...

近代管理学と企業の行動理論

by user

on
Category: Documents
9

views

Report

Comments

Transcript

近代管理学と企業の行動理論
Kobe University Repository : Kernel
Title
近代管理学と企業の行動理論(Modern Theory of
Administration and Behavioral Theory of the Firm)
Author(s)
占部, 都美
Citation
国民経済雑誌,114(5):54-67
Issue date
1966-11
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/00170940
Create Date: 2017-03-29
近代管理学 と企業 の行動理論
占
部
都
美
一 組織論 の 発 展
企業の意志決定はすべて,組織の中で,組織 の過程を通 じて,行 なわれ る。
したが って,企業の意志決定 の構造 と過程 は,組織論の力を借 りな くてほ, こ
れを解明す ることがで きない。
ところが,従来まで,組織論 は第一次的には, その実物対象 と して企業 の組
織 や管理を取 り扱いなが らも,組織の概念や理論体系は,企業 を捨象す る方 向
に発展 して きている。
われわれの見 るところでは,組織論 は,つ ぎの諸派 に分 け られ るで あろ う。
1
.科学的管理法
2.管理原則論
3.人間関係論
4. 近代管理学ない し近代組織論
この中で,科学的管理法 と管理原則論 は,伝統的組織論 ともいわれ る。 それ
と対比 され るところの近代管理学ない し近代組織論 は,バ ーナー ドニサイモ ン
1
組織論の ことを さしてい る。 人間関係論 は,両者 の問のかけ橋 に相 当す るもの
とみてよいで あろう。
伝統的管理論 は,技術論的, 目的論的な性格を もってい る。 テイラーの科学
的管理法 は,企業の実践的な 目的に役立つ諸種 の組織原理 (職能的組織や例外
の原理)や管理技術を体系化 した もので ある。 組織論が技術論 であるか ぎ り,
それはどのよ うな目的にたい して も奉仕す ることがで きる。 企業 の実践の上で
1 拙著 「
近代管理学の展開」昭和41
年,有斐閣。
近代管理学 と企業の行動理論
5
5
は企業の生産性 の向上 の 目的や企業の利益 目的に奉仕す るために,科学的管理
法 は応用 されて きた。 そればか りでな く,科学的管理法 の管理技術や組織原理
は,病院,軍隊,学校な どの非企業の組織 にたい して も,応用 されたのであ る。
科学的管理法 の技術論 は,第一次的には,工場 の管理を対象 としそあみ 出さ
れた ものであ るか ら,実践の上では,企業の実践に結 び付いたが, それ は 「企
業 の理論」 と結 びつ くもので はなか った。
ma
na
g
e
me
nt pr
o
c
e
s
ss
c
ho
o
l
) ともいわれ る。 こ
管理原則論 は,管理過程学派 (
れ は, ア ンリー, フェイ ヨルを祖父 として,現代では,ニ ューマ ンの 「管理過
程論」や クー ンツ ・エ ン ド・オー ドンネルの 「
管理原則論」 に代表 されてい る
ものであ る。
管理原則論 は,企業であ ると非企業であ るとを問わず,すべての組織 に共通
した普遍的な概念 として,管理 の概念を確立 した。管理 の職能は,計画,組織,
指揮 (またはモーテ ィベー シ ョン),調整,統制の各要素 に分 け られ る。
これ らの管理職能 は,組織 の形成 と維持 のために不可欠 な職能で あ るとされ
る。 管理 の普遍 的な概念 の基礎 には,企業 にも,非企業 にも,共通す る普遍 的
な概念 と して,組織 の概念 がおかれたのである。 フェイ ヨル 自身は,大企業 の
経営者 と しての経験 を もってお り, その管理論の実物対象 は企業であ りなが ら,
企業 に固有 の組織論の展開は行 なわれないで,組織や管理 の一般原則が展開 さ
れたのであ る。 企業 の経済的 メカニズムや技術的環境 か ら,組織を孤立化す る
ことによ って,一般理論 と しての組織理論を樹立 しよ うとしたのであ る。
この フェイ ヨルの伝統 は, クー ンツやニ ューマ ンな どの,現代の管理原則論
の代表者 に も,継承 されてい る。 た とえば, クー ンツ ・エ ン ド・オー ドンネル
によれば,人間の協同事業 の 目的が企業であろうと,軍隊であろ うと,教育で
あろ うと,
「協 同の基本的な要素 は,管理であ り,管理 とは,他人を して仕事を
2
して貰 う職能であ る」 と定義 してい る。 そ こでは,管理や組織の概念 は,やは
り同 じよ うに,企業 に固有 の組織論の基礎 として,展開 されていない。
2 Koor
]
t
z & 0'
Donnel
l
,Pr
i
nc
i
pl
e
sofManage
me
nt
"1
955,p.3.
