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アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際

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アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進 地域共通課題解決型国際
アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進
地域共通課題解決型国際共同研究
事後評価
「インドネシア宇宙天気研究の推進と体制構築」
機関名: 京都大学
代表者名: 山本 衛
実施期間:平成 22 年度~平成 24 年度
目次
Ⅰ.国際共同研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ.経費
1.所要経費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.使用区分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
Ⅲ. 実施結果・成果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1)ミッションステートメントの達成状況
(2)実施計画に対する達成状況
(3)採択コメントに対する対応
(4)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績
2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(1)科学的・技術的成果の内容
(2)社会的成果(国内外の各参画機関の共同研究体制・形成された科学技術コミュニティ)の内容
3.計画・手法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
Ⅳ.実施結果・成果の詳細
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
1. 京都大学主担当部分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
2. 名古屋大学主担当部分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
3. 情報通信研究機構主担当部分 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
4. LAPAN による宇宙天気研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
5. 赤道大気観測所共同利用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
V. 自己評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
1.目標達成度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
2.成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
3.計画・手法の妥当性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
5.その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
Ⅰ.国際共同研究の概要
■プログラム名: 国際共同研究の推進
■課題名: インドネシア宇宙天気研究の推進と体制構築
■機関名: 京都大学(RISH)
■代表者名(役職): 山本 衛 (教授)
■共同研究機関名: 名古屋大学(STEL)
■共同研究機関代表者名(役職): 大塚 雄一(准教授)
■共同研究機関名: (独)情報通信研究機構(NICT)
■共同研究機関代表者名(役職): 長妻 努(研究マネージャ)
■共同研究機関名: インドネシア航空宇宙庁(LAPAN)
■共同研究機関代表者名(役職): Sri Kaloka (H22~23 年度)、Clara Yono Yatini (H24 年度)
(宇宙科学応用研究センター長)
■実施期間:3年間
■実施経費: 83百万円(間接経費、環境改善費込み)
課題概要
1.共同研究の内容
「宇宙天気」は地表からの高度 100km 以上の超高層大気から地球周辺の宇宙空間の環境を研究し予報を目
指す領域であって、通信の確保や衛星システムの安定運用等を通じて社会基盤の向上に資する。日米欧で
は研究が盛んで、国際組織が整備され宇宙天気サービスが実施運用されている。インドネシアは広大な島嶼
国であるため衛星システムや通信が極めて重要である。最近、政府レベルで関心が高まり、研究技術大臣が
政策に盛り込み、インドネシア航空宇宙庁(LAPAN)が、独自の研究プログラムを開始した。本研究は、日本=
インドネシアの 2 国間協力を通じた宇宙天気研究の推進を目的とする。最終目標は同国の宇宙天気サービス
の開始である。具体的には、既存の観測施設をフル活用してインドネシア地域の宇宙天気の研究を推進、地
域特有の現象に関して最先端の科学成果を追求し、同時に、宇宙天気サービスを実現するため基盤整備を
進める。
2.研究実施体制
インドネシア航空宇宙庁(LAPAN)は大統領直属の宇宙開発研究機関であって、政府レベルの取組みに対応
して 5 ケ年計画を開始した。一方、京都大学生存圏研究所(RISH)は 2001 年にスマトラ島の赤道直下に赤道
大気レーダー(Equatorial Atmosphere Radar; EAR)を建設し、LAPAN と共同研究を推進中である。本研究で
は、更に日本の宇宙天気研究の拠点名古屋大学太陽地球環境研究所(STEL)、宇宙天気研究及び国際的
な宇宙天気情報サービスの提供主体である(独)情報通信研究機構(NICT)の参画を得て、インドネシア地域
の宇宙天気研究とサービス実現に向けた基盤整備を推進する。
3.ネットワーク構築の実現可能性
RISH は過去 20 年以上にわたりインドネシア域を中心とする赤道大気研究に取り組み、LAPAN を初めとする
国立研究所・大学と協力関係を築いてきた。RISH は LAPAN と MOU を結び敷地の提供を受け、大型大気レ
ーダー(アンテナ直径が 110m に達する)である EAR を完成、以来 LAPAN が運用技術者を雇用する等の協
力体制を継続し長期観測を続け成果を挙げてきた。更にその過程で、STEL 及び NICT も LAPAN との共同
研究を実施し成果を積み上げてきている。以上から本研究に参加する 4 機関の意思疎通はスムーズであり、
協力関係は磐石である。本研究の実施に当って必要となる RISH=LAPAN 間の協定は、既存の MOU を基
