...

こちら(PDF形式:128KB)

by user

on
Category: Documents
41

views

Report

Comments

Transcript

こちら(PDF形式:128KB)
一般演題A
A-1
遺伝性神経筋疾患シャルコー・マリー・トゥース病の遺伝子診断を
希望された患者のカウンセリングを通して
1)
2)
2)
3)
○ 渡 辺 裕 子 , 浅 野 あ り さ , 右 田 真 , 島 田 隆1 )
日 本 医 科 大 学 付 属 病 院 看 護 部 ・ 遺 伝 診 療 科 2) ,
日 本 医 科 大 学 付 属 病 院 遺 伝 診 療 科 ・ 小 児 科 3 ),
日本医科大学付属病院遺伝診療科・日本医科大学分子遺伝医学
シ ャ ル コ ー・マ リ ー・ト ゥ ― ス 病( 以 下 CMT)は 、最 も 頻 度 の 高 い 遺 伝 性 末 梢 神 経
疾患で、歩行障害などで発症し、緩徐に進行する四肢遠位筋の筋力低下及び萎縮を
主徴とする。発症年齢は乳児期から成人期まで様々であり、遺伝形式や病因遺伝子
によっていくつかのタイプに分類されているが、症状が進行するに従い活動が制限
され自らのライフスタイルの変更を余儀なくされることが多い。ヒトゲノム解析の
進歩により急速に病因遺伝子が解明されつつあるが、同一疾患の中に病因遺伝子が
多 数 存 在 し 、 本 邦 で は 浸 透 率 も 50% 前 後 と 余 り 高 く な い こ と か ら 遺 伝 子 診 断 の 解 釈
が難しい疾患の一つである。
今 回 、臨 床 所 見 か ら CMTを 疑 わ れ 、遺 伝 子 検 査 に て 確 定 診 断 を 希 望 す る 50歳 代 男 性 の
カ ウ ン セ リ ン グ を 経 験 し た 。 ク ラ イ ア ン ト は 30歳 代 後 半 で 歩 行 障 害 を 発 症 、 徐 々 に
症状が進行し上下肢の遠位筋優位の筋力低下・筋萎縮・深部知覚低下、末梢神経伝
導速度の低下が見られ、現在補助具を装着し杖歩行している。家系内では母方の祖
父に歩行障害があったとのことだが、その他に発症された方はいない。
初 回 カ ウ ン セ リ ン グ で は 、自 分 は CMTな の か は っ き り さ せ て か ら 次 の こ と を 考 え た
いと遺伝子検査を強く希望されており、遺伝形式や連鎖部位(病因遺伝子)による
CMTの 分 類 と 発 症 頻 度 、遺 伝 子 検 査 に つ い て 、検 査 を し て 分 か る こ と・分 か ら な い こ
と な ど を 説 明 し た 。 3ヵ 月 後 2回 目 の カ ウ ン セ リ ン グ で は 息 子 へ の 遺 伝 の 可 能 性 に つ
い て 心 配 さ れ 、や は り 遺 伝 子 検 査 を し て CMTの タ イ プ 、遺 伝 形 式 を 明 ら か に し た い と
希望された。再度、遺伝形式や疾患について説明し、遺伝子検査をしても分からな
い可能性があること、検査により「知ること」と「知らないでいること」のそれぞ
れの意味について話し合った。最終的にはクライアントの強い希望により、発症頻
度の高い2つのタイプについて検査を施行することになった。結果はまだ出ていな
い。
進行の遅い神経疾患をもつクライアントは、疾患により自分のライフスタイルが
変化せざるを得ない状況を見つめながら、自分にとって病とは何かという問いかけ
を心の中で続けている。このケースではその葛藤が遺伝子診断という最新の技術を
用いた確定診断に対する期待になっているように思われた。検査をし、疾患のタイ
プが明らかになり、遺伝形式も判明した時点で子や親族の遺伝という新たな問題が
発生する。治療法のない進行性の神経筋疾患の遺伝子検査を希望するクライアント
にたいする、カウンセリングでは、クライアントの「知りたい」という思いを十分
に受け止め、検査により「知ったこと」で生じる様々な問題を一緒に考えながら、
カウンセリングを進めることが重要と考える。
A-2
遺伝外来における結婚前遺伝カウンセリングでの看護職の役割
○千葉弘子
1)
, 浅野ありさ
2)
, 都甲明子
3)
, 島田隆
日本医科大学付属病院看護部・遺伝診療科
日本医科大学付属病院小児科・遺伝診療科
山口病院産婦人科
4)
1)
2)
3)
日本医科大学付属病院遺伝診療科・日本医科大学分子遺伝医学
,
,
,
4)
当院遺伝外来における遺伝カウンセリングでは、様々な立場や状況にあるクライ
アントの遺伝に関する相談を受ける。
今回、自閉症の兄弟を持つ20歳台女性の結婚前のカウンセリングを経験した。
兄弟は、3歳時に自閉症と診断され現在も、自閉的行動・精神発達遅滞・時折暴れ
るといった症状がみられる。クライアントはインターネットで脆弱X症候群の情報
を得、兄弟はこの病気なのではないかと考えた。クライアントは、結婚を考えてい
る男性とも兄弟の存在については話し合い、当科の受診についても相談してきてい
た。兄弟の自閉症が遺伝するものなのかどうかを知りたいとの希望に対して、1回
目のカウンセリングでは自閉症は症候群と同じで原因も様々である事、自閉症には
沢山の遺伝子があり、絞込みが必要である事などを話し、周囲に及ぼす影響も含め
て今後希望される事について検討していただくこととした。
2回目のカウンセリングでは、検討の結果をもってクライアントの意思確認をし
た。自分自身の脆弱X症候群の保因者診断を受けたい、兄弟の養育に尽力する両親
をみて尊敬もし、またこれ以上親族に負担はかけられないとも思い、先方のご両親
に も 誠 実 で あ り た い 、そ の 結 果 を も っ て 結 婚 に 踏 み 切 り た い と 現 在 の 決 意 を 語 っ た 。
また両親、婚約者ともにクライアントの希望に支持的であるとも語った。
カウンセリングでは、診断の結果が陰性であったとき、陽性であったときにそれ
ぞれ、
周囲の人々に及ぼす影響、自分自身に起こるであろう心の葛藤をも再度熟考し、決
定して欲しい事を伝えた。また今後もそれらに対して、診療科スタッフが支援を継
続することを伝えた。
クライアントの自己決定を支援するにあたり、家族のもつ支援の力は欠かすこと
ができないが、親族ではない重要他者の存在も無視できない。結婚というライフイ
ベントを前に、遺伝について考える女性をどうサポートするか、看護職の役割を再
考する。
A-3
血友病A家系における血縁者間の遺伝情報交換の問題点
○藤井智恵子
1)
渡辺順子
久留米大学医学部看護学科
1)
2)
芳野 信
同遺伝外来
2)
2)
【はじめに】血友病Aは凝固第Ⅷ因子の欠乏、または異常により起きる疾患である。補充
療法が可能となり、遺伝カウンセリングの事例報告は多くはない。今回の事例は、発端
者が出産後に脳障害を残し、カウンセリーが血縁者間の情報交換の不足や知識不足に対
する自責の念や不条理感を感じ、心理的問題を抱えていた。今回の遺伝カウンセリング
を通し、遺伝病家系における血縁者間の当該疾患に関する知識と情報交換の必然性を考
える機会を得たため報告する。
1.事例紹介
カウンセリー:Aさん 20歳代 女性
受診までの経過:妊娠経過に問題なく、里帰り出産で実家に戻った。出産後第1子で
あるB君は頭蓋骨骨折と帽状腱膜下血腫による出血があり、C病院に搬送されたが出血が
止まらず、脳障害を起こし呼吸器管理下となった。現在は触れるとわずかに反応がある
程度である。カウンセリーは心理的問題を抱え、臨床心理士にカウンセリングを受けて
いたが、当該疾患に対する遺伝カウンセリングを受けたいと強い希望を持ち、遺伝外来
に紹介された。
2.遺伝カウンセリングのプロセス
H.17.3月にカウンセリーへ遺伝カウンセリングを行った。内容として、①一般的な血友