5
6
第 114 巻
第
5 号
企業の経済理論を無視す るところに,従来の組織論 の伝統があ った とさえい
えよ う。
伝統的組織論が単なる実践論であ り,技術論であるのにたい して,人間関係
論 は臨床実験 な どの科学的方法を用いて, イ ンフォーマルな組織 にたい して,
社会心理学的な立場 か ら,科学的な分析 を加えた ものであ る。 それは,モ ラー
mo
r
al
e)や リーダーシップ (
l
e
ade
r
s
hi
p) とい う重要な概念 を,現代 の組織論
ル (
に加えたので あ る。
この人間関係論 も,本来は工場の実験 か ら端を発 した ものであ り, そ して,
pl
a
nts
oc
i
ol
ogy) ともいわれ る。 それ は,モ ラ-ル と生産
それは 「
工場社会学」 (
性 との関係を解 明す ることによって,企業 の実践 に役立つ理論 と諸施策を与え
た。 しか し,人間関係論の立場では,企業や工場 は, あ くまで社会学的な単位
と してみな され るのであるか ら,人間関係論 自体 は,企業の経済理論 とは,無
関連 に発展 した といえ るのである。
ニ 近代管理学の一つの問題点
バ ーナー ドニサイモ ンの組織理論 に代表 され る近代管理学が,組織論 の発展
において,画期的な意義を もってい ることは,すでに,拙著 「
近代管理学 の展
開」昭和41
年 によ って,明 らかに した ところで ある。
伝統的組織論が単な る実践論であ り,技術論であるのにたい して,近代組織
I
論 は,行動科学の立場 に立 って,組織の本質や性格 について記述科学 的な分析
を加えてい る。 そ して,組織の統一的な概念 として,意志決定 の概念 を設定 し
て,組織の理論体系を確立 した貢献は, きわめて大 きい。近代管理学 は,単 に,
経営学ばか りでな く,経済学,社会学や政治学 の分野にたい して まで,幅広い
影響を与えてい るものであ る。
しか し, この注 目を結 びてい るバ ーナー ドニサイモ ンの組織論 も,企業であ
ると非企業であるとを とわず,あ らゆ る種類の組織 に共通 した普遍的な概念 の
上 に,展開 された ものである。 それは,企業 に固有の組織論 として展開 された
近代管理学 と企業の行動理論
5
7
もので はないために, そ こで も,企業の経済理論 と組織論 との接合 は達成 され
ていないのであ る。
バ ーナー ドに して も,サイモ ンに して も,本来そのよ うな意図を もたなか っ
た といえ る。 む しろ組織 の概念か ら,組織 にたい して外部的な環境であ る物的,
社 会的な環境や条件 を捨象 して,組織概念を純化 し,組織 それ 自体 の本質 と性
格 をまず究明 した ものであ る。
それ によ って,近代的な組織理論が確立 された意義は,大 きいのであ る。 た
だ,われわれが, ここで,組織の一般理論にあ き足 らないで,企業 に固有 の組
織論 を展開 しよ うとす るとき,バ -ナ- ドニサイモ ンの方法論 において,つ ぎ
の よ うな欠陥な り,制約を見 出すのである。
1
) バ ーナー ドのばあい,組織論において,経済学的考察 は不可欠 な要素で
あ るが, それは二 次的な地位 に押 し下 げ られ ることによ って,組織の本質の
究 明が行なわれた。経済学的な考察が二次的地位 に押 し下 げ られ, それにか
わ って社会学的,社会心理学的な考察が第一次的な地位 を占め ることによ っ
て,組織の一般理論が究 明 された。 これにたい して,企業は,財又 はサー ビ
スの経済的な生産,配給を行な うとい う経済的機能を もつ経済的組織であ り,
企業 の均衡 の維持 に とって,利益原則は最重要な要素をな してい る。 企業が
経済的組織で あ るか らには,企業に固有の組織論 を展開す るためには,-た
ん押 し下 げ られた経済学的考慮を再び押 し上 げることが必要であ り, それに
よ って企業 の経済理論 と組織論 との接合をはかる必要性 を生ず るのであ る。
サイモ ンの組織論 において も,経済学的考慮が無視 されたわ けではない。
