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大仲著述集(1)
熱赤外画像化装置-リモセン学会誌連載.pdf
技術展望・地球観測(日本赤外線学会誌Vol.1No.1p47-59).pdf
シンポジュームを振り返って(日本赤外線学会誌Vol3No2).pdf
巻頭言(日本赤外線学会誌Vol.5、No.1).pdf
赤外線技術研究会-MOS-1 VTIR.pdf
電子通信学会技術研究報告-86-10-31-4.pdf
画像化赤外観測機器(光技術コンタクトVol.31,No7).pdf
Ocean Age-VTIR.pdf
特許願(気象衛星).pdf
広視野マイケルソンフーリエ分光装置-特開平7-12648.pdf
惑星面観測装置-特開平6-286700.pdf
熱赤外画像化装置
-リモセン学会誌連載-
日本リモートセンシング学会誌
Vol.13No.2(1993)pp.68−74
連載講義
熱赤外画像化装置
大 仲 末 雄
ThermalInfraredSensingandImagingEquipment
SueoOHNAKA
いう)する熱赤外画像化装置に限定する。
1.は じ め に
画像化装置で観測する目的は,前述の3つの中から
熱赤外線は,我々の日常生活の分野で多く利用され
検知が除かれ,類別(Classification)が加えられるのが
ている。リモートセンシングの分野でも,気象衛星に
一般的である。このような熟赤外画像化装置による目
よって撮影されて報道される雲の画像は,地表面や海
的を達成するのを制約するものとして,検知器雑音
表面から放射される赤外線の強さと,この赤外線が雲
(Detectornoise)を主とした内部雑音と主に背景放射
により減衰して透過したものと雲自身から放射する赤
(Backgroundradiation)による外部雑音等の雑音が
外線との和の強さとの差から,雲の存在(分布)を算出
ある。また,野外特に遠距離の地点にある目標(物体)
したものである。このように熱赤外線は我々の身近か
を観測する場合には,大気の吸収,大気中に浮遊する
なところで利用されているが,画像化することにより,
粒子による散乱等により距離が増すと,目標からの放
熱赤外線と可視光線との性質の相違点が不明確になり
射の減衰が大きくなり,その上背景放射も増大する。
混乱させている恐れがある。赤外線という,人間の知
また,装置の構成要素である走査系を含む光学系によ
覚能力外の事象を取扱う場合,赤外線の性質をよく知
り,解像力の劣化,目標及び背景からの放射入力の減
った上で利用する必要がある。本講義では,熱赤外線
衰と迷光と呼ばれる内部雑音放射が付加されてコント
利用のための基礎知識として赤外線技術の応用分野と
ラストが低下する。さらに,光学フィルタや回折格子
赤外線の性質を解説し,熟赤外画像化装置の設計法と,
等の分光系による減衰,帯域外放射の漏洩などの分光
装置設計の制約条件や設計に必要な情報を設計者の立
性能の低下が生じ,多波長帯の場合にはバンド間レジ
場から,熱赤外画像の利用者を対象にしてのべる。
ストレーションのずれによる解像力の低下をひきおこ
す他に,電子回路系の周波数特性に起因する解像力の
2.熟赤外画像化装置とは
低下および,信号処理系での付加雑音等によるS・N劣
赤外線を利用したセンシングシステムとして,ここ
化がある。一方,信号処理系では,目標の性質や機器
で取り扱うのは,物体が放出する長波長赤外域の電磁
の特性と,利用目的とを整合させた信号処理(Mat−
波――以後,熱赤外線と呼ぶ――を検出することによ
chedfilter)により目標識別(認識・類別)性能の向上が
り,物体の存在を検知(Detection)したり,物体の形等
可能である。これを系統図として示すと,図1のよう
を認識(Recognization)したり,物体の種別等を識別
(Identification)するのに用いられる受動形の観測・計
になる。
測装置やシステムであり,さらに,画像化(映像化とも
テムである。
(1993.6.8受付)
富士通株式会社宇宙開発推進室
〒211 川崎市中原区上小田中1015
Copyright⑥1993RSSJ
熱赤外画像化装置は温度分布を検出するセンサシス
Space彦V6 踐ニ w認WfVニ
ヨV蹈w& W
FujitsuLimited.
1015,Kamikodanaka,Nakahara−ku,
Kawasaki211,Japan
−68−(156)
X
0
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.2
図1熟赤外画像化系統
センサシステムの定義は未だに確立していないが,
に変換するもので,「非五感」センサの「擬似五感対応」
通常人間の五感(視覚,聴覚,喚覚,味覚,体性感覚の
化センサということができ,データ(表示画像)を見る
五器官)に相当する機能を想定することができる。すな
ことによる直感化の利点がある反面,表示画像から原
わち,人間の行動をひとつのシステムと考えた場合,
情報に復元することを頭の中で行なわれなければなら
「刺激」→「受容器」→「神経」→「脳」の過程と「脳」
ない。例えば,地表面を撮影し,擬似カラー画像で表
→「神経」→「動作」に分けると,前者を「感覚器シ
示又は印刷したものを見たとき,緑色の部分を緑地帯
ステム」,後者を「行動器」システムと考えることがで
や森林地帯であると誤って判断してしまう恐れがある
きる。これに対し,メカトロニクスシステム(又は制御
(「高感度」のものは想像力が働くのでその恐れがな
システム)では,「情報」「トランスヂューサ」「通信系」
い)。これは「非五感」のセンサは,自己増殖によるユ
「情報処理器」よりなる「センサシステム」と,「コマ
ーザー層の拡大が期待できず,装置開発者と利用法の
ンド発信系」「通信系」「駆動系」よりなる「アクチュ
研究者が協力して利用技術を開発し,その利用価値,
エーターシステム」に対応させることができる。この
有用性を一般のユーザーが肌で感ずるまで繰り返して
「感覚器システム」と「センサシステム」の対応関係を
宣伝しなければ,普及しないことを意味する。
図2に示した。
ところで,熱赤外画像化装置は「温度センサシステ
3.赤外線技術の応用分野
ム」の一種である。人間の温度センサは,接触によっ
赤外線技術は,本講義の主題である熟赤外画像化装
て感じとるもので,視覚によっていない。すなわち,
置を含めて多岐にわたって利用されているが,Ri−
熱赤外画像化装置は,人間の「感覚器システム」には
chardD.Hudson,JR.は,技術的事項の利用マトリッ
対応するものがない「センサシステム」である。
クスを作成している1)。これをほん訳して表2に示し
センサシステムを感覚対比による分類として(ア)五感
てある。
対応,(イ)超五感対応に分けら
れ,前者での五感の各器官と
取り扱う刺激(センサシステ
ムで取り扱う対象も同じ)の
関係を表1に示す。
超五感のものとしては,入
図2感覚器システムとセンサーシステムの対比
力情報が五感と同じであるが,
人間の感覚では検出できない程の微量を検
出する「高感度」なものと,人間の感覚で
表1 五感対応
は検出し得ない性質の情報,例えば超音波,
磁気,紫外域,赤外域の電磁波等を検出す
器 官
目
刺 激
可視光
耳
鼻
舌
る「非五感」のものがある。
熱赤外画像化装置は,例えば温度という
体性感覚で知覚する刺激を目で見える刺激
音 波
平 衡
−69−(157)
味
におい
(
ガス等) (イオ ン等)
体 性
(
皮フ,深部)
温 度
圧 力
熟赤外画像化装置
この著書は1968年に書かれたもので,その後の技術
電製品のリモートコントローラ,水洗便器の流水制御
の進歩,社会経済の変遷などにより現在ではさらに利
等の民生分野に普及してきた。一方,熱赤外画像化や
用分野が広がっている。特に近赤外領域の非画像化分
マルチスペクトル熟赤外画像化などの技術は,リモー
野で,発光ダイオードとの組合せによるものでは,家
トセンシングには不可欠になりつつあるが,さらに応
表2赤外線技術応用マトリックス
ー70−(158)
日本リモ――トセンシング学会誌Vol.13No.2
用分野を拡大するために,精力的な研究開発の継続し
Wλが最大となる波長をλmとすると
た推進が必要である。
λm・T=2897.8(μm・K)
この他に,Wλの近似則としてつぎのものがある。
4.熱放射の理論
iv)ウィーンの近似則
4.1 黒体放射
λTが小さい(C2/λT≫1)のとき
マルチスペクトルの熱赤外放射計などの熱赤外画像
Wλ(T)≒(c1/λ5)exp(−C2/λT)
化装置は,観測対象からの放射(熱放射という)の大き
この近似で誤差1%以下になるのは,λT≪3124.3
さを測定するものである。
(μm・k)で,λ=1μmでは約3000Kまでの対象に対
すべての物体はその温度に対応した電磁波を放射
してであり,λ=10μmならば常温近辺までである。
(熱放射)している。黒体(理想的な熱放射体)からの放
v)レイリー・ジーンズの近似則
射を黒体放射といい,次の諸法則がある。
λTが大きい(C2/λT≪1)のとき
i)ブランクの法則
Wλ(T)≒(c1/C2)T/λ4
温度T(K)の黒体からの分光放射発散度は次式で表
この近似が誤差1%以下で成り立つためのλTの範
わせる。
囲は,λT≫7.24×10−1m・Kである。この式は主とし
Wλ=(c1/λ5)[exp(C2/λT)−1]−1(w・m−2・μm−1)
てマイクロ波(波長3cm∼3mm,周波数では1GHz
Cl=2πhc2=3.741×10 8(w・m−2・μ−4)
∼数10GHz)では,T≧27K∼270Kの範囲の対象に
C2=hc/k=1.438×104(μm・K)
成り立つ。
C:光速度(2.998×10 8m・s−1)
ブランクの法則を温度−20°C∼80°C(253K∼353
h:ブランクの定数(6.626×10−34J・s)
K)の範囲で示したのが図3である2)。
k:ボルツマンの定数(1.3086×10−23J・K−1)
順序が逆になったが,電磁波の波長・周波数の関係
ii)ステファン・ボルツマンの法則
を図4に示す3)。図3,図4に見るように,常温では波
この黒体からの全放射発散度はつぎのよになる。
長10μm近辺の熱赤外城の放射が最も大きい。
W=σT4(w・m−2)
4.2放射率
σ:ステファン,ボルツマンの定数
普通の物体からの熱放射(W',Wλ')は,黒体からの
(=2π5k4/(15C2h3)=5.670×10−8w・m−2・K−4)
熱放射(W,Wλ)と比例の関係にあり,次式で表わせる。
iii)ウィーンの変位則
W'=εW,WA'=ε(λ)Wλ
ε:全放射率,ε(λ):分光放射
率
分光放射率の状態によって,放射
体をつぎのように3分類できる。
①黒体ε(λ)=ε=1
②灰色体ε(λ)=ε=一定
(<1)
③選沢放射体ε(λ)
4.3キルヒホッフの法則
物体に入射した放射エネルギー
(E1)は,その一部(Ea)が物体に吸収
される。α=Ea/E1を吸収率と呼び,
この吸収率と放射率(ε)とは等しく,
つぎのように表わせる。
図3ブランクの放射則
ε=α
−71−(159)
熱赤外画像化装置
図4「電磁波」の図3)
また,物体に入射した放射は,反射・透過・吸収さ
ことができ,観測対象の放射特性が既知の場合は大気
れ,これらの入射強度に対する比率を,反射率(β),透
の減衰特性を明らかにすることができる。
過率(τ),吸収率(α)とすると,エネルギー保存則か
電磁波の大気伝搬の影響には,吸収,散乱放射があ
る。
ら,つぎのようになる。
吸収は,大気中に存在する気体分子によって生じる。
α+β+τ=1
この吸収率,反射率および放射率が波長に対して一
大気中の気体分子は,地表近辺と上空でその構成す
定でないとき,選択吸収,選択反射,選択透過および
る成分とその濃度が異なるため,地上又は低空の航空
選択放射と呼び,その波長特性は物体を構成する物質
機等に搭載して使用する装置と,人工衛星等の宇宙機
固有のものである。
に搭載して,宇宙から地表面,海表面を観測する装置
とでは,大気の影響,すなわち減衰特性が異なる。
5.大気の影響
地表近辺の大気の透過率の波長特性(分光特性)を図
熱赤外画像化装置で対象を観測する場合,対象が放
5に示してある4)。また,宇宙から地表を観測する場合
射する赤外線が大気中を伝搬(透過)することになる。
の大気のそれを図6に示す5)。また,図7に,航空機で
この伝搬中の減衰特性が既知の場合は,装置へ入射す
斜下方を観測する場合において,波長8.0∼12.0μm
る放射から,観測対象の出射した放射特性を算出する
の透過率を6),図8に,波長3.0∼5.0μmの透過率を高
度による差異,気象による差異,地域
による差異の一例として示してある6)。
このように,高度により透過率が異な
ることは,CO2吸収波長帯またはその
近辺を用いて,宇宙から狭帯域の装置
で観測すると,雲の高度や,気温の垂
直分布の算出の可能性があることを示
唆している。
放射は,大気中の気体分子が,その
温度に対応する強度で,その分子固有
の波長(吸収波長に近い)の電磁波を放
射するが,線スペクトルで構成される
図5大気の透過率(海抜Om,距離18km)4)
ため,特殊な,高感度の分光放射計で
ー72−(160)
日本リモ――トセンシング学会誌Vol.13No.2
のみ観測可能である。
τ=exp(−kx)
散乱は,大気中の粒子により伝搬中の電磁波が拡散
することにより減衰することで,弾性散乱と,非弾性
この中間の粒子径のとき,散乱となる。いま,透過率
散乱に分けられる。弾性散乱のうち,波長が粒子径よ
ようになる(nは単位体積当り粒子数,γは粒子半
り長いときにはレーリー散乱で透過率は距離Ⅹに対
径)7)。
してつぎのようになる。
τ=exp(−γ・x)
を次式で表わし,γ=πnkγ2を導入すると,kは図9の
非弾性散乱には,ラマン散乱,蛍光などがあるが,
τ=exp(−kλ−4・x)
また,粒子径が波長に比して極めて大きいとき,透過
ここでは詳しい説明を省略する。
率は波長に無関係になり,透過率は次式で表わせる。
もや,霧,雲による減衰は主に散乱によるものであ
図6大気の透過率(宇宙から地表面)5)
図7大気の透過率(上空)6)
−73−(161)
熱赤外画像化装置
図8大気の透過率(上空)6)
る。さらに,曇天時の昼間は,散乱のため明るい
が物体の影を作らず,比較的均等に入射放射束を
拡散する。又,粒子から,その温度に対応した灰
色熱放射が相互に散乱しながら行なわれるため,
雲のように厚みをもつ場合は,黒体放射に近いも
のとなる(昼の雲は,太陽光(可視域の放射)の散乱
反射が,熱放射に比し大きいので白く見えるが,
赤外線波長域の放射は黒体放射に極めて近いもの
になる)。
図9散乱減衰係数比(対粒子断面積)7)
雨による影響には,前述の大径粒子の散乱の他,
遮断減衰と見られる現象がある。
−74−(162)
日本リモートセンシング学会誌
Vol.13No.3(1993)pp.65−80
連載講義
熟赤外画像化装置(第2回)
大仲末雄
ThermalInfraredSensingandImagingEquipment
SueoOHNAKA
の波長帯を用いるのが通例で,表2で取り上げた捜
6.熟赤外イメージングの観測対象の性質
索・追尾,ラジオメトリー等,熱画像化以外の技術の
熱赤外イメージングの観測対象は,観測日的により
利用分野でも,その利用目的に対する能力が,画像化
大きく変わるのみならず,観測対象の持つ多種多様な
して形状を明らかにすることにより向上することを期
性質のうち,観測目的と観測装置の機能とで整合性の
待して画像化することがある。
ある性質を抽出して利用する必要があり,整合性が見
目標(観測対象)を捜索したり,捕捉(Acquisition),
出せなければ,目的に整合する性能・機能を有する専
追尾(Tracking)したりするには,目標が視野内に「入
用の装置を開発する必要がある。ここでは,観測装置
り(In)」,観測者(装置)により「注視(Look)」され,「検
が単一波長帯画像化か,多波長帯画像化かそれとも画
出(Detect)」され,「分類(Clasify)」され,「認識(Recog−
像化分光か,また単一波長帯画像化の場合でも放射量
nize)」され,「識別(Identify)」される必要がある。追
や温度分布の絶対値を測定するのか,画像の濃淡,す
尾には,観測機能の他に制御機能が必要であるから,
なわち放射や温度の差の分布を求めるのかで装置に要
捕捉について検討する。目標の捕捉確率P(Acq.)は,
求する機能・性能が大きく異なる。また,観測対象が,
次式で表わせる。
熔綱炉や製綱工程中の赤熱綱塊等の高温度物体か,人
P(Acq.)=P(Idenify)・P(Recognize)
体や地球表面等の常温物体かで装置の具備すべき性能
・P(Clasify)・P(Detect)・P(Look)
が異なる。
目標の検出等の使用日的(弁別レベル)と,その目的に
6.1単一波長帯画像化装置の対象
対応(達成)しうる可能性を50%としたときの解像力
(1)形状の観測
の関係は,表3のように表わせる8)。
形状を観測するものとしては,表2の4.熱画像化欄
この使用目的の達成確率と画像化装置の解像力(目
の大部分が当てはまり,装置性能としては,放射強度
標を車両としたとき,目標が小型車か,大型トラック
や温度の差異の分布を求めればよく,校正機能が不要
かなどの識別をするために,画像化装置を用いるもの
で,標準黒体等は必要でなく,高い感度(温度分解能)
として,解像力を,ディスプレイ装置の画面上で,車
と解像力(空間分解能)が要求される。この装置では,
両の高さが何本の走査線で構成されているかで表わ
車両や人間等を,それらが周囲との温度差があること
す)の関係を図10に示す9)。また図11(a)は目標面像の
に着目して検出したり,認識や識別をするので,観測
寸法を構成する走査線数で表わした大きさと,表示画
対象の温度測定の絶対値はあまり重要ではなく,波長
面全体の縦方向走査線数の関係(これは,表示画面上
帯域も,温度差が検出できればよいので広くして単一
に目標像が占める割合を示す)をパラメータとして,
(1993.8.12受付)
富士通株式会社宇宙開発推進室
〒211川崎市中原区上小田中1015
Copyright◎1993RSSJ
Space Technology Development Group.,
Fujitsu Limited.
1015,Kamikodanaka,Nakahara−ku,
Kawasaki 211,Japan
−65−(261)
熱赤外画像化装置(第2回)
数として表わしたものであ
表3 使用目的と解像力の関係
使 用 日的
解像力(
lin e p airs/targ et)
検 出
方 向
認 識
識 別
1.0 ±0.2 4
1.4 ±0. 35
4. 0 ±0. 5
6.4 ±1. 5
る10)。(ちなみに,人間の目
の解像力は,視力1.0を,
C環の1分(1/60度)の間
隔を認識できることで定義
試験用標準パターン(3本の線を縦または横に等間隔
しているので,視力1.0の人は,視野6分の大きさの
に書いたもので解像力の試験に用いる;Tribarとい
Tribarを識別できることになる。このことは,図11
う)による限界解像力を,画像全体に対応する高さの
で,6Lines/Target以下では,限界解像力がPicture
目標を観測者(又は画像化装置)が,見るときの視野
Heightに無関係であることの説明にもなる。)
角の関数として表わしたものである。図11(b)は,視野
湾岸戦争時,多国籍軍の射撃照準映像がテレビニュ
角をパラメータとして,限界解像力を,走査線数の関
ースで放映されたが,この映像は殆んど熱赤外画像,
図10識別確率(専用車両)9)
図11Tribar(垂直)テストパターン解像限界10)
−66−(262)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
それも単一波長帯域の放射コントラスト観測(非湿度
の利得調整機能により)を行う。2次の係数を設定する
測定)のものであった。
には更にあと1点の温度に設定した黒体を観測する必
このカテゴリーに属する観測対象の代表的なものと
要がある。
して,高温のものの中には,製鉄所の熔鉱炉内の監視,
このように,測温のためには装置が複雑になるのみ
製鋼工程でのスラブ(赤熱の鋼塊)のキズの検出,火災
ならず,観測に際しても,標準異体による装置の校正
検出等があり,常温のものには,自動車などの車両,
を行う等,取扱いに細心の注意が必要である。
海洋汚染等の公害・災害の監視,交通量計測・船舶監
温度の絶対値の分布を観測する対象として,高温の
視等の交通管制,偵察,ミサイルの照準や自動追尾,
ものとしては,加熱装置(の効率算出),加熱加工工程
犯人捜索や侵入者検知等,軍事・警察・警備等の監視
(製鋼所の熔鉱炉の高効率化,半田付作業の半田の温度
対象の大部分が含まれる。
管理など)の管理用監視目標などがある。常温用のもの
(2)温度分布の測定
は非常に多く,例えば,医療用サーモグラフイの対象
温度分布の測定には,観測時に装置の温度測定精度
として,人体表面,地表面・海洋画,雲,月・惑星な
が維持されていなければならず,そのために装置の校
どがあり,また,低温用のものとしては,上空の雲や
正ができるようになっていなければならない。又,画
水蒸気・CO2などがある。
像化電子回路は直流分の維持が困難であり,直流分(こ
6.2多波長帯・分光画像化装置の対象
の場合は温度の絶対値)を再生するための回路と再生
多波長帯画像化装置,さらにこれらを超多波長帯化
のタイミングに同期させた光学系の光路内に一定温度
した分光画像化装置の設計を困難にしていた,狭波長
の放射源を挿入し,その時の温度と装置の出力信号の
帯域幅化による入射パワーの低下によりS/Nが小さ
大きさとを対応させる(クランプすると呼ぶ)。これで,
くなる問題は,赤外線検知器の一次元,二次元アレイ
観測対象の観測温度範囲の中の1点が設定される。し
化,多素子化技術の進歩により克服され,開発が可能
かし,装置の出力信号の大きさと対象の温度の関係で
の1次の係数が定まらないので,装置の特性が変動し
ない期間内に観測を完了するものとし,観測の直前と
直後に高い精度で温度設定(又は測定)した標準異体
(内蔵したものもある)を観測し,その係数の設定(装置
図12(a)水,植物,土壌の分光反射率(Swainand
図12(b)可視領域でのクロロフィル量と水の
Davi8,1978)ln)
分光反射率との関係(Swainand
Davis,1978)11)
−67−(263)
熱赤外画像化装置(第2回)
になった。
宇宙からの観測対象である岩石,土壌や大気は選択
放射体でε(λ)は一定でなくその物質固有のものであ
る。又,大気を通して宇宙から海面や地表を観測した
場合の大気の透過率τ(λ)も一定ではない。この性質
を利用して,地表面・海面温度測定での大気の影響を
除去する方法が開発されている。現在の光学系リモー
トセンシングには,熱赤外域のみでなく,紫外域,可
視近赤外域,短波長赤外域を含めて波長帯の数の多寡
があるが,殆んど多波長帯の画像化装置が用いられて
おり,分散分光による画像化装置の開発も計画(米国の
HIRIS,MODIS−Tなど)されている。図12は,水,植
物,土壌の可視∼短波長赤外域での分光反射率,クロ
ロフィール量による水の可視域での反射率の波長特性
を一例として示した11)。また図13には,熟赤外域にお
ける分光放射率の一例として,火成岩類の分光放射率
の特性を示してある12)。
大気に関する波長特性の一例として,図14に海抜0
mで,距離5.5kmと16.24kmにおいて,波長0.5
μm∼14.0μmまでの大気の透過率の波長特性を13),
図13熟赤外城における火成岩の分光放射率12)
図15に海抜0mで波長1.0∼15μmでの太陽放射の
波長特性と大気中の気体の吸収の波長特性を14),図16
には人工衛星Nimbusからメキシコ湾を観測した放
射輝度と,LOWTRAN2(現在はLOWTRAN7があ
り,より高精度になってい
る)により熱帯地方と中緯
度地方の夏季の放射輝度を
算出したものを示してあ
る15)。
このことは,大気を通し
て観測・測定する場合,装
置への入力放射(観測値)に
大気の減衰の補正を行なっ
て,真値を求める必要があ
ることを示唆している。
7.熟赤外画像化装置の性
能について
観測対象の検出・分類・
識別を,画像化を通じて行
う画像化装置の評価項目の
図14海抜0m,距離5.5kmと16.25kmでの大気の透過率13)
−68−(264)
主なものは,対象からの放
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
解能」および,対象の放射スペクトル分布
の繊細さの弁別限界を評価する「波長分解
能又は分光分解能」又は「濾波力又は濾波
性能」があり,このそれぞれに対して,装
置で観測しうる最大限界を示すものとして
「ダイナミックレンジ」,「視野」,「波長域
又は波長範囲」がある。この他にも,計測
器として使用する場合は,観測対象からの
放射(強さ,波長,空間的大きさ)の絶対値
を明らかにする必要があり,計測値の正し
さを評価するための「精度」と経時的にい
かに変動しないかを評価するための「安定
度」がある。また,これらは弁別限界を個々
に評価するものであるが,実用的見地から,
これらの各項目を組合せた「総合性能」の
評価法,評価項目も定義されている。
7.1感度とダイナミックレンジ
熱赤外域での観測対象は,背景からの放
射が比較的大きく,対象からの放射との差
(コントラスト)が小さいので,「感度」の表
現法として「エネルギー分解能」の方が一
図15波長1.0∼15.0μmでのソーラースペクトル14)
般的に用いられる。エネルギー分解能とし
て,S/N,NE△ρ,NEP,NE△Tなどが定
義される。
S/Nは,装置に入射する観測対象からの
放射パワーに対応する装置信号出力をS,
装置内で発生する雑音出力をNとして,そ
の比(信号対雑音比)で表わした装置感度で
ある。NE△ρは等価雑音反射率で,主とし
て可視域から短波長赤外域の観測装置に適
用され,観測対象の反射率をρとし,背景
の反射率をρ。としたとき,△ρ=ρ−ρ。に
対応する装置信号出力をSとして,S/N=
1になる△ρがNE△ρである。このNE△ρ
を適用するには,観測対象と背景への照度
(放射照度)は等しく,予め設置しておく必
図16LOWTRAN2による計算とNimbusデータの比較15)
要がある。NEPは,S/N=1に対応する装
置への入射パワーで,雑音等価パワーと言
射量弁別限界又はコントラストの弁別限界を評価する
う。NE△Tは,雑音等価温度差で,主として熱赤外域
「感度」又は「エネルギー分解能」,対象の空間分布の
繊細さの弁別限界を評価する「解像力」又は「空間分
の観測に用いる。NE△Tは,観測対象と背景の温度差
を△Tとしたとき,この△Tに対応する信号出力をS
−69−(265)
熱赤外画像化装置(第2回)
図17熟赤外画像化装置系統
として,S/N=1になる△Tで定義する。このように,
感度は装置内で発生する雑音で定まることになる。
熱赤外画像化装置で発生する主な雑音は図17に示
すように,(1)検出器雑音,(2)増幅器雑音,(3)サンプリ
ング雑音,(4)量子化雑音等がある。この中で,検出器
雑音が支配的であるので(検出器の性能向上で他の雑
音が無視できなくなりつつあるが),以下これについて
τ:そのlifetime,
Rd:検出器抵抗
iii)1/f noise(en1/f)
en1/f=Rd・I√(△f/f・Ad)
ここに,
f:出力信号周波数で目標の空間周波数×走査速度,
またはチョッビング周波数
説明し,さらに,検出器の性能指数としてのD*につい
て述べると共に,装置の感度について考える。
(1)検出器の雑音
光量子型検出器の雑音には,到着photon数の変動
によるPhotonnoise,自由電子の生成・再結合のran−
dom性に起因するG−Rnoise,要因が明らかになって
いないが,non−ohmic contact,結晶表面などでみられ
る1/f noiseがあり,さらに抵抗体内の自由電子の
random motionに因るJohnson noise(熟雑音)及び
p−n junctionを通過する電子や正孔の不連続性,不規
則性によるShot noiseがある。
i)Photonnoise(enp)
iv)Shot noise(ensh)
(注)この雑音は光導電形(PC)検出器の場合は存在し
ない。
V)Johnson noise or Thermalnoise(enth)
enth=√(4kTRn・△f)
k:ボルツマンの定数,
T:絶対温度(K)
vi)Total noise
en=√(enp2+enGR2+en1/f2+ensh2+enth2)
通常は下図に示したようにPhotonnoise+GTR
noiseが他に比し大きいので,他を無視することが多
い。ただ,フレーム周波数が小さい時,1/f雑音を無視
enp=R・NEP=R√(Ad・△f)/D*
ここに
NEP:雑音等価入力パワー
R:検出器のレスボンシビティ
することができなくなる。(この1/f雑音は,チョッビ
ング,ブロック走査等でフレーム周波数の下限を高く
することで小さくすることができる。)
Ad:検知素子面積
△f:等価周波数帯域幅
D*:検出器の性能指数
ii)G−R noise(enGR)
enGR=Rd・I√(2π・△f N(1十4π2f2τ2))
ここに,
I:直流電流
N:検出器内の自由電子総数の平均,
−70−(266)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
(2)D*について
の対象物を単素子(又は少数リニアアレイ)検出器で走
検出器の性能指数として比検出率(Specific Detecti−
査鏡等で光学的に機械的手法で,順次走査していくウ
vity)D*がPhoton noise+G−R noiseが優勢な周波数
ィスクブルーム走査方式,リニアアレイ検出器で一方
域で用いられる。
向を一度に観測し,他方向を光学的に衛星等の進行や
D*=√(Ad△f)/NEP(cm・Hz1/2・W−1)
機械的手法で順次走査するプッシュブルーム走査方式
NEP=H・Ad/(Vs/Vn)=Vn/R(W)
(ファクシミリ等),対象物を光学的には一度に一定時
Vs:信号出力電圧
間観測(ステアリング)し,電気的手法を用いて順次走
H:放射照度(irradiance)=dP/dA。(Wcmr2)
査するテレビジョン走査方式がある。
P:検知素子面への入射パワー(W)
ここでは,この画像化装置のS/Nについて考える。
Vn:雑音電圧実効値(=en)
画像化装置の目標の面積は,装置の瞬時視野に対応
Ad:検知素子面積(cm2)
する対象面積に比し大きいのが普通であるが,瞬時視
R:検出器のレスボンシビティ(V/W)
野より小さい場合もある(ここでは主として前者を取
検出器の性能は通常f=1000Hzで測定するため,前
り扱う)。
項の1/f雑音を含まないものとなっている。
前者のS/Nは次式で表わせる。
センサ装置やセンサシステムを論じたり,設計した
S/N=A・Ad/(π・N・fo2)∫λ2
りする場合は,photonの振る舞いまで考えず,検出器
の性能表やデータのうちD*の値を用いて算出すれば
-λ1Wλτa(λ)τ0(λ)R(λ)dλ
よい。この場合,1/f雑音については性能表等の規定周
Wλ:目標の分光放射発散度(Wcm−2μm−1)
波数について注目し使用条件での値に換算して算出す
τa:大気の透過率
る必要がある。
τ0:光学系の総合透過率
一方,P−V型の如くshot noiseが大きい検出素子を
A:装置の開口面積(cm2)
R(λ):検出器分光応答度
用いるときは,入力(直流分)およびバイアス電流の絶
λ1,λ2:波長の下限,上限
対値に注目し,実レベルで算出する必要がある。
(3)装置感度について
N:等価雑音入力
Ad:検出器素子面積(cm2)
センサ装置の感度は,一般に信号出力と雑音出力の
fo:光学系の焦点距離(cm)
比(S/N)で表され,特に熱赤外センサの場合には,S/
装置の瞬時視野が目標より小さいので,検出器雑音
N=1となる対象物体(観測目標)の放射温度差を
(装置の増幅器等の雑音を含めて)が支配的で,背景雑
NE△Tと定義し,感度の目標とする場合が多い。
音が無視できる(瞬時視野が目標より大きいと背景雑
センサ装置には,(ア)対象物体の放射強度の2次元分
布を取り扱うものと,(イ)対象物体の放射強度の平均値
を取り扱うもの,(ウ)これらそれぞれの時間的変化を取
り扱うものがある。例のセンサは画像化装置とか映像
音が支配的になる)場合,熱赤外装置のS/Nは目標と
背景の温度に着目して次式で表わせる。
S/N=△T(DoD*τ0√ω√/4F√(△f)∫∂Wλ/∂Tτadλ
装置といわれ,2次元の各最小単位観測目標(画素)に
ここに,
対して,それぞれ検出素子(又は信号チャネル)を対応
△T:信号として注目する目標(シーン)と背景の温
させるもの(例えば,人間の目や写真のフイルム)と単
度差
一の検出素子又はチャネルを対応させるもの(テレビ
D*:比検出率(cm・Hz1/2・W−1)
ジョンやファクシミリ等)があり,前者を非走査型,後
ω:瞬時視野(str)
者を走査型という。信号伝送を必要としたり,信号処
△f:装置周波数帯域幅(Hz)
理を行う装置では,装置の複雑さやコスト面から走査
D。:光学系の開口径,D0=2√(A/π)(cm)
型が主として用いられる。走査型の場合にも,検出デ
F:光学系のF値(=f。/D。)
バイスの技術(多素子化)の発展段階に応じて,2次元
赤外センサ装置のときS/N=1となる△Tを雑音
−71−(267)
熱赤外画像化装置(第2回)
等価温度差NE△Tと呼び次式で与える。
の関係にある。
NE△T=4F√(△f)/(D。D*τ0τa√ω)・
また,観測対象の温度をTとすると,NE△Tとの間
{∫λ2
で次の関係がある。
λ1∂Wλ/∂Tdλ}−1(K)
次に多素子化や走査効率を考慮した場合について考
NE△ε=(C2/λT2)NE△T
察する。
反射検出型装置のS/Nは先の式で△T→△ρ,(目
全視野をΩ(str),フレーム時間(全視野を走査する
時間)をtf(sec),走査効率(有効走査時間と全走査時間
標と背景の反射率の差)またはρ(目標の反射率)aWλ
/∂T
の比)をηs,多素子検出器の素子数をnd,各検出素子の
→Wλと置き換える。このWλには対象物のみならず,
dwelltime(目標像の中の一点が走査によってある検
伝搬路の放射・散乱波も含まれる(単なる背景雑音とし
出素子を通過する時間)をtdとすると,tdは,
てのみではなく,ショット雑音を増加させる要因とし
td=tf(ndω/Ω)・ηs
ても働く)。
ここに,C2=0.014338(m・K)
S/Nは,
で表わされ,帯域幅△fは,標本化定理に従えば,
S/N=(1/√K)・(ω・√(t/Ω)/2/√2)・
△f=1
/2td(Hz)
(D*√(ndηs)τ0D0/F)・(∫Wλ△ρλτadλ)
で与えられる(以下,ナイキスト周波数帯域幅)が,装
また,背景が暗黒(放射反射がない)の場合は,
置の空間分解能(MTF等)をよくするために,帯域幅
S/N=(1/√K)・(ω・√(tf/Ω)/2√2)・
のマージンK(≧1)とし,
(D*√(ndηsτ0D0/F)・(∫Wλρλτadλ)
△f=K
/2td=K/2(Ω/tf)(1/(nd・ω・ηs))
ここに.
