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家計貯蓄と生命保険、 公的年金

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家計貯蓄と生命保険、 公的年金
家計貯蓄と生命保険、公的年金
橘木 俊詔
(京都大学教授)
下野 恵子
(名古屋大学助手)
1 はじめに
2 生命保険の性質について
3 家計貯蓄と生命保険、公的年金
4 おわりに
l はじめに
日本の貯蓄率は欧米先進諸国との比較において高貯蓄率グループに
属しているといわれる。<図1−1>はSNA(国民所得統計)ベー
スでの稔貯蓄率を図示したものである。日本はスイスと並んでもっと
も高い貯蓄率を示している。
しかしながら、貯蓄率は計算方法、貯蓄の定義によりかなり水準が
異なってくる。まず、貯蓄の計算には2つの方法がある。可処分所得
から消費を除いたものを貯蓄とする方法と、資産(金融、実物資産)の
増加分を貯蓄として計算する方法である。Auerbach(1985)は、
1946−1982年のデータを用いてアメリカの貯蓄率を2つの方法で比較
している。その結果、前者のフローの概念での貯蓄率が滑らかな曲線
で表されるのに対して、後者のストソクの概念で定義された貯蓄率は
ー23−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
大幅な変動を繰り返す。この理由としては、資産のなかに耐久消費財
が含まれており、この値が大きくふれるためであると指摘される。さ
らに、どちらのデータでも最近20年間の貯蓄率の低下傾向が観察さ
れる。
MaJOr SeVen OECD countrleS.
Source OECD,World Bank
資料 Makln(1986),P.96.
注 GDPに対する比率である。
Boskin(1986)、Hendershott and Peek(1985)では、フローの概
念で貯蓄の定義、例えば、耐久消費財や政府資産などの扱いを変え、
変更前の貯蓄率と比較している。その結果、アンリカの貯蓄率の水準
は理論的にも、国際的にみても低いし、しかも低下し続けていると述
べられている。<図1−2> は資本減耗、帰属サービスの取扱が異な
るデータを日米の貯蓄率について比較したものである。この図は、小
川・竹中・桑名(1986)から採ったものである。Blades、堀江の貯蓄概
念は粗概念であり、SNA(国民所得統計)、小川他のデータでは純貯
蓄を用いている。堀江、小川他では帰属サービスも計算している。ピ
ー24−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
の定義に従っても、日本とアメリカの間には貯蓄率に大きな差が存在
する。1983年で比較すると、SNAベースでの日本の家計貯蓄率は
17.3%、アメリカの家計貯蓄率は5.0%であり、小川他の作成データで
は、日本が16.1%、アメリカが3.5%となっている。帰属サービスを
計算することによって日本、アメリカ共に1%余り貯蓄率が低下して
いる。
く図1−2〉 日米家計貯蓄率の推移
(2)アメリカ (単位:%)
70 72 74 75 78 80 82 84
資料 小川・竹中・桑名(1986),p.98.
注 ・作成データ 純貯蓄率
・SNA(国民所得統計) 〃
・堀江 粗貯蓄率
・Blades ′,
詳しくは小川・竹中・桑名の論文参照。
−25−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
ともかくどのような統計をとってみても日本の貯蓄率の高いことは
疑いようがない。日本のこのような貯蓄率、特に家計貯蓄率の高さは
国際的に注目されてきた。例えばブンデスバンクのレポート(1984)
では日本の貯蓄率の高さの要因として、
(1)予備的動機に基づく貯蓄が多いこと:日本は社会保障制度
が未発達であるため個人の自助努力の結果として貯蓄が多くな
る
(2)ボーナス制度の存在:年収の30−40%が一括して払われて
おり、金額が多いだけに貯蓄にまわる割合も多くなる
(3)マル優(少額貯蓄非課税制度)、利子分離課税に代表される
貯蓄優遇政策
以上の3点を指摘している。その他にも、Makin(1986)では、さら
に、(4)ターゲット貯蓄説、つまり、日本の土地・住宅の価格の高さ
が原因となって土地住宅の取得を目標とした貯蓄が巨額のものとなり、
それが日本の高貯蓄率を導いている、という説を付け加えている。
さらに、佐々木・橘木(1985)によると、(5)過小消費説、つま
り、日本経済の高成長によって所得の上昇率が期待以上に高くなり、
消費の伸びがそれについていけず、従って残余としての貯蓄が多く
なった、(6)貯曹性向の高い個人業種が多いこと、(7)消費性向の
高い老齢人口の割合が低かったこと、(8)消費者信用市場の未発達、
などが、日本の貯蓄率を高めていた要因として追加される。
社会保障制度の未発達、一括払い説(ボーナス制度)、貯蓄優遇政
策、ターゲット貯蓄説、その他諸々の要因が重なりあって日本の貯蓄
率の水準を国際的にみて高いものとしている。どの要因がドミナント
なものかは興味深い課題であるが、この論文では特に、社会保障制度
と家計貯蓄率との関係に分析の焦点をおく。
−26−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
具体的には、家計貯蓄の一項目としての生命保険と公的年金の同質
性に注目する。現在わが国では、普通世帯の9割以上が何らかの生命
保険に加入している。生命保険の役割もかつてはヨーロッパ型の“貯
蓄性”重視であったが、10倍保障、20倍保障というアメリカ型の大型
保障が主沈となり、“保障性”重視へと転換している(<表2−5>を
参照)。さらに個人年金保険のように、老齢保障を目的とするもの、が
ん保険に代表される医療保険など、社会保障制度と重なる部分が多く
なってきており、社会保障制度を補完するものとなっている。そこで
本稿では、生命保険と公的年金の性質、および、それらと家計貯蓄率
との関係を論じる。
<表1−1>は各国の家計貯蓄率と社会保障負担、租税負担率を示
したものである。これら3つの項目を合計した値はどの国も3割前後
とほぼ同じ水準になっている。人が生きていくうえで必要な負担、例
えば、病気、老齢、失業などに備えるための負担はどこの国でも大体
同じ程度で、異なるのはその負担をどの様な方式で行っているか、だ
けなのかもしれない。
2節では、わが国の家計貯蓄に占める生命保険の割合、及び、生命
保険の性質について論ずる。3節では、家計貯蓄の一項目である生命
保険と通常家計貯蓄として扱われない公的年金を同列に扱う場合の家
計貯蓄率の変化に注目する。
−27−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表1−1〉家計所得に占める観象捜・社会保障負担
家 計 所 得
(税 込 み )
(A )
直接 税 お よ
び税 外 負 担
(B )
社会保障負
担
(C )
家 計 貯 蓄
%
5,21 2
%
1 5,78 3
(D )
年
19 73
9 5,379
5 ,9 72
198 3
26 6,988
19 ,67 9
2 2,85 1
国 19 72
1 0,239
1 ,2 56
59 0
678
28 ,4 59
3 ,6 18
2,08 4
1,6 7 5
日
(10 億 円 )
(億 ド ル )
198 2
3 3,9 52
国 19 72
552
71
33
27
(億 ポ ン ド) 198 2
2,430
3 19
18 1
12 7
ド イ ツ 19 72
7,633
8 15
1 ,03 6
76 1
(億 マ ル ク ) 198 2
1 5,883
1 ,7 27
2,63 1
1,34 6
フ ラ ン ス 19 72
