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1. マダイイリドウイルス病

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1. マダイイリドウイルス病
〔ウイルス 第 55 巻 第1号,pp.115 − 126,2005〕
特集3 水産関係のウイルス
1. マダイイリドウイルス病
中 島 員 洋 1)2)
,栗 田 潤 3)
1)独立行政法人水産総合研究センター研究調査部
2)現所属:富山県水産試験場
3)独立行政法人水産総合研究センター養殖研究所玉城分室
マダイイリドウイルス病は,1990 年に四国のマダイ養殖場で最初に報告された.1991 年以降も西日
本の養殖場でマダイのみならず多くの海産養殖魚に被害を及ぼしている.病魚は運動が不活発となり,
極度の貧血症状,鰓の点状出血及び脾臓の肥大を呈する.原因ウイルスはイリドウイルス科に属し,
red sea bream iridovirus(RSIV)と命名されている.RSIV のゲノムは,直鎖状 2 本鎖 DNA である
が,他のイリドウイルスと同様,円環的置換が許され,末端が重複していると考えられる.円環状と
なる遺伝子地図の長さは 112,415bp である.RSIV 感染魚の迅速診断法として,単クローン抗体を用い
た間接蛍光抗体法及び PCR 法が広く使用されている.また,本病の防除法として,ホルマリン不活化
ワクチンが開発され,実用化されるに至っている.
病気の発生と疫学
はじめに
近年,我が国において,海産魚を中心に養殖魚種の多様
本病は,1990 年の夏から秋にかけて四国の養殖場で最初
化が急激に進展するとともに,高密度飼育,種苗の広範な
に発生し,マダイの大量死を引き起こした.本病は,病理
移動及び海外種苗の導入等が進んでいる.一方,魚類養殖
組織学的検査,ウイルス検査及び分離ウイルスを用いた感
業の急速な発展は疾病の発生数の増加をもたらし,新たな
染実験の結果から,イリドウイルス科に属するウイルスの
疾病も発生するようになった.特に,ウイルス病は,病気
感染が原因であることが明らかにされ,原因ウイルスはマ
の伝播と進行が早く大量死を起こしやすいことに加え,抗
ダイイリドウイルス(RSIV)と命名された.病気は夏の高
生物質等の水産用医薬品による治療が困難なことから,養
水温期を中心に発生し,水温が 20 ℃程度まで低下した 11
殖業に甚大な被害を及ぼし続け,その防除対策の確立は急
月になると自然に終息したが,翌年以降も毎年夏の高水温
務となっている.中でもマダイイリドウイルス病(本稿に
期を中心に西日本各地の養殖場で流行を繰り返している.
おいては,マダイイリドウイルスがマダイ以外の魚種に感
さらに,本病は稚魚のみならず成魚においても発生し,こ
染し,病気が発生した場合もマダイイリドウイルス病と記
れまでに我が国で発生したウイルス病としては最大規模の
している)は,1990 年の初発以来,海産養殖魚に甚大な被
被害を与えている.
害を及ぼしたことから社会問題となった.ここでは,マダ
県水産試験場の協力によって分布,罹病魚種等の発生状
イイリドウイルス病の原因,迅速診断技術並びに防除のた
況を調査した結果,1991 年以降急速に発生漁場が拡大し,
めのワクチン開発等について紹介する.
これまでに本病の発生が 18 府県において確認されている
(表 1)16)22)
.また,現在までにスズキ目の魚類を中心に 3 目
31 魚種で本病の発生が確認されている.
連絡先
本ウイルスがどこから侵入し,感染発病に至ったかは未
〒 936-8536 富山県滑川市高塚 364
だ明らかでない.海外からの輸入種苗の導入に伴い侵入し
TEL : 076-475-0036
た可能性も大きいが結論を得るに至っていない.一方,感
FAX : 076-475-8116
染経路については,養殖場での発生及び室内実験の結果か
E-mail : [email protected]
ら本ウイルスの水平感染が強く疑われる.養殖場において
116
〔ウイルス 第 55 巻 第1号,
表1
マダイイリドウイルス感染魚種
スズキ目
スズキ亜目
アジ科
ヒラマサ,カンパチ,マアジ,ブリ,シマアジ,マルコバン,ブリヒラ
イサキ科
イサキ,コショウダイ
イシダイ科
イシダイ,イシガキダイ
サバ科
マサバ,クロマグロ,サワラ
スズキ科
スズキ
タイ科
マダイ,チダイ,クロダイ,フエフキ,ハマフエフキ
ハタ科
キジハタ,アオハタ,マハタ,クエ,チャイロマルハタ,ヤイトハタ
メジナ科
メジナ
スギ科
スギ
カレイ目
カレイ亜目
カレイ科
ホシガレイ
ヒラメ科
ヒラメ
フグ目
フグ亜目
フグ科
トラフグ
は次々と近隣の生簀で病気が発生すること,また,感染実
2)理化学的性状
験においては病魚と健康魚を同じ水槽で飼育することによ
本ウイルスは IUdR 処理によって増殖が抑制され,エー
り病気が伝播すること,さらに病魚の飼育排水を介し病気
テル,クロロホルムに感受性,熱(55 ℃,30 分)および酸
が伝播することなどがあげられる.一方,現在までに種苗
(pH 3)に不安定な性質を示す.15 ∼ 30 ℃で増殖可能で
生産場で本病の発生が無いことから,親魚から卵を介して
あるが,適温は 25 ℃前後であり,37 ℃での増殖は認めら
仔魚への垂直感染による伝播の可能性は低いと考えられる.
