...

Page 1 愛知県 の出生率の地域的差異 河 原 正 奥 1. 序 論 研究の他に

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

Page 1 愛知県 の出生率の地域的差異 河 原 正 奥 1. 序 論 研究の他に
愛 知県 の出生率 の地域 的差 異
河 原 正 史
研究の他に,更に「出生」「死亡」即ち人口再生産の地理
1.序 論
的 研 究 も存 立し う る と思 う。 筆 者 は 問 題 を「 出 生」 の み に
人口現象は地域綜合指標又は地理的現象の総和である。
限 り , 出 生 率 の 地 域 的 差 異 に関 し て愛 知 県 の 場 合 を取 り 上
而して人口地理学の最近の傾向は移動・増減・出稼の三つ
(1)
の方向に要約され る。然るに人口現象の本質が「 出生」 と
げ , 出 生 現 象 に 内在 す る地 域 性 の 一 端 を 知 ろ う と 努 め た。
「 死亡」と言う事を考慮す るならば,移動や出稼の地理的
博 士 ・ 栗 原 助 教 授 及び 地 理 学教 室 の 諸 先 生方 , 又 調 査 に 御
-55-
論 文 作 製 に 当 つ て 終始 御懇 切 な 指 導 , 助 言 を頂 い た 伊 藤
協力 下 さ た つ 地 元 関 係 各 位に 心 より 感 謝 の 意 を 表 す もの で
これが本論の主要解明目標である。全国的視野に立つて愛
あ る。
知県を見れば,出生率25.9‰,順位は35位となつて決して
高くなく,全国的平均より遥かに低い。県内における出生
2.出生率の全国約展望と愛知県の場合
率の市町村別地域に処理した結果を示せば第2図の如くな
り,極めて地域的ニユアンスをとる。即ち概略して三河山
出生率の大小は言う迄もなく幾多の社会的・経済的・地
理 的・ 歴 史的 条 件に よつ て 決定 さ れ るか ら, 地 域 に よ つ て
地・渥美半島・沿岸島嶼・尾西地方に高出生率村が集中し,
名古屋市及びその周辺・尾張丘陵・知多半島・津島市周辺
第1 図 都道 府 県 別 出 生 率
に低出生率村が集中している。要するに出生率の地域的分
布は,本県の場合においても「愛知県の東北」と称される
三河山間地域に高出生率地域が存在し,名古屋市を中心と
する都市化・工業化の進展する尾張地方に低出生率地域が
認められ,高出生率地域を三河型,低出生率地域を尾張型
として設定し,更に三河型を設楽型・渥美型・湾内型に,
尾張型を知多型・尾西型の5つの地域に類型化区分して考
察を進める。本論では特に設楽型として毎年最高出生率を
示す名倉村と,知多型として毎年最低出生率を示す池野村
の高低相反する,類型の異る両村の分析を進める事によつ
て出生率の地域差究明の一端を把握せんとするものである。
名倉村は北設楽郡の中央に位置し,開析準平原たる三河高
原の東部にあつて標高約650m,戸数502戸,人口2,947人,
面積54.85方粁,内耕地は5.6%,山林93.9%を占め,名古
屋市よりの路線経由距離は136.0kmで,県下最長距離をも
つて役場に達する隔絶性山間村である。池野村は現在は犬
山市に属している。尾張丘陵北端に位置し,標高約40m,
戸数207戸,人口1,024人,面積108.09方粁,内耕地は約35
%, 山 林65 % を占 め, 名古 屋 市 よ り21km
の 距 離 に あ る。
実 態 調 査 に 際 し て は 「 農 村 人 口 出 生 力 に 関 す る調 査 票 」 を
差異の存在する事は自から明らかであり,
第2 図 愛知県の出生率分布
ここに地理的考察が為される余地がある。
大正9年以降の出生率の変化を各府県別
にみれば,その地域差は明瞭に表現され
ており,その一例として昭和25年(1950)
の場合を第1図に示した如く,一般的傾
向として北海道と東北6県及び九州各県
が最も高いのに反して,大都市の在る東
京都・神奈川・愛知・京都・大阪・兵庫
等の主として関東南部から中部・近畿及
び東中国の各地方の府県に低く,そして
北関東・北陸及び西中国・四国の各地域
が一 応 漸 移 地 帯 とし て 存 在 す る。
又出生率の低下は全国的に共通せる現
象であり,1950年頃まで続いた30∼35‰
と言う高率は昭和28年(1953)には21.4
‰と激しく低下している。がしかし東北
・九州地方と他地方では各府県によつて
それぞれ相違があり,前者は緩慢,後者
は漸減の傾向を示す。然らば愛知県の場
