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建築設計基礎教育における透視図描画法習得のための自習用Web教材

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建築設計基礎教育における透視図描画法習得のための自習用Web教材
建築設計基礎教育における透視図描画法習得のための自習用W eb 教材の開発
山口 勝巳 武蔵工業大学
松本 匡史 テイ・エス・テック㈱
〒 158-8557 世田谷区玉堤 1-28-1
TEL:03-3703-3111 FAX:03-5707-2223
E-mail:[email protected]
1.はじめに
内容である。1時間程度の時間の中で、実際に透視図
建築設計教育では、3次元である建築空間を対象と
が完成していく様子を見せることにより、学生に透視
し空間把握や立体の操作の訓練を行っている。ただし、
図という図法に対し興味をもたせることができ、聞き
情報伝達で用いられるのは、模型以外では平面図、断
漏らすとその後の課題ができないという緊張感のある
面図などの2次元空間上に表現されたものである。し
授業が行われている。しかし、資料を配布しないこと
たがって、建築学科に入学した学生は、最初に3次元
から、復習がしにくい、授業中ついていけなくなった
である建築空間を2次元の図面に表現する方法を学習
場合のフォローが難しいという問題がみられる。
することになる。授業の説明では、模型や映像を使う
また、本学では一般的な透視図描画法ではなく、担
などの工夫しているが、資料は2次元のものが中心で
当している教員が推奨する描画法を中心的に用いてい
あり、3次元空間との対応ができない学生も少なくな
る。一般の描画法に比べ利点の多い方法ではあるが、
い。そこで、筆者らは3次元である実際の建築空間と
市販の解説書には載っていないため、学生にとっては
2次元である図面の対応に関する理解を補足するため
自習が難しい状況である。
に、動画像を活用した教材を開発し、建築設計の授業
なお、本学建築学科では2年前期までは製図板を用
を補完する資料とすることを計画した。
いて用紙に鉛筆で製図させる従来通りの一般的な形式
最初に開発する教材としては、透視図の描画法を取
の設計教育を行っており、2年後期からは作図方法は
り上げた。平面図、立面図などの平行投影図であれば
自由で CAD を用いることも認めている。2次元 CAD は
比較的容易に習得できるが、初学者が苦労するのは透
1年後期に、3次元 CAD は3年前期に授業が設定され
視図の描き方の習得である。透視図法は、立体を人間
ているが、特にコンピュータを利用した教育に力を入
の見た目に近い状態に描くため平行投影図に比べて図
れている状況ではない。また、情報リテラシーの授業
法が難解であり、短時間で理解するのが困難な学生が
が1年前期にあり、パソコン操作が Web 教材の利用に
多い。多くの解説書が市販されその中では図で説明さ
関して問題になっていることはない。
れているが、2次元の図で3次元空間内の状況を説明
3.開発する Web 教材の概要
するものであり苦手な学生が理解するには十分でない。
3.1 教材のねらい
本稿は、作成した透視図描画法の教材の概要を説明
作成した教材は、下記のような効果を挙げることを
し、さらに実際に学生に試用させた調査結果を踏まえ
ねらいとしている。
て、授業補足資料として開発した教材の有効性の検証
①コンピュータ上の仮想3次元空間で表現される動画
と課題の抽出を目的としている。
を使って説明することで、2次元の図を用いた説明に
2.透視図描画法の学習状況
よる分かりにくさを軽減すること。
建築学科では、1 年生前期の必修科目「図学と造形」
②授業に欠席した学生が補習する教材とすること。
という授業の中で、6週(1 週 90 分×2コマ)を用い
③1年後期以降の設計課題の中で透視図を描画するこ
て透視図の作図方法から点景の描き方、着彩までを指
とがあるが、その際に復習するための教材とすること。
導している。透視図の原理と作図方法については3週
3.2 実行形態
をあてている。1学年の人数は 120 名前後である。
本教材は Web ブラウザにて閲覧する形態をとってい
授業中の進め方は、担当教員が単純な形状の立体や
る。基本的な画面構成は、図1のように左側に説明
建物の透視図を、作図の最初から完成するまで学生の
図、右側に説明文を表示している。説明図に関して
目の前で実際に描きながら口頭で説明を加えていくも
は、できるだけアニメーションを用い、3次元空間
ので、学生はそれを見ながら要点をノートにメモをし
の状況を2次元の紙の上で作業することの仕組みを
ていく。1回の授業は、最初の1コマで上記のように
視覚的に把握できるようにしている。ユーザは各所
担当教員が説明をし、2コマ目では各学生が製図室で
のボタンや図形を操作しながら画面を進めていく。動
実際に説明で用いた立体や建物の透視図を描くという
画像は Web 上での公開を考え Flash ムービーファイル
社団法人 私立大学情報教育協会
平成18年度 大学教育・情報戦略大会
平行透視図法
3
6
1
6
2点透視図法
手塚式パース
2
5
2
2
