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仙台市の観光ガイドボランティアを通してー

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仙台市の観光ガイドボランティアを通してー
市民参加による文化財の活用方策 —仙台市の観光ガイドボランティアを通してー 伊藤優(宮城大学大学院) Keyword:
「歴史文化基本構想」 文化財保護 市民参加 観光ガイドボランティア 【研究の背景と目的】
【ネットワークの概要】 近年の社会環境の変化等により、文化財の継承が困難
になりつつあるという課題意識のもと、文化庁が「歴史
(表1 仙台市観光ガイドボランティアネットワーク団体名) *設立経緯ごとに作表 文化基本構想(以下:基本構想)
」
(文化審議会文化財部
仙台市教育委員会が養成 会企画調査会 2007)を提唱した。その大きな柱は、指定、
①陸奥国分寺薬師堂ガイドボランティア会 未指定を問わず「文化財を総合的に把握する方策」と、
「社
②宮町・東照宮歴史と文化財ガイドボランティア 会全体で文化財を継承していくための方策の2つであり、
③NPO 法人仙台城ガイドボランティア会 基本的な方針として、
「地域社会に関わるあらゆる主体が
④北山ガイドボランティア 参画し、地域の文化財の保護を担っていくこと」
(文化庁
⑤国宝大崎八幡宮観光ボランティアガイド「仙台回廊」 2012)の必要性が示されている。これは、市民による「地
市民センター・区役所等が養成 域的公共的課題の解決」
(佐藤 2013)といった市民参加型
⑥泉区歴史民俗ガイドボランティア「七北田探検団」 社会の形成理念とも呼応し、今後の文化財保護政策にあ
⑦東口ガイドボランティア「宮城野さんぽみち」 たり、より一層の市民参加の方向性を示すものといえる。
市・主催事業参加者による設立 仙台市においても 1999 年から全国に先駆けて「協働に
⑧岩切歴史探訪の会 よるまちづくり」
(仙台市 2014)に積極的に取り組んでい
⑨仙台彫刻鑑賞会「ぺろんこ」 ることや、少子高齢化、公的財源不足などによる文化財
ミュージアム施設が養成 をめぐる厳しい現状から、基本構想で示された「市民参
⑩仙台市博物館ボランティア三の丸会 加」「協働」の理念は、同市の今後の文化財保護施策上、
⑪地底の森ミュージアムボランティア会 検討すべき施策のひとつと思われる。 ⑫仙台市縄文の森広場ボランティア会 さらに、基本構想のなかでは、文化財に対する理解の
市民による自主的な設立 増進のため、エコツーリズム、あるいはエコミュージアム
⑬NPO 法人シニアネット仙台観光ボランティア に関しても、その推進力のひとつとして言及されており、
ガイド「グループ・よっこより」 仙台市内の観光ガイドボランティア団体の活動実態を把
⑭「ふるさと」の歴史を学ぶ会 握することは、
「市民参加」
、
「協働」の理念をこれからの
⑮仙台市歴史と文化財ガイドボランティア友の会 文化財保護政策に生かすための糸口になると思われる。 ⑯瑞鳳殿ガイドの会 以上により、本研究では、市民参加の理念と文化財保
⑰仙台ボランティア英語通訳ガイドグループ GOZAIN 護とのあり方について、仙台市の観光ガイドボランティ
ア団体等の活動の実態を分析し、同市の文化財保護との
関係性の研究事例の端緒となるべく、考察を進める。 【研究方法・研究内容】 仙台市内における市民活動団体のうち「仙台市観光ボラ
ンティアガイドネットワーク」
(以下:ネットワーク)に所
属する 17 団体を対象として、活動内容を分析し、文化財保
護行政との関係性を明らかにするとともに、今後の課題と
可能性とを考察する。主な研究方法は聞き取り調査と成果
資料等の分析、行政資 料等の閲覧による。なお、本研究
においては「文化財」は広義に捉え、指定措置されたもの
に限らずに用いることとする⑴。 (図1 各団体の主な活動地区)番号なしは市域全体で活動する ⑨ ⑥ ⑫ ⑪ ⑯ ④ ⑤ ② ③ ⑩ ⑧ ⑦ ① ネットワークは 2008 年の「仙台・宮城デスティネーショ
(表 2 仙台市におけるガイドボランティア団体の養成) ンキャンペーン」の際に仙台市により 17 団体で組織された。 *「養成団体」は表1の団体番号と対応する 17 団体の選定基準は、従来の観光スポットである、大崎八