れない 28).これらの結果と,ウイルス粒子のサイズ,また
マダイイリドウイルス病
(1)病状
20 面体を呈し細胞質でのみ増殖することから,本ウイルス
はイリドウイルス科に属する.
3)培養と増殖
病魚は体色が黒化して海面を力無く遊泳する.軽度の眼
原因ウイルスの分離は,病魚の脾臓磨砕ろ液を BF-2,
球突出や出血,体表の出血性のスレが観察されることもあ
FHM, RTG-2, CHSE-214, KRE-3 などの魚類由来の株化細
る.剖検では鰓の褪色が特徴的で,著しい貧血を呈し,鰓
胞に接種し 20 ∼ 25 ℃で培養すると肥大球形化を特徴とす
弁の点状出血や鰓弁先端部より出血が認められることもあ
る CPE が発現して原因ウイルスが分離される 14).ウイル
る.また囲心腔内の出血,内臓諸器官の褪色,脾臓の腫大
ス感染価は 103 ∼ 105TCID50/ml 程度といずれの細胞も感受
を特徴とする
14)
.
性が低く,継代とともに感染価は低下する傾向が認められ
る.そこで,さらに詳しく検討した結果,イサキの鰭由来
(2)病変
病理組織学的には,細胞質が塩基性色素で均一に濃染あ
るいは顆粒状に染まる大型の類円形を呈する細胞(肥大細
胞)の出現が特徴である.肥大細胞は,脾臓,心臓,腎臓,
の株化細胞である GF 細胞でウイルスの分離・培養ができ,
継代も可能であることが明らかになった.
4)血清学的性状
各種海産養殖魚種から分離した RSIV の抗原解析を行っ
肝臓,鰓に多数観察される.病理組織学的に最も顕著な変
た結果,単クローン抗体の反応性に僅かに差が観察される
化が認められるのは脾臓であり,広範な組織の空疎化が起
ものの,同一あるいは非常に類似したウイルスと考えられ
こり,その組織中に多数の肥大細胞が観察される 14).
た.魚類におけるイリドウイルス病としては,リンホシス
チス病 42)やウイルス性赤血球壊死症 2)などが多種類の海
(3)病因
産魚で知られているが,症状,病理所見,ウイルス粒子の
1)形態
大きさ,性状などからいずれも本ウイルスと異なる.また,
電子顕微鏡による観察では,前述の肥大細胞の細胞質に
得られた単クローン抗体の反応性を検討した結果,ウナギ
結晶状に配列したウイルス粒子が観察される.ウイルス粒
36)
由来のイリドウイルス(Japanese eel iridovirus)
とは全く
子は,平面的には 6 角形を呈する 20 面体であり,直径が
反応しなかった.また,海外で報告されているレッドフィ
200 ∼ 240nm でエンベロープを持たず,中央部に直径
ン パ ー チ の 流 行 性 造 血 器 壊 死 症 ウ イ ル ス( E p i z o o t i c
120nm の電子密度の高いコアを持つ等,イリドウイルスに
haematopoietic necrosis virus)20),シートフィッシュイリド
特徴的な形態を有する.ウイルス粒子形成前の感染細胞で
,グルーパーイ
ウイルス
(iridovirus isolated from sheatfish)1)
は細胞肥大と核の変性が特徴的である 14).
