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レセプションを プライマリーで伸ばす

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レセプションを プライマリーで伸ばす
Coaching & Playing Volleyball 76 号 (2011 年 9/10 月号 )
Sports Vision
レセプションを
プライマリーで伸ばす
液晶シャッターゴーグル「プライマリー」を使用
したトレーニングが注目されている。パラパラ漫画
のように断続的に視覚を遮断して、あえて見にくい
状態でトレーニングするという逆転の発想によるト
レーニング法である。野球ではすでにプロ野球、社
会人、大学野球で導入され、実績をあげている。プ
ライマリーを使用したレセプションのトレーニング
実験でも効果が確認されている。プライマリーを使
用した視覚負荷トレーニングの原理、バレーボール
での使用法、期待される効果などを紹介する。
石垣 尚男 (いしがき ひさお) 氏
愛知工業大学教授
東京教育大学(現・筑波大学)でバレーボール部に所属。
現在、愛知工業大学バレーボール部監督、スポーツビ
ジョン研究会監事、医学博士
は、液晶シャッターを使用している。
掛けてトレーニングに利用するもの
プライマリーとは
スクリーンから観客に向けて、映像
である。暗いところで連続的にスト
バレーボールにおけるレセプショ
と同期させた周波数の信号が出てい
ロボをたくと、動作がパラパラ漫画
ン( サ ー ブ レ シ ー ブ ) の 重 要 性 は、
る。 そ れ を メ ガ ネ が 受 信 し、 左 右
のように、断続的に見えた経験があ
あらためていうまでもない。レセプ
の液晶シャッターを、交互に高速で
ると思う。プライマリーは、ストロ
ション練習において、液晶シャッタ
On・Off させることにより、左右の
ボをたかなくても、このような状態
ーゴーグル「プライマリー」は、効
目には異なる映像が映り、これをも
を作りだすことができように、スポ
果的なツールである(写真 1)
。 とに、脳が立体像をつくる原理を利
ーツビジョンのトレーニングツール
液晶シャッターゴーグルといって
用している。
として、開発されたものである。
も、なかなかイメージがつかめない
「プライマリー」は、小型電池を電
写真 1 のようにコンパクトなため、
かもしれない。身近なものでは、3D
源として、液晶を On・Off させるこ
レセプションをはじめ、スパイクな
映画がある。3D 映画で掛けるメガネ
とで断続的に視覚を遮断し、これを
どのバレーボール練習の中で、使用
することができる。点滅は 1Hz(ヘ
ル ツ:1 秒 間 に 1 回 の 点 滅 ) か ら
200Hz まで、1Hz ごとに自由に調整
でき、画面の明・暗も細かく設定で
きる。
視覚負荷トレーニング
例えば、レセプションでは、プラ
写真 1 プライマリー
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イマリーの設定を低い周波数にする
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と、飛来するボールが、断続的に細切
てレセプションできないことからも分
の協応動作のトレーニングなどを行っ
れに見える。あえて見にくい状態をつ
かるように、目からの情報がもとにな
た。いずれもゴーグルの使用で、ト
くることができる。サーブが選手に到
って、動作が行われている。しかし、
レーニング効果があがることを確認し
達するまでを 2 秒と仮定すると、周波
ほとんどはレセプション動作にだけ着
た。例えば、リフティングは、熟練し
数を 5Hz に設定すれば、この間がパ
目しており、目のことを考え、そこを
た大学サッカー選手には、伸びる余地
ラパラ漫画のように、10 のコマ切れ
トレーニングするという発想はない。
のない技術であるが、シャッターゴー
として見えることになる。あえて断続
なぜなら、選手がどのように見てい
グルのトレーニングにより、飛躍的に
的に視覚が遮断される見にくい中で、
るか、見えているかは、指導者にはわ
向上したのである(写真 2)
。
正確にレセプションすることで、レセ
からないからである。私たちは他人が
プションを向上させようというコンセ
見ている状態を、見ることはできない。
レセプションの効果
プトである。
そのため、レセプションについては、
A、B 評価の返球が増える
筋力トレーニングする場合には、筋
せいぜい「最後までボールを見ろ」と
バレーボールのレセプションを向上
力に負荷をかける。あえて視覚に負荷
か、
「視線を上下させるな」ぐらいし
させることができると考え、予備的
(見にくい状態)をつくることによっ
かなく、通り一遍の指導に終始してし
な実験を行った(視覚負荷トレーニ
て、パフォーマンスをアップさせるこ
まう。指導される選手にとってみれば、
ングの効果、J. of Training Science.