礎として遅滞なく締結できる。
1
4.本制度により取組を支援する必要性
本研究によって、日本側参加機関は最先端の科学を追求できる。一方、LAPAN は自身の研究水準を向上し、
宇宙天気サービスの実現に向けた基盤整備を効率よく進められる。これは本制度の目的合致した取り組みで
あり、「対象とする取組」の条件(1)~(6)を全て満足している。
5.継続性
インドネシア政府レベルで宇宙天気研究推進の明確な方針が出されており、LAPAN が政府機関としてこれに
取り組んでいることから、本研究の実施期間終了後も取組みは継続する。RISH は EAR を最重要な国外研究
拠点と認識し全国・国際共同利用に供していることから、継続的な取組みは明らかである。STEL・NICT に関
しても研究の継続性に問題はない。
6.相手国・地域との政府レベルでの協力関係の強化・構築への発展性
LAPAN は大統領直属の研究開発機関であり、活動は政府レベルである。インドネシア共和国は、地球の赤
道全周の 1/8 を占める地域に点在する島嶼から構成される広大な国であり、衛星システムや通信の重要性に
は言を待たない。宇宙天気研究に対する要請が政府レベルで高まっており、LAPAN の宇宙天気研究プログ
ラムは、2009 年 11 年の大統領再選による新しい研究技術大臣の政策に含まれている。RISH と LAPAN の永
年の協力関係、STEL 及び NICT が我が国の宇宙天気研究の中心であること等から、本研究を端緒とする長
期間にわたる協力関係の強化発展は明らかである。
2
ミッションステートメント
(1)研究の概要
「宇宙天気」は衛星周辺の宇宙環境の観測と予測を中心とし、衛星システムの安定に資するものである。本課
題はインドネシア航空宇宙庁(LAPAN)が推進中の宇宙天気プロジェクトに日本が協力するもので、京都大学
生存圏研究所、名古屋大学太陽地球環境研究所、(独)情報通信研究機構が参加する。赤道大気レーダー
(EAR)の観測強化を通じた研究推進、インドネシアの宇宙天気観測網整備への協力、宇宙天気の知識と経
験の伝授から構成される。
(2)実施期間終了時における具体的な目標
本課題では以下の3つの目標の達成を目指している。
目標1「赤道大気レーダー観測所における宇宙天気の観測強化と低緯度電離圏の研究」:EAR 及び EAR 観
測所設置に設置されている観測機器による長期連続観測を実施する。低緯度電離圏に特有の擾乱現象に
ついて、LAPAN と共に一級の研究成果を追求する。
目標2「インドネシア地域の宇宙天気観測網の整備」:LAPAN が推進中の観測点ネットワークの構築に協力し、
衛星=地上ビーコン観測網を充実する。インドネシア地域で実施されている GPS 観測データの収集等を通じ
て、地域の宇宙天気研究に使える観測データの量と品質を向上させる。
目標3「インドネシア共和国の宇宙天気サービスに向けた基盤整備」:LAPAN は独自の取組みとして、宇宙天
気サービスに向けた組織整備、国際連携網の整備、国内の需要掘り起こしを推進中である。本課題では毎年
1回、国際ワークショップをインドネシアにおいて開催し、研究成果について議論するとともに、日本側が持つ
宇宙天気サービスの知識と研究についてインドネシア側に講習する。
以上の推進によって、インドネシアにおいて宇宙天気サービスが実施されるための基盤を構築する。
(3)実施期間終了後の取組
インドネシア政府レベルで宇宙天気研究推進の明確な方針が出されており、LAPAN が政府機関としてこれに
3
取り組んでいる。本課題の実施期間終了後も参加機関の研究協力体制の維持に努め、長期間にわたる協力
関係の強化発展を図る。
採択時コメント
多くの島々からなるインドネシアでは、地上・衛星通信が重要な社会基盤となっており、低地球軌道高度で生
ずる電離圏攪乱が通信に与える影響が少なくない。本提案は、提案者らの有する宇宙天気に関する研究技術
をインドネシアに普及して、同国の社会的ニーズに応える取組として高く評価された。この取組は、これまでの共
同研究基盤に基づく先進的な国際共同研究であり、宇宙天気観測ネットワークの構築とともに、その学術的な
成果が期待される。
なお、本課題の実施に当たっては、既存のデータとの連携や、インドネシア以外の国との連携も視野に入れ
て展開することが望まれる。
4
Ⅱ.経費 (振興調整費分)
1.所要経費
(間接経費、環境改善費を含む)
(単位:百万円)
研 究 項 目
1.
担当機関等
担当者
京都大学
インドネシア宇宙天気研究の
所要経費
研 究
山本 衛
H22
H23
H24
年度
年度
年度
24.7
22.0
20.9
67.6
2.6
2.3
2.5
7.4
2.6
2.3
3.1
8.0
29.9
26.6
26.5
83.0
合計
山本 真之
推進と体制構築
橋口 浩之
斎藤 昭則
2.
名古屋大学
インドネシア地域の電離圏擾
大塚 雄一
乱観測網の構築
3. インドネシア地域の電離圏構造
情報通信研究機構 長妻 努
津川 卓也
観測網の調査・整備
所 要 経 費
(合 計)
2.使用区分
(単位:百万円)
研究項目1
研究項目2
研究項目3
計
設備備品費
0
0
0
0
人件費
0
0
0
0
事業実施費
53.6
6.1
6.9
66.6
間接経費 または
14.0
1.4
1.1
16.5
67.6
7.5
8.0
83.1
環境改善費
計
※備品費の内訳(購入金額5百万円以上の高額な備品の購入状況を記載ください)
5
Ⅲ.実施結果・成果の概要
1.目標達成度
(1)ミッションステートメントの達成状況
実施期間終了時における具体的な目標
(様式10-4 (2))
本課題では、研究期間の終了時に達成
されているべき具体的な目標として以下
の3点を掲げた。
目標1「赤道大気レーダー観測所におけ
る宇宙天気の観測強化と低緯度
電離圏の研究」:EAR 及び EAR
観測所に設置されている観測機
器による長期連続観測を実施す
図1 本課題の実施内容(写真は EAR の外観)
る。低緯度電離圏に特有の擾乱
現象について、LAPAN と共に一級の研究成果を追求する。
目標2「インドネシア地域の宇宙天気観測網の整備」:LAPAN が推進中の観測点ネットワークの構築に協力し、
衛星=地上ビーコン観測網を充実する。インドネシア地域で実施されている GPS 観測データの収集等
を通じて、地域の宇宙天気研究に使える観測データの量と品質を向上させる。
目標3「インドネシア共和国の宇宙天気サービスに向けた基盤整備」:LAPAN は独自の取組みとして、宇宙天
気サービスに向けた組織整備、国際連携網の整備、国内の需要掘り起こしを推進中である。本課題で
は毎年1回、国際ワークショップをインドネシアにおいて開催し、研究成果について議論するとともに、日
本側が持つ宇宙天気サービスの知識と研究についてインドネシア側に講習する。
以上の推進によって、3 年間の研究期間終了後、LAPAN が宇宙天気をインドネシア国内の公共サービスとし
て実施するための基盤を構築する。
目標1の達成度
