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ELISAの作成と 県内養豚場のApp血清型別浸潤状況

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ELISAの作成と 県内養豚場のApp血清型別浸潤状況
Actinobacillus pleuropneumoniae(App)ELISAの作成と
県内養豚場のApp血清型別浸潤状況
中央家畜保健衛生所
田中健介
篠川有里
会田恒彦
Actinobacillus pleuropneumoniae (App)は
平山栄一
1
樋口良平
石田秀史
LPSの抽出精製
出血性及び線維素性肺炎を主徴とする豚胸膜
① 25%新 鮮 イ ー ス ト エ キ ス ト ラ ク ト を 1% に な
肺炎の起因菌であり、世界各国で多発し、養
るように加えたBHI寒天培地に、1型、2型及び
豚業に多大な経済的損失を与えている。Appの
5型Appをそれぞれ接種し、5%CO 2 環境下、37℃
血清型は、莢膜多糖の構造及び抗原性に基づ
で24時間培養。スムース型のコロニーを25%新
き15の血清型に型別される。日本では2型が最
鮮 イ ー ス ト エ キ ス ト ラ ク ト を 1% 加 え た BHI液
も多く、次いで5型及び1型が多い。Appは異な
体培地5mlにそれぞれ接種し、好気環境下、37
る血清型間で交差感染防御が成立しないため、
℃ で 24時 間 培 養。( 25%新 鮮 イ ー ス ト エ キ ス ト
農場内に浸潤するAppの血清型を把握すること
ラ ク ト は β -NADで 代 用 可 能 。 ま た 、 ス ム ー ス
は、有効なワクチンプログラムを構築する上
型 の コ ロ ニ ー が 発 育 し な い 場 合 は 、 22℃ く ら
で重要な検査である[1]。そのため新潟県では
いで培養するとスムース型のコロニーが発育
平 成 4年 度 か ら 主 に 補 体 結 合 反 応 ( CF) で App
しやすい。)
血清型別抗体検査を実施し、データを農場へ
②5mlの培養菌液を1mlずつマイクロチューブ
提 供 し て き た [2]。 CFは App血 清 型 別 抗 体 検 査
に 分 け 、 13,000rpmで 1分 間 遠 心 し 、 上 清 を 捨
の標準法だが、検査手技が煩雑であるだけで
てる。
なく、試薬の長期保存が難しいため、検査依
③LPS抽出キット(LPS Extraction Kit、 iNtR
頼に柔軟に対応することができない。また、
ON BIOTECHNOLOGY) に 同 梱 の ラ イ シ ス バ ッ フ
ラテックス凝集反応は簡便に実施できるが、
ァ ー を 200μ lず つ 加 え 、 菌 液 が 均 一 に な る ま
市販キットの血清型別は2型のみである。そこ
でよく撹拌する。
で、これらの代替法としてELISAを作成し、そ
④ 4 0μ lの ク ロ ロ ホ ル ム を 加 え て 20 秒 間 撹 拌
の有用性を検討した。また、作成したELISAを
し、5分間室温に静置する。
用いて県内養豚場のApp血清型別浸潤状況調査
⑤4℃、13,000rpmで10分間遠心した後、1本の
等を実施したので、その概要を報告する。
新しいマイクロチューブを用意し、各マイク
ロチューブから上清80μlずつを新しいマイク
材料及び方法
ロチューブに集める。
ELISAの 有 用 性 の 検 討 : 作 成 し た ELISAの 有
⑥ LPS Extraction Kitに 同梱 のピ ュリ フィ ケ
用 性 を 判 断 す る た め に 、 同 一 検 体 に つ い て CF
ー シ ョ ン バ ッ フ ァ ー を 800μ l加 え 、 転 倒 混 和
とELISAを実施し比較した。材料は県内養豚場
し、-20℃で10分間静置する。
の 1か ら 6か 月 齢 の 豚 血 清 50検 体 を 用 い た 。 CF
⑦4℃、13,000rpmで15分間遠心する。
は 1型 、 2型 及 び 5型 の App基 準 株 及 び 参 照 株 を
⑧溶液をデカンテーションで捨て、1mlの70%
ホルマリンで不活化した菌体を抗原として使
エタノールでチューブをリンス後、チューブ
用 し 、 常 法 ( Kolmerの 少 量 法 の 変 法 ) に 基 づ
を風乾させる。
き実施した。ELISAはCFと同じ菌株から精製抽
⑨500μlの0.01M Tris-HCl(pH8.0)を加え、