昭22.23.25.26.27.28.累年平均
合は如何なる地域差を見るであろうか─
-56-
作製,全戸に配布,処理集計結果によつた。
名倉村は70.2%,池野村は66.7%となり,名倉村の場合に
は多くの女子は配偶関係にある事を意味してはいるものの,
3.出産力の対比
これのみで出生率高低の差異が存するとは言い得ない。次
(a )人 口 増 減 と出 生 率 変 化
に両村婦人の初婚年令分布を見た結果,名倉村は20才(
両 村 の 最 近 の 人 口 増 減 及び 昭 和20年 以 降 の 出 生 率変 化に
16.3%)が最も多く,次いで22才(13.0%),21才(11.4
つ い て み れば 第1 表 の 如 く な る。 そ の 結 果 名 倉 村 の人 口 は
%)となつて平均年令は19.5才を示す。一方池野村は20才
漸 増 型 を 示 し , 池 野 村 は 停 滞 的 型 を 示 す。 出 生 率 の変 化 は
(23.1%)が最も多く,やや高率であるが次いで22才(
16.9%) , 21才(13.9%)となり,平均年令は20.6才を示
( 第1 表 ) 名 倉・ 池 野 村 の 人 口 動 態
し て, 1.1 才 だ け 名 倉 村 婦 人 の方 が 若 く 結 婚し て い る事 を
村名
名
人
倉
口
出生率
%
人
昭20年 3,519 26.75
21
3,162 30.35
22
3,230 44.82
32.80
23
3,213 34.15
25
3,338
26
─
34.15
27
3,302 27.05
29.38
─
28
人
野
1,349
─
物語 るが , こ れ も余 り 問 題 とは な らな い 。
平均
出生率 県
出生率
口
─
年次
池
16.78
1,30632.00
1,228
32.00
29.41
1,224
1,10920.74
18.94
1,04215.38
8.75
(C ) 出 生 児 の 分 析
出生率の高低を見る結果的表現として,次に出生児の分
─
析を試みた結果,次の如くなる。同棲期間別に一夫婦当り
─
の出生児数を第2表に示した。これによれば同棲期間別に
33.65
34.62
25.91
見て,いづれの期間も名倉村婦人の平均出生児数は池野村
に比して多く,同棲期間14∼15年前後において平均1.2人
23.99
20.63
第2表 名倉・池野村同棲期間別一夫婦当り出生児数
19.07
村名
( 備 考 )県 統計 , 役 場 資 料 に よ る。 他項 目 は 省 略
名
倉
池
野
出生 一夫婦
同棲期間
夫婦数 出生 一夫婦
児数 当り 夫婦数 児数 当り
0∼4年 33
33
1.00
12 8
0.67
5∼9
50
138 2.76
11 22
2.00
10∼14 18
63
3.50
13 31
2.38
15∼19 10
46
4.60
10 38
3.30
20∼24 10
46
4.6012
55
4.17
25∼29 1
5
5.00
10 45
4.50
16
30年以上40
214 5.35
43
2.69
両村とも低下を示しているが,時期的ズレを見せており,
名倉村は池野村に比して遅く低下の傾向を辿る。しかし県
平均に対し,最高率を持続しており,逆に池野村は最低率
を示し,両者の差は著しく大となつている。
(b ) 有 配 偶 率 と 初 婚年 令
出生に関係する有配偶率と初婚年令とを見た結果,特に
配偶関係別人口構造は,その地域の社会的・経済的な諸条
( 備 考) 農 村 人 口 出 生 力 調 査 結 果 に よ る
件を集約し,反映しているとも言え,且つ通婚圏との関係
の 差 異 を 生ぜ し め てい る事 が 知 ら れ, 両 村婦 人 間 にお け る
をも併せ考えねばならない事を知つた。(後述)しかして,
出 産 力 の 差 異 が ,高 低 相 反 す る原 因 とし て把 握 さ れ 得 る。
妊孕年令女子人口率を求めたところ,名倉村は20.8%,池
更 に こ れ が 如 何な る形 態 で もつ て 差 異 を生 ぜ し め てい るか
野村は23.3%となり,この中での有配偶率を求めた結果は
を 裏付 け る 為に 出 産 間 隔 年 数 の 分 布に よつ て み た 結 果は 次
(第3 表) ( 名倉村)出産間隔年 数分布及び その割合
出産間隔
O∼1年1∼2
年 2∼3
年 3∼4
年 4∼5
年
出産順序
第1子出産ヨリ
74 5
第2 子出産マデ (0.8)
2 (32.5)
( 37.