とする(ナイキスト周波数帯域幅通り設計すると,
D*=√(Ad△f
)/NEP=√(Ad△f
)/(Vn/R)
Vn:雑音出力電力電圧の実効値
MTF)≒0.7となる)
よって,S/Nは次式で表される。
S/N=△T・〔(1/√K)・(ω・√(tf/Ω)/2√2)(D*√(ndηsτ0
R:検出器のレスボンシビティ
で表わされる。このうち,第1の△ρλを含む式は周辺
D0/F)・
と目標のコントラスト((ρT−ρB)/(ρT+ρB):ρT,ρBは
∫λ2
λ1∂Wλ/∂T・τadλ〕
また,NE△Tはこの式の〔〕の逆数で与えられ
それぞれ目標,バックグラウンドの反射率)が小さい場
る。
きいときに用いられる。この2つの式を用いる波長域
合に用いられ,第2のρλを含む式はコントラストが大
これらの式で,〔〕内の第1項(1/√K)は画質マー
は,常温での放射背景信号(雑音)が小さいのでS/Nで
ジン係数,第2項(ω・√(tf/Ω)/2√2)は要求で定まる装
表わされるこれらの式を用いるのが一般的である。ま
置設計の基本要目で,第3項(D*√(ndηs)・τ0・D0/F)は設 れに,NE△ρの式を用いることがある。この場合,△ρλ
計者が技術の現状や寸法・重量等のリソース及びコス
を含む式のS/N=1とする△ρをNE△ρとして求め
トを考慮して選定する要目であり,第4項(∫∂Wλ/
る。
∂Tτadλ)は,目標や背景・伝搬路で定まるもので,設
(4)ダイナミックレンジ
計の前提条件である。
熱画像化で取り扱う装置のうちでも,産業用の汎用
観測対象の放射率の差を取り扱う場合,NE△Tの代
機では,−20°c∼+2000°C(約250K∼2270K)に亘り,
わりにNE△εで感度を表わすことがある。
波長5μm近辺で,最大放射と最小放射の比は約105
放射強度,放射輝度,放射照度又は放射発散度をW
倍,波長10μm近辺で約103倍になる。
としたとき,
この大きいレベル差の信号を取り扱うために,装置
NE△ε=NE△W/W
に要求されるダイナミックレンジは,雑音等価放射量
−72−(268)
日本リモ――トセンシング学会誌Vol.13No.3
は3×10.2(Wm−2,μm−1,str−1)であ
るから,高温近辺ではS/N≒6×10 2
(約9ビット)あればよいことになる。
このことは,データ圧縮が可能なこと
を示唆している。また,図18から明ら
かなように,一定のNE△εの装置で,
低温の対象を観測すると,高温の対象
を観測する場合に比し,NE△Tが大き
くなる。従って,NE△Tの規定に際し
て,条件として,観測対象の温度を指
定する必要がある。特に指定がなけれ
ば,300Kの対象を観測した場合を想
定しているので,低温の対象を観測す
る場合は充分に注意する必要がある。
7.2 解像力と視野
形状を観測する場合の所要解像力に
ついては6.1(1)で説明したが,ここで
は,解像力のいろいろな表現法につい
て述べる。また,装置で観測する範囲
を視野(FOV)と言い,Ω(sterad)で表
わす。また,装置の解像可能限界視野
を瞬時視野(IFOV)と呼びω(sterad)
で表わされる。
(1)瞬時視野
瞬時視野(IFOV)と言う言葉は,通
常のカメラやフイルム等ではあまり用
いられないが,CCDや赤外線検出器の
図18黒体の分光放射輝度
ように,各画素の大きさが検出素子の
差(または,NE△T等)を考慮して,10 4∼10 6倍必要と
大きさ(面積)で制約される装置には広く用いられてい
なり,多くの困難を伴う。そのため,取り扱い範囲を
て,次のように定義される。
分割するとか,非線形処理(対数増幅器の利用,ディジ
検出素子の面積をds(m2),集光系の焦点庭巨離をf
タル圧縮処理)等とかの方法がとられる。一例として,
(m)とし,遠方の物体を観測するものとして,
8μm帯での雲・海洋観測について検討する。この場合
ω=ds/fo2(sterad)
の温度は,巻雲の場合約200K(−73cc)∼海面の暖流
を瞬時視野(IFOV:InstantaneousFieldofView)
の最高温度を約340K(670C)と想定する。この場合の
と呼ぶ。このIFOVは画像化装置の解像力を論じる場
放射輝度は,4.5×10−1(W・m−2・μm−1・Str−1)から
合の基準として用いられ,時分割通信方式の標本化に
1.9×10 1(W・m−2・μm−1・str−1)に亘る、(図18,19)。装置
おける標本化時間間隔に類似している。
のNE△Tを0.03Kとすると200KにおけるNE△ε
今後,解像力の議論における基本単位として,走査
は,約6×10−4となり所要ダイナミックレンジは,
や,理解力が集光系の収差を含める場合でも,この瞬
1.9×10 1/6×10−4=3×10 4(約15ビット)となる。た
時視野(βx×βy)とその整数倍の大きさに対する応答
だ,340KにおけるNE△T=0.03Kに対するNE△ε
特性で規定する。すなわち,空間領域での標本化間隔
−73−(269)
熱赤外画像化装置(第2回)
人間の目やカメラのようなセンサ(網膜・写真フ
イルムのように微小面積センサ素子の2次元ア
レイよりなる図20で集光系の右側にある検知
器)により一度に目標(背景を含めて視野全体)
を観察・観測するもの(筆者はこれをステアリン
グ(Staring)方式と名付ける)と,現在のファク
シミリのように1次元センサ素子アレイ(図20
では,横(x)方向への一例)を目標のx方向のみ
に対応させ,y方向は,何らかの方法(具体的に
は,可動反射鏡やセンサアレイを機械的に移動
させる(走査する)もので,リモートセンシング
分野ではプッシュブルーム(Pushbroom scan)
方式と呼ばれているもの,および,単素子のセ
ンサ(少数の素子アレイを用いたものも敢えて
この範疇に含める)を用いた装置で,x方向,y
方向とも,機械的に走査するウィスクブルーム
(Whiskbroom scan)方式と呼ばれるものがあ
る。これらの方式についての比較を図21,表4
に示した。もちろん,これらそれぞれの特長を
生かした中間的な方式(組合せ方式)も可能であ
る。
(3)解像力の表現法
画像化装置の解像力を劣化させる要因は,後
図19大気の垂直温度分布16)
述の如く,光学系等を含めていろいろある。カ
メラのように,感光フイルムや印画紙の粒
状性(検出素子面積)が無視でき,解像力が
主としてレンズにより定まる装置に比し,
熟赤外画像化装置では,素子両横や素子間
の光・電子の拡散,走査系のジッタ,電子
回路の周波数特性,サンプリングロックの
ジッタ等があり,これらが相乗的に作用す
る。このことから,解像力の定量化のため
に,その表現法について種々の提案がなさ
図20視野と瞬時視野
れ,上記の各要因に対して定量化が可能で,
(ナイキスト間隔)がβxβyである(一次元化するため
その上,総合解像力の算出に便利な,OTF(Optical
に,θXとθyを別々に扱うことがある)。瞬時視野
TransferFunction),MTF(ModulationTransfer
(IFOV)と視野(FOV)の関係を図20に模式的に示し
Function),CTF(ContrastTransferFunction)等が
てある。
多く用いられる。集光光学系で焦点面で光束が集中せ
(2)走査と走査法
目標に接触することなしに,目標(図20で集光系の
左側に書いた面)を観察したり,観測したりする場合,
ずに鉱がる様子を表わすのに,PSF(PointSpread
Function)と呼ばれるものもあるが,このPSFは容易
にMTFに変換可能である。
−74−(270)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
表4 各方式の長短比較
項
目
方
式
感
度
ス テア リ ング
プッシュ
ブル ー ム
集光光学系の評価するの
ウィ ス ク
ブ ルー ム
に,「PSF」が多く用いられ
備
考
るが,これは,光学系に均
等に入射した光束が,焦点
◎
○
△
前 述 の式
解 像 力注1)
△
○
◎
広 視 化 の難 易
面でどのように分布するか
検 出器
△
○
◎
開 発 の難 易 度
を表わすもので,幾何光学
機
構
◎
○
○
複雑 さ
収差のない理想的なレンズ
連 続 分光 に は
更 に 1次元増
加必要
(円形開口)のPSFは,(2J1
×
∼
△
(
連続 分 光 )(フ ィル タ
分光 )
◎
○
バ ン ド間 の
画像ずれ
◎
△
○
画 像 歪注3)
○
○
△
rは焦点面上の中心からの
視野の端でフ ッ
トプ リン トが 大
距離(像高),aはレンズの
マ ル チ スペ ク
トル化 注2)
画 像 の倍 率
(kar)/kar)2で表わされる
(k=2π/λf。,f。は焦点距離
一
定
一 定
(
方式 に よ る)
又はレンズと像面の距離,
半径,J1は1次ベッセル関
注1)光学系の収差は,広視野の周辺部で大きい.ウィスクブーム等でも,映像面走査
(光学系の後に走査鏡を置く)方式ではステアリングと同じになる.
数)。
このPSFは,電子回路に
注2)地球の極近辺を通る衛星で見る場合,地球の自転の影響があり,緯度によるずれ
おけるインパルス応答と類
が生ずる.
似しているが電子回路で扱
注3)ステアリング,プッシュブルームでは,集光系による歪が生じ,ウィスクブルー
ム方式では光の伝搬路の長さに似存し,周辺部で像が大きくなったり,振れたり
う信号が時間に対するもの
(時間tの関数)であるのに
する.
対し,点光源に対する光学
系の応答「PSF」は,点像
の中心を原点とした平面上の距離又は光
学系(レンズ)中心と点像中心を結ぶ線か
らの拡がりの角で,2次元の空間的拡が
りであるのが大きな違いである。PSFと
同様な,1次元の表現として「LSF(Line
Spread Function)」というのもある。
次に,「OTF」や「MTF」について考
える。
ここで,「空間周波数」と呼ばれる新しい
概念を導入する。一般的に用いられてい
図21各種走査方式
る「周波数」は,時間的に周期性のある
写真カメラ等では,等間隔に複数の線を画き,その
振動や信号の時間軸上の周期をT(sec)として,f=1/
間隔を線の太さと共に細くして,分解可能な限界の線
T(Hz)で表わされるのに対し,「空間周波数」は,平面
密度で解像力を表わす。例えば,1mmの間に50本の
上に分布する周期性のある放射や反射の強度の,平面
線を画いて,各々の線を分解して認識できれば,「50
上の周期がx(m)であるとき,fx=1/x(cycles/m)で表
本/mm,または,50linepairs/mmの解像力がある」
わされる。
という。ただ,この表現法は,分解しているかどうか
また,光学機器などでは,平面上の距離の代わりに,
という定性的なもので,装置設計や,解像力低下の要
その機器から平面上の距離(x)を見た角度をθxとす
因分析などには不向きである。
ると,&=x/R(rad)(R:機器と平面との距離)であ
−75−(271)
熱赤外画像化装置(第2回)
表5 信号と電子回路応答の数学的方法
数学 的 方法
入 力信号 波形 の正弦 波成 分
に よる表 示
フー リエ級 数
f( t)=∑ C nejnωt
フー リエ積 分
f( t)= 21/
π∫∞
∝F( jω) ejωtd ω
ラ プ ラス積 分
f( t)= 21/
πj ∫c+
j∝
j∞F(c-s)e std s
信号 と回路 との相 互作 用
g( t)=∑K(
C n→K( jn ω) C n
F( jω) →K(j ω) F(j ω)
F( S)→K( s)F( s)
出力 信号 波形 の表示
n ω) C nejnωt
g(t)= 21/
π∫ K( jω) F( jω) ejωtd ω
g(t)= 2 π
1/j ∫K(
s)F( s)e std s
図22(a)理想フィルタの過渡応答
図23回析像の振幅22)
実線は円開口,J1(x)/x
点線は輪帯開口,J1(x)/x−S2J1(x)Sx(S=0.5)
S=a'/aa':輪帯内径,a=輪帯外径
り,fθx=1/θx(cycles/rad)で表すことがある。もちろ
ん,y方向にも同様に定義する。
このように定義すると電子回路では,t<0がないの
で,過度現象の解析にラプラス変換が用いられるが,
光学系で生ずる空間分布は,1次元のもののみに限定
図22(b)ガウス形フィルタの過渡応答
しても,xは−∞∼十∞に分布するので,電子回路での
定常現象の取り扱いと同様に,フーリエ変換を用いる。
電子回路の応答の一例を表5,図22に示
し23),幾何光学収差のない理想光学系の応答
(点像のPSF)の一例を円形開口(レンズや絞
りなど),輪帯開口(カセグレン集光鏡など)に
ついて図23に示す。この点像分布による分解
を考えるときの基準としてのAIRYdiskの
直径は1.22Fλ(F=fo/D)で,この範囲にレ
ンズを通る全光量の84%が入り,間隔が1.22
図22(c)余弦フィルタの過渡応答
Fλはなれた2つの点像を分解することがで
−76−(272)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
光学系を空間周波数フィルタと考
え,インコヒーレントの場合を考る
と,
H(s,t)=I(s,t)/O(s,t)
をレスポンス函数又はOTF(Optical
Transfer Function)と呼ぶ(定義す
る)。
H(s,t)=Hc(s,t)+jHs(s,t)
=T(s,t)exp[−jθ(s,t)]
T(s,t)=√(Hc2(s,t)+Hs2(s,t))
θ(s,t)=tan−1(Hc(s,t)/Hs(s,t))
図24物体と像との関係21)
ここで,Hc(s,t),Hs(s,t)はそれ
きるので,これを理想光学系の分解能(解像力)と見倣
ぞれH(s,t)の実数部,虚数部でT(s,t),θ(s,t)はそれ
し,設計・評価の基礎にしている。
ぞれH(s,t)の絶対値,位相である。
つぎに,OTF,MTFの概念を説明する。この概念
また,このOTFの絶対値の一次元表示T(S)は
を導入すると,画像化装置の如く,結像光学系と電子
MTF(ModulationTransferFunction)又は,CTF
回路系を組み合わせたシステムでも,統一して取り扱
(ContrastTransferFunction)と呼ばれる(注)。この
うことができるのみならず,機械的走査を伴うもので
ようにOTF,MTFを定義すると,装置全体のOTF,
も,その不規則性(ジッタ等)に起因するOTFやMTF
MTFは,構成要素のOTF,MTFを計算または実測
を求めておけば,装置やシステム全体の特性を把握し
により求めて,その積より算出することができる。す
やすくなる。さらに,概念が,得られた画像を利用目
なわち,走査系,集光光学系,検出器,電子回路(増幅
的に適合させるための簡便な信号処理の手法として利
器とフィルタ,信号処理等),表示系やプリント(印刷・
用することができることを示唆している。
写真現像・印画等)などのOTF,MTFの周波数(応答)
いま,点像の振幅分布をha(x',y'),強度分布をh
特性を求めておくとよい。
(x',y')とする(h(x',y')=ha(x',y')・ha*(x',y')=│ha
OTFやMTFでの議論は,空間周波数を用いて瞬時
(x',y')│2)。また,物体からの放射の振幅分布,強度分
視野〔IFOV〕とナイキスト間隔やサンプリング間隔と
布をそれぞれOa(x,y),O(x,y),その像のそれをそれ
ぞれia(x',y'),i(x',y')とする。インコヒーレントの結
像では,振幅ではなく強度を扱うから,i(x',y')のみを
考えればよい。
i(x',y')=∬(x,y)h(x'−x,y'−y)dxdy
いま,x,y方向の空間周波数をs,tとし,正弦波格
子のx,y方向の周期Ps,Pt(単位mmまたはred)と
すると,たたみ込み積分(convolition)の定理により,
I(s,t)=H(S,t)・O(s,t)
ここにI(s,t),H(s,t),O(s,t)は,それぞれi(x,y),h
(x,y),O(x,y)のフーリエ変換で,物体像,点像,物体
のフーリエスペクトル(空間周波数分布特性)である。
波形結像論とフーリエ結像論の関係を図24に示し
ておく。
CTFを,方形パターンに対する応答特性であるという人
もいるが,これは誤りで,方形波のフーリエ級数をSとする
とS=(4/π)A∑(−1)n−1・1/(2n−1)fot,(ただし,Aは方
形波の振幅,foは基本周波数)となり,基本波(n=1)の振幅
は方形波の振幅の4/π倍になっている。このことは,画像
化装置の解像力は信号をローパスフィルタに通して得られ
る出力の特性と考えられるから,仮にCTFを方形パターン
に対する応答特性と定義すると,低周波での方形波に対す
る応答は高調波まで通すのでn→∞に対応するので出力
は方形波の振幅に等しく,高周波域での方形波に対しては
基本波成分のみとなりn→1に対応するので,正弦波にな
り,振幅は方形波振幅の4/πになる。これは,高周波域で
CTFはMTFに比し4/π≒1.27倍(+2.1dB)となること
を意味する。したがって,方形波パターンで光学系の解像力
をテストすると,正弦波パターンでテストするよりも解像
力が高いようにみえることになる。
−77−(273)
熱赤外画像化装置(第2回)
詳細に検討されるので,一般論を述べるこの講義では
省略する。iv)は通常,フィルタ特性として,遮断周波
数をナイキスト周波数に一致させれば,MTF=0.7,
θ=45°になる。v)は利用目的に適合するように最適
設計を個別に取り扱うものとし,vi)については,人間
工学的視点から検討されるものとしてここでの議論か
らはずし,iii)の検出器,i)の走査系について検討す
る。
(a)検出器
検出器の素子アレイを図25に示すようなものと考
える。この場合の総合的な空間分布関数表示およびそ
のフーリエ変換は次式で表わせる。
空間分布:{[Rect(x/α)・Rect(y/β)]・
[Comb(x/ρ)Comb(y/γ)])*
[Rect(x/A)・Rect(y/B)]
ここに
Rect(x/α)=1(at│x/α│≦1),=0(at│x/α│>1)
Rect(y/ρ)=1(at│y/ρ│≦1),=0(at│y/β│>1)
図25検出器素子アレイ構成
Comb(X/ρ)Comb(y/γ)=
の関係を考えることである。いま,ナイキスト周波数
∑∑?δ(x/ρ−n)・δ(y/γ−m)
fNはナイキスト間隔(瞬時視野に対応する距離や角
δ(x)δ(y)=1(atxy=0)=0(atxy≠0)
度)の2倍の逆数で(空間周波教),サンプリング周波数
このフーリエ変換,従って素子アレイの形状に対応
fs=2fNでなければならない。また,ナイキスト周波数
するMTFとしてのMTFaは次のように表せる。
より高い周波数の情報は,サンプリングによって失わ
れる(再現できない)ことは,サンプリング定理より明
MTFa={Sinc(αfx)・Sinc(βfy)・
らかになっている(ユーザーからの意見や要望として,
*{Sinc(Afx)・Sinc(Bfy))
瞬時視野内の情報の利用や,瞬時視野に比して極めて
ここに
小さい誤差で画像の幾何学的位置再現精度を要求され
Comb(ρfx)・Comb(γfy))
る瞬時視野より小さい面積の情報が失なわれるからこ
SincX=Sinπx
/πx
A/ρ,B/γ≫1で,実用的には,Sinc(Afx)→1,Sinc
の要求は合理的ではなく,意味がない。データの利用
(Bfy)→1はComb(ρfx)→1,Comb(γfx)→1になる
のために不可欠な要求ならば,瞬時視野やサンプリン
のでsinc関数で近似できる。
グ周波数の規定を改め,高分解能化する議論をする必
素子アレイ検知器の場合はこの他に,デバイスの内
要がある)。
部での光の拡散,電子の素子間漏洩などがある。これ
ることがあるが,サンプリング定理から目標の中にあ
(4)解像力劣化要因
らは,一般的にガウス分布をするので分布関数r(x,y)
熟赤外画像化装置の解像力劣化要因として考えられ
およびOTF〔r'(x),r'(y)〕は,次式で表わせる。
るのは,i)走査系,ii)光学系,iii)検知器,iv)電子
r(x,y)=(1/2πσ2)exp[−(x2+y2)/2σ2]
回路,v)信号処理系,vi)表示系,vii)バンド間のず
r'(x)=exp(−2π2σ2fx2)
れ,viii)迷光等があることは前述のとおりであるが,ii)
r'(y)=exp(−2π2σ2fy2)
については,重要な要素として,設計に際して個々に
いま,ρ=γとし,fo=1/ρとし,拡散漏洩に対応する
−78−(274)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.3
はガウス分布関数として近似すれば
よい。
この場合,素子間漏洩が小さい検
出器には前者が,多い検出器(IFOV
対応周波数でのMTFが比較的小さ
い)場合は後者が支配的になってい
る。
(b)走査系
走査系の解像力の劣化要因のひと
つとして,瞬時視野の移動に伴なう
ものをIM(Image movement)効果
と名付けると,IM効果は,瞬時視野
と微小間隔(σ関数)の移動による窓
とのたたみ込みで表わされるが,前
者は単一素子検出器の解像力を考え
ればよいので,直接的なIM効果に
よるMTF劣化は素子寸法をxと
すると移動距離xoに対して次式が
表わせる。
MTFIM=Sin(πxo/2x)/(πxo/2x)
他の要因として,走査速度の変動
(ジッタ)によるものがある。それも,
「ランダム」なものと「周期的」な
ものがある(図26参照)。
ジッタが「ランダム」に生ずるも
ので,「ガウス分布」しているものと
図26走査系
して,巧で表わすと
fj(x)=(1/σ√(2π))・exp(−x2/2σ2)
MTFをMTFdとすると
MTFo=exp〔2π2(σ/ρ)2・(f/fc)2]
この関数のフーリエ変換で表わせるレスポンス関数
検出器のMTFは,MTFaとMTFdの積で表され
Fj(ω)はつぎのようになり,MTFは,ジッタのない場
る。このMTFaで,リニアアレイのときは,Comb
合より,この分だけ低下する。
(γfy)またはComb(ρfx)のいずれか,およびSinc
(Afx)またはSinc(Bfy)のいずれかが1になる。
Fj(ω)=2/σ√n∫exp{−(x2+2jωσ2x)/2σ2)dx
検出器の設計には上記の議論が不可欠であるが,画
=exp(−σ2ω2/2)
像化装置の設計には必ずしも必要なく,検出器の規格
ジッタが「周期的」な形で生ずるものの場合には,
や実測データとして,IFOVに対応する空間周波数(ナ
通信工学の分野で,「周波数変調方式」や「位相変調方
イキスト周波数)に対して,上記の2種類のMTFを総
式」における場合と同様な取扱いが可能である。
合して知ることができる。それ以外の空間周波数に対
走査系は,観測対象の空間的な強度分布を強度また
するMTFは,低周波では1であるから,これと,ナ
は振幅の時間的変化(関数の形に)に変換するもので,
イキスト周波数のMTFの2点を通る,Sinc関数また
走査速度が一定であるべきであるが,この速度が周期
−79−(275)
熱赤外画像化装置(第2回)
的に変化するもので,得られる信号が上記の2つの変
わされ次式のようになる。
調方式と同様に取扱える。以下,この2方式を一括し
f(x)=Acos(ωox+mcospx)
て「角度変調方式」として考察する。
=A[cosωoxcos(mcospx)
角度変調方式の2つの差は,式の形ではつぎのよう
−sinωoxsin(mcospx)]
に表わせる。
=A∑Jn(m)cos[(ωo+np)
角度変調は,
x+nπ/2]
f(x)=A cos{ωox+e(x)}
で,位相変調は,
この式から,つぎのようにいえる。
・mが小さく,pがωoに比し小さいときは,ωo及び
f(x)=A cost{ωox+φo+m cos px}
周波数変調は,
ωo±np(nが小さいとする)のところでは,振幅の変
f(x)=A cos{(ωo+Ωo cos px)x+φo)
化が小さく,解像力の大きな変化はない。
=A cos{ωo x+(Ωo/ρ)sin px+φo)
・m≫1であって,pがωoに近づくと,解像力を大き
この位相変調と周波数変調の式は同様の形であるの
く劣化させる。
で,位相変調の式について考えることとし,φ。=0とし
・pが小さいときは,標本点近辺で,見掛け上での瞬
て,以下の検討をする。
時視野のずれが小さいので,MTFの低下に大きな
先の位相変調波の式をフーリエ級数に展開する。数
影響を与えないことは,直観的にも言える。ただ,
学の公式から,三角函数を変数とする函数は,第一種
規則的なパターン(縞模様の如き)に対しては,大き
ベッセル函数Jo(m)を振幅に含むフーリエ級数で表
な影響があることは容易に推測される。
−80−(276)
日本リモートセンシング学会誌
Vol.13No.4(1993)pp.100−109
連載講義
熱赤外画像化装置(第3回)
大仲末雄
ThermalInfraredSensingandImagingEquipment
SueoOHNAKA
7.3 波長選択
あり,処理が複雑になる他,衛星軌道や機器の方式等
マルチスペクトルの熱赤外画像化装置は,資源探査,
によっては,復元ができない事態も生ずる。
気象観測,環境観測,漁業情報,海洋観測等の実利用
この点が解決しうるとしても,フィルタの特性は,
面から重視されているが,分光フィルタの製作技術に
以下にのべるように理想的なものとはなりえないので,
多くの困難な要素があり,ユーザーの希望する特性を
利用面から見たフィルタの規定法についてのべたい。
そのまま実現しうるものではない。従って,現在の技
術レベルを容認しつつ,最適な利用法を考えるべきで
光学フィルタは,多層薄膜の干渉を用いているため,
あろう。ここでは,従来から多く利用されている多層
性能を得ることがむずかしく,大きなばらつきがあり,
薄膜を用いた個別のフィルタを用いるものと,近い将
要求特性・性能が厳しいときは数10枚のフィルタを作
来実用化されるであろうと考えられる分散分光による
ってその中の1枚のみを用い,他は廃棄してしまうよ
連続分光のイメージングスペクトルメータについて,
うなことも行われる。
その特性の長所・短所を説明する。
図27(a)は理想帯域通過フィルタであるが,一般の
任意の特性で設計できるが,製作に際して設計通りの
(1)フィルタ分光の特性
フィルタでは透過率の対波長特性がτ=0からτ=
フィルタの製作法についてはこの講義の目的ではな
100%になるのにステップにならずに傾斜しており,通
いので,装置設計者・利用者の立場からその特性につ
過帯域外での透過率もτ>0であるから通常,図27(b)
いてのべる0 フィルタ分光の主な特徴は,(i)希望に
のような規定法を用いる。図の如く,通過帯域部での
近い特性の通過帯域幅が比較的容易に設計できること,
透過率は平坦ではなく,このピークをτpで表わし,凹
(ii)フィルタの設計・製作時に特性(中心波長,帯域
凸の平均の透過率をτmで表わす。通常τm=80%であ
幅,透過率,遮断特性,漏洩量等)が定まり,使用者に
る。また,λは波長のノミナル値として定めるが,必
よる変更は不可能なことである。また,マルチスペク
ずしも中心波長ではない。帯域幅△λは,FWHM(Full
トルイメージング装置の場合,集光系にビームスプリ
WidthHalfMaximum;最大透過率(τp)の半分の透
ッタとフィルタを組込んだ方式(大形化;低感度化と組
過率になる幅)で定義する場合と透過率がτm/2にな
立てのむずかしさがあるが,MOS−1衛星搭載VTIR
る波長帯域幅とする場合や,τmまたは0.8τpの帯域幅
で採用した方式)以外のフォーカルプレンにフィルタ
を採用する場合などがある。中心波長は,通常△λ=
を貼りつける方式では,バンド毎に見ている所(視線…
△λ1+△λ2,λ1=λo+△λ1,λ2=λo−△λ2としたとき,λ1
ボアサイトとかラインオブサイトと言う)が異なるた
−△λ/2=λ2十△λ/2を中心波長としてλmと書き,λo
め,利用者は,信号処理時に位置合わせを行う必要が
∼λmを規定しておく必要がある。また,λc1,λc2近辺
富士通株式会社宇宙開発推進室
〒211川崎市中原区上小田中1015
Copyright⑥1993RSSJ
SpaceTechnologyDevelopmentGroup.,
FujitsuLimited.
1015,Kamikodanaka,Nakahara−ku,
Kawasaki211,Japan
−100−(398)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.4
薄膜内の光の多重反射による干渉
を利用しているので,明るい光学
系の周縁部から入射する光は,膜
を斜めに通過して通過長が長くな
り,中心部より長い波長で干渉が
生ずることになって透過帯域幅が
広くなるのみならず遮断特性が鈍
くなくなる。通常△λ/λ。<1/50
ではF>2とすべきであろう。こ
の他に,長波長通過フィルタや短
波長通過フィルタ,帯域遮断フィ
図27(a)理想フィルタ特性
ルタ等があるが,ここでは説明を
省略する。
また,宇宙からのリモートセンシングシステム
等で信号処理後のバンド間の幾何学的位置のずれ
を小さくするには,観測時の各バンドのフットプ
リント(検知素子を地表面に投影した像)の間隔を
短かくし,地球の自転等によるずれを小さくする
必要があり,検知素子間隔(フィルタ間隔)が小さ
い方がよい(ずれをなくすことはできないが)。
(2)分散分光の特性
フィルタ分光には上記の如く,バンド間で別々
のタケーゲットを観測しているという問題がある
図27(b)フィルタ特性の規定法
ので,これを解消するためにモノクロメーターな
どの非画像の分光分析器として利用されていた分
の透過率の対波長特性の急峻さを意味する遮断特性を
散分光が,画像化装置にも用いられようとしている(米
表わすのに,0.9τpまたは0.9τm(透過率τ=90%の点
国のHIRIS,MODIS−T計画,日本のGLI計画等で研
で規定することもある)の波長λTと0.1τpまたは
究中)。分散の方法としては,プリズムによるもの,回
0.1τm(透過率τ=10%の点で規定することもある)を
折格子を用いるものがある。プリズムによるものは波
λcとしてこの波長差をδλ=λT∼λcとおいたとき,
長による分散度が異なる(屈折率をnとしたとき,dn/
0.8τp/δλで規定したり上記のλT,λcを個別に規定し
dλが一定でない)こと,重いことが欠点である。回折
たりする。図27(b)で,λ>λc1,λ<λc2での透過率τleak
格子は,回折波の干渉を用いるので,高次の次数の光
は,フィルタの漏洩量で極めて重要であるが,λcより
でも干渉するため,波長域が制約される。さらに,画
少し離れた特定波長,例えば,λc1′=λo+△λ,λc2′=λo−
像化のためのIFOVで定まる入射スリット幅と光学
△λを指定し,λ>λc1′,λ<λc2′に対して透過率τleakを
系と検出器の素子寸法による解像力による分光分解能
規定して漏洩量を抑えることが多い。
の制約,偏光によるアノマリ(回折効率の波長による差
使用者が注意する事項として,フィルタを光学系内
異)などがある。また,この方式には,2次元素子アレ
の光束が平行になっている場所に置くときはよいが,
イ検出器の使用が不可欠である。しかし,入射スリッ
フィルタをフォーカルプレーン(検出器近辺)に貼りつ
トと検出器の寸法を適当に選定すれば解像力,波長帯
ける方式のときは,光学系のF値を大きくする(暗い
域幅を任意に設計できる。筆者は「分散分光器の分光
光学系を用いる)必要がある。なぜなら,フィルタは,
特性」を表すために,集光系の解像力にPSFやMTF
−101−(399)
熱赤外画像化装置(第3回)
図28(h)入射スリットがある幅を持つとき,単
図28(a)入射スットが無限小の場合の億の強度分布
色光を入射した場合の億の強度分布
図28(C)幅のある入射スリットにλoを中心とする連続光を入射した場合の像の強度と波長分布
−102−(400)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.4
を用いたように,分光分解能として,PSSF(Point
Spector Spread Function)やSTF(Spector Transfer
Function)のような概念を定義すれば連続分光イメー
ジング装置の設計や使用に便利であると考えている。
いずれ機会があれば説明するが,ここでは省略する。
最後に分散分光画像化の概念を図28,図29に示
す17,18)。
この他に,マイケルソン干渉計とフーリエ変換を用
いた「FTS(フーリエ変換分光法)」があり,分光分解能
図29凸面回折格子分光イメージャーの概念
がよく化学物質分析の分野で広く利用されているが19),
画像化(大気環境観測・監視分野からの要望が多い)に
α,β:検出器で定まる瞬間視野(rad)
は解決すべき技術課題が多い(例えば,広視野の周辺部
τd:(π/4)/△fR(sec)
で干渉縞の間隔が狭くなり,分光分解能が低下する)の
fT:ターゲットの空間周波数(rad−1)
で,ここでは省略する。
Te=目の実効積分時間(sec)
この他に光学系のコントラスト性能の評価のひとつ
Ff:フレームレイト(Hz)
として瞬時視野対応の対象が黒(又は絶対温度零度
γs:全体のMTF
(−273°C),背景が白(所定の強度の放射)として,装置
この式から,繰り返し表示による目の横分効果を考
内で観測対象の像(信号の大きさを0とする)の中へ背
慮しなければ6Lines/Targetテストパターンに対す
景の像(信号の大きさを1とする)が漏洩することによ
る表示として
るコントラスト特性の評価尺度としてフレア(Flare),
または,ベーリンググレア(Veiling Glare)を定義し
MRTD=C・NE△T・(fT
/fTo)/MTF
て,規定することがある〔詳細は文献(24)を参照され
ここに2fTo=1/(α・β)1/2,C≒3√(1/π)≒1.7
たい〕。フィルタによる帯域外信号が漏洩することの評
(FLIRをTV表示するときはC≒1.7/√(0.2×30)≒
価,迷光の効果の評価もこれと同様に考えることがで
0.7となる)
きる。
が考えられる。
7.4 装置の総合評価
一方,検知を目的とする装置にはMDTD(Mini−
これまでは,熱赤外画像化装置に対する各種の性能
mumDetectableTemperatureDifference)がある20)。
項目について説明してきたが,それぞれの項目は互い
あまりはっきりした定義がないが,i(x',y')を表示画
に矛盾する要求であることが多い。例えば,感度を上
像i(x',y')の平均値とし,α=γs・1.5√2/i(x',y')を導
げるには瞬時視野(解像力)や波長分解能(狭波長帯域
入すると,ナイキスト周波数の大きさの目標に対して
化)を犠牲にすることになる。
は,
このうち,感度としてのNE△Tと解像力のMTF
MDTD=α・MRTD
を組合せた総合性能評価パラメータ(性能指数)として,
となり,通常α<1で,前述の検知と認識の関係から
MRTD(Minimum ResoIvable Temperature Dif−
0.25∼0.3程度と考えてよい。ただ,観測対象が瞬時視
ference)があり,6Lines/Targetテストパターンに対
野より小さいときはi(x'y')が小さくなり,α>1にな
して次式のように表わせる(表示装置や目が持ってい
ることがある。
る積分効果を考慮して)20)。
話しが変わるが装置性能を考える場合,性能向上を
MRTD={3(NE△T/△fR1/2)・fT(α/τd)1/2β1/2
}/{γs(Te・Ff)1/2}
ここに,
△fR=バンド幅(Hz)
制約する装置の寸法,重量,価格,開発期間などを含
めて検討する必要がある。
そのための評価指数を導入する必要があると考え,
筆者はつぎの指数と,これを用いた開発の容易性を表
−103−(401)
熱赤外画像化装置(第3回)
わす数式を提案しておきたい。
q=1∼2,連続方式ではq=4∼5と考えられる)
1)視野内の総画素数を表わす指数
5)の指数D−rに比例(rは,LSIの性能向上で,現
n=Ω/ω
在では容易になり,r=0.5∼1となろう)
2)感度と解像力を関連づけた指数
6)の指数は,Vs,Mt,Px,TDyに比例するものと
α=S/N/・MTF at f(ナイキスト)
する。(私見ではあるが,現状ではs≒1,t≒2,
3)全バンド数を表わす指数
x≒2,y≒1と考えられる)
この1)から6)の積が,開発の成功の可能性を表わす
m=λB/△λ
4)漏洩を含む濾波特性(波長選択純度)を表わす指
ものとして,次の式を導入すると,Aが大きい程,成
数
功率が高いことになる。
β=τmax/τleak又はSTF at f(ナイキスト)
A≒n−k・α−l・m−P・β−q・D−r・Vs・Mt・Px・TDy
5)ダイナミックレンジを表わす指数
ここで,上記の()内に示した指数を採用すると,
フィルタによる離散分光方式の場合
D=Smax/N
6)その他,寸法(容積)V,重(質)量(M),価格
(P),開発期間(TD),
A≒n−3・α−1・m∼5・β−1・D−O・5・V・M2・P2TD
回折格子による連続分光方式の場合
ここで,Ω:視野(Str),ω:瞬時視野(Str),S/N:
A≒n−3・α−1・m−2・β−5・D−0・5・V・M2・P2・TD
装置のS/N,MTF at f(ナイキスト):ナイキスト周
ということで,敢えて私見を述べれば,性能面で,離
波数又は画素間隔に対応するMTF,λB:観測波長幅,
散分光方式ではバンド数,連続分光方式では波長選択
△λ:半幅値波長帯域幅(FWHM),τmax:フィルタの
純度の向上が難しい。また,分光方式に拘わらず,解
透過域(平坦)における透過率,τleak:遮断波長域(隣接
像力(視野内の総画素数)の増大が難しい。性能以外で
チャネルの中心波長)における透過率(漏洩),STF at
は,重量・価格(実際に必要な開発費)等の制約が大き
f(ナイキスト):FWHMまたは隣接バンドとの波長
い。
間隔(ナイキスト間隔)における(τmax−τleak)/(τmax+
τleak)で定義するスペクトルトランスファーファンク
8.熱赤外画像化装置の設計について
ション,Smax:装置出力が飽和しない(直線性が維持さ
熱赤外画像化装置の設計に当たって,システムとし
れている)領域での信号(赤外線放射)入力の最大値,
て温度計測を行うものと,形状のみを見るもの,画像
N:装置雑音の等価赤外線放射入力である。また,P,
化と共に分光してスペクトル分布を観測するもの,フ
TDなどは,技術レベルや需要量などで大きく左右さ
ィルタを用いて複数バンドの放射強度分布を観測する
れるが,実際に必要な開発費,製作費や開発期間(この
ものがある。このそれぞれを,あらためてつぎのよう
中には開発要員の人数(人年等の単位でのもの)を含
に名付けて定義する。
む)とする。
(i)温度又は放射計測を行うものを,サーマルイ
これらの指数を導入すると,開発を成功させる可能
メージングラジオメータ
性または開発の容易性は,筆者の独断をお許し頂けれ
(ii)形状を見るものをサーマルイメージング装置
ば,つぎのように言うことができよう。
(まれにi,iiを区別せずに単にサーマルイメージング
1)の指数n-kに比例(熱赤外域の現状技術では
k=3∼4と考えられる)。
装置又は,サーモグラフィー装置ということがある。)
(iii)フィルタを用いて複数バンドで放射を観測す
2)の指数α−lに比例(l=1∼2)
るものをマルチスペクトル(サーマル)イメージング装
3)の指数m−Pに比例(現状の技術では,離散分光
置又は,マルチスペクトル(サーマル)イメージングラ
形でP=5,連続分光形を採用すればP=1∼2
ジオメータ,
になる)
(iv)分散分光素子を用いて,スペクトルの2次元
4)の指数β−qに比例(qは,現状では方式(離散分
光と連続分光)の選定で異なり,離散方式では
分布の画像化を行うものを(サーマル)イメージングス
ぺクトロメータ
−104−(402)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.4
図30熱赤外画像化装置系統(センサ部設計用)
と言う。
限界があるほか,検出器の性能(D*など)とのトレード
これらのうちのどれにするか,どのような性能にす
オフになる。カセグレン集光光学系の視野Ω(rad)と
るかは,用途により異なるのはもちろん,その性能を
コマ収差による像面で点像のボケα(rad)はα=(3/
実現するために各構成要素に要求される性能の重要度
16)tanΩ/F2の関係にあり,Fを大きくすれば広視野に
に差異がある。システム要求を満たす機器・装置の設
できる。また,光学系の幾何光学収差は,光学系の方
計・検討に必要な構成は,前述の図17に示された系統
式とその設計(非球面の採用など)および製造技術(非
を更に細分化して図30のように表される。このそれぞ
球面加工設備と技能など)に影響される。参考のために
れについて,少々詳しく説明することにする。画像化
検出器の性能の一例を表6に示す。これらについてト
装置は,観測対象からの放射の受信(センサ)部(図2で
レードオフを行いながら,走査方式を選定すると共に,
のトランスジューサ)から画像化(表示・プリント)部ま
分光方式(波長選択方式)を定めた後,以下に述べる各
でで構成されるが,狭義のリモートセンシング分野(宇
構成要素への性能配分を行い,規定する。
宙からの地球観測)などでは,センサ部が宇宙機等に搭
8.1機器構成
載され,画像化部が地上に展開され,その間を通信系
熱赤外画像化装置の受信部の構成は,(1)走査系(2)
で結ぶことが多く,全系を一体化したものでも信号処
校正用放射源(3)集光光学系(4)濾波又は分光系(5)
理や表示は利用者により多種多様であるため,この講
検出器(6)検出器用冷却器(7)光学系用冷却器(8)増
義では通信系や画像化(表示)部については言及しない
幅器(9)A/D変換器(サンプルホールド回路を含む)
ことにする。
(10)マルチプレクサ(11)記録器(12)電源(13)構体(きょ
設計に当たって最初に定めなければならないのは走
う体)および(14)画像帯域圧縮などの信号処理器と通
査方式である。7.2(2)の表4で明らかなように,走査
信系の一部よりなる。
方式により感度と解像力が相反する関係にあるが,こ
8.2各構成部の必要性能
れは,機械走査を行わないステアリング方式では,多
これら各構成部の必要性能やその重要度が用途,走
素子アレイ検出器を用いるために広視野になり,周辺
査などの方式により異なることは前述のとおりである
部での幾何光学的収差が無視できなくなる。もちろん,
が,装置の主要性能である感度と解像力および分光分
感度が向上するので,光学系のF値を大きく(開口径
解能への影響を中心に検討する。
を小さく)して改善できるが,これには回折収差による
−105−(403)
熱赤外画像化装置(第3回)
表6 赤外線検出器の性能(代表例)
主 材 料
H gC dT e
H gC dT e
型
光導電
光起電力
構 成
リニ ヤ ア レイ
ハ イ ブ リッ ド
波 長 帯
D *λ
p
量 子効 率
動作温度
備 考
= 7 × 1 0 10
> 0. 5
<2 0 0 K
= 3 × 1 0 11
> 0. 7
< 10 0 K
5 ∼ 1 4 μm
= 3 × 1 0 11
> 0. 7
< 10 0 K
同 上
∼ 5 μm
= 2 × 1 0 10
> 0. 7
約 80 K
2 5 6 × 25 6 素 子
5 ∼ 1 1 μm
= 2 ×1 0 10
> 0. 7
約 80 K
1 0 0 × 4∼
3 ∼ 5 μm
= 3 × 1 0 11
>0. 6
約 80 K
∼ 5 μm
数 100 素子 以 下
(リー ド線 で制約)
CC D
128 ×128 素 子
In S b
光起 電 力
ハイブリッ ド
C CD
In G a A s
光起電力
1 2 8 × 12 8∼
256 ×256 素子
ハ イ ブ リッ ド
M O S −S W
0. 9∼
= 1 × 1 0 12
> 0. 5
室 温
= 1 ×1 0 11
> 0. 5
<2 0 0 K
= 1 ×1 0 9 (?)