リドウイルス(iridovirus isolated from grouper)15) とは
pp.115–126,2005〕
117
010R
LCDV 163R, C IV 295L
TFV 045R
026R
639R
037R
018R
029R
042R ZF
033R
1
016L
019L
R ING fing er mRN A capping enzyme
042R
10,001
049R
C IV 282R
LCDV 162L DNA
TFV 105R
C IV 022L
LCDV 132L
TFV 009R
063R NTPase/hel icase
054R
phosphoprotein
077R
10,000
binding
097R
092R
20,000
LCDV 005L
TFV 105R
LCDV 006L, C IV 067R
TFV 021L
097R
099R
101R
122R
106R
DNA MTase
128R
111R
20,001
140R
135L
121L
134L
127L
C IV 347L
LCDV 106L
TFV 094R
145R
151R
162R
30,000
156R
138L
161L
PDGF/VEGF
162R
171R
180R
186R
198R
40,000
224L R PO-2
30,001
179L
TK
226R
40,001
224L R PO-2
197L
LCDV 171R, CIV349L
TFV 086R
LCDV 016L , C IV 176R+3 48L
TFIIS/R PO-M
TFV 008R
238R
234L
R PO-1
239R
237L
291L
putati ve prot ein kinase
360L
60,001
333L
342L
AA transporter
putati ve prot ein kinase
FV3 ICR489
80,001
450L
463R
458L
502R
90,001
522L
LCDV 160L , C IV 337L
SAP motif
TFV 022L CAAX bo xLCDV 110L
TFV 051L
575R
591R
100,001
586L
589L
TFV 045R, LCDV163L, CIV 295L
639R
112,415
110,001
60,000
333L
385R
ankyrin repeat
424R
436R
80,000
423L
420L
TFV 016R, CIV 075L
LCDV 054R
FV3 31kDa
TFV 025R
LCDV 122R,CI V 118L
488R
487L TRAF2
PCN A TFV 090R
LCDV 003L , C IV 436L
suppressor of cyto kine sign alling
ankyrin repeat
HIT -like
535R 539R
524L
518L
515L
380R
374R
FV3 A TPase transcript ional activato r
483L
506R
569R
412L
LCDV 195R, C IV 179R
TFV 029R
LCDV 047L , C IV 393L
TFV 097R
MCP
C IV 355R
LCDV 082L
TFV 040R
TFV 096R
LCDV 147L ,CIV 274L
R GD
407R 413R
401R
396R
heme bi nd ing
373L
LCDV 194R, C IV 117L
TFV 020R
390R 394R
321R 324R
70,000
350L
ZF
349L
R PO-H /23kDa ankyrin repeat
388R
385R
70,001
C IV 118L
LCDV 067L
TFV 055R
351R 353R
50,000
268L
DPO
317L
laminin EGF repeat
R R-2
318R
LCDV 135R, C IV 037L
TFV 063R
TFV 065L
LCDV 025L , C IV 428L
DR
(TFV 048L)
300R
292R L RP16
R R -2
261R
256R
TFV 101R
LCDV 191R, CIV369L
LCDV 136R
C IV 143R
50,001
268L
XPG/R AD2
543R
ZF
534L
493R
450L
502R
90,000
022R
492LLCDVTFV
128L , C IV 184R
545R
550R
554R
TFV 012L
LCDV 108L , C IV 287R
R NA binding-E WS
562R 569R
100,000
TFV 085L
LCDV 137R, C IV 142R
R Nase III
606R
618R
herpesvirus SOR F2
110,000
596L
600L
605L
632L
617L
TFV 047L
LCDV 036R
TFV 100L , CIV 307L
LCDV 019R
628L
634L 635L
641L
635L
0
bp inde x
ankyrin repeat
2,000
4,000
図1
6,000
マダイイリドウイルス Ehime 1株 遺伝子地図
※ アミ矢印は他属にも見いだされる相同な遺伝子
8,000
10,000
118
〔ウイルス 第 55 巻 第1号,
反応せず既報の魚類イリドウイルスとは異なる新しいウイ
ルスと考えられる
29)
化 DNA に寛容性のない大腸菌を用いてのゲノム断片のク
ローニングが困難であることなどの間接的証拠から,他の
.
脊椎動物のイリドウイルスと同様 5)10)11)40)43),RSIV のゲ
マダイイリドウイルス遺伝子の解析
ノム DNA も高度にメチル化されていることが示唆されて
(1)ゲノム構造
いる.
イリドウイルス科に属するウイルスのゲノムは約 100 ∼
300kbp 程度の直線状 2 本鎖 DNA である.しかし,円環的
(2)遺伝子組成とその特徴
置換が許され,両端には重複した配列が付加されているこ
円環状部分には,遺伝子と思われる読みとり枠が 116 個
とから,遺伝子地図としては円環状を示すが,重複末端が
存在し(図 1)
,幾つかを除いてその殆どはオーバーラップ
円環状のどの部分に来ているかは個々のウイルス粒子によ
しておらず,また,イントロン構造をとる遺伝子も今のと
って異なる
5)6)7)8)12)21)34)41)
.通常重複配列を除いた部分を
ころ確認されていない.これらは,クロルイリドウイルス
全ゲノムとしている.末端になり得る位置は,ウイルス種
属を除く既知の 3 属のイリドウイルスにも見いだされる相
によって異なり,全く自由なものもあればゲノムの 25% 程
同な遺伝子(30 個)と,本ウイルスに特徴的な遺伝子(86
度に制限されるものもある 5)8)27)
.また末端に重複される割
個)とに分けられた.前者の中には,構造タンパク質である
合もウイルス種によって異なり,ゲノムの数%∼ 50 %以上
主要外被タンパク質(MCP)遺伝子の他,DNA polymerase,
と様々である 5)8).RSIV のゲノム構造も同様と考えられて
RNA polymerase の 2 つのサブユニット,XPG/RAD2 フ
おり,ゲノム解析により
18)19)
,円環状部分は 112,415 bp,
ァミリータンパク質や,前述した MT(脊椎動物のイリド
GC コンテンツは 53.4 %であることが明らかとなった.し
ウイルスのみに共通)などの酵素類の遺伝子が含まれるが,
かし,末端の重複部分が何%あるのか,また末端となり得
これら遺伝子の系統解析から,RSIV は既知の属とは異な
る位置の許容範囲も分かっていない.ゲノムサイズと GC
る 5 番目の属に属すことが明らかとなった(図 2).ゲノム
コンテンツを比較すると,RSIV は,節足動物を宿主とす
中での共通遺伝子の位置関係は,他の属と比較してもお互
るイリドウイルス属,クロルイリドウイルス属,脊椎動物
いに関連性は見出されず,属分化の過程においてゲノム内
を宿主とするリンホシスティウイルス属,ラナウイルス属
で激しく遺伝子の再配置が起こってきた歴史を示唆している.