とから、私はプライマリーを使用した
「最後まで見ろ」、「上下させるな」と
vol.19、2007 年)。それまでは有線
トレーニングを「視覚負荷トレーニン
言われても、あくまでその選手の感覚
だったこともあり、限定的な実験しか
グ」と呼んでいる。
的なもので、指導者の指摘がどのよう
できなかったが、プライマリーが市販
一方、周波数を高くすることで、高
なものか、感覚的にはわからないので
されたことにより、M 大学の男子バ
速で動くものを止めて見ることができ
ある。
レーボールチームの協力(写真 3)の
る。例えば、ゴルフのインパクトの瞬
私は見ることに着目し、見ることを
もとで、プライマリーによるレセプシ
間は、通常では見ることはできないが、
トレーニングすることで、パフォー
ョンのトレーニング実験を行った(バ
プライマリーの周波数を調整すること
マンスを向上させることができないか
レーボールのレセプション成功率向上
により、インパクトの瞬間のボールと
と、今から 10 数年前から液晶シャッ
に向けた視覚トレーニング -プライ
クラブの当たり具合を静止で見ること
ターゴーグルを使った実験を行ってき
マリ-利用の効果測定- バレーボー
ができ、スライスやフックの原因がわ
た。これまで、小学生の野球のバッ
ル研究、vol.13、2011 年)
。
かる。さらにコーチがかけることで、
ティング、大学生サッカー選手のリフ
本誌は学術雑誌ではないので、詳細
アドバイスも可能である。バレーボー
ティング、基礎的な実験として目と手
ルにおいても、コーチがかければ、ス
パイカーの手の当たり具合を確認する
ことができる。
トレーニング効果の
科学的背景
呼吸するとき空気のことを考えない
ように、健常であれば見えることは当
たり前である。このためバレーボール
においても、どのように見えているか、
どのように見ればいいか、考えること
はほとんどない。しかし、目をつむっ
写真 2 リフティングのトレーニング風景
写真 3 レセプション風景
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な結果は記さないが、実験は周波数
集中力が付く
を 5Hz にして、週 3 回群、週 1 回群、
2 つ目は集中力である。すべての
非装着群の 3 群で、フロート系サー
過程が見えている場合、ボールのコ
ブの 1 か月間のトレーニングを行っ
ース、速度、回転、変化などさまざ
たものである。
まな情報が、無意識のうちに入って
週 6 日の通常練習のうち、3 群と
くる。しかし、10 の静止画からは、
も 15 本× 2 セットのレセプション
わずかの情報しか入らない。そのた
を行い、週 3 回群は 6 回の通常練習
め、わずかな情報から、一瞬のうち
のうち 3 回プライマリーを使用し、1
図 3 ボールの飛来イメージ
回群は 1 回使用した。
に足りないところを補完しなければ
ならない。つまり、「ここに来たボー
トレーニング効果の評価は、すべ
の飛来イメージである。通常の飛来
ルの次の位置はここ」を意識しなけ
てのレセプションを VTR に撮り、A、
過程は、すべて見えているので、ボ
れば、正確なプレーができない。
B、C、D、E の 5 段階評価で行った。
ールのコース、速度、回転、変化な
このため「集中して見る」ことが
その結果、装着群のレセプションは、
どを勘案しながら、自分なりの位置
必要になる。それまで無意識に、あ
トレーニング前に比べて、非装着群
で判断している。しかし、仮にサー
る意味、漫然と見ていたのを、強制
より効果があり、装着群では週 3 回
ブが 2 秒間で飛来するとして、周波
的に集中して見させるのが、プライ
群の方が高い効果を得ている。特に
数を 5Hz にすると、ボールはパッ、
マリーである。このため、トレーニ
A、B 評価の返球が増えているのが、
パッ・・と 10 の静止画として目に入
ングを継続することで、結果的によ
特徴である。同時にトレーニング前
ってくる。これはこれまで体験した
く見える、ボールが遅く感じる、は
後で視機能テストを行ったが、視覚
ことのない見え方なので、プライマ
っきり見えるなどの、感覚が生じる。
能力の変化では、周辺視野が週 3 回
リーでレセプションすると、最初は
コースがわかるようになったという
群でもっとも広くなった。
選手は戸惑う。
感想は、少ない情報からコースを読
アンケートから推測する効果
過程がすべて見えている場合、こ
み取ろうと繰り返した結果である。
アンケートではボールが見やすい、
こに来るという判断を、仮に B でし
「集中しろ!」は指導の定石であるが、
遅く感じる、はっきり見える、コー
ていた場合、断続的な見え方では B
実際に集中させることは難しい。し
スがわかるようになった、などの感
での判断では間に合わない。なぜな
かし、プライマリーは集中的に見ざ
覚的なもののほかに、フォームが良
ら判断が少しでも遅れれば、次に見
るを得ない状態をつくることによっ
くなった、待つことができるように
えたときには C に来ており、間に合
て、集中力を養うツールにもなって
なったなどの、技術的な効果、ボー
わないからである。このため、どう
いる。
ルの出だしを見るようになった見方