< 0. 1
< 80 K
5 12 × 5 1 2∼
<80 K
製 品化 例 が見 当 ら
256 ×1 素子
1. 7 μm
1. 5∼
3 μm
S i−
Pt
光起 電 力
シ ョッ トキバ リア
1. 5∼
5 μm
S i−
Ir
光起 電 力
10 0 0 × 1 00 0 素 子
シ ョッ トキバ リア
−
−
ない
1 0 μm
G e−
G a
光導 電
−
−
< 0 .1
4.
2 K
製 品化 例 が 見 当 ら
20 K
製 品化 例 見 当 らな
ない
1 0 6 μm
S i・
G e
光起 電 力
B IB
(
?)
−
< 0 .0 5
1 0 μm
いが ア レー化 可 能
注)本表はNASATechBriefs:OCT,1091,June,1992
赤外線技術研究会,赤外線技術No.13,Mar.,1988/No18,NOV.1990
日本赤外線学会,研究会資料,IR−93,May,1993/IR−92,May,1992.
などを参考にした他,一部の性能を装置性能から推定した。
(1)走査系
性・靭性(平面度の時間的変化,破損)を静的,動的に。
検出器に2次元素子アレイを用いたステアリング方
iii)走査鏡運動(回転・振動)の直線性,ジッタ
式,1次元素子アレイを用いるもののうち航空機に搭
(MTFで定めてもよい…7.2(4)(b)参照),走査角度の
載したDLIR(Down Looking Infrared)や周回軌道衛
精度(画像処理による補正を行わないシステムでは制
星に搭載したプッシュブルーム方式では機械走査が不
御精度,補正が可能なシステムでは測定精度)。
要で,単素子を用いるウィスクブルーム方式や1次元
iv)走査鏡の駆動によって,搭載機に与える低速又
素子アレイを用いた航空機搭載のFLIR(Foward
は一方向の反力および高速の振動。
Looking Infrared)および地上での監視装置やサーモ
v)走査鏡の反射面による偏光(散乱大気の偏光の
グラフイ装置には,光路内においた反射鏡を機械的に
影響が大きく,観測対象からの放射が小さい場合特に
回転又は振動させることにより走査する必要がある。
重要)。
この機械的走査で,装置の総合性能との関係から規定
(2)校正用放射源
すべき性能項目はつぎのとおりである。
校正用放射源は,計測用装置のみに必要で(形状観察
i)走査鏡の反射率とその波長特性および面内均
一性,その経年変化と耐環境性。
用には不要),必要な性能はつぎのとおりになる。
i)均一性;放射率や温度又は分光放射輝度の分
ii)走査鏡の平面度(歪),鏡面度(散乱)および剛
布(特に合焦点方式に対し)および指向性(特に非合焦
−106−(404)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.4
点方式に対し)が重要
ぺクトログラムの形成に機械的な掃引を行うため高速
ii)分光放射輝度の絶対値と経時変化;必要によ
化ができず,広視化ができない)のいずれかの方式を選
り,分光放射輝度の計測とその校正手段として,太陽・
択した上,つぎの性能項目を規定する。ただ,これら
月・深宇宙を観測できること。
の性能は,この要素単体で満足しても,検出器などの
iii)校正用放射の取入れ場所;光路中のどこに挿
組合せ設計や組立て方法により満足しない場合がある
入するかで,場所によっては校正できない事態が生じ
ので,注意が必要である。
る。
i)中心波長とその誤差:津波器(フィルタ)方式
(3)集光光学系
では重要で,使用温度と共に規定。
集光光学系は,画像化装置設計の最も重要な構成要
ii)波長帯域幅とその誤差:FWHM又は最大透
素のひとつであり,規定項目はつぎのように多岐に亘
過率の80%の波長と中心波長との差で規定。
る。
iii)遮断特性の規定:最大透過率の10%になる波
i)透過率の波長特性:波長範囲とその範囲内で
の変化,耐環境性,温度特性,経時特性。
長幅又は中心波長からの差で規定。
iv)透過率:中心波長における値および帯域内各
ii)視野,解像力特性:解像力を視野内での特性と
波長に対する透過率の平均値と大小(凹凸)を規定。
して,対波長,対温度,耐環境(含耐熱衝撃)性を含め
v)漏洩量:中心波長からFWHMおよび
てPSF又はMTFで規定する他,必要があれば明るい
FWHMの2倍以上離れた波長域全体に対する透過率
背景の中にある暗い小さい目標のコントラストを評価
を規定,さらに隣接する検出素子からの光電子の浸透,
するフレア(またはベーリンググレア)を規定。
検出素子にフィルタ素子を貼りつける形式では,フィ
iii)焦点距離と実効開口:観測波長や所要解像力
ルタ素子と検出素子間の多重反射により隣接チャネル
および視野などから算出して規定する。規定実現のた
からの侵入(迷光)量を規定。
めには,方式(反射系,屈折系,カセグレン系,ニュー
vi)分散特性:分散形のとき,波長に対する分散角
トン系,軸外し反射鏡による方式等)を選定(光線追跡
の特性と波長の範囲,偏光度とアノーマリーを規定し,
法で概略設計の上)する。
分光分解能としてフィルタと同様な規定をするか,
iv)迷光とナルシサス特性:装置の感度,ダイナミ
PSSF又はSTFを規定(分散素子,入射スリット幅,
ックレンジ,を制約する迷光,光学系内部の反射でフ
検出素子寸法等の要素の設計に反映)する。ただ,分散
ォカルプレン(検出素子面)自身の像が再びフォーカル
形では連続分光であるから,漏洩量や遮断特性はあま
プレンにできるナルシサスを定量的に規定し,さらに
り重視されない。また,回折格子分光では透過率を回
フレアを規定。
折効率で定義する。
v)重量,寸法など:振動,衝撃,温度,重力の有
vii)高次モードの除去:回折格子分散分光のとき,
無,湿度,真空,加熱・冷却の要否および可否を消費
高次モード除去率又は侵入率を規定。
電力と共に,特性を制約する条件,影響を考慮して配
viii)ダイクロイツクミラー:光束を2分割するた
分して規定。
めにLWT(長波長通過)SWR(短波長反射)又はその
(4)濾波,分光系
逆の特性を有するフィルタを用いるダイクロイックミ
観測対象の分光放射特性,観測の目的など,装置の
ラーでは,上記i),ii)の代わりに最大透過率の80%
要求条件から,濾波器を用いることが多いマルチスペ
又は90%になる波長を規定する他,iii)の代わりに
クトルラジオメータ(バンド数が少なくなり,バンド毎
10%になる波長を規定し,さらに,iv),v)も重視さ
で幾何学的位置が異なることが多い),分散分光を主と
れる。
して用いるラジオメトリックスペクトロメータ(幾何
(5)検出器
学的位置はすべて一致し,波長選択性の設計自由度が
熱赤外画像化装置での最も重要な構成要素のひとつ
大きいが,遮断特性の急峻度に限界がある),高い分光
として検出器がある。これまでの記述内容から推察さ
分解能が得られるフーリエ変換スペクトロメータ(ス
れるように,検出器に要求する性能はつぎの通りであ
−107−(405)
熱赤外画像化装置(第3回)
る。
ればよいこともある(IRCCD等多素子アレイ検出器は,
i)素子数と配列:単素子か,リニアアレイか,ス
PV型でなければならない)が,温度と感度は密接に関
テアリングアレイかを,さらにその配列法を素子数と
係する。
共に規定。
i)冷却温度:最も重要な要素で,温度変動を含め
ii)素子寸法と素子間隔 注):装置のIFOVと
て冷却方式(放射冷却,電子冷却,ジュールトムソン冷
MTFおよび感度に重大な影響を与えるフィルファク
却,機械式冷媒ガス循環冷却,など)を選定するための
タ(画素面積に占める有効検出素子面積)を規定(素子
寸法から素子面積がわかる)。
第1のパラメータであるので,周辺部温度又は排熱条
iii)素子間漏洩:MTF,ダイナミックレンジに影
響する素子間漏洩を定量的に規定。
件と共に規定。
ii)熱容量と熱負荷:検出素子とその容器やリー
ド線等からの侵入熟(放射・伝導による)および発生熱
iv)D*λ又は雑音電圧:雑音電圧は,7.1項で述べ
(検出器の消費電力に等しい)は定常運用冷去摘巨力を規
た。種類別に規定し,D*λで規定する場合は同時に
制し,冷却速度(一般にクールダウンタイムで熱容量と
fc,1/f雑音が優勢になる周波数をfLCと定義して,そ
冷却能力を同時に規定する)を規制するので,特定の熱
れぞれを規定。
容量と熱負荷に対する冷却能力として,温度(K)とパ
v)レスボンシビティR:入力対出力の直線性が
ワー(W)および検出器容器などを付けた状態での過
維持されている領域で,その入力と共に規定するか,
渡運用条件を含めたクールダウンタイム(sec)で規定
入出力特性を広い範囲で規定。
することが多い。放射冷却の場合は,冷却能力が小さ
vi)飽和放射入力:検出器のダイナミックレンジ
が,増幅器のそれより狭いときに重要になって来る。
いうえに冷却器自身への侵入熱があるので,前述の要
この場合,検出器出力対入力の直線性が3dB劣化す
iii)効率又は消費電力:前述の冷却パワーに対し
る放射入力で規定し,同時にその出力を規定。
て,これを冷却するための消費電力で冷却器の効率を
vii)動作電流:G−R noise,1/f noise,Shot noise
素別に侵入・発生熟を温度と共に規定する必要がある。
規定する。効率を下げる要素として,冷却器自身の冷
およびResponsivityに関連する動作電流(バイアス電
却端部への熱侵入(主として伝導熱)とガスの圧縮・膨
流とフォトン電流の和)を規定(特に,P−V形の場合
張サイクルの熱損失がある。また,高温端部の放熱設
に重要)。
計には効率とその温度とが重要である。放射冷却では
viii)整合又は最適負荷インピーダンス:低雑音プ
高温端部がなく,消費電力がゼロであるが,侵入熱と
リアンプの設計に不可欠である。このアンプの設計条
発生熱を一括して,しかも極低温度(100K以下)の条
件のもとで,レスボンシビティを規定。
件で宇宙空間(または,大気空間)に放熱する必要があ
(6)検出器用冷却器
るので限られた放熱面積では,冷却能力(パワー)は大
熱赤外域の電磁波の検出器としては,主として光量
きくできない(数mw∼数10mw,多くとも100数10
子型が用いられる。この波長域で用いられる光量子検
mw)。
知器は,常温では所期の動作をしないので,冷却が必
iv)振動,反力:機械式循環冷却器に対して重要
要である。冷却温度は検出器材料や素子方式・構造に
で,ガスの圧縮・膨張を行うための駆動力に対して,
より異なり,特殊なものでは,2∼3Kというのもある
構体や搭載機への反力として作用するので,他の性能
が,通常,50∼80Kに冷却する。光導電型(PC)の
(感度・解像力等)に大きな影響を与えるため冷却端部
HgCdTe検出器では,光起電力型(PV)に比し冷却温
(検出器取付部)と構体への取つけ部で力・周波数を規
度が感度に与える効果は小さく,100∼150Kに冷却す
定する。
v)寿命・保守間隔:観測装置やシステムの運用条
脚注)素子寸法(又は間隔)dはAIRYdiscより大きく
する必要があり,d>kx1.22Fλ(kは余裕度
で,MTFの要求に関係する,k≒2)でなければ
ならない。
件を制約する重要な要素であり,定期保守を行う(行え
る)ものと行わないものとで異なるが,このいずれかを
規定する。
−108−(406)
日本リモートセンシング学会誌Vol.13No.4
(7)光学系用冷却器
系等),後続部の雑音特性を考えて規定。
熱赤外域で用いる光学系は,自身からの熱放射赤外
(9)A/D変換器
線が背景又は迷光として作用して機器性能を制約する
デジタル通信系や,信号処理系に対応しうるように,
ので,冷却して放射を低減するのが望ましい。 光学
サンプリングとデジタル化処理を行う必要があるが,
系用でも冷却器は,検出器用と基本的には同じである
この処理器に次の規定を行う。
が,迷光となる光学系自体からの放射を下げるためで
i)サンプリング間隔時間又は周波数:信号の最
あるから,冷却端部の温度が比較的に高くてよく(200
低限必要な性質を忠実に再現しうるサンプリング時間
K∼270K),また,発熱がなくて侵入熱のみであるので,
間隔(τs=(1/2fmaxo),fmaxは信号の最高周波数で,そ
光学系構造体の適正な熟設計による侵入熱の削減・極
れぞれナイキスト間隔,ナイキスト周波数とも言う)を
少化が最も重要で,それをベースにして次の項目に対
規定する。
する要求性能を規定する。
ii)量子化レベル:最小の1ビットが雑音に比し
i)冷却温度と誤差:所要冷却温度で,この誤差が
て充分小さくなるように(量子化雑音が無視できるよ
観測(計測)値の精度を左右する。光学系の放射率は比
うに)選定し,前述のダイナミックレベルを充分カバー
較的小さい(0.1∼0.3)ので,測温誤差に対する冷温度
できるように最大ビットを規定する。
誤差の影響は比較的少ないが,数度の範囲で誤差を規
8.3装置設計の難易
定する。
さきに7.4項で,評価指数の導入を提案したが,設
ii)冷却能力:クールダウンタイムよりも定常運
計の難易度はこの指数と密接な関係があり,評価指数
転冷却パワーが重要である。冷却温度が比較的高いの
Aが大きい程,開発の成功率が高く,設計が容易なこ
で,放射冷却や電子冷却も選定時の検討対象になる。
となる。したがって,限られた期間,限られた開発費
iii)その他:検出器用の規定の中から,必要に応じ
て選別し,規定する(冷却方式等で異なる)。
とリソースの中で,リスクを少なくして開発するには,
要求性能を下げて対処する(優先度はユーザと相談す
(8)増幅器
るか,設計者が需要を減少させるリスクを覚悟して決
検出器の直後にあるプリアンプと,通信系や信号処
理系とのインタフェース機能を持つポストアンプでは
断する)必要がある。一方,IRCCDの出現などの技術
要求性能が異なるが,つぎの規定が必要である。
スクの低減,開発期間の短縮などが可能になる。
i)雑音指数:雑音指数または入力換算の雑音電
圧を規定。
の進歩により,k,t,…等の値が小さくなり,開発リ
ここで難易度(容易性)を考察するための式を再び示
しておく。
ii)増幅度:A/D等の後続回路の雑音が無視でき
る程度まで,または後続回路で取扱いやすいレベルま
で増幅するように規定。
iii)入力レベルと入力インピーダンス:雑音を最
A=n−k,α−2,m−P,β−q,D−r,Vs,Mt,Px,TDy
ここに
n=Ω/ωΩ:視野(rad),ω:瞬間視野(rad)でnは
総画素数
小にするインピーダンスと検出器雑音との関係から,
α=S/N・MTFatf(ナイキスト),
最小入力レベルを規定。
m=λB/△λλB:観測波長域の総計でmは全バンド
iv)ダイナミックレンジ又は,出力レベルとインピ
数を表す指数
ーダンス:所定のインピーダンスの負荷に対して,直
β=γmax/γleak又はSTFatf(ナイキスト),βは波
線性が維持できる出力レベルとこれに対応する入力レ
長選択純度を表す指数
ベル(増幅度が3dB低下する入・出力レベル)を規定。
D=Smax/ND:ダイナミックレンジ
v)周波数応答特性:低周波側,高周波側の遮断周
波数と,それ以外にその間の応答特性(信号処理・通信
V:容積,M:重(質)量,P:価格(開発費),TD:
開発期間
−109−(407)
日本リモートセンシング学会誌
Vol.14No.1(1994)pp.77−87
連載講義
熱赤外画像化装置(第4回)
大仲末雄
ThermalInfraredSensingandImagingEquipment
SueoOHNAKA
ド(6∼7μm)による,ジェット気流に沿う大気分布図
9.装 置 例
で,図31(C)には,大気の窓のバンド(10.5∼12.5
熱赤外画像化装置には,先に述べたように,観測対
μm)による海面温度分布を示す。また,表7(a)に
象の温度分布を画像(濃淡又はカラーで)として表示又
「VISSR」,表7(b)に「VTIR」の主な性能を示してあ
はプリントするもの(サーマルイメージング,サーモグ
る。
ラフィーなどと呼ぶ),観測対象の放射率の波長特性を
医療用,産業用としての熱赤外画像は「サーモグラ
利用して,資源探査等の目的に用いる,多波長帯域で
フィー」とも呼ばれ,温度分布と特定対象(指定した箇
放射度分布を画像化する(マルチスペクトルイメージ
所)の温度(SpotTemp)を測定しうるようになってい
ング)もの,大気中の汚染ガスの赤外線分光吸収や観測
る場合が多い。又,検出素子の進歩と共に急速に装置
対象の分光放射率から,ガスや対象物の分布を観測す
が高感度化,高解像化しつつある。すなわち,多素
る(イメージングスペクトロメータ)ものがある。
子検出器が出現し,波長域3∼5μmでSiショットキ
9.1サーマルイメージング装置
ーCCDによる1024×1024画素で,NE△T=0.134°C
この範疇に属するものに,地上用・航空機搭載用の
が達成され27),HgCdTeIRCCDを用いて波長域10
他,ミサイル誘導用等の軍事目的の多種のものがある
μm帯でTDI(TimeDelayIntegration)により,
が,ここでは省略する。
NE△T=0.05°Cが達成されている28)。又,TDI(Time
人工衛星搭載して宇宙から地球を観測するもののう
DelayIntegration)による高感度化が可能になること
ち,静止気象衛星(GMS)「ひまわり」に搭載した可視
から,3∼5μm帯ではHgCdTe検出器の冷却温度が
赤外放射計「VISSR」,海洋観測衛星(MOS−1)「もも
比較的高くてもよいので,電子冷却方式による装置が
1号」に搭載した可視熱赤外放射計「VTIR」などがこ
市販されている(富士通商品名インフラアイ6000)29)。
の分類に入ると思われる。これらは,数バンドあり,
図32(a)∼(d)は,広波長帯域幅のサーモグラフィー装
マルチスペクトルイメージングとも言えるが,使用目
置で撮像した熱赤外画像の例を示したもので,図
的が海面や雲の温度分布を測定するもので,数波長を
32(C)は,可視カラー写真と熱赤外の疑似カラー写真を
同時観測することで,大気の吸収減衰を補正すること
対比したものである。これから,煙が高温であること,
ができる。「気象衛星ひまわり搭載VISSR」の画像は
煙突の使用状況が煙が見えなくても見分けられること
TVの気象情報として毎日報道されているので省略す
などがわかる。図32(d)は,メガネを掛けた人が左眼の
るが,この装置で観測した熱放射分布を図31(a)に示
前に風船を持って来た状態を,通常のテレビカメラで
す25)。図31(b)は,「もも1号,VTIR」の水蒸気バン
撮影した表示画像(右)と,熱赤外のテレビカメラで撮
富士通株式会社宇宙開発推進室
〒211川崎市中原区上小田中1015
⑥1993RSSJ
SpaceTechnologyDevelopmentGroup.,
FujitsuLimited.
1015,Kamikodanaka,Nakahara−ku,
Kawasaki211,Japan
−77−
熱赤外画像化装置(第4回)
図31(b)ジェット気流に沿う大気分布26)
図31(a)ひまわりによる熟放射分布画像例251
MOS−1/VTIRデータをカラー合成(可視:青,赤外6
∼7μm帯:緑,11.5∼12.5μm:赤)画像(6∼7μmは
赤:高温度,青:低温度を表示している
水蒸気による吸収,放射波長域,11.5∼12.5μmは大気
の窓で地表面放射波長域)(青は雲,緑は水蒸気で,そ
の境がジェット気流流軸等上層大気の沈降,流線など
との関連を表す)。
図31(C)「もも1号」で撮影した日本近海(1987年6月1日AMlO時)の温度分布
受信処理:宇宙開発事業団
資料提供:㈲リモートセンシング技術センター
− 78 −
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.1
図32(a)10μm帯TDI熟赤外画像
図32(b)10μm帯用インフラアイR)5000画像
(R)富士通のサーモグラフィー装置商品名)
−79−
熱赤外画像化装置(第4回)
図32(C)インフラアイR)6000(電子冷却3∼5μm帯用)画像
(上)可視写真(比較用(F)赤外画像
(R)富士通のサ――モグラフィー装置商品名)
−80−
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.1
9.2 マルチスペクトルイメージング
装置
マルチスペクトルイメージング装置は,
先述のように多バンドの帯域通過フィル
タを用いて所要の波長域を選択し,観測
対象の放射強度のバンド間の相関・逆相
関などの二次元分布を求めて画像化する
もので,現在稼働している宇宙からの地
球観測システムの殆どの装置はこの範疇
に属するが,熱赤外域のものはそれほど
多くなく,MOS/MESSR,Landsat/
MSS & TM,SPOT/HRV,JERS/
OPS,ASTER/AVNIR & SWIRなど
その殆どは可視域,短波長赤外域のセン
サである。現在は計画又は開発段階にあ
るので,開発済のものと計画・開発中の
図32(d)可視・熟赤外画像の比較
衛星搭載地球観測用及び航空機搭載用熱
左:IRCCDカメラ(3∼5μm帯)による熱赤外画像(白:高温,黒:
赤外画像化装置の代表的なものの性能を,
低温)
一部推定を含めて,表8(a)∼(f)に示し
右:CCDカメラによる可視画像
ておく。これらの表から,今後の地球観
測用の熱赤外画像化装置は,熱赤外波長
影した表示画像(左)とを対比したものである。熱赤外
域を細分割して多バンド化,マルチチャンネル化する
線は,メガネ(ガラス)を透過せず,風船(プラスチック)
方向にあることが読みとれる。これは,資源探査,環
を透過すること,頭髪や衣服に多少の断熱効果がある
境問題,災害監視などの観測目的を達成するには,観
こと等がわかる。
表7(b)海洋観測衛星「もも1号,VTIR」
の主要性能
表7(a)気象衛星「ひまわり」用「VISSR」
の主要性能
項
目
観 測 波 長
空
間
解
能
IF O V
地表
分 解能
方
走
性
能
赤
外
1 0. 5 ∼ 12. 5 μm
備
項 考
性 能
備 考
観測
可視
バ ン ド1 0. 5 ∼ 0. 7 μm
波長
赤外
バ ン ド2 6. 0∼ 7. 0 μm
水蒸気
バ ン ド3 1 0. 5 ∼ 1 1. 5 μm
海 (地 )画温 度
バ ン ド4 1 1. 5 ∼ 12. 5 μm
同 上
可
視
0. 5 5 ∼0. 7 5 μm
赤
外
0. 1 4 m ra d
瞬時
可 視
可
視
0. 0 3 5 m r a d
視野
赤 外
赤
外
5 km
視野
クロス トラック −6 5 0∼ +38 0 以 上 地 表 約 1 50 0 k m
可
視
式
東西方向
1. 2 5 k m
南北方向
地 表 900 m
3. 0 m ra d
地 表 27 0 0 m
衛星進行に より
アロングトラック
地 球 を周 回
ス ピン に よ り
走査鏡 により
査
2 5 0 0 ste p
フ レー ム時 間
1. 0 m ra d
ウィス クブルーム
走査
クロス トラック 回転 反 射 鏡
(7 .3 回 /秒 )
45 °固定
感度
可視
S/ N
5 5 d B 以上
ア ルベ ド 8 0 %
赤外
N E △T
0. 5 K 以下
30 0 K に て
±0. 2 K
温度 は周 囲
温度 +1 0 °
C
10 0 rp m
N E △T
目
走査角
約 20 度
l
25 分
0. 5 K 以下
標準黒体温度測定精 度
30 0 K に て
−81−
熱赤外画像化装置(第4回)
表8(b)ADEOS・II搭載「GLI」の主要性能(暫定)
表8(a)EOS・AMl用「ASTER・TIR」の主要性能
項
目
観
測
波
長
性
能
備
考
項 観測
8. 125∼ 8. 475
目
0. 38 0∼
0. 8 8 5 μm
S W IR
1. 05 0 ∼ 2. 2 1 5
8. 925∼ 9. 275
T IR
10. 95∼ 11. 65
クロス トラック ±42.5 m rad
アロングトラック
走査
感度
3. 7 5 ∼ 1 4. 3 μm
(6 チ ャ ネ ル )
地 表 90 m
瞬 時 視 野
M T F 0. 25
視野
考
μm (5 チ ャ ネ ル )
10. 25∼ 10. 95
127. 6 μra d
備 (2 3 チ ャ ネ ル )
8. 475∼ 8. 825
瞬
時
視
野
能
V N IR
波長
μm
性 地 表 60 km ,
視可
衛星進行によ り
走 地球周回
感度
0. 3 K 以 下
300 K に対 して
12 ビッ ト
量 子 化 ビ ッ ト数
校
正
具
体
270 K ∼ 340 K
検 出 器 冷 却
ス ター リ ング
冷凍 機
(地 表 2 50 m )
ク ロ ス トラ ッ ク ± 5 5 度
】アロ ング トラ ック
査
V N IR
地 表 2000 k m
±2 0 度 チ ル ト可能
回転 反射 鏡
S/ N > 8 0 0
(> 2 0 0 )
クロス トラック 振 動 反 射鏡
NEAT
地 表 1 km
(0. 3 12 5 m r a d
の チ ャ ネ ル あ り)
±8. 54 度
ポ イ ンテ ィン グ
可能
ダ イ ナ ミ ッ クレ ン ジ
1. 2 5 m r a d
S W IR
IF O V :
1 k m に対 して
( ) 内 は 25 0 m
に対 して
T IR
N E △T < 0. 1 k
IF O V :1 k m
に対 し て
寿命 :
偏 50000 時 間
向 感 度
量 子 化 ビ ッ ト数
2 %以 下
1 2 ビ ッ ト/
10 ビッ ト
測対象の識別,分類などに,この波長域内での熱赤外
校 正 法
線放射の波長特性の微妙な差異を利用する必要がある
ためであり,半導体技術の進歩で検出器の性能が向上
して装置の開発が可能になり,目的の達成が現実的に
なって来たためである。
V N IR , S W IR :
太 陽 ,ハ ロゲ ン
ラ ンプ に よ る
T IR :内 蔵 黒 体
と深宇 宙 に よる
検 出 器 冷 却
ス タ ー リン グ
冷凍機
前述の海洋観測衛星「もも」用「VTIR」はこの項の
寿命 :
50 0 0 0 時 間
範疇に含めることもできるが,バンド数が少ないので,
9.1項に含めて述べた。
れがある(もっとも,熱赤外域の電磁波は,可視域や赤
最近開発されたもの,現在開発中又は開発計画中の
外域に比し波長が長く,干渉膜の厚さが大きいのでこ
もの,およびこの開発に必要な資料を得るために用い
の種の変化の割合が小さいが)。また,大口径(F値が小
られている衛星搭載又は航空機搭載の熟赤外域のマル
さい)の集光鏡を用いた「帯域幅/中心波長」の小さい
チスペクトルイメージング装置の構成の一例として,
システムでは,フィルタの遮断特性が原理的に緩やか
EOS・AMl衛星搭載センサTIR(Thermal Infrared
(通過域が狭く,遮断幅が広く)になるため,マルチバ
Radiometer)の系統を図33に示しておく。
ンド化を制約する。
狭帯域幅の光学フィルタは,多層の干渉薄膜を用い
この種の装置は,ひとつの対象からの放射をいくつ
ているため,薄膜が温度,湿度,気圧(含真空),紫外
かのスペクトルバンドに分割し,その相関関係を比較
線,酸素原子等化学活性物質,放射線,コンタミネー
するものであるから,各バンド間の画像信号の幾何学
ションなどの環境条件による遮断波長域,中心波長等
的位置の一致度(レジストレーションと言う)が重要で
の濾波特性の一時的な変動や長時間この条件に曝され
あるが,先にも述べたように,各バンドのフィルタを
ることによる経年変化により恒久的変化が生ずるおそ
検出器の直前(フォカルプレン)に貼り付ける方式で
−82−
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.1
表8(d)EOS−AM1搭載用MODIS−N
表8(c)次期気象衛星(米国)GOES−NEXTImager
項
目
観 測 波 長
瞬 時 視 野
可
視
熱 赤外
可
視
性
能
備
0. 5 5∼ 0. 7 5 μm
雲
3. 8 0∼ 4. 0 0
夜
間
考
6. 5 0∼ 7. 0 0
水蒸気
1 0. 2 0 ∼1 1. 2 0
地(
海)
面温度
1 1. 5 0 ∼1 2. 5 0
地(
海)
面温度
2 8 μr a d
チ ャ ネル ア ラ
項
観測
波長
目
V N IR
11 2 μr a d
〔 3. 9 μm
1 0.
1. 7 μ
mm 〕
感
度
査
2 軸 振 動 平面 鏡
可
視
S/ N
2 1 μra d
地表で
S W IR
1. 230∼ 2. 155
(
4 チ ャ ネル )
T IR
3. 660∼
可視 1 k m ,
赤 外 4 km
視野
閲 口径 3 1. 1 c m
他
クロス トラック ±55°
クロス トラック 機 械 式 (
回転 鏡 )
感度
V N IR/ SW IR
T IR
sw ath :2330 k m
S/ N :
チ ャ ネル
200∼ 1000
に よ り異 な る
N E △T :
0. 05∼ 5 K
校
正
源
(1 0. 7 μm
1 1. 7 μm )
の
によ り3 種 あ り
走査
0. 3 5 K
そ
チ ャネ ル
0. 709 m rad
1. 418 m rad
なし
1.0 K (
6. 7 μm )
10 ビ ッ ト
0. 354 m rad
ボ イ ンテ ィグ
N E4 △T1.
K (
3. 9 μm )
量子化 ビッ ト
考
0. 965 μm
(
16 チ ャ ネル )
瞬
時
視
野
15 0 (
0. 6 5 μm )
赤
外
備
14.385 μm
(
16 チ ャネル )
2 2 4 μr a d
(
6. 7 μm )
走
能
0.407∼
(
0. 6 5 μm ) イ メ ン ト :
赤
外
性
そ
V N IR /SW IR
太 陽 , ラ ンプ,
T IR
黒 体 , 深 宇宙
モ ノ ク ロメ ー タ
の
他
開 口径 :
17. 8 φcm
F 値 :2. 1
GOES1∼7:スピン安定姿勢制御
GOES8∼(GOES−NEXT):3軸安定姿勢制御
MODIS−N:Moderate−resolutionImaging
Spectroradiometer−Nadir
は,必ずその位置が異なるので,信号処理でその補正
を行う必要がある。補正後のずれが1画素以内であれ
率が低下するためSN比が小さくなるという問題があ
ば観測目的に照らして考察すればよく,MTFの低下
るほか,高価になることなどのため,未だに開発計画
として評価することもできよう。また,走査系のジッ
が軌道に乗っていないのは残念である。ただ,技術的
タ,特にランダムジッタ(機械式,電子式を問わず)が
には対策可能(画像データ圧縮処理技術,偏光解消素子
あれば補正処理が不可能になり,MTFによる評価を
と偏光素子の組合せによるアノマリ対策,光学系の大
行うのみとなる。
9.3 イメージングスぺクトロメータ
口径化等で対処可能)な問題である。
この種の装置は,本連載講義(第1回)で述べた熱赤
観測対象からの熱赤外放射の2次元の分布として,
外画像が「非五感」の情報であることが持つ問題が障
さらにスペクトル分布としてとらえ,分析する連続分
害にならない分野でのデータ取得,例えば自然環境の
光イメージング装置である。熱赤外域では今のところ,
破壊状況や資源分布など分光放射(反射)特性が明らか
開発されたものも計画中のものもないが,可視近赤外
になっていない観測対象や観測データを分析・研究す
域,短波長赤外域では米国のHIRIS,MODIS−Tなど
る手段として,又,複数のスペクトルの画像を組合わ
が提案されている。しかし,バンド数が大きい上にイ
せてその分布の実態を関係者に訴えるための擬似可視
メージングを行うのでデータ量が膨大なものになるこ
像を作成するのに極めて有効であり,技術的問題も殆
と,偏光によるアノマリがあり,この対策を施せば効
ど解決しており,早期に開発されることが望まれる。
−83−
熱赤外画像化装置(第4回)
表8(e)航空機搭載AASの主要性能
項
観測
目
性
能
V N IR
0. 7∼ 1.0 μm
(
1 チ ャネ ル)
M W IR
3∼ 5 μm
(
3 チ ャネ ル)
T IR (
1)
8∼ 10 μm
(
12 チ ャネ ル)
波長
T IR (
2)
瞬
時
視
野
備
表8(f)航空機搭載TIMSの主要性能
考
項
クロス トラック 80 度
校正
黒
体
T IR
そ
の
8. 2∼ 8.6 μm
1 1.3∼ 11.7
瞬
時
視
野
2. 5 m rad
ロー リング補 正
クロス トラック 80 度 以上
(
有 効 60 度 以 上 ) ±15 度
視野
サンプリング間隔
サ ンプリング総数
走査
クロス トラック 回転 反射 鏡
512
感度
N E △T
8 ビッ ト
校
2枚 (
2 温度 )
そ
N E △T
一部 のチャネルで
0. 13∼ 1.2 K
1.3∼ 2. 75 K
≦0. 3 K
量 子 化 ビ ッ ト数
正
黒
体
の
45°固定
他
開 口径 19 cm
F 値 :1. 9
TIMS:ThermalInfraredMultichanelScanner
高温 1
常温 1
他
考
10. 3∼ 11.1
0. 20∼ 0. 35 μm
クロス トラ ック 回転 多 面鏡
感度
T IR
備
9. 6∼ 10. 2
バ ン ド幅
アロング トラック
走査
能
9. 0∼ 9.4
2. 75 m ra d
視野
性
8. 6∼ 9.0
10∼ 12 μm
(12 チ ャネ ル)
5 m rad
目
観
測
波
長
開口
姿 勢安 定 化
用または相互使用の有無と関連条件など,を考慮しな
38 ×14. 5 cm 2
3軸 ジャイロ
ければならない。
AAS:AirbornAsterSirnulator
(2)保管・輸送の環境条件
上述の使用時の環境条件は比較的によく考慮されて
いるが,保管時や輸送時の条件は見逃され勝ちであり,
10.装置設計の制約条件と設計に必要な情報
予め充分検討しておかなければ,使用前に故障したり
熱赤外画像化装置の設計に当たり,考慮しなければ
して役立たなくなるおそれがある。
ならない条件や必要情報については,これまでの記述
(3)開発・製造環境条件
でおおよそ明らかになっているが,ここであらためて
開発・製造要員や設備などの技術レベル,加工中の
整理すると,つぎのようになる。ここでは,便宜上制
材料の毒性やそれらの飛散・拡散を防止する設備や加
約条件と必要情報に分けるが,情報としたものが設計
工法等の制度面の制約,開発・製造コスト,設備費用
を制約することになることもあり,制約条件を設計に
等のコスト面の制約がある。
必要な情報として活用することもあるのは,勿論であ
(4)現状の技術水準からの制約
る。
開発・製造に当たって,当該装置に直接関係する技
10.1制約条件
(1)使用環境条件
装置を使用する環境として,取付場所や搭載機(衛星
術は勿論のこと,直接関係のない事項であっても,部
員,材料や加工技術その他の周辺技術,社会的条件と
その条件を満たす技術など,設計時点におけるあらゆ
航空機・自動車など),取り扱う人の他に,運用時の温
度範囲,湿度,振動,衝撃,気圧,周囲の気体(空気,
原子状酸素等),放射線(電磁波,紫外線,電子線,陽
子線,中性子線)などの環境条件,使用可能電源・電
力,妨害電磁波,インタフェース条件,隣接する機器
る技術の成熟度(技術レベル)以上のものを開発するこ
の条件(発熱,放出ガス,振動など),他の機器との共
要電力や排熱量等の物理的なリソースの他,開発期
とはできない。
(5)リソースからの制約
地上,机上で使用するものは,この制約が少ないが
衛星搭載用などの場合,形状・寸法・容積・重量・所
−84−
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.1
図33EOS・AMl用TIR系統図
間・開発要員・開発資金等の経済的,経営的なリソー
どの空間分解能とその所要特性(MTFなど)および視
スの制約を受ける。
野(この視野を観察するのに必要な時間(フレームタイ
(6)通信容量などの制約
ム)と共に)の情報は不可欠である。
通信回線などの条件から,データ量とデータ伝送速
(5)スペクトル分解能と波長域
度や記録装置の使用の可否と記録容量と記録速度等の
濾波方式や分光方式及び関連する部品・構成要素の
制約条件がある。
性能を設定するために不可欠である。
10.2 設計に必要な情報
(6)観測対象の性質
10.2.1性能情報又は技術情報
観測(使用)目的に整合し,制約条件を満足させた上
(1)使用日的又は開発目的
で,性能を確保する最適設計を行なうためには,対象
設計の前提条件とも言えるが,装置のイメージがこ
の性質を設計条件としてインプットする必要がある。
れで設定される。
10.2.2市場情報
(2)運用時間
装置の設計に不可欠なものとして,技術的情報以外
装置を運用・運転する時間として,連続運転か,間
に,装置を受け入れてくれる市場の情報(条件)重要で
欠運転か,一回の運転時間などは装置の温度上昇や電
ある。
源容量などの制約条件との関連で重要である。
(1)使用方法
(3)運用時間間隔(周期)
衛星搭載,航空機搭載,車両搭載などの他,直接操
装置を間欠運転する場合の運用時間の間隔又は運用
作か,遠隔操作かなどの条件や市場の動向の情報。
の周期は,(2)の運用時間と共に重要な設計条件である。
(2)顧客の特性
(4) 空間分解能と視野
装置の使用者,購入者が,専門家(データの分析能力
画像化装置の重要なパラメータとして,瞬時視野な
や,仕様の設定能力など豊富な能力の保持者)か,一般
−85−
熱赤外画像化装置(第4回)
人(非専門家)か,研究用か,商業用(産業用,医療用,
P460JohnWileySons.Inc.
