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がん臨床試験とEBM (勝俣範之)

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がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
本日のお話
がん臨床試験とEBM
日本医科大学 武蔵小杉病院
腫瘍内科 勝俣範之
EBM: Evidence-based Medicineとは?
EBM: 根拠 (Evidence) に基づく (based)
医療 (Medicine)

EBMとは?

エビデンスを使うこと (EBMの実践)

エビデンスを伝えること (ガイドラインの使用)

エビデンスをつくること (臨床試験を行う)
ヒポクラテスの誓い
 “First,
Dr. D. Sackett
もともとは「臨床疫学:Clinical Epidemiology」と
呼ばれていた。
疫学的手法を応用して、診療(検査や治療法)などの有
効性や効率性を評価する学問
全ての医療行為は犯罪である。

病歴聴取
プライバシーの侵害

身体所見
わいせつ行為

レントゲン検査
放射線被曝

薬剤投与
毒物投与

手術
傷害罪


害を与えてはいけない!!
古代ギリシャの医聖
EBMの階層
エビデンスを使う: EBMの手順による診療
↓
エビデンスを伝える:EBM一次資料
EBM二次資料
診療ガイドラインなど
↓
これらのリスクを超えた利益がなければ
医療行為は”是”とみなされない!
do no harm”
Hippocrates: Epidemics, Bk. I, Sect. XI.,
ca. 460-377 B.C.
エビデンスを作る:質の高い臨床研究・臨床試験
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
1
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
EBMの3要素
Clinical
Research
Evidence
医療者の専門性 Expertise
科学的データ
エビデンスを使う
EBMの手順による診療
最善の医療
Patient
Preferences
患者の希望
Evidence-Based Medicine: How to Practice and Teach EBM (2nd ed.)
by Sackett DL; Churchill Livingstone. 2000.
EBMの誤解

Clinical Expertise (専門性)とは?
EBMは目の前の患者さんを無視した冷たい医
療である

EBMは少数例の患者を切り捨ててしまう、個別
化を無視した医療である

EBMはマニュアル医療をもたらし、個々の工夫
がなくなる医療になる
IC (Informed Consent)から、 SDM (Shared
Decision Making: 意思決定の共有)へ

適格な病歴聴取

身体所見の取り方

診断技術、手術技量

臨床判断

適格な医師-患者関係の構築
患者とのコミュニケーション技術
米国臨床腫瘍学会公式カリキュラム2003より
医師が情報を持ち、
医師が決める
医師と患者が情報を
共有し、決定も
共有する
患者が情報をもら
い、患者が決定
する
悪いニュースを伝える方法 -SPIKESSetting (場の設定)
Perception (認識度を知る)
Invitation (希望の確認)
Knowledge (情報提供)
Empathy & exploration (共感と探索)
オレが決める型
共有型
患者が決めな型
Strategy & summary (戦略と要約)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
2
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
EBMを実践する=標準治療を知る
悪いニュースを伝える方法 -SPIKESの例Setting (場の設定)
「調子はいかがですか?」 「ここ1週間の痛みはどうですか?」
Perception (認識度を知る)

標準治療 ≠ ふつうの治療

標準治療 = 最善・最良の治療

最新治療 ≠ 最善・最良の治療
「これまでに自分の病気をどのようにお考えでしたか?」
Invitation (希望を確認する)
「簡潔に治療計画だけお伝えしましょうか?」
「少し厳しいお話になるかもしれませんが、お話してもよいでしょうか?」
Knowledge (情報の共有)
「残念なのですが・・・・・・」 「つらいことではありますが・・・・・・・・・」 「今までのところでご質問はありますか」