本課題の実施内容と実施体制をそれぞれ図 1 と図 2 に示す。本課題では、京都大学生存圏研究所(略称
RISH)、名古屋大学太陽地球環境研究所(略称 STEL)、情報通信研究機構(略称 NICT)が相互に連携を取
りながら、インドネシア航空宇宙庁(略称 LAPAN)との国際共同研究を推進した。
赤道大気レーダー(Equatorial Atmosphere Radar; EAR)は 2001 年に完成した大型大気レーダーであって、
完成以来、対流圏・成層圏下部の観測を連続的に行ってきた(図 1、3、35)。本課題で RISH は電離圏観測モ
ードと大気風速観測モードを組合せた新観
測モードによる長期連続観測を 2010 年 7
月に開始し、欠測なしに連続観測を行った。
EAR 観測所には、STEL が大気光イメージ
ャとファブリ・ペロー干渉計(本課題の期間
中に整備)、VHF レーダー、GPS 受信機等
を設置しており、観測を継続した。また
NICT は東南アジアを中心としてイオノゾン
デ観測網 SEALION を展開中であるが、そ
の1点が EAR 観測所に設置されており、本
図2 本課題の実施体制
課題の期間中も連続的に観測を続けた。以
6
上より、観測強化については目標を完全に達成した。
本課題では低緯度電離圏について多くの研究を実施し、計 40 編の査読付き論文を国際的な論文誌に掲載
した。研究成果の範囲は、赤道域の強い擾乱現象である赤道スプレッド F 現象(略称 ESF、プラズマバブルとも
呼ばれる)の年々変動特性・日々変動特性、電離圏 E 領域の擾乱現象、昼間の高度 150km 付近に発生する
電離圏不規則構造、磁気嵐や極域成層圏の突然昇温現象に対する電離圏応答の研究等である。以上、研究
成果においても計画通りの達成度を得たのみならず、特に真夜中過ぎの ESF という興味深い事象について計
画時の想定を上回る成果を得た。
目標2の達成度
目標2では EAR 以外の観測を増強した。RISH は LAPAN の観測点ネットワーク構築に協力してインドネシ
ア国内の衛星ビーコン観測網を拡充する一方、独自の国際ネットワークを活かして観測網を広域に展開した。
図 4 に示す通り、現在の観測網はアフリカから太平洋に至る広い経度範囲の低緯度域で約 20 点に達してい
る。STEL は、EAR 観測所とタイ・チェンマイに大気光ファブリ・ペロー分光計(Fabry-Perot Interferometry;
FPI)を設置し、南北両半球の磁力線共役点からの熱圏風の同時観測を可能とした。NICT は、SEALION 観
測網を維持しつつフィリピン・セブへ増設した他、FPI 設置に呼応してタイ・チェンマイに大気光イメージャを導
入した。GPS 観測データ収集について、標準となる GTEX フォーマットを開発し広い賛同を得た。インドネシア
では複数の機関が GPS 観測を進めており、スマトラ島周辺のデータは取得した。しかしながら、最大の観測網
を運営する同国の国土地理院については LAPAN と共に協議中である。以上まとめると、インドネシア地域の
観測網整備について 100 パーセントの達成を得た。採択時コメントに従ってインドネシアの外へも活動を広げ
ることで、目標を超える広い領域で観測網整備を達成した。さらに GTEX フォーマットの開発と普及は計画を
上回るエクストラサクセスである。
目標3の達成度
目標3では LAPAN による宇宙天気研究サービスの開始に向けて以下を実施した。毎年インドネシアにお
いて国際ワークショップを開催した。第1回目にはアジア・オセアニア地域の宇宙天気関係機関の連携につい
て議論が行われ、それを契機として Asia-Oceania Space Weather Alliance (AOSWA)が形成された。第2回目
は EAR 開設 10 周年の記念シンポジウムと連動し、インドネシア科学技術大臣や日本国大使(公使が代理)を
初めとする来賓の出席を得て EAR と関連研究の成果を示した。一方で、LAPAN も独自の努力を重ねた。国
連が支援する宇宙天気研究の振興の枠組である International Space Weather Initiative (ISWI)があり、毎年、
大学院生・若手研究者向けの ISWI スクールを開催している。LAPAN はこれを独自にインドネシアに誘致し、
2012 年 9 月に開催した。アジア・アフリカを中心とする宇宙天気研究に関心をもつ大学院生・若手研究者が参
加し、宇宙天気研究の先進地域から参集した第一級の研究者による講義に熱心に取り組 んだ。さらに
LAPAN はインドネシア国内の宇宙天気情報サービスを開始した。目標3に関して、計画通りの取り組みを実
施して LAPAN の宇宙天気研究が活性化できた。さらに、研究期間内に LAPAN が宇宙天気情報サービスを
開始したことと、アジア・オセアニア地域の宇宙天気関係機関の連携組織 AOSWA の発足はエクストラサクセ
スであって特筆される。
(2)実施計画に対する達成状況
① インドネシア宇宙天気研究の推進と体制構築
・計画(目標):「宇宙天気」は超高層大気から地球周辺の宇宙空間の環境を研究し予報を目指す領
域であり、通信・測位・環境計測・資源探査・科学研究等を支える衛星システムの安定に資する。本研
究は、インドネシア地域 の宇宙天気研究の推進と体制構築を目的とする。具体的には、同国での観測
7
を強化し、地域特有の諸現象について最先端の成果を追求する。同時に、インドネシア周辺との連携
を視野に入れつつ、宇宙天気サービスの諸機能(データ収集と分析、衛星環境情報の配布等)の基盤
整備を進める。
・達成状況:EAR による宇宙天気観測モードを新設し、長期連続観測を 2010 年 7 月から継続的に実
施した。独自に開発した衛星ビーコン受信機による広域観測網の構築を目指し、東南アジアを中心とし
てアフリカから太平洋までの地域に約 20 点にまで成長させた。本課題の国際ワークショップを、インドネ
シアにおいて毎年開催した。これらによって、LAPAN による宇宙天気研究を推進した。実施計画に対
する達成状況は完全であった。さらに、広域観測網の範囲が東南アジアを遙かに超える広い領域に達
したこと、本課題の期間中に LAPAN が宇宙天気サービスを開始したこと、という計画を上回る成果を得
た。
② インドネシア地域の電離圏擾乱観測網の構築
・計画(目標):超高層大気や地球周辺の宇宙空間の環境をモニター・予報するための「宇宙天気」に
とって、電離圏擾乱が「いつ」「どこで」発生するかは、重要な研究課題の一つである。特に、インドネシ
アが位置する赤道域は、赤道域特有の激しい電離圏擾乱が発生し、測位・通信などに重大な障害を及
ぼすことがある。本事業では、この電離圏擾乱の発生特性及び発生機構を明らかにするため、光学、
GPS、レーダーによる観測網を構築する。これらの観測をもとに、電離圏擾乱の生成機構に関して
LAPAN と共に一級の研究成果を追求する。
・達成状況:STEL は地球上において最も激しい電離圏擾乱が発生する赤道域に位置するインドネシ