監視用)か,軍用(戦術・戦略用)か,娯楽用かなどの用
2)ERSDAC:宇宙からの地球観測システム(1990),
途,資金力(予算・価格等)や購入者の期待効果(投資効
P81(財)資源観測解析センター
果や資金回収期間など),選定の基準(科学的(定量的)
3)同上P2
根拠によるか,感性的(定性的)根拠によるかなど),と
4)同上P16
いうような顧客の性格や特性は,装置設計に当たって
5)大仲:可視熟赤外放射計(VTIR),OCEANAGE.
の重要な情報である。
Vol.15.No.11(Nor.1983)P34
(3)性能項目の優先順位
6)J.M.Lloyd:ThermallmagingSystem,(1975),
上述の顧客の特性とも関連するが,多数の性能項目
P50,P51,P56,P57PlenumPublishingCorp.
の中で相互に矛盾することがある場合に,優先させる
7)Hudson:前掲,P161
項目の選定基準と順位は,設計に重要な情報である。
8)J.M.Lloyd:前掲,P404
(4)観測対象の性質
9)同上P412
技術的にも観測対象の性質は重要な情報であるが,
10)同上P416
使用日的達成のために,この装置以外の手段を用いた
11)ERSDAC:前掲,P53,P55
場合との比較,既存装置との競合,差別化などの関連
12)同上P38
事項や開発重点項目の検討のためにも重要である。
13)W.LWolfe&G.J.Zissis:THEINFRARED
HANDBOOK,(1989)P5−91,Environmental
11.む す び
ResearchInstituteofMichigan
本講座では,熱赤外画像化装置について,原理から
14)同上P5−92
利用面を重視した設計上の留意点を中心にして,でき
15)同上P5−101
るだけ平易に述べたつもりである。また,装置を購入
16)NASA:EOSScienceSteeringComittee
する際に,仕様にこれだけの事項を漏れなく織り込ん
Report,1989EARTHOBSERVINGSYSTEM
で発注すれば希望にかなう装置の設計が可能になり,
VOL.II,Pll1
既存の装置を使用する際に,装置の機能・性能項目が
17)工藤恵栄:分光の基礎と方法P424,P425(昭和
使用目的に適応しうるか否かを判断するのに利用でき
60年7月)オーム社
るように心掛けたつもりであるが,浅学非才のため,
18)大森他:“回折格子を用いた分光イメージャーの
充分に意に沿ったものにならなかったきらいがある。
検討”第36回宇科技連講演会1992,P211
ただ,本講義が熱赤外域の放射を利用する画像化装置
19)工藤恵栄:前掲,P479∼527
やシステムを設計したり,購入・使用したりするのに
20)J.M.Lloyd:前掲,P183∼194
多少なりとも役立ち,利用技術研究のより一層の活発
21)久保田他:光学技術ハンドブック,P148(1975.
化と発展に寄与すること,ひいては,熱赤外線技術が
7)朝倉書店
地球環境問題や資源探査などを通して人類社会のため
22)久保田広:応用光学,P113∼117(1959.12)岩波
に何らかの貢献ができれば幸いである。
全書
最後なりましたが,この連載講義を執筆する機会を
23)電子通信学会編:電子通信ハンドブック,P182
与えて頂き,貴重なご助言やご意見をお寄せ頂いた,
昭和60.2.オーム社
石井編集委員長をはじめ,編集委員の方々に厚くお礼
24)増谷,蘇原:光学系フレアの測定法,赤外線技術
申し上げます。
第10号,1985,P19∼25,赤外線技術研究会(現,
日本赤外線学会)
25)地球の熱放射分布:日本リモートセンシング学会
参考文献
誌第3巻,第2号(1983),表紙
l)Hudson:Infrared system Engineering(1969),
26)田中他:ジェット気流に沿う大気:同上第10巻,
−86−
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.1
第2号(1990),表紙およびP13
27)瀬戸他:百万画素IRCSD撮像装置:日本赤外線
学会,研究会資料IR−93−5∼7(1991.5.21)P25
外線技術第18号P46NOV.(1990),赤外線技術
28)宮本他:HgCdTe走査型IRCCDとその応用:赤
置,インフラアイ6000,富士通(株)
研究会
29)富士通カタログ:電子冷却型サーモグラフィー装
訂 正
巻
号
頁
訂正 箇所
訂
正
文
13
2
69
表1
体性
休性
13
3
77
左下から 8 行 目
……周期 P s=1/S,P t=1/t(
単位 m m
……周期 P s,P t (
単位 m m または
または rad)と……
red)と……
F 1(ω
) =2/σ
√
π ∫exp{
……
F1( ω)=2/σ
√
n ∫ex p{
…
…
13
3
79
右下から 8 行目
13
3
80
左上か ら11 行 目, f(x) =A cos{ω
o x +∫Ωo cos px dx )
12 行 目
=A cosfωox +
( Ωo/p)
sin px +φo)
原
文
f(x )=A cos{(ωo+Ωo cos px) x +φo}
=A cos{ωox +
( Ωo/ρ
) si
n px +φo)
13
4
100
右下か ら10 行 目
…… τ
m で表す。……
…… τm で表す。・
…‥
13
4
105
図 30 のタイ トル
熱赤外画像装置系統
熱赤外画像送致系統
−87−
日本リモートセンシング学会誌Vol.14No.3
訂 正
前回の連載講義「熱赤外画像化装置(第2回)」,「同(第4回)」において以下の様な誤りがありましたので,お
詫びして訂正致します。
巻
号
頁
訂 正 箇 所
訂 13
3
70
右 9 行 と 10 行 の
e nsh = R d √2 e I
−
間 に挿入
こ こに
正 文
原 文
e :電 子 の 電 荷
I :電 流
13
3
76
図 2 3 縦 軸 目盛
− 0. 2 , 0 , 0. 2 , 0. 4 , 0. 6 , 0. 8 , 1. 0
− 2, 0, 2 , 4, 6, 8, 10
13
3
76
図 23 説 明
実 線 は 2 J1( x)/ x , 点 線 は 2( J1( x)/
実 線 は J1( x)/ x ,点 線 は J1( x)/( x) −
x − S 2J1( s x)/ s x)(
s = 0. 5) , s = a'/ a , S 2J1( x) S x( S = 0. 5) ,S = a'/ a ,a :輪
x = 2 πa r/ λf , a' :輪 帯 開 口 半( 内)
帯 内 径 , a :輪 帯 外 径
径 , a :開 口 半( 外) 径 , r :像( A I R Y
d is c) 半 径 , λ :波 長 , f :焦 点 距 離 ,
F = f/ 2 a
14
1
82
表 8( b ) V N I R
T IR
0. 3 8 0 ∼ 0. 8 3 0 μm (2 2 チ ャ ン ネ ル )
0. 3 8 0 ∼ 0. 8 8 5 μm (2 3 チ ャ ン ネ ル )
3. 7 1 5 ∼ 1 1. 9 5 μm (7 チ ャ ン ネ ル )
3. 7 5 ∼ 1 4. 3 μm (6 チ ャ ン ネ ル )
(富士通株式会社宇宙開発推進室,大仲末雄)
−81−(283)
技術展望・地球観測
-日本赤外線学会誌 Vol.1No.1p47-59-
日本赤外線学会誌 第1巻第1号(1991.7)
技術展望V
地球観測
1.は じ め に
リモートセンシングには遠隔測定の意味もあり,
ずれにしても,.テレメトリーとは区別して考える.
テレメトリーとも通じるものがあるが,概念とし
リモートセンシングは,テレビカメラやサーモグ
て「宇宙空間からの人工衛星による地球観測」を
ラフィー等単なる非接触センサそのものではなく,
考えるのが通例である.もっと広く,航空機など
前述の定義の如く電磁波の反射・放射の特性が地
によるものを含めて,「飛翔体に搭載したセンサ
表・海面・大気などの状況の関数になっているこ
により地球を観測すること」との定義もある.い
とを利用して,これらのセンサにより地球を観測
▲:1990年8月時点で打上げ済み△:同打上げ予定段階出典:宇宙開発ハソドブック(科技庁)および宇宙開発推進会議経団連資料
LANDSAT:Land Satellite
SMS:Synchronous Meteorological Satellite
ADEOS:AdvancedEarthObservingSatellite
GOBS:Geostalionary Operational Environmental Satellite SEASAT:Sea Satellite
N−POP:NASA−PolarOrbitingPlatform
MOS:Marine Observation Satellite
GMS:Geostationary Meleorological Satetlite.
NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration
ERS:ESA Remote−sensing Satellite(欧) EOS:63rlhObservingSystem
J−POP:Japan−PolarOrb江ingPlalform
ERS:Earth Resources Satellite(日)
E−POP:Europe−PolarOrbitingPlatform
SPOT:System
Probatoive
d’observation
de
la
terre
図1.地球観測衛星の打ち上げ
EarthObsevations
SueoOHNAKA
SpaceTechnologyDevelopmentCroupFujitsuLimied
1015,Kamikodanaka,Nakahara,Kawasaki,Japan,Zip211
所属:富士通株式会社宇宙開発推進室〒211川崎市中原区上小田中1015
−47−
日本赤外線学会誌第1着第1号(1991.7)
するシステムや技術である.リモートセンシング
テムのうち,赤外域のものについて述べることに
による観測データは,例えば天気予報や気象情報
する.
として,「ひまわりの画像」がTVで放送され日
常生活にも深く浸透しているが,地球環境問題が
2.赤外線リモートセンシング
浮上して,宇宙からの地球観測がその広域性のた
地球観測に利用する電磁波の波長域は,図2の
め注目され,国際協力による地球観測システム計
ようになる.
画が,米国NASAによるEOS.日本のJPO
これらのうち,マイクロ波は主としてアクティ
P,欧州のEPOPなどとして策定されている.
ブのレーダー(JERS−1の合成開口レーダ
これらの計画を含めたリモートセンシング衛星
(SAR)など)に用いられ,赤外域より短波長
(地球観測衛星)の打上げの経過と今後の計画を
のいわゆる光学センサは,主としてパッシブの,
図1に,リモートセンシソグの方式の分類の一例
いわゆる放射計が大勢を占める.地表面の情報を
を表1に示してある.以下,これらのセンサシス
得るために利用する放射エネルギーとして,波長
表1.リモートセンシソグ方式の分類
ー48−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
図2.リモートセンシングに用いる電磁波のスペクトル
約3μmを境にして,短波長側(紫外,可視,近
赤外,短波赤外)では,太陽放射の地表面または
大気での反射(散乱)を利用し,それより長波長
の熟赤外域では地表面または大気からの熟放射を
利用する.その利用面から見た地表から放射(又
は太陽放射の散乱反射)の概略を図3に,観測対
象を図4に示した.
図4に示したように,地表の土壌や植生等の観
測に反射を用い,海面温度や大気ガス等の観測に
は主として熟赤外線放射を利用する.さらに,可
図3.地表からの分光放射(反射)
視近赤外域は,植生や土壌の情報を得るのに用い
波長3μm以上の熟赤外域では,主として常温
られ,短波長赤外域は,地表の反射率のスペクト
(約300K)の物体からの分光放射が最も大きく
ル特性(OH基の伸縮・曲げ・振動に対応)(例
なる8−12μm帯を用い,放射強度が温度の関
えば図5)から鉱物資源,主として粘土化関連鉱
数であることから海面の温度分布や雲の分布を観
物や炭酸塩鉱物などを探査するのに用いられる.
測したり(気象衛星「ひまわり」や海洋観測衛星
−49−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
図4.(a)観測目的と対象
図4.(b)対象の観測手段
−50−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
図5.変質作用を受けた岩石の実験室における反射スペクトル
リモートセンシングでは,赤外域の波長別につぎのように呼んでいる.
赤 外 域 の波 長 別 の呼 び方
短波長赤外
熟
赤
外
近
赤
外
0.7 ∼ 1.2 μm
1.2 −3 μm
3 ∼ 1 5 μm
備考)従来1.2μm∼15μmまたは1.2∼5μmを中間赤外と呼んでいたが,最近はあまり用いない.
−51−
日本赤外線学会琵第1巻第1号(1991.7)
表2.TOVS各チャネルの特性
地表分散能20km/観測幅2200km
H I R S
チ ャネ ル
番
号
中心波長
(μ m
)
フ ィル タの
半値幅
(cm −1 )
等価雑音
放射輝度
(m W /m 2s rc m ‐1 )
主
要
な
荷 重 関 数 の
吸収 気 体
ピー ク の 位 置
各 チ ャネ ル の主 な 目的 と特 性
3 0m b
1 5 .0 0
3.
0
0.
8 0
CO 2
14 .
70
1 0 .0
0 .2 7
CO 2
6 0m b
3
14 .
5 0
12 .
0
0 .2 7
C O 2
1 0 0m b
4
1 4.
20
16 .
0
0 .2 2
C O 2
4 0 0m b
0 .2 2
C O2
6 0 0m b
0 .2 2
C O 2 /H 2 0
C O 2/H 2 0
1
2
5
1 4.
0 0
1 6 .0
6
1 3 .7 0
1 6 .0
7
1 3 .4 0
1 6 .0
0 .2 2
8
1 1 .1 0
3 5 .0
0 .1 1
8 0 0m b
.
9 0 0m b
地
H 20
0 3/u 2 0
表
9
9 .7 0
2 5 .0
0 .1 6
10
8 .3 0
6 0 .0
0 .1 6
E 20
9 0 0m b
1 1
7 .3 0
4 0 .0
0 .2 2
H 20
7 0 0m b
12
6 .7 0
8 0 .0
0 .1 1
E 20
13
4.
57
2 3 .0
0 .0 0 2
N 20
鉛直温度分布
2 5 m t〉
表 面 温 度, 雲 の 検 出
オ ゾ ン量
水 蒸 気量 鉛 直分 布
50 0m も
1 0 0 0m b
14
4.
52
2 3 .0
0.
0 02
15
4.
46
2 3 .0
0 .0 0 2
C O 2/N 2 0
N 20
7 0 0m b
9 5 0m b
比較的高温な大気の鉛直温度分
16
4.
40
2 3 .0
0 .0 0 2
C O 2 /N 2 0
4 0 0m b
布
17
4.
2 4
23.
0
0.
0 02
18
4.
0 0
2 3 .0
0 .0 0 2
N 2 /C O 2/N 2°
0
地
表
19
3.
7 0
1 0 0 .0
0 .0 0 1
N 2 0 /H z O
地
表
C O 2
5 m t)
表 面 温 度, 雲 の 検 出
8 チャネル よ り 雲 の 透 過 度 が よ い .
太 陽 光 の 反 射 が か な り含 ま れ る
20
0.
7 0
1 0 0 0 .0
0 .1 % アル ベ ド
地
H 20
表
日中 に お け る雲 の検 出
他にSSU(StratosphericSoundingUnit−15μmバンド)3台及びMSU(Microwave
soundingUnit観測幅736km分解能147km)搭載
(MOS−1」),大気中の気体の高度分布特性
は,ここでは省略するが図8に示すような情報シ
および各気体の赤外吸収スペクトル特性を利用し
ステムにより利用者にデータ(情報)を配布する
て,大気の垂直温度分布を観測するもの(表2,
ことと,使用者が,その情報を利用しやすいよう
図6)がある.さらに,SiO の伸縮振動スペク
に加工することに大別される.
トルが,鉱石の成分により8∼12μm帯で特徴
利用者が使用する利用者システムによる処理に
のある分光放射特性を示すことを利用して,鉱物
は,利用目的に固有の専門的知識が必要で,多種
資源の探査を行うための観測に用いられる(図7).
多様であり一般性に欠けるので,ここでは言及し
以上のことから推察できるように,リモートセ
ない.
ンシングシステムは,単一波長のみのデータを用
図9は地表分解能とデータ取得間隔の関係を示
いるというよりむしろ,多波長(マルチバンド)
したもので,データ量による限界線より外で運用
のデータを信号処理することにより観測目的に適
される.野性動物や家畜類の観測には膨大なデー
する情報を抽出するもので,センサから得られる
タ量を処理する必要があり,又,観測間隔は搭載
膨大なデータを地上に伝送し,利用目的に対応し
する衛星の軌道条件をも制約する.
た処理を行う必要がある.この情報処理について
一方,搭載用センサシステムは,多バンド化
−52−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
図6.TOVSの重み関数
−53−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
(狭帯域化),高地表分解能化(地表分解面積の
狭少化)の要求から,センサにて利用しうる放射
エネルギーは小さくなり,装置開発に困難さが伴
う.
図7.種々の岩石タイプの放射スペクトル
図9.地表分解能とデータ取得間隔の関係
図8・地球観測システムでのデータ・情報処理システム構成(利用者システムを除く)の一例
−54−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
3.赤外センサシステム
赤外域リモートセンサシステムは,「飛翔体に
搭載して地球を観測する赤外センサシステム」で,
地表面(二次元)の情報を得るために走査が必要
である.観測衛星の場合その軌道は図10の如く
2種類ある.二次元の走査のうち航空機や極軌道
衛星における衛星の進行を利用し,装置での走査
は,進行方向に交叉する方向のみを行う.図11,
図12はその一例を示す.
図12(a)MOS−1の軌道軌跡(1日当たり)
図10.観測衛星の軌道
図12(b)埼玉県にある地球観測センターから仰
角5°以上の範囲とMOS−1の軌道軌跡
(7日間),17日間で地球全体表面をカ
バーする.
この走査は,可視域∼短波長赤外域では,CCD
が開発されているため,プッシュブルーム(電子
走査)方式になっているが,熟赤外域では現在の
ところ機械走査(ウィスクブルーム)方式である.
この波長域のCCDが実用化されるのは2000
年以降と思われる.
赤外線センサシステムで得る情報としては,地
表面からの放射の強さとその波長分布(分光)特
図11.MOS−1搭載各放射計の観測幅
性が利用され,センサはこの分光特性を重視した
−55−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
ものと,地表分解能即ちMapper機能を重視した
比し長波長のため回折効果の制約を受け,集光光
ものに大別できる.
学系の開口径,ひいては検出器の高密度化を制約
センサ装置の性能指数は,得られる情報の量と
するとともに,センサシステムの小形化を制約する.
感度の一例として,熟赤外センサでは雑音等価
質,装置開発の難易度などを考えると次の式で表
わすことができる.
温度差NE△Tがあり次式で表わされる.
性能指数=(バンド数×感度×観測幅×
対地速度)÷(地表分解面積×
NE△T=1/ω√Ω/tf・1/τaWφ・F/DoD*√nd・
分解波長帯域幅)
2√2k/τo√ηs
ここで,バンド数はチャネル数とも言われ観測波
長帯域幅/分解波長帯域幅を,観測幅は走査角×
ここに
高度を地表分解面積は瞬時視野(strad)×高度2
ω:瞬時視野(stradian)(=地表分解能/高度2)
を,対地速度/高度は視線の衛星進行方向の角速
fl :全視野(stradian)
(=走査角×進行距離×高度2)
度を意味する.
tf:フレーム時間(sec)(=進行距離/進行速度)\
この性能指数の向上に制約を加える要素として,
重量・寸法・消費電力等のリソースを考慮する必
要がある.また,波長分解能(=1/分解波長帯
域幅)と感度は背反関係にあり,同様に(観測幅
×対地速度)/地表分解面積と感度も背反関係に
ある.
F:光学系集光器のF値(=焦点距離/口径)
Do:光学系集光器の口径(cm)
D*:検出器の比検出率(W‐1cmHz1/2)
(検出器の性能指数)
Wφ:λσWλ/σT dλ(WK−1cm−2)
Wλ:目標のλ1λ2の分放射発散度(Wcm−2μm−1)
T :目標の温度(K)
一方,検出器の多素子化(又はCCD化)は,
感度向上,小型軽量化に有効で,性能指数の向上
には不可欠の要素になる.ただ,地表分解面積/
高度2=瞬時視野は,赤外センサの場合,可視に
λ :波長(μm)
nd:検出器の素子数
τo:光学系の透過率(効率)
図13.センサの構成
−56−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
τa:目標から装置までの透過率
ン干渉フーリェ分光器やファプリペロー干渉フー
ηs:走査効率(=有効走査時間/実走査時間)
リェ分光器があり,さらに高感度で地表分解能の
k:周波数帯域幅係数
(=装置帯域幅/所要帯域幅)≧1
(この所要帯域幅はナイキスト周波数で2
画素を走査する時間の逆数である)
高いマルチバンド放射計がある.そのためには2
次元多素子検出器や,これとプリズム又は回折格
子分光器とを組み合せたりして開発されよう.さ
この式の右辺の第1項はシステムのミッション
らに,アクティブセンサとしてのレーザーレーダ
要求により決まり,第2項は観測対象の条件によ
ーは高効率で,目に安全な波長のレーザヘテロダ
り定まる.第3項・第4項は,装置の設計要素で
イン検出方式受信器の開発等で高性能化・軽量化
特に第4項は効率に関係する値である.この式に
が実現するものと思われる.一方,放射計では集
は雑音として検出器から生ずるもののみを考慮し,
光光学系は,大口径化のみならず,検出器の多素
増幅器や信号処理に関する雑音は含まれていない.
子化による広視野化のため,幾何光学収差(球面
衛星搭載センサの構成の一例として,EOS−
収差)が無視できなくなり,組合せレンズが必要
Aに搭載するASTER(Advanced Spacebor−
になるが,波長域が広くなるため,透過(レンズ)
ne Thermal Emission and Reftection
系では波長特性の制約があり,全て反射鏡で構成
Radiometer)のTIR(Thermal Infrared
する非球面組合せの集光鏡が主流となろう.
Rdiomer)の構成を図13に示した.この構成
は.ERBE(Earth Radiation Budget
4.おわりに
Experiment)のようなものを除いた走査形に共
地球観測のための赤外線リモートセンシングシ
通のもので,走査−集光−分光−検知(冷却を含
ステムについて,その一端を述べたが,地球環境
む)−信号処理−校正の各部よりなる.現在(一
問題の解明や資源探査などの必要性から,可視域
部開発中を含む)の衛星搭載赤外センサシステム
センサやマイクロ波センサと共に,今後種々のも
の主なものの性能の概要を表3に示した.要求ミ
のが開発・実用化されるであろう.本稿では紙面
ッションの高度化により,装置が複雑になり,光
の都合でデータ処理については述べなかったが,
学系の大口径化に伴い大形化する傾向にある.今
リモートセンシングシステムの重要な構成要素が
後開発される赤外センサシステムとしては,21
あり,搭載センサの開発・利用技術の開発と並行
世紀初頭の実用化を目指した大気環境観測のため
して進展し,地球科学研究のみならず地球環境問
の高スペクトル分解能の分光放射計やマイケルソ
題の解決に寄与するものと期待される.
−57−
日本赤外線学会誌第1巻第1号(1991.7)
表3.主要衛星搭載光学センサー
*印我が国の開発
−58−
日本赤外線学会誌第1着第1号(1991.7)
参考文献
1)ERSDAC:用語辞典:試験探査のためのリモートセンシング実用シリーズ別冊:平成元
年3月(財)資源観測解析センター
2)GOETZetal.:OpticalRemoteSensimgoftheEarth;Pro−
ceedingsoftheIEEEVo173No.6pp950∼962June1985.
3)NASA:MissiontoPlanetEarth(1989).ReferenceHandbook
(1990).
4)ESALandApplicationsWorkingGroup:RemoteSensingforAd−
vancedLandApplications:ESASP−1075,May1987.
5)石井:リモートセンシング読本オーム社
6)六川:リモートセンシングによる地球環境問題へのアプローチ日本リモートセンシソグ学会誌
Volll,No.1pp109−117March1991.
7)中西:地球環境に関する基礎物理量のデータベース化とその提供システム日本リモートセンシン
グ学会誌Vol11,No.1P122∼125March1991.
8)平成元年度宇宙開発事業団委託業務成果報告書「地球環境観測シナリオ策定のための調査」
1990年1月(財)リモートセンシソグ技術センター
9)Lyon:Analysisofrockbyspectralinfraredemission(8to25
microns).EcomonicGeo1.Vol60pp715−736,1965.
10)Bwtleret.al:EarthObservingSystemWorkingGroupreportNASA
RepTM−86129,NASA/GoddardSpaceFlightCenter.Vol1−2,1984.
11)青木:TOVSデータ処理システム概要:気象衛星センター技術報告特別号昭和58年3月
pp1−10:気象衛星センター
12)北澤:MOS−1システムの概要;OCEANAGEVOL15,NOV1983pp13.
13)石澤:MOS−1の概要;OCEANAGEVOL15,NOV1983pp20.
−59−
シンポジュームを振り返って
-日本赤外線学会誌 Vol3No2-
日本赤外線学会誌 第3巻第2号(1993.12) (133)
シンポジウムを振り返って
大仲末雄
赤外線技術シンポジウムとして,「宇宙からの
講演者の執筆により講演の内容が記述されていま
地球観測」というタイトルで去る9月16日と17
すが,基調講演とパネルディスカッションについ
日の2日間に亘り開催され,多数の参加を得て,
ては記述がないので充分にその意図を伝えること
熱心な討論を頂きました.
ができないとは思いますが,その骨子をここに紹
日本リモートセンシング学会前会長,石井吉徳
介しておきます.
東京大学名誉教授をはじめ,地球観測および天体
基調講演は,「地球とリモートセンシング」と
観測のシステム及び利用に関する各分野の科学技
いうタイトルで,人間と地球の係わる問題,リモー
術について研究されている方々にお願いしました
トセンシングという新しい学問のあり方および地
ところ,多忙の時間を割いて,講演や討議して頂
球環境問題と21世紀への展望を,日頃から石井
いたのみならず,各セッションの講演者には,本
先生が「地球学」の創設を提唱しておられる立場
特集号に寄稿して頂きました.深く感謝致します.
で,お話しになりました.具体的には,「人間と地
このシンポジウムは,赤外線技術の普及のため
球」について,人口増とエネルギー供給の関係を,
に,日本赤外線学会が数年毎に催している赤外線
薪炭(木材)エネルギ一時代には,ヨーロッパ文
技術講習会に代えて開催したもので,国際的に大
化の中心がギリシャ・ローマの地中海沿岸からフ
きな問題となっている地球環境問題に対して赤外
ランス・ペルシャの中部ヨーロッパへ移動したこ
線技術者として何をなすべきかを学ぶために,リ
と,石炭エネルギーの開発により森林の枯渇なく
モートセンシソグに関する権威者に講演して頂き,
して産業革命を契機とする人口の急増に応えられ
さらにパネラーによる討論を通じて,リモートセ
たことを述べられた.また,人口増が資源の消費・
ンシングの技術の現状と課題を浮き彫りにするこ
浪費を促がし言環境汚染ひいては酸性雨による森
とを目指して企画したものです.本シンポジウム
林破壊,地球温暖化やオゾンホールなどの地球環
では,可視域から熟赤外域の電磁波を用いるもの
境問題を巻き起こしている.その上,人口の偏在,
に限ることと致しました.
資源の偏在という新たな南北問題の芽が生じてき
学会誌は前号と本号の2回に亘り,特集として,
富士通㈱宇宙開発推進室〒210川崎市中原区上小田中1015
たことを述べられた.「地球とリモートセンシン
日本赤外線学会誌 第3巻第2号(1993.12) (134)
グ」について,リモートセンシングの特徴とその
植生観測では(1)と(2)か(3)のいずれかを重視するか
有用性,さらに,日本のリモートセンシソグの歴
の使い分けが,防災では(1)と(3)が重要で,大気・
史と現状を,観測対象の性質とこれに対応する衛
気象および海洋観測では(2)と(3)が重要であること
星搭載センサの年代別の性能の向上について述べ
が指摘された.ただ(1)と(3)は衛星軌道やハードウェ
ると共に,処理画像などを用いて資源探査などへ
アの設計やデータ伝送能力などの制約から相互に
の応用について具体的に説明して頂いた.特に,
相容れないものであり,(1)と(2)は,限られた衛星
熟赤外バンドの有効性について,航空機により測
の大きさや供給電力の制約から互いに相容れない
定した波長による放射強度の差異の比較を例にし
ものであるので,適当な妥協が図られる必要があ
て説明された.つぎに,リモートセンシングへの
る.
取り組みについて,国際的な対応,産官学のあり
観測センサや信号処理シズテムの開発と利用研
方などを明快に述べられた.これらはパネルディ
究について,データの継続性と低コスト化の面か
スカッションでも取り挙げられたが,先生は,つ
ら,同じ性能,設計のものをシリーズで打ち上げ
ぎのような持論を展開しておられる.すなわち,
るか,ユーザの要求に応えて性能を向上させた設
リモートセンシソグ技術の研究と普及に重要なの
計のものを次々と開発していくかについての議論
は,草の根リモートセンシングとして研究に携わっ
になり,気象衛星のような社会のニーズが定着し
ている研究者に対して,きめの細かいデータを安
て実用段階になったものは同一1設計のものを継続
価に,継続して提供することが必要なこと,また,
して打ち上げ,利用技術を含めて研究段階にある
データは,適正な信号処理ができるように,その
ものは利用研究者との連携を強くしながら,セン
Pedigree(データの背景や条件が明確なこと)の
サの高性能化開発を行う後者で進めるという2本
必要性を述べられ,さらに,これらのデータの処
立てとすることとして,宇宙開発事業団などで体
理は草の根リモートセンシングに相応しい,パソ
制を整備している旨森山先生より,紹介があった.
コンやワークステーションなどで対応できること
また,利用研究との連携による開発仕様の設定の
を,先生自身の豊富な経験に基づいて具体的に説
過程で,航空機を用いた実験など基礎的なデータ
明された.
収集するなど,トータルシステムの中でのリモー
パネルディスカッションは,システムおよび陸
トセソシソグの位置付けが必要なことが横山先生
域,海域,大気の各分野に分けた各セッションの
から指摘された.ただ,わが国は,アメリカに比
座長をパネラーとして,講演の要旨を纏めて頂き,
し,リモートセンシングに携わっている研究者の
それに対する会場の出席者からの質問やコメント
数が極めて少ないことが指摘され,技術2に対し
とそれに対する応答の形で討論を進めました.
て,研究8ぐらいに増えてもよいのではないかと
要旨の説明は省略しますが,討論では,観測目
の中島先生の提言があった.一例として,航空機
的により要求する性能の重点が異なるのが大きな
搭載のフーリエ分光器による観測実験で,従来大
問題であること,すなわち,(1)空間分解能(2)ス
気の吸収で使用できないと考えていた波長1.4帯
ペクトル分解能(3)観測頻度,という主な項目に
は,背景光としての太陽放射の海面反射が途中の
ついても,例えば,資源探査では(1)と(2)が重要で,
大気で吸収除去されて,気象・気候の研究に重要
−66−
日本赤外線学会誌 第3巻第2号(1993・12) (135)
なCirrusだけが浮き彫りになってよく見えるこ
手にとるようにわかりやすく,興味深く説明され,
とが明らかになったことを紹介された.
大きな感動を受けました.
いずれにしても,わが国のリモートセンシング
最後に,ご講演頂いた先生方,座長として各セッ
の歴史が浅く,今迄はアメリカの知的財産を鵜呑
ションをお纏め頂き,パネラーとして熱心にご討
みにして来たが使途がよく分かっていない.今後
論して頂いた先生方にお礼申し上げますと共に,
は,地道にそれを探る必要があり,例えば自治体
参加された赤外線技術の研究・開発の発展の一助
と協力して,環境観測における従来の直接計測の
になるものと期待しています.
補間としての利用など,実利用の方法や利用分野
なお,このシンポジウムの企画に際し,宇宙開
開拓の調査を行う必要があるとの安岡先生の提言
発事業団の森山先生から貴重な助言を頂きました
がありました.
こと,日本リモートセンシング学会,応用物理学
このように,活発な討論があり,このシンポジ
会,計測自動制御学会,日本写真測量学会,照明
ウムが,今後のセンサ開発,利用層,ひいては,
学会,電気学会,宇宙開発事業団の協賛を得まし
需要の拡大に寄与するものと思われます.
たことを申添え,感謝の言葉にかえさせていただ
天体赤外線の観測と惑星の探査についての特別
講演は,日頃は触れることのない事柄を具体的に,
−67−
きます.
巻頭言
-日本赤外線学会誌 Vol5.No1-
日本赤外線学会誌第5巻第1号(1995.6)(1)
巻頭言
イメージングセンサ特集によせて
21世紀はマルチメディアの時代といわれている.マルチメディア時代の中心になるのは映像・画像で
あろう.画像の持っ情報量は極めて大きく,古来より「百聞は一見にしかず」と言われているのは,音
声情報は時刻を固定すると,通常零次元で(情報は時間的変化分のみ)であるが,画像情報は時間変化
を除いても二次元で質的にことなり,その情報量が桁違いにおおきく,受け手であるユーザーに与える
インパクトが大きいのは当然であろう.先の阪神大震災に際しても,映像情報が早期に伝えられていれ
ば関係者の判断・対応も大きく違っていたのではないかと思われる.
日常,われわれが取り扱っている画像で対象にしているのは,人間の感覚の範囲内,すなわち,可視
域の波長約0.4∼0.7μmの電磁波である.しかし,自然界が放射している電磁波は波長が0.4μmより
短い紫外域,0.7μmより長い赤外域やマイクロ波(ミリ波,サブミリ波をふくむ)があり,可視域はほ
んの一部にすぎないにもかかわらず,驚くほど大きな影響をわれわれに与えるのである.本特集は赤外
域を中心にしたイメージングセンサについて論じられているが,赤外画像と可視画像の情報量の差異は
百聞一見の差異とは比較にならないくらいに大きい筈で,技術開発の進展が注目されている分野である
ため本特集の意義は大きい.
現在,開発の主力となっているのは,システムが簡単になって取り扱いやすくなる電子走査方式の赤
外線イメージングセンサで,約10μmまでの波長域で開発されているが,それよりも長い波長域(マイ
クロ波をふくめて)では,メカニカルスキャン方式にせざるを得ない状況にある.しかるに,気象・防
災・防衛などの分野では,地球環境観測などリモートセンシング画像情報のニーズが可視域のみならず
赤外域,マイクロ波域で急速に増大しており,いろんな波長域での二次元不可視情報の可視化・画像化
によるイメージングでこのニーズに応えることが,われわれ赤外線技術者に与えられた使命である.
一方,センサデバイスの開発には多額の費用と多数の優秀な研究技術者が必要なことのみならず,設
備をふくめた周辺技術の進展が必要である.このことは,開発を促進するには利用者の大きな声援が不
可欠であることを意味する.ただ,われわれ人間は不可視域の二次元情報を直感的に処理する能力をもっ
ていないので,ユーザーは,特定分野の科学者や技術者が主体になり,需要拡大の推進力を弱くしてい
る可能性がある.需要拡大にはpseudocolordisplayのような,人の感覚に訴えるようにするはかセン
シングの目的に適応しうるように予め情報処理を施した上で画像化するなど,センサの開発者が利用法
にまで踏み込んで開発する必要がある.イメージングセンサの最近の利用の傾向として,単なるイメー
ジングよりむしろ,スペクトル情報をも同時に取り扱えるイメージングスペクトロメトリまたはスペク
トロメトリックイメージングが望まれるようになろう.われわれはこれに応えるための研究・開発体制
を関連技術を含めて早急に立ち上げるとともに,一層の研鏡を積む必要がある.