最新治療とは実験的・研究的治療のこと
Empathy & exploration (共感と探索)
「つらい思いをされましたね」 「ショックを受けられたと思います」
「これからのことが心配なんですね」 「お気持ちはよくわかります」
「そのように思われたのは当然だと思います」 「そのことについて、もっと詳しく教えていただけますか?」
Strategy & summary (戦略と要約)
「一緒にがんばりましょう」 「我々がどんなことがあっても支えていきますから大丈夫です」
研究的治療
臨床試験(治験)
EBMの実践の近道=ガイドラインの利
用
標準治療
エビデンス・ガイドラインはどうやってつく
られるのか?
エビデンスレベル
(ASCOガイドラインより)
I
複数のランダム化比較試験のメタアナリシス
II
検出力の低いランダム化比較試験(第三相試験)
検出力の高いランダム化比較試験 (第三相試験)
III
シングルアーム研究(第二相試験)、ケースコントロール研究
IV
ケースシリーズ
V
ケースレポート、臨床経験
推奨グレード
A
レベルIのエビデンスまたは、複数のレベルII-IVのエビデンスがある
B
レベルII-IVのエビデンスがあり、専門家の意見の一致がある
C
レベルII-IVのエビデンスがあるが、専門家の意見の一致がない
D
エビデンスがほとんどなく推奨できない
ランダム化比較試験
(Randomized Controlled Trial: RCT)
とは?
子宮体がんのガイドライン



新しい治療などを科学的に検証するための最も優れた
研究方法
対照群(コントロール群)と、介入群 (治療・検査など)と
にランダムに割り付けて、結果を比較する
世界で最初のRCTは、結核のストレプトマイシンの
RCT(1948年)
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
3
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
エビデンスはどうやって作られるのか?
これらのエビデンスのレベルは?
ステージIII、IVの悪性黒色腫502名に対して、Ipilimumab+ダカルバジ
レベル1
基礎から臨床へ
ン併用療法とダカルバジン単独とのランダム化比較試験で、
医学研究
Ipilimumab群が生存率を改善させた。
レベル 3-4
超音波乳がん治療の150名の報告
レベル4
○○大学病院の乳がん術前FEC療法の68名の経験、85%に奏効
レベル5
タキサンに無効だった乳がん患者さんにエリブリンが著効を示した!
レベル5
国立がん研究センターの治療方針
レベル5
○○教授、 ○○部⻑の意⾒、コメント
レベル5
がんの基礎実験の結果
細胞実験
10,000
新規化合物
前臨床試験
基礎研究
1薬剤
承認
全行程15年
出典:米国会計検査院レポート“New Drug Development”November 2006
乳がん術後薬物療法のランダム化比較試験
(RCT)
• 最初の臨床試験
– ミラノ試験
1973年より開始
乳房切除
腋窩リンパ節転移
陽性 386例
第一相試験
毒性を評価
エビデンスレベルIII
20-30例
第二相試験
短期的効果(腫瘍縮小)を評価
エビデンスレベルIII
40-100例
第三相試験
長期的効果(生存期間)を評価
ランダム化比較試験 (RCT)
エビデンスレベルI-II
100-数千例
審査
5 薬剤
1/10,000の確率
臨床研究
がん臨床試験の3つの段階
臨床試験
250 薬剤
実地医療
臨床試験
トランスレーショナル研究
新薬開発までの遠い道のり
化合物の発見
動物実験
医療現場
ラ
ン
ダ
ム
化
標準治療
ミラノ試験の結果 20年後生存率
無治療
(179人)
CMF
無治療
CMF療法
(207人)
G Bonadonna et al. NEJM 1976, updated: NEJM 1995
G Bonadonna et al. NEJM 1976, updated: NEJM 1995
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
4
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
ランダム化比較試験 (RCT)の結果による
乳がん術後化学療法の進歩
ランダム化比較試験 (RCT)の結果による
乳癌手術療法の進歩
1970s
1970s
拡大乳房切除術
VS
乳房単純全摘術
乳房単純全摘術
VS
乳房温存術
1980s
1980s
1990s
1990s
乳房温存術+
腋窩リンパ節
乳房温存術+
センチネルリンパ節生検
VS
2000s
無治療
VS
CMF療法
C: エンドキサン
M: メソトレキセート
F: 5-FU
CMF療法
VS
AC療法
A: アドリアマイシン
C: エンドキサン
AC療法
VS
AC療法
Taxol x 4
AC療法
Taxol x 4
VS
AC療法
Weekly Taxol x 12
2000s
AC療法
Weekly Taxol x 12
乳房温存術+
センチネルリンパ節生検
ダイエットに関するエビデンス
エビデンスの実践が大切です!
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン 2003; 348:2074
高度肥満症*
(BMI>35)
132名
*参考:
身長150cmだと体
ラ
ン
ダ
ム
に
割
り
振
る
低炭水化物ダイエット
64名
‐5.8 ±8.6 kg
→6ヶ月後43名
P=0.002
-25kg
低カロリー/低脂肪ダイエット ‐1.9 ± 4.2 kg
68名
→6ヶ⽉後36名
1997年
2004年
重79kg以上
これらの情報を科学的に批判できますか?