の既知の 4 属の中では,ラナウイルス属に最も近い.また
主要な複製酵素,転写酵素の遺伝子は真核生物を起源と
DNA methyltransferase(MT)遺伝子の存在や,メチル
するものであるが,それらは全属にわたり共通であること
BIV
FV3
100
TFV
EHNV
100
74
ESV
SGIV
R SIV
100 ISKNV
54
TRBIV
LCDV-1
CIV
IV16
100
WIV
99
IV22
99
TIV
SfAV1a
HvAV3
100
SAV
55
95
70
90
100
100
ラナウイルス属
マダイイリドウイルス
および近縁ウイルス
リンホシスティウイルス属
イリドウイルス属
アスコウイルス科
0.1 substitutions / site
図2
主要外被タンパク質アミノ酸配列に基づくイリドウイルス科ウイルスの分子系統樹(NJ 法)
※クロルイリドウイルス属は含まれていない。アウトグループとしてイリドウイルス科に最も近縁なアスコウイルス科ウイル
スの外被(膜間)タンパク質を加えた。
pp.115–126,2005〕
119
81
85
Homo sapience
Brachydanio rerio
Xenopus laevis
99 V ACV
E CTV
38
V AR V
99
MYX V
74
SFV
83
SWPV
31
L SDV
T ANV
53
99
Urechis caupo
99
Spisula solidissima
Homo sapience p53R2
81
SlMNPV
91
L dMNPV
Drosophila me lanogaster
9
Aedes albopictus
95
Saccharomyces cerevisiae 4
Saccharomyces cerevisiae
38
Schizosaccharomy ces pomb e
99
E mericella nidulans
99
Neurospora crassa
Lentinula edodes
99
E ncephalitozoo n cuniculi
99
Leishmania me xicana amazonen sis
95
Trypanosoma brucei
Dictyostelium discoideum
99
Cryptosporidium parvum
41
98
Plasmo dium falciparum
PBCV1
45
92
Arabidopsis thaliana
99
Glycine ma x
99
Nicotiana tabacum
Oryza sativa
79
Caenorhabditis elegans
99
HZV 1
99 R SIV
67
ISK NV
99
McMNPV
SeMNPV
99
WSSV
ASFV
E sV 1
99
HHV4
SaHV2
99
GaHV1
99
91
GaHV2
HHV1
53
HHV3
Streptomyces coelicolor
99
T FV
99
SGIV
L CDV-1
99
C IV
98
99
Caulobacter crescentus
Bradyrhizobium japonicum
99
E hrlichia rumi nantium
99
99 Ricketts ia prowazekii
Ricketts ia conorii
99
Pseudom onas aeruginosa
95
Pseudom onas putida
99
Ralstonia solanacearum
99
Chlamy dia trachoma tis
Halobacterium sp.
Tropheryma whipplei
99
Bacteroides flagilis
99
Treponem a pallidum
95
Clostridium perfringens
56
Aquifex aeolicus
99
F usobacterium nucleatum nucleatum
99
Synechocystis sp.
99
Helicobacter pylori
99
Camp ylobacter jejuni
Bacillus halodurans
99
Oceanoba cillus iheyensis
99
Listeria mo nocytogene sis
99
99
Xanthomo nas camp estris camp estris
Xylella fastidiosa
99 E scherichia coli B
99
Salmonella typhimurium
98
Yersinia pestis B
99
91
Haemophilus influenzae
Pasteurella mu ltocida
61
Neisseria me ningitidis
83
Vibrio cholerae
99
Shewanella onei dens is
99
Buchnera aphidicoda
T4
99
Bacillus subtilis F
62
SPbc2
95
Staphylococcus epidermi dis
Deinococcus radiodurans
85
99
Lactococcus lactis lactis
99
Streptococcus agalactiae F2
Lactobacillus plantarum
99
99
Mycoplasma pneu mo niae
Streptococcus agalactiae F1
99
Bifidobacterium longum
74
95
Mycobacterium tuberculosis G
36
Corynebacerium ammo niagenes
Mycobacterium tuberculosis F
99
Wigglesworthia brevipalpis
94
Agrobacterium tume faciens
83
Brucella suis
74
99
Yersinia pestis F
Salmonella typhimurium F
99
99 E scherichia coli F
Shigella flexneri
99
Geobacillus ther mo leovorans
Mycobacterim tuberculosis X
Sulfolobubus solfataricus
78
99
ポックスウイルス科
バキュロウイルス科
真核生物
マダイイリドウイルス及び近縁ウイルス
バキュロウイルス科
30
99
ヘルペスウイルス科
71
他のイリドウイルス科
αproteobacteria
99
99
97
真正細菌
(一部古細菌を含む)
0.2 substitutions / site
図3
クラス I リボヌクレオチドリダクターゼ小サブユニット遺伝子(RR-2)アミノ酸配列に基づく分子系統樹(NJ 法)
※アウトグループとして Geobacillus thermoleovorans, Sulfolobus solfataricus 及び 結核菌の RR-2 様遺伝子を加えた。
120
〔ウイルス 第 55 巻 第1号,
92
87
98
76
RBIV-KOR-TY4 (イシダイ.韓国)
TGA14 (アカマダラハタ.