ア及びタイにおいて電離圏・熱圏の光学・電波観測を継続した。加えて、熱圏風速を測定できるファブ
リ・ペロー干渉計を同一磁力線が通るインドネシアのコトタバン及びタイのチェンマイにそれぞれ設置し、
磁気共役点からの熱圏風速の観測(世界初)を開始した。これにより、赤道域電離圏に起こる現象につ
いて、熱圏風が重要な役割を果たしていることが分かった。また、GPS や VHF レーダー観測から、磁気
嵐に対する電離圏応答や電離圏擾乱に関する知見が得られた。NICT 及び LAPAN が所有するイオノ
ゾンデによる観測結果と比較することにより、低太陽活動期に特有の擾乱現象の生成機構の解明に重
要な手がかりがえられた。計画の達成度は高く、特に真夜中過ぎに発生する ESF の研究など当初計画
を上回る研究成果を得ることができた。
③ インドネシア地域の電離圏構造観測網の調査・整備
・計画(目標):本事業では、磁気赤道域・低緯度域の電離圏構造の現況把握及び予測の研究を行う
ため、インドネシア及び周辺諸国において電離圏構造観測網(イオノゾンデ、GPS 受信機)による長期
連続観測を行うとともに、インドネシアと協力して宇宙天気研究に利用できる既存の電離圏観測網の調
査・整備を行う。赤道・低緯度域の電離圏擾乱の発生・伝播の現況把握及び予測を行うためには、磁気
赤道域や地磁気共役点の電離圏観測が重要であること、及び、本課題の審査コメントの指摘事項「本
課題の実施に当たっては、既存のデータとの連携や、インドネシア以外の国との連携も視野に入れて
展開することが望まれる。」を踏まえて、インドネシア・コトタバンと同一経度内の磁気赤道(タイ・プーケ
ット)、及びコトタバンの地磁気共役点(タイ・チェンマイ)においてもイオノゾンデや GPS 受信機等を用
いた電離圏観測を実施する。
・達成状況:本事業の課題である磁気赤道域・低緯度域の電離圏構造の現況把握及び予測の研究
を行うため、インドネシア及び周辺諸国(タイ、ベトナム、フィリピン)において電離圏観測網(イオノゾン
8
デ、GPS 受信機)による観測に必要な装置の改修・機器の入れ替え、保守作業、データ収集を行い、長
期連続観測を継続して実施した。また、新たに GPS シンチレーション観測機器をタイ・プーケット及びフ
ィリピン・セブにそれぞれ設置し、リアルタイム観測を開始した。また、LAPAN 及び周辺諸国の宇宙天気
研究機関と協力して宇宙天気研究に利用できる既存の電離圏観測網の調査・整備を進めた。さらに特
筆すべき成果として、アジア・オセアニア域における宇宙天気研究・サービスの情報交換及び共同研究
を促進するための枠組みとしてアジア・オセアニア宇宙天気連合(AOSWA)を設立したこと、GPS デー
タ交換のための GTEX フォーマットを開発し国際的な賛同を得たことが挙げられる。以上より、達成状況
は計画を上回るものであったと言える。
(3)採択コメントに対する対応
本課題への採択コメントは、「本課題の実施に当たっては、既存のデータとの連携や、インドネシア以外
の国との連携も視野に入れて展開することが望まれる。」であった。前項までに示したとおり、SEALION イオ
ノゾンデ観測網や大気光イメージャーをタイ・ベトナムなど東南アジアに展開し、本課題期間中に拡充した。
衛星ビーコン観測網についても広域の観測網が構築された。研究成果リストから分かるように、東南アジア
やインドの研究者との共著論文が極めて多くなっている。AOSWA の発足も広域観測網の構築に伴う情報
交換や研究交流への対応に伴って実現された。一方、「既存のデータとの連係」については、衛星観測デ
ータをはじめとする多くの既存データを活用して研究を幅広く推進した。本課題の観測網からのデータの公
開にも努めている。以上まとめると、本課題では採択コメントに対して充分な対応を取ることができた。さらに
その結果として、本課題では計画を越えて目標を達成することができた。
採択コメントによる研究計画の変更なし。
(4)所期の計画どおりに進捗しなかった場合の理由、対処、実績
該当なし
9
2.成果
(1)科学的・技術的成果の内容
①地域共通課題の解決につながるどのような成果が得られたか、(その成果が将来的に社会へどの程度
適応できる段階にあるかわかるように)記載下さい。
宇宙天気とは
本課題が取り上げる「宇宙天気」とは、地表からの高度 100km 以上の超高層大気から地球周辺の宇宙空
間の環境を研究し予報を目指す領域であり、次のような社会的問題への対処を応用範囲とする。
○古典的問題:遠距離短波通信に代表される地上=地上の無線通信路の確保。テレビや FM ラジオ
電波の異常伝搬も含まれる。
○現代的問題:衛星=地上通信の確保や、衛星の周辺環境の影響評価。磁気嵐から引き起こされる
地上送電網のトラブルなど社会基盤への悪影響や、航空航法にも利用され始めた GPS 測位の信頼
性確保にも注目が集まっている。
宇宙天気は日米欧を中心として盛んに研究され、国際的には国際宇宙環境情報サービス(International
Space Environment Service; ISES)が形成されている。我が国では(独)情報通信研究機構(NICT)が国内
向けサービスと ISES 地域警報センターを担当している。
本課題発足前の状況
インドネシア共和国は、赤道全周の 1/8 にわたる領域(=アメリカ合衆国の主要部に匹敵する広さ)に分
布する島嶼国であるため、通信や衛星システム利用の重要性には言を待たない。地方間の通信は今でも
短波通信に頼る部分が多く、古典的な問題も残っている。そこで政府レベルで宇宙天気に対する関心が高
まっていた。さらに東南アジアの状況を見ると、最近の経済発展と共に ASEAN 諸国には宇宙開発に対す
る関心の高まりがあり、宇宙への取り組みの一つとして宇宙天気研究が始められていた。しかしながら研究
水準は必ずしも高くなく、地域としてのまとまりもなかった。
本課題の成果
インドネシアについては、RISH が LAPAN と共同で運営を続ける赤道大気レーダーについて、宇宙天気
にあわせた観測モードに変更した上で、長期連続観測を成功裡に実施した。衛星ビーコン受信機は安価
で取り扱いやすい観測装置であるので、LAPAN はインドネシア国内への配置を積極的に進めた。さらに
LAPAN は、NICT 及び STEL からの協力を得てインドネシア国内の GPS 受信機網のデータを宇宙天気研
究目的で入手すべく、各方面との折衝を実施した。本課題が LAPAN の研究所で毎年1回ずつ実施するワ
ークショップを通じて、宇宙天気研究の推進に向けた情報交換を推進した。最終年度には LAPAN から 3
名が NICT を訪問して宇宙天気サービスの実務についての講習を受けている。さらにインドネシア研究技
術省が始めた外国研修プログラムによって数名の若手研究者が RISH を訪問して講習を受けている。最近
では LAPAN は独自の宇宙天気サービスを開始した。本課題は LAPAN の宇宙天気研究の推進と体制構
築にはっきりと貢献する成果を得た。