9,261
4 63
1 ,3 18
93 4
(億 フ ラ ン ) 19 82
3 8,254
2 ,3 49
6 ,75 3
3,14 1
ス ウ ェ ー デ ン 19 72
1,85 1
3 98
1 74
29
(億 ク ロ ー ネ ) 19 82
6,28 1
1 ,3 10
86 6
18
資料:日本は経済企画庁「国民経済計算」、その他は OECD,National
(貯蓄増強中央委員会資料)
2 生命保険の性質について
2−1家計貯蓄に占める生命保険の割合
貯蓄統計における生命保険の取扱については高橋(1987)が詳しい。
本節もその多くを高橋に負っている。
家計を対象とした貯蓄に関する全国的な標本調査としては、
(1)「家計調査」(総務庁統計局)
(2)「貯蓄動向調査」(総務庁統計局)
(3)「全国消費実態調査」(総務庁統計局)
(4)「貯蓄に関する世論調査」(貯蓄増強中央委員会)
が存在する。この他に調査対象を農家世帯に限定した「農家経済調査」
(農林水産省経済局)がある。これらの調査は貯蓄を行う側から貯蓄の
−28−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
・家計貯蓄制合の国際比較
直 接 税 等 負
社 会 保 障 負
担 率
て B /
担 ′
_率
A
)
(C
B
+ C
家 計 貯 蓄 率
A
/ A
(D
)
%
/
A
)
B
+ C
十 D
A
%
6 ,2
5 .5
1 1 .7
1 6 .5
2 8 .2
7 .4
8 .6
1 5 .9
1 2 .7
2 8 .6
1 2 .3
5 .8
1 8 .0
6 ,6
2 4 .7
1 2 .7
7 .3
2 0 .0
5 .9
2 5 .9
1 2 .9
6 .0
1 9 .0
5 .0
2 4 .0
1 3 .1
7 .4
2 0 .6
5 、2
2 5 .8
1
1 0 .3
1 8 .4
7 .6
2 6 .0
1 0 .9
1 6 .6
2 7 .4
8 .5
3 5 .9
5 .0
1 4 .2
1 9 .2
1 0 、1
2 9 .3
6 .1
1 7 .7
2 3 ,8
8 .2
3 2 .0
2 1 .5
9 .4
3 0 .9
1 .6
3 2 .5
2 0 .9
1 3 .8
3 4 .6
0 、3
3 4 .9
8
%
Accounts1970−1982。
実態を捉えようとするのに対し、貯蓄を受け入れる側から捉えたもの
として「個人貯蓄統計」(日銀貯蓄推進局)、「国民所得統計」(経済企
画庁)がある。
まず、各標本調査における保険の扱いをまとめたものが<表2−
1>である。基本的にはほとんどの統計で、生命保険、損害保険のう
ち、定期保険のような(いわゆる)掛け捨ての保険を除いたものを対
象としている。つまり、一般に、生命保険、損害保険共に貯蓄性の強
いものは「貯蓄の一要素としての保険」とされている。ただし、「全図
消費実態調査」では損害保険料を、総て消費項目に計上している。こ
れは、調査時点(昭和59年11月)で、まだ積立型損保商品が台頭し
ていなかったからである。現在、全世帯平均でこうして把握した生命
保険の残高(払込み掛金総額)は170−190万円ほどである。
−却−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表2−1〉各標本鯛査における保険の取扱い
統計 の 名称
貯 蓄額 の 質問 に お ける
対 象 とな る生 命保 険
保 険 の分 類項 目
家計 調査
○ 保険 掛 金
○ 貯 蓄的 要 素の あ るか け捨 て でな い
(総 務 庁 )
保 険 の保 険料
① 生命 保 険
○ 生 命保 険 と は、民 間 生保 の養 老 保険 、
② 簡易 保 険 、郵便 年金
貯蓄 動 向調 査
(総 務 庁 )
③ 積立 型 損害 保 険
(財形 を含 む)
こ と も保 険及 び 農協 の養 老生 命 共済 、
こ と も共 済 な どをい う
○簡 易 保険 、郵 便年 金 とは 、郵 便 局 で
扱 って いる養 老保 険 、家 族保 険 、郵
便年 金 な どを い う
○ か け捨 ての保 険 は含 め な い
○生 命保 険 、簡 易保 険 、
郵便 年 金
全 国消 費実 態調 査
○民 間 生保 の養 老 保険 、 こ とも保 険 、
(財 形 を含 む )
(総 務 庁 )
家族 保 険 、年 金 保険 な ど
○ 農協 の こ とも共 済 、養 老生 命共 済 な ど
○ 郵便 局 の養老 保 険 、終 身保 険 、家 族 保
険 、郵便 年金 な ど
○ か け捨 ての 保険 は除 く
(
∋生 命保 険 、簡 易保 険
貯 蓄 に関 す る世論 調査
や長 期損 害保 険
○ 定期 保 険の よ うなか け捨 ての保 険 を
除く
」(貯 蓄 増 強 中 央 委 員 会 ) ② 郵 便年 金 、個 人年 金 、 ○ 公的 年金 を除 く
信 託 年金 保 険
③財 形 貯蓄
資料・高橋(1986)、p84−p85
日銀による個人貯蓄統計は、毎年四半期毎に全国の各金融機関の個
人貯蓄残高を調査したものである。金融資産の種類は、預貯金、信託、
公社債、投資信託、保険に分類される。1985年度末現在で、個人貯蓄
は502兆9000億円、保険は97兆9000億円で保険の個人貯蓄に対す
る比率は19.5%である。民間生保、簡保は総資産、農協は生命共済と
一部−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
対 象 と な る損 害 保 険
(参 考 )生 命保 険 の
貯 蓄 現在 高
○ 貯 蓄 的 要 素 の あ る か け 捨 て でな
い 保険 の保 険料
○ 積立 型 損害 保 険 とは 、火災 保 険
(全 世 帯平 均 )
損 害 保 険 の う ち 、 満 期 時 に 満期
保 険 金 が 支 払 わ れ る 長 期 総 合保
険 、定額 払積 立 家庭 保険 な ど を
1 9 2万 円
(S 6 0 /12 月 現在 )
い う。
○ か け捨 て の 保 険 は 除 く
○ 損 害 保 険 は す べ て含 め な い 。
1 2 7万 円
(S 5 9/9 月 現在 )
○ 短 期 の 自 動 車 ・火 災 保 険 の よ う
な 掛 け捨 て の 保 険 を 除 く。
169万 円
(S 6 1 /6 月現 在
損保 含 む )
積立型損害共済に該当する責任準備金を推定して用いており、その額
はほぼ農協の総資産に等しい。損保に関しては積立型の保険に該当す
る責任準備金を推定している。その割合は年々増加しており、現在で
は総資産の約3割を超えている。
次に、個人金融資産全体に対して、生命保険残高、あるいは、掛け
−31−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
捨てでない生命保険と損害保険の残高合計額の占める割合を各種の統
計からみたものが<表2−2>である。標本調査のうち「家計調査」
は貯蓄残高のデータを持たないのでそれ以外の調査と金融統計を比較
することになる。「貯蓄動向調査」では、掛け捨てでない生命保険と規
害保険はどちらも貯蓄残高に含まれているが、別々の項目に分類され
ている。<表2−2>の22.6%は生命保険のみの数字である。「全国消
費実態調査」では、掛け捨てでない生命保険のみが貯蓄として扱われ
ており、損害保険料は全額消費項目として扱われている。生命保険残
く表2−2〉個人金融資産に占める保険の割合
標 本 調 査
統
計
年 名
「貯蓄酎
度 19 8 5 「簑 離 乳
金 融 統 計
「貯蓄 に盟 す 「個 人貯蓄
「国民 所得
世 論調査」
統 計」
統計」
19 84
19 86
鞘 「53 !672
貯蓄の幣
慧
I l
) 100 − 100
l
招
1 98 6
731
1 00
10 0
18.