シンガポール.
2002)
RSIV-9 (カンパチ.宮崎.日本1998)
RSIV-3 (クロマグロ.高知.日本1996)
RSIV-2 (カンパチ.愛媛.日本.1996)
RSIV-6 (ブリ.愛媛.日本1996)
RBIV-KOR-TY (イシダイ.韓国)
81 8Pe(スズキ.香港.2004)
RSIV-8 (マダイ.神奈川.日本2001)
7GG (チャイロマルハタ.香港.2004)
GIG42 (タマカイ.香港.2002)
58
10GG (チャイロマルハタ.香港.2004)
Genotype 2
GIG45(タマカイ.香港.2002)
3GG1 (チャイロマルハタ.香港.2004)
RSIV-5 (スズキ.愛媛.日本.1996)
80
RSIV-0918(マダイ.日本.1994)
92 RSIV-9371 (マダイ.日本.1994)
6SB (キチヌ.香港.2004)
RSIV-4 (シマアジ.愛媛.日本1996)
96
90 RSIV-1 (イシダイ.愛媛.日本1996)
RSIV-7 (マダイ.石川.日本1996)
88 GSDIV (ヤイトハタ.タイ.1993)
99
GSDIV2 (ヤイトハタ.タイ.1993)
75 SBIV (スズキ.南シナ海.1993)
89 SBIV2 (スズキ.南シナ海.1993)
2HSB (スズキ科の雑種.香港.2004)
RSIV Ehime1 (マダイ.愛媛.日本.1992) Genotype 1
99 TGA12 (アカマダラハタ.シンガポール.
2000)
98 DGIV (ドワーフグーラミー.マレーシア.1998−2000)
DGIV2 (ドワーフグーラミー.マレーシア.1998−2000)
ALIV (アフリカンランプアイ.
スマトラ島.
インドネシア.
1998−2000)
スマトラ島.
インドネシア.
1998−2000)
99 ALIV2 (アフリカンランプアイ.
DGA10/8 (ドワーフグーラミー.シンガポール.2000)
DG12/8 (ドワーフグーラミー.シンガポール.2000)
47
MA1/6 (ボラ.シンガポール.2000)
DG8/10 (ドワーフグーラミー.シンガポール.2001)
42
Seabass(アカメ類.ランカウイ島.マレーシア.2000)
9GG (チャイロマルハタ.香港.2004)
ISKNV2 (ケツギョ?.中国.2004)
ISKNV (ケツギョ.中国.<1998)
96
1GG (チャイロマルハタ.香港.2004)
Reddrum(ニベ科の一種.ランカウイ島.マレーシア.2000)
Lapulapu(チャイロマルハタ.パナイ島.フィリピン.2000)
DGA13/6 (ドワーフグーラミー.シンガポール.2000)
DGA4/6K (ドワーフグーラミー.シンガポール.2000)
MA5/5 (ボラ.シンガポール.2000)
FLIV-JJ (ヒラメ.韓国)
OFIV (ヒラメ.韓国)
RBIV-KOR-CS (イシダイ.韓国)
TRBIV (ダルマガレイ科の一種.山東省.中国.2002)
SGIV
RSIVgroup
ISKNVgroup
TRBIVgroup
0.05substitutions /site
図4
主要外被タンパク質遺伝子塩基配列に基づくマダイイリドウイルス様ウイルスの分子系統樹(NJ 法)
※アウトグループとしてラナウイルス属であるシンガポールハタイリドウイルス
(SGIV)の主要外被タンパク質遺伝子を加えた。
pp.115–126,2005〕
121
から,それらの起源は属分化の前,イリドウイルス科の誕
メなど異体類等の海産魚に由来する RSIV に抗原的,遺伝的
生の頃に遡ると考えられる.このような古い時代に真核生
に類似する幾つかのウイルスが報告され 3)9)13)23)35)37)38),そ
物から獲得したと思われる遺伝子は他の大型 DNA ウイル
の分類学的位置が論議されている.私達は,国内の RSIV
スにも普通にみられるが,RSIV をはじめイリドウイルス
および入手したこれらウイルスについて,分類のキーとな
科のこれらの遺伝子は,他とは比較にならないほどの真核
る MCP 遺伝子等を PCR 法により増幅して塩基配列を決定
生物との際だった相同性をとどめており,進化速度がきわ
し,Genbank 上に公開されている配列と共に,塩基配列及
めて遅いことが示唆された.このことは,他の科のウイル
びアミノ酸配列レベルで広範囲な系統解析を行った(図 4)
.