広域の地域的課題に対しては、本課題の第 1 回国際ワークショップをきっかけとして発足したアジア・オ
セアニア宇宙天気連合(Asia-Oceania Spac Weather Alliance; AOSWA)が特筆される。関連する国際シン
ポジウムにおいて特別セッションを設けて啓蒙活動を進める一方、AOSWA の第 1 回ワークショップを平成
23 年度にタイ・チェンマイで開催した。最近では年4回発行の AOSWA LINK という電子版レターの発行を
始め(2013 年 1 月発足)、会員同士の情報交換の基盤を強化している。NICT は STEL 他と共同して、GPS
受信機データを宇宙天気研究に使用する際の標準データフォーマット(GTEX フォーマット)を提唱した。す
でに AOSWA 参加機関には受入れられており、アジア・オセアニア地域のデータ交換の基盤が強化された。
GPS 測位は航空ナビゲーションへの応用が進んでいるため、最近では宇宙天気は国際民間航空機関
(ICAO)においても議論されている。GTEX フォーマットは既に ICAO アジア・太平洋地域事務所の電離圏
10
研究対策委員会にを標準として提案され、採用されるに至っている。これらは本課題による、より広領域に
おける地域共通課題の解決に向けた成果である。
②共同研究によって得られた新しい科学技術面での知見があれば、どのようなものか、わかりやすく記載
してください。
電離圏には様々な時間・空間スケールを持つ波動・擾乱現象が存在する。特に、低緯度・赤道域電離圏
では、赤道スプレッド F 現象(Equatorial Spread-F; 以下では ESF)と呼ばれる現象が発生し、衛星通信や、
GPS 測位、航空機航法に悪影響を与える。本課題では ESF の研究を中心として、低緯度の電離圏の構造
と変動について多角的に研究を進め、以下に示すような科学的成果を挙げた。
1)ESF 日々変動特性の研究
ESF は、古くから観測・研究が行われ、季節や太陽活動度による依存性など一般的な性質は理解されて
きた。しかし、ESF を誘発する「種」が未解明なため、「宇宙天気」にとって重要な日々変動の予測ができな
い。本課題ではこの問題に対して注力して研究を進めた。この「種」として最も有力なのは、Large Scale
Wave Structure (LSWS)と名付けられる水平波長数百 km の大規模な電子密度変動をもつ現象である。こ
の LSWS を直接観測するため、主要論文1(論文 1-11)では、衛星ビーコン観測網を整備し、論文 1-1、1-4、
1-12 とともに、ESF 発生・非発生には LSWS が強く関与することを明らかにした。また、近年普及しているデ
ィジタル・イオノゾンデを用いることにより、LSWS の構造や ESF の移動速度を観測できることを示した(論文
2-6、2-12、2-13)。一方、ESF の発生・非発生は、熱圏大気風によっても大きく左右される。本課題では、熱
圏風を観測するための光学観測装置を地球の磁力線でつながれた位置にあるタイ・チェンマイと EAR 観測
所に設置し、主要論文2(論文 3-11)によって、その初期結果を報告した。今後、さらに観測例を蓄積し
EAR による観測等と組み合わせることによって、ESF の発生状況に特有の熱圏風速の様相を明らかにする
ことができると期待される。
2)真夜中過ぎに現れる ESF の研究
ESF は、通常は電離圏の日没直後に集中的に発生する。ところが太陽活動度が低い期間には、真夜中
以降の時間帯での発生が報告されている。主要論文3(論文 1-5)では、EAR 多ビーム観測と GPS 観測をも
とに、真夜中過ぎの ESF は、中緯度における電離圏擾乱と類似しており、中緯度域に特有の中規模伝搬
性電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric Disturbance; MSTID)と関連していることを示した。論
文 2-7 においても、真夜中過ぎの ESF は、その発生頻度が太陽活動度と逆相関を示すこと、及び西向き伝
搬するもの多いことを統計的に示し、同様の結論に至っている。一方、論文 2-8 は真夜中過ぎの ESF 発生と
同時に電離圏が上昇していることを示し、日没後の ESF との類似性も指摘された。この現象の発生原因は
未だ特定されていないが、本課題では数々の証拠を挙げて研究を進展させた。MSTID に関し、論文 2-11
は、EAR 観測所の大気光観測に基づき、下層大気中の対流活動によって発生した大気波動が電離圏まで
上方伝搬して MSTID を発生させることを明らかにした。また、論文 2-3、2-4 は、衛星観測によって大気光の
緯度・高度分布を調べるとともに、世界で初めて MSTID の衛星からの検出に成功した。
3)電離圏擾乱現象の研究
本課題では、電離圏プラズマに現れる ESF 以外の擾乱現象についても研究を進めた。まず主要論文4
(論文 2-9)では、電離圏 E 領域(高度 90-120km)に現れる電離圏擾乱の発生頻度の高度・季節・地方時変
化を明らかにし、半日周期の大気朝夕波がこの現象の発生に関係することを示した。論文 2-10 では日中の
高度 150km エコーについて調べ、F 領域の電界との一致を報告している。
また、電離圏は、外的な要因に対しても変動する。太陽から地球に吹き付けるプラズマ流である太陽風
は、地球の電離圏・磁気圏環境に磁気嵐と呼ばれる大きな変動を起こすことがあり、「宇宙天気」にとっても
重要課題である。本課題においても、論文 1-2、1-9、2-1、2-2、3-4、3-7、3-8 によって、地上及び衛星観測
11
をもとに研究を行った。特に、論文 2-1 では世界中の GPS 受信機網を用いて、磁気嵐に伴って発生する
ESF の分布状況を示し、論文 1-14 では、太陽圏の共回転相互作用領域と呼ばれる太陽風の変動に対して
電離圏の中性大気密度とプラズマ密度が変動を受けることを明らかにした。
極域における成層圏の気温が数日間のうちに数十度も上昇する成層圏突然昇温という現象が知られて
いるが、論文 1-7、1-8、3-1 は、低緯度電離圏では成層圏とは逆に強く温度が低下することを示した。この現
象は下層大気の大気波動が原因と考えられているが、論文 3-5 では、著者らが開発した大規模モデルを用
いることにより、対流圏活動の電離圏への影響評価が可能なことを報告した。
4)宇宙天気サービスの現状と将来の研究
本課題では、LAPAN に対して宇宙天気研究のレベルアップやサービスの開始に向けた様々な取り組み
を行っており、LAPAN は本課題の期間中に宇宙天気サービスを開始させた。また本課題の第 1 回ワークシ
ョップを契機として、アジア・オセアニア地域の宇宙天気研究・サービス提供機関の連携組織 AOSWA が構
築された。主要論文5(論文 3-13)はこれを英文の査読付き論文として国際コミュニティに報告したもので、
日本の宇宙天気予報業務の現状と将来展望を示し、アジア・オセアニア域の協力体制構築について示し