財団法人リモート・センシング技術センター
−1−
赤外線技術研究会
-MOS-1 VTIR-
赤外線技術研究会資料
No.168
MOS−1搭載可視熟赤外放射計
(VTIR)
増田剛、前田惟裕、田中哲夫
(宇宙開発事業団)
大仲末雄、津田敬(富士通株式会社)
赤外線技術研究会第64回定例研究会資料
昭和61年9月25日
於宇宙科学研究所
赤 外 線 技 術 研 究 会
赤外線技術研究会第64回定例研究会(昭和61年9月)
Na168MOS−1搭載用可視熟赤外放射計(VTIR)
増田剛・前田惟裕・田中哲夫大仲末雌・津田敬
(宇宙開発事業団)(富士通株式会社)
評価,改良を加えて,昭和61年度にFMを完成,所定の
1.まえかき
試験をして,現在,62年1月に打上げるための整備を行
っている。
海洋観測衛星1号(MOS−1)に搭載する可視熱赤外
放射針(VTIR)は,可視1バンド.赤外3バンドより
なる走査放射計である。
このMOS−1衛星の今後のスケジュールは,表2∼表
4に示す。
この放射計は,海面及び雲頂の温度分布,上層の水蒸気
雲の分布等の情報を得るもので,平面走査鏡.Richey−Chr
etien方式集光鏡.HgCdTe検知器, Si PINダイオードが用
3.赤外放射計による観測の原理
3.1 観測目標
いられている。
赤外放射計の観測目標は.海面からの放射(主として,
以下VTIRによる観測の概念と装置とその検証につい
10∼13μm帯),雲項からの放射(主として10∼13μm帯),
ての概要を述べる。
上層水蒸気からの放射(6∼7μm帯)及び,雲,海面か
らの太陽光反射(主として可視バンド)である。
2.海洋観測衛星1号の概要
2.1 目 的
3.2 物体からの赤外放射
海洋観測衛星1号(MOS−1)は.わが国初のリモー
物体は,その温度で定まる放射を行っている。海面など
トセンシング用の衛星で.ここに述べるVTIR(Visible
and Thermal Infrared Radiometer),可視近赤外のMES
の常温の物体では.波長10μm近辺の放射が大きい。
SR(Multispectral Electronic Self−Scanning Radiome−
ter)及びマイクロ波のMSR(Microwave Scanning Radio−
射(したがって反射も)が大きい。本放射計で対象とする
meter)の3つのセンサが搭載されている。図1 に MOS−
波長は,後述するように.可視域と6∼7μm,10.5∼11.5
1及びVTIRの外観を示す。MOS−1は高度的900km,
μm,11.5∼12.5μmの赤外域であるから,上記観測目標か
赤道と99° で交叉する軌道を有し,太陽に同期して地球
らの放射をそれぞれ検出することになる。
また,太陽は,約6000Kであるから太陽光は可視域の放
を周囲する。また,回帰日数は約17日である。
2.2 ミッションと主要諸元
海洋観測衛星MOS−1のミッションは.VTIRによ
る海面温度分布,雲の分布,上層の水蒸気の温度分布等の
観測の他,MESSRによる海上からの可視光のスペクト
ル分布.MSRによる曇天時の海面温度分布の観測である。
各ミッションの主要諸元は表1のとおりである.
2.3 開発スケジュール
海洋課測衛星−1号(MOS−1)は.昭和54年度に
写真1MOS−1
開発に着手し,BBM,EM, PM,の各モデルを製作,
写真2走査放射針/放射冷却部(
表1 MOS−1ミッション主要諸元
項
目
V T I R
観測波長域
又は周波数
可視 0 .
5∼
0.
7 μm
赤外 6∼
7
10 .
5−11.
5
11 .
5∼12 .
5
観
測
幅
地表で約1500 km
瞬時視野
感
度
M E S S R
0.
5 1∼
0.
59 μm
0.
6 1∼
0.
69
0.
72∼
0.
80
0.
8∼
1.
10
10 0km
M S R
23 .
8 ±0 .
2 GHz
3 1.
4 ±0 .
25
3 17km
29 .
7km
可視 ;約900m (
1mrad ) 約5 0m (
54.
5±
(
1.
89 °;
2 3GHz帯)
赤外 ;約2.
7km (
3m rad)
0.
5 μrad) 20 .
6km
(
1.
3 10 ;
3 1GHz帯)
可視 ;S/N 55d B以上
赤外 :NE △TO .
5℃以下
39 ∼15d B
1 ℃以下
−1−
写真3信号処理/竜顔都制冊
図1MOS−1外観
表2MOS−1衛星検証スケジュール
表3 衛星検証計画(VTIRの検証項目 検証方法)
検 証 項 目
◎幾 何学 的 歪
機
器
・ア ラ イメ ン ト
・操作 鏡 の回転
・バ ン ド間レジストレーシaン
・衛 星軌 道 ・姿勢 設計
変 換アルゴリズム等
◎ 幾何 学的 性能
距離 分解 能等
検 証 方 法
検 証 時 期
歪補 正処理 S / N , チエ ツ ク処 理
S / W を用 い て検 証す る
・初期
・季節 変化 ,経 年変 化 の把捉
検 証 処理 S / W を 用い て, 衛星 デ ー
タの 評価 を行 う
・初期
・季節 変化 /経年 変 化
航 空 機/ 衛星 のデ ー タを同 期取 得,
比 較 評価
場 所
東 京湾 付近 の陸
/ 梅の 境界 等
62 /6∼ 8,62 /12
検
◎ ラジオ メ トリック歪
・相 対値 (
温度
分解 能)
証
物
・絶
等 対値
)
(
入 出力 特性
チ ェ ック処 理 S / W を 用 いて, 衛星
デー タ の評価 を行 う
・初期
LAND SAT (TM),NOA A(AVH RR),GMS
(V IS SR) との比較 評価
◎ ラジオ トリ ック性 能
・ダ イナ ミ ック レンジ
・S / N
・利 得 切換 等
チ ェ ック処理 S / W , 検 出処理
S / W を用 いて衛 星 デト タの 評価 を
行 う。
◎ 大気 , 太陽 光 の影響
(パ スの効 果)
海面 水温 推定 項 目に て評価
・夏 期
T B D
検 証処 理 S /W を用 い. 衛星 デ ータ
を 評価 ,又, 異 な るアル ゴ リズ ムの
比較 評 価
・水 蒸気 の多 い時 期,少 な い
時 期, 広い海 面 水温 の レ ン
ジ (1 年 1 回 の季節 変化 )
T B D
航 空織 /衛 星 のデー タ同 期取 得, 比
較 評価
・航 空機観 測 は62/6∼8 ,
62 /12
同 上
T B D
・大気 効果 ,周 辺減 光
雲 の影響 , サングリッタ
◎ 物 理量 算 出精度
(
海 面水 温 推定)
理
L ANDSA T,NO AA ,
G MS との比 較評 価
量
◎水 蒸気 量 推定
検
衛 星 デー タ, ラ ジオゾ ンデ デー タ,
海 面水 温 デー タに よ り評 価
1 年間 の季 節変 化
L ANDS AT ,
NO AA ,GMS データとの比 較 評価
・雲項 高度 推定
・6 ∼ 7 μm 帯 の有 効性
.観測 対象 に よ る利 得 切
換の 有効 性
・他の セ ンサ デー タ との
比較
・陸域, 水 域 での有 効性
検 証 協力 機関 参加 によ り行 う。
応 募 参 加 国 内 6 0 機 関 国外
1 8 〃 8 2 テー マ
3 0
〃
国内 国外 7 3 テー マ
20
〃
6 0 機 関 1 5 〃 −2−
・航 空機観 測 は
伊 豆諸 島海 域
・アセ ンデ ィ ング/デ ィセ ン
デ イングバ ス の評価
雲 の除 去, 周辺 減光 の評 価
証
T B D
・季節 変化 /経 年変 化
T B D
表4 航 空 機 実 験 計 画
夏
実 験期間
テ ス トサ イ ト (候 補 )
6 2 .6 ∼
6 2 .8
・八 丈 島 南 方 海 上 ∼ 房 総 沖
主 と し て M S R の アンテナパターン評 価
実 験 目 的
航 空 機 搭 載 MS R
観 測 機 器
高 70 00m
度
・東 京 湾 付 近
主 と し て M E S S R ,V T IR 距 離 分 解 能
評 価 及 び M E S S R 感 度 評価
航 空 機〃 搭
載 VM TE lS RS R 70 00m
・伊 豆 諸 島 海 域
主 と し て V T lR 海 面 温 度 推 定 評 価
航 空 機 搭 載 V T IR
・東 京 湾 付 近
主 と し て M E S S R ,V T I R 距 離 分 解 能
評 価 及 び M ESSR 感 度 評 価
航 空機
〃 搭
載 VM TE SIRS R 7000m
・霞 ヶ浦
主 と して M E S S R 大 気 補 正 ・評 価
航 空 機 搭 載 MESSR
複数
.伊 豆 諸 島 海 域
主 と して V T IR 海 面 温 度 推 定 評 価
航 空 機 搭 載 V T IR
主 と して M S R 海 氷 分 布 評 価
航 空 機 搭 載 MSR
5 0 0 /7 0 0 0
5 0 0 /7 0 0 0
期
6 2 .1 2
冬
期
6 3 .2 ∼
6 2 .3
春
6 3 .4 ∼
6 3 .6
予定
期
オホ ー ツク海
500m
500 m
石 狩平 野∼ 旭川
主 と し て MSR 積 雪 物 理 量 評 価
航 空 機 搭 載 MSR
紀 伊水 道
主 と して M E S S R 感 度 評 価
航 空 機 搭 載 MES SR
7000 m
琵琶湖
複数
〃 〃 大 気 補 正 評 価
〃
この式の第1項は,海面からの放射観測量を,第2項は,
大気層からの放射の観測量を示す。図2は,大気の赤外透
過率を表わしたものである。波長10μm海面からの放射が
大きいこと,大気の吸収か少ないことのため,海面温度の
観測に用いられよう。又,6μm帯は,水蒸気層からの放
射の観測に利用できる。この他に透過率に影響を与えるも
のとして,空中の雲がある。さらに,観測値は衛星から地
表を見る方向に影響される。すなわち図3に示すように,
走査の両端は衛星からの距離が,真下を見たときに比べて
大きくなり,特に,大気層の通過距離が大きくなる。
3.3衛星による赤外観測
衛星から海面(地表)を観測する場合,海面からの放射
は,大気の影響を受けるのみならず,観測方法にも影響さ
れる。
N=∫φλελsBλ(Ta)τadλ
+∫∫φλελahBλ(Tah)τahdλdh
ここにN:放射の観測量
φλ:装置の波長透過率
ελs:海面の分光放射率
Bλ(T):温度Tでの分光放射発散度
Ts:海面温度
Ta:大気の透過率(海面から衛星まで)
ελah:高度hの大気層の分光放射率
Bλ(Tah):高度h(温度T)での大気層の分光放射
発散度
τah:高度hから衛星までの大気透過率
χ=(γ+R)cos θ−√{R2−(γ+R)2 sin2θ}
h’= √{(R+h)2−(γ+R)2sin2θ}
−√{R2−(γ十R)2sin2θ}
このように観湘データに与える影響は,何らかの
除去ないし補正する必要かある。それには,海面
頂温度,水蒸気層の温度,湿度等を他の方法で測
値として(グランドトルース又はシートルース)
測データを補正するアルゴリズムを作成する。
図2大気の分光透過特性
図3走査的と九略に
−3−
3.4装置の性能指数
走査形赤外放射計の性能指数として広く用いられている
ものに,等価雑音温度差(NE△T)がある。このNE△
Tは,その装置での識別可能限界(S/N=1)となる放
射源の温度差で,次式で表わされる。
4.放射計の動作概要
4.1観測の概念
VTIRは,可視域を瞬時視野約900m赤外域を瞬時視野
約2700mで,観測幅約1500kmを毎秒約7.3回走査する。図
4に,衛星の運行と,VTIRの走査による観測の概念を
示す。
NE△T=[4√(AdΔf
4.2構成・構造・系統
VTIRは走査放射計/放射冷却部,信号処理/電源部
で構成される。
本VTIRの主構成品である走査放射計/放射冷却部の
内部構造を図5に示す。本装置は図6に示すような光学系
観,信号系統よりなり,海面(地表)等からの放射は,走
査鏡,集光鏡を経て,ダイクロイックビームスプリツタに
より,可視光(波長0.5∼0.7μm)と赤外光(波長6∼
12.5μm)に分離し,さらに赤外3パンドはダイクロイッ
クミラーとハーフミラーでビームを分けるとともに,それ
ぞれのバンドの赤外光は,分光(帯域)フィルターで所定
波長域を選別して検知器に到りー光電変換され,所定のレ
ベルまで増幅後A/D変換され,図8のフォーマットに編
集して出力される。
)/ωDo2]M−1(K)
=[(2√2
/ω)√(Ω/tf)][F
/{Do√(ndηs)}M−1(K)
M=∫τ。τaD*(∂Wλ
/∂T)dλ
ここにD*:検知器の比検出率(cm・Hz1/2・ω−1)
ω:装置の瞬時視野(Str)
Do:光学系の有効径(cm])
F:光学系のF値(=f/Do,f:焦点距離)
Af:装置の帯域幅(Hz)
Ω:装置の全視野(Str)
ηs:走査効率
Wλ:目標からの分光放射発散度
(W・cm−2]μm−1)
T:目標(放射源)の温度(K)
τe:光学系の透過率
τa:大気の透過率
tf:フレームタイム(scc)
Ad:検知器面積(cm2)
nd:検知器素子数
この式で,第1の式は主として単素子形の装置に,第2
の式は多素子形の装融こ用いられる。
図5走査放射計/放射冷却部
図
4地球観測概念
図
−4−
図6VTIR系統図
4.3各部動作機能
本VTIRの主要部の動作・機能はつぎのとおりである。
(a〉走査放射計部
走査放射計は図5のように,走査鏡とこれを駆動する走
査用モータ.校正用放射源としての基準黒体.集光鏡光学
フィルタ,リレーレンズを経て,放射冷却器に取り付けら
れた赤外検知器等よりなる。走査鏡は約7.3rpsで回転し
ており,地球方向に向いているときは海面(地表)を走査
観測し,反対方向に向いているときは基準黒体を見ること
になる。図7は,走査角と複合映像信号との関係を示す。
(b)放射冷却器
放射冷却器は,宇宙空間へ放熟することにより,自らの
温度を下げるものである。放射冷却器は,冷却せんとする
物体への侵入エネルギーと,その物体からの放射エネルギ
ーとを,所定の温度にて平衡させるものである。本装置の
如く超低温に冷却する場合は,放射エネルギーか小さくな
るので,入力電カ,伝導熱,放射入力等を小さくするため
の工夫がされている。
赤外検知器は,放射冷却器に取付けられており,約115K
に冷却される。VTIRの放射冷却器は,2段構成になっ
ており,第1段で約150K,第2段で約115Kに冷却する。
(c)信号処理部
信号処理部ではーVTIRの複合映像信号はデジタル化
して,MESSRの信号処理部へ送出する。このデータは一
各部の温度情報等のテレメトリデータ,MESSRデータ
とMESSR信号処理部で多重化されて,地上局へ伝送さ
れる。図8にデータフォトマットを示す。
図7複合映像伯号
4.4主要性能
VTIRの主要性能を表5に示す。
以下,VTIR運用上重要な正規化分光感度特性,感度
の対温度特性,および放射冷却器の特性についてのペる。
−5−
図8データフォーマット
表5 主要性能
項 定 格 性 能
目
可 視
観測 波長域
0.5 ∼0.7 μm
赤外 1
6 ∼ 7
μm
装
置
性
能
〃 2
10.5 ∼11 .
5 μm
10 .65∼11.5 μm
〃 3
11.52∼12 .
5 μm
11 .7∼ 12 .6 μm
1 mrad
0.97 mrad
赤 外
3 mrad
2.
8 2∼2 .87mr ad
視野 角 (走査幅 )
−65 ℃∼ +38℃
−6 7.4℃ ∼ +40 .1°
C
可 視
S/N 55dB 以上
感 度
赤外 1
〃 2
NEΔT 0.5 ℃以下
〃 3
周 65 dB
地表 約 900 m
地表約
2700 m
地表 約 1500 km
ア ルペ ド8 0% にて
0.02 ∼0.0 3℃
0.03 ∼0.0 7℃
0.05 ∼0 .12℃
量 子 化 レ ベ ル 撮 像 考
6.
2 ∼7 .2 μm
可 視
瞬時 視 野
備 0 .55∼0 .75 μm
期 8 ビット
約l/7.3 秒
8 ビット
約
1/7 .3 秒
デ ー タク ロック同 期
(a)正規化分光感度特性
VTIRの感度の波長特性は,検知器の分光感度とフィ
ルタを含む光学系の分光特性の積で表わされるが,これを
正規化して図9に示してある。
(b)感度特性
VTIRの感度は,可視域では,S/Nで表わされ,赤
外域では,NE△Tで表わされる。図10に可視バンドの
アルベド対S/N及び赤外バンドの基底温度対NE△Tの
特性を示す。
(c)冷却器特性
放射冷却器は,宇宙空間へ放射するエネルギーと.地球
等からの放射,VTIRのシャーシからの伝導等による入
力エネルギーとのバランスにより冷却するものであるから,
冷却開始からの冷却時間特性,到達温度は,シャーシ温度
の影響を受ける。図11に冷却プロファイル,温度特性を
示す。
4.5評価試験
VTIRの評価試験は図12のように行われ,搭載機器
としての検証を行うと共に,実用化への各種データを取得
した。
図10感度特性
図11冷却器特性
5.データ補正
衛星打上げ後,VTIRを用いて観測するため,各種の
歪を補正する場合,搭載装置と等価な特性の装置を用いて
予め航空機等による実証実験を実施しておくのか望ましい
が,VTIRには,放射冷却器か用いられているので,航
空機では検知器を冷却することはできないため,航空機用
の装置を製作して検証実験を行っている。今後の航空機用
実験は前述のとおりであるが,これまでに筑波地区で冬・
東に,紋別と札幌及び平塚で冬に実験した。この実験によ
り,VTIRの各種の歪を補正するアルゴリズムについて
検証した。
図12評価試験項目と順序
図9正規化分光感度特性
ー6一
5.1 航空機検証装置
航空機に搭載してm 各種歪を補正するためのー 航空機搭
載の検証装置は,図13に示すように,衛星搭載VTIR
と類似の系統になっているが一 検知昔を液体冷却にしたは
か,低高度観測を考慮して,光学系を高感度,且つ,高速
の走査方式とし,さらに,6∼7μm帯のフィルターを8
∼9μm帯のフィルターと交換できるようにしてある。
5.2 航空機検証データの歪補正データ処理
航空機検証によって得られたデータには,ラジオメトリ
ック歪と幾何学的歪がのっているため,観測データに盃補
正処理を行う。盃補正は,ラジオメトリノク歪補正と幾何
学的歪補正にわかれる。
図13航空機検証装置系統図
(l)ラジオメトリック歪補正
校正アルゴリズムは,可視,赤外で異なるが,図14の
モデルを定義して行う。
(2)幾何学的歪補正
幾何学的歪は航空機の姿勢(ロール,ピッチ,偏流)の
影響を補正するものであるが,この他に,位置の推定も必
要である。位置の推定は,予め定められたGCPを選定し,
走査データから算出する。幾何学的歪の補正としての航空
機の姿勢による歪の補正は,スキャンライン方向の間引き
画像データと,それに同期した航空機の姿勢,位置データ
を用いて行う。
(3)歪補正処理
前述の方法でラジオメトリック歪補正及び幾何学的歪補
正処理を行った結果の一例を表6,図15に示す。
表6 ラジオメトリック補正の一例
5.3 MOS−1 VTIRデータの歪補正
デ − タ
取 得
日
歪補正は,ラジオメトリック歪補正と幾何学的歪補正と
波
長
域
シー ト
ル
ーー
タス
デ LO WTRAN 6よ り の
求 めた開 口 部 温 度
1 0 .5 ∼ 1 1 .5 μm
になることは,航空機搭載用装置の場合も同様である。た
歪補正アルゴリズムは異なったものになる。歪補正は,衛
星センサに起因する内部歪と,大気や地球形状に起因する
差
−2 .6℃
1 8 .6 ℃
1 6 .0℃
1 1 .5 ∼ 1 2 .5 μ m
1 7 .4℃
1 6 .5
℃
−0 .9 ℃
1 0 ∼5 ∼ 1 1 .5 μm
2 1 .5 ℃
2 3 .3
℃
+l .
7 ℃
1 9 .9 ℃
2 0 .2
℃
+0 .3 ℃
7 月 18 日
だ,衛星搭載用と航空機搭載用とでは装置が異なるため,
補正 済デ ータ
2 0 .7 °
C
9 月 5 日
2 5 .1℃
11 .
5 ∼ 12 .5 μ m
注)シートルースデータの温度と.装置開口部での
致しな統。LAWTRAN6の中緯度夏期モデルで代替した
気モデルと実際の大気条件を考慮すれば妥当であろ
外部歪の補正がある。ラジオメトリック歪補正では,まず
内部歪の補正を行ってVTIRの開口面に起算した温度を
算出し,その後目的別に,外部歪の補正を行って行くこと
になる。
(1)ラジオメトリック歪補正
ラジオメトリック歪の補正項目は, 内部歪として,(i)
信号増幅系の利得変動,(ii)A/D変換時の出力変動,
(iii)放射計の温度変化,(iv) 黒体放射率の変動,(変動
が小さく無視)があり,外部歪として,(V)大気の影響,
(vi)雲,(vi)周辺減光,(viii)サングリッタ,(ix)
MTF,(x)サンプリング間隔に起因する出カ偏差(誤
差微少のため無視),(xi)フィルタ特性(分光感度)
がある。
図15幾何学的歪補正の一例
−7−
(a) 内部要因ラジオメトリック歪補正
温度の特徴を利用する閾値法,(オ)赤外バンド輝度温度経
験値との比較による気候比較法(B)肖像データの雲域,海
域,雲・海混在域での特徴で織別する分散値法がある。
(2)幾何学的歪補正処理
幾何学的歪補正の境目は(i)衛星の位置(ii)衛星
の姿勢(iii)衛星の姿勢変動(iv)センサアライメント
(V)地球の回転(vi)地球の曲率(vi)時間差
(viii)アスペクト比(ix)バンド間オフセット(x)サ
ンプリングディレイ(xi)ラインジッタ(xii)ミラ
ーの回転速度変化(xiii)焦点距離ずれである。幾何学的
歪補正は,次の4ステップを経て処理される。
第1ステップ:未補正画像上の位置(ij)より,VTI
R撮像をモデル化して,衛星から見た視線
ベクトル(XB,)に直す。
第2ステップ:XB’から衛星の軌道・姿勢を考慮し,さ
らに,地球楕円体モデルを用いて,地球の
中心から見た地表観測ベクトル(XE)及
び,その地点の緯度軽度を求める。
第3ステップ:観測点の緯度・経度より,地図投影法によ
り地図座標上に投影する。
第4ステップ:地図座標上の画像をフレーミングして補正
済画像とする。
歪補正アルゴリズムについては省略するが,考慮すべき
歪要因としては,(7)センサアライメント(センサ取付誤
差.VTIR取付誤差),(イ)バンド間レジストレーショ
ン(バンド間の光軸のずれよバンド間サンプリングデイレ
イ),(ウ)地球の回転,形状(曲率),(エ)衛星の姿勢・
軌道がある。
(3)物理量抽出
(a)赤外2バンドを用いた大気補正
赤外バンド(10.5∼11.5μm…バンド3ル11.5∼12.5μm
…バンド4)による大気補正は,海面温度をTs,VTI
Rにより観測されるバンド3の観測輝度温度をT3,バンド
4のそれをT4とすると
T3−Ts=A+B(T3−T4)
となり,このA,Bを決定すればT3,T4からTsが求
まる。大気補正式として,補正した海面温度をTcとす
ると,
Tc=aT3+bT4+c
で表され,a,b,cが決まればT3,T4からTcが求
まる。
(b)周辺減光
走査面θのときの観測輝度温度T(θ)とθ=0のとき
の観測輝度温度T(0)の差△T(θ)を
△T(θ)=Asec2θ+Bsecθ+C
とおき,補正式の補正係数A,B,CをLOWTRAN6により
求める。
校正モデルは,航空機搭載装置の場合と同様になり,開
口部の地表温度をT,装置の特性をQ,出力信号をMとす
ると
T=Q・M
となり,地表温度Tsは大気特性をLとすると
Ts=L・Q
・
M
で表される。このQは光学部特性,検知器・プリアンプ特
性,ポストアンプ特性, 信号処理部特性の積で表される。
可視バンドでは
AL=Q・M
となる。
校正は(i)宇宙クランプ校正,(ii)黒体クランプ校正
により行うが,コンプイギュレンションや,温度変化等を
考慮した校正テーブルを複数個作成し,これを用いて赤外
バンドにおける校正を行う。
(b) 外部要因ラジオメトリック歪補正
(i)大気補正
赤外バンドにおける大気補正は,(ア)放射伝達式に気温
・吸収物資(ここでは主として水蒸気)の鉛直下分布デー
タを入力して数値積分する処理,(イ)VTIRの赤外2バ
ンド(10.5∼11.5μm,l1.5∼12.5μm)を用いて行う処
理,(ウ)大気補正量を天項角・観測輝度温度,水煮気塁の
関数として表した補正近似式を用いる処理,(エ)グランド
トルースデータと観測輝度温度の差を直接利用して処理す
る4つの方法に大別される。
上記(7)∼(エ)のうち,(ア)(エ)(ウ)は,大気補正量を求
めてから海面温度Tsを求めるのに対し,(イ)は直接Ts
を求めることができる。
(詳細は文献(l),(2)を参照されたい)
(ii)周辺減光補正
このVTIRは,走査幅が広く,3.3項でのべたように
径路長が長くなるのみならず,大気層の幅も厚くなる。こ
のためm 周辺部のエネルギーが小さくなるので,「周辺減
光」と呼んでいる。この周辺減光の補正には,(ア)LOWTRA
N6等の大気モデルを用いた理論的 補正法,(イ)2バン
ド補正観測データを用いた回帰的な補正法の2通りが考え
られる。(ア),(イ)の特徴は前項の大気補正と同様である。
(iii)サンダリッタ
可視域では,海面での太陽光の反射が観測量に大きな影
響を与える。サングリッタ現象は,衛星,太陽と観測地域
の幾何学的関係,海表面状態に依存する。
(iv)雲除去
雲の除去には,可視パンドと赤外(10.5∼12.5μ)バン
ドを用いて行う。
(ア)雲のアルベドの分布が,海面のそれに比し,大きいた
め可視光を用いる方法,(イ)赤外画搬データを用いる一次
元ヒストグラム法,(ウ)可視パンドと赤外バンドの2つの
画像データを用いる二次元ヒストグラム法,(エ)平均輝度
一8−
(c}雲除去
一次元ヒストグラム法を用いて,雲除去を行った。一例
を図16の写真に示す。
(4)その他
歪補正のアルゴリズムと処理についての詳細な資料(参
考文献(2))があるのでご参照願いたい。
バンド1(0.5∼0.7μm)ハンド4(11.5∼12.5μm)
図16雲除去処理海域写真画像(補正済)
6.むすび
海洋観測衛星1号(MOS−1)に搭載する可視熱赤外
放射計(VTIR)について,機器の概要と,観測データ
補正の概略を述べた。このMOS−1は62年早々に打上
げられ2年間運用されることになっている。運用に際し,
本文が多少でも役立てば幸いである。本放射計は.衛星
搭載用としてはわが国でははじめての赤外センサであり,
開発関係者のたゆまぬ努力の結果完成したものである。こ
こに,関係の皆さんに感謝の意を表すると共に,来春の打
上げ,その後の運用の成功を祈りたい。
参考文献
(1)高島.高山「赤外域を利用した衛星による海面温度測定」
リモートセンシング学会誌VOL2No.4PP.3−26,1982
(2)「MOS−1航空機検証(そのイ)」昭和58年度宇
宙開発事業団委託業務成果報告書
(3)「MOS−1画像処理法の調査検討(その1)可視熱赤
外放射計」昭和55年度宇宙開発事業団委託業務成果報
告書
(4)「VTIR検証ソフトウェアの開発」昭和59年度宇
宙開発事業団委託業務成果報告書
(5)「海洋観測衛星1号衛星運用文書の作成(その1のウ)
運用説明書VTIR,運用データ編(FM)」昭和59年
度宇宙開発事業団委託業務成果報告書
(6)前田,小嶋,東「MOS−1航空機検証実験の成果につ
いて」リモートセンシング学会誌VOL6No.2PP.43∼58,
1986
−9−
電子通信学会技術研究報告
-86-10-31-4-
信学技報Vol.
86 No. 213
電子通信学会技術研究報告
SANE
86―27∼31
1986年10月31日
社団法人電子通信学会
信学技報Vol.
86 No. 213
電子通信学会技術研究報告
SANE
86―27∼31
1986年10月31日
獣電子通信学会
SANE86-29
海洋観測衛星1号(MOS−1)搭載用
可視熱赤外放射計(VT工R)の概要
Visible
and
Thdrmal
Radiometer
Infra-rdd
For
*石澤禎弘、*増田剛、*田中哲夫、
**大仲末雄、**津田敬
Yoshihiro ISHIZAWA, Takeshi MASUDA, Tetsuo TANAKA,
*宇宙開発事業団
MdS-1
Sueo OHNAKA, Takashi TSUDA
**冨士通株式会社
National Space Development Agency of Japan Fujitsu
1.まえがき
Limited
2.開発経緯
可視熱赤外放射計(VTIR)は昭和62年1、2月期に打
VTIRは気象研究所ですすめられていた赤外域によ
上げを予定している海洋観測衛星1号(MOS-1)に搭
る大気観測の研究を引継ぎ、昭和53年度から方式検
載する対物面機械走査方式の放射計であり、可視1
討の為の試作試験が開始された。また昭和54年度末
バンド、赤外3バンドの観測波長域において、雲分
からはエンジニアリングモデル(EM)の設計と並行し
布、上層水蒸気分布、地球表面(主に海面)及び雲
頂の温度分布の観測を行なうことを目的としている。
て、先行的に開発要素の高い部品、コンポーネント
(検知器、光字部、放射冷却器、走査駆動系、校正
赤外用検知器としてPC型水銀カドニウムテルル
用黒体)の開発、評価試験を行なっている。
(HgCdTe)検知器を、可視検知器にはSi-PTNダイオ−
表一1にVTIRの開発経緯の線表を示す。EMは
ドを用いており放射冷却器により赤タト検知器を
VTIR単体の性能確認を目的とした開発試験に供した
約115Kに冷却しているのが大きな持徴である。
後、インタフェース設計確認の為、MQS-1システム
本稿ではVTIRの概要、開発経緯を示すとともに、
EMに組込み評価を実施している。尚、開発試験で
VTIRの受入試験結果を踏まえたフライトモデル(FM)
は筑波宇宙センターに設置した放射計チェンバー/
の性能について報告する。
赤外試験装置を用いた真空下での光学特性試験にお
いて、放射冷却器関係の不具合があいつぎEMの
表ー1
VTIR
開発スケジュール
17
改修、追加試験を約半年間行なった経緯がある。
VTIR-FMの開発は昭和57年川月の詳細設計審査
(CDR)その後のプロトタイプモデル(PM)による認定
試験を経て開始され、昭和60年1月にFMの受入試
験が完了した。さらに、MOSー1システムにインテグ
レートされた後、システム受入試験において打ち上
げに供し得ることを確認している。
3.VTIRの概要
(観測の概要)
高度約909km太陽同期準回帰軌道(17日回帰)の
MOSー1に搭載されるVTIRは、45°に傾斜した楕円ミ
ラーを7.3 rps て回転させることにより、衛星進行
方向に対し直角に走査をおこない約l5OOkm幅の地表
面を観測する。
図一1にVTIRの走査概念図を示す。
瞬時視野は
図一1 走査概念図
可視域で約900m、赤タト域で約2700mであり、各バン
ド単素子の検知器を用いている。走査周期は衛星進
行速度に対して地表面可視域観測にぬけが生じぬよ
表−2
VTIR
瞬時視野
う設定しており、赤外域では約60%の進行方向オー
バラップを有する観測となっている。
視野角
表−2にVTIRの主な要求性能について示す。視野
輝度分解能
角は地球方向及び宇宙空間で観測する走査範囲を示
(可視バンド)
温度分解能
(赤外バンド)
サこノフルレート
しており、地球面走査に先立つ宇宙空間観測データ
が可視、赤外バンドの0レベルの基準値として用い
られている。
ダイナミック
レンジ
表−3に各バンドの波長域、各波長に対する大気
主要要求性能
可視バンド
1 mrad ( 900m)
赤外バンド
3 mrad (2700m)
‐65°∼+38°以上
(NADIRを0゜とする)
S/N>55dB
(アルベド80%観測時)
NEDT<0.5K
(300K黒体観測時)
可視バンド
1 0 3 KHz
赤外バンド
3 4 KHz
可視バンド 0∼100%アルベド
赤外バンド
宇宙暗黒∼330K
の特性、及び現在想定されている主な利用分野につ
256 レベル
信号量子化
データレート
重量
消費電力
いて示す。
赤外窓領域をバンド3、バンド4の2つに分割し
ているのは、観測輝度温度が実際の地表面温度に比
し、水蒸気量によってほぼリニアに低く見積られる
ことを利用し、水蒸気量を推足し補正するためであ
表-3
る。また、可視では識別が困難な薄い絹雲等、上層
バンド
!. 6 M b p s
3 0 k g
45W
観測波長域
波長域
波長特性
想定利用分野
0.5∼O.Tum
可視域:
積雪、氷分布
雪分布
6.0∼7.0um
赤外域:
水蒸気吸収帯
上層水蒸気分布
薄い絹雲の検出
赤外域:
大気窓領域
地表面温度
水蒸気補正
積雪、氷分布
雲分布
熱収支測定
海水流監視
漁場探査
水蒸気の分布を観測するため、水蒸気吸収バンドと
1
してバンド2を設定している。
2
(構成及び機能)
VTIRは衛星地球指向面外部に取り付けられる走査
放射計/放射冷却部(SR/RC:Scanning
Radiometer
3
10.5∼11.5um
/Radiation Cooler)と衛星内部に取り付けられた
信号処理/電源部(SP/PS:Signal Processor/Power
Supply)の2コンポーネントで構成されている。
4
18
11.5∼12.5um
ハ
バ゙
ンン
ドド
9 図一2にVTIRの外観写真、図一3に観測信号を中
心とした機能系統図を示す。構成上の主な特徴とし
ては、走査用の回転ミラーを有していること、赤外
検知器を冷却するため宇宙空間への熱放射を利用し
た放射冷却器を有していることがあげられる。又、
観測データはデジタル信号としてMBSSR (可視近赤
4j
外放射計)に送られMESSRデータと多重化された後
地上に送信される。
以下にVTIRの主要部の機能、性能を概説する。
光学系
走査は回転軸に対して45
°に傾け取付けられた
ベリリウム製の走査鏡を回転駆動することにより
図一2 VTIRタト観写真
行っており鏡面はアルミニウム蒸着の上、SiOコー
ティングされている。集光鏡は軸外収差の少ないリ
ッチェクレチアン型の集光系を用い2次鏡は熱膨張
表‐4
率の低いインバ合金製の3組のスティにより支持さ
集光鏡
れている。
主鏡径
光学系
副鏡径
光学系の主要性能について表−4に示す。集光さ
れた光は1次鏡後方のダイクロイックミラーにより
主要性能
リッチェ・クレチアン型
134
mm
60
mm
2.6
F / N o .
可視、赤外光に分離され、可視光についてはバンド
実効焦点距離
パスフィルター、結像レンズを経て検知面に結像さ
実効F/N
れる。又、赤タト光はリレーレンズ系により平行光に
透過率(全系)
o.
されたのち、ダイクロイックミラーにより6∼7u
13
3mm
1.0
バンド1(可視) 0.34以上
バンド2(赤外) 0.27以上
バンド3(赤外)
0.17以上
バンド4(赤外) 0.16以上
帯、10u帯以上に分離される。パンド3、4は10.5
∼12.5μ帯の赤外光をハーフミラーを用い2分し
\
/
MESSRへ
1也球面放射放射
図一3
VTIR
機能系統ブロック
1
フィルターにより波長を選択している。赤外バンド
用のフィルターは走査放射計部と放射冷却部の分離
面に取り付けられており、赤外は所定の波長域に限
表-5 検知器
方式
定された後、放射冷却部内の結像レンズにより冷却
検知面サイズ
された赤外検知器に集光されている。
レスポンシヒゴティ
(Rλ)
校正用黒体
デテクティヒrティ
(D*入)
赤外系の校正用放射源としてVTIRは校正用黒体を
もち走査鏡が地球直下方向の裏面を走査する際、黒
体を測定するよう設置されている。
検知面サイズ
(R入)
ている。
さらに黒体は周囲の熱放射の影響を少なくする
(バンド2用)
1.0×10’゜
cniH
0.75×101°
CBiH
一W.W
デテクティヒごティ
(D*入)
(バンド2用)
2.5×103
v/w 以上(7.0
ijin,77K)
3.2×103
v/w 以上(7.0μiii,90K)
(バこノド3,4用)
4.0×103
v/w 以上(12.5μin,77K)
4.0×103
u/w 以上(12.5μiii,90K)
-\”^。-i(V.