スが持っていない,DNA 修復機能を持つと予想される
その結果,これらの類似ウイルスは RSIV,伝染性脾臓腎
XPG/RAD2 ファミリーの遺伝子をイリドウイルスが早期に
臓壊死症ウイルス(ISKNV)13),ターボット赤体色イリド
宿主から獲得していた事と関連があるかもしれない.
ウイルス(TRBIV)35)をそれぞれ代表とする 3 つの分類群
一方,他属には共通であるが,RSIV には当てはまらな
を形成し,現在のところこれらのウイルスを 3 種に分ける
い特徴として DNA 合成に関わる ribonucleotide reductase
のが妥当と考えられた.RSIV の属する分類群は,細かく
(RR)の大小 2 つのサブユニット遺伝子(RR-1, RR-2)が
見るとさらに,Type strain である Ehime-1 株が属する
挙げられる.RSIV も RR-2 は持っているが,RR-1 が見あ
Genotype 1 と,国内で優位を占める Genotype 2 の 2 つに
たらず,しかもこの RR-2 は他属の RR-2 との相同性が極め
分かれ,Sudthongkong ら 38)により,ハタ眠り病イリドウ
て低い.系統解析から RSIV の RR-2 は,真核生物(おそ
イルス 4)であるとして報告されたタイのウイルス(GSDIV)
らくは過去の宿主)を起源にもつ新しいものと入れ替わっ
と,韓国のイシダイイリドウイルス 9)は RSIV の Genotype
ていることが明らかになった(図 3)
.失った結合相手であ
2 とほぼ同一であった.ISKNV 型は淡水魚・汽水魚を多く
る RR-1 は,おそらく宿主のものを使っているのであろう.
含み,TRBIV 型は殆どが異体類からで,東南アジアからは
これに対して,他 3 属の RR-2 および RR-1 は細胞内寄生細
見つかっていない.
菌であるリケッチアに近い細菌を起源とする古いものであ
分類学的位置については,これら 3 つの分類群全てを同
ることが明らかになり,イリドウイルス自体の起源とリケ
一種と考える研究者もいる一方で,同一の分類群内であっ
ッチアが深く関わっていることを示唆する興味深い結果と
ても生物学的特徴が著しく異なるものを含むこともまた事
なった.他の大型 DNA ウイルスにおいても,細菌起源が
実であり,コンセンサスを得られる分類区分についてはさ
示唆される遺伝子の存在は多く知られている.しかし,ウ
らなる研究が必要と考える.
イルス遺伝子の進化速度が早く変異が大きいことから,系
統解析によって起源となる細菌種までたどり着くことは殆
マダイイリドウイルス病の診断法の開発
どできないのが現状である.よってこれは極めて珍しい例
マダイイリドウイルス病の早期発見を目的に,当初,マ
といえよう.RR という保存性の高い遺伝子であったこと
ダイ病魚脾臓スタンプ標本のギムザ染色観察による肥大細
に加え,おそらくイリドウイルスの遺伝子進化速度が遅く,
胞の確認が簡便な診断法として開発され普及したが,罹病
古い遺伝子が原形をとどめていたことが幸いしたと考えら
魚種の拡大に伴って魚種によってはマダイほど顕著な病変
れる.このように RSIV の遺伝子解析により,イリドウイ
を示さないものも出現し,現場からはより正確な診断法の
ルス科全体に関する思わぬ新しい知見が副次的に得られて
開発が要望された.そこで,ウイルス感染により誘導され
きている.
る抗原を認識する単クローン抗体を作製し 30),これを用い
その他 RSIV を特徴づける幾つかの興味深い遺伝子も見
た間接蛍光抗体法による簡易診断法を確立した.まず,作
つかっている.サイトカインサプレッサー遺伝子やアンキ
製した抗体の内,ウイルス感染により誘導される抗原であ
リンリピートを持つ 3 つの遺伝子の存在は,宿主免疫系遺
る 230/180kDa の抗原を認識する単クローン抗体を利用し
伝子発現のシャットダウン機能などを示唆するものである.
た蛍光抗体法を用いて,RSIV を実験感染させたマダイ稚
またラミニン EGF リピートを持つ遺伝子,他属にも共通
魚からウイルス抗原の検出の可否を検討した.その結果,
な遺伝子ではあるが,細胞接着アミノ酸配列 RGD を持つ
全ての実験感染死亡魚の脾臓スタンプにおいても,ウイル
遺伝子などは,細胞レセプターとの結合機能をもつ可能性
ス抗原が検出された.また,一部の生残魚においてもウイ
も予想される.今後のこれらの遺伝子の機能解析が期待さ
ルス抗原の検出されるものが認められ,単クローン抗体を
れる.
用いた蛍光抗体法は本病の確定診断に利用できることが明
らかになった 31).