有楽町西武の前で宝くじを買うと必ず当たる

江ノ島に彼氏(彼女)と行くと必ず別れる

バナナダイエットが効果がある

ビタミンCが風邪に効く

末期がんにフコイダンが効く
真実
真実を曇らせるもの
個人の思いこみ、人の操作、様々な圧力、科
学的バイアス、統計学的エラー
ジャーナリスト
研究者
科学もメディアも目指すところは一緒なのですが…….
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
5
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
データの信頼性を決めるもの
情報のバイアスを見抜く!!
 偶然性
 統計的エラー
 αエラー、βエラー
情報のバイアス(偏り)を見抜けるようになりましょ
う!
 バイアスとは?

 バイアスの存在

バイアスとは?
かけ

真実をゆがめてみせるもの、みせ

ランダム化比較試験のデータが最も
偶然性のエラー、バイアスが低い
医学情報にはバイアスが満載!!
バイアスの種類

世の中はバイアス(偽物)の固まりである!!

三大バイアス
色々なバイアス
選択バイアス(selection bias)
測定バイアス(measurement bias)
 交絡バイアス(confounding bias)
発表バイアス、出版バイアス

解析バイアス

主治医の欲目バイアス

経験バイアス(思い出しバイアス)

癒着バイアス

データ捏造 (これは犯罪ですね)



その他のバイアス (100種類以上あり!!)






Sampling bias, lead time bias, length bias, incidence
bias, referral bias, detection bias, information bias,
observer bias, recall bias, reporting bias, response
bias, review bias, publication bias


バイアスを見抜く






本当に末期がんだったの?(サンプリングバイアス)
効いた人だけを発表したのでは?(発表バイアス)
本当に効いたという証拠があるの?(測定バイアス)
他の治療と併用していたのでは?(交絡バイアス)
他の治療と比較検討していない(選択バイアス)
○○大学教授のコメント(経験バイアス、個人バイアス)
などなど
真実をゆがめてみせるもの
みせかけ、嘘、いつわり、偽物
よい結果のみ発表したい、よい結果のみ出版したいというバイアス
有意差が出るまで何回も検定しようとするバイアス
自分の治療法がうまくいってほしいと願うあまりつい効果ありと判定してしまうバイアス
良かった経験、良くなかった経験のみ覚えているバイアス
ある製薬会社のMRからの情報を信じてしまうバイアス
ES細胞捏造事件、南アフリカの乳癌データ捏造事件
南アフリカの乳癌データ捏造事件


乳がんの術後補助化学療法(標準量化学療法 vs. 大量化学療法)のラ
ンダム化比較試験(RCT)
ASCO(米国臨床腫瘍学会) プレナリーセッションでの発表(1999)

2つのRCTでは大量化学療法の有用性は証明されなかった。

南アフリカBezwoda氏による発表のみ大量化学療法に有効性が示された!
米国CALGB(874例)、スカンジナビアグループ(525例)
標準量化学療法群
79例
生存期間 320wks
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
大量化学療法群
75例
400wks
P<0.05
6
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
NCI (国立がん研究所)による施設監査訪問
(Audit)


5名のオンコロジスト、1名のリサーチナースによる監査
Lancet誌に結果を発表 Lancet; 355(9208):999, 2000
施設監査(Audit)とは?