5 ) 鋸
38.
3
3)
4)
20.
0
19.
5
19.
4
17.
5
l
そ の 他 3.
1 4.
0
3.
8
−
資料各統計より作成
注・1.生命保険のみ。積立型損保は、その他の貯蓄に含まれる。
2.生命保険のみ。損害保険はすべて貯蓄として扱われない。
3.生保・積立型損保の合計。
4.生保・積立型損保の合計。
5.生保・積立型損保の合計。
−32−
1 98 5
10 0
8.
7
51
15.
8
22.
8
5.
0
家計貯蓄と生命保険、公的年金
高の貯蓄残高に占める割合は19%である。「貯蓄に関する世論調査」
では、掛け捨てでない生命保険と規菩保険の残高合計額が貯蓄として
の保険の一項日として示される。この調査では、貯蓄残高に占める生
命保険・損害保険の割合は、20.0%である。次に金融統計をみると、
「個人貯蓄統計」では、掛け捨てでない生命保険と損害保険の合計額が
個人貯蓄残高の19.5%、「国民所得統計」では、15.8%になってい
る。国民所得統計の家計には個人企業が含まれており、対象がそれ以
外の統計と異なる。ゆえに、国民所得統計を除けば、掛け捨てでない
保険、あるいは、生命保険の個人金融資産に占める割合は現在2割程
度であると思われる。
さらに、標本調査においても金融統計においても保険は増加してい
る。例えば、日銀の「個人貯蓄統計」における保険の比重は最近10年
間で14.6%(1975年)から19.5%へと推移している。
2−2 生命保険は強制貯蓄か?
「家計調査」には金融資産残高のデータはないが、家計収支と共に土
地・住宅に対する投資、借金増のデータが有り、金融資産のみではな
く実物資産をも含めた貯蓄データとなっている。同調査は毎月実施さ
れており、家計に関する中心的な調査となっている。家計貯蓄におい
て生命保険は、しばしば、住宅ローン、消費者ローンの返済と共に「強
制貯蓄」と言われる。その意味は、過去の契約に基づいて強制的に行
われる貯蓄であり、預貯金、有価証券購入などの自由意志で行う貯蓄
とは異なるということにある。
<表2−3>は黒字を、随意性黒字と契約性黒字(強制貯蓄)とに
分けその推移をみたものである。随意性黒字とは、個人の自由意志に
基づいて行われる貯蓄であり、契約性黒字は過去の契約に基づいて強
−33−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表2−3〉黒字の内訳一勤労者世帯−
随 年 度
意 性 黒 字
黒 字 率
貯 金 純 増
霊 雷
雲
財 産 純 増
小 計
19 7 0
(2 0 .3 )
100
4 5 .0
3 .2 10 .9
5 9 .1
19 7 1
(2 0 .1 )
100
4 7 .5
2 .2 1 1 ,9
6 1 .6
19 7 2
(2 1 .6 )
100
4 9 、2
1 .8 10 .1
6 1 .1
19 7 3
(2 2 .5 )
100
5 1 .2
2 .3 ユ2 .4
6 5 .9
1974
(2 4 .3 )
100
5乙 0
2 .1 1 0 .6
6 4 .7
1975
(2 3 .0 )
100
4 8 .8
2 .8 1 4 .3
6 5 .9
1976
(2 2 .6 )
100
4 3 ,7
2 .3 1 4 .2
6 0 .2
1977
(2 2 .8 )
100
4 5 ,0
2 .7 1 1 .5
5 9 .2
1978
(2 3 .0 )
100
4 0 .0
2 .0 1 2 .6
5 4 .6
1979
(2 2 .4 )
100
3 7 .0
1 .9 1 3 .0
5 1 .9
1980
(2 2 .1 )
100
3 5 .4
1 .6 1 6 .0
5 3 .0
1981
(2 0 .8 )
100
3 2 .0
1 .9 1 3 .5
4 7 .4
1982
(2 0 .7 )
100
2 8 .9
2 .5 1 0 .8
4 2 .2
1983
(2 0 .9 )
10 0
3 0 .4
1 .8
8 .5
4 0 .7
1984
(2 1 .3 )
100
2 6 .9
1 .9
1 0 .4
3 9 .2
1985
(2 2 .5 )
100
3 0 .3
1 .6 1 4 .5
4 6 .4
資料.総務庁「家計調査年報」より作成
制的に行われる貯蓄である。1975年以降、契約性黒字の割合が増加し
ている。保険純増(=保険掛金一保険取金)の動きもこの動きと平行
している。最近では、黒字の1/4以上を保険純増が占めている。しか
し、家計調査の保険純増のデータについては金子(1986)で指摘され
ているように、保険受取が過小報告されている恐れがあることに注意
する必要がある。つまり、<表2−4>に示されたように生命保険会社
−34−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
(黒字の構成比)
契 約 性 黒 字
そ の 他
保 険 純 増
土
地 家 屋
他
の
借
借
金 純 減
金
純
減
月 賦
純 減
掛 買 純 減
1 9 .0
1 .7
5 .5
3 .3
1 .1
1 9 .9
2 .0
5 .1
2 .5
1 8 .2
2 .6
5 .1
2 .9
1 6 .9
1 .2
4 .0
1 4 .2
3 .1
3 .1
1 5 .6
4 .7
1 7 .4
1 8 .9
小 計
3 0 .6
1 0 .3
0 .7
3 0 .2
8 .2
0 .5
2 9 .3
9 .6
2 .6
0 .6
2 5 .3
8 .8
3 .6
0 .5
2 4 .5
1 0 .8
3 .6
2 .8
0 .1
2 6 .8
7 .3
6 .9
2 .6
4 .4
0 .4
3 1 .7
8 .1
8 .4
2 .6
4 .0
0 .3
3 4 .2
6 .6
3 8 .9
6 .5
2 0 .4
1 1 .0
2 .8
4 .3
0 .4
2 2 .3
1 2 .2
2 .7
4 .9
0 .4
4 2 .5
5 .6
2 3 .5
1 0 .6
2 .6
4 .6
0 .5
4 1 .8
5 .2
2 5 .6
1 3 .4
2 .9
4 .0
0 .4
4 6 .3
6 .3
2 6 .4
1 7 .9
2 .9
4 .5
0 .4
5 2 .1
5 .7
2 7 .2
2 0 .5
2 .9
3 .3
− 0 .1
5 3 .8
5 .5
2 7 .2
2 1 .4
2 .8
4 .0
0 .0
5 5 .4
5 .4
2 7 .0
1 6 .4
3 .0
3 .4
− 0 .5
4 9 .3
4 .3
の収支からみると、保険料収入の約4割が保険給付関係支出となって
