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読書のすすめ

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読書のすすめ
読書のすすめ
高橋
勉
『流れのファンタジー』
流れの可視化学会編
講談社ブルーバックス
“An Album of Fluid Motion”
Milton Van Dyke 編
The Parabolic Press
「一枚の写真が歴史を変える」
。どこかで聞いたことのあるフレーズではありま
すが1枚の写真で卒論、修論が書けてしまうことがあります。1枚の写真でノー
ベル賞、も夢ではないでしょう。写真や動画には様々な能力が秘められており、
科学・工学の分野においては物事を証明し、複雑な事象の理解を補助するという
目的で使われています。
さて、紹介した2冊の本は写真集です。
「読書のすすめ」という話題の意図に沿
うかどうか疑問ですが、学生諸氏には是非とも「見て」いただきたい本です。い
ずれも空気や水の流れる様子を撮影した写真集で、実験室においてさまざまな工
夫の末に撮影された写真から私たちが普段何気なく目にしている自然の風景まで
が掲載されています。空気や水の流れは目では見えません。しかし、普段の生活
においても煙や霧の動き、川面の落ち葉の動きなどから流れの様子を知ることが
できます。このように普通では見えない現象や物体を工夫して見えるようにする
技術を可視化といいます。目視できれば新しい知識が得られ、正確な解析・分析
を導くための基礎となります。古くから詩や小説で「風」は目に見えないものの
代表のように扱われていますが、風、すなわち空気の流れもさまざまな工夫によ
り撮影され、見ることができます。そして、可視化された流れの写真を見ると普
段の生活の中で存在する流れの中に芸術的な幾何学模様や感動的な美しさが隠れ
ていることがわかります。
流体力学は機械系の学生にとって必須といわれている4つの力学(機械力学、
材料力学、熱力学、流体力学)のうちのひとつですが、学生の皆さんにとって難
敵のひとつでもあるでしょう。数学的な難しさもありますが、
「流れ」という現象
がイメージしにくいことが嫌われる原因だと思います。しかし、
「イメージ」する
力こそがエンジニアが持つべき重要な能力ですので、いろいろな現象を頭の中で
イメージする、想像する、という能力を養ってください。これらの写真集に掲載
されている画像は芸術写真として鑑賞してもおもしろいですが、いったいどんな
流れがこの模様を作り出しているのかな? どのようにしたらこの写真が撮れる
1
のかな? などと考えながら眺めていると次第に想像力が養われてくるでしょう。
私自身も学生時代から今に至るまで可視化写真を撮り続けてきました。学生時
代はデジカメもビデオカメラも使えず、フィルムを使うカメラでの撮影が中心で
した。一日に百本以上のフィルムを撮影することもありました。もちろん自分で
現像しなければなりませんのでその頃の実験室は現像後の乾燥のために天井から
つるされたフィルムの束で埋め尽くされており、あたかもワカメのはえた海底の
ように見えたものです。現像液の調整ミスで貴重な実験結果を一瞬でお釈迦にし
たことも多々あります。デジカメやデジタルビデオ、光源としてのレーザーライ
トシートなど現在の実験装備を見ると隔世の感ありです。便利で楽になりました
が、可視化実験の最も重要なポイントは流れをイメージすることであり、的確に
イメージすることにより撮影条件を設定していくことができるのです。この写真
集の中にはその1枚を撮影するために何年も準備と試行錯誤が続けられた画像も
あります。我々の研究室でも未だにうまく可視化できない流れ場があり、歴代の
大学院生たちが苦労し続けています。
1枚の写真にもいろいろな意味があり、研究者たちの創意工夫と努力が込めら
れています。まずは『流れのファンタジー』を手に取ってみてください。こちら
はカラー写真が豊富に使われていますし、流体工学の知識がなくても楽しめるよ
うになっています。
“An Album of Fluid Motion”は流れ場の状況ごとに整理され
ていますので、流体力学の知識を持っている方が楽しみやすいでしょう。小説な
どと異なり写真集は何度でも手に取り、折々に眺めることができます。ペーパー
バック版なら2千円ほどで買えますので、自動車や飛行機の空力に興味がある人
は是非、そうでない方もできれば手元に置いて頻繁に眺めてみてください。今ま
で気にもとめなかった身の回りのことが不思議な自然現象の集合であることに気
づくようになるかもしれません。
執筆者紹介
高橋 勉(p.71)
本学准教授。専門領域は、流体工学、レオロジー、オプティカル・レオメトリー。東
京理科大教員から、本学へ。界面活性剤水溶液や液晶高分子の流体挙動を実験やコン
ピューターで明らかにしようとしている。出前授業等で話す「フォークボールは、な
ぜ落ちるか?」は面白くてわかりやすいと好評。
2
『書名』 著者名(翻訳者名) 出版社または文庫・シリーズ名 出版年 税込み価格
『流れのファンタジー:写真がとらえた流体の世界』 流れの可視化学会編 講談社ブルー
バックス 1986年 1,733円
“An album of fluid motion” Milton Van Dyke Parabolic Press 1982 2000円
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