(3)アジアにおけるマダイイリドウイルス様ウイルスの系
統解析
そこで,この方法を用い,県水産試験場の協力のもとに,
西日本の養殖場で発生した RSIV 感染の疑われた病魚 738
近年,東南アジアや,中国,韓国から,ドワーフグーラ
検体について感染の有無を調べた.これらの検体の中には,
ミーなどの熱帯魚,ケツギョなどの淡水魚,ハタ類,ヒラ
マダイ,チダイ,イシダイ,イシガキダイ,スズキ,ブリ,
122
〔ウイルス 第 55 巻 第1号,
ヒラマサ,カンパチ,シマアジ,トラフグ及びキジハタ等
これらの結果を踏まえて,1999 年にはマダイ稚魚を対象
の魚種が含まれる.本診断法によりこれらの全ての魚類か
とした「イリドウイルス感染症不活化ワクチン」が市販さ
ら RSIV と共通の反応性を示すウイルス抗原が検出された.
れた.本ワクチンは,魚類のウイルス病を対象として実用
これらの結果により,単クローン抗体を用いた蛍光抗体法
化された世界で最初のワクチンであり,現在ではブリ,カ
による診断は,マダイのみならず各種海産養殖魚で発生し
ンパチ等のブリ属魚類やシマアジにおいてもその使用対象
ている本病の迅速診断に有効であることが明らかとなった.
が拡大されている.
なお,感染魚はマダイでは稚魚から親魚におよび,ブリ,
カンパチ等においても稚魚ばかりでなく,大型魚の感染も
おわりに
認められた.本蛍光抗体法では肥大細胞のみならず,感染
近年,我が国の沿岸海域では,天然資源の回復・増大を
初期と思われる小型の細胞の識別も可能である.また,前
目的とした増殖事業と,より高い生産性を追求した養殖事
述のごとく RSIV 遺伝子の解析を広範に進めており,これら
業が推し進められている.このような状況下で,「水産養
を基に,PCR プライマーを作製した.これらのプライマーを
殖」は一段と重要視されるようになり,漁業の中で養殖漁
用い,実験感染および自然感染マダイの脾臓組織や分離ウ
業は生産量では約 20 %,生産金額では約 35 %を占め,そ
イルスの培養上清の試料について検討した結果,PCR 法に
の地位を不動のものにしている.マダイについては,海面
17)
.また,本法により実験感染
網生簀による本格的な養殖が行なわれるようになったのは
および自然感染マダイの脾臓組織や分離ウイルスの培養上
昭和 40 年頃といわれており,その歴史は比較的新しい.マ
清の試料から目的断片が増幅され診断法としての有効性が
ダイ養殖は,その後進展し,昭和 60 年代に入ってからは,
確認された.現在では,ギムザ染色法,間接蛍光抗体法及
種苗の安定供給と質の向上,高度経済成長に伴うグルメ嗜
び PCR 法のいずれも養殖現場における迅速診断法として広
好の増大,配合飼料の進歩,ブリ養殖の低迷などにより急
く利用されている.
速に進展した.また,マダイは,一般に他の海産養殖魚に
より目的断片が増幅された
比べ病気に強く養殖しやすいとされていた.しかしながら,
マダイイリドウイルス病に対するワクチンの開発
昭和 60 年前後からマダイ養殖の隆盛に伴い,病気が頻発す
本病はウイルス病であり,薬剤等による化学療法は期待
るようになり,現在までにマダイイリドウイルス病やリン
しにくいことから,ワクチンの開発が強く求められた.ワ
ホシスチス病といったウイルス病,ビブリオ病,滑走細菌
クチンは,RSIV 感染 GF 細胞の培養液を低速遠心して得た
症やエドワジエラ症といった細菌病,筋肉クドア症などの
上清に,ホルマリンを 0.1% 添加して不活化し作製した.室
原虫病,ビバギナ症などの単生虫症,及び生殖腺線虫症な
内試験においては,ワクチンの投与方法はマダイ 1 尾あた
どの寄生虫症が知られている 24).
り 0.1ml 腹腔内,または筋肉内に接種して 10 日後,ウイル
一方,我が国では,近年,海産養殖魚のウイルス病の発
ス液を腹腔内接種して攻撃し,その防御能を検討した.そ
生が増加し,その対策が急務となっている.このような状
の結果,ワクチンを腹腔内及び筋肉内接種した群は,いず
況下で 1990 年の夏から秋にかけて,四国で,マダイ当歳魚
れも対照群に比べ極めて低い死亡率を示し,室内試験にお
を中心にマダイイリドウイルス病が最初に発生した.本病
けるワクチンの有効性が確認された 32).さらに,自然環境
は,上述のごとく我が国で突然出現し急速に拡大したが,
下での有効性を確認するための野外試験を実施した.ワク
その発生源・感染源については明らかになっていない.推
チン投与群及び対照群(無処理群)にはそれぞれ 1,000 尾
定される淵源として以下のことが挙げられる.一つは,外
のマダイ稚魚を用いた.マダイ稚魚の腹腔内にワクチン液
国由来,すなわち外国産種苗の導入とともに我が国に侵入
を 0.1ml 接種し,接種後から 12 週間海面生簀で飼育し観察
した可能性が考えられ,もう一方では,国内由来の可能性
を行った.また,対照群を隣接した生簀で同様に飼育した.