いるのに対し、「家計調査」のデータは保険掛金の1割以下が保険取金
になっているにすぎない。この理由として金子では、家族の死亡や病
気などで保険金を受け取るような深刻な事態にある家計は統計の対象
からはずれやすいことを指摘している。
ここでは生命保険が「強制貯蓄」であるか否かを検討してみたい。
−35−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表2−4〉昭和60年度決算(単位10億円)
生命保険会社
(a)収入保険料
(b)支払保険金
筆説ず付金
(C)その他契約上の
損害保険会社
一_ _ム1)
2)
15,480’ 3,990
4,187 2,1052)
(27.0%) (52.8%)
1,511
支払額3)
<C/a>
(9.8%)
<(b+C)/a>(36.8%)
(d)事業費 2,757 1,553
<d/a> (17.8%) (38.9%)
(e)責任準備金
積増
7,578
<e/a> (49.0%)
資料一保険研究所「インシュアランス」(61年版特別統計号)
注.1.生保の場合、収入保険料のほかに資産運用による利息配
当金収入がある(60年度37,000億円)。
2.損保の場合、収入保険料は純正昧保険料(積立保険関係
の積立保険料部分を除く)、支払保険金は損害調査費を
除く正味保険金、事業費は損害調査費を含んた場合によ
った。
3.解約返戻金などである。
山口(1985)は生命保険保険料を、近年の「損害保険的性格」の強ま
りから、生命保険料の半分は貯蓄ではなく消費であると説いている。
一方金子(1986)は全く逆に、近年の生命保険は「一時払い養老保険」
のように貯蓄性の強いものが多いという認識のもとに、生命保険は
「強制貯蓄」として家計を圧迫しているとは言えないとしている。
−36−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
さて、生命保険が山口(1985)のいう「損保的性格」を持っている
かどうかを、データから調べてみることにする。「損保的性格」とは、
後述の保障性重視型に対応する。<表2−5>は、生命保険を大まかに
保障性重視型、貯蓄性重視型に分類したものである。生命保険料は蓄
積部分と危険負担部分とから成っている。ここでは、危険負担部分が
相対蜘こ多い保険を保障性重視型とした。例えば、疾病保険、定期保
険(掛捨て、つまり、満期保険金がない)、定期付養老保険、終身保険
(定期付終身保険が主体であり、掛金額に比べて解約払戻金が少ない)
などが保障性重視型の保険として挙げられる。貯蓄性重視の保険は養
老保険に代表される。この表をみると1965年には件数で12%でしか
なかった保障性重視の保険の割合が1985年には51%になり、金額で
は35%から80%へと上昇している。一方、貯蓄性重視の保険はこの20
年間で件数で68%から38%へと半減し、金額では55%からわずか
9%へと激減している。長期的には山口のいう「損害保険的性格」が
強くなっているといえよう。
さらに、保険料支払いに関しては5割の人が「必要経費」、2割が
「生活保障のため」と答えている。一方、「貯蓄のつもり」と答えたも
のは3割以下である。(生命保険に関する全国実態調査、1985)生命
保険加入者の目的も<図2−1>に示されているように、万一の時の
備えに重点がおかれており、生命保険加入者の55%が万一の時の家族
の生活保障のためと答えている。もし、貯蓄性を重視するならば、他
の金融資産のほうが優れているであろう。実際、次節で詳しく論じる
が、生命保険払込保険料の所得に対する割合は高所得世帯になるほど
低い。<図2−2>は、生命保険払込保険料の年収に占める割合が、世
帯の年収が高くなる程小さくなることを示している。
データを見る限り、現在の生命保険は「保障性」の強い「強制貯蓄」
−37−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表2−5〉個人生命保険性質別推移(保有契約)
年 度
1965
1970
19 7 5
19 8 0
19 8 1
19 8 2
19 8 3
1 98 4
1 98 5
(保 障 性 )
・一 定 期 間
定 期 保 険
−
−
3 .7
6 .1
6 .6
7 .0
6 .6
6 .8
6 .8
生 存 給 付 金
付 定 期 保
−
−
−
−
−
−
3 .9
4 .2
4 .1
定 期 付
養 老 保
11 .8
2 4 .8
3 1 .5
3 1 .9
32 .0
3 1 .9
3 0 .3
2 8 .0
2 4 .2
−
−
−
−
−
−
1 、0
1 .6
2 .5
−
−
−
5 .4
6 .0
6 .5
8 .0
1 0 .1
1 3 .6
(4 9 、8 (5 0 .7
(5 1 .2
疾 病 保 険
・終 身
終 身 保 険
小 計
(11 .8
(2 4 .8
(35 .2 (4 3 .4
68 .3
54 .3
4 2 .5
−
−
−
3 .7
−
−
−
3 .6
(4 4 .6 (4 5 .4
(貯 蓄 性 )
養 老 保 険
貯 蓄 保 険
生 存 保 険
小 計
そ の 他 の 保
巨 3 ・1
3 2 .4
3 1 .9
3 1 .8
3 2 .0
3 .6
3 .5
3 .3
3 .2
3 .1
3 .4
3 .2
3 .0
2 .8
2 .6
(68 .3 (54 .3 (4 2 .5 (4 1 .3 (40 .1 (3 9 .1 (3 8 .2
(3 7 .8
(3 7 .7
1 1 .5
1 1 .1
1 9 .9
2 0 .9
2 2 .3
34 .0
1 5 .3
1 5 .3
匡
5
12 .0
であり、低所得者の貯蓄の下支えをしていると考えられる。
公的年金もまた、強制的な貯蓄という面を持つ。3節では、生命保
険と公的年金の同質性に注目する。
−3−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
年 度
1965
1970
1975
19 8 0
19 8 1
19 8 2
19 8 3
19 8 4
1 98 5
定 期保 険
−
−
1 2 .0
1 2 .6
1 2 .1
1 1 .3
1 0 .5
10 .0
9 .4
生 存 給 付 金
付 定期 保
−
−
−
−
−
−
4 .5
4 .5
4 .2
定 期 付
養 老 保
3 5 .2
59 .3
6 2 .7
5 5 .8
5 5 .7
5 5 .5
5 1 .2
4 5 .5
36 .4
疾 病 保 険
−
−
−
−
−
−
0 .1
0 .1
0 .2
−
−
−
1 0 .3
1 1 .4
1 2 .5
