使用方法は毒餌法です。
◆毒餌法
ネズミの通り場所に毒餌を設置します。紙皿など、後の処理がしやすい入れ物にいれるの
が便利です。使用する毒の種類によっては、毒餌を7∼10日くらいの間毎日交換しなければな
りません。またあらかじめ嗜好性の高い砂糖や食用油を添加・塗布するのもよいでしょう。
※なお、使用に当たっては、平成18年5月29日に施行されたポジティブリスト制度に沿った、
適切な使用方法を守りましょう。
ウ.農場周囲への消石灰散布
ポイント ・鶏舎周辺及び農場敷地周縁へ定期的に2∼3m幅で消石灰を散布しま
しょう。また、農場内道路にも消石灰等を散布しましょう。
皆さんは『農場周囲への消石灰散布』という言葉から、何を想像しますか?まずは『消毒』とい
う言葉が頭に浮かぶのではないでしょうか。正にそのとおりなのですが、それ以外にも実は消石灰
を撒くことで、野生動物の侵入防止や侵入防止対策の糸口がつかめるのです。
消石灰の効果をまとめると、
i:高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する消毒効果とともに、ネズミなどの野生動物に忌避
効果がある(いやがって近寄らない)
ii:ネズミなどの野生動物が侵入したかどうか、またどこから侵入したのかが足跡等でわかりやす
くなる
ということです。
このため、定期的に農場敷地周縁・鶏舎周囲、農場内道路に2∼3m幅で一面に白く覆うように撒
きます。
(図29、図30)
図29 農場敷地周縁への消石灰
散布と路面への消毒液散布
図30
16
鶏舎周囲の消石灰散布
エ.鶏舎の扉の開閉
ポイント ・鶏舎の中に入ったら、すぐに扉を閉めましょう。
普段皆さんは、集卵のために鶏舎に入った後、入り口は閉めていますか? 案外、入ったあとは
開けたままにしていませんか?
鶏舎内への野鳥・野生動物の侵入を防ぐためには、出入口の
扉を出入り時以外には必ず閉めておくことが重要です。
扉の種類には、横にスライドするもの、引き戸になっている
ものといろいろあります。引き戸の扉については、内側からも
扉を締められるよう(針金と釘等で)ひと工夫してみましょう。
また、強風などで扉があおられないよう、また野生動物にこ
じ開けられないよう、図31のように扉に重しを置くのもよいで
図31 常時扉を閉めておくために
しょう。
扉の前に重しを置く
(3)飲用水、飼料の汚染による侵入の防止
カモ等の水きん類の糞便で汚染された
水(河川水、湖沼水)は、鳥インフルエン
ザウイルスに汚染されている可能性があ
ります。また、ネズミ、ハエ等の衛生動
物やスズメ、カラス等の野鳥の糞便で汚
染された飼料は、鳥インフルエンザウイ
ルスに汚染されている可能性がありま
す。このため、消毒された飲用水の使用、
飼料タンク周辺の清掃等の必要がありま
す(図32、図33)
。
図32 薬液添加器による飲水
の塩素消毒
図33 餌こぼれのない飼料
タンク
ア.飲用水の汚染防止
ポイント ・新鮮な水道水を使いましょう。(貯留したままにすると塩素濃度が低下
します。
)
・水道水以外を使用する際には、鶏が飲む時に遊離塩素濃度が0.1ppm以
上含まれるように調整を行い、 濃度は定期的に確認しましょう。
鶏の飲用水としては、できる限り、新鮮な水道水を使用します。水道水には、すでに消毒のため、
給水栓での遊離残存塩素が0.1ppm(結合塩素の場合0.4ppm)以上となるように含まれています。水
道水は貯留したままにしておくと、遊離残存塩素濃度が低下するので注意が必要です。
しかし、井戸水、山水などを利用されている養鶏場も多いと思います。井戸水や山水には、水道
水とは違い消毒のための塩素が含まれていないので、次亜塩素酸ナトリウムなどを用い、殺菌処理
を行ってから鶏の飲用水として用いる必要があります。
17
そのため、次亜塩素酸ナトリウムを常時一定に添加するには、ヒト用の井戸水の除菌・消毒に用
いられている流水比例式注入式の除菌器(図34)などの活用が効果的です。流水量に応じて確実に
次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより消毒ができます。
給水ポンプ
除菌器
(塩素注入)
鶏舎へ
井戸
図34 除菌器による塩素注入
また、バルブ等を利用した塩素滴下装置で貯水タンクに滴下する方法(図35)
、給水配管の途中に
設置し滴下する方法等があり、より安価に設置することもできます。
鶏舎へ
塩素剤
滴下
貯水タンク
図35
塩素滴下装置
18
さらに、少羽数で手給水の場合には、給与する水の量に対して0.1ppm以上となるよう消毒用塩素
剤を加えます(図36)
消毒用
塩素剤
給水容器
図36
飲水への消毒用塩素剤添加
その他、定期的な給水タンク及びパイプの内部の洗浄消毒が必要です。また、給水に使用してい
る容器についても同様に洗浄消毒を行います。さらに加圧式給水タンク等では、水漏れにより野鳥
が集まることのないように、保守点検を定期的に行い、その周囲を清潔に保ちます。
ただし、ワクチンを飲水投与する際には、投与の前後に塩素剤添加は中止します。塩素剤が入っ
ていると殺菌作用によりワクチンの十分な効果が期待できません。
イ.飼料の汚染防止
ポイント ・飼料タンク付近にこぼれ餌がないよう、常に清潔に保ちましょう。
・倉庫等は、鶏舎と同様に野鳥等の侵入防止及びネズミの駆除を徹底しま
しょう。
ア)飼料タンク付近での汚染防止
飼料運搬車から飼料タンクへの積み込み時には、周囲に飼料がこぼれることがあります。こぼ
れた飼料を目当てに飛来する野鳥等がいないように迅速に取り除きます。また、飼料タンクから
取り出す際にも、同様にこぼれた飼料を迅速に取り除きます。
イ)倉庫での汚染防止対策
袋詰め飼料などを保管する倉庫は、鶏舎と同様に出入り口に防鳥ネットを設置し、野鳥の侵入
を防止します。さらにネズミ等の対策についても鶏舎と同様に対処します。
19
(4)鶏舎内外の整理・整頓・清掃
ポイント ・鶏舎内外の整理・整頓・清掃や鶏舎周辺の草刈りや木の伐採、電柱等の
撤去により(図37、38)
、ネズミや野鳥の繁殖場所をなくしましょう。
Ⅰの「発生予防の基礎知識と留意点」の 3.