各人 の決定前提 にたいす る組織影響力の一つ として,「能率の原理」が主張 さ
れてい る。 この能率 の原理 は,経済的考慮の原則であ り,利益原則で もあ る。
サイモ ンの組織論 は,経済学で仮定 され る経済人 (
e
c
onomi
cman)の意志決定
のモデルの非現実性 を指摘 して, よ り現実的な意志決定 のモデル として管理
じん
人 (
admi
ni
s
t
r
at
i
ve man) のモデルを追及す る。 しか し,企業 の組織論 におい
て ほ,管理人 のモデル と経済人ない しは企業者のモデル とは, 同居す るもの
5
8
第 114巻
第
5 号
でな くてほな らないであろ う。
2) バーナー ドのばあい,組織概念 は, その外部環境であ る物的 システムや
社会的 システムか ら抽象化 され る。 しか し,他方 において,組織 を中核の シ
ステムとして, これ らの物的 システムや社会的 シスを包摂 した 「協 同 システ
c
o
o
pe
r
a
t
i
ves
y
s
t
e
m)の概念を設定す る。 企業 は, この協 同 システムの一
ム」 (
つの種類であ るとみ ることがで きる。 企業は どのよ うな種類 の 「協 同 システ
ム」を さすかを明 らかにす るために,企業の 目的を解明す ることが必要であ
る。 企業の 目的を解明す ることによ って,組織論- の企業理論の導入が可能
にな って くるで あろ う。
さ らに,企業の目的を解明す るとともに,企業 の物的 システムや社会的 シ
ステムの性格 を究明 し, これ らの諸 システムにたいす る組織 の適応過程 を解
明す ることによ って,企業理論 と組織論 との接合が行なわれて くるで あろ う。
このあた りに,今後 の経営学の重要な課題が横 たわ ってい るので あ る。
さ らに,企業 のシステムは,それ 自体で孤立 した ものではない。企業 の外
部的環境で あ る市場経済や技術的環境 にたい して動態的な適応 を行 な ってい
かな くてほ,企業は生存す ることはで きない。企業の組織論 は,企業 の外部
的環境にたいす る適応の理論を展開 させ な くてほな らないのであ る。
3) 従来の伝統的な組織論は,静態的な状態 において組織の構造 を究 明 し,
部 門化の方式や ライ ンとス タッフの関係を論 じて きた。組織 の外部環境 にた
いす る適応 の過程を取 り扱わなか ったために,組織論 は企業 の理論 と接合す
る可能性を失な っていた といえよ う。
バ ーナー ドの組織論は,組織の構造 的な諸原理 を究 明 したに止 ま らないで,
その組織均衡論を通 じて,外部環境 にたいす る組織 の適応過程 の理論 を展開
した ことは,画期的な意義を もってい る。 その結果,特殊化,権限や コ ミュ
ニケーシ ョンな どの組織構造 の諸原理 も,その静態 においてではな くて, そ
の動態において, とらえ られてい るので あ る。 バ ーナ- ドによれば,組織 の
生存 は,つねに変動 して止 まない物的,社会的な環境 の下 で,複雑 な性格 の
5
9
近代管理学 と企業 の行動理論
均衡 を維持 す ることにかか ってい るとい う。 組織の均衡 のために,組織の環
境適応 の過程 を必要 とす るのである。
ところが,バ ーナ- ドは組織の環境適応の理論を展開す るにあた って,組
3
織や協 同 システムにたいす る外部環境の性格 に関心を示め しは したが,その
充分 な究 明は行 なわなか ったのであ る。 そ して,バ ーナ- ドの関心の中心 は,
組織 の内部的な適応過程であ り,その究 明によって,経営者の職能 は何であ
るか,経営者 の職能 はどのように遂行 されな くてほな らないかを解 明で きる
と考 えたのであ る. バ -ナ- ドの意図は,企業の組織論ではな くて,組織の
一般理論 の確立 にあ ったために,組織 の外部環境であ る企業の システムや企
業 にたいす る外部環境である市場経済や技術的環境 の性格が充分 に究明 され
る ことがなか った。 そのために,組織の環境適応 とい う組織の動態論は,抽
象理論 の範囲に止 ま った といえよ う。 組織の環境適応 とい う組織 の動態理論