2
3
4
0
0%
20%
40%
60%
80% 100%
分かりやすい 普通 分かりにくい 習っていない
図2 授業のわかりやすさ
見やすさ
2
ボタンなどの操作性
10
0
6
2 0
4
0% 20% 40% 60% 80% 100%
まあまあ良い
あまり良くない
悪い
良い
図3 教材の形態・操作性
( a ) 平行透視図
説明文
アニメーション
4
8
0
2 0
10
0%
20%
40%
60%
80%
100%
( b ) 2点透視図
説明文
アニメーション
完成した教材を学生に試用してもらい、①透視図に
関する授業のわかりやすさ、②本教材の形態・操作性、
③本教材の内容、に関するアンケート調査を行った。
一部の学生については、ヒアリング調査も行った。回
答者は学部4年以上である。
授業のわかりやすさについては、手塚式透視図法の
評価が低く、復習できる資料が配布されない影響がう
かがわれる(図2)
。教材の形態・操作性については、
100%
良い
7
10
20%
まあまあ良い
40%
60%
5
0
80%
100%
あまり良くない
悪い
図4 教材の内容
表1 ヒヤリング・自由記述の内容
・新しい形式で興味がもてる。
・とにかく見た目がかっこいい。
ア
・動きが滑らかで見やすい。
ニ
・黒板上ではわからない3Dの感覚は何よりもわかりやすくなっている。
メ
・パースが描ける理論を、アニメーションによる例を見ながら学べる点は初めて。
・映像にされると、分かりやすい。
シ
・アニメーションがとてもわかりやすく、パースの基礎の部分がよくわかる。
・アニメーションとインタラクティブ性が組み合わされていて、学生が主体性を持っ
ン
て学べる教材である。
・教材と言うよりアニメ感覚でパースについて勉強になった。
・この教材を配布すれば講義は不必要なのではないか。少なくとも教育者の負担
教 は減るだろう。
材 ・専門知識をもった教育者が、ソフトを使いながら指導をしてくれたら、一層ソフト
内 の長所が生きるのではないか。
容 ・パースの仕組みや理論は分かりやすい。
・パース実践の導入として最初からこの教材だと情報量が多すぎるかもしれない。
・学んだことを後で演習できるような機能があるともっと面白かった。演習用の
データがダウンロードできるようになっていて、それの解答がFLASH上で解説さ
れるといったような機能があると楽しい。
自
・復習用教材として役に立つのではないか。
習
・手塚式パースを知らなかったら理解できたかわからない。
向
・各自で復習するさいに,このような教材があれば,一人でもパースの技法を修
き
得できて便利。
・一回で理解できなくても何回もみることが出来るので、個人の理解度に合わせ
て見ることが出来て良い。
ョ
4.1 使用状況に関する調査結果
80%
10
10
ー
4.教材の試用結果
60%
7
0%
3.3 教材の構成
の解説である。
40%
4
説明文
アニメーション
自由に学習できるようにしている[注]。
な描画法の解説、③が授業担当教員が推奨する描画法
20%
2
( c ) 手塚式透視図
を使用している。アクセス制限をせず、学生が自宅で
式透視図法の3章から構成されている。①②は一般的
7
9
0%
図1 操作説明図
教材は、①平行透視図法、②2点透視図法、③手塚
4
若干の学生がボタンなどの操作性が悪いと指摘してい
従来型の2次元の教材の分かりにくさを軽減できたと
る(図3)
。教材の内容については全体的に良い評価が
いえる。また、一度透視図の描画法を習得した学生か
得られているが、特にアニメーションの評価が高い
らは復習教材として高い評価が得らることができた。
(図4)
。ヒアリング・自由記述の内容をみると、アニ
ただし、初めて透視図を学習する者のための導入教材
メーションに関しては、
「黒板上ではわからない 3D の
としては有効でないため、授業欠席者の教材としては
感覚がわかりやすい」
、「動きが滑らかで見やすい」など
不十分であることがわかった。
好印象が多い。教材内容についても評価が高い。また、
5.今後の課題
後で繰り返し見ることができ復習用教材として効果的
今後の課題としては以下のような事項が考えられる。
である、という評価が多く挙げられている(表1)
。
①授業後の演習課題作成時の自習用教材として、実際
しかし、パースを学習したことのない建築学科以外
にどの程度有効であるか確認する。
の学生にも提示したところ、
「アニメーションはきれい
②初めて学習する学生にも理解できるよう、よりやさ
だが、内容はほとんど分からない」という感想がほと
しい説明図、説明文に改良する。
んどであり、初学者の入門教材としては説明が難しす
③実際に授業で出題される課題と類似した立体や建物
ぎるようである。
を題材として、紙の上で行う作図作業と対応させて進
4.2 考察
3次元的なアニメーションについての評価は高く、
社団法人 私立大学情報教育協会
平成18年度 大学教育・情報戦略大会
めるような練習用教材を開発する。
[注] http://wwwst.sc.musashi-tech.ac.jp/~yamaguti/
perspective/index.htm
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