しても判断する位置を、A のように
の変化を述べるものもいた。表現は
早くせざるを得ない。結果的に初め
異なるが、多くの被験者が何らかの
の 1 歩が早くなり、それがレセプシ
レセプション以外の
使い方
効果を実感していた。
ョンの向上につながる。
現在、もっともプライマリーを使
「ボールの出だしを見るようになっ
用しているスポーツは、野球である。
効果がある理由
た」という回答は、より早い段階で
プロ野球選手をはじめ、大学、社会
判断が早くなる
見極めようとするものであり、結果
人チームなどで使用している。野球
ではなぜ効果があるのだろうか。2
的にアンケートにあるような「フォ
のバッティングは、バレーボールの
つの理由がある。1 つは判断を早めな
ームがよくなった」、「待つことがで
レセプション以上に難しい技術であ
ければならないので、1 歩目の出足が
きるようになった」という、動作に
る。バッティングアイ、選球眼、目
速くなることである。図 3 はボール
余裕が生まれることを示している。
を切るなどの言葉があることからわ
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かるように、見ることとバッティン
このほか、ブロックの配置を一瞬
少なくとも 2 ~ 3 か月は継続
グは、
密接に関係している。このため、
で見て、どこにトスをあげればいい
筋力トレーニング、持久力トレー
プライマリーを使用してバッティン
か判断しなければならない、セッタ
ニングなど、どのようなトレーニン
グに活かす選手が増えている。
ーの練習にも活用できる(図 5)。お
グであれ、トレーニングに即効性は
野球の場合にはフォアボールが増
そらく、アイデア次第では、さまざ
ない。プライマリーによるトレーニ
え、三振が減るなどの選球眼が良く
まな練習に活用できるだろう。しか
ングも同様である。今日やって明日
なることに効果が出ている。選手の
し、ディグやブロックでは使用でき
よくなる、1 週間でよくなるという
感想では、ボールが遅く感じる、は
ない。言うまでもなく顔面強打によ
ものではない。前述した実験では、
っきり見える、飛来コースがイメー
るケガの恐れがあるからである。
わずか 1 か月であったが、それでも
ジできるなどが多い。このように飛
効果の確認ができた。効果をより確
来するものにインパクトするスポー
効果的な設定と使用法
実なものにするためには、最低でも
ツであれば、トレーニング効果が期
周波数
2 か月、できれば 3 か月の継続が必
待 で き る。 ま だ 使 用 例 は 少 な い が、
周波数を上下させることで、難易
要である。この種のトレーニングを
テニス、卓球、バドミントンなどで
度を変えることができる。周波数を
ビジュアルトレーニングというが、
今後、使用が増えるものと思われる。
低くするほど、情報が少なくなるの
これまでの研究で、週 3 回の頻度で
バレーボールにおいては、スパイ
で、プレーは難しくなる。前述した
2 ~ 3 か月継続することで、効果が
ク練習で効果が期待できる。トスボ
ようにサーブレシーブ(フロート系)
最大になることがわかっている。ま
ールの飛来コースと高さから、イン
では、5Hz 程度がベストである。周
た、いったん獲得した能力は、トレ
パクト点を素早く判断することに役
波数を高くすると、通常の見え方に
ーニングを休止しても、少なくとも
立つ(図 4)
。
近くなるため、この程度がよい。ま
2 か月は保持される。
た明るさの設定(Duty)で難易度を
使用上の注意と目への影響
調整できるが、Duty は 30 程度がよ
視覚が断続的に遮断されることな
い。 プ ラ イ マ リ ー に 慣 れ る ま で は、
ど、過去に経験がないため、プライ
周波数を高くし(簡単)、慣れるにし
マリーを初めて掛けると、誰もが見
たがい周波数を低くし、難易度をあ
にくい、見えないという感想を持つ。
げるのがよいだろう。
中には目が疲れるとか、目がチカチ
トレーニング時間と頻度
カする、目が痛いなどの感想を持つ
プライマリーのトレーニングは、
ものもいる。その多くは慣れによっ
視覚に負荷がかかり、集中するので
て解消するが、どうしてもダメとい
長時間のトレーニングは必要ないし、
う人には強制しない方がよい。
かえって効果があがらない。せいぜ
チラチラすることから、視力へ影
い連続でも、15 分にとどめるべきで
響があるのではないかという心配を
ある。トレーニング時間を長くする
持つかもしれない。連続使用時間は
より、少しの時間でもいいので、頻
15 分以内、1 日の使用時間が合計 1
度を多くする方が効果的である。週
時間以内であれば、全く問題ない。
1 回よりも週 3 回の方が効果がある。
しかし、それを超えて、長時間連続
毎日と週 3 回の効果の違いは明確で
的に使用するのは避けた方が望まし
はないが、それほど大きな差はない
い。また、コンタクトレンズは問題
と考えられる。
ないが、メガネの上からは使用でき
図 4 トスボールの飛来イメージ
図 5 相手ブロックを一瞬見て、空きス
ペースにあげる練習イメージ
ない。
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