病Aの説明、②保因者診断、③次子の出生前診断について説明を行った。叔父に血友病が
いたが軽症であり、カウンセリーは女性に発症しないと聞き、重大には捉えていなかっ
た。自分の知識不足によりこどもを大変な状況にしたと自分を責めている様子であった。
また、姉の長女の将来と次子への遺伝が心配であること、周囲に知らせ自分と同じ思い
をする人が出るのを防ぎたいこと、次の妊娠など節目、節目で相談に来たいと話された。
カウンセリーは姉について尋ね、直接電話で予約を入れるようにと説明し、初回カウン
セリングは終了した。
3.その後の経過
カウンセリーは姉に遺伝カウンセリングでの話を伝え、姉が遺伝カウンセリングのた
めに来院された。姉によると、姉妹間の関係は出産後よりは現在の方が良いもののカウ
ンセリーは情緒不安定であり、実母に対して怖い時があるとのことだった。遺伝子解析
の結果、姉は血中の第Ⅷ因子非患者非保因者の範囲であったが、姉妹の関係性に変化は
生じなかった。
【考察】今回の事例は今まで出生前診断の適応ではないと考えられていた血友病Aであっ
た。しかしこのような事例が今後も生じることを考え、血縁者間の疾患に対する確実な
情報の理解と血縁者内での適正な情報交換は必要と考えられる。そのため、罹患者への
カウンセリングや疾患の説明を行う際には、家系内での情報交換により、どのようなメ
リットを受けるかを理解していただき、自発的な情報伝達を促していくことが必要であ
る。
A-4
保因者診断により保因者となったクライアントへのかかわり
1)
2)
3)
○嶺岸聖子 , 新井正美 , 三木義男 , 武藤徹一郎
1)
4)
2)
癌研有明病院遺伝子診療センター看護部 , 同センター ,
3)
同センター部長 , 同センター センター長
4)
1.はじめに:家族性腫瘍の遺伝子検査の目的は発症前診断で、家系員の癌の予防を行
1)
うことである。
そのためには、医療者と家族との人間関係構築は、倫理面での配慮と
ともに大切である。今回保因者診断により保因者となった20歳代の女性とのかかわりを
通じ、遺伝医療における看護の役割と立場が多岐にわたることを改めて感じ、その役割
を広げていくことが重要となると考えた。発表にあたり、クライアントに本研究会の概
要、発表の目的・内容、匿名性とプライバシーの守秘について十分に説明し、同意のも
と協力を得た。
2.クライアント:遺伝性非ポリポーシス大腸癌 20歳代 女性 未発症 学生
家族歴:父 40歳代前半で直腸癌その6年後口腔癌 副腎癌 盲腸癌で手術。
兄 20歳代前半で S状結腸癌 他院からの紹介で、A病院 家族性腫瘍センターにおいて遺
伝カウンセリングを受け、遺伝子診断によりMSH2変異の結果が判明。その後は紹介され
た施設で、フォローアップを定期的に受けている。
保因者診断:兄と共に本人がカウンセリングを受け、同意のもとに遺伝子検査を受ける。
結果:MSH2変異保因者であることが判明し、定期的な検診計画が立てられ、現在フォロ
ーアップ中である。
3.遺伝カウンセリングと看護:遺伝子診断に対しては、家族間でよく話し合い、結果
が「陽性」の場合やその後のフォローについても、カウンセリングで話し合った。最終
的にクライアント自身が決定し遺伝子検査を実施した。兄は妹に対し、「結果がどうあ
れ、妹は自分が支えていきます。ですから大丈夫です」と話した。結果開示のカウンセ
リングには、本人のみが来院した。結果を伝える前、医師により「知らないでいる権利」
について再確認されたが、きちんと受け止めますと、結果を冷静に聞いた。しかし途中
で冷静でいたクライアントの目から涙がこぼれはじめ、「やっぱり、と思いました。自
分も父や兄みたいに同じ病気になるんだと思いました。検査をする前からなんとなく感
じてはいました。でもこうなるとあーって思います。でも、兄と同じならいいです。私
がんばりますから。」と涙ながらに話した。その後、看護師と2人でその思いを語った。
その後、生活や検査での心配事などたびたび電子メールが来るようになり、サポートし
ている。
4.考察:医師による遺伝カウンセリング後の看護師による「傾聴」は、なかなか
医師には話せないことを率直に伝えてくる。そこでは「クライアントと看護師」を超え
人と人との交流が生まれる。「あの時、看護師さんが肩に手を掛けてくれたからこの人
に話そうと思いました。なんだか安心したんです。」と語った。看護師として、時には
家族や友人、姉妹のように相談をしてきてくれるクライアントに対し、寄り添い、応援
し支えることは重要であることが今回のかかわりで改めて痛感した。
A-5
染色体異常の孫とその親である娘に祖母が抱く想いとその看護
○鳥居奈津子
岩手県立大学看護学研究科
【目的】近年、育児環境が厳しくなっていると言われ、よりサポートを必要とする障害
児を取り巻く環境においては、母親を支える力として祖母は大きく期待される。そこで、
祖母が孫とその親である娘に対して抱く想いを活かす看護について検討する。
【方法】染色体異常の孫とその親である実娘と同居する祖母2名に対して半構成面接を実
施。逐語録から祖母の心理にあっていると思われるキーワードを抽出し、分類した。
【倫理的配慮】書面、口頭にてプライバシーを守ること、いつでも参加を取りやめるこ
とが出来ることなどに関して説明し、同意を得た。
【ケースの概要】祖母は両ケースとも年齢は60歳代、娘は30歳代であった。孫は16歳男
性のダウン症と2歳の14番染色体転座型による染色体異常の女児である。
【結果】時系列で見ると、①娘の出産への不安と孫の出生に伴う喜び②孫の障害に対す
る戸惑いと娘を心配する親としての想い③孫の存在価値を認識する障害の受容の3点に
内容が集約された。また娘に対して、自分の育児体験を振り返り娘の手が届かない所を
助ける一方で、自分は何もしていないという罪悪感も抱いていた。娘を助けるために、
看護師に促されて行った哺乳に対しては義務感を感じながら行っていた。
【考察】両親に加えて、家族の一員である同居する祖母に対しても看護者が関わってし
ていくことは、課題に直面した家族の力になると考えられる。そこで、祖母の想いを活
かし、家族セルフケア能力を高める看護の方向性について以下のように考える。
1)祖母が出生直後に孫と接した強い感動は、孫との絆を強くし、家族における危機の
深まりを予防する能力を高めるために有用である。そのためには、祖母にも抱っこを
促すなど接触できるように配慮するなど愛情形成を手助けする支援が有効である。
2)染色体異常の孫がいる祖母は、娘と異なる複雑に揺れ動く気持ちを持っている。そ
の気持ちを祖父母会のように分かち合える場や機会を設けたり、実際に家族会に参加
することで違う見方も得られ、危機状態に対処する力につながると考える。
3)祖母が孫の存在価値を認識し、障害を受容することは、家族全体が障害を持つ孫と
の生活を「あたりまえ」のこととし、暮らしへ適応する力を高めていくと考える。そ
こで祖母の受容を促すために、祖母が自分にとっての孫の存在価値を認識するなど、
孫の障害によって起こるプラス面への気づきを促す働きかけが必要である。しかし、
その働きかけは祖母の気づきを促すためのものであり、祖母の持つ気持ちを受容した
上で行うことが大切である。
4)家族が課題に直面した場合、家族の発達を考えながら、危機状態に合った対処能力
を高める援助が必要である。そこで、娘の代わりとして祖母に同じことができるよう
に求めるのではなく、家族のニーズを基に娘の心身両面での支えとなっていると祖母
に伝えることが家族のエンパワーメントにつながる。また祖母が自身の役割を認識で
きることは、祖母にとっての罪悪感を軽減し、育児貢献への満足感が増すと考える。
A-6
保因者診断における遺伝解析を用いた支持的カウンセリングの実際