「野鳥、野生動物及び昆虫などから感染を防ぐために」
(2ページ)の項で述べましたが、鶏舎に野鳥、野生動物、昆虫を近づけないようにする必要があり
ます。
このためには、いつも鶏舎内外の整理・整頓・清掃に心がけるとともに、ネズミや野鳥の繁殖場
所をなくすため、鶏舎周辺の草刈りや木の伐採、電柱等の撤去をすることが効果的です。
図37 鶏舎外の整理・整頓・清掃
図38 鶏舎内の整理・整頓・清掃
20
(5)鶏の健康管理及び取扱い
ポイント ・不健康な鶏は、病気に感染しやすくなります。健康な鶏を飼養するため、
健康な鶏の導入や死亡鶏の適切な処理を行うことが重要です。
・鶏舎内の環境整備(適正な飼育羽数と換気)や鶏への適正な飼料の給与
など、一般的な飼養管理の向上を心がけることが大切です。
ア.導入鶏の健康の確認
・成鶏(中古鶏)や大・中ひなを導入する際には、飼育履歴、検査履歴や健康の確認をします。
イ.死亡鶏の取扱い
・死亡鶏は毎日取り出し、羽数を記録します。
・死亡鶏の羽数が異常な場合は、直ちに、家畜保健衛生所あるいは獣医師に届け出ます。
・死亡鶏は体液等が外部に漏れないように配慮(大型のポリ容器や厚手のビニール袋等の使用)
して取り扱います。
・死亡鶏は、専門の業者に処理を委託します。
ウ.出荷鶏の取扱い
・出荷する成鶏は農場外の指定の場所(施設)で処理業者に引き渡します。
(図39)
図39
成鶏出荷中継所と中継所における作業風景
エ.家畜保健衛生所等への連絡
・高病原性鳥インフルエンザが疑われる異常を認めた場合、直ちに、家畜保健衛生所、あるいは
獣医師に連絡しましょう。
オ.鶏の抵抗性の向上
・適正な飼育羽数や換気に留意することにより、良好な鶏舎環境を保つことや鶏への適正な飼料
の給与を行うことで鶏の抵抗性を高めます。
・他病の感染防止のため、適正なワクチン接種プログラムに従ってワクチン接種をしましょう。
21
(6)鶏糞の処理
ポイント ・鶏糞は農場内で適切な水分管理をして十分に発酵させましょう。
(中心温度70℃以上)
・やむを得ず、農場外に持ち出す場合は、鶏糞から他の農場への病原体の
拡散に注意しましょう。
・鶏糞処理施設には防鳥ネットを張りましょう。
原則として、鶏糞は発酵または焼却(熱処理)するようにし、無処理の生鶏糞は農場外へ持ち出
さないようにしましょう。
やむを得ず、生鶏糞を農場外へ搬出する場合は、
・何らかの鶏病の発生が疑われる場合は、生鶏糞を農場外へ搬出しないようにする
・生鶏糞を運搬する際は、鶏糞が車輌等からこぼれ落ちたり、漏れ出さないようにする
・生鶏糞を運搬する際は、青シートの覆いをかける等により、ホコリが舞い散らないようにする
・生鶏糞を運搬する際は、タイヤや車体等に付着した鶏糞を落とした後、農場を出発する
・生鶏糞を取り扱う際は専用の作業着、長靴、帽子等を着用する
の各点に注意しましょう。
また、鶏糞処理施設に死亡鶏や廃棄卵等が放置されると、カラス等の野鳥が集まりますから、
・死亡鶏や廃棄卵等は速やかに発酵槽内に混合する
・鶏糞処理施設にカラス等の野鳥が侵入するのを防止するため、防鳥ネットを張ることが重要です。
(7)鳥インフルエンザに対する理解と教育
ポイント ・日頃から従業員の鳥インフルエンザに関する知識の習得に努めましょう。
22
Ⅲ 高病原性鳥インフルエンザについて
1.高病原性鳥インフルエンザの概要
ポイント ・高病原性 → H5, H7
ヘマグルチニン
高病原性鳥インフルエンザは20世紀までは比較的稀な疾病
ノイラミニダーゼ
(HA,H1-16亜型)
(NA,N1-9亜型)
で、わが国でも1925年に発生しただけでしたが、近年世界各
地で発生するようになりました。カモなどの野鳥がウイルス
を伝播した可能性が示唆されていて、わが国でも2004年以降
頻発しています。高病原性鳥インフルエンザが発生すると、
発生農場のみならず養鶏産業全体においても多大な被害が生
じます。さらに近年のH5N1亜型ウイルスに代表されるよ
うにヒトへの感染も危惧されます。このように高病原性鳥
インフルエンザの防疫は公衆衛生上も最重要課題となって
います。
鳥インフルエンザウイルスの抗原性に重要な蛋白として、
ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が知られ
ています。HAは16種類、NAは9種類に分類され、この2種類
の蛋白質の組み合わせによって、分離されたウイルス株の血
清亜型が決まります。
鳥インフルエンザウイルスは、鶏に対して高病原性と低病
原性に分かれます。高病原性ウイルスはそのヘマグルチニン
(HA)の型が5、または7に限られていますが、全てのH5、ま
たはH7のウイルスが高病原性であるわけではありません。
この病原性には分子生物学的にHAの開裂部位というところ
電顕像
のアミノ酸配列が非常に重要であることが分かっています。
図40 インフルエンザウイルスの構造
世界各地の水生鳥類、特に健康なカモ類から高率にウイル
スが検出されることから、自然界における宿主はカモなどの
水きん類と考えられています。水きん類から分離されるウイルスは低病原性であることがほとんど
です。しかし、この水きん類に由来するウイルスが、家きん類に侵入し感染を繰り返している間に
