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教育講演 - 日本高気圧環境・潜水医学会
2009年9月30日 教育講演5 高気圧酸素治療における法律 教育講演6 減圧症にならない潜り方 小林 浩 山見信夫 東京慈恵会医科大学環境保健医学講座 信愛会山見医院 第五次医療法改正 (2006年)を契機に医療関連法 ヒトは,大気圧下で窒素が飽和した状態で生活し 規の改正が相次ぎ,当学会に密接に関係する法改正 ている。たとえば,空気ボンベを使用して潜水すると, があった。医療法は医療の根幹をなす法律であるが, 過量の窒素が身体に吸収され,浮上時に過飽和状態 ここ数年の社会情勢の変化に応じ,医療安全の確保, になり気泡化する可能性がある。減圧症を発症さな 医療情報提供の推進,医療機能の連携などが明確に いためには,潜水中,身体に窒素をできるだけ溶解 謳われた。医療施設において,特に医療機器に係る させないこと,減圧時,溶解した窒素をできるだけ排 安全確保のための体制整備として,①安全使用のた 泄させ気泡を発生させないこと,気泡ができても身 めの責任者の配置,②従事者への安全使用のための 体内に留まらせないことである。 研修の実施,③保守点検に関する計画の策定及び実 施,④安全使用のために必要となる情報収集,などの 措置が必要となった。一方,薬事法に関しては,医療 法改正に先行して2005年に改正法の施行がなされ, 医薬品・医療機器の製造 (輸入)と販売の業態が大幅 に改められ,事業者の最終責任と安全確保を重視す る改正が行われた。また,高気圧酸素治療とは異な るが,高気圧作業における減圧症罹患リスク低減のた め,減圧 (浮上)に際しての酸素吸入の利用について, 旧薬事法では医療機関以外が医療用酸素を購入し整 備することはできなかったが,2009年 6月施行の薬事 法で,有害業務への厚労大臣審査事項の一環として 潜函作業においてのみ医療用酸素の整備が可能とな った。本講演では,下段に記載した高気圧酸素治療 関連規制について解説する。 医療法:医療機器と医療ガス供給設備の保守点検 業務,医療ガス安全・管理委員会の設置 薬事法:定義;高度管理医療機器, リスク分類, 特定 保守管理医療機器,設置管理医療機器,医薬品医療 ダイビング元来のリスクファクターには,潜水深度, 潜水時間,浮上速度,安全停止深度,安全停止時間, 潜水回数,水面休息時間,吸入ガス組成,潜水地 の標高がある。たとえば,1日に複数回潜水する場合 は,深いダイビングを最初に行い,最大深度へは潜 水開始直後に潜るべきである。潜水後半に深い深度 に潜ると平均深度が浅くてもリスクは高くなる。浮上 スピードは毎分9m以下が推奨されているが,極端に 遅いと潜水時間も長くなり,窒素が半飽和時間の長 い組織に多量に溶解しリスクが高まる。 減圧症の誘因には,身体,行動,環境の因子が ある。疲労や潜水後の航空機搭乗のように避けるこ とができるものと,加齢や体質のように避け難いもの がある。身体因子には,加齢,肥満,怪我の既往, 減圧症の既往,疲労・体調不良,脱水,卵円孔開存 (減圧障害のひとつとされる動脈ガス塞栓の誘因)な どの体質がある。行動因子には,飲酒,ピル服用, 喫煙,潜降・浮上の繰り返し,運動過多,スキップ呼 機器の製造販売業;製造販売承認,GQP (品質管理 吸(二酸化炭素蓄積),潜水後の高所移動,潜水後 の基準),GVP (製造販売後安全管理基準),局方酸 の航空機搭乗がある。環境因子には,潜水中と潜水 素;第二種医薬品,医薬品医療機器等安全性情報報 後の環境温度差がある。減圧症を発生させないため 告制度;医療機関からの医薬品医療機器の副作用・ には上記の誘因をできるだけ避けることである。 不具合・感染症発生の報告義務,日本工業規格;高気 圧酸素治療装置,医療ガス配管設備 減圧症の積極的な予防には,減圧中または潜水後 の酸素吸入がある。 消防法・建築基準法:高気圧酸素治療室設備基準 高圧ガス保安法:酸素・医療ガス貯蔵量,容器保安 規則 (塗色区分) 137 日本高気圧環境・潜水医学会雑誌 教育講演7 減圧障害に対する治療 教育講演8 高気圧酸素治療第1種装置における安全管理 鈴木信哉 堂籠 博 防衛医科大学校防衛医学研究センター 異常環境衛生研究部門 鹿児島大学医学部歯学部附属病院救急部 本学会の高気圧酸素治療安全基準にある再圧治 高気圧酸素療法では,高気圧環境下で高濃度の 療指針によると,減圧障害の再圧治療には,第2種 酸素投与を行うという特異な環境での治療となる。 装置の使用が義務づけられている。再圧治療は,通 特に,第1種装置では治療中は患者に直接接するこ 常の高気圧酸素治療よりも高い酸素分圧を使用する とのできない環境である。その間は患者管理が不十 ために,痙攣発作を呈する酸素中毒を惹起する可能 分となる可能性がある。安全に実施できる対策を考え 性が高いこと,肺気圧外傷として気胸を合併した動 る必要があり,その為の工夫も必要であろう。 脈ガス塞栓症に対して胸腔内にカテーテルを挿入する その工夫としては,個々の症例での適応のさらなる 操作がチャンバー内で必要となること,再圧治療は初 適正化と患者状態の十分な把握,加えて高気圧酸素 回治療が最も重要視されるため,治療が延長されて 療法実施時でのさまざまな場面のシュミレーション(訓 長時間に及ぶ場合がある等の理由で,第1種装置で 練)が重要で,疾患自体の経過や高気圧酸素療法へ は対応が困難となるからである。 の反応等についての知識も重要と考える。 しかしながら,我が国では第2種装置を保有する施 この講演では,以上のような一般的な内容と演者 設の分布に地域的な偏りがあり,重篤な減圧障害が の経験等からの講演内容とさせていただく予定であ 発生した場合の緊急再圧治療ができない地域が少な る。 くない。更に,我が国の第1種装置には純酸素加圧 型が多いため,緊急避難的に同装置の使用を認めざ るを得ない場合があると推察される。従って,現状 の地域特異性を勘案した治療法と治療態勢を構築す る必要がある。 米海軍ダイビングマニュアルは,確立された再圧治 療マニュアルとして信頼性が高く,世界的標準となっ ている。このマニュアルに従った再圧が適切に実施で きない場合について,減圧障害治療の緊急度を勘案 した現時点での治療戦略を再圧治療法や補助療法の 知見を踏まえて述べる。 更に,将来的に最適の治療態勢を作り上げるには, 再圧治療装置そのものの改善を図る必要がある。一 般医療施設での使用には,JIS規格,薬事関連等の 検討が必要となるが,第1種装置の持つ簡便性,経 済性及び機動性と第2種装置の持つ重症対応能力と いった両装置の機能を備えた二人用可搬式再圧装置 が 2008年に海上自衛隊の艦艇に装備され,効果的 な運用の検討が始まっている。その有用性や応用法 を提示して,再圧治療装置改善の参考としたい。 138 Vol.44 (3), Sep, 2009 明日からの治療の手助けとなれば幸いである。