8
(省 略)
1
2)
野
7
6
0)
0
(8
(
2
(
( 備 考 )第2
0
.
7
)
(25.4)
3
(― 57( ―.
(35.1)
45
102
(15.4)
(11.7)
34
表 と同 じ
1
1
(0.1)
(2
5
2
)
合)
0
1 (
6 4 1
(省略
計
(割
4
21
(3.1)
7.
(26.2)(35.1)
39 (14.4)
16 (11.7)
.813
7)
29
74
(100.0)
1
119
村) (2
第1子出産ヨリ
第2
子出産マデ
7
(3.1)
7
6(7.
1 (3.1)
30
(17.5)
89
(池
(13.2)
∼7 ∼8 ∼9 ∼10 ∼11 ∼12 ∼13 ∼14
5∼6
年 6年 7年 8年 9年 10
年 年
11 12
年 13
年
計
.5
2
(1.8))(1.8)
10
(3.4)
10 (3.4)
(2.7)
8
1
(0.9)
(2
.78
)
3
(O.5)
4
(O.1)
1
(
1
.
(0.1)
1
(0.1)
1
(1.8)
2
(0
.7
) 2
681
(100.1)
(100.0)
1
1
(0.
4)
1 (
291
(100.0)
228
の 如 くで あ る。 即 ち第3 表に そ れを 示 し た の で あ る が ( 実
る隔差が理解される。故に上述し た類型地域 と対比す るな
数 省 略・ 総 計 の み ) , 出 生順 位別 に 若 干 乱 れ が あ つ て も名
らば,名倉村は後進性農村の多 産と言う性格に,池 野村 は
先進性( 進歩的)農村の少産と言う性格に それぞれ類型 化
倉 村に 比 し て , 池 野 村 婦 人 の出 産 間 隔 は 延 引 さ れ て お り ,
且 又出 産間 隔 分 布 密 度 も延引 さ れ た所 に 集 中 し て い る事 が
把 握 さ れ る。 名 倉 村 は 逆 であ つ て 端的 に 表 現 す るな らば 短
されうるのである。農 家階層別に強いて見るならば 名倉村
の出生形態は上層に低く,下層に高くなるが,池野村は下
期間 隔 を もつ て 次 子 を出 産し て い る事 とな る。 か く の 如 く
層より上層に向け高くなる傾向 があり,異つた地 域性を示
出 生 児 が 少 な く, 且 つ 出 産 間隔 が延 引 さ れて い る事 は 異 常
す。要するに特殊出生率の分析を通し てその一 端を見たの
型 を 示 す もの であ り, 池 野 村 婦人 を し て 何 等 か の , 人 為 的
( 第5 表 ) 名 倉・ 池 野村 農 家 階 層 別 特 殊 出 生率
抑 制 を 行 わし め てい る条 件 が 作 用し て い る 事 を 物 語 る もの
村 名
である。
名
池
倉
妊孕年 才の子 出 生 率
令女子供及び0 ( 千 に
有配偶才の死亡つき)
者数 児数
0
(d ) 差 別 出 産 力
階
農民の出産力が都市的地域の住民の出産力を凌駕する事
は改めて記す必要もなかろう。そこで如何なる地理的・社
町
0.1∼0.3 27
O.3∼O.5
O.5∼0.7 72
O.7∼1.0 111
1.0∼1.5 67
338
総 数
会的・経済的諸条件の下にある農村人口はどの程度の再生
61
産力を有するか,換言すれば再生産力の地域的ニュアンス
層
は如何ほどなりやと言う事の一部を見た。即ち集計処理上
種々の条件を考慮して,三河型。尾張型両地域を代表せる
両村有配偶婦人のみを抽出して差別出産力を求めた。その
5
8
12
17
5
47
野
才の子
妊孕年
出生率(
令女子 供及び0
才の死亡
つき)
千に
有配偶
者数 児数
0
185
131
116
153
75
140
42
127
11 ─
18 2
43 5
6
─
13
13
─
111
116
143
─
102
( 備 考 ) 第2 表 に 同じ
結果を示せば第4表の如くなり,名倉村においては「上層
別
で あ るが , 三 河 型 後 進 性 地 域 に お け る高 出 生 率 , 尾 張 型 先