変異が生じ、その結果、病原性が高まったウイルス(高病原性鳥インフルエンザウイルス)が出現
すると考えられています。これらを踏まえ、日本ではH5、またはH7亜型の鳥インフルエンザウイル
ス感染症は,病原性に関わらず行政的に殺処分による防疫が必要な疾病とされています。
23
2. 高病原性鳥インフルエンザウイルスの疫学
ポイント ・鳥インフルエンザウイルスの国内侵入ルート
1)輸入鳥類(家きん、愛がん鳥)
2)渡りの水きん類、野鳥
3)発生国からの家きんの肉、卵等
4)海外の発生地からのヒト
これまでに確認されている主要な発生例を列挙しますと、米国(H5N2:1983)、メキシコ
(H5N2:1993)
、オーストラリア(H7N7: 1975、1976、1983、H7N3: 1992、1994、1997)
、イタリア
(H5N2: 1997、H7N1: 1999)
、オランダ、ベルギー、ドイツ(H7N7: 2003)
、香港(H5N1: 1997、2001、
2002、2003)
、パキスタン(H7N3:2004)
、北朝鮮(H7N7:2005)等で発生がありました。2003∼
2004年には H5N1亜型による発生がアジアの諸国(日本、韓国、ベトナム、タイ、カンボジア、ラ
オス、インドネシア、中国、マレーシア)で確認されました。2005 年になっても中国や東南アジア
数カ国では発生が続いており、2005年以降にはモンゴル、カザフスタン、ロシア、トルコ、ルーマ
ニア、ナイジェリア、フランス、ドイツ、エジプト等で強毒のH5N1ウイルスによる渡り鳥等の野鳥
での感染が確認されています。
= 輸入停止国【50か国 • 地域】 2007年9月19日現在
図41
世界における高病原性鳥インフルエンザの発生状況
わが国では1925年にH7N7亜型による高病原性鳥インフルエンザが千葉県で確認されています。し
かし、2004年にH5N1亜型による高病原性鳥インフルエンザが山口県、大分県、京都府で確認されま
した。京都府の発生例では養鶏場周辺の死亡カラスからもウイルスが分離されました。この時のウ
イルスは韓国で流行したウイルスと遺伝的に極めて近縁であったことが分かっています。
翌2005年6月にはH5N2亜型による高病原性鳥インフルエンザが茨城県で確認されました。このウ
イルスは、鶏に高い致死率を示さず、感染した鶏はほとんど症状を示さないウイルスでした。分離
ウイルスの性状解析の結果、茨城県で分離されたウイルスは遺伝子的に互いに近縁であるとともに、
グアテマラやメキシコで分離報告されている株とも近縁で、由来は中米地域と推定されており、こ
のウイルス株から作出された未承認ワクチンまたはウイルスそのものが持ち込まれ使用されたこと
は否定できません。
2007年1月13日には宮崎県宮崎郡清武町のブロイラー種鶏農場で、H5N1亜型による高病原性鳥イ
ンフルエンザの発生が再び確認されました。その後、1月25日に宮崎県日向市のブロイラー養鶏場、
24
1月29日に岡山県高梁市の採卵用養鶏場、2月1日に宮崎県児湯郡新富町の採卵用養鶏場で相次いで
発生が確認されました。2007年分離されたウイルスは全てH5N1亜型の鶏に強い病原性を示す高病原
性鳥インフルエンザウイルスでした。全ての発生は遺伝学的に非常に近縁のウイルスによるもので、
2005年に中国の青海湖の野鳥から分離されたウイルスの系統であることが分かっています。なお、
この系統のウイルスは2005年以降、モンゴル、ロシア、欧州、アフリカ、韓国等で野鳥または家き
んからも分離されています。
ウイルスが海外からわが国へ侵入するルートとしては以下のようなものが考えられています。
1)輸入鳥類(家きん、愛がん鳥等)を介して侵入するルート、2)渡りの水きん類や野鳥を介して
侵入するルート、3)海外の発生国から肉や卵を輸入することによって侵入するルート、4)海外の
発生地からヒトが持ち込むルート
輸入鳥類のルートでは、鶏等の家きんについては輸入検疫
で監視されており、本病が発生した国からは生きた鳥類及び
その肉や卵の輸入が停止されます。渡り鳥のルートは、鳥や
それらの糞との接触を避け、鶏群へ侵入しないよう注意する
必要があります。また、鶏舎周辺には病原体を運び得る小動
物、昆虫等が多いので、これらが鶏舎内に入らないよう注意
する必要もあります。さらにヒトが履物や衣服等にウイルス
を付けて持ち込まないように、発生地の農場等を訪問しない 図42 国内における高病原性鳥インフルエンザ発生状況
ことも重要です。
2004年の西日本3県の発生では渡り鳥によってウイルスが運ばれた可能性があることが感染経路究
明チームの報告書に記載されています。一方、2005年の茨城の発生では分離ウイルスが中南米で流
行した株と近縁であったことから、渡り鳥の関与は否定的で、不活化の不十分な違法ワクチンの使
用の可能性が指摘されています。2007年の発生については2004年と同様渡り鳥によってウイルスが
運ばれた可能性があることが指摘されています。
3.鳥インフルエンザの診断
(1)症状
ポイント 高病原性鳥インフルエンザの主な症状
・肉冠や肉垂のチアノーゼ
・出血,え死
・顔面の浮腫
図43
2007年宮崎県初発例から分離されたウ
イルスの鶏実験感染例。沈うつ症状が
観察される
図44
25
・産卵低下または停止