た。
③研究成果の発表状況
【ワークショップ、国際会議の開催】(6件)
本課題の国際ワークショップ(毎年開催)
2010 International Workshop on Space Weather in Indonesia
開催日程と場所:2010 年 12 月 1~3 日、LAPAN 研究所(インドネシア・バンドン)
出席者:日本・インドネシア・マレーシア・インド・オーストラリアから 106 名
備考:宇宙天気のアジア・オセアニア地域連携である AOSWA 第一回キックオフミーティングを併催
2011 International Workshop on Space Weather in Indonesia
開催日程と場所:2011 年 9 月 21 日、LAPAN 研究所(インドネシア・バンドン)
出席者:日本・インドネシアから 58 名
2013 International Workshop on Space Weather in Indonesia
開催日程と場所:2013 年 3 月 25~26 日、LAPAN 研究所(インドネシア・バンドン)
出席者:日本・インドネシア・インドから 71 名
その他のシンポジウム・ワークショップ
Equatorial Atmosphere Radar 10th Anniversary Symposium
開催日程と場所:2011 年 9 月 22~23 日、インドネシア科学技術省(インドネシア・ジャカルタ)
出席者:日本・インドネシア・米国・オーストラリアから 200 名
備考:2001 年に完成した赤道大気レーダーの 10 周年記念シンポジウムであり、式典には来賓としてイン
ドネシア科学技術大臣、日本国大使(公使が代理出席)、文部科学省研究振興局学術機関課長、京
都大学副学長、LAPAN 長官他の出席を得た。
1st AOSWA (Asia-Ocenania Space Weather Alliance) Workshop
開催日程と場所:2012 年 2 月 22~24 日、Imperial Mae Ping Hotel(タイ・チェンマイ)
出席者:アジア・オセアニア地域を中心とする 10 カ国から 76 名
2012 ISWI and MAGDAS School on Space Science
開催日程と場所:2012 年 9 月 17~26 日、LAPAN 研究所分室(インドネシア・チロト)
出席者:アジア・アフリカを中心とする 10 カ国から 68 名
備考:国連の宇宙天気研究振興を目的とする International Space Seather Initiative が毎年開催している
12
国際スクールを LAPAN が独自にインドネシアに誘致したもので、本課題からは講師を派遣して支援し
た。
【研究成果発表等】
1)論文等
原著論文発表
左記以外の誌
(査読付)
面発表
口頭発表
合計
(学会、国際会
議、シンポジウム等)
和文誌
2件
11 件
160 件
173 件
欧文誌
43 件
2件
123 件
168 件
合
45 件
13 件
283 件
341 件
計
2)特許等出願件数(0件)
3)受賞等(3件)
1) 津川 卓也,地球電磁気・地球惑星圏学会 大林奨励賞:「多点 GPS 観測による電離圏擾
乱の研究」, 2012 年 10 月
2) 大塚 雄一,American Geophysical Union (アメリカ地球物理学連合):「2011 Editors’
Citations for Excellence in Refereeing, Radio Science」, 2013 年 1 月
3) 横山 竜宏, COSPAR (国際宇宙空間研究委員会) Zeldovich Medal:「Clarification of
coupling processes between neutral and ionized atmosphere and between E and F regions in the
mid- and low-latitude ionosphere」, 2012 年 7 月
4)主な原著論文(査読付き誌掲載の論文、5 件以内)
1) Sudarsanam, Tulasi Ram, M. Yamamoto, R. T. Tsunoda and S. V. Thampi, On the application
of differential phase measurements to study the zonal large scale wave structure (LSWS) in
the ionospheric electron content, Radio Sci., 47, RS2001, doi:10.1029/2011RS004870,
2012.
2) Nishioka, M., T. Maruyama, Y. Otsuka, T. Tsugawa, H. Ishibashi, K. Shiokawa, and M. Ishii,
Comparison of meridional thermospheric winds observed by ionosondes and Fabry-Perot
iterferometers, Antarctic Record (和文誌), in press, 2014.
3) Yokoyama, T., M. Yamamoto, Y. Otsuka, M. Nishioka, T. Tsugawa, S. Watanabe, and R. F.
Pfaff, On post-midnight low-latitude ionospheric irregularities during solar minimum: 1.
Equatorial Atmosphere Radar and GPS-TEC observations in Indonesia, J. Geophys. Res.,
116, A11325, doi:10.1029/2011JA016797, 2011.
4) Otsuka, Y., Seasonal and Local Time Variations of E-Region Field-Aligned Irregularities
Observed with 30.8-MHz Radar at Kototabang, Indonesia, Special issue of International
Journal of Geophysics, "Low-latitude Mesosphere, Thermosphere and Ionosphere", vol.
2012, 695793, doi:10.1155/2012/695793, 2012.
5) Nagatsuma, T., New Ages of Operational Space Weather Forecast in Japan, Space Weahter, 11,
207-210, doi: 10.1002/swe.20050, 2013.