なるよう制御されると共に黒体に埋め込んだサーミ
水銀カドtウムテルル
PC型
400umx400Llmx2素子
レスボンシヒごティ
1 5 cmの円筒型で放射面は円錐キャビティを蜂の果
状に配置加工することで実効放射率0.99以上を得
ため、ピークにより周囲温度より約10℃上の温度に
シリコこノPINフォトダイオード
133umx133umx2素子
0.4A/w以上(0.
7 urn )
0. 2 A/wJ.l±
CO.
5 urn )
1.0×10’2 CBHz^iC 0 . 7 u m )
0.5×1012 clHぷi '(0 . 7 u m )
(赤外検知器)
方式
黒体はアルミニウム合金製の厚さ約3cm、直径約
主要仕様
(可視検知器)
(バンド3,4
210 x l・010 cIHか1
スタにより約0.2°Cの分解能で温度計測される。
走査駆動系
1.5×10'゜ c叫声i
(7.0μI11.77K)
(7.0 uni,90K)
(12.5 um・77K)
(12.5μir,90K)
走査鏡の回転駆動にはブラシレスDCモータ及び
ブラシレスレソルバを用いている。
\くと
くで1球放射
速度検出は
LEDとチョッパの組合せにより発生する1回転函た
第1段コーン部
第2段バッチ部
り 90個のパルスを用いてMESSRから供給される
赤外検知器
2.195 MHz クロックを3352分周した回転基準クロ
--、
ている。回転シックは規格5 u s rms 以下であり可
ジト・
j/
︱匹ぺ
置検出の為、NAOIR −80°の走査位置でパルスを発
生しVTIR複合映像信号フォーマットの基準信号とし
1︲III
ックと位相比較し速度制御している。さらに走査位
視バンドサンプリング周期の1/2以下に相当する。
検知器
可視検知器及び赤外検知器の主な仕様について
表−5に示す。
各検知器は2つの検知素子を持ちプリアンプを含
めた冗長系を構成している。2つの検知素子は走査
方向に直角になるように配置されており、冗長系を
選択することで走査線が上下に約一素子分ずれる。
☆
図一4 放射冷却部 構造図
放射冷却部
一一
VTIRの放射冷却部の構造を図一4に示す。
可視検知器はSi-PINフォトダイオードで2つの検
知素子は素子間干渉を防ぐために観測時、常時両系
放射冷却器は宇宙環境で太陽、地球、衛星等外部か
ともプリアンプを介しバイアス電圧を印加している。
熱放射により赤外検知器を冷却しており2段構造と
赤外検知器は水銀カドニウムテルル(HgCdTe)結晶
を用いた光伝導(PC)型検知器であり約115 Kに冷却
される。尚、検知器はバンド2用及びバンド3、4
用に検知波長帯域が異なる2種類の検知素子をH9と
Cdの混合比を適正に調整することで製造している。
一20
らの放射や伝導による熱人力の遮断と宇宙空間への
なっている。
第一段はコーン部と称し約452c㎡の白色塗装され
た放熱面により約160 Kに冷却され、第二段パッチ
部の断熱効率を上げると供に鏡面コーン構造により
パッチ部の実効視野を冷宇宙空間に限定している。
コーン部は断熱の為、4組のガラスエポキシ樹脂
走査開始信号
宇宙クラこノプ
のサボー−トにより保持され、各赤外バンド用の集光
レンズが取付けられている。
検知器が装着されているパッチ部はコーン部に対
地球面観測信号
し8組のケブラー線により支持されており約58c㎡
の黒色塗装の放熱面により約川5Kに冷却される。
コーン、パッチ部の支持は各々レンズ、検知器の
黒体温度テレメトリ
冷却時のアライメント変動を極力防止するよう設計
fら0°
(5ivr)
(高温側)匹
匹
、配置されている。尚、コンタミネーション除去用
(低温側)
として各段ピークを持ち、軌道上でコーン、パッチ
電気校正信号
昌釜7シフ)[二二言ぶ
の温度を各々約240K、310Kに上昇させることが
・・//d cクタタ7ノ
u
[二 ̄▽ ̄
可能である。
(イ送系)
複合映像信号
検知器プリアンプにより光電変換された各バンド
黒体観測信号
の一周期の映像信号はポストアンプに入力され、
画像処理用の各種信号が付加されたアナログ複合映
像信号(0∼5V)として信号処理部へ出力される。
同期バースト信号
図一5に一周期の複合映像信号フォーマットを示
す。走査開始信号は走査鏡駆動系からの位置基準信
号により生成され。1パルスめの立上りか走査角度
グJフタ/4タ7、ダO is scan
−80°に対応する。検知器出力は-67.5°∼+40°
図一5
time
(mS)
複合映像信号フォーマット
の映像信号区間及び+160°∼−160°の黒体観測
MESSRデータフォーマット
マ
1マイナフレーム(29.16μsec)
づ1マイナ:
デT ̄ ̄丿
信号区間に出力される。
宇宙クランプ区間では宇宙空間を走査する際、
VIS&IR
:
その観測信号レベルを各バンド供100mvにクランプ
i
MNF9
MESSR
l
DATA S&IR MESSR
:
MN喘
DATA
・
64 PULSES/マイナフレームi i i
し映像信号の○レベル基準としている。また、黒体
観測信号区間の中央(-180°)付近において校正用
黒体の観測信号を出力している。
︲・II
映像信号は地上からのコマンドにより2dBステッ
プ16段階で利得を設定することが可能である。
I
S
ニ
1
1
−II
電気校正信号(ポストアンプJ〉は、ポストアこノプ
1。
全系の利得評価に用いる。電気校正信号(イ云送系)
1 活il;アーク
はポストアンプ最終段に人力され、信号処理部A/
遅延30∼80ns≪;
4工犬Zgり UVUaCX.
-
‥吋,ぶ&,七。応kL,ぷL,
XXX ,北1,1,,m,,│,ぷ,ll
D変換の校正に用いる。
MESSRマイナーフレペム’(参考)
信号処理部
信号処理部は走査放射計部より出力される4ハン
図一6
ドのアナログ複合映像信号をPCM信号に符号化し
MESSR信号処理部に送出している。
V丁工R
データフォーマット
タイミングとは非同期である。
VTIRの信号処理タイミングはすぺてMESSRから出
図一6にVTIRデータフォーマットを示す。
力されるクロック、読み出し信号等を基準に設定さ
MESSR
れMES3Rデータと多重化される。各バンドの複合映
視バンドは3回、赤外バンドはアナログマルチプレ
像信号のサンプリングはMESSRのマイナーフレーム
クtナにより多重化された後、各赤外バンド1回づつ
のタイミングに従い実行され走査開始信号の立上り
サンプリングされる。
21
Iマイナーフレー−ム(29.16 u Sec)の期間で可
(校正)
走査放射計アナログ出力V
VTIRの観測データの赤外バンドのラジオメトリッ
ク歪補正にあたっては、まずVT!R機器の内部歪の補
正を行ない、VTIR光学開口面換算の入射輝度に対応
する温度を求めることとなる。VTIRでは赤外バンド
の出力は検知器冷却温度、走査放射計本体の温度に
依存して大き<変動するため、各部機能で述べた校
輝度
正用黒体と宇宙観測信号を用いた2点校正を軌道上
N
六→c
観測時実施することが不可欠である。
ガウンヽ値出力
図一アに校正図を示す。温度一輝度曲線は黒体放
射式と各バンドの分光感度データにより求められる。
校正用黒体の推定輝度は黒体温度テレメトリと
黒体実効放射率から得られる。入射輝度一観測信号
温度丁
出力のグラフは黒体観測値と宇宙観測値の2点校正
より求めるが、宇宙観測値は入射輝度ゼロに近似
図一7
赤外バンド校正図
でき、その出力は一定値にクランプされているため
4。試験結墨
グラフはクランプ値を原点とする直線になる。
この直線の傾きはボストアンプゲインにより調整
VHRフライトモデル(FM)は受入試験により耐環境
可能であり、適切なダイナミックレンジ設定を運用
時には行うことになる。観測信号アナログ出力値と
性試験及び各種性能データ取得を実施し、その品質
A/D変換後のカウント値との対応については電気
図一8に示す赤外試験装置を用いている。
を確認している。VTIRは赤外系光学特性測定の為
この装置は可視/赤外光源及びコリメータを一体
校正信号(イ云送系)を用いて校正する。
化し赤外迷光、雑音を防止するため真空チヤこノバ内
可視バンドについてはVTIRは光学校正源をもたず
に設置され約200Kに冷却される。放射冷却部の
地上試験で取得した入出力特性データをベースと
した温度補正及び電気校正信号による補正のみが行
冷却には疑似宇宙面として約20Kに冷却された
なわれる。
黒体パネルが用いられた。
以下、VTIR
(運用)
FMの主要性能評価についてその概要
を示す。
VTIRはスタンバイ・モード、オペレーション・
モード、キャリブレーション・モード、RCピーク
ON・モードの4つの運用モードをもつ。VTIRは
コリメータ鏡
MOS-1軌道上運用時、通常スタンバイ・モードに設
定され校正用黒体、放射冷却器の温度テレメトリを
送出する他、冗長系選択、設定利得等を保持する。
観測時には、オペレーション・モード、校正時に
は、キャリブレーション・モードに設定されるが
この両者の違いはポストアンプ入力として検知器出
力と電気校正信号のどちらかをコマンドにより選択
しているだけであり、他の動作は全<同じである。
さらにこの両モードについてはデータをMESSRに
送出する為、MESSRの片系が運用されている必要が
図一8
ある。RCピークON・モードでは放射冷却器の冷
却段に取付けたピークに通電し、ベーキングを実施
する。
22
赤タト試験装置外観図
観測波長域_
レベルのデータを積算することで得ているが、バン
第1段コーこノ部
(宇宙予測)
0
5
1
は光学部品の特性、検知器の分光感度特性等、部品
0
6
1
つI︶遡哺策費
各バンドの分光感度特性を図一9に示す。この値
ドパスフィルターが支配的である。
0
12
垢策兜裟溺
補正が必要となる。
0
13
なお、赤外バンドでは検知器の分光感度特性が
冷却温度により変化するため、冷却温度に対応した
(宇宙予測)
0
︰︲
冷却特性
放射冷却部の冷却特性は20Kの疑似宇宙面を
第2段パッチ部
(検知器温度)
100
用いた熱真空試験により光学性能と同時に確認して
いる。
丿0
図一10に試験条件下の冷却特性と軌道上の熱
環境条件を加えた運用時の予測冷却特性を示す。
軌道上では地球ふく射等の影響をうけ試験時より
0
図一10
表−6
20
30
40
10
取付け面温度(゜C)
放射冷却部冷却特性
可視バンド入出力特性
冷却温度は高<なっている。また、走査放射計部の
Band l
温度によっても影響をうける。
入出力特性 −
VTIR熱真空試験時の可視バこノド(バンドド
ハロゲシランプ光源アルベド100%相当入力時の
信号出力レベルについて表一引こ示す。
−10°C
25°C
40°C
1系
4.88V
4.85V
4.88V
4.82U
2系
5.33V
5.48V
5.57U
5.51V
熱真空試験時
可視の出力は走査放射計の温度変化に対して非常
O°C
ALBEDO
100X
入力時
走査放射計部出力、ゲイこノステッフ
、。V
7
5
^ C’^mc
に安足している。
一方、赤外ハンドは図一11に示すように、検知
︵`︶刄ヨs゛︵s台
器冷却温度の上昇に供なう検知器のレスポンシビテ
ィの低下により、急激に出力レベルが下がる。特に
長波長のバンド3、4にその傾向が強い。
また、冷却温度が一定でも、走査放射計部温度の
上昇にともなう背景雑音の増加により出力レベルの
低下が見られる。そのため、赤外バンドでは軌道上
運用時、黒体による校正と適切なゲイン設定が必要
である。
110
D5
図一9 VT
図一11
I R 分光感度特性
n5
120
赤タト検知器冷却温度(K)
赤外バンド入出力特性
1.0
0.8
6
0
巡徊米ぶ霖司
■^
0
2
0 0。5
0.6 0.7 0.8
波長(μm)
波長(μm)
23
検知器温度温度
115
K
I25K
3
表−7 可視バンド
感度特性
一一一
可視バンドのS/Nについて表−7に試験結果を
入力レベル
S/
N
1系
規格
2系
示す。この値は規定の可視光に対する走査放射計部
アナログ信号出力点て測定しており、量子化誤差は
アルベド80%
55d8以上
60.2
dB
61.1
dB
含まれていない。
アルベド0.5%
25dB以上
26.7
dB
27.0
dB
表−8に赤外バンドの300K黒体観測時の等価
雑音温度差(N
E T D : Noise Equivalent
ture Difference
Tempera
表-8
赤外バンド
)について、試験結果と軌道上の
N E T D
試験結果
フ?万y予で
(ノミ
冷却温度での予測を示す。
1 12K 1
冷却温度
このNETD値はアナログ信号出力のS/N比と
観測黒体温度でのラジアンス・コントラスト(1°C
当たりの輝度変化率)から求めている。ラジアンス
最悪)
1 7 K I 1 2 4 K
バンド2
0.03K
0.03K
バンド3
0.06K
0 . 0
バこノド4
0 .
0 .
0.04K
7 K
0 .
1 2 K
・コントラストの値は、プランクの公式と各バンド
の波長感度特性データより求めており、各バンド固
有の値となる。
図一12にVTIR-FMでのS/Nと
1 2 K
1 6 K
0 . 3 4 K
3 0 0 K黒体観測時 規格
0。5K以下
走査放射計部温度
2 5°C
NETDの値の関係を参考に示す。
軌道上でのNETDの予測は冷却温度に対応した
出力レベルの推定と、赤外信号雑音レベルの測定結
果より求めている。
60
バンド4
信号処理部でのA/D変換の量子化誤差による
S/Nはフルスケール入力の-2
に対し、5
d B入力(3.97V)
バンド2
50
Z\の
に近いものとなっている。
F
表−9にVTIR-FMの総合MTF(空間周波数応答
特性、Modulation Transfer Function)の測定結果
を示す。これらは、各バンドの瞬時視野幅を%サイ
クルとする縞パターンの走査により測定されたもの
40
MT
バンド3
八
Qコ
て3
W
4 d B以上の測定結果を得ており理論値
30
である
0.2 0.3
0バ
0.5
NETD(300K黒体観測時)
走査放射計部の温度変化による変動も5%以下で
あり、安定した特性を示している。
図一12
1.0
(K)
N E T D 換算式
5。あとがき
VTIRはMOS-1打上げ後、約3ヵ月間の初期運用評
表−9 MTF測定結果
価作業として、軌道上における機器の機能確認を行
規 格
1系
2系
なう予定である。その後の試験運用(6ヵ月間)、
定常運用(12ヵ月間)においては、定常的な観測
バンド1
運用が開始されるとともに、衛星検証として、衛星
バンド2
検証を行なうことが計画されている。
バンド3
バンド4
166.7
cycle/rad
可視バンドは
−24
0.46以上
0.43以上
0.45以上
0.45以上
0.44以上
0.45以上
0.46以上
0.47以上
0.40以上
データ処理、グランドドルーズ、航空機観測データ
等を利用した総合的な機器検証、物理量検証、利用
0.42以上
500 cycle/「adian で測定
画像化赤外観測機器
-光技術コンタクト Vol.31,No7 -
■特集「赤外光学系・画像機器」
●画像化赤外観測機器 耐温度環境性に優れた赤外線光
学系 ●10ミクロン帯赤外線撮像装置 赤外光学系にお
ける光学部品の加工
■連載講座「オプトメカト
ロニクス時代の超精密研磨
技術」
7
●3.宝石の研磨加工とその
’93
応用について
VOL.31
コンタクト
通巻356
JOEM社団
法人日本オプトメカトロニ
画像化赤外観測機器
特 集
赤外光学系・画像機器
大仲未雄
1.は じ め に
の窓」と呼ばれる波長域,可視∼1.3μm,
1.8∼2.7μm,3∼5μm(4.2∼4.5μmは
赤外線波長域の呼び方について,赤外線放射
C02の吸収がある),8∼14μm(宇宙からの観
を加熱源として利用している人は,近赤外線と
測には9.7μmにオゾンの吸収帯あり)を利用
遠赤外線とで区別しているようであるが,それ
することが多い(宇宙から地球を観測する場合
を区分する波長があまり明確に定義されている
は,大気の吸収やその波長も重要な情報源であ
ように見えないが,概観すると,3∼4μm以
るから,積極的に大気の窓以外の波長域を利用
上の波長を利用するものに遠赤外線を形容詞と
することがある)。
して用いているように思われる(河本氏等はこ
赤外放射を受動形として利用する場合には,
の区分波長の標準化に努力しておられるが)。
周知の如く,自然界のあらゆる物体からの勲放
これに対し,センサや分光の目的に利用してい
射は温度の関数で,特定の温度では黒体からの
る者は,画像化する場合でもしない場合でも,
放射が最も大きく,その放射強度がいわゆるブ
比較的に明確な区分をして使用している(公式
ランクの法則に従い常温(約300K)では約8
の定義はないが)。赤外線とは,概ね波長0.72
∼10μmの波長域の赤外線の放射が大きいこ
μm∼0.1mmの範囲を総称し,この中を大略,
のことは,この波長帯を利用する画像化観測機
0.72−1.2μmを近赤外域,1.2∼3μmを短
(赤外カメラ)の撮影対象は,可視域を用いる
波長赤外域,3∼15μmを熱赤外域と呼び(こ
通常のカメラの撮影対象とは比べものにならな
の熱赤外域のうち3∼5μmを中間波長赤外域
い程大きな背景放射があり,コントラストが軽
と呼ぶ者もあり,熱赤外域を中間波長赤外域と
めて小さくなることを意味する。従って,機器
呼ぶ者もある),これより長い波長域を長波長
設計に際して機器内部や光学系の鏡筒などの周
赤外域と呼んで区分して使用している。人によ
辺部からの放射,反射鏡やレンズ等の集光光字
っては0.1∼1mmのサブミリ波帯を含めるこ
系の構成部品からの放射がすべて迷光として作
とがあるが,極めてまれに見るのみである。
用するため,この放射を除去するために機器全
赤外域放射を利用するに際して,空気層を介
体又は光学系と鏡簡部を冷却する場合がある。
在させる場合(これが一般的であるが),大気
一方,材料面から見ると,赤外光学系特に集光
の吸収が障害となるので,吸収の少ない「大気
系に利用する材料は可視域のものに比べて歴史
富士通㈱宇宙開発推進室SueoOHNAKA
〒211神奈川県川崎市上小田中1015
Vol.31.No.7(1993) −355− 3
が短く大きな制約がある。例えば,可視光学系
る「宇宙からの地球観測」の分野への応用を重
でレンズ等の透過材料として多く用いられるガ
点にして考察することとしたい。
ラスも多種類のものが開発されており,これら
2.画像化赤外センサの利用
を組み合わせて使用されているが,波長3μm
以上の熱赤外域では不透過であり使用できない。
画像化しない赤外センサは,ホームエレクト
この波長域で利用しうる材料はゲルマニウム
ロニクスをはじめとして広く普及しているが,
(Ge)やセレン化亜鉛(ZnSe)等の限られた材料,
画像化するものは,当初,防衛用として開発さ
しかも結晶化材料が用いられる。又,これらの
れたために軍事機密上の制約があって一般社会
材料は屈折率が大きくて表面反射があり,無反
への普及が遅れたが,1965年頃から産業用,医
射コーティング等の処理を行って透過率の向上
療用や天体観測用として利用されはじめ,最近
をはかるが,このコーティングは干渉膜となり
になってやっと多くの製品が開発されて商品化
波長域を制約することになる。この制約を回避
されるようになってきたことは,関係者のひと
して広帯域化するには,すべてを反射鏡で集光
りとして誠に喜ばしいことと思います。これら
系を構成する必要がある。
の背景に加えて,国際政治の面でも地球環境問
以上のような制約があることを念頭にお読み
題がクローズアップされ,赤外センサを人工衛
頂くとし,産業用や医療用等の波長特性をあま
星に搭載した宇宙からの地球観測が全地球的な
り重視する必要のないものには簡単に触れるに
環境問題の解明に不可欠になりつつある。この
とどめ,技術的に多様な特性の利用が求められ
宇宙からの地球観測については後述することと
表「産業用,医療用赤外画像装置の特性(一部推定を含む)
主 主
な
利
用
場
鋼
の
キ
ズ
要 求 性 能
利
検
出
2 00∼1000 ℃
精
度
温 度 分 解 能
空 間 分 解 態
± 1%
N E △ T O. 5 K
1∼10 mm
使
用 波 長 域
0. 7 2 ∼ 1. 2 μm
or
産
製
銅
鋼
の
製
炉
錬
の
の
工
保
程
管
守
5 0∼200 0 ℃
± 1%
理
10∼200 ℃
± 1℃
銅 製 物 壁 界 面 の 剥 離 検 出
業
仏
電
用
像
・ 古 美
子
機
術
器
鉄 道
車
火 災
(中 広 域
公
白
害
両
の 火
(汚 染
ろ
う
の
の
鑑
設
災 監
)源
の
監
10∼50 ℃
定
20∼40 ℃
計
1 0 ∼2 0 0 ℃
視
)の 検 出
病
用 す
る 物 理
的 性 質
と 技 術
備 温 度 範 囲
製
な 所
視
1 0 ∼ 10 0 0 ℃
10 ∼1000 ℃
0 ∼5 0 ℃
−
−
±1 ℃
1∼ 1 0 m m
8 ∼ 14 μm
〃
〃
〃
10∼100m m
〃
〃
〃
〃
〃
〃
診
理 学 療 法 の ア フタ トケ アー
温 度 分 布
1∼10 m m
〃
〃
0. 1 ∼ 1 0 m m
〃
温 度 分 布
〃
0. 7 2 ∼ 1.2 μm
温 度 分 布
ス ペ ク トル 比 較
0. 1 K
診
3∼
〃
1m
5K
ス ペ
3 ∼5 μm
1m
1 ∼ 10 m m
考
術
パ タ ー ン 認 識
〃
−
診
技
〃
lK
の 検
用
3 ∼5 μm
an d
0.0
温 度 分 布
使
〃
−
± 0. 1 ℃
量
10 m m
lK
診
理
5 μm
−
検
2 5 ∼4 0 ℃
〃
物
〃
可
ス ペ
ク
ク
トル
/パ タ ー ン認 識
航
空 機 搭 載
〃
〃
〃
パ タ ー ン 認 識
〃
温 度 分 布
パ ター ン 認 識
*
視
8 ∼1 4 μm
〃
ト ル
5 m m
8 ∼ 14 μm
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
〃
医
脛
乳
骨
腕
症
ガ
候
ン
群
の
検
療
皮
膚
ガ
ン
の
検
〃
〃
用
血
流
量
の
計
測
〃
〃
〃
〃
〃
温 度 分 布 及
発
び 平 均 温
経
度
熱
時
量
変
化
**
*林業,鉄道保線等の職業に多い
**衣服の脱着後の血管の熱放射の変化こより血流を算
4 −356− 光技術コンタクト
図1(a)観測目的と対象1]
図1(b)対象の観測手段1]
Vol.31,No.7(1993) −357− 5
特性の傾向を図2に示す。
これから明らかなように,可視域から短波長
赤外域では地表面からの反射を,熱赤外域では
地表面からの放射を利用するのが一般的である。
図3は,「宇宙からの地球観測」(狭義のリ
モートセンシング)に用いる可視・赤外域電磁
波の大気の分光透過特性を示す。反射を利用す
るものの一例として,花崗岩類の反射スペクト
ルの特性を図4に,赤外線放射を利用するもの
の一例として火成岩類の放射スペクトルを図5
図2 地表からの分光放射(反射)2]
に示し,所要の地表分解能とデータ取得間隔の
し,産業用,医療用の赤外画像装置を利用面か
関係を図6に示しておく。地表分解能(距離又
らの特質は,大略,表1のようになる(一部推
は瞬時視野角IFOVで表す)と1回で観測で
定を含む)。この他にも天体観測用や防衛用の
きる範囲(走査幅又は刈り幅ともいい,距離又
ものもあるが省略する。
は視野角FOVで表す)とはほぼ比例関係にあ
表1から明らかなように,赤外画像(サーモ
グラフィーと呼ぶことがある)装置は一般的に
り,資源探査等の陸域観測用は数m∼数十mの
地表分解能(観測幅は数十km∼百数十km)
は温度の空間(二次元)分布の計測
が行われており,利用者はこの分布
を白黒の濃淡又はカラー化(擬似カ
ラーという)した画像表示から目視
による認識を行って,経験による識
別や診断を行っていたが,最近は
データ処理技術の進歩から自動パ
ターン認識,識別を行うことが多く
なりつつある。
一方,赤外画像による「宇宙から
の地球観測」の手段としては,図1
のように,地表(海面を含む)での
太陽放射の反射や地表からの熱放射
を利用する。この分光放射(反射)
図4可視∼短波長赤外域における花崗岩類の反射スペクトル4]
図3 大気の分光透過特性 3]
6 −358− 光技術コンタクト
十kmでよい)することが要求される。
図4,図5から明らかなように,宇宙から地
球資源を探査するには各物質の持つ反射又は放
射の分光特性の微妙な差異を検出する必要があ
る。
又,大気や海洋の環境観測にも,そこに含ま
れる化学物質の成分を知るために分光特性を明
らかにする必要がある。すなわち,イメージン
グスペクトルの計測機能が要求される。その要
求事項を筆者の推定又は提案を含めて表2に示
す。
3. 温度分布計測用センサ
地球観測用等の特殊なものを除く産業用や医
療用(大部分の防衛用を含めて)赤外画像装置
は,観測対象からの赤外放射量の二次元分布か
ら温度分布を求めることになり,所定の感度
(NE△T:等価雑音温度差,すなわち装置雑
音出力と信号出力が等しくなる観測対象と背景
との温度差,で感度を表し,この値が小さい方
が高感度である)を得ることができれば 観測
図5熱赤外域における火成岩の放射スペクトル5]
波長域については特に問題にならない(表 1参
照)。
前述の如く,常温(約300K)の物
体からの放射は8∼14μmの波長域に
最大値があるが,この波長域で高い感
度が得られる検出器としてHgCdTe等の
三元合金結晶を用いたものが専ら用い
られる。又,集光光学系としてはこの
波長帯域に限定すれば GeやZnSeの材
料を用いて表面に無反射コよティング
を施すことが可能であるから,これら
の材料で製作したレンズを組み合わせ
て構成される。画像化のためには二次
元の対象を走査する必要があるが,こ
こ数年前までは二次元の素子アレイを
図6地表分解能とデータ取得間隔の関係6]
用いた検出器が開発されていなかった
を,海域観測や大気・気象観測用は広範囲を高
ので,機械式(振動又は回転)走査鏡を用いて
頻度で(又は常時)観測(分解能は数km∼数
いたが,最近になってこれより短い波長域で使
Vol.31.No.7(1993) 一359− 7
表2 宇宙からの地球観測要求性能(推定を含む)
観
都
陸
測
市
対
部
中
規
大
規
土
地
利
模
探
表
面
温
)
2 5 0 ∼ 5 0 0
査
度
分
布
海
色
・ 海
洋
生
(k m
)
観 測 日 数
1 0
5 0 ∼ 1 0 0
約
約
1 0 0
5 0 0 ∼ 1 0 0 0
1
0
約
1
0
約
約
( 日 /年
約
1 0
)
観 測 波 長 域
大
ダ
大
イ
気
ミ
ッ ク
汚
温
気
ナ
同
同
室
効
果
ガ
学
−
オ
ゾ
」
ソ
の
高
度
別
分
布
同
ド
IR
上
上
同
上
N E Δ ρ<
0. 5 %
N E Δ ρ<
0. 5 ∼ 1 %
3 0 ∼ 1 0 0
6 0
1 ∼ 2
1 5 0 0
約
6 0 0
1 5 0 0 ∼ 2 0 0 0
1 5 0
1 5 0 0 ∼ 2 0 0 0
1 5 0
1 5 0 0
6 0 0 以 上
|
|
s h u × 6 0 km
3 0 k m
5 × 2 0 km
3 0 0
常
時
常
時
常
時
極
地
2 0 0 ∼ 7 0 0
3. 7
(5 ∼ 1 0 バ ン ド)
3. 7
5 0 0 ∼ 7 0 0
8. 0 ∼ 1 2. 5
(2 ∼ 5 バ ン ド)
0. 4 ∼ 1. 0
(2 ∼ 4 バ ン ド)
5 0 0 ∼ 7 0 0
(2 ∼ 4 バ ン ド)
8. 0 ∼ 1 2. 5
2. 3
2. 4
4. 7
ガ ス セ ル と の 比 較
分 解 能 0. 1 c m−
2. 3 ∼ 1 5. 0
0. 1 K
5 0 0
植 生
付
加
3. 7 μ帯 大 気 補 正 用
3. 7 μ 帯 大 気 補 正 用
250 m は 雲 検 出 用
3. 7 μ は 大 気 補 正 用
5 0 0 ∼ 7 0 0
∼ 1 2. 5
3. 7
< 0. 3 K
N E Δ T <
S /N >
1 0
3. 7
8.1
N E ΔT
考
上
同
7 0 ∼ 1 0 0 (3 ∼ 4 バ ン ド)
8. 1 ∼ 1 2. 5
備
1
4 0 ∼ 1 0 0 (3 ∼ 7 バ ン ド)
N E Δ T <
0. 1
N E ΔT <
0. 1
C O
<
1 0 %
C H4
<
1 %
1
x 2 0 0 km
3 0 0 0 トン
2 0 0 0
雲
同
0. 0
0. 6 ∼ 2 5
6 0 0 × 6 0 0 0
|
1竺
度
上
)+ 1 バ ン
+ S W
上
感
N E Δρ <
0. 4 5 ∼ 1. 0
1 0 0 0
ス
同
上 ( 3色
)
)
1 ∼2
o r 6 0 km
化
(n m
1 ∼2
3 0 k m
染
同
上
1. 5 ∼ 1. 8
3 0 ∼ 3 0 0
トル 幅
7 0 ∼ 1 0 0 (3 色
6 0
2 5 0
ス
ス ペ ク
0. 4 5 ∼ 1. 1
域
洋
)
6 0
1 0 0 0
海
(μ m
0. 4 5 ∼ 0. 7 5
1 0 ∼ 3 0
( 1 5 )∼ 1 0 0 0
物
幅
約
2 0 ∼4 0
1 0 0 0
海
測
1 0 0 ∼ 2 5 0
域
地
観
5 ∼ 2 0
発
森 林 開 発
分 解 能 (m )
1 ∼ 2
発
開
源
地 表
用
開
模
植 生 分 布 (含
資
象
−
2 5 c m −1
9. 7
1 6 c m −1 ∼ 2 5 c m −1
4. 2 ∼1 1. 3
0. 5 ー 0. 7 5
1 k m
同
左
回
折
格
子 分
光
S / N > 5 0
1. 5 ∼ 1. 7 0
気
水
蒸
気
分
全
布
球
3. 5 ∼ 4. 0
〃
6. 5 ∼ 7. 0
〃
8. 0 ∼ 9. 0
〃
3 0 分 毎
4 k m
地
表
温
度
分 布
1 0. 7 ∼ 1 3. 5
象
垂
直
温
度
分
布
1 5 k m
全
球
3 0 分 ∼
1 時 間 毎
0. 7∼
1 5.0
N E Δ T < 0. 1 K
3 バ
2 7 バ ン
ン ド
ドの 特 定 ガ ス
の 波 長 に 合 わ せ る
−
用する二次元アレイ検出器が開発されたので,
収差がある。通常の可視光のレンズは,使用波
近い将来,この波長域(8∼14μm)でも機械
長が0.5μm程度で,光ディスク用等の特殊な
走査を必要としない熱赤外画像装置が出現する
ものを除いて回折収差があまり問題にならない
ものと期待される。ただ,この波長域で使用し
が,上記の如く波長が10μm位になると回折収
うる高感度の検知素子は,所期の感度を得るた
差が支配的になる。この収差は光学系の開口径
めには極低温(100K以下)に冷却する必要があ
(F値)で定まるもので幾何光学収差で行う
る(HgCdTeで約80K,Si/Ge,Si/Ga等シリコン系
ような補正法がない。回折収差で制約される
では10K程度に冷却)。二次元素子アレイ検出
Airydiscの直径をdとすると,焦点距離をf,
器では,素子の面積が大きくなり(後述の回折
開口径をρ,波長がλのときd≒1.22(f/D)・λ
収差の限界から素子面積を小さくできない)ア
=1.22Fλ(ここにFは開口比で通称F値)と
レイ化検出器が大形となって侵入熱が大きいの
なる。これは点光源の像がこの直径になること
で,比較的大きな冷却能力がある冷却器が必要
を意味する。
になる。そのため,従来は液体窒素(LiqN2)を
一方検知素子の大きさ(一辺の長さ)は観
用いたり,圧縮したアルゴン(Ar)やN2ガスボン
測対象のサンプリング間隔に対応した点像の間
ベによるジュールトムソン(J−T)方式の冷
隔である必要があるから,Airydiscの直径
却器を用いていたが,使用可能時間が短いとい
より十分大きくしなければならない。すなわ
う大きな制約がある。これに対しても,ベル
ち,この間隔をxとすると,x≧2d十α≒
チェ素子による電子冷却やスターリングサイク
2.5Fλ十α(αは素子間の不感帯間隔)となり
ル方式による大容量,長寿命の冷凍機を用いた
F値を1.4,λmax=13μm,α==5μmとす
冷却器が開発され実用化されている。
るとx≒50μmとなる。このことは,500×
集光光学系については,波長が可視域に比し
500pixelsの検出器の受光部(検知素子の有効
て長いために,ザイデルの5収差と呼ばれる幾
部)の面積は大略625mm2(2.5cm平方)
何光学収差の他に波動光学的要素としての回折
の大面積になり冷却能力を含めて装置の小型化
8 −360− 光技術コンタクト
を制約する要因である。これを避けるために,
ろう。
装置のシステム感度を多少犠牲にして(多素子
回折格子を用いたイメージングスペクトル
化で余裕がでるから),使用波長域を3∼5
メータは,陸域観測用可視域と短波長赤外域で
μm帯にすることにより小型化が可能になるの
用いるHIRIS,海洋観測用のMODIS−
で,このような機器も開発されている。ただ,
Tが提案されてNASAでその構想が採り上げ
この方法はこの波長帯での放射率が小さい特定
られ,概念設計の段階まで進んだが,経済事情
の物質を観測(計測)対象とする場合には使用
等の関係から未だに開発設計の段階に到らず実
できないが,最近は8−14μm帯を用いたもの
用化されていない。ただ,地球環境問題の解明
のほかに,3∼5μm帯を用いた種々のサーモ
には不可欠な装置であり,私見ではあるが,米
グラフィー装置が各社から商品化されている。
国で開発できないならば国際協力の一環として,
4.イメージングスペクトル計測用センサ
わが国で開発して各国の衛星に搭載して地球の
環境観測を行い,国際協力事業に寄与すべきで
環境汚染が,河川や沿岸等の局地的な問題に
あると考える。わが国の技術水準は,この種の
限定されていた状況から,熱帯雨林破壊,地球
装置の開発が充分に可能な状況にある(わが国
温暖化,砂漠化やオゾン層の破壊等が問題にな
でもNASDAがこの方式と従来方式との比較
り,その要因になるガスや広域の海洋汚染物質
研究を行っているが,開発にも必要な資金の確
などの成分や量を国際協力のもとで宇宙から観
保が最大の課題であろう)。
測しようとする構想や計画が浮上し,そのため
一方,宇宙機搭載用FTIRは,通産省プロ
の観測機器の開発が急務になっている。
ジェクトとしてJAROSにて温室効果気体観
光学的に汚染物質の成分と量を計測するには,
測装置(InterferometricMonitorforGreen
分光分析の技術が応用されるが,既存の分光分
houseGases略称IMG)を開発しているが,
析器としては分析対象物をサンプリングして時
この装置は地表面走査機能を有していないため
間を掛けて計測するもので,回折格子を用いた
視野が狭く衛星の進行軌道に沿ってその直下
モノクロメータ,マイケルソン干渉計とフーリ
(NADIR)のみを観測するものである。こ
エー変換を組み合わせたFTIR等が用いられ
の装置の観測波長域は700cm−1(14.2μm)∼
ている。
3000cm−1(3.3μm)で,波数分解能0.1
これらは高精度であるが,宇宙からの観測に
cm−1あり,温室効果気体の観測に寄与する
必要な画像化には不向きで,現状では薄膜干渉
ことが期待されるが,イメージングスペクトル
フィルタを用いた二次元のセンサが主流である。
メータとしての機能はなく,リニアアレイ検知
わが国でも,宇宙開発事業団(NASDA)や
素子又は地表面走査機能を備えた(又は,これ
(㈱資源探査用観測システム研究開発機構(JA
らを組み合わせた)広視野化したFTIRの開
ROS)などでこの種の赤外観測装置を開発し,
発が望まれる。米国NASAでは,2.3∼15.4
運用中である。ただ,この方式では装置の構成
μmを0.025cm−1の分解能で分光しながら,
が可能なバンド数や波長分解能に制約があり,
18kmの観測幅(分光分解能を低くして180k
分光分析器と言うには程遠い。従って,今後の
mにできる)で観測するTES(Tropospheric
地球環境問題に対処する宇宙機搭載の光学セン
EmissionSpectrometer)を開発して,EOS
サとしては,回折格子を用いたイメージングス
(EarthObservinqSystem)−AM2,AM3
ペクトルメータや広視野(イメージング化した)
の衛星(2003年打上げ予定)に搭載する計画が
高感度のFTIRが開発されるようになるであ
ある(米国の計画は流動的であり,その成否に
Vol.31,No.7(1993) −361− 9
は不安があるが)。又,わが国でも通産省がI
器を重点に展望した。ご参考になれば幸いであ
MG−Ⅱの開発のために平成5年度に予算を計
る。
上して,JAROSでは概念設計に入り開発に
参考文献
着手した。
わが国のIMG−Ⅱの開発目標性能は極めて
1)「赤外放射源」日本赤外線学会誌Vol.1,
意欲的なもので,衛星の軌道の直下を200km
〔No1〕(1991)p.74
又は1500km刈り幅で観測するものであり,こ
2)「地球観測」日本赤外線学会誌Vol.1,
の開発に成功すれば米国のTESの性能を大幅
〔No1〕(1991)p.47
に上回る国際的にも画期的なものになるために,
3)「物質との相互作用,宇宙からの地球観測
関係する官界・学界.産業界の英知を結集して
システム」資源探査のためのリモートセン
新しい発想を付加するとともに,それらの開発
シング実用シリーズ②p.3.38
課題を解決するために充分な資金と人材を碓保
(平成2年3月(財)資源観測解析センター刊)
することに最大の努力を払う必要があろう。
4)「衛星リモートセンシングによる地球温暖
開発課題としては(1)広い波長域,広い視野を
化計測」応用物理Vol.61,[No6](1992)
カバーする集光光学系と,重力に無関係な軽い
p.569
高精度マイケルソン干渉計(特に駆動系),(2)
5)「MODIS:AdvancedFacilityInstrument
リニア又は2次元アレイ素子による赤外線検出
forStudiesoftheEarthasaSystemJ
器,(3)光学系及び検出器用の長寿命,低振動の
IEEE
冷却器,(4)膨大な高速度の信号(データ)の伝
TronsactiononGeoscienceandRemote
送及び処理器などがある。これら開発課題は先
SensinqVol.27,〔No2〕(1989)
端的なものであるが,現在の光学技術,電子技
6)「OpticalDesiqnoftheModerateReso−
術,メカトロニクス技術,情報処理技術などの
lutionImaqinqSpectrometer−Tilt(MODIS
延長線上にあり実現不可能なものではない。
−T)fortheEarthObservinqSystem
5.終 わ り に
(EOS)」SPIEVol.1492,p.286(1991)
7)「TES:TroposphericEmissionSpectrome−
この雑誌の読者は,光学機器や光学エレメン
トについての専門家であり,又光学分野の研究
ter」1993EOSReferenceHandbook(NA
SA)p.98
開発の歴史が長いので蓄積された技術資産が豊