のよ り具体 的な展 開によ って,企業 の理論 と組織論 との接合が可能 とな ると
われわれ は考 え るのであ る。
4
ペ ンローズの 「企業の成長の理論」 は,企業の成長 とい う動態的な過程 を
と らえ ることによ って, 当人の意図はともあれ,われわれのみ るところでは,
企業 の経済学 と組織論 との接合が一つの形で行なわれているのである。 また,
5
チ ャン ドラーの 「
戦略 と構造」 とい う経営史的研究 は 構造 は戦略 に したが
了
う」 (
"St
r
uc
t
ur
ef
ol
l
ows s
t
r
at
e
gyH
) とい うテ-マの下 に,企業の内外 の環境の
変化 にたい して,企業 の戦略がいかに変化 し,そ して企業の組織構造が企業
の戦 略にたい して どのよ うに適応 してい くか とい う企業の組織 の動態的適応
の過程 にたい して,実証 的研究を行な ったもので ある。
この二 つの例証 によ って も分か るよ うに,企業 の成長過程や環境変化 にた
いす 亭組織 の適応過程 を追及す る組織 の動態論において,企業の理論 と組織
論 との接合が可能 にな って くるといわな くてはな らない。
3 C.I.Bar
nar
d,The′
Func
t
i
onsoft
heExe
c
ut
i
ve,p.6.
4 E・T.D.Penr
os
e,t
heThe
or
yoft
heGr
owt
h or血eFi
r
m,1
959
S A.D.Chandl
e
r
,St
r
at
e
gyand St
r
uc
t
ur
e
.
,1962
6
0
第
114巻
第
5 号
4) 最後 に,バ ーナー ドニサイモ ンの組織論が企 業の理論 と接合 しなか った
もう一つの理 由は,意志決定 とい う方法論的な概念 にたいす る狭 い規定 の し
かたにあ る。
伝統的な組織論にたい して,近代組織論 は,組織 にたいす る統一的な概念
と して,意志決定の概念を規定 したところに, その画期 的な意義がある。 そ
して,誰 しも, この意志決定 の概念 を通 じて,企業 の経済理論 と組織論 との
接合が当然 に行なわれ ると考え るであろ う。 琴ぜな らば・企業 の経済理論 は・
価格,生産量の決定や投資決定な どの決定問題を扱 うか らで あ る。 しか し,
問題 は,そ う簡単に解決 されないのである。 バ -ナ- ドニサ イモ ンの組織論
では組織論の確立のために,意志決定 の種類 は狭 く限定 され,管理決定 (
ad一
6
mi
ni
s
t
r
at
i
vede
c
i
s
i
on) のみが組織論の対象 とな るか らであ る。
,
バ ーナー ドによれば 「
経営者 の意志決定 の戦略的要 因は,組織 それ 自体 の
7
内部環境であ り,組織運営上 の戦略的要 因であ る」 と主張す る。 ここで,.
組
織の内部環境要因 とは,組織 目的の設定,特殊化,権限や コ ミュニケー シ ョン
・システム,人員配置な どをさ している。 組織 の外部環境で あ る経済的,技
術的な環境 にたい して,戦略的要 因を探求 し意志決定 を行 な っ て い くこ と
は,組織 自体 の仕事であ り, それは組織論の対象 である意志決定 の概念 の中
に入 らないのであるO サイモ ンは,バーナー ドの意志決定 の概念 を継承 して
お り,彼 によれば,経営管理者 の任務 には,(
1)
組織構造 につ いての意志決定
し8
と,(
2)
組織 の仕事の内容 についての広義の意志決定 とが含 まれ ると しいて る。
前者 を管理決定 とい う。 後者 は,生産や販売 につ いての業務決定 (
ope
r
at
i
ng
dec
i
vi
o
ns
)を さ してい る。 サイモ ンによれば,経営者 の実際の任務 には,管理
決定 と業務決定 とを含むけれ ども,管理論ない し組織論 の対象 は,前者 の管
理決定 にのみ限 られ るのである。
組織の一般理論を確立す るためには,意志決定 の概念 をそのよ うに狭 く限
6 拙著 「
近代管理学の展開」 pp・1
3
0
-1
,pp・2
9
8
9
・
,p.2
1
1
.