―DRPLAに関する保因者診断を希望した事例報告―
1)
1)
1)
1)
○家護谷五月 , 丸山博文 , 加瀬佳寿江 , 中込さと子 , 佐村 修
2)
1)
三春範夫 , 藤本紗央里 , 横尾京子
1)
広島大学病院 遺伝子診療部 , 広島西医療センター
1)
1)
2)
1.はじめに
我々は今回DRPLAの罹患家族を持つクライエントA氏の保因者診断に関する相談を経験した。
そこで,A氏への遺伝カウンセリングプロセスを振り返り,遺伝解析を用いた支持的カウンセリ
ングの重要性について報告する。
2.方法
DRPLAの保因者診断を希望し初回受診してから,診断結果を告知されるまでの4回のカウン
セリングと電話でのフォローに関するカウンセリング録を分析した。倫理的配慮として,A氏な
らびに,遺伝カウンセリングの同伴者であった実母に対して,研究目的と方法,研究会にて公
表することについて説明し,文書で同意を得た。
3.A氏へのカウンセリング過程
【クライエントの背景】A氏は20歳代後半の男性である。実祖母と実父,実兄が20歳代でDRPLA
(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)を発症しており、自己の保因者診断を目的に受診した。自
分が病気になるかもしれないと考えることがストレスで,それから開放されたいと考えていた。
神経症状はなし。カウンセリングには実母が同伴した。
【カウンセリング過程】[第1回]本人の目的と意思確認目的:「現在は病気のことが心配で仕
事も手につかない」「病気になるならなるで,やりたいことをやって死にたい,自殺というこ
とも含めて」などの発言があった。保因者診断のメリットデメリットについての理解をサポー
トし,慎重に考えなければならないことを告げ,スタッフ会議を開催し,審議することにした。
[第1回スタッフ会議]『発症前遺伝子診断の指針』を参考に,クライエントの性格判断や,診断
後の生活の変化に対する問題の可能性について,もう少し情報が必要ではないかという意見が
得られた。[第2回(2週間後)]意思の再確認目的:スタッフ会議での意見を伝え,A氏の臨床検
査を行い,さらにA氏が陽性だった場合のサポートシステムがあることを伝えた。A氏は,保因
者診断への意思を強調し「検査をしてもらえるかどうかと考えるだけで,胃潰瘍になり,今の
時間がたまらない」と語った。 [第3回(1月後)]意思の再々確認と陰性/陽性だった場合の自
分自身と家族の心理変化,社会生活上の変化について具体的に想像する目的:罹患していた場
合の精神的サポートのため,1ヶ月後に必ず面談を行うことを約束し,保因者診断ができること
を告げた。A氏は「保因者診断を行えることになり気持ちが楽になった」「結果がどうであれ対
応できると思う」と穏やかな表情になった。[告知前のフォロー(電話による)]母親からの情報
「落ち着いて仕事をしています」「結果について色々言わなくなった」[第4回目(3.5ヶ月後)]
結果告知:結果が陰性であったことを伝えた。今後は罹患した家族への支援も含めて相談に応
じることを伝え,カウンセリングは終了した。
4.結語
A氏の保因者診断をめぐり、患者や家族が抱えている問題や不安に対し,遺伝チーム内で多
角的に検討しながら支持的カウンセリングを行った結果、A氏は検査結果が出る前の段階で、自
分自身の長年の苦悩が整理できていたことがわかった。
A-7
未発症で同定された成人発症Ⅱ型シトルリン血症のクライアント・
家族の抱える問題と支援
1)
○鈴木由美 , 渡邉 淳
2)
, 前田美穂
3)
, 及川眞一
4)
2)
, 島田
1)
日本医科大学付属病院看護部・遺伝診療科 ,
2)
日本医科大学付属病院遺伝診療科・日本医科大学分子遺伝医学 ,
3)
日本医科大学付属病院小児科 ,
日本医科大学付属病院内分泌代謝内科
4)
1.はじめに 成人発症Ⅱ型シトルリン血症は、浸透率不明の常染色体劣性遺伝病で、
最近、責任遺伝子SLC25A13(シトリン)が同定された。多くは思春期以降に異常行動・反
社会的行動、意識障害、高アンモニア血症などで発症する予後不良の疾患で、現時点で
は肝移植は唯一の治療法である。今回、未発症で同定されたⅡ型シトルリン血症の遺伝
カウンセリングを経験し、クライアント・家族に対する継続した支援を提供する機会を
得たので、報告する。
2.目的 未発症で、成人発症Ⅱ型シトルリン血症が同定されたクライアント・家族が
抱える問題を明らかにし、その看護支援について考察する。
3.事例 クライアントは、30歳代男性ならびに20歳代女性の夫婦、1歳・4歳の2児の4
人家族である。第2子が生後2ヶ月のとき脂肪肝・高ガラクトース血症・高アンモニア血
症を伴う胆汁うっ滞性新生児肝炎(NICCD)を発症し、病因診断のため遺伝子検査を行っ
た。その結果、児はシトリン遺伝子異常の複合ヘテロ接合体(乳児期症状を呈したⅡ型
シトルリン血症)、夫も同じ複合ヘテロ接合体(未発症のⅡ型シトルリン血症)、妻は
ヘテロ接合体(保因者)であることが判明し、遺伝診療科へ紹介された。
4.方法 遺伝診療科診療録および担当看護師の面接記録から遺伝カウンセリング及び
フォローアップにおける経過・クライアントの反応をデータ収集し、分析した。
5.結果及び考察 1回目の遺伝カウンセリングでは、夫婦の遺伝子診断の告知を個別
で行い、承諾を得た後、夫婦の同席で成人発症Ⅱ型シトルリン血症の症状とサポートや
情報を得られる組織の紹介などを行った。2回目の遺伝カウンセリングでは、代謝専門
医の紹介を行った。夫は、当初戸惑っていた様子だが、現在は専門医の継続的な診療と
栄養士からの食事指導をうけている。妻は、未発症で診断がついたことを前向きにとら
え、第2子の食事の世話・管理、小児科の受療、夫の食事・栄養管理に積極的に取り組
んでいる。
看護支援として、1)未解明な部分が多くわかりにくい疾患の理解を助けること、2)
養育期にありながら遺伝的問題を抱えたクライアントの心情に共感すること、3)遺伝
的な情報の扱いかたを共に考えること、4)複数の診療科や部門で行われる疾患管理を
クライアント・家族の立場から把握し必要なリソースをコーディネイトすることなどを
行っている。
一般演題B
B-1
予期せぬ急変で死亡した13トリソミー児の看護ケア
1)
1)
1)
○河内美穂子 , 三木砂織 , 椙村光枝 , 飯野英親
1)
山口大学医学部附属病院NICU , 山口大学医学部附属病院看護部
2)
2)
<はじめに>
13トリソミーは、13番染色体の過剰による疾患で、臨床像としては脳内奇形、口唇裂、小
眼症、多指症、内臓奇形を伴いやすい。一般的に予後は不良だが、13歳、32歳の生存例も
報告されている。今回、出生後約3ヶ月を経過し、在宅への移行をすすめていた時期に、急
変で死亡という転帰をたどった症例を経験した。在宅への移行準備期に急変し、家族への
看護ケアに苦慮した。その主要な経過を報告する。
<事例紹介>
在胎38w+3d、出生体重2546gで他院にて自然経膣分娩で出生。アプガースコア9/10。
出生前診断なし。左第1指奇形、口唇口蓋裂の外表奇形を認めたため、当院NICUへ新生児搬
送。家族構成は、母親29歳で専業主婦、父親28歳で会社員、兄1歳3ヶ月。
<入院後の主な看護経過>
0生日:本院に転院後、小児科医から染色体異常の可能性と心疾患(ファロー四徴症、肺動
脈閉鎖、PDA、卵円孔開存)について父親に説明し、同意後にリプルが開始される。
11生日:小児科医から両親が13トリソミーの確定診断の説明をうける。常時、急変の可能
性があること、予後不良であることについても同時に説明を受けた。その後、急変時には
積極的蘇生をしないことを両親が希望された。
28生日:両親が児を家に連れて帰ることを不安に思っていたため、面会時に児のケアへの