8)「ASTER:AdvancedSpacebornThermal
富にあると推察されるので,著者の如き光学技
EmissionandReflectionRadiometer」
術を応用した赤外線機器やシステムの開発に携
同上p.64
わる者にとっては,本誌の読者の皆様に条件を
9)わが国の宇宙からの地球観測計画に関する
定めて依頼すれば,如何に難しい要求仕様でも
長期シナリオについて(中間報告−−−第
理論限界に近い性能で仕様を満足する光学系エ
一次平成4年10月,第二次平成5年1月:
レメントを入手することができるものと期待し
リモートセンシング推進会議)
ている。
10)「HIRIS:HiqhResolutionImaqinqSpec−
このような前提のもとで,画像化を念頭にし
trometerJEOSReferenceHandbook,May
た赤外線応用機器の現状と将来を,技術的な細
1991p.70NASAGoddardSpaceFliqht
部よりも今後の開発技術の先端を行くものにな
center)
ると思われる宇宙からの地球観測システム用機
11)地球環境を衛星技術で解明する(21世紀へ
10 −362− 光技術コンタクト
向けての地球観測シナリオ):地球環境観
測調査委員会報告,宇宙開発事業団発行
p.50
2]日本赤外線学会誌 Vol.1,No.1,p.50
12)「Mechanical cooler development pro−
3]OCEAN AGE,Vol.15,No.11(1983.11),p.34
qram for ASTER」 SPIE Vol.1490,(1990)
4]「宇宙からの地球観測システム」(財)資源観
測解析センター発行,p.31
p.299
13)「可視熱赤外放射計(VTIR)」OCEAN AGE
Vol.15,〔Noll〕(1983−11) p.33
図引用文献
5]「宇宙からの地球観測システム」(財)資源観
測解析センター発行,p.38
6]日本赤外線学会誌 Vol.1,No.1,(1991.7)
p.54
1]日本赤外線学会誌 第1巻第1号(1991.7)
Vol.31,No.7(1993) −363− 11
可視熱赤外放射計(VTIR)
-Ocean Age-
特集:宇宙から海洋を採る⑤
可視熟赤外放射計(VTIR)
富士通㈱特機システム事業部長代理大仲末雄
1. まえがき
海洋観測衛星1号(MOS−1)に搭載する可視
熱赤外放射計VTIR(Visible and Thermal Infrared Radiometer)は可視1バンド,赤外3バ
ンドで地球を観測し,可視域から雲の分布,赤外
λ;波長(μm)
C1;第1放射定数=3.74×104(W・cm-2
・μm4)
C2;第2放射定数=1.439×104(μm・K)
T;絶対温度(K)
域から地球表面(海面)および雲頂の温度分布,
上層水蒸気の情報を得るセンサである。
VTIRの赤外線検出器としてPC形HgCdTe検
知器を,可視光検知器としてSi−PIN ダイオード
を用いている。HgCdTe検知器は約1000K(−173
℃)に冷却する必要があり,これを放射冷却器で
行っている。
VTIRの開発は,EM段階を終え,PM段階に
あり,現在試験中である。
以下,VTIRによる観測の概念と装置の概要
を述べる。
図1−1 黒体放射1000∼2000K
2.赤外放射計による観測の原理
赤外放射計を用いて観測する海面,雲頂等の温
度分布の計測は,直接法ではなく,以下に述べる
原理により間接的に求めるもので,伝播路の影響
等幾多の補正計算を行って利用される。
2.1 物体からの赤外線放射1)
物体からの赤外線の放射は,レーザや蛍光に見
られるような冷放射(ルミネセンス)もあるが,
一般には,熱放射である。
物体からの熟放射特性には,つぎの諸法則が当
てはまる。
(1)ブランクの法則
物体からの放射強度の波長特性は,温度をパラ
メータとして次式に表わされる。
WB=(C1/λ5)/(exp(C2/λT)−1)
ここにWB;黒体の分光放射発散度(W・cm−2・μm−1)
図1−2黒体放射100∼1000K
NOVEMBER 1983 33
(2)キルヒホフの法則
第2項は,大気層からの放射の観測量を表す。
一般に物体の赤外線吸収率は放射率に等しく,
図2は,大気の赤外線透過率を表したものであ
黒体ではともに 1 である。
る。これを見ると10−13μ帯は吸収が少なく(大
(3)ステファンボルツマンの法則
気の窓という),6∼8μ帯に水蒸気による吸収の
黒体の全放射発散度は,絶対温度の4乗に比例
あることがわかる。
する。これは,ブランクの法則の式を積分して求
められる。
海面からの放射は波長10μ近辺が大きく,上記
の窓が有効に利用できる。一方,6μm帯は水蒸
W=σT4
気層からの放射の観測に利用できよう。
ここにσ=5.67×10 12(W・K−4)でステファ
また,透過率に影響を与えるものとして,空中
ンボルツマンの定数という。
の雲がある。
(4)ウイーンの変位則
さらに,観測値は衛星から地表を見る方向に影
分光放射発散度の曲線(温度Tをパラメータ)
響される。すなわち,走査の両端は,衛星からの
にはそれぞれ最大値があり,その点の波長λmと
距離が,真下を見たときに比べて大きくなり,特
絶対温度Tとの間には次の関係がある。
に,大気層を通過する距離が大きくなり,考慮す
る必要がある。(図3)
λmT=2898(μmK)
注1)高木 亨「赤外線応用のすべて」より
x=(r+R)cosθ−√(R2−(r+R)2sin2θ)
2.2 衛星による赤外観測
h'=√((R+h)2−(r+R)2sin2θ)−
衛星から海面(地表)を観測する場合,海面か
らの放射は,大気の影響を受けるのみならず,観
√(R2−(r+R)2sin2θ)
測方法にも影響される。
の方法で除去ないし補正する必要がある。それに
このような観測データに与える影響は,何らか
は,海面温度,雲頂温度,水蒸気の温度,湿度等
N=∫φλελs Bλ(Ts)τ。dλ
を他の方法で測定し,これを真値として,衛星観
+∫∫;φλελahBλ(Tah)ταh dλdh
ここにφλ;装置の波長透過率
ελS;海面の分光放射率
Bλ(T);温度Tでの分光放射発散度
Ts;海面温度
τα;大気の透過率(海面から衛星まで)
ελah;高度hの大気層の分光放射率
Bλ(Tah);高度h(温度T)での大気
層の分光放射発散度
τah;高度hから衛星までの大気の透
過率
この式の第1項は,海面からの放射の観測量を,
図3走査角と光路長
図2大気の分光透過特性
34 OCEAN AGE
測デよタを補正して物理量(温度,湿度等)を抽
us;走査効率
出するアルゴリズムを作成する。このため,打上
T;放射源の温度(K)
げ前,打上げ後に,検証実験が計画されている
ελ;放射率
(MOS−1システム概要の項参照)。
ち;光学系の透過率
2.3装置の性能指数
τo;大気の透過率
走査形赤外放射計の性能指数として広く用いら
れているものに,等価雑音温度差(NEΔT)があ
tf;フレームタイム(sec)
Ad;検知器面積(cm2)
る。このNEΔTは,その装置での識別可能限界
nd;検知器素子数
(S/N=1)となる放射源の温度差で,次式で表
この式で,第1の式は通常単素子形の装置に,
される。
第2の式は多素子形の装置に用いられる。
NEdT=4√(AdΔf)/ωD82・M−1(K)
3.動作概要
=(4
/ω√(Ω/tf)・(F
3.1観測の概念
/Do√(n血)・M当K)
M=J第τ0τoDて普)dλ
を瞬時視野約2700m,観測幅約1500knを約7.3
VTIRは可視域を瞬時視野約900m,赤外域
rpsで走査する。図4は地球観測の概念図を示す。
ここにD*;検知器の比検出率(。m.H玖両
3.2構成・構造
ω;瞬時視野(str)
VTIRは走査放射計/放射冷却部,信号処理/
Do;光学系の有効径(cm)
電源部より構成されている。写真1,2は外観を
F;光学系のF値
示す。
df;装置の帯域幅(I立)
本VTIRの主要構成品である走査放射計/放
Ω;装置の全視野(str)
射冷却部の内部構造の概要を図5に示す。
図4地球観測概念図
NOVEMBERl983 35
写真1走査放射計/放射冷却部(EM)
写真2信号処理/電源部(EM)
赤外線検知器は放射冷却器に取りつけられてお
り,約1000Kに冷却される。この放射冷却器は2
段構成となっている。
走査鏡が地球方向に向いているときは,地面(海
面)を走査観測し,反対方向に向いているときは,
基準黒体を見ることになり,この時間に装置の校
正を行う。(図6)
3.3 VTIRの系統
本装置の光学系統及び信号系統を図7に示す。
地表(海面)からの放射は,走査鏡,集光鏡を
経て,ダイクロイックビームスプリッタにより,
可視光(波長0.5∼0.7μm)と赤外光(波長6∼
図5走査放射計/放射冷却部
12.5μm)に分離し,更に赤外3バンドはダイク
選別して,検知器にいたり,光電変換され,所定
ロイックミラー,ハーフミラーでビームを分ける
のレベルまで増幅後,A/D変換され,図9のフォ
とともに,それぞれ分光フィルタで所定波長域を
トマットに編集し,出力される。
図6複号映像信号
36 OCEAN AGE
図7VTIR系統図
4.性 能
表1 VTIR性能
4.1 主要性能
項
VTIRの主要性能を表1に示す。
4.2 各部主要性能
(1)走査放射計/放射冷却部
・光学系方式∴Richey−Chretien方式
・焦点距離:133.3mm(公称値)
・有効口径:100mm以上
・検知器:可視Si−PIN Diode(0.133
mm口)
赤外HgCdTe PC Detector
(0.4mm口)
目
可視
性
能
バンド1
0.5∼ 0.7 μm
バン ド2
6.0∼ 7.0 μm
観測波長域
赤外 バンド3
10.5 ∼ 1 1.5 μm
バンド4 1 1.5 ∼ 1 2.5 μm
可視
1 m rad
瞬時 視野
赤外
3 m rad
視野角
−6 5 °
∼ +3 8 0 以上
感 度
l 可視
y N 5 5 d b 以上
赤外
N E ΔT 0.5 ℃ 以下
量子化 レベ ル
8 ビ ッド(2 5 6 )
撮像周期
約 1 / 7.3 秒
基準異体温度測定晴度
± 0. 2 K
重
量
約 30 kg
消曽雷ナ1
約 45 W
備
考
地表
900 m
地表
2700 m
地 表観測幅約 15 0 0 k m
アルベ ド8 0 %
3 0 0 K において
(77K∼105Kで動作)
・放射冷却器:77K∼105
Kに赤外検知器を冷却
(2)信号処理/電源部
信号処理部は走査放射計からの
可視及び赤外3バンドの信号(ア
ナログ)を処理し,デジタル信号
として,可視近赤外放射計(ME
SSR)側に送出する。データレイ
トは可視,熱赤外それぞれ0.8M
bpsである。(図9)
電源部は衛星より電力の供給を
受け,VTIR各部に必要な電圧
図8分光感度特性
NOVEMBERl983 37
に変換し供給する。
図9データフォトマット
5.開発試験の概要
VTIRの開発試験では図10に
示す試験項目について実施し,P
M,FMの設計製作に必要な多く
のデータを習得することができた。
6.むすび
われわれは,MOS−1衛星に
搭載するVTIRの開発に昭和53
年に着手し,BBMの開発の段階
を経て,現在はEMの製作,評価
試験を終えて,PM段階になって
いる。この試験を通じて,有用な
デよタを取得することができた。
現在,これをもとにしてPMの試
験,FMの設計,製作を行ってい
る。この間,絶大な御指導を頂い
た宇宙開発事業団の関係各位に深
甚の感謝を致します。
図10開発試験項目と順序
38 0CEAN AGE
特許願(気象衛星)
整理番号93−00756頁−1−
【書類名】特許願
【整理番号】9300756
【提出日】平成5年3月31日
【あて先】特許庁長官殿
【国際特許分類】B64G1/10
【発明の名称】惑星面観測装置
【請求項の数】8
【発明者】
【住所又は居所】神奈川県川崎市中原区上小田中1015番地富士通
株式会社内
【氏名】大仲末雄
【特許出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
【代表者】関澤義
【代理人】
【識別番号】100092152
【弁理士】
【氏名又は名称】服部毅巌
【電話番号】0426−45−6644
【手数料の表示】
【納付方法】予納
【予納台帳番号】009874
【納付金額】14000
【提出物件の目録】
【物件名】明細書1
【物件名】図面1
【物件名】要約書1
【包括委任状番号】9207694
|整理番号93−00756 頁 −2−
【書類名】 明細書
【発明の名称】 惑星面観測装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】 惑星(1)の赤道上空に静止、または惑星(1)周辺の軌道
を周回してスピン回転する衛星(2)に搭載された惑星面観測装置において、
入射する光画像信号を電気信号に変換する、結像部を含んだ光電変換手段(3
)と、
衛星(2)のスピン回転軸と同一線上に回転軸を有し、惑星(1)面からの入
射光を反射して前記光電変換手段(3)へ導く光案内手段(4)と、
前記光案内手段(4)を、前記光案内手段(4)の回転軸を中心に前記衛星(
2)のスピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段(5)と、
を有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項2】 前記回転駆動手段(5)は、前記光案内手段(4)の前記反
対方向への回転を、前記光案内手段(4)を経由して前記光電変換手段(3)に
前記惑星(1)から光が入射したときに行うように構成されることを特徴とする
請求項1記載の惑星面観測装置。
【請求項3】 惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された
惑星面観測装置において、
入射する光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、
衛星のスピン回転軸上に位置して前記衛星と一体に回転し、人射した光を反射
して前記光電変換手段へ導く第1の光案内手段と、
前記衛星のスピン回転軸から所定距離だけ離れた前記衛星の所定位置に前記ス
ピン回転軸と平行な回転軸を有し、惑星面からの入射光を反射して前記第1の光
案内手段へ導く第2の光案内手段と、
前記第2の光案内手段を、前記第2の光案内手段の回転軸を中心に前記衛星の
スピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段と、
を有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項4】 前記第2の光案内手段は、両面反射が可能な鏡から構成され
ることを特徴とする請求項3記載の惑星面観測装置。
整理番号93−00756 頁 −3−
【請求項5】 前記回転駆動手段は、前記第2の光案内手段の前記反対方向
への回転を、前記光第2の案内手段に前記惑星から光が入射したときに行うよう
に構成されることを特徴とする請求項3記載の惑星面観測装置。
【請求項6】 惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された
惑星面観測装置において、
入射する光信号を電気信号に変換する光電変換手段と、
衛星のスピン回転軸から所定距離だけ離れた前記衛星の所定位置に位置して前
記衛星と一体に回転し、入射した光を反射して前記光電変換手段へ導く第1の光
案内手段と、
前記衛星のスピン回転軸と同一線上に回転軸を有し、惑星面からの入射光を反
射して前記第1の光案内手段へ導く第2の光案内手段と、
前記第2の光案内手段を、前記第2の光案内手段の回転軸を中心に前記衛星の
スピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段と、
を有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項7】 前記第2の光案内手段は、両面反射が可能な鏡から構成され
ることを特徴とする請求項6記載の惑星面観測装置。
【請求項8】 前記回転駆動手段は、前記第2の光案内手段の前記反対方向
への回転を、前記光第2の案内手段に前記惑星から光が入射したときに行うよう
に構成されることを特徴とする請求項6記載の惑星面観測装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された惑星面
観測装置に関し、特に衛星のスピン回転を利用して惑星面を走査する惑星面観測
装置に関する。
【0002】
地球の気象観測等を目的に地球表面の撮影を行う人工衛星は、通常、赤道上空
36,000kmの軌道に静止されて、そこから撮影した画像を約25分に1枚
ずつ地上に送信している。
整理番号93−00756 頁 −4−
【0003】
【従来の技術】
図7は従来の静止気象衛星の概略構造を示す図である。すなわち、衛星101
は、光学集光系、光電変換装置等からなる観測機器102や、入射口101aを
通して地球から入射した光を反射する走査鏡103等を有している。観測機器1
02内の光電変換装置は単素子またはリニアアレイ状に並べられた複数の素子か
ら構成されて、後述の方法により.走査鏡103が走査動作を行なうことにより、
この光電変換装置に地球表面の各部からの光が入力する。観測機器102では、
結像部を含んだ光電変換装置に入力された信号を走査鏡103の走査動作に合わ
せて2次元信号として地上に送信する。
【0004】
走査鏡103を走査動作させるには、軸103aまたは軸103bを中心にし
て走査鏡103を回転または振動(往復運動)させて東西方向に走査する方式で
は、この東西方向の1回の走査終了毎に、軸103Cを中心にして走査鏡103
を僅か回転させて、南北方向に走査する。ただし、ここで、軸103aが地球の
南北方向を向いているものとする。以下の説明でも、これを前提にして説明する
。
【0005】
なお、静止衛星でなく低軌道衛星の場合、軸103Cを中心にした走査鏡10
3の回転は行わず、衛星の進行方向を、図の場合ならば南北方向にすることによ
り、南北方向の走査を行うこともあり、また、特定の地点を観測したりするため
に軸103Cの回転角度を指定制御することもある。さらに、上記走査において
、軸103aと軸103Cとを入れ替えた状態で走査することもある。
【0006】
このように、走査鏡103を地球表面に対して2次元走査するペく操作制御す
ることにより地球画像を得ている。
一方、以上の所謂3軸安定型衛星に比し、姿勢精度や姿勢安定度が良いことか
ら、スピン安定型衛星が静止気象衛星として用いられることが多い。スピン衛星
は、1分間に100回転位のスピン回転をするようになっている。 こうしたスピ
整理番号93−00756 頁 −5−
ン衛星の場合は、上記の軸103aまたは軸103bを中心にした走査鏡103
の回転または振動は行わず、代わりに観測機器および走査鏡を衛星のスピン軸上
に配置して衛星自体のスピン回転を利用して東西方向の走査を行うようにしてい
る。
【0007】
こうした走査をスピン走査と呼ぶ。ここで走査とは、地表の瞬時視野(IFO
V;instantenous field of view)から放射された光が観測機器に入射するが、
その入射の次には隣接の瞬時視野からの放射光が入射するようにして、目的とす
る視野(FOV;field of view)を全部嘗め尽くすことをいう。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のようなスピン走査では、走査鏡の東西方向の走査速度は、衛星
のスピン回転速度と同じであるから、衛星が1回転する間に視野を走査する時間
比率は僅かである。例えば、静止衛星の場合、地球の視野は約20度であるから
、走査効率は約1/18(=20/360)である。この走査効率とは、衛星が
1回スピンするに要する時間に対する、その間に行われる視野走査の時間の比率
である。
【0009】
観測装置が地球画像をより鮮明に得るためには、この走査効率を高めることが
有効な対策となる。
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、走査効率を高めた惑星面
観測装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
図1は、上記目的を達成するために提案された本発明の原理を説明する図であ
る。図中、惑星1の赤道上空に静止、または惑星1の周辺の軌道を周回してスピ
ン回転する衛星2に搭載された本発明の惑星面観測装置は、入射する光画像信号
を電気信号に変換する、浩像部を含んだ光電変換手段3と、衛星2のスピン回転
軸と同一線上に回転軸を有し、惑星1の表面からの入射光を反射して光電変換手
整理番号93−00756 頁 −6−
段3へ導く光案内手段4と、光案内手段4を、光案内手段4の回転軸を中心に衛
星2のスピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段5とを備える。
【0011】
【作用】
以上の構成により、図1において、衛星2がスピン回転している問に、衛星2
に搭載された光案内手段4が、衛星2のスピン回転方向とは反対方向に相対的に
回転する。したがって、光案内手段4は、衛星2のスピン回転速度と自身の相対
的回転速度との差の回転速度で、スピン回転方向の走査を行うことになる。この
差の回転速度が、スピン回転速度よりも低くなるように設定することにより、視
野を走査する時間が長くなって走査効率が高くなり、したがって、惑星面の画像
をより鮮明に得ることが可能となる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
まず、図2は、スピン回転をする静止気象衛星の外観図である。衛星は、太陽
電池パネル11で覆われた本体部、Sバンドパラボラアンテナ12、UHFへリ
カルアンテナ13、USBオムニアンテナ14等から構成されるとともに、地球
からの光信号を入射するための入射ロ15を備えている。
【0013】
図3は、こうした静止気象衛星に搭載される本発明の第1の実施例装置の構成
を示す図である。すなわち、回転角速度ωでスピン回転する衛星本体20のスピ
ン回転軸20a上の位置に、光学集光系、光電変換装置等からなる観測機器21
を設置する。観測機器21の光学集光系の光軸がスピン回転軸20aと一致する
ように配置し、その光軸上に光電変換装置を配置する。光電変換装置は単素子ま
たはリニアアレイ状に並べられた複数の素子から構成される。なお、衛星本体2
0は、スピン回転軸20aが地球の南北方向を向くように姿勢制御され、また地
ま求に対し静止した位置に保持される。
【0014】
さらに、衛星本体20のスピン回転軸20aの上に走査鏡22を配置する。走
整理番号93−00756 頁 −7−
査鏡22は、衛星本体20の入射口20bから入射する光を反射して観測機器2
1へ導くためのものであり、スピン回転軸20aと同一線上に回転軸23aを有
する回転駆動装置23によって回転されるようになっている。回転駆動装置23
は衛星本体20に固定され、図示しない制御装置により駆動制御される。回転駆
動装置23の回転駆動力は連結支持棒24を介して走査鏡22に伝達される。な
お、図示を省略したが、走査鏡22は、連結支持棒24の先端部を軸にして、地
球からの入射光の光軸に平行な平面で回転(矢印22a方向)できるように構成
されており、これにより、走査鏡22は南北方向に回転可能であり、走査鏡22
を後述のように東西方向に走査する度に南北方向に僅か回転して南北方向の走査
が行われる。また、衛星本体20の入射ロ20bは東西方向に長い開口となるよ
うに構成される。
【0015】
つぎに、回転駆動姜置23による走査鏡22の回転駆動について説明する。回
転駆動装置23は、衛星本体20に対する相対的回転を、スピン回転と反対方向
に回転角速度ωMで行う。これにより、走査鏡22の絶対的回転速度、即ち走査
鏡22の東西方向の走査回転角速度は(ω−ωM)となる。すなわち、衛星本体
20が回転角速度ωでスピン回転しながら、走査(東西方向)だけは角速度(ω
−ωM)で行なっていることになり、走査効率が向上する。
【0016】
この場合の走査効率を算出してみる。まず、衛星の視野角度をθとしたときに
、1回のスピンの間に走査が行われ得る時間Tは、次式(1)で表される。
【0017】
【数1】
T=θ/(ω−ωM) ・・・(1)
一方、衛星本体20が1回のスピンを行うに要する時間Toは、次式(2)で表
される。
【0018】
【数2】
To=2π/ω ・・・(2)
整理番号93−00756頁−8−
したがって、T/Toである走査効率ηは、次式(3)のようになる。
【0019】
【数3】
η=(θ/2π)〔ω/(ω−ωM)〕 ‥・(3)
ここで、ωM=0、即ち走査鏡が衛星と一体に回転する従来装置の場合、の走査
効率をη。とすると、η。=θ/2πであるから、上記式(3)は次のようにな
る。
【0020】
【数4】
η=η。/〔1−(ωM/ω)〕 ・・・(4)
この式において、例えばη。=1/18(θ=0.349rad=20°),
ωM=(7/9)ωとすると、η=1/4となり、走査効率は従来の1/18よ
りも格段と高まることになる。
【0021】
なお、回転駆動装置23による上記反対方向への相対角速度ωMの回転は、衛
星本体20がスピン回転して、入射口20bの進行側の端が地球輪郭の一方に向
く直前から開始され、それによって東西方向の走査が行われる。そして、この東
西方向の走査が地球輪郭の他方に至ると、回転駆動装置23は今までと同じ方向
に高速回転して走査鏡22を一周させて所定回転位置まで回転させ、そこで次の
東西方向の走査開始に同期させるようにする。あるいは、東西方向の走査が地球
輪郭の他方に至ると、回転駆動装置23は反対方向、即ちスピン回転と同じ方向
に回転して(往復運動)、走査鏡22を所定回転位置まで回転させ、そこで次の
東西方向の走査開始に同期させるようにする。このようにして、衛星本体20が
回転角速度ωでスピン回転しながら、走査鏡22による東西方向の走査だけは角
速度(ωトωM)で行なうことができる。
【0022】
図4は、図2の静止気象衛星に搭載される本発明の第2の実施例装置の構成を
示す図である。すなわち、回転角速度ωでスピン回転する衛星本体30のスピン
回転軸30aの位置に、光学集光系、光電変換装置等からなる観測機器31を設
整理番号93−00756頁一9−
置する。観測機器31の光学集光系の光軸がスピン回転軸30aと一致するよう
に配置し、その光軸上に光電変換装置を配置する。光電変換装置は単素子または
リニアアレイ状に並べられた複数の素子から構成される。なお、衛星本体30は
、スピン回転軸30aが地球の南北方向を向くように姿勢制御され、また地球に
対し静止した位置に保持される。
【0023】
さらに、衛星本体30のスピン回転軸30aの上に、後述の第2の走査鏡33
から入射する光を反射して観測機器31へ導くための第1の走査鏡32を配置す
る。第1の走査鏡32は、図示を省略したが、地球からの入射光の光軸に平行な
平面上で回転(矢印32a方向)できるように構成されており、これにより、東
西方向に回転可能であり、第2の走査鏡33を後述のように東西方向に走査する
度に南北方向に僅か回転して南北方向の走査が行われる。なお、この第1の走査
鏡32はスピン回転軸30aを中心とした回転はできず、衛星本体30に固定さ
れた状態になっており、衛星本体30と一体にスピン回転をする。
【0024】
一方、第2の走査鏡33は、衛星本体30の入射口30bから入射する光を反
射して第1の走査鏡32へ導くための鏡であり、両面鏡となっている。この第2
の走査鏡33は、スピン回転軸30aに平行な回転軸33aを中心に、回転駆動
装置34によって回転される。回転軸33aはスピン回転軸30aから離れた位
置にあり、衛星本体30に固定されている。回転駆動装置34は衛星本体30に
固定され、図示しない制御装置により駆動制御される。なお、衛星本体30の入
射口30bは東西方向に長い開口となるように構成される。
【0025】
つぎに、回転駆動装置34による第2の走査鏡33の回転駆動について説明す
る。回転駆動装置34は衛星本体30に対する相対的回転を、スピン回転と反対
方向に回転角速度ωM/2で行う。この回転による第2の走査鏡33の位置姿勢
を図5を参照して説明する。
【0026】
図5は走査鏡33の回転と衛星本体30のスピン回転との関係を示す図であり
整理蕃号93−00756頁−10−
、図4の矢印35方向から見た図である。図中、例えば、回転位置(30A)に
おいて−10度方向のからの入射光が第2の走査鏡33で反射され、45度方向
に変換されて第1の走査鏡32へ入るとする。
【0027】
次に、衛星本体30がスピン回転角速度ωで回転して回転位置(30B)に行
くと、その間に第2の走査鏡33がスピン回転と反対方向に回転角速度ωM/2
で回転するから、第2の走査鏡33は破線33bで示した位置から実線33Cで
示した位置へ回転する。回転位置(30B)では、NADIR方向(地球の中心
方向)からの入射光が第2の走査鏡33で反射され、90度方向に変換されて第
1の走査鏡32へ入る。さらに、衛星本体30および第2の走査鏡33の同様の
回転により、回転位置(30C)に行くと、10度方向からの入射光が第2の走
査鏡33で反射され、135度方向に変換されて第1の走査鏡32へ入る。
【0028】
また、回転位置(30D)に行くと、−10度方向からの入射光が、第2の走
査鏡33の今までと反対側の面で反射されて第1の走査鏡32へ入る。同様にし
て、回転位置(30E)では0度方向のからの入射光が、回転位置(30F)で
は10度方向のからの入射光が第1の走査鏡32へ入る。
【0029】
以上のように第2の走査鏡33の両面を用いることにより、第2の実施例装置
の走査効率ηは2倍となる。この第2の実施例装置の走査効率ηを次式(5)で
示す。
【0030】
【数5】
η=2η。/〔1ト(ωM/ω)〕 ・・・(5)
このように、第2の実施例では、第1の実施例に比べ、走査効率ηが2倍にな
るが、それ以外に、電気信号に変換された画像に捩じれが生じないという特徴が
ある。すなわち、観測機器31の光電変換装置において、複数の光電変換素子を
走査方向に直角になるように配列して人力光信号を効率よく検出することを行な
った場合に、第1の実施例のような、スピン軸に対し傾斜した走査鏡22を回転
整理番号93−00756頁−11−
させて走査する装置で同様な複数素子による検出を行なった場合では、配列され
た素子の端に行く程、入射画像が歪められて電気信号として出力されてしまうの
に対し、第2の実施例では、第2の走査鏡33がスピン軸に対し平行であるので
、入射画像が歪められることなく電気信号として出力される。
【0031】
なお、第2の実施例において、第1の走査鏡32の設置位置と第2の走査鏡3
3の設置位置とを入れ替えてもよい。すなわち、地球からの入射光を、スピン回
転軸上に位置してスピン回転と反対方向に回転する第2の走査鏡に導き、反射し
た光をスピン回転軸から謙れた位置に固定された第1の走査鏡に導き、そして、
同様にスピン回転軸から離れた位置に固定された観測機器に導くようにしてもよ
い。
【0032】
図6は各実施例装置において実現する走査時間の例を示す図である。(A)は
衛星本体がスピン回転を1回行う間の時間(周期)Toを示し、左から右へ時間
経過があるとする。また中央でNADIR方向に走査鏡が向くものとする。例え
ば衛星が1分間に100回転すると、時間Toは0.6秒である。
【0033】
(B)は、走査鏡が衛星と一体に回転する従来装置における衛星のスピン回転
1回当たりの走査時間Tを示す。通常、Toの約1/18である。これをT1(
=To/18)とする。
【0034】
(C)は、第1の実施例における衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tを
示す。例えば、ω光=(3/4)ωとすると、上記式(4)からη=4η。とな
るから、T=4T1である。
【0035】
(D)は、第2の実施例における衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tを
示す。例えば、ωM=(7/9)ωとすると、上記式(5)からη=9η。とな
るから、T=9T1である。図中の30A∼30Fで示す時点は図5の回転位置
(30A)∼(30F)に対応する。
整理番号93−00756頁−19−
【0036】
以上のように、第1の実施例、第2の実施例とも、衛星のスピン回転1回当た
りの走査時間Tが増大し、走査効率ηが向上する。
上記各実施例では、地球の静止軌道上の衛星に搭載された観測装置を説明した
が、本発明は地球に限定されるものではなく、他の惑星や月等の静止軌道上の衛
星に搭載された観測装置に対しても適用可能である。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように本発明では、衛星のスピン回転軸と同一線上に回転軸を有
し、惑星の表面からの入射光を反射して光電変換手段へ轟く光案内手段を、光案
内手段の回転軸を中心に衛星のスピン回転方向と反対方向へ回転させるようにす
る。これにより、走査効率が高くなり、したがって、惑星面の画像をより鮮明に
得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の原理説明図である。
【図2】
スピン静止気象衛星の外観図である。
【図3】
第1の実施例装置の構成を示す図である0
【図4】
第2の実施例装置の構成を示す図である。
【図5】
走査鏡と衛星本体との位置関係を示す図である。
【図6】
各実施例において実現する走査時間を示す図である0
【図7】
従来の静止気象衛星の構造図である。
【符号の説明】
整理番号93−00756頁−13−
1 惑星
2 衛星
3 光電変換手段
4 光案内手段
5 回転駆動手段
整理番号93−00756 頁 −14−
【書類名】 図面
【図1】
本発明の原理説明図
整理番号93−00756 頁 −15−
【図2】
スピン静止気象衛星の外観図
整理番号 93−000756 頁 −16−
【図3】
第1の実施例装置の構成図
整理番号93−00756 頁 −17−
【図4】
第2の実施例装置の構成図
整理番号93−00756 頁 −18−
【図5】
走査鏡と衛星本体との位置関係図
整理番号93−00756 頁 −19−
【図6】
各走査時間を示す図
整理番号93−00756頁−20−
【図7】
従来の静止気象衛星の構造図
整理番号93−00756貢−2」二
【書類名】 要約書
【要約】
【目的】 惑星の赤道上空に静止、または惑星周辺の軌道を周回してスピン回転
する衛星に搭載され、衛星のスピン回転を利用して惑星面を走査する惑星面観測
装置に関し、走査効率を高めることを目的とする。
【構成】 衛星2がスピン回転している問に、衛星2に搭載された光案内手段4
が、衛星2のスピン回転方向とは反対方向に相対的に回転する。したがって、光
案内手段4は、衛星2のスピン回転速度と自身の相対的回転速度との差の回転速
度で、スピン回転方向の走査を行うことになる。この差の回転速度が、スピン回
転速度よりも低くなるように設定することにより、視野を走査する時間が長くな
って走査効率が高くなり、したがって、惑星面の画像をより鮮明に得ることが可
能となる。
【選択図】 図1
広視野マイケルソンフーリエ分光装置-特開平 7-12648
【発明の名称】
【発明者】
【目的】
広視野マイケルソンフーリエ分光装置
【氏名】大仲 末雄
【氏名】大森 安宏
マイケルソン干渉計を利用した広視野マイケルソンフーリエ分光装置に関し、広視野化すると共に正
確な分光を可能とする。
入射光を分割するビームスプリッタ1と、このビームスプリッタに対して一定距離に固定した固定鏡
2と、一定速度で移動させる可動鏡3と、固定鏡2と可動鏡3とによる反射光を干渉させて干渉縞を
【構成】
形成する位置に配置したセンサ4と、瞬時視野 Δθ0 に対応する範囲のセンサ4の複数の素子5により
ブロックを形成し、このブロック内の各素子5に対する光路差が同一となる時刻の出力信号を、加算
部8に於いて加算するように補正部7により時間補正し、加算部8によるブロック対応の加算出力を
フーリエ変換処理する演算処理部6とを備えている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ビームスプリッタ(1)により入射光を分割し、それぞれ固定鏡(2)と可動鏡(3)とに入射し、前記固
定鏡(2)と前記可動鏡(3)との反射光を干渉させて干渉縞を形成し、該干渉縞を形成する位置にセンサ(4)を配置
したマイケルソンフーリエ分光装置に於いて、前記センサ(4)を複数の素子(5)を配列して構成し、所望の瞬時視野
に対応した範囲の複数の素子(5)によりブロックを形成し、該ブロック内の各素子(5)の出力信号に、該各素子(5)
の光軸に対する配置位置に応じた補正演算を行って、該ブロック内の各素子(5)の出力信号を加算し、該加算出力信号
をフーリエ変換する演算処理部(6)を設けたことを特徴とする広視野マイケルソンフーリエ分光装置。
【請求項2】 前記演算処理部(6)は、前記可動鏡(3)を一定速度で移動させた時の或る時刻t1 に於いて光路差xと
なる前記ブロック内の第1番目の素子の出力信号に、該第1番目の素子に順次隣接して配置された該ブロック内の第i番
目の素子に対する光路差が前記第1番目の素子に対する光路差xと同一となる時刻ti に於ける該第i番目の素子の出力
信号を加算して、該ブロックの出力信号とする構成を備えたことを特徴とする請求項1記載の広視野マイケルソンフーリ
エ分光装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイケルソン干渉計を利用し、且つ観測視野を拡大した広視野マイケルソンフーリエ分
光装置に関する。近年の大気のオゾンホール等の地球の大気観測システムに於けるリモートセンシング分野に於いては、
観測波長の高精度多バンド化とイメージデータの同時取得とを可能とする光学系の開発が行われている。特に、大気中の
ガスを分析する場合の観測機器は、広い観測波長帯域と、高波長分解能とが要求されることから、フーリエ(Fourier)
分光方式を適用する場合が多い。このフーリエ分光方式は、分散型分光方式に比較して、複数スペクトル要素の同時測光
が可能であり、又入射光量の利用率が高い等の利点がある。このフーリエ分光方式を適用する為の干渉計として、ビーム
スプリッタと固定鏡と可動鏡とを主要部としたマイケルソン(Michelson)型が多く使用されている。この干渉計を用い
たマイケルソンフーリエ分光装置により広範囲にわたるスペクトル観測を可能とする為に、広視野化を図ることが要望さ
れている。
【0002】
【従来の技術】図4は従来例の説明図であり、マイケルソンフーリエ分光装置の光学系を示すもので、21はビームスプ
リッタ、22は固定鏡、23は可動鏡、24はセンサ、25はアパーチャ、26は移動機構部、27はコリメータ鏡、2