7 Ba
r
n
a
r
d
,i
b
i
d.
8 H.I
.A
n s
of
f
,Cor
por
at
eSt
r
at
e
gy,1
9
6
5
.
61
近代管理学 と企業 の行動理論
定す る必要 があ ったのか も しれない。 しか し,今後 の経営学の課題 と して,
企業の経済理論 と組織論 とを接合す るためには,組織 と しての企業 における
意志決定 の変数 (
de
c
i
s
i
on var
i
abl
e
s
) を拡大 して, と らえ る必要がある。 すな
わ ち,企業 の組織論 においては,意志決定 の概念は,単 に管理決定 ばか りで
s
t
r
at
e
gi
ede
c
i
s
i
ons
) や業務決定 にも拡大 されな く
な くて,企業 の戦略的決定 (
てはな らない。
すで に,そのよ うな方 向において,新 しい経営学 の展 開が行なわれている
ので ある。
前述 したチ ャン ドラーは,企業の構造論の展開において,戦略的決定 と業
務決定 の概念 を導入 してい る。 また, ア ンソフは,サ イモ ン学派の流れを汲
む人で あ るが,戦略的決定 の概念を導入 して,企業 の意志決定の過程 の理論
を追及 して お り,そ こには,企業の理論 と近代組織論 の接合が試 み られてい
8
るのであ る。
また,同 じ くサイモ ン学派の後継者であるサイヤー ト- マ - チ は, そ の
9
「企業 の行動理論」 (
"abe
havi
or
alt
he
or
yOrt
he丘r
m)において,組織 における
e
c
onomi
cde
c
i
s
i
ons
)決定変数 と して,経済的決定 (
投資決定 な ど-
生産量,価格 の決定,
を と り入れ ることによ って,企業 の理論 と近代組織論 との
接合 を試 みてい るのであ る。
三 企業の行動理論と構造理論
要す るに, い く多の例外 はあるが,一般的には,伝統的な企業の経済学 は,
本来市場 の需要 と供給 曲線 にあ らわ され る総合的な経済現象を解明す る認識 目
的を もって,企業 の経済活動を分析 した。 そのために,個人企業家 による利潤
極大化 の原則を,企業行動 にたいす る仮説 においた ものであ る。 そ して,そ こ
で取 り扱われ る企業 の意志決定の問題 は,利潤極大化 の 目的のための生産量,
価格や投資 の決定 とい う経済的決定の領域 にかぎられたのである。 そ してまた,
9 R.M.Cy
e
r
t& ∫
.G.Ma
r
c
h,ABe
h
a
v
i
o
r
a
lTh
e
o
r
yo
rt
heF
i
r
m,1963.