部分的参加をすすめ、32生日に初めての両親参加の沐浴を施行。
43生日:両親が次子希望され、当院遺伝外来でカウンセリングを受ける。
52生日:面会時に両親が「家に連れて帰ってもよいと思っている」と言われ、在宅への意
思表示が確認できた。ケア参加で養育に対する不安が軽減していると考えられた。
72生日:両親が動脈造影検査結果の説明をうける。在宅に向けてリプルの減量に同意する。
86生日:母親の面会中に突然に徐脈となり、酸素投与しても徐脈進行。父親の到着まで酸
素投与、心マッサージ施行。母親は突然の状態変容に、状況が理解できないといった様子
で呆然としておられた。
87生日:両親、父方祖母に抱っこされながら永眠。
<まとめ>
同じfull trisomyでも症状や合併症には差異がある。本症例は、心疾患を合併した重篤な
染色体異常で、常に急変の可能性があり、予後不良な疾患と推測された。そのため、両親
の意向に沿いながら、できるだけ親子の関わりが尊重され、療養できることを目標にケア
方針を定めた。その中で、両親が在宅への希望を持ったことは、子どもが家族の一員とし
て迎え入れられるように支援できたことへの表れと考えた。約3ヶ月と短い経過であっても、
家族が短期的目標をもち、子どものもつ可能性を支える看護ケアが重要である。
B-2
障害のある子どもとその家族への支援のあり方
∼ 勉強会開催による効果と今後の課題 ∼
○角川志穂, 浅沼優子, 阿部貴子, 餘目弘子, 安藤明子, 岩渕光子, 佐々木弥生,
田口友美, 鳥居奈津子, 樋口日出子, 松川久美子, 安藤広子
い わ て 遺 伝 看 護 ネ ッ ト ワ ー ク “あ ん さ ん ぶ る ”
【 は じ め に 】 平 成 15年 に 看 護 師 、保 健 師 、助 産 師 お よ び 教 育・研 究 者 が 集 い 、遺 伝
看護に関する地域のネットワークづくりを目的として、いわて遺伝看護ネットワー
ク “あ ん さ ん ぶ る ”を 立 ち 上 げ た 。 さ ま ざ ま な 活 動 を 行 っ て い く 中 で 、 看 護 職 と 障 害
のある子どもやその家族、支援団体との情報交換や交流の場が少なく、支援体制や
連携が希薄になっていることが明らかとなった。そこで、今回親の会、支援団体の
スタッフを講師として招き、当事者のニーズと支援の実際を知ることを目的とした
勉強会を開催した。勉強会を実施したことによる効果や今後の課題が明らかとなっ
たので報告する。
【 方 法 】平 成 17年 3月 に「 広 げ よ う つ な げ よ う 支 援 の 輪 」と い う テ ー マ で 勉 強 会 を
開催した。勉強会終了後、無記名自記式の質問紙を配布した。調査への協力は強制
ではないこと、研究以外の目的では使用ないことを説明し、同意を得た。調査項目
は、①勉強会参加のきっかけ、②障害のある子どもの両親に関わった経験の有無、
③ケアを行う際の不安やとまどいの有無、④看護者に期待するもの、⑤今後のケア
や活動に生かせるかについてである。分析は選択式の項目は単純集計を行い、自由
回答記述は全研究者で内容を検討し、カテゴリー別に分類した。
【 結 果 ・ 考 察 】 参 加 者 は 26名 で 、 看 護 師 、 保 健 師 、 助 産 師 が 19名 ( 73.0% ) と 過 半
数 を 占 め た 。 勤 務 場 所 と し て は 病 院 7名 ( 26.9 % ) 、 保 健 所 ・ 保 健 セ ン タ ー が 4 名
( 15.3% ) で あ っ た 。 そ の 他 に 、 社 会 福 祉 施 設 職 員 や 当 事 者 も 参 加 し た 。 障 害 の あ
る 子 ど も の 両 親 に 関 わ っ た 経 験 の あ る 看 護 者 は 、 19名 中 18名 ( 94.7% ) で あ り 、 そ
の 際 に 不 安 や と ま ど い を 感 じ た 者 は 17名 ( 89.5% ) で あ っ た 。 不 安 や と ま ど い の 内
容は、「具体的な関わりやケアの方法」「当事者の受容に向けての対応」「インフ
ォームドコンセント」「各支援団体についての情報不足」「地域での役割」「支援
の限界」であった。勉強会に参加したことで、「当事者や家族のニーズ」「支援の
方向性」を知ることができ、また「各関連団体との連携の必要性」についても意識
を高めていた。当事者や支援団体からは看護者に期待するものとして、「共にある
存在」「障害に対する専門性」「他職種との連携・調整役」「障害をもつことの意
味の理解」が挙げられていた。今回の調査から、勉強会に参加した看護者の多くが
ケアに不安を抱えており、当事者のニーズや支援の方向性を知る上で有意義な勉強
会 で あ っ た と い え る 。 し か し 、 看 護 者 1人 1人 の 専 門 性 の 向 上 や 各 関 連 団 体 と の ネ ッ
トワークづくりの構築等、課題は山積している。参加者全員から今後も勉強会への
参加を希望したいとの声があり、今後も当事者や各支援団体との勉強会や交流会を
継続し、地域全体で支える体制を構築していきたいと考える。
B-3
児の治療を選択しない症例に対する医療スタッフの関わりを考える
○犬飼勢津子, 矢花さとみ, 望月仁美
長野県立こども病院 総合周産期母子医療センター産科病棟
【はじめに】出生前診断により、疾患を診断された胎児の治療を行なうか否かの意思決
定権は親が持つことになるが、疾患の内容、親の社会背景や倫理観などにより選択は別
れる。「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」に
は、
《治療方針の決定はこどもの最善の利益に基づくものでなければならない》とある。
今回、胎児エブスタイン奇形を診断され、出生後の外科的治療を希望されなかった御夫
婦の気持ちを振り返り、児(以下Sちゃんとする)の最善の利益について考えた。
【症例の背景及び経過】妻40歳 3回妊2経産 (前回妊娠は流産)元看護師 夫37歳薬剤師 5
歳と7歳の子供がおり共働き
妊娠週数
説明内容
御夫婦の気持ち
34週3日
エブスタイン奇形の診断を受ける
・症状、外科手術と予後について
・1人目なら積極的に治療もするけど・・・
どちらかが仕事をやめればローンが払えず
家族が崩壊する
35週3日
・外科的手術をしない場合の経過
内科的治療方法について
・同疾患の家族との面会も可能
・家族の状況を考え手術する方法が第一選
択にはならない
手術はぜず内科的治療希望
・どの方法を選択しても後悔すると思う
・家族との面会は希望しない
36週3日
・出生後、児が退院できる可能性も
ある
・病院で亡くなるものと思っていたので驚
いた
37週待機入院
・出生後 児に行なう処置について
・出生時は児と対面したい 抱いてあげたい
御夫婦の気持ち
入院∼分娩
分娩後
・手術することをこの子が望むかどうかわからないこそ選択に苦しむ 苦しむこ
とは親の責任
・「生んでくれてありがとう」と言う人もいると思うが現実は厳しいと思う
・自分達がいなくなった後のこどもの将来が不安 ・ 手術することがこどもの幸
せではないと思う
・葛藤はあるが外科的手術は行わない気持ちは変わらない ・その時最善と思う
ことを選択していくしかない
【振り返って】外科的治療を行わない理由として、SちゃんのQOLを考えた結果と経済的
理由が挙げられた。それが、Sちゃんの最善の利益を考える理由として、どれ程の重要さ
であったのか。御夫婦が最善と思った選択が、こどもの最善の利益になるのか。「何が
最善か」を考えるときの価値観は千差万別であるため、明確な答えは出ないが、意志決
定権のない児に対し私たちができることは、選択するための適切な情報が親に与えられ