1 6 .5
2 1 .7
3 0 .9
(保 障 性 )
・一 定 期 間
・終 身
終 身 保 険
小 計
(3 5 .2 )(5 9 .3 )(74 .7 ) 7 8 .7 )(7 9 .2 )(7 9 .3 )(8 2 .7 )(8 1 .8 )(8 1 .1 )
(貯 蓄 性 )
養 老 保 険
貯 蓄 保 険
生 存 保 険
小 計
そ の 他 の 保 可
5 5 .2
2 9 .5
12 .9
9 .2
8 .9
8 .7
8 .5
8 .5
8 .3
−
−
−
0 .4
0 .6
0 .4
0 .3
0 .3
0 .3
−
−
−
0 .8
0 .4
0 .5
0 .5
0 .5
0 .4
(5 5 .2 )(2 9 .5 )(1 2 .9 ) 10 .4 )( 9 .9 )( 9 .6 )( 9 .3 )( 9 .3 )( 9 .0 )
l
9 .6
1 1 .2
1 2 .4
1 0 .9
10 .9
ー39−
1 1 .1
8 .0
8 .9
9 .9
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く図2−1〉主な加入日的
万一の時の家族の生活
554 保障のため
22.8
23・6 234
22.8 災害・交通事故などに備えて
一一一十 ̄.、一一一一一一一一・一__
−一一一一
1−−−・.▼
/
′ 224
18.3/
178
貯蓄のため
/
/
医療費や入院費のため
′
′
10
萎率….‥
71
子供の教育、結婚資金のたの
老後の生活資金のため
7.1
51 54 57 60
資料.生命保険文化センター「生命保険に関する実態調査」(昭和60年)
ー40−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く図2−2〉世帯年間払込保検料対年収比率(世帯年収別)
】4
13
1:
‖
10
200 200 300 350 400 450 500 600 7001,0〔沿
???∼???万
召 ふ35。4∝,4505006。。7001,。00 円
嘉 責 奇 声百 百 言 責つ「宿 望
志 義 意 義 嘉 議「嘉 義
資料:生命保険文化センター「生命保険に関する実態淘査」(昭和60年)
3 家計貯蓄と生命保険、公的年金
3−1社会保障と私的保険
貯蓄の中に保険を含むことの意味は、狭義の貯蓄行為と保険行為の
共通点として、「将来のために必要な金銭的準備」があげられるためで
あろう。しかし保険は集団的貯蓄であり、不確実性に対処する方法と
しては狭義の貯蓄より優れていると考えられる。
さらに保険には私的保険と社会保険の区別がある。原則的には、私
−41−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
的保険は任意保険であり、社会保険は強制保険とされる。しかしフラ
ンス、スウェーデンなどの企業年金制度は制度上は私的保険にもかか
わらず、法的にはほぼ強制保険の扱いとなっている。とはいえ、私的
保険では等価原理(保険料=給付額+事務費等)がより強く求められ
る。
このように私的保険と社会保険とはいささか異なる性質を持つが、
近年両者は似た性格を持つようになり、互いに相補うものとなってい
る。性格の似ている保険の例としては次のものがある。
目的 社会保険 私的保険
(1)高齢での所得保障 公的年金制度 個人年金保険・企業年金
(2)疾病の費用負担 健康保険制度 疾病保険・医療保障保険
(3)稼得者死亡保障 公的年金制度 民間生命保険
(遺族年金)
この節では、このような社会保険と私的保険の役割の共通性に注目
し、2つを同じカテゴリーとして考えて行きたい。通常蓄積部分を持
つ私的保険は個人貯蓄に含まれるが、社会保険は個人貯蓄に含まれな
い。しかし、2つの保険の共通性に注目すれば、蓄積部分を持つ社会
保険も個人貯蓄に含むか、あるいは、両者とも個人貯蓄に含まない場
合を考えることができる。
3−2ではその様な概念調整を行ったSNAベースでのBlades
の研究を紹介する。さらに3−3ではミクロベースでの所得階級別の
概念調整後の貯蓄率を算出することを試みる。
3−2 Bladesの研究
Blades(1983)によれば、SNAベースでの個人年金・生命保険の
−42−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
取扱いは人々の一般的な見方に立っていると言う。つまり、個人年金・
生命保険への支出はfinancialinvestmentであり、社会保障負担は
所得税と同様に強制的な支出と認識されている。
しかし個人年金・生命保険の役割は、社会保障制度と重なる部分が
多い。そこでBladesはSNAベースの家計粗貯蓄率を、以下の全く
異なる2つの方法によって組み替え、貯蓄率の変化を吟味している。
(1)個人年金・生命保険を、社会保障と同様に強制的支出とみなす
方法、つまり、個人年金・生命保険は家計貯蓄に含まれない
(2)逆に社会保障を、個人年金・生命保険と同様にfinancial
investmentとみなす方法、つまり、社会保険料も家計貯蓄に含む
その結果が<表3−1>に示されている。(1)の方法を取ると家計
粗貯蓄率は0.2−6.3%減少する。日本での減少率は2.2%である。イ
ギリス、カナダ、アメリカが減少率の大きいグループになる。(2)の
方法を取ると、スウェーデンの貯蓄率が大きく上方修正され平均8.
2%から14.4%になる。この表にあげられている国々の内では、日本は
スウェーデンに次いで社会保障基金への純積み立て部分が多く、これ
を家計貯蓄と見なすと2.6ポイントの貯蓄上昇となる。
このように国によって社会保障の積み立て部分、個人年金・生命保
険の比重はかなり異なる。スウェーデン、日本では前者の比重が大き
く、イギリス、カナダ、アメリカでは後者の比重が大きいと考えられ
る。更に(2)の方法を取る場合よりも、(1)の方法を取る場合の方が
貯蓄率の国別の変化が大きいことから、個人年金・生命保険の普及の
格差が貯蓄率の大小に貢献する程度が大きいことが明らかになる。
例えば、日本とアメリカでは個人年金制度の普及率になると、問題
にならないほどの開きがある。日本では高所得者層を中心として、8.
−43−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表3−1〉
(1旭ousehold sav用gH血OS
SNA basIS and excludlng net equlty Of householdsln penSlOn andllfelnSuranCe funds.