・神経症状,下痢等
・高い死亡率
2007年宮崎県初発例から分離されたウ
イルスの鶏実験感染例。肉冠のえ死、肉
垂のチアノーゼが観察される
(2)病理学的所見
肉眼病変:諸臓器及び筋肉のうっ血,充出血及びえ死が主要な病変ですが,急死した場合、これ
らの病変が認められません。
組織病変:感染ウイルスの病原性及び鶏の衛生状態等により様々ですが、主な組織病変として,
脾臓,肺,心筋,骨格筋,脳,肉冠等の水腫,出血,巣状え死及び囲管性細胞浸じゅん等が報告さ
れています。
(3)病原・血清診断
これらの検査は各都道府県の家畜保健衛生所など、専門機関で実施されます。
疫学調査,臨床検査及び剖検で本病が疑われた発生例については,ウイルス分離・同定によって
診断されます。高病原性鳥インフルエンザの場合、高致死性の伝染病であるニューカッスル病や家
きんコレラ等との類症鑑別が重要となります。低病原性鳥インフルエンザの場合は、鶏パスツレラ
症,鶏大腸菌症,伝染性気管支炎,頭部腫脹症候群等が類似した疾病として知られており、それら
との鑑別が必要となります。
ウイルス分離は気管,直腸スワブ,肺,脾臓及び腎臓等の材料を9∼11日齢の発育鶏卵の尿膜腔内
へ接種して行います。鳥インフルエンザウイルスは鶏の赤血球を凝集する性質(HA性)を示すこ
とから、ウイルスが増殖した場合は、尿膜腔液のHA性が陽性になります。しかし、ニューカッス
ル病ウイルスもHA性を示すため、HA性陽性となった場合は、まず分離ウイルスがニューカッスル
病ウイルスか否かを血清学的に判定する必要があります。ニューカッスル病ウイルスが否定された
場合、鳥インフルエンザウイルスの可能性が高く、接種した発育鶏卵のしょう尿膜乳剤を抗原とし
た寒天ゲル内沈降反応を行い、沈降線形成を確認します。補助的に、ウイルス遺伝子の検出、ある
いはヒトで用いられている市販のA型インフルエンザウイルスの抗原検出検査または遺伝子検出検
査等も応用できます。発症または死亡鶏から鳥インフルエンザウイルスが確認された場合、さらに
病原性判定試験、HA及びNA亜型判定試験(図45)等を行い、高病原性鳥インフルエンザウイルス
であるかどうかを判定する必要があります。OIEでは、病原性判定基準(8羽の鶏に接種して6羽以
上死亡など)を明示しており、わが国もこの基準に従っています。
HI試験
NI試験
<赤血球凝集反応抑制試験>
(ノイラミニダーゼ活性抑制試験)
HI試験で抗H5血清(7,8列)で凝集が抑制され、NI試験で
抗N1血清(1列)で発色が抑制されたことからH5N1と同定
図45
ウイルス亜型の決定
26
鳥インフルエンザウイルスに対する血清中の抗体検査は、
赤血球凝集反応抑制試験等により検出できますが、流行し
ているウイルスを検査抗原にしなければ正確な判定が困難
です。そこで、鶏が鳥インフルエンザに感染しているか否
か調べるための検査には、血清亜型に関係なく全亜型のウ
イルスに対する抗体を検出できる寒天ゲル内沈降反応が用
いられています(図46)
。
Ag:抗原, PS:陽性血清, 1-3:被検血清
被検血清が陽性ならPSとの融合線が観察される
図46
(4)異常家きん発見時の措置
寒天ゲル内沈降反応による鳥インフルエ
ンザウイルス抗体検出
ポイント ・異常鶏を見つけたら直ちに検査することがその後のまん延防止に
重要です。
死亡鶏の増加、産卵率の低下等の臨床症状を示す異常家きんを確認した場合、速やかに最寄りの
家畜保健衛生所または獣医師に連絡し、診断を受ける必要があります。診断が遅れると、それだけ
汚染が拡大することになり、被害が大きくなってしまう可能性があります。飼育している鶏が次々
に死んだり、羽数が少なくとも通常の死亡の仕方と異なるなど、様子がおかしいと思ったらすぐに
診断を受けてください。
異常鶏の発見
○死亡鶏の増加
(急死)
○症状
(沈うつ、産卵低下、
呼吸器症状、
顔面・肉冠・脚の浮腫、
チアノーゼ、
出血等)
→最寄りの家畜保健衛生所もしくは
獣医師に検査依頼
<養鶏場>
<各都道府県の家畜保健衛生所>
病性鑑定
○症状と病変検査
○発育鶏卵によるウイルス分離
<動物衛生研究所>
分離ウイルスの同定と性状判定
○HAとNAの亜型決定
○病原性の判定
(静脈内接種)
H5またはH7の場合、
高病原性と判定
○患畜等の処分
○消毒
○移動制限など
<各都道府県の行政機関>
図47
高病原性鳥インフルエンザ診断の流れ
27
4.殺処分と移動制限
ポイント ・農場における殺処分、消毒等の防疫措置を確実に実施することが大切
です。
・不活化ワクチンは感染自体を防ぐことはできないため、原則として
使用しません。
(1)概要
農場で発生した場合には、高病原性鳥インフルエンザの防疫措置は農林水産省が示している「高
病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」に沿って行われます。
本病であることが確認されますと、発生農場の家きんは全て殺処分され、死体は焼却・埋却また
は消毒されます。また、農場全体は閉鎖、消毒され、人の出入りも禁止されます。
また、発生農場を中心とした半径5∼30kmの区域では、21日間以上、生きた家きん、死体、その
生産物と排泄物の移動が原則的に禁止されます。しかし、採卵養鶏場について規定の検査でウイル