13
④ 科学的・技術的波及効果
電離圏は地球大気と太陽系空間の狭間にある。人工衛星の多くは電離圏を飛翔しており、有人飛行を続
ける国際宇宙ステーションも同じである。つまり電離圏は人類にかかわる領域である。地表付近の環境変動が
電離圏に敏感に現れる可能性も高い。電離圏は、密度・電離度のダイナミックレンジが極めて大きく、無境界
である等、実験室では得られないプラズマの挙動を知る上で貴重である。工学的視点からは、無線通信や
GPS 測位の安定性が電離圏擾乱の有無によって大きく左右されることから、重要性は極めて高い。本課題で
取り組んだ ESF 日々変動特性の研究はこの意味で重要であり、波及効果があった。
(2)社会的成果(国内外の各参画機関の共同研究体制・形成された科学技術コミュニティ)の内容
①研究資源の提供や研究実施における役割について、国内機関と海外機関に分けて記載してくださ
い。
京都大学生存圏研究所(RISH):本課題の運営全般に責任を持ち担当した。事業の内容については、赤道
大気レーダーの長期連続観測の実施、衛星ビーコン観測網の整備、インドネシアで毎年開催した国際ワー
クショップの計画実施、LAPAN との共同研究等を実施した。
名古屋大学太陽地球環境研究所(STEL):イメージャおよびファブリ・ペロー干渉による大気光観測、EAR 観
測所に設置された VHF レーダーによる電離圏擾乱の観測、GPS 受信機による電離圏変動の長期連続観
測、LAPAN との共同研究等を実施した。
情報通信研究機構(NICT):東南アジア域のイオノゾンデ観測網(SEALION)の連続運用と拡充、域内の多
様な機関が展開する GPS 受信機観測データの収集、LAPAN との共同研究、宇宙天気サービスについて
の LAPAN への講習等を実施した。
インドネシア航空宇宙庁(LAPAN):RISH との MOU に基づき、赤道大気レーダー観測所用地を確保しオペレ
ータを配置した。衛星ビーコン観測網展開への積極参加、インドネシア国内の観測装置の設置運営に対
する便宜供与、宇宙天気サービスの開始に向けて日本側からの技術習得、毎年の国際ワークショップ開催
場所への協力、ISWI スクール誘致を通じた国際コミュニティへの貢献等を実施した。
②研究全体会議(運営委員会)等を開催した場合は、会議(委員会)メンバー・出席者及び開催実績(時
期・議題・会議の成果等)を記載してください。
本課題では研究運営委員会を開催して研究推進に当たって必要となる議論と情報交換を行った。出席者
は国内開催分については研究班員であり、インドネシアでの開催では LAPAN 職員を交えて意見交換を行っ
た。各年度の開催日を下記に示す(インドネシアでの開催分に(イ)と印す)
平成 22 年度:6/16、7/12、8/24、9/3、11/3、11/18(イ)、11/24、12/1(イ)、3/10、3/23
平成 23 年度:6/16、7/19、8/1、9/8(イ)、9/21(イ)、1/27
平成 24 年度:8/28(イ)、9/20(イ)、12/13(イ)、3/27(イ)
最終年度は研究取りまとめと将来計画の議論のため、全ての会議がインドネシアで実施された。これ以外に、
本課題の研究成果検討会を NICT において平成 23 年度と 24 年度に各一回開催した。
③実施期間中の代表機関ならびに国内外各参画機関の組織としての関与(支援)について記載してくだ
さい。
EAR は RISH の全国・国際共同利用施設として運営されている。本課題で実施した長期連続観測の実現
に当たって、共同利用委員会との調整を行い、本課題の観測モードを標準的に採用する決定をしていただい
た。本課題による観測が大部分を占めることとなったため、観測に必要な電気料金等と負担する一方、安定
運用にかかわる消耗品類を購入して安定継続に協力した。
14
④形成された科学技術コミュニティの今後期待される国際連携への政策的波及効果を記載してください。
本課題は、長年にわたって構築され 2001 年完成の EAR 運用と通じて深められてきた RISH と LAPAN の
研究協力関係を基礎として、宇宙天気研究を新たなキーワードとして推進した。結果として EAR の新しい観
測モードが生まれ、東南アジアを中心とする広域観測網が整備され、多くの科学成果が得られた。また特筆
すべき新しい研究コミュニティの形成が見られる。ひとつは NICT と LAPAN の協力関係である。現在、両者は
包括協定締結に向けた議論を行っている。さらに広くアジア・オセアニア地域の宇宙天気研究・サービス機関
の地域連携が AOSWA として実現した。これらの科学技術コミュニティの発展により、東南アジア地域の宇宙
天気研究、ひいては同地域の宇宙開発への波及効果が期待できる。
⑤今後期待される社会経済の活性化効果を記載してください。
宇宙利用は高度化・普遍化しており、宇宙環境の変動が社会に大きな影響を与える可能性は増大している。
宇宙天気研究の発展は宇宙利用の安全・安心の向上に直結し、結果として社会経済の活性化が期待される。
一方、東南アジア諸国は宇宙開発への関心を高めている。本課題によって我が国の宇宙科学・技術に触れる
ことを通じて、我が国の宇宙産業との関係性が深まると期待される。一方、LAPAN が誘致した宇宙天気関連
の国際スクールには多数のアジアやアフリカ諸国の大学院生・若手研究者が熱心に参加していた。講師とし
て参加した本課題代表者には、留学したいという希望が寄せられている。宇宙天気研究は学術分野として非
常に魅力が高い。彼らが我が国の大学・大学院に留学してくれれば、大学と研究分野の活性化に役立ち、我
が国とつながりの深い研究者が養成される。迂遠ではあるが、人材育成を通じた社会経済の活性化効果は大
学の本分である。
15
3.計画・手法(「Ⅱ.経費」とも関連)
①研究項目毎の予算配分方針について記載してください。
本課題では、大規模な設備への直接投資は避けた。既存の装置を用いた観測の継続や、他の資金を用い
て整備された新装置の設置やメンテナンスに資金を振り向けた。予算は国内参加機関に配分し、それぞれの
機関が自由度を持って研究を推進することとした。
まず京都大学生存圏研究所では、EAR 長期連続観測に責任を持つために必要な資金を配分した。毎年
に開催される国際ワークショップの予算(国内からの参加旅費、インドネシア以外の外国からの講師派遣旅費
等)、インドネシアからの研究者の招へい旅費、国内における研究連絡旅費等を配分した。続いて名古屋大
学太陽地球環境研究所及び情報通信研究機構では、観測装置を東南アジア地域に設置するための経費、
既存の装置の維持管理のための経費として、旅費を中心とする資金を配分した。
②課題実施のためのプロジェクトマネジメントについて記載してください。
本課題ではプロジェクトマネジメントをコンパクトにすることを心がけた。提案段階から班員を多くせず、各機