1 97 0−80
196 0
196 5
19 70
19 71
1 97 2
1 97 3
197 4
1 97 5
19 76
19 77
19 7 8
1 97 9
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資料 Blades(1983),P73.p75
4%(生命保険に関する全国実態調査、1985)であるのに対し、アメリ
カでは1975年にすでに5割に達している。これはアメリカの社会保
障制度の特色を反映しているのかもしれない。アメリカの公的年金制
度における年金水準はかなり低い。そのため各自が個人年金制度に加
入することが当然と考えられている。日本での個人年金制度の普及率
が低いのは、公的年金制度が整っていたというよりも、むしろ、
1960、70年代におけるインフレ率の高さが原因であると思われる。イ
ー朝一
家計貯蓄と生命保険、公的年金
(2畑ousehold savlng rat10S・
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10
1
1 0
9
12
6
12
1
10
2
1 2 5
12 7
1 1
5
1 1
4
1 2 5
12
1 1
2
12
9
12
4
11
0
1 3 3
13
8
1 2
2
11
8
12
12
8
16
9
4 8
1
4
F ra nc e
S N A
g ro ss
A d 】u S te d
rah O
ra t l0
1 5 2
1 6 2
1 6 7
16
15
1 6 .5
1 7
6
1 7 7
2 2
5
2 3
2 3
4
2 4 3
8
8
1 7 3
1 7
18
6
1 6
16
6
1 7 5
1 5 9 14
1 7 7
18
0
1 8 2
4 19
3
1 7 .3
1 7
5
17
8
16
8
15
2 4 9
24
8
24
1
26
5
2 6 .2
2 6
1
2 7
3
26
0
23
3
2 5
2 4
25
5
2 3 .9
24
9 2 4 ,6
2 5 .5
27
5
26
7
2 2
7
2 4 8
8
2
8
8
10
4
I ta ly
S N A
g ro ss
A d Ju Sled
r a t 10
T a t l0
g
2
0 .2 2
0
15
S IV e d e n
S N A
g ro ss
A d Ju Sted
U nlted
S N A
ra t lO
ra h o
11
1
10
12
1
1 4 7
7
7
0
8
7
1
8
3
8
4
1 4 .4
15
0
13
6 4
5
1 4 7
1 5
9
2
畠.7
7
0
9
4
10
7
1 0 7
8
7
1
9
5
11
1
1 1 4
3
9
6 .9
8
4
9
7
14 7
8
1 3 .3
14
4
1 4 .5
13
11 2
1 0
6
10
0
1 2 5
14
1 1
5
1 0
8
12
1 4 5
1
4
1 5
2
1 5
2
8
3
0
12
14
4
− 0
03
1 0 .9
0
62
K ln g d o m
g ro ss
A d Ju Sted
rah o
ra t lO
7
8
8
12
3
9
C o e 航 c l e n t O I v a r la t lO n S N A
0
1 5 7
ra t lO S
A d N Ste d
ratlO
1 1
4
0 6 7
38 瘍
3 2 %
ンフレによる目減りは個人年金を魅力のないものにしていた。しかし、
今後は高齢化の進行によって、公的年金給付額の減少は必至であり、
個人年金制度の普及率も高まると思われる。実際、近年の個人年金の
伸びは着実である。
<表3−2>は日本、アメリカ、イギリス、西ドイツの個人金融資
産残高の構成を示したものである。保険・年金の比重はイギリス
(42%)アメリカ(26%)では高いが、日本では14%と余り高くない。
−45−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
逆に日本では貯蓄性預金の割合が高いのが目だつ。このことは個人年
金制度の普及率が低いことと共に、個人金融資産の内59.4%(1983)
が非課税貯蓄であると言うように、貯蓄優遇制度の影響が大きいため
と思われる。
く表3−2〉個人金融資産【残高]の国際比較(1983年末)
日 (1 0億 円 )
金
性 険 ・ 価 う ち そ 5 0 ,2 2 5
%
(1 0 5 )
27 1 ,5 5 1
(5 6 6 )
18 ,2 1 8
(30
年
6 7 ,8 9 2
(1 4 2 )
1 5.6 3 1
(2 5 .8 )
8 7 .8 58
(1 8 3 )
22 .0 5 0
(36
証
<公 社債 >
< 3 8 ,2 3 2 > < 8
< 株 < 3 7 ,8 65 > < 7 9 >
式 >
2 ,2 20
の
47 9 ,7 05
融 腰
醜
負 債 米 国
(億 ド ル )
預
・ 通 貨 性 預
蓄 本
残
1 人 当 た り
金 融 資 産 残 高 (ドル )
)
< 7,3 8 8 > く 12
1 ,11 9 60 ,5 7 5 24 4 9
%
( 7 .6 )
8 ,9 5 5 4 )
2>
(10 0 .0 )
1 9 3 ,㈱
(47 .9 )
(4 2 .2 1
3 ,5 13 8 7 ,5 3 3
(18 .8 )
(1 9
3 .39 8 (18 .2 )
5 )
1)
< 3 0 ,5 3 3 > < 6 .7 >
< 2 6 16 > く 14 0 >
< 5 7 ,0 0 0 > < 1 2
く 78 2 > < 4 .2 >
1 0 .0 5 6
4 5 7,4 7 8
(2
(1 0 0
1 2 5 ,4 1 6
2 58
ド イ ツ
(億 マ ル ク )
1 ,4 2 2 (36
1 )
(1 8 )
1 9 ,7 5 7
西 %
) 1 66 ,g 8 9
< 14 ,6 6 2 > < 2 4 .2 >
5)
(1 ∝ ).0 )
16 6 ,1 4 3
(射
1 人 当 た り
可処 分 所得 ( 〃
(0
0 >
%
( 5 .9 )
3 ,5 5 7
英 国
(百 万 ポ ン ド )
5>
2)
0)
1、4 24 (7
18 ,7 12 0)
1 ,6 8 7
9
2 3 3 2
17 5 0
1 7,3 3 8
2 5 .8 3 2
日 .92 8
1 1,1 5 6
5 ,35 1
6 ,8 1 7
6 .9 1 5
9 ,9 7 9
1 人 当 た り金 融 資 産
残 高 (日 本 = 10 0 )
10 0 .0
1 49
0
68 8
6 4 4
1 人 当 た り可処 分
所 得 (日 本 = 1∝ ))
10 0
1 44
3
7 7 4
98
0
6 )
(10 0
6
資料 各国の「資金循環勘定」(貯蓄増強中央委員会資料)
注 1.株式は市場価格で評価した時価換算顔。
2.換算レートは、金融資産残高は83年末相場、個人可処分所得は83年中の相場(カノコ内計数)を使用、
1米ドル=日本232∝)円(23752円)、英国06897ポンド(065抑ポンド)、西ドイツ2.7285マルク(2.
