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13戦士

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13戦士
■食卓に吹く風(22)
-ホセ・ムヒカのことば-
■ウルグアイの
ホセ・ムヒカ
「私は貧乏ではなく、質素なのです」と人なつっこく微笑む老人の顔。世界で
もっとも貧しい大統領として有名になったウルグアイの前大統領ホセ・ムヒカの
言葉には、人の胸の奥深いところに届く力があります。
「貧乏な人とは、少ししか物を持たない人ではなく、無限の欲があり、いくら
あっても満足しない人のことです」
「人生はもらうことではなく、あげること。あ
なたがどんなにひどい状況でも、他人にあげられる何かが必ずあります」
政治家とは思えない、哲学者か求道者のような言葉に目を奪われました。
なぜ、彼が今世界的な有名人になり、その言葉が多くの人の共感を呼ぶのか。
それはたぶん、今の時代が求めているからなのだと思います。
2012 年にブラジルで開かれた「リオ+20」での、現代の市場経済と消費社会の問
題点を鋭くついた、警告ともいえる彼のスピーチが、ホセ・ムヒカを一躍国際的
出版社:メディアソフト
■ゲリラから大統領に
な舞台に押し上げました。
日本の約半分の面積の国土に 340 万人の人が暮らすウルグアイ東方共和国は、
広大なブラジル・アルゼンチンと国境を接する、大西洋に面した小さな国です。
「南
米のスイス」とも称され、牧畜が盛んで、農業と観光が主産業。経済は比較的豊
かで、識字率は 98%を超えます。そんな国の人、ホセ・ムヒカは稀有な人生を辿
って大統領になりました。
1950 年~70 年代、南米各地で次々と軍事政権が生まれたころ、若き日の彼はゲ
リラ戦士として 4 度も投獄され、最後は 1985 年まで 13 年もの獄中生活を強いら
れました、
独房での 7 年間は本もなく、後半は許された科学系の本をひたすら読み続けま
した。青年時代から、古典、古今の思想書などを読み漁った読書家でしたが、こ
の時期に蓄えた生物学・農学・医学、最終的にたどり着いた人類学などの科学知
識と、もともともっていた政治思想がかけ合わされ、ムヒカ独自の世界が形成さ
れました。
「人類とは何なのか?」を問い続けたムヒカは大統領になってからは権威主義
と権力を徹底的に嫌い、貧富の差をなくすことが彼の最大の政治目標でした。そ
のためにも教育に大きな力を注ぎました。外交面でも隣国との融和をはかり、ア
メリカとキューバの国交回復の調停役を裏で果たしたともいわれます。国際社会
でも彼の仕事は評価され、ノーベル平和賞に 2 度推薦されています。
■人類が進む道は?
彼の政策以上に革新的だったのは、ムヒカ自身のパーソナリティです。海外の
どんな重要な場でも決してネクタイを締めず、給料のほとんどを貧困者の住宅用
に寄附して農園でつつましく暮らします。
「貧乏な人とは・・・」という彼の言葉は、コントロール不能なほど残酷な
競争で成り立つ消費社会そのものも表しています。
「人類は幸せになるためにこの地球にやってきた」
「消費するためだけに貴重
な人生を費やしてはいけない」彼の言葉は人類への重い、重い投げかけです。
『ホセ・ムヒカの生き方と言葉』を読んで (石井広子)
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