62
第 114巻
第
5 号
企業の経済理論 は,企業の意志決定が,組織 の中で行 なわれ るとい う事実 を忘
却 して,組織的意志決定 の過程を分析す ることを怠 って きたのであ る。
反対 に,組織論 は,実物対象 としては同 じ企業 の組織活動 を とらえなが らも,
企業の経済的意志決定 の問題か らはなれ ることによ って,企業 の理論 を こえて,
組織の一般理論 と して展開 されて きたのであ る。
バーナー ドニサイモ ンに代表 され る近代管理学 は,組織的意志決定 の概念 を
組織論の統一 的な概念 と して設定 し,組織 におけ る意志決定 の構造 と過程 にた
い して理論的追求 を行な って きたのである。
近代管理学 は,意志決定論的アプローチ (
de
c
i
s
i
onmaki
ng appr
oac
h) ともいわ
れ る。
,
サイヤー ト-マーチによれば 「意志決定論的 アプ ローチは,組織 におけ る意
志決定の過程 につ いて重要な理論を展開 したが,企業が経営 され る特殊 の環境
条件 にたい してその理論を適用 しなか った し,企業 の経営を特長づける特殊 め
0
1
意志決定変数 にたし
,
'して詳細 にその理論を通用 しなか った」 と述べてい る。
か くて,サ イモ ン学派の流れを汲むサイヤー ト-マーチによ って,企業 の理
論 と行動科学的な組織論 とを接合す ることによ って,バ -ナー ド-サイモ ンの
,
組織論の限界 を克服 しよ うとす る意図を もって 「
企業 の行動理論」が展開 され
るのである。 「企業の行動理論」 は,つ ぎのよ うな方法 を とってい る。
1
) あ らゆ る種類の組織ではな くて,企業 とい う経済 的組織 を考察 の基本単
位 として採用すること。
2
) 生産量,価格,投資の決定などの企業 の経済的意志決定 を扱 い, それ ら
について企業 の行動を解 明 し, これを予定す ること。
3) 企業 の経済 的意志決定 は,組織の中で行 なわれ るもの と して,企業 にお
ける組織的決定を究 明す ること。
そ して,
「
企業 の行動理論」 の分野は,つ ぎの四つの下部理論 に分かたれてい
る。
1
0 Cye
r
t& Ma
r
c
h,i
bi
d.
,pp.1
8
-9
.
近代管理学 と企業の行動理論
6
3
1
) 組織 目標 の理論 (
or
ga
ni
z
at
i
o
na
lgoa
l
s
)
企業 の組織 目標 につ いて,利潤極大化 とい う一 義的な原則を排 して,行
動科学的な立場 か ら,現実 に,企業の組織 目標は, どのよ うな過程を経て,
設定 され るかを究 明す る分野。
or
ga
ni
z
at
i
ona
le
xpe
c
t
at
i
o
ns
)の理論
2) 組織的予想 (
- たん,企業 の組織 目標が設定 され るな らば,企業 の組織は,環境につ
いての情報 の収集,処理,伝達 とい うコ ミュニケー シ ョンの システムとな
る占
3) 組織的選択 (
o
r
ga
ni
z
a
t
i
o
na
lc
ho
i
c
e
)の理論
企業 の経済的 目的を達成す るための代替的手段 が どのよ うに順位づけ ら
れ,選択 され るか を追求す るものである。
4) 組織的統制 (
or
ga
ni
z
at
i
o
na
lc
o
nt
r
o
一
)
それ は,組織 におけ る意志決定の実行にかかわ る理論であ る。
サ イヤー ト-マーチは,「企業 の行動理論」を定 義 して,
「企業の経済的意志決
定 につ いての実証 的,過程指 向的 (
pr
oc
e
s
s
o
r
i
e
nt
e
d)
,一般 的な理論」であると し
1
1
てい る。
企業 の行動理論 は,新 しい経営学にたい してパ イオニア-的な役割を果す も
のであ ることは,疑 いない。 しか し,そ こには,つ ぎの二 つの疑問がある。 一
つ は,企業経営 を特色ず け る意志決定の種類 として,価格,生産量の決定や投
資決定 な どが第一次的に取 り上げ られ るが,それは企業 の経営決定 のすべてで
はな くて, その一部で しかない とい うことである。
他 の一つの問題点 は,サイヤー ト-マーチにおいて,企業 の意志決定 につい
て過程指 向的な理論 の展 開が行なわれているが, もう一つの方法 と して,企業
の意志決定 につ いて の構造指 向的な理論を確立す る必要 があるのではないか と
い うことであ る。
サイヤー ト-マーチの企業の行動理論において,企業経営を特色ずける意志
ll i
bi
d.
,p.3
.