5533マルク)。
さて、公的年金と個人貯蓄には代替関係があるのであろうか。Feld−
Stein(1974)はSSW(SocialSecurityWealth)を計算して、公的
貯蓄と私的貯蓄の代替関係を示している。日本においても佐々木・橘
木(1985)の推計によって、SSWと金融純資産との間に弱いながら
−46−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
代替性の存在することが実証されている。理論的にはBarro(1976)
によって、“Ultra Rationalismus”を仮定すれば、代替性は存在しな
いことが示されているが、実際には人々はBarroの仮定するほど合
理的ではないようである。
社会保障制度は国が運営し、強制的加入が求められる、つまり人々
にとっては社会保障負担は租税と同様に認識される一方、必ず、一定
の将来の収入が確保されることをも意味している。それゆえ、公的年
金の増加は個人貯蓄を減少させるという方向に代替効果が働くと考え
られる。
さらに、個人年金制度と貯蓄率との関係についてはMunnell
(1976)、Feldstein(1978)などの研究がある。その結果、個人年金制
度に加入することによって個人貯蓄率は上昇することが明らかになっ
ている。個人年金は公的年金とは異なり、“代替効果”より“認識効果”
の方が強く現れる。個人年金は公的年金に比べると、個人の自発的
意志に依存しており、加入することによって、引退後の生活への備え
の重要性を認識すると考えられる。
3−3 家計貯蓄と公的年金、生命保険
1984年度の「全国消費実態調査」では、これまでの調査では、社会
保障費、社会保障給付にまとめられていたものが、それぞれ公的年金
保険とその他の社会保障に分けられたので、新しく公的年金の保険料
及び給付額のデータをみることができる。Bladesの研究がマクロの
データを用いて家計貯蓄と生命保険、公的年金の関係を見直したのに
対して、ここでは、上述のデータを用いて、ミクロでの分析を行う。
具体的には、年間収入10分位のデータを用いて、公的年金を貯蓄に含
めた時の黒字率を計算して、もとの値と比較してみる。なお、全世帯
−47−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
のデータには公的年金のデータが明らかにされていないので、勤労者
世帯が分析対象となる。
まず、<表3−3>は、社会保険と民間保険(ただし、定期保険のよ
うないわゆる掛け捨ての生命保険は含まれていない)にどの程度の金
額が支出されているかをみたものである。平均で社会保険に約3万円、
民間保険に2万5千円で、それぞれ実収入の7.9%、6.9%である。ど
ちらの保険も年間収入が高くなるほど、1カ月あたりの実収入から保
く表3−3〉保険支払額と対実収入比
平 実
収
入
、
.他 の 社 会 保 障 費
計
Ⅲ
1 6 ,7 8 3
7 ,9 4
1 2 ,9 7
7 ,4 8
2 9 ,7 5 7
%
.生 命 保 険 料
7 .9
2 4 ,2 3 5
.損 害 保 険 料 *
民 間 保 険 1
Ⅶ
Ⅳ
7 5 ,8 6 3 2 0 3 ,5 5 4 2 5 3 ,2 5 6 2 8 6 ,7 8 5 3 11 ,0 7
1 .公 的 年 金 保 険
社 会 保 険 均
計
2 5 ,8 1 9
%
%
1 0 .q
1 4 ,5 5 尋
損 保 性 保 険
(2 + 4 )
6 .9
4 1 ,両
貯 蓄 性 保 険
(1 + 3 )
1 ,5 8 4
%
3 .9
1 5 ,4 2 4
7 .6
1 4 ,1 4 3
76
1 4 ,9 0 7
7 .3
2 2 ,0 8
10.
8 ,2 4
4 .1
1 1 ,2 8 q
9 ,2 9 7
2 0 ,5 8 司
1 3 ,4 1 1
14 ,8 4 7
1 0 ,6 0 1
1 1 ,2 3
2 4 ,0 12
2 6 ,0 8
8 .1
8 .4
8 .4
17 ,7 1
1 9 ,6 1
2 1 ,0 3
957
1 ,12 1
1 ,2 3
1 8 ,6 7 q
2 0 ,7 3 1
2 2 ,2 6
7 .4
2 9 ,0 0 尋
7 .2
3 3 ,0 2 1
1 1 .5
1 1 .5
10 ,2 5 4
3 5 ,8 8
1 1 .5
1 1 ,7 2
12 ,4 6
4 .1
4 .0
4 .0
資料:「全国消費実態調査報告」(1984年)より作成
*1984年版にないので、1979年版より推計
ー48−
7 .2
家計貯蓄と生命保険、公的年金
険に支出する割合は小さくなる。保険加入が所得階級の上昇と逆の相
関を持っていることは非常に面白く、何故そうなっているかを探求す
ることは、資産選択理論と年金制度との関係からみても重要な研究対
象であるといえる。なお生命保険と公的年金を含めた貯蓄性保険へは
実収入の約11%を支出していることになり、かなり高い割合を示して
いる。
(単位 円)
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
3 6 3 ,7 5
3 9 9 ,1 1
4 4 2 ,8 2
1 7 ,1 7 7
1 9 ,0 4
1 2 ,8 0
2 8 ,2 5 1
2 9 ,9 8 彗
8 .3
8 .2
3 4 0 ,0 1 q
1 6 ,0 5 司
1 2 ,1 9 q
2 2 ,2 1 司
1 ,3 6 可
2 3 ,5 8 q
6 .9
3 8 ,2 6 5
1 1 .司
1 3 ,5 6 司
4 .0
2 3 ,4 9 3
Ⅸ
5 0 3 ,3 8 5
6 5 4 ,8 8 5
2 0 ,4 4
2 2 ,0 6
2 5 ,5 5
1 3 ,9 2
1 5 ,1 7 1
1 6 ,9 9
2 0 ,0 3 1
3 2 ,9 6
3 5 ,6 1
3 9 ,0 6
4 5 ,5 8
8 .3
8 .0
7 .8
7 .0
2 5 ,4 8
2 7 ,3 2
1 ,5 7
1 ,8 7
1 ,8 8
2 5 ,0 6
2 7 ,3 6
6 .9
6 .9
4 0 ,6 7
4 4 ,5 2
1 1 .
Ⅹ
1 1 .
2 9 ,2 1 1
6 .6
4 7 ,7 7 司
1 0 .8
3 1 ,4 1 1
3 9 ,9 1
2 ,2 0
3 3 ,6 1
2 ,8 4
4 2 ,7 6 1
6 .7
6 .5
5 3 ,4 7
6 5 ,4 7
1 0 .
1 0 .