スの存在が確認されなかった場合は、鶏卵の出荷は認められています。また、区域内の全ての養鶏
場について、2回にわたりウイルス感染の有無を家畜防疫員が調べることが義務付けられています。
最終発生の防疫措置が終了してから、21日間に続発がなければ、基本的には移動禁止は解除され
ますが、その後も3ヵ月間は区域の監視が継続されます。全ての農場で、清浄確認検査によりウイル
ス感染が否定された場合に、清浄国に復帰します。
(2)殺処分の方法
病性鑑定の結果を踏まえ、家畜防疫員は患畜、疑似患畜等を決定し、指針により防疫措置を図り
ます。家畜防疫員は所有者に協力して、農場での殺処分、消毒等の防疫措置を確実に実施すること
になっています。不活化ワクチンの使用は、接種により発症は抑えられますが、感染やウイルスの
排泄等を防ぐことはできないため、原則として使用しないことになっています。
ア.殺処分及び死体の処理:患畜等(患畜または疑似患畜)の所有者は、都道府県知事の命令によ
り殺処分を行います。殺処分は、原則として鶏舎内で実施し、脊髄断絶、炭酸ガス等により行い
ます。死体の焼却、埋却または消毒は原則として発生場所に隣接した場所において実施します。
焼却場所については、都道府県などの地方自治体や関係機関の協力の下、近隣に設置されている
焼却場の利用を検討することになりますが、緊急的な対応として、移動式焼却炉やエアバーナー
の活用も有効です。また、埋却場所の選定については、地下水汚染等も考慮しなければならず、
公衆衛生部局等と事前に十分協議が必要となります。埋却溝の深さは4∼5mとし、家畜死体の上
は1mの覆土を行います。
図48
エアバーナー
28
イ.物品の処理:汚染物品は、患畜等と接触したおそれのある物品で、焼却、埋却または消毒を行
います。
ウ.消毒:患畜等発生農場の管理者は、農場全体、特に鶏舎の床、壁、ケージ、集卵ベルト、下
水・排水溝等の設備、器具、衣服、車輌等を十分に消毒します。特に、作業員の退出時の消毒は
徹底して実施します。対象物に応じ、付属資料の別表2「主な畜産用殺菌消毒剤」から消毒剤を
選定し、適切に行うことが重要です。
(3)移動の制限等
鳥インフルエンザが発生すると都道府県知事は、移動または搬出を制限する区域を定めます。
ア.移動制限区域
原則として発生農場を中心とした半径10kmの区域とされますが、半径5∼30kmの範囲で定めるこ
とができます。期間は、最終発生例の措置完了後21日間以上とされます。区域内には以下の規制
が設けられます。
・生きた家きん、死亡した家きん、器材、飼料、排泄物等の病原体を広げるおそれのある物品の
移動が禁止されます。
・畜産関連車輌を消毒するため、幹線道路等に消毒ポイントが設置されます。
・移動制限区域内の食鳥処理場、GPセンター、孵卵業務を行う種鶏場等の施設は閉鎖されます。
・品評会などの家きんを集合させる催し物の開催が停止されます。
イ.搬出制限区域
原則として、移動制限区域以外の区域で発生農場を中心とした半径30km以内の区域とされます。
期間は原則として、防疫措置完了後21日以内とされます。区域内には以下の規制が設けられます。
・生きた家きん、死亡した家きん、器材、飼料、排泄物等の病原体を広げるおそれのある物品の
移動が禁止されます。
・生きた家きんについては、区域内での移動及び区域外から区域内への移動は可能ですが、食鳥
処理の場合を除き、移動先で21日間以上臨床症状等を観察することになっています。
・畜産関連車輌を消毒するため、幹線道路等に消毒ポイントが設置されます。
・孵卵業務は搬出制限区域及び搬出制限区域からの種卵を用いた業務に制限されます。
・品評会などの家きんを集合させる催し物の開催が停止されます。
29
Ⅳ 発生時の防疫措置
ポイント ・高病原性鳥インフルエンザが発生した場合、徹底的な封じ込め対策が
○
○
実施されます。
発生農場:飼養鶏の殺処分、汚染物品等の焼却または埋却、農場消毒等
周辺農場:鶏や鶏卵等の移動制限、清浄性確認検査等
平成17年に茨城県(40農場)
、埼玉県(1農場)で、平成19年には宮崎県(3農場)
、岡山県(1農場)
で発生が確認され、感染の拡大を防ぐため、
「家畜伝染病予防法」
、
「高病原性鳥インフルエンザに関
する特定家畜伝染病防疫指針」等に基づき、次のような防疫措置が実施されました。
(写真は宮崎県
における防疫作業)
1.発生農場の措置
(1)緊急措置
家畜保健衛生所への疑いの届出後、家畜防疫員が直ちに農場に急行し、農場を閉鎖し、飼養鶏の
隔離、農場出入りの禁止、消毒等を実施
(2)殺処分
ア.対象
患畜及び同居等で疑似患畜と判断される鶏(農場飼養鶏)
なお、茨城県の発生においては、抗体陽性であってもウイルスが分離されない場合、ウインドレ
ス鶏舎等のウイルスが容易に拡散しない鶏舎構造や飼育管理を条件に、直ちに殺処分せず、監視
を続行
イ.方法
鶏を容器に入れ、炭酸ガスを注入し、殺処分を実施(図49、図50)
図49
容器に鶏を収納
図50
30
炭酸ガスを注入
(3)焼却または埋却
ア.対象
殺処分鶏、死亡鶏、汚染物品(鶏卵、排泄物、飼料、敷料等)等の感染を広げるおそれのあるも
の
イ.方法
発生農場内で梱包(感染性廃棄物処理容器、フレコンバック等)し、焼却施設(一般廃棄物焼却