多産・下層少産」の一般的正常型とは全く異る,所謂「貧
進性 地 域 に お け る低 出 生 率 と言 う地 域 性 が 把 握 さ れ る。 然
者多 産 」 の 近 代的 傾向 と も言 う べ き形 態 を 示し てい る。 一
らば 後 進性 地 域 は 全 て 高 出 生 率 を 示 し , 先 進 性 地 域 は 低 出
方 池 野 村 に おい ては 上 ・ 下 両 層 を 除 き, 中 核農 家 層 に 多 産
(2)
であ り , 名 倉 村 や他 の 類 型 地 域 とは 異 る。 次に 年 令別 に 見
生 率 を 示 す か と言 え ば , 決 し て そ う ば か り で な い 事 は 既 往
の 研 究 が 示 唆 し て い る。 即 ち村 類 型 的 ・ 農 民 階 層 的 に か な
れば30 才 以 下 の 婦人 の 出 産 力 が 出 生 率 高低 を 決定 す る要 因
り の 差 異 が 見 られ , 一 様 に 多 産 で あ つ た り , 少 産 で あ つ た
と見 做し う る。 即 ち名 倉 村 に お い て 各 階 層 別に か なり 乱 れ
りす る 事が な い の で あ る。 現 在 の 段 階 とし て は , こ の 様 な
があ る が , 池 野 村に お い て は , な らし て平 均 化 さ れた 出 生
複雑 多 岐 に 亘 る差 異 に も拘 わ ら ず , 根 底 に は 地 理的 に 何 等
思
か の 条件 が 共 通 に 働 い て い る 結 果的 表 現 に 他 な ら な い と
児 数 を 示し てい る。
更に厳密なる意味における,特殊出生率(有配偶妊孕年
わ れ る。
令女子の調査時現在に至る過去一ヶ年間の出生児の比率)
(e ) 移 動人 口 の 分 析
を算出すれば,(第5表)名倉村においては140‰である
出稼・縁事等を含む他出者を筆者は人口再生産力の地域
のに対して,池野村は102‰を示し,出生率の高低相反す
的考察の立場か
(第4表)〔名倉村〕経営規模別・年令階級別有配偶婦人数及び出産児数
年 令 階 級
階層
町未満
O.1∼O.3
0.3∼O.5
別
O.5∼O.7
0.7∼1.0
1.0∼1.5
1.5∼
総
計
総
数
ら,この様な人
15 ∼30才
口 移 動 又 は農 民
31 才以上
有配偶 出 産 平均出 有配偶 出 産 平均出 有配偶 出 産 平均出
婦人数 児 数 産児数 婦人数 児 数 産児数 婦人数 児 数 産児数
26
61
70
104
65
11
337
55
123
142
189
140
19
668
2.1
2.0
2.0
1.8
2.1
1.7
2.0
7
18
19
45
22
8
119
13
17
46
41
13
3
131
6
21
59
46
11
2
145
O.4
1.3
1.3
1.1
0.8
0.7
1.1
4
9
9
9
2
1
34
13
28
36
79
44
13
213
1.8
1.5
1.9
1.7
2.0
1.6
1.8
19
43
51
59
43
3
218
42
95
106
110
96
6
455
2.2
2.2
2.0
1.9
2.2
2.0
2.1
〔 池野 村 〕
O.1∼0.3
0.3∼0.5
0.5∼O.7
0.7∼1.0
1.0∼1.5
1.5∼
総計
離 村 は「 高出 生
力 に対 す る農 村
人 口安 定 化 の 手
段 で あ る」 と 仮
定し て 分 析し た。
( 第6 表 ) そ の
結 果 名 倉 村 にお
い て は 下 層農 民
に移動は促進さ
3
11
8
14
2
1
39
( 備 考 )第2 表 に 同じ
O.7
1.2
0.9
1.5
1.0
1.0
1.1
9
8
37
32
11
2
97
3
10
51
32
9
1
106
0.3
1.2
1.4
1.0
O.8
O.5
1.1
れており,戦前
よりの農民移動
の一般的形態と
一 致 す る。 即 ち