(1997)
監査結果







日・米・欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議
標準量化学療法群のカルテが存在しない
大量化学療法群も58例のみカルテが存在
患者さんの同意文書が存在しない
プロトコールが存在しない(監査の前に作成)
倫理委員会承認書の偽造
不適格症例の登録(58例中38例)
死亡症例数の食い違い

「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」新 GCP
(厚生省令第28号)

治験依頼者は、監査を実施しなければならない。

「監査」とは、資料の信頼性を確保するため、プロトコールに従っ
て行われたかどうかについて行われる調査。
ASCOでは8/75(11%)、監査で15/58(26%)
ある日の新聞記事広告から

末期がん患者が水溶性ア
ある日の日本産婦人科学会より

ガリクスを飲んだらがんが
治った!
再発卵巣癌の患者さん10名にCPT-11+MMCを行ったとこ
ろ、4名に腫瘍縮小が見られた(奏効率40%) 。

結論:再発卵巣癌に対してCPT-11+MMCは有効な治療法
であると考えられた。
•
•
•
•
•
コントロール群(無治療群がない)
ランダム化されていない
他の治療を併用していた?
無治療でも自然治癒することがあります。
エビデンスレベル5
•
•
•
•
コントロール群(比較治療群がない)
ランダム化されていない
数が少なすぎて信頼性が乏しい
エビデンスレベル4
臨床試験の利点と欠点
 利点
エビデンスを作る
 最新の治療が受けられる
 レベルが高い病院での治療
 欠点
臨床研究・臨床試験を行う
 効果がない可能性
 新たな副作用がある可能性
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
7
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
欧米では患者さんが臨床試験に
入りやすいという誤解
欧米では患者さんが臨床試験に
入りやすいという誤解(2)
 新薬臨床第一相試験(毒性試験)に入ったがん患者へのアン
ケート調査の結果
シカゴ大学
国立がんセンター東
病院
(JCO13:1062, 1995)
• 米国でもがん患者の3%しか臨床試験に登録されていない
JNCI 80:884, 1988
• 米国での臨床試験の同意率は10-30%と決して高くない
(BJC 76:107,1997)
治療効果を期待して(他に治
療の選択肢がないので)
85%
82%
医師の勧め(医師を信頼して)
11%
22%(28%)
家族のすすめ
4%
0%
将来の患者のため
0%
6%
Cancer 74:2676, 1994
• 米国では臨床試験をやると医療費がただになるのでお金のない人
が入りやすいという誤解
1998年日本癌治療学会演題の
Evidence Level (採択率 100%)
ランダム化比較試験文献数の国別推移
山崎茂明;学術情報センター紀要第9号、233-239、1997
5000
◆
■
4000
▲
×
3000
Level
USA
UK
Germany
Japan
2000
1000
演題数
%
I
1
0.1
II
12
0.9
III
45
4
IV
1103
87
V
107
8
0
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
1998年米国臨床腫瘍学会(ASCO)演題の
Evidence Level (採択率 50%:1112/2198)
Level
I
演題数
%
17
2
1268
95
ランダム化比較試験文献数の国別推移
山崎茂明;学術情報センター紀要第9号、233-239、1997
5000
■
4000
▲
II
115
10
3000
III
430
39
2000
IV
550
49
1000
V
0
0
1112
◆
×
USA
UK
Germany
Japan
0
85
86
87
88
89
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
90
91
92
93
94
95
8
がん臨床試験とEBM (勝俣範之)
第23回がん臨床試験セミナー
臨床試験が進まないとどんな事が起こりますか?
臨床試験の数-米国との比較
スポンサーの種類
政府
民間 (NPO/大学など)
企業治験
計
総数
がん
総数
5,861
2,317
150
がん
99
15,381
5,577
570
272
7,917
2,684
497
29,159
10,578
1,217
「がん難民」が治療を求めて
さまよい歩く
371
Clinical trials gov. http://www.clinicaltrials.gov/ct2/home
UMIN-CTR http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm より
出典:The Wall Street Journal, January 11,2007
臨床試験を推進するために
我が国での臨床研究の国際貢献をめざして
官
1. 産・官・学の共同体制の確立
厚生労働省
PMDA
2. 健康政策として臨床試験研究への投資
3. 医学教育、卒後教育への導入(EBM、臨床試験の必
要性)
製薬企業
学
産
4. 人材育成(オンコロジスト、生物統計学者、CRC、
データマネージャー)
メディア
5. データセンターの設立
メディア
民
6. 患者教育
医科大学
がんセンター
がん拠点病院
患者
国民
日本医科大学 武蔵小杉病院
ご静聴ありがとうございました!
使用目的を研究者の自己学習用に限り、その他への転用を禁ずる
9
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