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高齢者における認知機能と記憶補償の関係

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高齢者における認知機能と記憶補償の関係
高齢者における認知機能と記憶補償の関係
蓮花のぞみ 1,2・権藤恭之 1・石岡良子 1,2・山根裕樹 2
(1 大阪大学大学院・2(独)日本学術振興会)
【背景と目的】
自律した日常生活を過ごす上で物事を記憶したり判断する際に認知機能が必要となる.記憶研究に
おいて,実験室では加齢に伴う低下が示されているが,高齢者は日常生活を送る中でその低下を様々
な方略によって補っていることが示唆されている.Dixon, de Frias, & Bäckman(2001)は,外的・内的・
時間・依存・努力方略から構成される記憶補償方略質問紙(Memory Compensation Quationnaire:以下
略 MCQ)を開発した.認知機能の高さによって用いる記憶補償方略が異なるのかは検証されておらず,
記憶補償の利用の背景要因は明らかにされていない。したがって,本研究では記憶補償と認知機能の
関係を検討した上で,性格特性,生活特性との関係についても検討することを目的とした。
【方法】
1. 分析対象者:145 名(男性 66 名,女性 79 名)
,平均年齢 68.38 歳(SD = 5.35)であった.
2. 認知機能指標:処理速度,ワーキングメモリ,実行機能,注意機能,帰納的推論の測定には,簡便
に測定することが可能である,Brief Test of Adult Cognitive by Telephone(BTACT;Tun & Lachman, 2006)
を参考に実施した.また,回想的記憶の測定には Free and Cued Selective Reminding Test を使用した.各
指標とも,値が大きいほど認知機能の成績が高いことを示す.
3. 質問紙の構成:質問紙は年齢,性別,教育年数,WHO-5 精神的健康状態,同居の有無,記憶補償質
問紙 MCQ(外的/内的/時間/依存/努力),性格特性 NEO-FFI 短縮版(神経症傾向/外向性/開放性/調和性/
誠実性)
,生活環境負荷尺度 MPED(忙しさ/ルーティーン)で構成された.
【結果と考察】
各認知機能と記憶補償方略の利用頻度の関係を明らかにするために,教育年数及び精神的健康度を
制御変数として偏相関係数を算出した結果,処理速度と外的方略の間にのみ有意傾向が認められた(r
= -.16, p <.10).認知機能の高さによる記憶補償方略の利用を明確に検討するため,各認知機能指標の
得点の下位 25%を低群,上位 25%を高群として t 検定を行った結果,処理速度の低群は高群よりも外
的方略を利用していることが示唆された(t (68) = 1.78, p <.10).注意機能および実行機能に関しては,
低群が高群よりも有意に時間方略を利用していることが示された(t (86) =.10, p <.05; t (49.06) =2.31, p
<.05)
.つまり,記憶補償と認知機能の関係において,処理速度が遅い人は手帳などの外的方略を利用,
注意の切り替えや高次な認知機能である実行機能が低下している人は時間をかけて記憶活動を行うこ
とで低下を補うことが明らかとなった.内的・依存・努力方略に関係する認知機能は示されなかった.
そこで,認知機能以外の要因との関係を検討するために,基本属性,性格特性,生活特性との関係
を検討した.t 検定を行った結果,性別による有意差は示されなかった.教育年数及び精神的健康度を
制御変数として性格特性と記憶補償方略の利用頻度の偏相関係数を算出した結果,神経症傾向と依存
方略(r = .21, p <.05),誠実性と内的・時間・努力方略の間に有意な相関関係が示された(r = .28, p <.01;
r = .22, p <.05; r = .32, p <.01).同様に生活特性と記憶補償方略の利用頻度の偏相関係数を算出した結果,
ルーティーンと時間方略の間に有意傾向が示された(r = .18, p <.10)
.同居形態による t 検定を行った
結果,時間・依存方略に有意な差が認められた(t (130) = 2.35, p <.05; t (130) = 2.95, p <.01)
.つまり,
同居者がいる人や神経症傾向が強い人ほど他者に頼る依存方略を、几帳面で誠実性の高い人ほど内
的・努力方略を用いていることがわかった。時間方略は認知機能だけでなく性格および生活からの関
係が認められた。認知機能が低い人が日常生活の中では補償方略を用いることで記憶を補うことが実
証された一方,認知機能の高さに関係なく記憶補償の利用の背景として性格や生活の影響が示唆され
た。本研究の結果は記憶補償がパフォーマンスに与える影響を検討する上で重要な知見となるだろう。
【引用文献】
Dixon, R.A., de Frias, C.M., & Bäckman, L. (2001). Characteristics of self-reported memory compensation in
late life. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology, 23, 650-661.
Tun, P.A., & Lachman, M.E. (2006). Telephone assessment of cognitive function in adulthood: The Brief Test of
Adult Cognition by Telephone (BTACT). Age and Ageing, 35, 629-632.
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