出 し た LPSを 抗 原 と し て 使 用 し た 。 ELISAの 作
撹拌した後、チューブを100℃、10分間煮沸す
成方法及び検査方法は以下に示す方法で実施
る。完全に溶解していることを確認し、滅菌
した。
小試験管等に全量を移した後、高圧蒸気滅菌
器で121℃、15分間処理する。処理後、13,000
③抗原の力価検定④~⑧と同様の工程を行う。
rpmで5分間遠心した上清をLPS抗原液とする。
④ OD値 か ら S/P比 を 算 出 す る 。 S/P比 の 算 出 方
2
法 は 、( S( 検 体 の O D値 ) -NC ( 指 示 陰 性 血 清
抗原の力価検定
①LPS抗原液を3.15M PBSで100倍から12,800倍
のOD値))/(PC(指示陽性血清のOD値)-NC)
に階段希釈し、ELISAプレート(Nunc polysor
とした。
p、Nunc)に各希釈段階の抗原液を100μlずつ
異なる血清型間の交差反応を確認するため
加え、4℃で1晩静置し固相化する。
に、1型、2型及び5型陽性血清を、それぞれの
②固相化したプレートの溶液を捨て、0.05%Tw
血清型のLPS抗原を最適希釈倍率で固相化した
een20加PBS(洗浄液)でウェルを2回洗浄する。
ELISAプレートに対し、同一及び異なる血清型
③指示陽性血清を100μlずつ各ウェルに加え、
の組み合わせでELISAを実施した。
20~25℃で1時間反応させる。指示陽性血清及
固 相 化 ELISAプ レ ー ト 1枚 あ た り の 作 成 及 び
び 指 示 陰 性 血 清 は 、 平 成 20年 度 に 財 団 法 人 日
検査にかかる試薬コストを試算したところ、L
本生物科学研究所(現一般財団法人日本生物
PS抽出キットは50円、ELISAプレートは300円、
科学研究所)から分与されたものを使用した。
検 体 希 釈 液 は 12円 、 二 次 抗 体 は 88円 、 基 質 液
④液を捨て、洗浄液で3回洗浄する。
は600円、計1,050円であった。
⑤ペルオキシダーゼ標識抗豚IgG(免疫動物:
県内養豚場のApp血清型別抗体保有状況調査
ウサギ)を抗体希釈液で2,000倍希釈したもの
:県内養豚場31農場で、平成24年4月から平成
を 100μ lず つ 各 ウ ェ ル に 加え 、 20~25℃ で 30
25年3月に採材された3から6か月齢の豚血清14
分間反応させる。抗体希釈液はブロッキング
4検体についてELISAを実施した。
試薬(Blocking Reagent、Roche)を0.05%Twee
病性鑑定豚由来App血清型別検査:平成20~
n20加PBSで0.005g/mlになるよう溶解し作製す
24年度に病性鑑定事例で分離された豚由来App
る。 Blocking Reagentの 溶 解は 、 約60℃ くら
105株について、1型、2型、5型及び7型の各血
いに加温しながら少量ずつ1N NaOHを加えて行
清型で免疫した家兎血清を用いたスライド凝
い、pHを7.2~7.5の範囲に調整する。
集反応、もしくはPCR法で血清型別検査を実施
⑥液を捨て、洗浄液で3回洗浄する。
した。
⑦TMB基質液(SureBlue Reserve、KPL)を100
ステージ別血清型別抗体検査:病性鑑定でA
μl加え、20~25℃で5分間反応させる。
pp2型 が 分 離 さ れ た 農 場 ( A農 場 ) と 、 病 性 鑑
⑧ 反応 停止 液( 1N HCl) を 100μ lず つ 各 ウ ェ
定でApp2型及び5型が分離された農場(B農場)
ルに加え、ELISAリーダーOD450nmで測定する。
の 計 2農 場 に お い て 、 平 成 25年 6月 に 採 材 さ れ
⑨ OD値 が 1.0~ 1.5を 示 し た 希 釈 倍 率 を 最 適 希
た1から5か月齢の豚血清各ステージ3頭ずつ計
釈倍率とする。
30検体についてELISAを実施した。
⑩ 3.15M PBSで 最 適 希 釈 倍 率 に 希 釈し た LPS抗
原液をELISAプレートに各ウェル100μl加え、
4℃で一晩静置し固相化する。
成
績
ELISAの 有 用 性 の 検 討 : CF抗 体 価 が 8倍 以 上
⑪固相化したプレートの溶液を捨て、洗浄液
の検体を陽性と判定し、陰性群と陽性群に分
でウェルを2回洗浄して後に風乾し、完成。風
けてELISAのS/P比を比較した(図1)。そして、
乾後密封して、よく乾燥した冷暗所に長期保
最適なカットオフ値を探すため、S/P比0.3~0.