1 4 ,3 8
1 5 ,7 9
1 7 ,0 5
1 9 ,2 0
2 2 ,8 7
4 .0
4 .0
3 .9
3 .8
3 .5
ー49−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
<図3−1>は、生命保険と公的年金の保険料と給付額を所得分位
で図示したものである。「家計調査」と同様に受取額の過小報告もある
と思われるが、公的年金と比べると生命保険は保険料が高いにもかか
わらず、受取額が非常に低いのが特徴的である。公的年金の平均保険
料が16783円、平均受取額が8690円であるのに対して、生命保険の平
均保険料は24235円、平均受取額はわずか2262円である。この差の1
つの理由としては、保険料が現在の契約に基づいているのに対して、
受取額は過去の契約によることが考えられる。近年、保険契約は大型
化している事実がある。さらに、所得の高くなるほど、保険料に対す
る受取額の割合が小さくなることが<図3−1>から読みとれるであ
ろう。
く図3−1〉生命保険と公的年金
1 2 3 4 5 6 7 8 9 川
(年収10分位)
資料:「全国消費実態調査報告」(1984年)より作成
一説)−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
次に、所得分位ごとの生命保険と公的年金の純増額が、<表3−4>
に計算してある。保険料と受取額の格差を反映して、生命保険の純増
額の平均は2万2千円、公的年金は8千円であり、生命保険純増額は
公的年金の約3倍程になっている。
ところで、公的年金純増を家計貯蓄として扱う場合には、黒字、可
処分所得を次のように修正する必要がある。
修正黒字=黒字十公的年金純増
修正可処分所得=(実収入一公的年金給付)−(非消費支出一公的年
金保険料)
=可処分所得+公的年金純増
修正黒字率=修正黒字/修正可処分所得
ただし、
黒字=可処分所得一消費支出
可処分所得=実収入一非消費支出
黒字率=黒字/可処分所得
修正黒字率を計算すると<表3−4>に示されているように、黒字
率は平均2.1%の上昇を示す。この数字はBladesのマクロデータで
の1970−1980年平均値2.6%よりやや小さい。所得分位でみると黒字
率の上昇が大きいのは中位の所得分位であり、最大の上昇を示してい
るのは、第m、IV分位での3%である。第Ⅹ分位はわずか1%の上昇
にとどまっている。一方、卓も所得水準の低い第I分位の黒字率の上
昇も1.6%であり大きいものではない。
−51−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表3−4〉年収10分位一生命保険と公的年会
平 均
I
江
Ⅲ
Ⅳ
24 ,2 3 5
14 ,1 4 3
1 7 ,7 1 3
1 9 ,6 1 0
2 1 ,0 3 3
公 的 年 金保 険 料
16 ,78 3
7 ,9 4 4
1 1 ,2 8 9
1 3 ,4 1 1
14 ,8 4 7
計
29 ,75 7
1 5 ,4 24
2 0 ,5 8 6
2 4 ,0 1 2
2 6 ,0 8 3
2 ,2 6 2
1 ,0 5 1
696
1 ,3 9 2
1 ,4 4 6
生 命 保 険料
生命保険受取
公‘
的年 金給 付
8 ,69 0
4 ,6 30
5 ,1 4 2
4 ,7 4 5
5 ,4 6 4
10 ,9 5 2
5 ,6 8 1
5 ,8 3 8
6 ,1 3 7
6 ,9 1 0
生命保険純増
2 1 ,9 7 3
1 3 ,0 9 2
1 7 ,0 1 7
1 8 ,2 1 8
19 ,5 8 7
公 的年 金純 増
8 ,0 9 3
3 ,3 1 4
6 ,1 4 7
8 ,6 6 6
9 ,3 8 3
%
1 3 .8
7 .3
1 0 .0
1 0 、6
1 2 .0
グ正 黒 字 率 * * %
1 5 .9
8 .9
1 2 .4
1 3 .6
15 .0
2 .1
1 .6
2 .4
3 .0
3 .0
計
窯 字 率 * 差
*黒字率=黒字額/可処分所得
**修正黒字率=(黒字額+公的年金純増)/(可処分所得+
資料:「全国消費実態調査報告」(1984年)より作成
<表3−5>は、生命保険と公的年金の所得弾性値、年齢弾性値を
計算した結果を表にまとめたものである。データは年収10分位の実
収入と世帯主平均年齢を所得(I)、年齢(A)として用いている。推定
式は次のように書かれる。
ー52−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
(単位 円)
I
Ⅸ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
Ⅹ
2 2 ,2 1 3
2 3 ,4 9 3
2 5 ,4 8 6
2 7 ,3 2 9
3 1 ,4 1 1
3 9 ,9 1 9
1 6 ,0 5 2
1 7 ,1 7 7
1 9 ,0 4 1
2 0 ,4 4 7
2 2 ,0 6 8
2 5 ,5 5 4
2 8 ,2 5 1
4 0 ,6 7 0
4 4 ,5 2 7
4 7 ,7 7 6
5 3 ,4 7 9
6 5 ,4 7 3
1 ,7 9 5
2 ,0 3 9
2 ,7 8 0
2 ,7 4 2
4 ,7 2 4
3 ,9 5 9
7 ,14 0
7 ,6 6 6
7 ,9 1 7
1 1 ,1 6 2
1 4 ,4 9 1
1 8 ,5 4 5
8 ,9 3 5
9 ,7 0 5
1 0 、6 9 7
1 3 ,9 0 4
1 9 ,2 1 5
2 2 ,5 0 4
2 0 ,4 1 8
2 1 ,4 5 4
2 2 ,7 0 6
2 4 ,5 8 7
2 6 ,6 8 7
3 5 ,9 6 0
8 ,9 1 2
9 ,5 1 1
1 1 ,1 2 4
9 ,2 8 5
7 ,5 7 7
7 ,0 0 9
1 2 .9
1 3 .8
1 4 .5
1 4 .3
1 5 .3
1 8 .4
1 5 .5
1 6 .4
1 7 .3
1 6 .6
1 6 .8
1 9 .4
2 .6
2 .6
2 .8
2 .3
1 .5
1 .0
公的年金純増)
Log(Ml)=al+a2*Log(I)+a。*Log(A)
Ml:生命保険、公的年金の保険料、給付額
I:所得
A:年齢
ー53−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
く表3−5〉生命保険と公的年金の所得、年齢弾性値
()内t一億
(保 険 料 )
生命保険
公的年金
定数項
所
得
年
齢
− 0 .6 8 93
0 .9 74 9
− 0.45 9 3
(一 3 .9 7 )
(2 4 .5 2 )
(− 2 .99 )
− 1 .9 09 9
1 .40 2 7
− 1.69 70
(− 1 .8 1 )
(5 .8 1 )
(− 1.82 )
R 2
0 .99 9
0 .9 6 2
(給 付 )
生命保険
公的年金
− 16 .1 54 5
0.12 88
5.90 (
il
(一 5 .2 4 )
(0 .18 )
(2 .17 )
− 10 .6 2 15
0 .34 90
4 .04 40
(− 6 ,8 6 )
(0 .9 9 )
(2.96 )
0 .90 1
0 .9 6 2
この式で推定されたa2,a3がそれぞれ所得弾性値、年齢弾性値を
あらわす。
どちらも保険料では、所得弾性値が正、年齢弾性値は負となってい
るが、公的年金の方が所得弾性値、年齢弾性値とも絶対値で大きくなっ
ている。給付額については、生命保険も公的年金も所得の説明力はな
く、年齢のみの関数となっている。
4.おわりに
日本の家計貯蓄率は英・米に比べると非常に高い水準にあるが、生
命保険の割合は高いといえない。個人金融資産に占める割合は現在2
割程度である。これは個人年金制度の普及率の差によるものと思われ
る。
生命保険の機能には、貯蓄性と保障性の2つがある。かつては貯蓄
性重視型の保険の割合が非常に高かったが、現在では、より保障性を
−54−
家計貯蓄と生命保険、公的年金
強めている。貯蓄性のみに注目するならば、より有利な金融資産が存
在するであろう。生命保険の機能から考えでも個人では困難な不確実
性への対処、長期的な保障を強めることが望ましいと思われる。現実
に、家族の生活保障と本人の老後の生活保障をセットにした「終身保
険」、老後の生活保障のみを目的とする「個人年金保険」の伸びは順調
である。
社会保険、特に公的年金と生命保険とは機能的に類似している。こ
の点に注目して、公的年金も家計貯蓄の一項目として計算すると、マ
クロの時系列では1970−1980年の平均で2.6%の家計貯蓄率の上昇
になる(Blades)。「全国消費実態調査」を用いると、1984年平均で
は、家計貯蓄率は2.1%の上昇を示す。さらに、クロス・セクションで
所得分位に注目すると、公的年金を家計貯蓄とした場合の効果は、所
得中位での上昇率が高く、高所得分位での上昇率が低いというかたち
であらわれる。
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(本稿を作成するにあたり、生命保険文化研究所 北野 葺氏には有益
なコメントをいただきました。感謝いたします。もちろん、ありうべ
きすべての誤りは、筆者の責任によるものです。)
−認−
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