たかを確認する又、その選択が本当に適切かを再検討することが重要であると考えた。
B-4
4p − 症 候 群 児 の 退 院 ま で の 看 護 介 入 の 経 験
○八木里美, 林 久美, 井上寿美香, 清水昌子, 田中好枝
山口大学医学部附属病院小児科病棟
【 は じ め に 】 4p − 症 候 群 ( Wolf- Hirschorn Syndrom) と は 4番 染 色 体 短 腕 の 部 分 欠
失 に よ る 染 色 体 異 常 で あ る 。出 生 は 58,000人 に 1人 と い わ れ て い る 。主 な 臨 床 所 見 と
しては、小頭、両眼開離、てんかん、心奇形などである。今回、出生後から退院ま
で に 25ヶ 月 間 要 し た 4p − 症 候 群 女 児 へ の 看 護 ケ ア を 経 験 し た の で そ の 主 な 経 過 を
報告する。
【 対 象 】 2歳 2ヶ 月 の 女 児 。 妊 娠 9ヶ 月 時 の 羊 水 穿 刺 か ら の 染 色 体 検 査 で 、 4p − 症 候
群 と 診 断 さ れ る 。 在 胎 37週 5日 に 自 然 経 膣 分 娩 で 出 生 ( 1436g) 、 自 発 呼 吸 な し 、 ア
プ ガ ー ス コ ア 1点 、そ の ま ま NICUに 入 室 。心 奇 形 は な か っ た が 9日 目 に 痙 攣 を 認 め た 。
1歳 2ヶ 月 で 小 児 科 へ 転 科 し , 母 が 付 添 っ た 。 父 親 は 児 の 出 生 直 後 か ら 育 児 に 積 極 的
に協力する人だった。
【 臨 床 経 過 】NICUで は 小 顎 症 で 経 口 摂 取 が 困 難 な た め 、胃 管 に よ る 経 管 栄 養 だ っ た 。
注入量を増やし、体重増加を認めたため、在宅管理目的で小児科に転科した。転科
後も痙攣のコントロール不良。痙攣時に分泌物が増えて、吸引刺激で嘔吐を誘発し
た。頻発時は胃から出血を認めた。また、誤嚥性肺炎を繰り返して増悪時は酸素テ
ン ト に 収 容 、 集 中 治 療 室 で の 呼 吸 器 管 理 が 必 要 な 時 期 も あ っ た 。 1歳 9ヶ 月 時 に 気 管
切開術を施行。以降、呼吸器感染症の罹患頻度が低下し、経管栄養がスムーズに進
ん で 体 重 増 加 を 認 め た 。在 宅 酸 素 (HOT)の 準 備 と 両 親 へ の 経 管 栄 養 の 管 理 方 法 の 指 導
を 行 っ て 2歳 1ヶ 月 で 退 院 と な っ た 。
【主な看護介入】児の主な問題は、痙攣のコントロールだった。定期の抗痙攣薬の
注入に加え、頻発時はダイアップ坐薬の頓用で対処していた。同時に口腔・気管内
分泌物が増えて、頻回の吸引が必要であった。また,両親が吸引手技を取得できる
ように指導を行った。もうひとつの看護問題は、摂食障害による体重増加不良であ
る。痙攣と消化管出血の状態をみながら経管栄養の調整をした。在宅への移行がで
きるように,経鼻カテーテルの挿入、位置確認、体調に応じて注入量と濃度調整な
ど の 食 事 に 関 連 す る 介 護 技 術 を 習 得 し た 。 ま た HOTの 取 り 扱 い 等 も 習 得 し た .
【 結 語 】 約 2年 1ヶ 月 ( 計 737日 ) に わ た っ て 、 4p − 症 候 群 児 の 退 院 ま で の 看 護 介 入
を経験した。摂食障害から起こる経管栄養の管理、呼吸器感染症の予防、在宅酸素
の準備などが中心的な看護介入だった。母親は初産だったが、本入院期間中に次子
を妊娠し、特別な遺伝カウンセリングは行わなかった。
B-5
“遺 伝 ”に つ い て 中 高 年 女 性 が 抱 い て い る イ メ ー ジ
― 一般市民へのフォーカス・グループ・インタビューより ―
○小笹優美
1)
, 溝口満子
1)
, 守田美奈子
2)
東海大学健康科学部
静岡県立大学看護学部
3)
, 西村ユミ
1)
3)
, 前田泰樹
, 日本赤十字看護大学
, 東海大学総合教育センター
4)
2)
,
4)
【目的】一般の人々が遺伝を理解するために必要な学習支援プログラムの検討に資
するため、一般の中高年女性が遺伝に対してどのようなイメージを抱いているのか
を明らかにする。
【 方 法 】某 市 の 趣 味 の サ ー ク ル メ ン バ ー 6名 を 参 加 者 と し て 、フ ォ ー カ ス・グ ル ー プ・
イ ン タ ビ ュ ー ( 120分 程 度 の イ ン タ ビ ュ ー を 2回 実 施 ) を 実 施 し 、 語 ら れ た 内 容 か ら
遺伝に対するイメージを抽出し、考察する。
【結果】インタビューにおいて、参加者は自らの体験や体質に関連づけて遺伝に対
するイメージをそれぞれが語っていた。「本当は自分の魂とか肉体の元はどこなん
だろう」と<人間の始まり>に対して思いをよせ、「すっごい不思議」と<摩訶不
思議>なイメージを語った。身近な家族や知人に起こった被爆体験においては、同
じ条件下にあっても症状が出る人、出ない人がいたという事実から、「熱も遺伝子
でなんでもない人と大変な人がいる」と語っていた。このような<個人差>として
人 間 に 組 み 込 ま れ た < 避 け ら れ な い も の 、運 命 > を 遺 伝 子 の イ メ ー ジ と し て 語 っ た 。
そして、遺伝の引きつがれ方については「両親の先の両親・・・同じDNAでも何
代か直接かかわりのない・・・すごい逆三角」と自分を中心に両親、祖父母という
上方向で広がる<逆三角形>をイメージしていた。さらに、身内において体験した
難病、精神疾患や犯罪などを悪い遺伝子と表現することで、<良い遺伝子、悪い遺
伝 子 > と 遺 伝 子 に 対 し て 善 悪 、優 劣 を つ け て 語 っ て い た 。こ れ ら は 、“良 い 遺 伝 子 に
よ っ て 良 い 人 間 を 作 っ て ほ し い ”と い う 短 絡 的 な 期 待 や 遺 伝 研 究 に 対 す る 肯 定 的 な
イ メ ー ジ に 結 び つ い て 語 ら れ て い た 。以 上 か ら 、女 性 た ち は 、< 人 間 の 始 ま り > 、<
摩 訶 不 思 議 >、< 個 人 差 > 、< 避 け ら れ な い も の 、運 命 > 、< 良 い 遺 伝 子 、悪 い 遺 伝
子>、<逆三角形に伝わる>というイメージを遺伝に対して抱いていた。
【考察】遺伝に対するこれらのイメージが語られた背景として、身近な家族、知人
に起こった病気、原爆体験など参加者が持つ豊富な生活体験が第一に考えられる。
特に、被爆は日本独特の稀有な体験であり、中高年女性が持つ遺伝のイメージにも
大きな影響を及ぼしていた。中高年女性ならではの長年の人生経験の中で培われた
生活者の視点であるこれらのイメージを尊重することが必要となる。その一方で、
“個 人 差 ”が 一 体 ど こ か ら 生 じ る の か 、 “摩 訶 不 思 議 ”と い っ た 問 い 、 遺 伝 子 に 対 す る
優劣、善悪などの観念、逆三角形という自分から見て伝える方向ではなく伝えられ
た方向に重みを置いたとらえ方は、今後の教育方略上参考にすべき点と考える。
B-6
小児期に診断されたターナー女性への告知に関する考察
― 受診を継続している6事例からの検討 ―
1)
1)
2)
3)
○遊佐浩子 , 平林奈苗 , 野崎祐子 ,中村水緒 , 石川雅一
1)
2)
北里大学病院看護部 産婦人科外来 , 小児科外来 , 北里大学産婦人科
3)
3)
【はじめに】2004年にA大学病院における過去5年間の診療録からターナー女性の女性ホルモン