施設)
、埋却地に搬入し、処理を実施(図51∼図54)
図51
梱包(感染性廃棄物容器)
図52
図53 焼却施設に搬出
梱包(フレコンバック)
図54 埋却地
(4)消毒
逆性石けん液、消石灰等を用い、農場(鶏舎内外)
、防疫作業に用いた器具等を消毒(図55、図56)
図56 農場消毒
図55 鶏舎内の清掃・消毒
31
2.移動の制限
(1)移動制限区域の設定
ア.区域の範囲
発生農場を中心として、茨城県の発生においては半径5km、宮崎県、岡山県の発生においては
半径10kmの範囲を指定
イ.期間
発生農場の防疫措置完了後、21日間以上
ウ.制限内容
(ア)家きん及びその死体、家きんの卵、排泄物等、本病の病原体を広げるおそれのあるものの 移動制限
(イ)消毒ポイントの設置
飼料運搬車等を消毒するため、幹線道路等に消毒ポイントの設置
(ウ)食鳥処理場、GPセンター、ふ化場の閉鎖
エ.制限の例外
発生状況、清浄性の確認状況、移動先の病原体拡散防止措置等を勘案し、家きん卵の移動(出
荷監視検査実施後)
、移動制限区域内のGPセンターの再開等
(2)搬出制限区域の設定
ア.区域の範囲
発生状況、清浄性の確認状況等から、当初、移動制限区域として設定した範囲のうち、半径
5kmから10kmの範囲を指定
イ.期間
発生農場の防疫措置完了後、21日以内
ウ.制限内容
(ア)家きん及びその死体、家きんの卵、排泄物等、本病の病原体を広げるおそれのあるものの
搬出制限区域外への移動制限
(イ)消毒ポイントの設置(図57、図58)
移動制限区域で設置した消毒ポイントの継続
(ウ)搬出制限区域内及び搬出制限区域外の種卵を用いたふ化場の再開
エ.制限の例外
搬出制限区域外の食鳥処理場、GPセンターへ直接搬入する家きん、家きんの卵の移動等
図57
消毒ポイント
図58
32
消毒ポイントでの車輌消毒
3.清浄性の確認のための検査
(1)移動制限区域及び搬出制限区域における検査
ア.第1次清浄性確認検査
(ア)実施時期
発生農場の防疫措置完了後直ちに実施。なお、宮崎県(3例目)
、岡山県の発生においては、
家禽疾病小委員会(1月31日)の意見を踏まえ、発生農場の防疫措置と並行して実施
(イ)検査対象
・家きんを1,000羽以上飼養する全ての農場
・愛がん鶏(1,000羽以下を含む。
)を飼養する10戸
なお、対象とならなかった飼養場所については、聴き取り、または立入検査等で臨床症
状に異常が認められないことを確認
(ウ)検査内容
・臨床検査
・ウイルス分離検査及び血清抗体検査
イ.第2次清浄性確認検査
(ア)実施時期
発生農場の防疫措置完了後、おおむね10日目以降
(イ)検査対象、検査内容
第1次清浄性確認検査と同じ
(2)移動制限の解除後の検査
ア.実施時期
解除後、3ヵ月間
イ.検査対象
移動制限区域内の家禽を1,000羽以上飼養する全ての農場
ウ.検査内容
(ア)死亡羽数等の状況(家畜保健衛生所に報告)
(イ)立入検査による家きん等の臨床検査及びウイルス分離検査、血清抗体検査
(3)発生農場の経営再開のための検査
ア.農場の消毒と防疫対策の再徹底
少なくとも1週間間隔で3回以上反復消毒するとともに、農場における防疫対策(破損箇所の
補修等を含む。
)の改善
イ.鶏舎の床、壁、天井等のウイルス分離検査
ウ.モニター鶏の導入による臨床検査、ウイルス分離検査、血清抗体検査
33
(付属資料)
別表1 高病原性鳥インフルエンザウイルスに対する消毒薬使用上の留意点
1.適切な消毒薬を選択する
・高病原性鳥インフルエンザウイルスには、逆性石けん製剤、複合製剤、
アルデヒド製剤、塩素系製剤、アルコール製剤など、ほとんどの消毒薬
が有効である。
・消石灰も高病原性鳥インフルエンザウイルスに対して消毒効果がある。
・その他の細菌、ウイルス、原虫への消毒効果も期待する場合には、各薬
剤の特性を把握した上で使用する薬剤を選択する(特にエンベロープの
ないウイルス、結核菌、コクシジウムのオーシストに対しては有効な消
毒薬が限られているので注意する。
)
2.消毒薬を使用する前に
・踏込消毒槽、動力噴霧器などの設備を整える。
・添付の使用指示書をよく読む。特に推奨希釈倍率、作業従事者への影響
などについて正確な情報を入手する。
3.消毒薬の使用に際して
・有機物の混入は全ての消毒薬の効果を低減させる。消毒薬の使用前に、
水洗により有機物を十分洗い落とす。
・消毒薬液の温度が低いと効果が下がる薬剤が多い。冬期間は温水を利用
するか、通常よりも 濃い薬液を準備する。
・病原体は瞬間的には消毒されない。薬液への作用時間を十分にとる。
4.効果的な消毒を継続するために
・特に、踏込消毒槽の消毒薬は毎日交換する。
・作業をマニュアル化し、作業を徹底する。
34
別表2 主な畜産 用 殺 菌 消 毒 剤
種 類
逆性石けん
製 品 名
アストップ
(平成19年8月現在)
有 効 成 分
塩化ジデシルジメチルアンモニウム
畜産領域の効能効果
畜・鶏舎、畜・鶏体、伝染病発生時の
製 剤( 第四
鶏の飲水、搾乳・孵卵器具、乳房・乳
級アンモニ
頭、種卵卵殻の消毒、畜鶏舎の発泡
製造販売業者
科学飼料研究所
消毒
ウム塩製剤
、陽イオン界
アストップ200
同 上
同 上
面活性剤)