特 殊 出 生 率 と併
考すれば多産多
- 58 -
(第6表)階層別他出者を有する農家数と他出者数
4. いわゆる農民的多産と寡産の
名倉村
他出者
階層別 総戸数を有す
る農家
戸数
町
0.1∼0.3 35
11
0.3∼O.5 81
20
0.5∼0.7 88
38
O.7∼1.0 1
1.0∼1.5 65
39
52
1.5∼ 113
2
非 農 家 34
7
総
数
417 169
階層別
町
O.1∼O.3
0.3∼0.5
0.5∼O.7
O.7∼1.0
1.0∼1.5
1.5∼
非農家
総 数
地 理 的要 因
他出者数
有する
他
出者戸
を
数1 戸当
計 りの他出
者数
男
女
15
19
42
10
27
47
25
46
89
2.3
2.3
2.6
46
44
3
8
177
55
64
1
4
208
101
108
4
12
385
2.6
2.1
2.0
1.7
池
野
概 略 で は あ るが 出 生 率 の 高低 相反 す る 二 ヶ 村を 抽 出し て
その 内 容 を 人 口 再 生 産 の 立 場 か ら分 析 し , 村 類型 的 に 後 進
性地 域 に お け る農 村 婦 人 の 出 産力 が, 先 進 性 地 域に お け る
農 村 婦 人 の 出 産 力 を 凌 駕 す る 事 を 見 た。 而 し て こ の差 異 を
決定 づ け る要 因 は 何か に つ い て , 次 に7 個の 要 因 をあ げ て
地 図 化 す る 事に よつ て予 察 的 に 分 析し て 見 た。 用 い た資 料
は1951 年 愛 知県 臨 時 農 業 調 査 の 結 果 に 基 づ く。
(a ) 土 地 利 用 率 と 出 生率 との 関 係
水 田 率 との 場 合 に は 約60 % 以 下 の 地 域 が高 出 生率 地 域 と
2.3
な つ て お り , 逆 に 約60 % 以 上 の 地 域 は低 出 生 率 地 域 とな つ
て, 出 生 率 とは 逆 の 関 係 に な る。 畑 地 率 の 場 合 で は35% 以
村
上 の 地 域 が 高 出 生 率 地 域 とな り , そ れ以 下 の 地 域 が 低出 生
15
26
47
48
14
2
27
179
7
3
9
15
17
2
7
60
1
3
8
9
6
2
6
35
3
4
7
1
15
23
0
19
28
6
12
4
6
4
10
58
93
率 地 域 とし て 存 在 し , 水 田 率 とは 逆に 正 の 関 係 を示 す。 二
1.3
毛 作 田 率 の 場 合 は 約30 % 以 下 の地 域 が 高 出 生 率 地 域 とな り ,50
1.5
1.1
1.6
1.7
3.0
1.4
1.6
% 以 上 の 地 域 は 低 出 生 率 地 域 と なつ て逆 の 関 係 にあ る 。
(b ) 兼 業 農 家 率 と出 生 率 と の 関 係
専業農家率及び第2種兼業農家率との関係は薄い事が知
られる。そこで第1種兼業農家率との関係を見れば31%以
( 備 考 ) 第2 表に 同 じ
上の地域が高出生率地域となつており,兼業内容も山林業・
漁業が卓越する地域と高出生率との関係が濃く,二・三の
出,換言すれば近代的差別出産力と前近代的移動形態とが
例外地域を除き,かなり正の関係にある事が理解される。
組合さつて,農山村性地域としての性格を示す。池野村に
(c ) 米・ 麦 収 獲 率 と出 生 率 と の関 係
おいてはこれとは逆になつて上層多出を示しているが,特
米の場合反当収量1.9石以下の低生産性地域が高出生率
殊出生率にブランクがある為に明確な事は現在の所断定出
地域となつており,麦の場合も同様である。しかし尾張型
来なく,中核農層のみに多産多出が言えるのである。次に
地域においては,やゝ妥当性に欠ける為に,三河山間地域
他出理由別・他出後の職業別にみれば,両地域の性格が一
と渥美型地域にのみ関係あると限定される。而して(a)・
層明らかにされる。即ち両村共に男子ぱ就職(名倉村64.5