開催年 幡宮、仙台城跡、瑞鳳殿の観光ガイドを基本とし、旧城下
1996 年 泉 区 七北田地区等 町を広く対応できる団体を選んだことが窺える。また、ほ
1996 年 若林区 新寺地区 1997 年 若林区 史跡陸奥国分寺跡 とんどが歴史系の団体であるが、美術作品のガイド⑨や外
養成事業・対象地区 養成団体 ⑥ ① 1998 年 青葉区 北山・新坂町地区 ④ 国人向けの通訳ボランティア⑰も取り込み、多様な要請に
1999 年 青葉区 宮町・東照宮地区 ② 対応可能な組織となっている。観光利用者は、各団体に直
2000 年 若林区 荒町地区 − 接連絡を取り、ガイドを受けるシステムである。 2001 年 青葉区 片平・霊屋下・向山 − 仙台市ではこのような観光ガイドを紹介する他、ループ
2002 年 青葉区 一番町・支倉町地区 − 2003 年 宮城野区 榴ケ岡・原町地区 ⑦ 2004 年 青葉区 史跡仙台城跡 ③ 2005 年 青葉区 大崎八幡宮・史跡仙台城
⑤ けは、そのパンフレット⑶から明らかである。つまり、
「自
2006 年 分たちが暮らしている地域の観光資源や、自然、歴史など
2007 年 青葉区 史跡仙台城跡 跡 若林区 史跡陸奥国分寺跡 ルバス(市内循環観光バス)や、近隣の松島への観光プラ
ンなども多数提案されているが⑵、ネットワークの位置付
⑧ ①と同じ を案内」すること、
「様々なバックグラウンドをもったガイ
ドが、自ら地域の魅力を修得し」その魅力を伝えることが
【団代の活動(1)-北山ガイドボランティアの事例-】 できる、という、エコツアーとしての性格を打ち出してい
ここで、活動事例として(表1)④の北山ガイドボラン
る。これは、後述するように、各団体の日頃の活動から裏
ティアの活動を紹介する。北山とは仙台藩祖、伊達政宗が、
打されており、仙台市は、地域資源を市民目線で伝えるこ
五つの寺を城下の北に配した地区であり、伊達家ゆかりの
とも重視していると考えられる。 古刹による落ち着いた佇まいの町並みが特徴的である。
【団体設立の経緯】 2014 年度のガイド実績としては、年間 24 件、のべ 1066 名
仙台市の養成事業 (表1)のうち、①〜⑦は仙台市が養
をガイドしている(表3)
。拠点にしている北山市民センタ
成した団体である。このうち、②〜⑤は、同市教育委員会
ーからの依頼のほか、市内外の公共施設、学校、各種サー
の「歴史と文化財ガイドボランティア養成講座」による団
クルや北山五山での法要法話のほか、JR 北仙台駅から「駅
体である。①、⑦は市民センター、区役所がそれぞれ養成
長オススメのちいさな旅」に係るガイドも行っている。ま
している。これらを示したのが(表 2)である。対象地は
た、特筆すべきは、北山地区の墓碑を丹念に調査し、
『仙台
史跡や歴史的景観が色濃くみられる地域であるが、養成事
藩の埋もれた遺臣たち』
(北山ガイドボランティア 2014)
業から団体の組織化に至らなかった事例も少なくない。対
を刊行したことで、これまで表立って史上に現れなかった
象地区に、誘客的要素を持つ文化財が、他と比べて相対的
仙台藩の家臣の系譜、功績を顕彰したことは、地元に根ざ
に少ないことが要因のひとつとして挙げられよう。とはい
した団体ならでは実績といえるだろう。 (表3 北山ガイドボランティア会 2014 年度実績) え、当該年度に養成したガイドボランティアが、翌年度の
教育委員会主催の普及啓発事業のガイドを担うという循環
的な事業も実施されてきた。仙台市観光ガイドボランティ
1 JR 北仙台駅 13 北山市民センター 2 福島市文化財ボランティア 14 北山シミセンター 3 北山シルバースクール 15 北山市民センター てきた事業といえる。 4 松山訪ね歩きの会 16 御施餓鬼供養・法話 市・主催事業参加者による設立 (表1)の⑧、⑨は市の
5 国見地区老人クラブ 17 沖野耕友会 主催事業参加者が自主的に有志を募り設立した団体である。
6 福沢市民センター 18 荒巻小学校 5 年生 ミュージアム等の養成事業 (表1)の⑩〜⑬は各ミュー
7 黒沢尻北地区交流センタ
19 東北大OB会落研 8 JR
ー 北仙台駅 20 豊齢学園2年生 9 JR 北仙台駅 21 加茂市民センター アネットワークに所属する団体のうち、最も人材を輩出し