補充療法受診状況についての調査・検討をおこない本研究会で発表をおこなった。そのなかで成
人期診断の受診中断者は9名中1名であった。しかし小児期診断の受診中断者は12名中4名と成人
期診断例と比較し多くみられた。また告知有無と受診の転帰を調査し、受診継続には本人の正し
い理解が不可欠であるという考察を得た。そこで受診継続につなげる本人への告知や看護介入
について示唆を得る目的で小児期に診断され受診を継続している事例について調査・検討をお
こなったので報告する。
【方法】対象は1999年7月∼2005年6月にA大学病院産婦人科を受診したターナー女性21名のうち、
小児期に診断され受診を継続している6事例。病状経過、病状説明や両親・本人の心情に関連した
記載を、診療録・看護記録等から抽出し分析をおこなった。なお発表にあたっては個人が特定さ
れないよう倫理的配慮をおこなった。
【結果】
表1 対象の背景と調査結果
事例
年齢
(歳)
診断時
年齢(歳)
GH療法
HRT開始
年齢(歳)
本人への
告知
婦人科
初診
年齢
告知に関する
小児科からの情報提
供
A
33
4
−
18
+
28
−
B
36
8
−
18
不明
25
−
C
33
8
−
20
+
20
−
D
27
12
+
18
−
21
−
E
34
0
−
18
−
23
+「本人は知りません」
F
27
1
+
16
+
20
−
染色体につい
て話さず
事例B,Dでは成人期に病名、疾患の本質を知りショックや葛藤が生じていた。
【考察】本調査から、受診は継続しているが適切な告知を受けぬまま通院している事例が多いこ
とがわかった。また、低身長・卵巣機能不全の症状については説明を受け理解しているが、病名や
疾患の本質については知らされていない事例もあった。調査は「受診継続につなげる本人への告
知や看護介入についての示唆を得る」目的であったが、はからずも「小児期に診断された遺伝性
疾患の本人に対する告知における問題点」が見えてきた。現在では、「早期から段階的に知らせて
いくのが理想であり、成人になって突然告知をすることは受け入れを困難にする」という考えが
一般的であるが、異なる意見もまだ存在する。小児期からの段階的告知には小児科での両親への
働きかけが重要な役割を果たす。また婦人科転科後も段階的告知を継続していくためには、小
児科−婦人科間で共通の認識を持ち情報交換をおこなう必要性があると考える。
一般演題C
C-1
山口大学医学部附属病院遺伝診療外来の紹介
現況および問題点について
1)
2)
3)
3)
3)
○末広 寛 , 飯野英親 , 村上京子 , 辻野久美子 , 塚原正人 , 日野田裕治
1)
2)
山口大学医学部 臨床検査医学 , 附属病院 , 保健学科
1)
3)
山口大学医学部附属病院遺伝診療部は平成16年1月に開設され、臨床遺伝専門医制度・
研修施設としての認定を受けている。我々の活動内容について報告するとともに、これ
までの活動の中で浮かび上がってきた問題点についても言及する。
【スタッフ】臨床遺伝専門医4名、看護士3名、臨床心理士1名、臨床遺伝専門医研修医3
名である。遺伝外来専任のスタッフはおらず、すべて医学部教員職との兼任である。
【遺伝相談の実績】平成15年8月1日から平成16年7月31日に臨床遺伝専門医がおこなった
遺伝相談の内訳は、出生前の問題に関するもの36例、先天異常に関するもの31例、腫瘍
に関するもの1例、神経疾患に関するもの4例、皮膚疾患に関するもの10例の計82例であ
った。
【問題点】これまでの遺伝外来運営において、以下のような問題点が浮かび上がってき
た。
a) 遺伝診療部内の問題点
① 専任スタッフがいない
② 遺伝相談件数の多い神経内科や耳鼻科疾患についての専門医がスタッフにいな
い
b) 長期フォローアップにおける問題点
① 保健士や臨床心理士の派遣など、行政からの支援の欠如
c) 遺伝相談カウンセラー養成トレーニングにおける問題点
① 遺伝相談の性格上、遺伝相談に参加できる人数が限られてしまため、カウンセラ
ー養成・トレーニングの機会が十分でない。
【今後の課題】
a) 行政とのネットワークの構築:遺伝カウンセリングは長期のフォローアップが必要と
なることが多く、その場合は、保健師や臨床心理士の派遣といった行政からの支援が不
可欠である。また、クライエントが将来就労が不能となる可能性が高い場合は、事前に
ソーシャルワーカーとのコンタクトが必要となろう。こういった観点から、行政を巻き
込んだネットワークを早急に構築する必要がある。
b) 遺伝相談外来を広く認知してもらうために:遺伝診療部を開設以来、徐々に遺伝相談
件数は増えてきているものの、世間に広く遺伝相談外来が認知されているとは言い難い。
遺伝について悩んでいる人も多くいることが予想されるため、医師会や行政を通じての
宣伝活動が必要であろう。
C-2
遺伝子診療部と地域保健活動との連携強化の試み:
遺伝啓発ドラマを用いた研修プログラム
1)
1)
○森 由紀 , 山内泰子 , 古庄知己
櫻井晃洋
2)3)
3)
2)3)
, 和田敬仁
3)
, 中村昭則 , 山下浩美 , 玉井真理子
2)3)
3)4)
, 涌井敬子
, 福嶋義光
2)3)
,
1)2)3)
1)
信州大学大学院医学研究科遺伝カウンセリングコース ,
2)
信州大学医学部社会予防医学講座遺伝医学分野 ,
3)
信州大学医学部附属病院遺伝子診療部 , 信州大学医学部保健学科
4)
【背景】近年、大学病院を中心とする特定機能病院で遺伝子診療部門が設立され始めた。
その有効な活用には、遺伝医療を必要としている一般の方々だけではなく、現場で対応
している医療従事者においても遺伝子診療部門の機能や活動を十分周知する必要がある。
【目的】保健師の遺伝に関する認識の現状把握や、遺伝子診療部スタッフによる研修後
の認識の変化を調査することを目的とする。
【対象】長野県内の保健所で開催された保健師研修会に参加した保健師22名
【方法】信州大学附属病院遺伝子診療部で作成した約90分の研修プログラムを実施。研
修会の前後に計67項目の選択式アンケート調査(一部自由記載)を実施し、その場で回
収した。プログラム内容は、遺伝子診療部スタッフによる講義、自作の遺伝啓発ドラマ
のビデオ視聴、ビデオに基づくグループ討論、である。
【結果】対象者の21名(95%)が高校で、17名(77.2%)が「大学・専門学校の教養課程」
で遺伝に関することを学んでいた。「遺伝」「遺伝子」「DNA」「染色体」「ゲノム」「遺
伝子診断」「出生前診断」「遺伝子治療」の言葉については「なんとなく分かるがうま
く説明できない」との回答が最も多かった。研修前後の結果の比較では、「親が正常で
あれば子どもが遺伝病になることはない」「遺伝病はめずらしい病気で、大多数の人に
は関係ない」の2項目において、「そう思わない」と回答した人は両項目とも研修前15
名(68.2%)から、研修後22名(100%)と増加していた。また、感想欄には、「誰にでも
起こる身近な問題としてとらえていかなければならない」「正しい知識や情報を持ち、
情報窓口となったり、地域住民の方にも情報を提供していくことが大切だと分かった」
「自分自身、遺伝に対し偏見があったことに気がついた」などの意見が寄せられた。
【考察】アンケート結果より、どの年代の対象者もこれまでに遺伝に関することを学ぶ
機会はあったようだが、遺伝に関する用語は十分理解されていない現状が明らかとなっ
た。しかし、研修後のアンケートでは遺伝に関する認識の変化がみられ、研修の成果が
あったと考えられる。地域住民と一番近くで関わる保健師が正しい知識をもつことで、
保健師がこれまで以上に充実した遺伝相談窓口となることが期待される。また、保健師
が患者様を紹介するだけではなく、保健師自身が困ったときに相談できる場所としても