(c ) の 結 果 的 表 現 と し て( 他に 各 要 因 , 指 標 が考 え ら れ る
%・池野村48.5%)を,女子は縁事(名倉村69.0%・池野
事は 勿 論 の 事 ) , 名 倉 村・ 池 野 村の 場 合 に つい て 松 井 貞雄
(4)
氏 の 研 究 結 果 を 参 照 し て 考 察し た結 果 ( 調 査 結 果 も併 せ 考
村55.4%)を理由としている者が最も多い。しかも名倉村
の他出者は肉体的筋肉的あるいは徒弟的方面の就業者が多
察 し た ) 次 の 如 く要 約 さ れ る。 即 ち名 倉 村は 水 田 単 作 村 の
いのに反し(55.4%) ,池野村のそれは頭脳的知識的方面
低 収 量 地 域 とし て, 又 低 所 得 地 域 に あ り, 池野 村 は 田 畑 混
への就業者が多い(34.3%)。又女子の縁事移動を除けば両
村 と も女 工 等 の 出 稼 労 働 が そ れ ぞ れ 約19 % を示 し , 農 村
作 村 とし て も低 収 量・ 低 所 得 地 域 にあ る 事を 考 慮 す れ ば,
に お け る女 子 労 働力 は 所 謂 過 剰 人口 圧 緩和 の 為 に , 結 局 は
(3)
他 出 賃 労 化 せ ざ る を 得 な い の は 共 通 現象 とし て見 られ る。
的 ・ 社 会的 に は 恵 ま れな い 事 と高 出 生 率 と組 合 さ つ て い る
且 つ 通 勤 者 を 見 る に , 名 倉 村 に お け る 村 外通 勤 者 は 僅 か 数
人 を 数 え るの み で あ り , 出 婚 圏 も主に 同 一 郡 内 か 隣 接 町 村
の み に 形 成 さ れ て い て, 言 わば 孤 立的 存 在 とし て 把 握 さ れ
前 者 は 山間 僻 地村 とし て の 地 理 的 位 置・ 条件 が 決 し て 経 済
事 とな り , 後 者に あつ ては 尾張 丘 陵 地 域 と 言 う地 理 的 条 件
が 尾 張 型 地 域 にお い ては , 必し も経 済 的 に 優 位で あ る とは
解 し 難 く , 所 謂 貧 困 性 に 基 ず く が 為に , 出 生 の人 為 的 抑 制
限 定 さ れて い る。 一 方 池 野 村 に お い て は 村 外 通 勤 者は 大部
と言 う結 果 を 見 出 し , 低 出 生 率 とが 組 合 さ つ てい る事 とな
(5)
るのである。その結果尾張型地域において,尾張・知多丘
分 名 古 屋 ・ 一 宮 ・ 犬 山 各 市 の 尾 張 部 市 域へ 通 い , 又 出 婚圏
陵に含まれる地域が低所得地域十低出生率地域として知多
出 稼 者 も豊 橋・ 蒲 郡・ 名 古 屋 各 市へ の 織 物 工員 関 係の みに
もほ ゞ こ の 通 勤 圏 と一 致 し て お り, 都 市 文 化的 影 響 に よ る
型となり,尾張平野部が高所得地域十低出生率地域として
の尾西型を設定する事が出来る。一方三河型地域において
接 触変 質 を 受 け て い る 事は 言 うを 俟 た な い。
も,低・零細所得地域十高出生率地域として設楽型を,高
所 得 地 域 十高 出生 率 地 域 とし て 渥美 型 , 及 び 漁 業 と 特に 組
合 さ つ て い る湾 内 型 に そ れ ぞ れ区 分 さ れ, 出 生 率 高 低 を 決
-59-
定 す る 要因 の作 用 が 異 つ て い る 事 を 如実 に 示 し て い る と言
(g ) 文化度と出生率との関係
文化 度の一指標 とし て「産児制限(受胎調節)」の思想
え る。
(d ) 出 稼 率 と出 生 率 との 関 係
普及の度合, 実行率 を求 めたが(「産児制限に関す る調査
1950年 セン サ ス に よ り 算 出し た結 果 , 三 河 型 地 域 にお け
る出 稼 率 は9 % 以上 を示 し , 特 に 設 楽 型 地 域 で は11 % 以 上