ジアム等で養成された団体であり、主に展示会場の解説や
ミュージアム主催事業への協力を担っている。 依頼元 依頼元 10 通町小学校 5 年生 22 仙台観光コンベンション協会 市民による自主的な設立 (表1)の⑭〜⑰は市民により
11 南中山市民センター 23 NPO 法人ジョイナス 自主的に組織された団体である。 12 仙台城ガイドボランティア 24 仙台観光コンベンション協会 【団体の活動(2)-七北田探検団の事例−】 (図3 「岩切探検マップ 1」抜粋) 1996 年から始まった泉市民センターの「歴史民俗ボランテ
ィア講座」の参加者を母体した同団体は、旧泉歴史民俗資料
館のガイドを初発の事業として、その後、旧七北田村に係る
歴史や文化財調査と進展し、その後は活動範囲を徐々に広げ
ながら、最終的には泉区(旧泉市)全域にわたる調査事業に
着手している。その間、各地域の市民センター主催講座での
歴史ガイドや拠点とする泉区市民センター事業に積極的に
参加している。これまでの調査事業のひとまずの区切りとし
て、
『はっけん 七北田』
(仙台市 2003)を刊行している。古
代から近現代までの通史的な記述とし、そこに七北田地域の
文化財の写真、図版をあてはめることで、七北田地区の文化
財ガイドブックといえるだろう。 (図2 「昭和 15 年頃の七北田・市名坂略図」
) 『はっけん 七北田』から 3【団体の活動(4)−瑞鳳殿ガイドの会の事例−】 (公財)瑞鳳殿は、伊達政宗以降3代の藩主の霊屋、霊
廟を中心とし、ガイダンス施設として資料館が設けられて
いる。1945 年の仙台空襲によって霊屋は焼失したが、それ
以前は国宝に指定されていた。この瑞鳳殿、史跡仙台城趾、
国宝大崎八幡宮は「伊達3名所」と呼ばれ、市民に親しま
れ、仙台では中心的な観光地である。瑞鳳殿ガイドの会は、
他のミュージアム施設のようにミュージアムが養成した団
体ではなく、あくまでも自主的に設立されたガイド団体で
ある。2014 年度のガイド実績は(表4)の通りで、のべ3
万人近くの利用者に対応している。前述のとおり、瑞鳳殿
が養成した団体ではないために、他のミュージアム施設の
ようにガイドの内容については、事前に施設側と擦り合わ
【団体の活動(3)−岩切歴史探訪の会の事例−】 せが行われているわけではないし、会としても統一マニュ
岩切は宮城野区の北端に位置する。古代の古墳をはじめ、
アルを作成しているわけでもない。むしろ、ガイド個人の
国の史跡である中世の岩切城跡を擁し、多くの板碑群が建
知識と技術に一任されている。そのため、ガイドごとに資
立されている東光寺城跡や、近世期には足軽集落と家臣団
料ファイルの作成に努めている。 が配置された地として知られている。同会は 2004 年の岩切
(写真1 瑞鳳殿ガイドの会 資料ファイルの一例) 市民センターの歴史講座をきっかけに組織された。最初に
取り組んだ事業は「岩切歴史探検マップ」の製作で、37 の
文化財が詳細に記された。また、区の助成金も利用して「岩
切の歴史散策マップ」も完成させている。さらに、松尾芭
蕉が訪れたとされる「十府の池跡」など、域内 34 箇所に、
「岩切地区・名所旧跡」に係る説明板を地元企業等の寄付
や広告料収入により 2008 年に設置した。これほか、地域に
自生するカラムシ(苧麻)の本格的な栽培を始め、木綿が
多用される以前の植物繊維であるカラムシによる織物にも
挑戦している。また、近年は地域で継承されてきた古文書
解読も行われている。 【考察】 【結論・今後の展開】 ガイドボランティアの意義 冒頭で述べた通り、これから
文化財保護という営為には、多様な主体が関係している。
の文化財施策として「地域社会に関わるあらゆる主体が参
地域における文化財の再確認、新たなる掘り起こし、また、
画し、地域の文化財の保護を担っていくこと」が「歴史文
地域社会での共有化に尽力してきたという観点から、観光
化基本構想」で示されている。本研究がガイドボランティ
ガイドボランティア団体は、特に重要な役割を果たしてき
アに特に焦点を当てたのは、その「あらゆる主体」として、
たといえる。 「仙台市観光ガイドボランティアネットワーク」が相当し、
仙台市教育委員会・仙台市文化財保護審議会は 2009 年に
しかも、事例で一部紹介したとおり、地域の緻密な文化財