ロンテクト
同 上
同 上
同 上
クリアキル−ドライ
同 上
同 上
田村製薬
クリアキル−50
同 上
同 上
同 上
クリアキル−l00
同 上
同 上
同 上
クリアキル−200
同 上
同 上
同 上
カチオデット DDC-AP
同 上
同 上
同 上
クリンエール
同 上
畜・鶏舎、搾乳・ふ卵器具、畜・鶏体、
川崎三鷹製薬
同 上
乳房・乳頭、種卵卵殻、伝染病発生時
の鶏の飲水の消毒
クリンエール・200
同 上
同 上
クリンジャーム
同 上
同 上
大薬
デスマック
同 上
同 上
ヤシマ産業
パンパックス100
同 上
同 上
フジタ製薬
パンパックス200
同 上
同 上
同 上
ベストシール
同 上
同 上
日本全薬工業
メイクリア−100
同 上
同 上
科学飼料研究所
メイクリア−200
同 上
同 上
同 上
メイクリア−300
同 上
同 上
同 上
メイクリア−300
同 上
同 上
明治製菓
モルホナイド10
同 上
同 上
サンケミファ
モルホナイド20
同 上
同 上
同 上
動物用コリノンDDC10
同 上
同 上
住化エンビロサイエンス
動物用コリノンDDC20
同 上
同 上
同 上
プロクール
塩化ベンザルコニウム
乳頭の消毒
ヤシマ産業
動物用ベタセプト
同 上
乳房、畜体、畜鶏舎・器材、伝染病発
日本全薬工業
同 上
生時の飲水の消毒、種卵・ふ卵機器
の洗浄・消毒
サニスカット
両性石けん
[モノ、ビス(塩化トリメチルアンモニウムメ
畜・鶏舎、搾乳・ふ卵器具、豚・鶏体、
チレン)]-アルキル(C9-15)トルエン
乳房・乳頭、種卵卵殻の消毒
パコマ
同 上
同 上
同 上
パコマ200
同 上
同 上
同 上
パコマ300
同 上
同 上
同 上
パコマL
同 上
同 上
同 上
エグクリーン
同 上
同 上
田村製薬
ガードオール
同 上
同 上
同 上
ガードオール10%
同 上
同 上
同 上
くみあいクリーン
同 上
同 上
同 上
キーエリアA
塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン
畜・鶏舎、豚体、乳房・乳頭、種卵卵
フヂミ製薬所
科学飼料研究所
殻、搾乳・ふ卵器具の消毒、踏込消毒
槽での消毒
動物用ネオラック
ポリアルキルポリアミノエチルグリシ
同 上
住化エンビロサイエンス
ン塩酸塩
ザラハイ
同 上
同 上
フジタ製薬
テレメス
同 上
同 上
同 上
テレメス20%液
同 上
同 上
同 上
エイトール
ポリオクチルポリアミノエチルグリシン
同 上
ヤシマ産業
スイパー
同 上
同 上
コーキン化学
パステン
ポリアルキルポリアミノエチルグリシ
同 上
養日化学研究所
畜・鶏舎の消毒、踏込消毒糟での消毒
同 上
ン塩酸塩
パステンCMX
同 上
35
種 類
複合製剤
製 品 名
アリバンド
「北研」ゼット
有 効 成 分
畜産領域の効能効果
製造販売業者
塩化ベンザルコニウム、アルキルジア
畜・鶏舎、搾乳・ふ卵器具、種卵卵殻
ミノエチルグリシン
の消毒
塩化ベンザルコニウム、ポリアルキル
同 上
東邦化学工業
セラケム
ポリアミノエチルグリシン
「北研」ゼットコンク
同 上
同 上
同 上
オーチストン
オルトジクロロベンゼン、キノメチオネート
畜・鶏舎・その設備の消毒、畜・鶏舎の
科学飼料研究所
踏込槽での消毒、鷄コクシジウムオー
シストの殺滅、ハエ幼虫(ウジ)の駆除
ゼクトン
同 上
同 上
ヤシマ産業
コックトーン
オルトジクロロベンゼン、クレゾール
畜・鶏舎、踏込槽の消毒、鷄コクシジ
ライフテック・ア
ウムオーシストの殺滅、ハエ幼虫(ウ
ニマルヘルス
ジ)の駆除
動物用タナベゾール
同 上
同 上
大阪化成
ネオクレハゾール
同 上
同 上
明治薬品工業