8は集光鏡である。又可動鏡23の位置と対応させて、入射光が単一波長の場合のインタフェログラム(Interferogram)
を示す。
【0003】固定鏡22は、ビームスプリッタ21に対して距離L1の位置に固定され、可動鏡23は、移動機構部26
によって矢印方向に移動される。又入射光は、アパーチャ25を介してコリメータ鏡27に入射されて平行光線となり、
ビームスプリッタ21に入射されて、反射光と透過光とに分割され、反射光は固定鏡22に入射され、透過光は可動鏡2
3に入射される。そして、固定鏡22による反射光と、可動鏡23による反射光とはビームスプリッタ21に戻って干渉
する。この干渉光は集光鏡28を介してセンサ24に入射される。このセンサ24の出力信号I(x)は、図示を省略し
た演算処理部に於いてフーリエ変換される。
【0004】固定鏡22とビームスプリッタ21との間の距離L1と、可動鏡23とビームスプリッタ21との間の距離
L2とが等しい場合、固定鏡22による反射光の光路と可動鏡23による反射光の光路との差Dは、D=2(L2-L1)
=0となる。この場合は、入射光の波長に関係なく、両反射光はビームスプリッタ21に於いて同一位相となるから相加
される。従って、センサ24の出力信号I(x)は最大となる。この場合の可動鏡23の位置を0として示す。
【0005】又波長 λ の単色光の入射光の場合に、移動機構部26により可動鏡23を光路差D=0の位置からビームス
プリッタ21側へ λ/4又はビームスプリッタ21と反対側へ λ/4だけ移動させると、光路差Dは、D=2(L2-L1)
=λ/2となる。この場合は、両反射光はビームスプリッタ21に於いて逆位相となるから相殺される。従って、センサ2
4の出力信号I(x)は最小となる。
【0006】即ち、センサ24に入射される波長 λ の入射光の干渉光強度は、nを整数とすると、光路差Dがnλ の時に
最大となり、(n+0.5)λ の時に最小となる。従って、センサ24への入射光強度P(x)は、 P(x)=2P(λ)
〔1+cos(2πx/λ)〕 …(1)
と表すことができる。なお、P(λ)は波長 λ の入射光強度である。
【0007】この入射光強度P(x)に比例した出力信号I(x)が得られることになり、単一波長 λ の場合のインタフ
ェログラムは、可動鏡位置と対応して示すように、最大値と最小値とが周期的に繰り返す余弦波状のものとなる。又複数
の波長を含む入射光の場合は、可動鏡位置が0の場合に最大値となるが、可動鏡23を移動することにより、各波長の光
強度に対応した曲線となる。この場合の波長 λ を、λ=1/ν とすると、 I(x)=∫2P(ν)cos(2πνx)dν …
(2)
と表すことができる。なお、∫は0~∞の積分を示す。
【0008】又ビームスプリッタ21の反射率と透過率とを、全波長領域にわたって同一とすることは実際上困難であり、
その点を考慮して、P(ν)に関してB(ν)とおくと、(2)式は、 I(x)=∫B(ν)cos(2πνx)dν …(3)
と表すことができる。ここで、∫は-∞から+∞の積分を示す。従って、フーリエ変換の関係により、 B(ν)=∫I(x)
cos(2πνx)dx …(4)
と表すことができるから、センサ24の出力信号I(x)を用いてスペクトルB(ν)を得ることができる。即ち、マイケ
ルソンフーリエ分光装置は、入射光の干渉縞をフーリエ変換して、入射光のスペクトルを求めるものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前述のように、従来例のマイケルソンフーリエ分光装置は、単一素子からなるセンサ2
4を用いるものであり、視野は非常に狭いものであった。近年のリモートセンシングの分野に於いては、観測対象物の撮
像とスペクトル解析とを同時的に行う要望があり、その場合には、分光装置としては、撮像範囲に対応した広視野化が必
要となる。そこで、センサ24を複数の素子の一次元配列或いは二次元配列の構成とすることが考えられる。しかし、単
にセンサ24を複数の素子により構成したとしても、瞬時視野が狭く、所望の出力信号レベルを得ることが困難である。
又瞬時視野を広くする為に、所望の視野角に対応した複数の素子を並列的に接続すると、干渉縞の間隔が入射光のスペク
トルによって相違することから、正確な測定が不可能となる問題が生じる。本発明は、広視野化し且つ正確な分光処理を
可能とすることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の広視野マイケルソンフーリエ分光装置は、図1を参照して説明すると、ビームス
プリッタ1により入射光を分割し、それぞれ固定鏡2と可動鏡3とに入射し、固定鏡2と可動鏡3との反射光を干渉させ
て干渉縞を形成し、該干渉縞を形成する位置にセンサ4を配置したマイケルソンフーリエ分光装置に於いて、センサ4を
複数の素子5を配列して構成し、所望の瞬時視野に対応した範囲の複数の素子5によりブロックを形成し、該ブロック内
の各素子5の出力信号に、各素子の光軸に対する配置位置に応じた補正演算を行って、ブロック内の各素子の出力信号を
加算し、この加算出力信号をフーリエ変換する演算処理部6を設けたものである。なお、7は補正部、8は加算部、9は
集光系を示す。
【0011】又演算処理部6は、可動鏡3を一定速度で移動させた時の或る時刻t1 に於いて光路差xとなるブロック内
の第1番目の素子の出力信号に、この第1番目の素子に順次隣接して配置されたこのブロック内の第i番目の素子に対す
る光路差が第1番目の素子に対する光路差xと同一となる時刻ti に於けるこの第i番目の素子の出力信号を加算して、こ
のブロックの出力信号とする構成を備えることができる。
【0012】
【作用】複数の素子5を一次元配列或いは二次元配列としたセンサ4を用い、所望の瞬時視野 Δθ0 に対応する範囲の複数
の素子5によりブロックを形成する。このブロック内の各素子5の出力信号は、光軸に対して各素子5の配置位置が異な
るから、光軸上の光路差に対して各素子5の光路差は異なるものとなる。即ち、光軸上の光路差が零であっても、光軸か
ら離れた位置では、光軸に対して入射角や反射角がそれぞれ異なることになり、光路差が零ではなくなる。従って、ブロ
ック内の各素子5の出力信号を、光軸に対する配置位置に応じて補正部7により補正した後、加算部8に於いて加算して
ブロックの出力信号とする。即ち、瞬時視野 Δθ0 の出力信号が得られる。この出力信号をフーリエ変換することにより、
入射光の瞬時視野 Δθ0 内のスペクトルを求めることができる。
【0013】又可動鏡3を一定速度で移動させた場合、或る時刻t1 に於いて、ブロック内の第1番目の素子に対する光
路差xが、例えば、次の時刻には増加する場合、光軸から遠ざかる位置の第i番目(ブロック内の素子数をmとすると、
i=2~m)の素子の光路差と同一となる時刻は、時刻t1 より前の時刻ti に於いて生じることになる。そこで、時刻t
1
より前の時刻ti に於ける第i番目の素子の出力信号を第1番目の素子の出力信号に加算部8に於いて加算するように、
補正部7は、時刻ti に於ける第i番目の素子の出力信号を時刻t1 まで遅延させて補正する。又前述と反対に光路差xが
次の時刻には減少する場合、時刻t1 より後の時刻ti に於いて、第1番目の素子に対する光路差xと、第i番目の素子に
対する光路差とが等しくなる。そして、ブロック内の各素子5に対する光路差が同一となる時刻の出力信号を加算するこ
とにより、干渉縞の暗部間の間隔の変動が生じる場合でも、正確な出力信号を得ることができるから、広視野化すること
が可能となる。
【0014】
【実施例】図2は本発明の実施例の説明図であり、11はビームスプリッタ、12は固定鏡、13は可動鏡、14は入射
光の波長範囲に対応した検出特性を有するセンサ、15はセンサを構成する素子、16は演算処理部、17は前置増幅及
びサンプルホールド部、18は移動及び位置検出部、19は制御部であり、制御部19と演算処理部16とは、マイクロ
プロセッサ等により構成することもできる。
【0015】ビームスプリッタ11と固定鏡12と可動鏡13とからなるマイケルソン型の干渉計の構成は従来例と同様
であり、可動鏡13は移動及び位置検出部18によって例えば一定速度で移動され、その移動位置が検出されて、検出信
号は制御部19に加えられる。又センサ14は複数の素子15を一次元配列又は二次元配列した構成を有し、所望の瞬時
視野に対応する範囲の複数の素子を一つのブロックとするものである。
【0016】センサ14の各素子15の出力信号は、前置増幅及びサンプルホールド部17により増幅されてサンプルホ
ールドされ、演算処理部16に加えられ、各ブロック内の素子の出力信号は補正処理されて加算され、ブロック毎の出力
信号について、即ち、所望の瞬時視野対応の出力信号についてフーリエ変換され、スペクトル解析が行われる。この場合
の補正処理及び加算処理は、アナログ処理により行う構成とすることも可能である。又前置増幅及びサンプルホールド部
17によりサンプルホールドされた値をAD変換し、ディジタル的に補正処理及び加算処理する構成とすることもできる。
又各素子15の出力信号をメモリ等に一旦蓄積しておいて、メモリの読出時のアドレス制御により補正処理を行わせるこ
とも可能である。
【0017】図3は本発明の実施例の補正処理の説明図であり、センサ14を構成する複数の素子を3ブロックに分割し
た場合を模式的に示し、CP1 ~CP3 は補正部、AD1 ~AD3 は加算部である。先ず、光軸方向(θ=0)の光路差をD、
光軸に対する角度 θ=θ0 の光路差をx及び光軸に対して角度 θ=θ0 +Δθ(但し、Δθ≪θ0 )の光路差をx+Δxとすると、
Δx=〔D/cos(θ0 +Δθ)〕-〔D/cosθ0 〕
≒(Dsinθ0 /cos2 θ0 )Δθ …(5)
となる。又視野を θ0 (≪1)とし、波数分解能を Δν とすると、D≒1/Δν と表すことができる。
【0018】Δθ を瞬時視野とすると、即ち、1個の素子15による瞬時視野 Δθ は、干渉縞の暗部と暗部との間の1/2
以下に選定するのが適当であるから、最小波長 λmin に対して Δx≦λmin /2の関係とすることが必要となる。従って、(D
sinθ0 /cos2 θ0 )Δθ ≒(1/Δν)θ0 Δθ≦λmin /2 …(6)
となり、Δθ≦(λmin /2)Δν/θ0 とする必要があるから、瞬時視野 Δθ を余り大きくできないことが判る。
【0019】一方、光軸方向(θ=0)では、Δx=0となり、その場合に、 Δx’=D〔{1/cos(Δθ/2)}-1〕
≒DΔθ2 /8≦λmin /2 …(7)
と表すことができるから、 Δθ≦2(λmin Δν)1/2 …(8)
となり、光軸方向に於ける瞬時視野 Δθ は広くすることができる。即ち、複数素子15によりセンサ14を構成しただけ
では、光軸方向に於ける瞬時視野を広くできても、光軸から離れる方向の瞬時視野を広くできないものであった。
【0020】そこで、本発明は、次のような処理によって光軸から離れる方向の瞬時視野についても拡大できるようにし
たものである。即ち、所望の瞬時視野 Δθ0 の範囲に相当するセンサ14の例えば素子S0 ~S4 によりブロックを形成し、
他の素子についても同様にブロックを形成する。そして、各ブロック内の素子の出力信号を補正部CP1 ~CP3 により補
正し、加算部AD1 ~AD3 により加算して瞬時視野 Δθ0 対応の出力信号を得るものである。
【0021】例えば、時刻t0 に於いて、光軸方向の光路差Dに対して、光軸に対する角度 θ=θ0 のセンサ14の素子S0 、
即ち、ブロック内の光軸側の第1番目の素子S0 に対する光路差xは、前述のようにD/cosθ0 となり、その時刻t0 に
於ける光軸に対する角度 θ=θ0 +Δθ の素子S1 、即ち、ブロック内の光学側の第2番目の素子S1 に対する光路差はx+Δ
xとなる。可動鏡13の移動に従って、光軸方向の光路差Dが増加する方向に変化するものとすると、素子S1 に対する
光路差は、時刻t0 より前の時刻t0 -Δt1 に於いてxとなる。即ち、時刻t0 に於ける素子S0 に対する光路差xと、時
刻t0 -Δt1 に於ける素子S1 に対する光路差xとが等しくなる。
【0022】同様に、時刻t0 -Δt2 に於ける素子S2 に対する光路差と、時刻t0 -Δt3 に於ける素子S3 に対する光路
差と、時刻t0 -Δt4 に於ける素子S4 に対する光路差とは、それぞれ同一のxとなる。即ち、光路差が生じる原点Oを
中心とした半径xの円上に素子S0 ~S4 が存在する時刻に於けるそれぞれの出力信号は、同一光路差xによる出力信号で
あり、それらを加算するものであるが、その為に補正部CP1 ~CP3 に於いて時間補正を行うことになる。
【0023】即ち、補正部CP1 については、τ0 ~τ4 の遅延回路により構成することができ、τ0 =0とすると、τ1 =Δt1 ,
τ2 =Δt2 ,τ3 =Δt3 ,τ4 =Δt4 とすることになる。遅延回路としては、可動鏡13を一定速度で移動させることにより、
それぞれ遅延時間 τ0 ~τ4 を光軸に対する素子S0 ~S4 の配置位置に対応して固定的に設定することができる。
【0024】又光軸方向の光路差Dが時刻と共に減少する場合は、例えば、時刻t0 に於ける素子S0 に対する光路差xと
同一の光路差となる素子S1 ~S4 の時刻は、それぞれt0 +Δt1 ~t0 +Δt4 となり、補正部CP1 は、τ4 =0とすると、
τ3 =Δt4 +Δt3 ,τ2 =Δt4 +Δt2 ,τ1 =Δt4 +Δt1 ,τ0=Δt4 の関係の遅延回路により構成すれば良いことになる。
【0025】又一般化して示すと、ブロック内の素子をS0 ~Sm とし、それぞれ光軸に対して角度 θi0~θim とすると、瞬
時視野 Δθ0 は、Δθ0 =θim-θi0 となる。又前述のように可動鏡13が一定速度vで移動するものとし、t=t0 に於いて θ
=θi0 の素子に対する光路差がxとなり、t=t0 +Δtk に於いて θ=θik の素子に対する光路差が同様にxとなるものとす
ると、 x=vt0 /cosθi0=v(t0 +Δtk )/cosθik …(9)
t0 cosθik=(t0 +Δtk )cosθi0 …(10)
と表すことができる。
【0026】ここで、θik=θi0+kΔθ(但し、0≦k≦m)とおくと、 cos(θi0+kΔθ)/cosθi0 ≒1-(k2 /2)
Δθ2 -ktanθi0Δθ ≒1+(Δtk /t0 ) …(11)
となり、Δθ<1,θi0<1とすると、 Δtk /t0 ≒kθi0Δθ …(12)
の関係となる。
【0027】そこで、k=0からk=mまでのそれぞれに対応する時刻に於けるそれぞれの素子の出力信号を Δtk 遅延さ
せて加算する。即ち、時刻t0 に於ける θi0 に対応する素子の出力信号V(θi0(t0))、時刻t0 -Δt1 に於ける θi0+Δθ に
対応する素子の出力信号V(θi0+Δθ(t0 -Δt1))、時刻t0 -Δt2 に於ける θi0+2Δθ に対応する素子の出力信号V(θi0
+2Δθ(t0 -Δt2 ))、以下同様に、時刻t0 -Δtm に於ける θi0+mΔθ に対応する素子の出力信号V(θi0+mΔθ(t0 -Δ
tm ))について加算する。
【0028】従って、ブロック対応の出力信号Vは、 V=V(θi0(t0))+V(θi0+Δθ(t0 -Δt1))+・・・・ +V(θi0
+mΔθ(t0 -Δtm )) …(13)
となる。このブロック対応の出力信号Vが、例えば、図3に於ける加算部AD1~AD3 から出力され、それぞれの出力信
号Vについてフーリエ変換処理が行われ、スペクトル解析が行われる。
【0029】又前述の一般化して示す内容は、例えば、1ブロックを第1番目から第m番目の素子により構成した場合、
時刻t1 に於ける第1番目の素子に対する光路差xと同一の光路差となる第i番目の素子の時刻ti (i=2~m)に於け
るこの第i番目の素子の出力信号を第1番目の素子の出力信号に加算することを示すものである。
【0030】又センサ14の各素子15の出力信号を前置増幅及びサンプルホールド部17に於いてサンプルホールドし
た値を、図示を省略した演算処理部16内或いは外付けしたメモリに順次蓄積すると、サンプル時刻毎の各素子15の出
力信号が蓄積されることになるから、読出アドレスを制御することにより、図3の補正部CP1 ~CP3 のように、各ブロ
ック対応の各素子15の出力信号の時間補正を行うことが可能となる。
【0031】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、所望の瞬時視野 Δθ0 に対応する範囲のセンサ4の複数の素子5によりブ
ロックを構成し、ブロック内の各素子5の出力信号を演算処理部6の補正部7により補正し、加算部8により加算して、
ブロック毎の出力信号とするものであり、瞬時視野 Δθ0 を広くしても正確な出力信号が得られると共に、複数素子5の出
力信号を加算するから、信号レベルが大きくなり、S/N改善が可能となる利点がある。従って、観測対象の撮像と同時
に、広視野化により観測対象のスペクトル観測が可能となる。又演算処理部6に於ける演算処理は、複雑化するものでは
ないから、センサ4の素子5の数を多くし、且つブロック数を多くしても、マイクロプロセッサ等により演算処理部6の
機能を容易に実現することが可能である。
【出願人】
【出願日】
【代理人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
平成5年(1993)6月23日
【弁理士】
【氏名又は名称】柏谷 昭司 (外1名)
【公開番号】
特開平7-12648
【公開日】
平成7年(1995)1月17日
【出願番号】
特願平5-151707
惑星面観測装置-特開平 6-286700
【発明の名称】
惑星面観測装置
【発明者】
【氏名】大仲 末雄
【目的】
惑星の赤道上空に静止、または惑星周辺の軌道を周回してスピン回転する衛星に搭載され、衛星のス
ピン回転を利用して惑星面を走査する惑星面観測装置に関し、走査効率を高めることを目的とする。
衛星2がスピン回転している間に、衛星2に搭載された光案内手段4が、衛星2のスピン回転方向と
は反対方向に相対的に回転する。したがって、光案内手段4は、衛星2のスピン回転速度と自身の相
【構成】
対的回転速度との差の回転速度で、スピン回転方向の走査を行うことになる。この差の回転速度が、
スピン回転速度よりも低くなるように設定することにより、視野を走査する時間が長くなって走査効
率が高くなり、したがって、惑星面の画像をより鮮明に得ることが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 惑星(1)の赤道上空に静止、または惑星(1)周辺の軌道を周回してスピン回転する衛星(2)に搭載さ
れた惑星面観測装置において、入射する光画像信号を電気信号に変換する、結像部を含んだ光電変換手段(3)と、衛星
(2)のスピン回転軸と同一線上に回転軸を有し、惑星(1)面からの入射光を反射して前記光電変換手段(3)へ導く
光案内手段(4)と、前記光案内手段(4)を、前記光案内手段(4)の回転軸を中心に前記衛星(2)のスピン回転方
向と反対方向へ回転させる回転駆動手段(5)と、を有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項2】 前記回転駆動手段(5)は、前記光案内手段(4)の前記反対方向への回転を、前記光案内手段(4)を経
由して前記光電変換手段(3)に前記惑星(1)から光が入射したときに行うように構成されることを特徴とする請求項
1記載の惑星面観測装置。
【請求項3】 惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された惑星面観測装置において、入射する光信号を電
気信号に変換する光電変換手段と、衛星のスピン回転軸上に位置して前記衛星と一体に回転し、入射した光を反射して前
記光電変換手段へ導く第1の光案内手段と、前記衛星のスピン回転軸から所定距離だけ離れた前記衛星の所定位置に前記
スピン回転軸と平行な回転軸を有し、惑星面からの入射光を反射して前記第1の光案内手段へ導く第2の光案内手段と、
前記第2の光案内手段を、前記第2の光案内手段の回転軸を中心に前記衛星のスピン回転方向と反対方向へ回転させる回
転駆動手段と、を有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項4】 前記第2の光案内手段は、両面反射が可能な鏡から構成されることを特徴とする請求項3記載の惑星面観測
装置。
【請求項5】 前記回転駆動手段は、前記第2の光案内手段の前記反対方向への回転を、前記光第2の案内手段に前記惑星
から光が入射したときに行うように構成されることを特徴とする請求項3記載の惑星面観測装置。
【請求項6】 惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された惑星面観測装置において、入射する光信号を電
気信号に変換する光電変換手段と、衛星のスピン回転軸から所定距離だけ離れた前記衛星の所定位置に位置して前記衛星
と一体に回転し、入射した光を反射して前記光電変換手段へ導く第1の光案内手段と、前記衛星のスピン回転軸と同一線
上に回転軸を有し、惑星面からの入射光を反射して前記第1の光案内手段へ導く第2の光案内手段と、前記第2の光案内
手段を、前記第2の光案内手段の回転軸を中心に前記衛星のスピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段と、を
有することを特徴とする惑星面観測装置。
【請求項7】 前記第2の光案内手段は、両面反射が可能な鏡から構成されることを特徴とする請求項6記載の惑星面観測
装置。
【請求項8】 前記回転駆動手段は、前記第2の光案内手段の前記反対方向への回転を、前記光第2の案内手段に前記惑星
から光が入射したときに行うように構成されることを特徴とする請求項6記載の惑星面観測装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、惑星の赤道上空に静止してスピン回転する衛星に搭載された惑星面観測装置に関し、特
に衛星のスピン回転を利用して惑星面を走査する惑星面観測装置に関する。
【0002】地球の気象観測等を目的に地球表面の撮影を行う人工衛星は、通常、赤道上空36,000kmの軌道に静
止されて、そこから撮影した画像を約25分に1枚ずつ地上に送信している。
【0003】
【従来の技術】図7は従来の静止気象衛星の概略構造を示す図である。すなわち、衛星101は、光学集光系、光電変換
装置等からなる観測機器102や、入射口101aを通して地球から入射した光を反射する走査鏡103等を有している。
観測機器102内の光電変換装置は単素子またはリニアアレイ状に並べられた複数の素子から構成されて、後述の方法に
より走査鏡103が走査動作を行なうことにより、この光電変換装置に地球表面の各部からの光が入力する。観測機器1
02では、結像部を含んだ光電変換装置に入力された信号を走査鏡103の走査動作に合わせて2次元信号として地上に
送信する。
【0004】走査鏡103を走査動作させるには、軸103aまたは軸103bを中心にして走査鏡103を回転または
振動(往復運動)させて東西方向に走査する方式では、この東西方向の1回の走査終了毎に、軸103cを中心にして走
査鏡103を僅か回転させて、南北方向に走査する。ただし、ここで、軸103aが地球の南北方向を向いているものと
する。以下の説明でも、これを前提にして説明する。
【0005】なお、静止衛星でなく低軌道衛星の場合、軸103cを中心にした走査鏡103の回転は行わず、衛星の進
行方向を、図の場合ならば南北方向にすることにより、南北方向の走査を行うこともあり、また、特定の地点を観測した
りするために軸103cの回転角度を指定制御することもある。さらに、上記走査において、軸103aと軸103cと
を入れ替えた状態で走査することもある。
【0006】このように、走査鏡103を地球表面に対して2次元走査するべく操作制御することにより地球画像を得て
いる。一方、以上の所謂3軸安定型衛星に比し、姿勢精度や姿勢安定度が良いことから、スピン安定型衛星が静止気象衛
星として用いられることが多い。スピン衛星は、1分間に100回転位のスピン回転をするようになっている。こうした
スピン衛星の場合は、上記の軸103aまたは軸103bを中心にした走査鏡103の回転または振動は行わず、代わり
に観測機器および走査鏡を衛星のスピン軸上に配置して衛星自体のスピン回転を利用して東西方向の走査を行うようにし
ている。
【0007】こうした走査をスピン走査と呼ぶ。ここで走査とは、地表の瞬時視野(IFOV;instantenous field of view)
から放射された光が観測機器に入射するが、その入射の次には隣接の瞬時視野からの放射光が入射するようにして、目的
とする視野(FOV;field of view )を全部嘗め尽くすことをいう。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のようなスピン走査では、走査鏡の東西方向の走査速度は、衛星のスピン
回転速度と同じであるから、衛星が1回転する間に視野を走査する時間比率は僅かである。例えば、静止衛星の場合、地
球の視野は約20度であるから、走査効率は約1/18(=20/360)である。この走査効率とは、衛星が1回スピ
ンするに要する時間に対する、その間に行われる視野走査の時間の比率である。
【0009】観測装置が地球画像をより鮮明に得るためには、この走査効率を高めることが有効な対策となる。本発明は
このような点に鑑みてなされたものであり、走査効率を高めた惑星面観測装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】図1は、上記目的を達成するために提案された本発明の原理を説明する図である。図中、
惑星1の赤道上空に静止、または惑星1の周辺の軌道を周回してスピン回転する衛星2に搭載された本発明の惑星面観測
装置は、入射する光画像信号を電気信号に変換する、結像部を含んだ光電変換手段3と、衛星2のスピン回転軸と同一線
上に回転軸を有し、惑星1の表面からの入射光を反射して光電変換手段3へ導く光案内手段4と、光案内手段4を、光案
内手段4の回転軸を中心に衛星2のスピン回転方向と反対方向へ回転させる回転駆動手段5とを備える。
【0011】
【作用】以上の構成により、図1において、衛星2がスピン回転している間に、衛星2に搭載された光案内手段4が、衛
星2のスピン回転方向とは反対方向に相対的に回転する。したがって、光案内手段4は、衛星2のスピン回転速度と自身
の相対的回転速度との差の回転速度で、スピン回転方向の走査を行うことになる。この差の回転速度が、スピン回転速度
よりも低くなるように設定することにより、視野を走査する時間が長くなって走査効率が高くなり、したがって、惑星面
の画像をより鮮明に得ることが可能となる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、図2は、スピン回転をする静止気象衛星の外観図で
ある。衛星は、太陽電池パネル11で覆われた本体部、Sバンドパラボラアンテナ12、UHFヘリカルアンテナ13、
USBオムニアンテナ14等から構成されるとともに、地球からの光信号を入射するための入射口15を備えている。
【0013】図3は、こうした静止気象衛星に搭載される本発明の第1の実施例装置の構成を示す図である。すなわち、
回転角速度 ω でスピン回転する衛星本体20のスピン回転軸20a上の位置に、光学集光系、光電変換装置等からなる観
測機器21を設置する。観測機器21の光学集光系の光軸がスピン回転軸20aと一致するように配置し、その光軸上に
光電変換装置を配置する。光電変換装置は単素子またはリニアアレイ状に並べられた複数の素子から構成される。なお、
衛星本体20は、スピン回転軸20aが地球の南北方向を向くように姿勢制御され、また地球に対し静止した位置に保持
される。
【0014】さらに、衛星本体20のスピン回転軸20aの上に走査鏡22を配置する。走査鏡22は、衛星本体20の
入射口20bから入射する光を反射して観測機器21へ導くためのものであり、スピン回転軸20aと同一線上に回転軸
23aを有する回転駆動装置23によって回転されるようになっている。回転駆動装置23は衛星本体20に固定され、
図示しない制御装置により駆動制御される。回転駆動装置23の回転駆動力は連結支持棒24を介して走査鏡22に伝達
される。なお、図示を省略したが、走査鏡22は、連結支持棒24の先端部を軸にして、地球からの入射光の光軸に平行
な平面で回転(矢印22a方向)できるように構成されており、これにより、走査鏡22は南北方向に回転可能であり、
走査鏡22を後述のように東西方向に走査する度に南北方向に僅か回転して南北方向の走査が行われる。また、衛星本体
20の入射口20bは東西方向に長い開口となるように構成される。
【0015】つぎに、回転駆動装置23による走査鏡22の回転駆動について説明する。回転駆動装置23は、衛星本体
20に対する相対的回転を、スピン回転と反対方向に回転角速度 ωM で行う。これにより、走査鏡22の絶対的回転速度、
即ち走査鏡22の東西方向の走査回転角速度は(ω-ωM )となる。すなわち、衛星本体20が回転角速度 ω でスピン回転
しながら、走査(東西方向)だけは角速度(ω-ωM )で行なっていることになり、走査効率が向上する。
【0016】この場合の走査効率を算出してみる。まず、衛星の視野角度を θ としたときに、1回のスピンの間に走査が
行われ得る時間Tは、次式(1)で表される。
【0017】
【数1】
T=θ/(ω-ωM ) ・・・(1)
一方、衛星本体20が1回のスピンを行うに要する時間Toは、次式(2)で表される。
【0018】
【数2】
To=2π/ω ・・・(2)
したがって、T/Toである走査効率 η は、次式(3)のようになる。
【0019】
【数3】
η=(θ/2π)〔ω/(ω-ωM )〕 ・・・(3)
ここで、ωM =0、即ち走査鏡が衛星と一体に回転する従来装置の場合、の走査効率を ηo とすると、ηo =θ/2π である
から、上記式(3)は次のようになる。
【0020】
【数4】
η=ηo /〔1-(ωM /ω)〕 ・・・(4)
この式において、例えば ηo =1/18(θ=0.349rad=20°),ωM =(7/9)ω とすると、η=1/4となり、
走査効率は従来の1/18よりも格段と高まることになる。
【0021】なお、回転駆動装置23による上記反対方向への相対角速度 ωM の回転は、衛星本体20がスピン回転して、
入射口20bの進行側の端が地球輪郭の一方に向く直前から開始され、それによって東西方向の走査が行われる。そして、
この東西方向の走査が地球輪郭の他方に至ると、回転駆動装置23は今までと同じ方向に高速回転して走査鏡22を一周
させて所定回転位置まで回転させ、そこで次の東西方向の走査開始に同期させるようにする。あるいは、東西方向の走査
が地球輪郭の他方に至ると、回転駆動装置23は反対方向、即ちスピン回転と同じ方向に回転して(往復運動)、走査鏡
22を所定回転位置まで回転させ、そこで次の東西方向の走査開始に同期させるようにする。このようにして、衛星本体
20が回転角速度 ω でスピン回転しながら、走査鏡22による東西方向の走査だけは角速度(ω-ωM )で行なうことがで
きる。
【0022】図4は、図2の静止気象衛星に搭載される本発明の第2の実施例装置の構成を示す図である。すなわち、回
転角速度 ω でスピン回転する衛星本体30のスピン回転軸30aの位置に、光学集光系、光電変換装置等からなる観測機
器31を設置する。観測機器31の光学集光系の光軸がスピン回転軸30aと一致するように配置し、その光軸上に光電
変換装置を配置する。光電変換装置は単素子またはリニアアレイ状に並べられた複数の素子から構成される。なお、衛星
本体30は、スピン回転軸30aが地球の南北方向を向くように姿勢制御され、また地球に対し静止した位置に保持され
る。
【0023】さらに、衛星本体30のスピン回転軸30aの上に、後述の第2の走査鏡33から入射する光を反射して観
測機器31へ導くための第1の走査鏡32を配置する。第1の走査鏡32は、図示を省略したが、地球からの入射光の光
軸に平行な平面上で回転(矢印32a方向)できるように構成されており、これにより、東西方向に回転可能であり、第
2の走査鏡33を後述のように東西方向に走査する度に南北方向に僅か回転して南北方向の走査が行われる。なお、この
第1の走査鏡32はスピン回転軸30aを中心とした回転はできず、衛星本体30に固定された状態になっており、衛星
本体30と一体にスピン回転をする。
【0024】一方、第2の走査鏡33は、衛星本体30の入射口30bから入射する光を反射して第1の走査鏡32へ導
くための鏡であり、両面鏡となっている。この第2の走査鏡33は、スピン回転軸30aに平行な回転軸33aを中心に、
回転駆動装置34によって回転される。回転軸33aはスピン回転軸30aから離れた位置にあり、衛星本体30に固定
されている。回転駆動装置34は衛星本体30に固定され、図示しない制御装置により駆動制御される。なお、衛星本体
30の入射口30bは東西方向に長い開口となるように構成される。
【0025】つぎに、回転駆動装置34による第2の走査鏡33の回転駆動について説明する。回転駆動装置34は衛星
本体30に対する相対的回転を、スピン回転と反対方向に回転角速度 ωM /2で行う。この回転による第2の走査鏡33
の位置姿勢を図5を参照して説明する。
【0026】図5は走査鏡33の回転と衛星本体30のスピン回転との関係を示す図であり、図4の矢印35方向から見
た図である。図中、例えば、回転位置(30A)において-10度方向のからの入射光が第2の走査鏡33で反射され、
45度方向に変換されて第1の走査鏡32へ入るとする。
【0027】次に、衛星本体30がスピン回転角速度 ω で回転して回転位置(30B)に行くと、その間に第2の走査鏡
33がスピン回転と反対方向に回転角速度 ωM /2で回転するから、第2の走査鏡33は破線33bで示した位置から実
線33cで示した位置へ回転する。回転位置(30B)では、NADIR方向(地球の中心方向)からの入射光が第2の
走査鏡33で反射され、90度方向に変換されて第1の走査鏡32へ入る。さらに、衛星本体30および第2の走査鏡3
3の同様の回転により、回転位置(30C)に行くと、10度方向からの入射光が第2の走査鏡33で反射され、135
度方向に変換されて第1の走査鏡32へ入る。
【0028】また、回転位置(30D)に行くと、-10度方向からの入射光が、第2の走査鏡33の今までと反対側の
面で反射されて第1の走査鏡32へ入る。同様にして、回転位置(30E)では0度方向のからの入射光が、回転位置(3
0F)では10度方向のからの入射光が第1の走査鏡32へ入る。
【0029】以上のように第2の走査鏡33の両面を用いることにより、第2の実施例装置の走査効率 η は2倍となる。
この第2の実施例装置の走査効率 η を次式(5)で示す。
【0030】
【数5】
η=2ηo /〔1-(ωM /ω)〕 ・・・(5)
このように、第2の実施例では、第1の実施例に比べ、走査効率 η が2倍になるが、それ以外に、電気信号に変換された
画像に捩じれが生じないという特徴がある。すなわち、観測機器31の光電変換装置において、複数の光電変換素子を走
査方向に直角になるように配列して入力光信号を効率よく検出することを行なった場合に、第1の実施例のような、スピ
ン軸に対し傾斜した走査鏡22を回転させて走査する装置で同様な複数素子による検出を行なった場合では、配列された
素子の端に行く程、入射画像が歪められて電気信号として出力されてしまうのに対し、第2の実施例では、第2の走査鏡
33がスピン軸に対し平行であるので、入射画像が歪められることなく電気信号として出力される。
【0031】なお、第2の実施例において、第1の走査鏡32の設置位置と第2の走査鏡33の設置位置とを入れ替えて
もよい。すなわち、地球からの入射光を、スピン回転軸上に位置してスピン回転と反対方向に回転する第2の走査鏡に導
き、反射した光をスピン回転軸から離れた位置に固定された第1の走査鏡に導き、そして、同様にスピン回転軸から離れ
た位置に固定された観測機器に導くようにしてもよい。
【0032】図6は各実施例装置において実現する走査時間の例を示す図である。(A)は衛星本体がスピン回転を1回
行う間の時間(周期)Toを示し、左から右へ時間経過があるとする。また中央でNADIR方向に走査鏡が向くものと
する。例えば衛星が1分間に100回転すると、時間Toは0.6秒である。
【0033】(B)は、走査鏡が衛星と一体に回転する従来装置における衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tを示
す。通常、Toの約1/18である。これをT1(=To/18)とする。
【0034】(C)は、第1の実施例における衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tを示す。例えば、ωM =(3/4)
ω とすると、上記式(4)から η=4ηo となるから、T=4T1である。
【0035】(D)は、第2の実施例における衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tを示す。例えば、ωM =(7/9)
ω とすると、上記式(5)から η=9ηo となるから、T=9T1である。図中の30A~30Fで示す時点は図5の回転
位置(30A)~(30F)に対応する。
【0036】以上のように、第1の実施例、第2の実施例とも、衛星のスピン回転1回当たりの走査時間Tが増大し、走
査効率 η が向上する。上記各実施例では、地球の静止軌道上の衛星に搭載された観測装置を説明したが、本発明は地球に
限定されるものではなく、他の惑星や月等の静止軌道上の衛星に搭載された観測装置に対しても適用可能である。
【0037】
【発明の効果】以上説明したように本発明では、衛星のスピン回転軸と同一線上に回転軸を有し、惑星の表面からの入射
光を反射して光電変換手段へ導く光案内手段を、光案内手段の回転軸を中心に衛星のスピン回転方向と反対方向へ回転さ
せるようにする。これにより、走査効率が高くなり、したがって、惑星面の画像をより鮮明に得ることが可能となる。
【出願人】
【出願日】
【代理人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
平成5年(1993)3月31日
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 毅巖
【公開番号】
特開平6-286700
【公開日】
平成6年(1994)10月11日
【出願番号】
特願平5-72714
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