「文化財の指定・登録方針」を改めて検討し、これからは、
情報を豊富に把握していると考えられるからである。ほぼ
地域社会等との連携により、文化財情報の集約等に努める
すべての団体が、定期的な勉強会や講座の開催、現地調査
旨の内容を決議している⑷。地域社会が指す内容は多義で
により、地域に密着した歴史・文化財情報を有している。
はあるが、地域で活動するガイドボランティア団体も当然
また、どの団体(あるいは会員)も、さらなる文化財の掘
含まれ、協働により、膨大で質の高い地域の文化財情報を
り起こしを行っている。例えば、北山ガイドボランティア
共有しあうことが、これから、より一層求められるだろう。 会は北山五山だけが活動範囲ではなく、周辺地域まで視野
今後は、文化財保護という営みに連なる主体がどのよう
に入れた調査・ガイドが行われている。歴史や文化財の他
な役割をこれまで果たしてきたのかを、政策的な視点及び、
地域との繋がりを研究するために、複数の団体に重複して
市民レベルの視点で分析し、
「歴史文化基本構想」や「文化
所属している会員が非常に多いことも頷ける。また、事例
資源マネジメント」⑸等の取組みを視野に入れながら、文
のとおり、ガイドは外部からの観光客向けだけに行われて
化財保護における「協働」の意義についてより認識を深め
いるものではない。市民向けの講座やガイド、学校教育と
ていきたい。 の連携も積極的に行われ、各団体の活動の幅の広さを物語
っている。岩切歴史探訪の会では、作成した文化財マップ
引用文献 を、岩切小学校、岩切中学校の全児童、生徒に無償で配布
・北山ガイドボランティア会(2014)
『仙台藩の埋もれた遺臣たち』 され、保護者の目にも届くような工夫がなされている。ガ
・佐藤徹(2013)
「市民参加の基礎概念」
『新設 市民参加』公人社 イドという手法によって、文化財の価値や意味が広く周知
されているということが指摘できる。 市民参加とガイドボランティア 本研究における「市民参
加」の視角は、行政の関与度及び市民の関与度により、
「行
・仙台市泉市民センター(2003)
『はっけん 七北田』 ・仙台市(2014)『平成 26 年度第 4 回仙台市市民公益活動促進委 員会』配布資料 ・文化審議会文化財分科会企画調査会(2007)『文化審議会文化 財分科会企画調査会 報告書』 政主導型の市民参加」
、
「協働」
、
「自治」の 3 類型とした(佐
・文化庁文化財部(2012)
『
「歴史文化基本構想」策定技術指針』 藤 2013、高橋 2013)
。現時点では、どの観光ボランティア
注記 団体からも、ネットワークでもたれる会議自体が、行政か
⑴文化財保護法においては、文化財」とは本来、指定の有無に関 らの観光キャンペーン取組みや、助成金の申請方法等のみ
わらず、文化的所産を示すものを指すため。 の情報伝達機関であり、双方向の情報交流にはなっていな
⑵仙台市 HP など http://www.city.sendai.jp/kanko/
いという意見が圧倒的に多い。また、文化財保護部署から
⑶仙台市(2015)
『観光ボランティアガイドネットワーク』パンフ レット も、主催事業への協力依頼が最も多く、この視点によると、 仙台市においては、より一層、協働への取組みが必要と思
⑷仙台市教育委員会(2009)『平成 21 年度第 1 回文化財保護審議 会』配布資料 われる(図4)
。 ⑸西山徳明 2012「文化資源からはじまる歴史文化まちづくり」
『季
(図4市民参加のエレベータ・モデル 佐藤(2013)から発表者作図) 刊まちづくり 35』参照 行
政
の
関
与
度
市
民
の
関
与
度
自 治 市民立法、コミュニティ組織への権限委
参考文献 ・総合観光学会編(2010)
『観光まちづくりと地域資源活用』同文 館出版 協 働 市民会議、NPO と行政とによる協働事業 ・法政大学多摩シンポジウム実行委員会編(2012)
『文化遺産の保 行政主導型の市民参加 アンケート 審議会への市民公募 ・パブリックコメント
・安福恵美子(2014)
「地域資源と『観光ボランティア』の関係性 存活用と NPO』岩田書院 に関する一考察」
『愛知大学綜合郷土研究所紀要 59』 
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