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ゲーミングによる進化概念の内発的獲得に向けて
ゲーミングによる進化概念の内発的獲得に向けて Toward Intrinsic Acquisition of Notion of Evolution by Gaming 外谷 弦太 TOYA Genta [email protected] 北陸先端科学技術大学院大学 Japan Advanced Institute of Science and Technology キーワード:ゲーミング,進化の理論,知識獲得 平成 25 年,高校生物の学習指導要領が大きく改訂され,それまでと比べて「進化」という項目に紙 幅が割かれるようになった.進化の理論は今日,万有引力の法則や原子の構造などと同様,人が社会 に出るまでに身につけておかねばならない見識の一つである.しかし現代社会において,進化という 言葉は「発展」や「改良」といった意味で使われており,さらに児童を対象として人気を博している ゲームやアニメにおいても,この言葉が「成長」や「記憶(獲得形質)を保った姿形の変化」を指し て使用されている例が散見される.先行研究においては,日本の小学校高学年の進化に関する素朴理 論は「獲得形質の遺伝」が主であることが示唆されている[1].むろん,現実の生物進化に合目的的な 作用はなく,また獲得形質の遺伝が起こることもない.こうした実際の学術的定義から逸脱した社会 通念や概念の理解に対し,その言葉の定義を知る者による訂正は,理解の基盤となる知識を獲得して いない相手にとって有効でない場合が多い.また進化は人生と比較して遠大なタイムスケールを持つ ため,それを実感することが非常に難しいということも理解の妨げになっていると考えられる. ある現象に関する理解を深める学習手法として有効とされているものに「ゲーミング」がある[2]. ゲーミングの利点は,共通の知識や言葉を持たない者でも,社会や自然界の現象を再現したゲームを 通じてそれを擬似的に体験することで知識を獲得できるという点である.以上の経緯から,進化の概 念を他者から教わることなく獲得できるシミュレーションゲームを考案した. ゲームの設計には工学分野や数理生態学等の分野で用いられている遺伝的アルゴリズム(GA)を用 いた.GA は主に「変異」 「淘汰」「遺伝」という 3 つのフェーズからなり,これを繰り返すことで世 代ごとに様々な形質を持った生物が現れるようになっている.どの生物が淘汰され,どの生物が遺伝 子を残すかは,その生物がもつ形質と,生態環境中の諸現象によってのみ決定される.この生物進化 のシミュレーション自体に,ゲーム参加者による操作的な要素や意思決定の要素は一切存在しない. これは進化の無方向性,無目的性を反映するためである. ゲームにおいて参加者はある世代において(あるいは一定期間において)子孫を維持する生物を予 想する.このとき,参加者の予想が進化そのものに影響を与えることはない.予想の当たった者に得 点が入り,規定した世代までに最も多く得点を得た者が勝者となる.つまり,進化現象を理解するこ とそのものがゲームの勝利に繋がる.これによりゲームの参加者はシミュレートされる進化現象を自 発的に観察し,考察するようになると考えられる. 【参考文献】 [1] 杉本明子 (2014). 日本の大学生と小学生の進化に関する素朴理論, 明星大学研究紀要-教育学部, 第4号, pp. 33-51 [2] Greenblat, C. S. (1988). Designing games and simulations. SAGE Publication, Inc. 新井潔・兼田敏之 (訳) (1994), ゲーミ ング・シミュレーション作法, 共立出版