存できる。
5をカットオフ値と仮定し、それぞれの一致率
3
を比較した(表1)。その結果、2型と5型につい
野外血清の検査
①被検血清を抗体希釈液で100倍希釈する。
て は 、 S/P比 0.4で 最 も 高 い 一 致 率 が 認 め ら れ
②指示陽性血清、指示陰性血清及び希釈血清
た。1型はS/P比0.5の一致率が最も高かったが、
を100μlずつ各ウェルに加え、20~25℃で1時
S/P比0.4との差は少なく、3つの血清型のカッ
間反応させる。
トオフ値をS/P比0.4に決定した。
表4
病性鑑定分離株の血清型別成績
各血清型間の交差反応については、表2に示
すとおり、異なる血清型の組み合わせでは反
応がほとんど認められなかった(表2)。
ステージ別App血清型別抗体検査:A農場は、
4か月齢から5か月齢にかけて2型の陽転が認め
ら れ た 。 1型 及 び 5型 の 陽 転 は 認 め ら れ な か っ
た(図2)。B農場は、2か月齢から3か月齢で2型
の陽転が認められ、4か月齢から5か月齢で5型
の陽転が認められた。1型の陽転は認められな
かった(図3)。
図1
表1
CFとELISAの比較
カットオフ値S/P比0.3~0.5の一致率
表2
血清型間の交差反応
図2
A農場のステージ別検査成績
図3
B農場のステージ別検査成績
県内養豚場のApp血清型別抗体保有状況調査
:農場陽性率は1型が19.4%、2型が74.2%、5型
が61.3%であった。個体陽性率は1型が6.9%、2
型が61.8%、5型が25.0%であった(表3)。
表3
血清型別抗体保有状況調査成績
考
察
Appは 莢 膜多 糖の 抗 原性 によ り 型別 され る
病性鑑定豚由来App血清型別検査:供試株の
が、LPSも血清型を決定する重要な抗原であり、
型別成績は2型が85.7%、5型が10.5%、6型及び
1型(1型、9型及び11型はLPS抗原が共通)と、
7型がそれぞれ1.0%、型別不能が1.8%であった
2 型 及 び 5型 に つ い て は L PSの 抗 原 性 が 異 な る
(表4)。
[1]。 LPS抽 出 キ ッ ト を 用 い る こ と で グ ラ ム 陰
性 菌 か ら LPSを 精 製 抽 出 す る こ と が 可 能 [3]で
あることから、AppのLPSを抗原としたELISAの
pp動 態 を 血 清 型 別 に 把 握 で き る こ と が 確 認 さ
作成を試みた。作成したELISAとCFの成績は、
れた。Appの関与した疾病が多発した農場や、
各血清型とも90%以上の一致率が認められ、各
と畜場の肺病変検出率の高い農場では、病性
血清型間の交差反応もほとんど認められなか
鑑定と併せて農場内のApp動態を詳細に把握す
ったことから、本ELISAはCFの代替法として血
ることが、的確な衛生対策を構築する上で有
清型別抗体検査に有用であることが確認され
効と思われた。
た。結果の異なる検体についてはELISA陽性か
ステージ別抗体検査は1農場あたりの検体数
つCF陰性が多く、ELISAの感度が高いと推察さ
が多くなってしまうが、本ELISAの作成及び検
れた。ELISAプレートの精度管理のためには、
査 に 係 る 試 薬 コ ス ト は 1プ レ ー ト あ た り 1,050
LPSを抽出する毎に同じ指示陽性血清を使って
円であり、多検体の検査を実施しても大きな
力価検定を実施することと、一度にたくさん
負担にならないと思われた。また、作成した
のプレートを作成することが重要であると思
プレートは長期保存が可能であることから、
われた。また、本研究では分与された指示陽
急な検査依頼にも柔軟に対応できる。App動態
性血清を用いたが、病性鑑定等でApp感染の確
は時期によって変動することが確認されてい
認された肥育豚の血清であれば、指示陽性血
るが[2]、気候の変化による影響や、豚舎毎の
清として使用可能と思われた。
浸潤状況など、より詳細なApp動態の把握に活
県内のApp血清型別抗体保有状況調査では、
用できると思われた。また、本ELISAの検査工
2型及び5型陽性農場が県内全域に認められ、1
程は通常のELISAと同様であり、プレートを配
型陽性農場は一部で認められた。過去の調査
布し試薬を揃えれば現地家保でも検査可能で
に お い て も 、 2型 及 び 5型 陽 性 農 場 が 県 内 全 域
ある。したがって、採材後にすぐ検査でき、
で確認されており[2]、今回の調査と同様であ
農場への迅速な衛生指導が可能である。今後
った。また、病性鑑定分離株の血清型別検査
は野外検査事例を重ね、App対策に貢献できる
成績では2型の分離率が非常に高く、浸潤状況
よう取り組んでいきたい。
で は 2型 と 5型 に 大 き な 差 が 無 か っ た も の の 、
引用文献
死亡事例の多くに2型が関わっていることが示
唆された。
ス テ ー ジ 別 App血 清 型 別 抗 体 検 査 で は 、 A農
[1] 伊藤博哉:All About Swine, 36, 2-9(20
10)
場では肥育舎移動後の2型の感染が推察され、
[2] 矢 部 静 ら : 平 成 20年 度 新 潟 県 家 畜 保 健 衛
B農 場 で は 子 豚 舎 移 動 後 の 2型 の 感 染 、 肥 育 舎
生業績発表会集録,64-67(2008)
移動後の5型の感染が推察された。このように、
[3] 小林秀樹:All About Swine, 30,25-28(2
ステージ別血清を利用することで、農場内のA
010)
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