6
4
第 114 巻
第
5 号
決定種類 と して,価格,生産量や投資の決定 な どの経済的意志決定があげ られ
てい る。 それ は,企業の システムの一定 の構造 的条件 の下 で行 なわれ る業務 的
o
pe
r
at
i
ngde
c
i
s
i
o
ns
)に属 してい る。 業務 的決定 が,企業経営 を特色ず
意志決定 (
け る意志決定 の一つの種類であることには,異 論 はな い。しか し, それが企業
の経営決定 のすべてではない。
現実 の企業では,業務的決定 のほかに,経営 の多角化や設備 の拡張な どにつ
いての戦略的決定や組織構造 についての管理的決定 が基本的 に重要 な経営決定
の種類をな しているのである。
H.Ⅰ.ア ンソフは同 じサイモ ン学派の流れを汲む人であ るが,や は り同 じよ
うに,企業の経済学,すなわ ち ミクロ経済学 と行動科学的な組織論 とを接合 す
る意図を もって,企業 の戦略的決定の理論を展 開 してい る。 ア ンソフのはあい,
1
2
企業 の意志決定 は,つ ぎの三つの種類 に分け られ てい る。
1
) 戦略的決定 (
s
t
r
at
e
gi
cde
c
i
s
i
o
ns
)
これは,企業の外部環境 にたいす る適応 の問題 を扱 う意志決定であ る。
と くに企業 の製品市場構造 の選択の問題であ る。 具体的には,企業の 目標,
方針の設定,多角化や設備拡大についての トップの意志決定 を さ してい る。
2) 管理的決定 (
a
dmi
ni
s
t
r
at
i
vede
c
i
s
i
o
ns
)
これは,企業の最大の成果をあげ るために, いかに企業 の諸資源を構造
化す るか とい う問題である。 管理的決定 には,組織構造 (権限 と責任 の関
係,仕事の流れ,情報 の流れ,配給径路な ど) についての決定が含 まれ る
ばか りではない。バーナー ドニサイモ ンと異 な って,原材料 の調達,資金
の調達,人間 の調達,能力開発な どの,企業資源 の調達 と開発 も, この管
理的決定の中に含 まれ ることを特徴 として い る。
3
) 業務的決定 (
ope
r
at
i
ngde
c
i
s
i
o
ns
)
これは,現在の業務 の効率を最大 にす るための諸決定 を さ している。 予
算 による資源 の配分,生産計画,販売計画,在庫管理な どにかかわ る意志
1
2 H.I.A
ns
o
f
r
,Co
r
p
o
r
a
t
eS
t
r
a
t
e
g
y
,p
p
.5
6
.
近代管理学 と企業 の行動理論
6
5
決定 を さ してい る。
戦略的決定 は,究極 には,企業の システムと外部環境 との間の均衡 をはか る
ための意志決定であ る。 その意味で,それは企業のシステムの外部的均衡 の問
題 であ るといえよ う。 これ にたい して,管理的決定は,組織構造 を中心 と した
企業 の システムの内部的均衡 をはか る意志決定であるといえ る。
企業 の外部環境 の変化 によ って, これ に適応す るために,企業 の経営戦略は
変え られて くる。 経営戦略が変わ ることによ って,それ に適応す るために,企
業 の システムも動態的 に変化 してい く。
しか し,同時 に外部環境 の変化 にたいす る企業のシステムの適応 の しかた,
すなわ ち経営戦略の内容 は,企業の システムの特性によ って,規定 され る性質
の もので ある。
要 す るに,戦略的決定 と管理的決定 を通 じて,企業 の システムの外部的およ
び内部的な構造的条件 が設定 され,その構造的条件の中で, 日常 の業務的決定
が行なわれてい くのであ る。 もちろん, 日常の業務的決定 の必要 か ら,企業の
システムの構造的な条件 を変 え ることも必要 にな って くる。 しか し,いずれに
して も,戦略的決定 と管理的決定 は,企業 システムの外部的および 内部的な構
造 的条件 を設定 し, 日常的な業務決定 にたいす る環境条件 を設定す るとい う意
味 において,両者 を構造 的決定 と呼ぶ ことがで きるで あろ う。
サイヤー ト-マーチの 「企業の行動理論」 は,生産量,価格の決定 な どの業務
的決定 の種類 を企業 の経営決定を特色ずけるものと して取 り上 げて,その決定
領域 において企業 の経済学 と行動科学 (
近代管理学) との接合を試 みてい るの
で あ る。 それは,一つ には,科学的実証主義の立場か ら,計量化で きる意志決
定 の変数 を選んだ もの と思われ る。 また, ミクロ経済学 と行動科学 とを直裁 に