票」を 配布),一部上段で記したほか紙面の都合で省略す
る。
の 高 率 を 示 し ,高 出生 力 に 対 す る 農 村 人 口 安 定 化 の手 段 が
5.結 語
強 力 に 作 用し てい る もの と解し 得 る。 両 者は 正 の 関 係に あ
(6)
る。
し て , 人 口 再 生 産 力 の 地 理的 考 察 を 予 察 的 に 為し た 結 果 を
(e ) 産 業 別 人口 構 成 と出 生 率 と の 関 係
ColinClark
以 上 要 す るに 人 口 現 象 に お け る出 生 率 の 地 域的 差 異 に 関
の 分 類 に 従 つ て 第1 次 産 業 人 口 構 造 と 出 生
率 と の 関 係 を見 名に55 % 以 上 の 地 域 が三 河型 地 域 と一 致 し ,
要 約 し て結 語 に か え る。
(1) 全 国 的 傾 向 と し て 出 生 率は 第二 次 大戦 後(1950 年 以降 )
尾 張 型地 域 で は40 % 前 後 と なつ て低 く表 現 さ れ る 。 故 に 第1
急 激 に 減 じ つ つ あ り , 愛 知県 の 場 合 も同 様 であ る が, 依
次 産業 人口 率 の 高 率 地 域 にお け る高 出 生 率 は 従 来 の 論 証
然 と し て 相 対的 に三 河 部に 高 出生 率 地域 が, 尾 張 部 に 低
出 生 率 地 域 が そ れ ぞ れ 集 積し , 三 河型 地域 ・ 尾 張 型 地 域
と同 様, 愛 知 県 の 場 合 も適用 す る。 第2 次 。第3 次 産 業 人
と 類型 化 が 可 能 であ り, 更に 各 々五 個の 小 地 域 的 類 型 に
口 構 造 とは や や 関 係 は 薄 くな るが , 特 に 第3 次 産 業 人口 率
諸 種 の 条 件 を 考 慮し て類 型 区 分 さ れ る。
の 場合 は , 高 率 地 域 ほ ど 低 出生 率 を 示 し て , 第1 次 産 業 人
口 率の 場 合 と は 逆 の 関 係に あ る。 要 す るに 産 業 の 類 型 発展
(2) 出 生 率 高低 相 反 す る推 移 傾向 は , 極 めて 複 雑 多 岐 で あ
り, 村 類 型 的 ・ 地 域 類 型 的 に 各 種 の 環 境 条 件 に よ つ て 決
段階 に 応 じ て ,農 民 の多 産 ・ 寡 産 を 決 定 す る 要 因 を 見 た の
定 さ れ , 地 域的 分 布 も幾 多 の 要 因 の 組 合 わさ つ た 結 果 的
であ るが , こ の 様 な 人口 構 造 を 見 出 す 根 底 は , や は り各 地
表 現 とし て 理 解 , 把 握 さ れ る。
域 の有 す る地 理的 ・ 自然 的 ・ 文 化 的 諸 条 件 の 結 果的 表現 に
(3) 高 出 生 率 地 域 とし て の 三 河 型 地 域 に お け る 自 然的 ・ 経
帰 す る。
済 的 ・ 社 会 的 諸 条 件 の 結 果 的 表 現 と し て の 低 位 生 産 構 造,
(f ) 自 然 的 条 件 と 出生 率 との 関 係
直 接的 に 関 係 はし ない が, 間 接 的 に 経 済・ 社 会・ 文 化生 活
低位生産(所得)性及び地理的位置環境は人口再生産過程
の 基底 に に あ る 事 は 言を 俟 た な い。 要 す る に設 楽型 の 場合
に 重 要 な 役 割 を 負 う農 村 人 口 を し て , 農 民的 多 産 た らし め,
は, 山 地 性な る が 為に 地 質 的 ・ 気 候 的 に, 又土 地 面 積の 狭
隘 性・ 零 細性 等 の 環 境諸 条件 は 幾 多 の 制 約 を 余 儀 な くせ し
そ れ は充 分に 農 民 た り得 な い 多 産 で あ る。
(4) 低 出 生 率 地 域 とし て の 尾 張型 地 域 にお け る そ れは , 一
部 に 高 位 生 産 構 造 ・ 高 位 生 産( 所 得 ) 性 を示 す が, 地 理