遺伝子診療部門を利用してもらえるよう、研修会などを通して連携を深めていくことが
大切だと考える。
C-3
活動報告
社会資源ガイドブック作成とその意義
∼ 遺伝相談ネットワークの構築を目指して ∼
○岩渕光子, 浅沼優子, 阿部貴子, 餘目弘子, 安藤明子, 佐々木弥生, 角川志穂,
田口友美, 鳥居奈津子, 樋口日出子, 松川久美子, 安藤広子
いわて遺伝看護ネットワーク“あんさんぶる”
【目的】いわて遺伝看護ネットワーク“あんさんぶる”(以下、あんさんぶる)は、看護
職有志の集まりで、当事者・地域住民、関係機関、研究・教育機関のネットワークを目
指して活動している。障害児を持つ親の会(以下、親の会)と関係機関から、生活、医
療、療育、仲間などに関する情報が少ないことと、岩手県内には障害児のための社会資
源をまとめたものがないことを把握した。そこで今回、関係機関が必要な社会資源の情
報を提供することで家族の不安を軽減し、家族が自ら行動できるのに役立つような社会
資源ガイドブック(以下、ガイドブック)の作成を行った。この取り組みから支援のネ
ットワーク化を目指したガイドブック作成の意義を整理した。
【方法】岩手県内にある親の会10団体、障害児と家族へサービスを提供する5施設、県
庁児童福祉担当者を対象に、現在の社会資源の状況について聞き取り調査を行った。調
査にあたってガイドブック作成以外には使用しない旨を口頭で説明し了解を得た。 “あ
んさんぶる”でガイドブックへの掲載内容や活用等について検討を行い、社会資源の種類、
相談窓口、地区別事業所・施設一覧(サービス、連絡先)、レスパイトサービス、親の
会、医療機関、遺伝相談について掲載した。ガイドブック掲載施設には文書で了解を得
て、ガイドブックを作成した。配布先は、県内の産婦人科・小児科を標榜している医療
機関、保健所、市町村(保健、福祉)、養護学校、ガイドブックに掲載した施設・事業
所・親の会である。配布時に活動評価のため返信用はがきを同封した。
【結果及び考察】作成プロセスの中で、次のことが明らかになった。家族は様々な情報
の不足とその情報が家族に届いていないことを感じており、一方で、親の会の活動のP
Rにつながらない問題を抱えていた。支援側は、受け入れる社会資源の不足、支援費等
制度上の問題を感じていた。また、両者でボランティア等の支援を求めていた。
ガイドブック配布後、内容について53件の意見が寄せられた。活用については、「活用
できる」39件(73.6%)、「少し活用できる」11件(20.8%)であった。内容では「わ
かりやすくまとまっている」「相談先や連絡先がすぐわかり便利」「県内の情報が一目
でわかる」と幅広い情報を整理し見やすくした点や、「誰にでもすぐわかる内容」と担
当する業務以外の人にも理解しやすい内容である点、「今までになかったので役立つ」
などがあげられた。また、「遺伝相談を初めて知った」という声も把握できた。このこ
とから、遺伝を含めた内容でガイドブックを作成したことは、支援者に知っていただく
機会となり意義があった。今回の調査から得た意見を基にガイドブックの改訂を図りな
がら、今後も機会をとらえ遺伝について理解を得ていく活動をすることで、自分の住み
なれた地域で自分らしく暮らしていくことができる社会を作っていくことを目指したい。
C-4
看護学生・看護師の家系図表記技術の分析
1)
2)
3)
○佐伯京子 ,中谷真理子 ,中村祐子 ,飯野英親
1)
2)
山口大学医学部附属病院 , 県立広島病院 , 九州医療センター
1)
3)
【はじめに】家系図は遺伝医療現場では遺伝形式や再発率の推定、いとこ婚を含む遺伝相談
などの遺伝カウンセリングを通した家族援助を行うために、臨床看護師には詳細で正確な家
系図作成が求められる。
【目的】看護学生・看護師が表記する家系図とその相違点を分析することを目的とした。
【対象と方法】対象は看護系大学4年生38名、助産師養成課程の学生12名、県内総合病院に勤
務する看護師・助産師(以下、看護師)75名。調査方法・手順:看護師には、病院の看護部
長あるいは病棟看護師長に無記名式質問紙を直接に依頼し、郵送で回収した。質問紙で2事例
を提示し、各々の事例の家系図を表記してもらった。また学生、看護師の両者に回答者自身
に関する質問項目も設けた。分析方法:研究者らが米国人類伝学会提唱の家系図記載法を基
準にし、各事例の正確な家系図を作成した。その模範解答に沿い、家系図の不適切な表記内
容を項目ごとに抽出した。【倫理的配慮】対象者には調査前に研究目的、方法、結果、得ら
れた情報の取扱いと管理方法、プライバシー保護について説明を行い、協力を依頼した。
【結果】質問紙は学生38名(回収率52%)、看護師75名(回収率100%)から回収できた。
1.対象者の概要:学生平均年齢は22.6歳、家系図表記方法の講義を受けたのは32人(84%)
だった。看護師平均年齢は31.5歳、平均臨床経験年数は9.2年、最終学歴は専門学校59人、短
期大学11人、大学3人、修士・博士1人、その他1人。資格は看護師75人、助産師26人、保健師
4人で、経験診療科(複数回答)は産婦人科42人、NICU30人、小児科29人、内科・外科27人等
だった。また、家系図表記方法の講義を受けたのは39人(52%)だった。
2.家系図の不可欠な記号の表記
家系図作成に不可欠な記号について不適切だった内容は、既死亡者、罹患者、発端者、疾
患名、年齢、男女の内容だった。学生・看護師の順に各々、既死亡者については49人(98%)・
74人(99%)、罹患者79人(79%)・135人(90%)、疾患名65人(7%)・56人(4%)、年齢75人(7%)・134
人(9%)、発端者1人(2%)・0人、男女4人(0.4%)・0人だった。無記入回答は、両者(125人)のう
ち発端者について122人(98%)と最多だった。
3.関係線の表記
関係線は配偶者関係線、離婚、近親婚、同胞線、下位世代線の5つに分類できた。不適切内
容は学生・看護師の順に、離婚30人(60%)・74人(99%)、配偶者関係線11人(4%)・15人(3%)、
近親婚9人(18%)・11人(15%)、同胞線7人(5%)・1人(0.4%)、下位世代線6人(2%)・10人(9%)だ
った。両者の無記入回答は、近親婚と離婚で無記入の割合が高かった。
【考察】家系図の不適切な内容には、基本的表記事項の間違いが多く、学生・看護師間で共
通していた。家系図表記の独自の基準を導入している病院もあり、病院や地域によって家系
図の表記記号が異なるのが現状である。また、わが国の看護系大学・短大での看護教育は、
家系図表記方法の習得にほとんど時間を割いていないと推測される。臨床でも家系図表記は
習得済みと認識され、卒後の継続教育内容には含まれていない。そのため、基礎教育課程で
家系図の臨床的重要性や表記法を習得すること、また臨床での継続教育が大切と考えられた。
C-5
出生前検査を検討している妊婦への意思決定の支援とその効果
― 日本版:オタワ個人意思決定ガイドを用いて ―
1)
2)
3)
○有森直子 , 青木美紀子 , 有田美和 , 堀内成子
1)
2)
1) 2)
聖路加看護大学 , 東京大学大学院 , 聖路加看護大学看護実践開発研究センター
3)
<はじめに>保健医療、特に個人の価値観によって選択が異なってくる遺伝医療におい
ては、意思決定の支援の重要性が報告されているが、日本においては、保健医療者とし
て使用する共通の意思決定を支援するツールは、みられない。「オタワ個人意思決定ガ
イド(Ottawa personal decision guide)」は、患者が抱える難しい選択において、意
思決定の支援(decision aid)のツールとしてすでに評価研究にも用いられている。本