が挙げられる.後者の場合,原因ウイルスは元々養殖場周
対照群では投与 4 週間後から摂餌行動が鈍くなる魚が観察
辺に潜んでおり何らかの原因で魚に感染し,病気を起こし
されるとともに,死亡魚が観察され始め,6 ∼ 7 週間目に
たものと考えられる.具体的には感受性の低い魚が本来の
ピークに達した.ワクチン投与群では対照群の死亡魚のピ
宿主で,現在でも依然として感染源となっている可能性が
ークよりやや遅れ,投与後 8 週間後に小さなピークを示し
挙げられる.いずれにしても,本病は初発から 10 年以上経
たが,累積死亡率は,対照群で 68.5%,ワクチン投与群で
過しており,最早この病気について淵源をたどることは難
は 19.2% であり,RPS(有効率)は 72% であった.なお,
しいとも考えるが,短期間のうちに多数の魚種に拡がった
累積死亡率では,ワクチン投与群と未投与群間で統計学的
ことからすれば外国産種苗の導入に伴い病原体が侵入した
に有意な差(P<0.01)が認められた.平均魚体重について
可能性は高いように思われる.このような状況下において
もワクチン投与群が対照群に比べ有意に増加していた.ま
は,輸入種苗とともに海外から病気が持ち込まれる危険性
た,ワクチン投与により免疫魚においてはウイルス抗原及
を低くするとともに,逃亡や産卵などによる生態等への影
33)
響も含め,外国種苗の安易な導入を止めることが肝要であ
びゲノム DNA の増幅が抑制されることが明らかになった
.
pp.115–126,2005〕
123
ると考える.
感染症対策として,Muroga
25)
により,7 つの手段が示
されている.また,これらは,魚類の細菌感染症の予防・
治療対策並びに種苗生産における感染症の防除対策として
も示されている 24)26).7 つの手段には,感染源,感染経路
対策として 1)感受性宿主と病原菌の接触を避ける(防疫)
,
2)特定の病気が発生しにくい環境を維持する(環境制御)
,
宿主対策として,3)特定の病気に対する抵抗性の高い品種
を作出・育成する(耐病性育種)
,4)特定の病原菌に対す
る予防免疫を施す(予防免疫)
,5)免疫賦活剤あるいは栄
養剤を投与することにより非特異的生体防御能を活性化す
る(生体防御能の活性化)
,6)適正な飼育管理を行うこと
により宿主の生体防御能を維持するとともに,病原体の増
加を防ぐ(適正飼育管理)
,及び治療対策として,7)その
病原体に対する有効な薬剤を用いて治療する(化学療法)
が挙げられる.
これらの内,本病に対する対策としては,適正飼育管理
を基本とし生体防御能の活性化をはかるとともに,不活化
ワクチンによる予防免疫に依ることが重要と考える.また
長期的には,耐病性育種による耐病性系統の作出による対
策が重要となろう.
さらに,ウイルス病の防除のためには,法律の整備等を
含む養殖システムにおける基本的な改善も必要となる.我
が国においては,前述のごとく,魚介類の導入に際し特定
疾病について健康証明書を必要とする検疫システムを平成
8 年に導入し,平成 11 年には,持続的養殖生産確保法が施
行され,その中に,特定疾病の蔓延を防止する項目も含ま
れている 39).このような対策を講じることにより,ウイル
ス病のみならず,魚病の発生の減少が期待されている.
謝 辞
本研究を行うにあたり,様々なご協力をいただきました
水産総合研究センター,イリドウイルス感染症研究会及び
財団法人阪大微生物病研究会の関係各位に厚くお礼申し上
げます。
文 献
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Red sea bream iridoviral disease
Kazuhiro Nakajima1)2), Jun Kurita3)
1) Research Promotion and Development Division, Fisheries Research Agency, Queen's Tower B 15F, 2-3-3 Minatomirai,
Nishi-ku, Yokohama 220-6115, Japan
2) Present address :
Toyama Prefecutural Fisheries Research Institute, 364 Takatuka, Namerikawa, Toyama 936-8536, Japan
E-mail: [email protected]
3) Inland Station, National Research Insitute of Aquaculture, Fisheries Research Agency, 224-1 Hiruta, Tamaki, Mie 5190423, Japan
The first outbreak of red sea bream iridoviral disease caused by red sea bream iridovirus (RSIV) was
recorded in cultured red sea bream Pagrus major in Shikoku Island, Japan in 1990. Since 1991, the disease
has caused mass mortalities of cultured marine fishes not only red sea bream but also many other
species. The affected fish were lethargic and exhibited severe anemia, petechiae of the gills, and
enlargement of the spleen.
The causative agent was a large, icosahedral, cytoplasmic DNA virus
classified as a member of the family Iridoviridae and was designated as red sea bream iridovirus
(RSIV). The genome of RSIV is liner dsDNA and considered to be circularly permitted and terminally
redundant like other iridoviruses.
The length of physical map of RSIV genome is 112,415bp.
An
indirect immunofluorescence test with a monoclonal antibody and PCR are commonly used for the
rapid diagnosis of RSIV infected fish in the field. For the control of this disease, a formalin-killed
vaccine against red sea bream iridoviral disease was developed and now commercially available.
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