め, 結 果 とし て 低 位 生産 性・ 低 所 得 性 地域 とし て 規 定 せ し
的 位 置 環 境 は 農 村 人 口 をし て農 民 的 多 産 か ら 脱皮 し つ つ ,
め, 又 都 市 か ら の 遠隔 性 は 一 例 とし て 商品 作 物 の導 入 を 阻
充 分 に農 民 た ろ う と す る寡 産で あ る。
止し て お り , 自 か ら村 類 型 的 に封 鎖的 ・ 孤 立的 性 格 を 有 す
る事 と な り, 所 謂労 働 力 は 過 剰 と なり , 遂 に は 出 稼 とし て
(5) 本 論 文 は 昭 和20年8 月 以 降, 調 査 時( 昭和30 年9 月 )
青壮 年 生 産 人口 を 他に 排 出 せし め る が, 他 に 山 林 労 働 力 を
に 至 る 間 の 分 析 で あ り, 抽 出地 域 を二 ヶ 村 に 限 定 の 止 む
必要 とし, 且限 ら れた 農 繁 期 には 多 量 の 労 働 力 を 必 要 と せ
を 得 な か つ た 点 ,非 常 に 不 満で あ つ て, 少 な く と も他 に
ざ る を得 な く, こ の 間 にお け る人 口 再 生 産 の循 環 作 用 を ア
三 ヶ町 村 位取 り 上げ るべ きで あ ろ うが , 種 々の 事情 で 許
さ れ な かつ た 事 を反 省 す る もの で , 爾後 更 に こ の 問 題 の
ン バ ラ ン スの 状 態 に ぜ し め て, 高 出 生 率 地 域 とし て 把 握 さ
探 究 に 進 むべ く, 心 掛 け て い る次 第 で あ る。
れる の であ る。
紙面 の 都合 上 , 図 版 ・ 表 が 割 愛 さ れ, 説 明 が 不 充 分 で 筆
一 方 池 野 村 を 含 む 知多 型 地 域 にお い て は, 丘 陵性 地 域 と
し て の 地形 的 条 件 は 第 三 紀層 のbad land
であり,さ ら
に, 気 候 的 に寡 雨 地域 とし て 考 慮 す れば , 土 地 生産 力 ( 収
者 の意 を 尽 さ ぬ 感 が あ るが , 擱 筆 に 当 り お 詑 び す る次 第 で
あ る。
参 考 文 献
益 性 ) は 決し て高 い とは 言 え ず , こ れ ら地 域 が 農 業 生 産 構
造 の 上 か ら低 所 得 地 域 とし て 存 在し , 人 口 収 容 力 の 低 くな
る事 は 明 らか で あ り , 且 都 市 近 接 性 と言 う地 理 的 位 置 は 前
述 し た通 勤 者 を 媒 介 とす る の み な ら ず, 経済 的 。社 会 的 。
文 化 的 生 活の 面 に 多 く の 変 化 を 与 え, 端的 に 表 現 す る な ら
ば 上 述 の 貧困 性 と言 う性 格 か ら , 換 言 す れば 「 生 活 の 苦 し
註
(1) 地 理 学 に お け る 最 近 の 傾 向 : 特 別 号 地 評1953 26 巻
(2) 川 崎 出 版 社 : 農 業 と経 済 21 巻 6 号
(3)林 恵海:農家人口の研究 日光書院 1940
野 尻 重 雄 : 農 民 離 村 の 実 証的 研 究 岩波 書 店 1942
(4) 松井 貞 雄 :農 業 地 域区 分 の一 方 法
愛 知 学 大 地 理 学 報 告 6 号
農 民 の 進取 的 。先 進的 思想 が 強 力 に 人 為 的 抑 制 と 言 う手 段
(5) 知 多 型 の み の 場 合 に 限 る
(6) 岸 本 実 : 多 離 村 地 域 の 研 究 関 東 中 部 地 方 の 出 稼 地
域 地 評26 巻
(7)
に 発展 し , こ こ に低 出生 率 を 見 出 す 事 が 把 握 さ れ る ので あ
(7) 「 産児 制 限 に 関 す る調 査 」 結 果 より
さ」 か ら「 生 活 向 上 の 為」 に 所 謂 適 度 な 人 口 に 保 つ と 言 う
るo
−60 −
Fly UP