動物用フマゾール
同 上
同 上
フマキラー
トライキル
オルトジクロロベンゼン、塩化ジデシ
畜・鶏舎の消毒、踏込槽での消毒、鶏
田村製薬
ルジメチルアンモニウム、クロルクレ
コクシジウムオーシストの殺減、牛コ
ゾール
クシジウムオーシストの殺滅
ヤシマゾール
C. P. P.
オルトジクロロベンゼン、クレゾール、
畜・鶏舎の消毒、鶏コクシジウムオー
クロルフェニルフェノール
シストの消毒、ハエ幼虫(ウジ)の駆除
オルトジクロロベンゼン、クレゾール、
畜・鶏舎の消毒、鶏コクシジウムオー
クロルオルトフェニルフェノール
シストの殺滅、ハエ幼虫(ウジ)の駆除
ポリオクチルポリアミノエチルグリシ
畜・鶏舎、搾乳・ふ卵器具、乳房・乳頭
ン、ポリオキシエチレンアルキルフェノ
、種卵卵殻、豚体の消毒、踏込消毒
ヤシマ産業
養日化学研究所
、踏込槽での消毒
ペルバン
ニッチク薬品工業
ールエーテル
槽での消毒
ワンシヨツト
同 上
同 上
パステンコンツ
ポリアルキルポリアミノエチルグリシ
同 上
養日化学研究所
畜・鶏舎及びその設備、種卵、養鶏用
科学飼料研究所
ライフテック・ア
ニマルヘルス
ン塩酸塩、ポリオキシエチレンアルキフ
ェニルエーテル
アルデヒド
エクスカット25%-SFL
グルタルアルデヒド
製剤
ハロゲン塩
器具器材の消毒
グルタクリーン
同 上
同 上
ヤシマ産業
グルターL
同 上
同 上
同 上
グルターZ
同 上
同 上
同 上
ヘルミン25
同 上
同 上
サンケミファ
クレンテ
ジクロルイソシアヌル酸ナトリウム
畜・鶏舎・その設備、畜・鶏体、豚・鶏(
日産化学上業
製剤(塩素
産卵鶏を除く)の飲水の消毒、少量
系)
散布機を用いた高濃度少量散布によ
る空鶏舎の消毒
スミクロール
同 上
同 上
住化エンビロサイエンス
アンテックビルコンS
ベルオキソ-硫酸水素カリウム、塩化ナ
畜.鶏舎、搾乳・ふ卵器具の消毒
バイエルメディカル
セラケム
トリウム
ハロゲン塩
クリンナップA
ノノキシノール・ヨード
畜・鶏舎、搾乳・ふ卵器具、乳房・乳頭
ファインホール
同 上
同 上
クリーンリー
同 上
同 上
伊勢化学工業
ヨードホール水溶散「タ
ヨードホール
畜・鶏舎等、畜・鶏体、乳房・乳頭の殺
日本天然瓦斯興業
バイオシッド30
複合ヨードホール
同 上
ファイザー
リンドレス
同 上
同 上
同 上
ポリアップ16
ヨウ素グリシン複合体液
畜・鶏舎、器具等、畜・鶏体、種卵の卵
協和醗酵工業
製剤(ヨウ
素系)
、種卵卵殻の消毒
ナベ」
共立製薬
菌・消毒
殻、乳房・乳頭、豚・鶏の飲水の消毒
資料:農林水産省動物医薬品検査所ホームページから作成
(注)殺菌消毒剤には、使用後出荷できない「使用禁止期間」と「休薬期間」が定められているものがありますので、使用に当たっては家畜保健衛生所にご相談ください。
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執筆者一覧
(五十音順)
○ 岡田ひろみ
岡山県高梁家畜保健衛生所
○ 神田 謙一
住田フーズ株式会社
○ 久保田和弘
宮崎県延岡家畜保健衛生所
○ 栗山 伸人
茨城県県北家畜保健衛生所
○ 合田 光昭
JAあいち経済連農畜産物衛生研究所
○ 迫田 義博(座長)
北海道大学大学院獣医学研究科
○ 真瀬 昌司
動物衛生研究所人獣感染症研究チーム
○ 水村 芳弘
株式会社アキタ
○ 米田久美子
財団法人自然環境研究センター
社団法人全国家畜畜産物衛生指導協会
〒113-0034 東京都文京区湯島 3−20−9 緬羊会館内
FAX 03(3833)3864
TEL 03(3833)3861
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