研究の目的は、周産期遺伝相談において、「日本版:オタワ個人意思決定ガイド」を用
いた出生前検査の意思決定を支援する介入の効果を明らかにすることである。
<方法>本研究は、ランダムに割り付けた実験群と対照群を用いた実験研究である。実
験群には、看護師がオタワ個人意思決定ガイドのリーフレットを用いて決定の支援を行
い、妊婦の要請に応じて、妊婦の悩みや心配に関する話の傾聴等のフォローアップを行
った。オタワ個人意思決定ガイドは、①意思決定を明確にする、②意思決定における自
分の役割を特定する、③自分の意思決定のニーズを見極める、④選択肢を比較検討する、
⑤次のステップを計画する、の5つのステップについて、選択肢についての自分の情報
や価値観考えを整理していく決定の支援である。
対象は、都内総合病院の周産期遺伝相談に来院した妊婦である。アウトカムは、決定に
関する葛藤としてDecisional Conflict Scaleを翻訳して用いた。その他の指標には自尊
感情としてRosenberg邦訳版を用いた。統計的手法によりサンプルサイズの見積もりを行
った。
遺伝相談に来院した妊婦で本研究に承諾した妊婦を無作為に振り分けた。無作為化およ
びデータの管理はリサーチアススタントにより実施された。介入は、通常の遺伝相談後
(医師による30分間の相談)後に、「決定に関する葛藤」「自尊感情」の質問紙に回
答してもらい、その後オタワ個人意思決定ガイドを用いた介入をおこなった。その後検
査についての決定を妊婦がした時点、3ヵ月後、6ヵ月後に郵送により送付してもらっ
た。
<結果>
調査期間中に適格条件に合致した妊婦は118名そのうち22名が拒否をし96名が対象とな
り 2 群 に 無 作 為 に 割 り 付 け ら れ た 。 介 入 後 の 質 問 紙 が 回 収 さ れ た 時 点 で 実 験 群 ( 40名
83.3%)対照群(43名89.6%)脱落率は13%であった。デモグラフィックスに関するベ
ースラインデータは2群に違いは見られず最終的な検査をうけるうけない、及び受けた
検査の種類にも違いはみられなかった。決定に関する葛藤は、介入の前後の較差におい
ては2群に違いは見られなかった。しかし決定に関する「中等度および高い葛藤」の割
合は「低い葛藤」に比べて相対危険率、絶対危険率において効果が認められた。
C-6
出生前検査に対する妊婦の想い
― 遺伝相談から6ヶ月間に医療者にあてた妊婦の自由記載を通して ―
1)
2)
3)
○有田美和 , 青木美紀子 , 有森直子 , 堀内成子
1)
2)
聖路加看護大学看護実践開発研究センター , 東京大学大学院 , 聖路加看護大学
3)
3)
<はじめに>出生前検査時の妊婦への支援の重要性は、妊婦の心理的身体的負担の体験
とともにすでに多くの報告があり、継続したケア体制が妊婦に提供されることが望まれ
ている。本研究の目的は、出生前検査について遺伝相談を受けた妊婦が、検査後6ヶ月
間に医療者に返送した質問紙の自由記載欄に記述した内容から出生前検査後の妊婦の想
いを明らかにすることである。
<方法>対象は2004年5月から2005年2月までの9ヶ月間に、都内総合病院で周産期遺伝
相談を開設する遺伝外来に来院した妊婦である。決定の支援を行った群とそうでない群
を設け、出生前検査の前、後(3ヵ月後、6ヶ月後)の介入を評価する質問紙(尺度)の
返信時に自由記載に記述された言葉を時期別に意味内容で分類した。分類した内容にコ
ードを付与し、付与したコードを共通する意味内容ごとにまとめ、対象者間の共通性、
個別性を検討した。
<結果・考察>対象となった妊婦93名は、65名(69.9%)が初産婦であり平均年齢は36.84
(SD=3.95)歳、来院時の妊娠週数は13.41(SD=2.29)週であった。遺伝相談のあと検査に
ついての最終的な決定をした時点(検査前)で回等された質問紙への自由記載数は83人中
28人、3ヵ月後の自由記載数は、75人中32人、6ヵ月後40人中39人であった。
「検査に対する思い」「選択(決定)についての思い」「医療者への要望・感想」「胎
児に対する思い」は、検査前から3ヵ月後、6ヵ月後に共通して抽出されたカテゴリー
であった。検査前の時点では、「来院の動機」3ヶ月の時点では、「「決定後(検査を
うける・うけないを決めてから)の思い」がさらに6ヵ月後の時点では「出産に際して
の思い」のカテゴリーが上記の共通カテゴリーの他に抽出された。
以上の結果より看護者は、継続して同じ思いの変化をフォローして見守って行く姿勢、
また妊娠経過とともに「出産に際しての思い」のような新たな経験をする妊婦に対して
の通常行われる適切な支援も併せておこなうことの看護への示唆が得られた。また「医
療者への要望・感想」が、共通して全期間に抽出されたこと、妊娠週数が進むにつれて
医療者へのメッセージが増加したことから、よりよい出生前検査のあり方について妊婦
と医療者が協働して新たなケアを創造していくシステムとしてのpeople centered care
の可能性が示唆された。
C-7
NT肥厚を契機とした出生前診断の遺伝カウンセリング
○小笹由香
1) 2)
, 田村智英子
1) 3)
, 吉田雅幸
1) 4)
1)
東京医科歯科大学遺伝診療外来 ,
2)
東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科博士後期課程 ,
3)
お茶の水女子大学大学院人間文化研究所 ,
東京医科歯科大学大学院血流制御内科学
4)
妊娠12週前後に出現するNTについて、計測値および診断結果における正確性などの問
題が指摘されている。妊婦健診に来院する妊婦や家族は、超音波検査の【出生前診断的
要素】について無自覚であることが多いため、突然の胎児異常の可能性を告知され、動
揺・混乱などを来たすことは少なくない。そこで今回、高齢初産の妊婦が出生前診断の
情報提供時には検査を受けないと決めたが、のちにNT肥厚6mmにより胎児異常の可能性を
告知され、羊水検査の結果(18 trisomy)にて中絶に至ったケースを経験したので、報
告する。
目的
NT肥厚による胎児異常の可能性を告知されてから、羊水検査の結果(18 trisomy)に
て中絶に至るまでの動揺・混乱を明らかにし、それに対するケア方法・内容を検討する
ことで、今後のケアへの示唆を得ることを目的とする。
方法
妊婦健診にてNT6mmと指摘された妊娠12wから、羊水検査結果による中絶に至った18wまで
の期間における、妊婦や夫との会話内容のメモ、メールにおけるやり取り、遺伝カウン
セリングおよび妊婦健診内容のカルテ記録などの情報を帰納的に分析した。
結果および考察
高齢初産での出生前診断は受けないと決断した後に、胎児異常の可能性を突然告知され、
さらに遺伝カウンセリングにおいて、NT肥厚6mmから推察されるものは染色体異常だけで
はなく、それ以外の疾患の可能性があると説明されたことは、自然妊娠で順調であると
考えていた夫婦に大きな動揺・混乱をもたらしていた。また、羊水検査を受けて結果で
どうするか、事前に夫婦で十分に話し合い、具体的に考えていたものの、50%の異常がな
い方の可能性を期待していたため、18trisomyはやはり予想を超えた結果であり、衝撃を
受けていた。中絶に至っては、罪悪感を持っていたものの、胎児がIUFD寸前だったこと
をせめてもの救いと感じ、あまり苦しみを与えることもなかったのかなと喪った子への
思いを語った。従って、産婦人科領域と十分に連携し、この先の次回妊娠時も見越しな
がら、継続的なfollowが必要であることが理解された。
計測値および診断結果における正確性や、結果に伴う中絶の可能性など、今後NTにお
ける臨床的診断意義について検討していく上で、貴重な症例と考えられた。
Fly UP