結合す るために,企業 は,価格 と生産量の決定機関であ るとい う ミクロ経済学
の単純な伝統的見解 を踏襲 した もの といえ るであろ う。新 しい経営学 の立場で
は,業務的決定の分野 も重要であるが,それ と並んで,構造的決定 の分野が重
要 であ る。 われわれは, まず,構造的決定の分野において,企業 の経済学 と近
6
6
第 114巻
第
5 号
代管理学の統一をほかる必要を痛感す るのであ る。
つ ぎに,サ イヤ- ト-マーチの 「
企業 の行動理論」 は,企業の意志決定 につ
いての過程指 向的な理論を追求 している。 企業 とい う組織 の中で,企業の意志
決定 に到達す るために, どのよ うな過程を-て, どのよ うに して意志決定が行
なわれているか とい う組織的意志決定の現実 の過程 について,実証的な研究を
′
行な っている。 新 しい経営学が開拓すべ き一つの分野 として,企業の意志決定
についての過程理論の追求 は,重要な課題をな している。
しか し,他方 において,企業の意志決定の過程 それ 自体ではな して,企業 の
意志決定が構造化 され る企業の構造的 システムとその動態的な適応 の過程 を追
求 す るところの構造指向的な企業行動理論をまず確立す ることが必要であると
思われ る。企業の意志決定についての構造指 向的な理論を企業の構造的行動理
論 と呼ぶ ことができるであろう。
経営学の任務 は,企業の行動を説明・
し, これを予定す るところの概念 と理論
体系を確立す ることにある。そ して,企業の行動を解明 してい くばあい,二つ
の異 なる理論分野を生ず るのである。 その一つは,企業の管理的行動理論であ
り,他の一つは企業の構造的行動理論である。
今,企業行動を B とし,企業の意志決定の過程を D と し,企業の内部 および
外部環境を Sとす る。 そうす ると,つ ぎのような式が成 り立つであろう。
B-D ・S
これによると,企業行動 Bは,意志決定の過程 P と,企業の内部 および外部
の環境 Sとの複合的な産物であるといえ る。 企業の意志決定 の過程 は,企業の
内部および外部の環境によって条件づけ られ, また構造化 されている。
その反面 において,企業の外部環境の変化 に適応す るために,戦略的決定を
通 じて企業の製品市場構造などの企業の外部的 システムの構造 にたい して変化
が加え られ る。 また,企業の外部的 システムの構造 の変化 に適応す るために,
企業の組織構造や生産 システムなどの企業の内部的 システムの構造 にたい して,
管理決定を通 じて,変化が加え られ る。たとえ,企業の外部環境 に変化がな く
近代管理学 と企業の行動理論
67
とも,企業 は 自己成長 の法則 を もってい るが,企業の成長 とともに企業 の シス
テムに構造 的変化を ともな って くる。 しか し,企業は,生物のよ うに, 自然 に
生長 し, 自然 に構造的変化 を ともな って くるものではない。企業の成長 に して
も, それ にともな って行 なわれ る構造的変化 に して も, それは企業 の意志決定
を通 じて行 なわれ るのであ る。 企業のシステムの構造 的条件 は, 日常の業務的
意志決定 を条件ずげ, これを構造化す る機能をはた してい る。 しか し,企業の
システムは,企業 の成長 とともに,また企業の外部環境の変化 とともに, これ
に適応す るために,構造 的な変化を行な ってい く。 企業 システムの動態的な適
応過程 は,企業 の意志決定 の過程を経て,行なわれるのである。
要言すれ ば, D と Sは相互作用 の関係 にあるといえ る。 企業行動 Bは,相互
作用 の関係 にあるD と Sとの複合的な産物なのである。 企業の管理 的行動理論
は,企業 の意志決定 の組織的過程 に認識 の重点をおいて,企業の行動を解明 し
てい く意図を もってい る。 企業の 日常的な意志決定を条件ずげ,構造化 してい
くところの企業 システムの構造 とその動態的な適応の過程 に認識の重点 をおい
て,企業 の行動を解 明 してい くのが,企業の構造的行動理論の任務であ る。
企業の管理的行動理論 に して も,企業 の構造的行動理論 に して も,両者 の考
察 の実物対象 は同 じ企業 の行動であるが,そのアプローチのちがいによ って,
経営学 は二 つの分野 によ って構成 され るもの とみ ることがで きる。
両者 は実質的に重な り合 う部面を多 くもってい るが,二 つの異な るプアロー
チによ って企業の行動の全体がよ り具体的に解明され ることになるであろ う。
Fly UP