関から本課題の推進に最も適した精鋭メンバーを揃えた。本課題の発足後においては、特に初期において
運営会議をなるべく頻繁に開催してメンバー間の意思疎通を良好に保った。運営会議を効率よく開催するた
めに遠隔会議の利用に努めた。LAPAN との連絡も頻繁に取るように努力した。
本課題で最も重要な EAR 長期連続観測は次のように実施した。EAR は RISH の共同利用施設であり、
2001 年から対流圏と下部成層圏の風速観測を継続中であった。本課題のみによる EAR 占有はできない。し
かしながら観測の長期化は共同利用者全員に恩恵がある。そこで新しい観測モードは本課題の推進に必要
充分であって、かつ従来からの利用者にも利益があるバランスを保つことを心がけた。次に EAR 共同利用委
員会との協議を持ち、本課題による観測時間の割合に応じて観測経費の応分の負担を可能とするための規
則改正を行っていただいた。これらと並行して、長期観測中の性能維持のために必要な消耗品類の購入も進
めた。以上の方策によって、EAR は結果的に電離圏観測を常時実施する観測モードに移行することができた。
共同利用者数も大きな落ち込みはなく、平成 22~24 年の期間中には上昇傾向を示した。(図 36)
本課題の 2 年度目からは間接経費の代わりに環境改善費が導入された。これを利用して、本課題の事務
処理を担当する非常勤職員を雇用することができた。また EAR では万一の事故(ひどい落雷や盗難などが考
えられる)に備えて損害保険をかけてきたが、これを環境改善費から支出することができた。EAR は遠隔地に
あるため事務担当者が現地を知る手段が非常に限られていた。そこで環境改善費を活用して、事務担当者の
現地視察旅費を支出することとした。事務室が外国における研究現場の理解を深める上で効果が大きかっ
た。
16
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性
①実施期間終了後、課題実施により培われた研究及びネットワークを継続する体制や仕組みに対する
工夫について記載してください。
RISH と LAPAN は 1990 年代からの研究協力体制を有しており、そのネットワークの継続性は揺るぎない。
特に 2001 年の EAR 設置に際して、MOU を交わして共同運営を行っている。EAR は LAPAN にとっても重要
な研究資源と見なされている。EAR は RISH の重要な海外研究拠点であって、本課題の終了後も全国・国際
共同利用を継続している。
本課題では、インドネシア国内の GPS 観測網のデータ収集についての協力や、宇宙天気サービスについ
ての講習などを通じて、NICT と LAPAN の研究ネットワークが構築された。現在、両者はこの関係をもとに包
括協定を締結するべく議論を行っている。
本課題の第 1 回国際ワークショップを契機として設立された AOSWA は、日本・インドネシアという2国間に
留まらず、アジア・オセアニア地域の宇宙天気研究にかかわる機関の連携の場である。まさに、本課題の採択
時コメントにあった「インドネシア以外の国との連携も視野に入れて展開する」ための場が形成されたもので、
今後の研究ネットワークの継続発展に資するところが極めて大きい。
②これまでの研究成果を発展させる明確な研究・交流のビジョンがあれば記載してください。
本課題の成果をさらに発展させるために以下に示すようなプロジェクトを推進中である。平成 25 年度に採択
された課題2件、提案中の概算要求1件、申請前の案件1件と状況は幅広いが紹介する。
科学研究費(基盤研究B(海外学術調査))「赤道大気レーダーと広域観測網による赤道スプレッドF現象と電
離圏構造の関連の解明」(平成 25~27 年度)(代表:山本衛)
平成 25 年度から 3 年間の研究として科研費課題が採択された。本研究は、EAR と東南アジア地域及びさ
らに広域の観測網を駆使して、電離圏に発生する最も強い不安定現象である ESF と電離圏構造の関連を解
明し、ESF 発生機構の謎を解くことを目的とする。具体的には、(1) EAR を用いて 2010 年から現在まで実施し
てきた長期連続観測をさらに継続することでデータベースを拡充すると共に ESF の時空間構造を含む統計的
性質を明らかにする。(2)わが国が中心となって東南アジアを中心として展開してきた観測網を活用することで、
ESF の時空間変動と背景の電離圏・熱圏大気の関連を明らかにする。 (3)衛星ビーコン観測網をアフリカなら
びに南米に拡張し、2012 年 8 月に国際宇宙ステーションに設置された ISS-IMAP からの地球大気光観測を
活用することで、全球にわたる ESF の特性と電離圏構造の関連の解明を目指す。
日本学術振興会研究拠点形成事業(Bアジア・アフリカ学術基盤形成型)「東南アジア・西アフリカ赤道域にお
ける電離圏総合観測」(平成 25~27 年度)(代表:塩川和夫(名古屋大学太陽地球環境研究所・教授))
平成 25 年度に発足した課題であり、研究協力者として参加している。本研究では、インドネシアを中心とし
た東南アジア赤道域とナイジェリアを中心とした西アフリカ赤道域において、高度 200-300km の地球電離圏
で発光する夜間大気光を高感度全天カメラ、ファブリ・ペロー干渉計でイメージング観測する。これに電磁場
計測機器による同時観測も組み合わせて、人工衛星と地上間の通信や GPS 測位に影響を与える赤道電離
圏のプラズマバブル・大気波動・赤道異常などの赤道電離圏擾乱の特性のアジアとアフリカの経度における
違いを明らかにする。これらの観測研究を通して、電離圏の研究におけるアジア・アフリカの研究者との研究
交流を発展させる。既に国際的な研究水準に達しつつある東南アジアにおいては、現地研究者が日本と対
等な立場で研究を推進し国際的な研究成果を挙げられるようにさらなるレベルアップをはかっていく。また光
学観測がこれまでほとんど行われていないアフリカ地域では、欧米に先駆けて電離圏の光学観測を開始し、
新たな研究拠点を構築していく。
17
概算要求「赤道MUレーダー」(提案中)
EAR の飛躍的な拡充をめざし、MU レーダー(滋賀県甲賀市信楽町)と同等の感度を有する高機能大気レ
ーダー「赤道MUレーダー」の設置を概算要求中である。本装置は、多チャンネル・多周波数の送受信機能と
高度な信号処理技術により、地上から超高層大気に至る広領域の大気現象を3次元イメージング観測する。
本装置の内訳は、1045 台のクロス八木アンテナが略円形敷地内に配置された「アレイアンテナ」、各アンテナ
基部に設置された同数の「送受信モジュール」、ソフトウエア無線技術を駆使して多チャンネル・多周波数の
変調パルスを生成し受信信号を復調し信号処理するサブシステムと信号の分配・合成回路等から構成される
「多チャンネル変復調・データ処理装置」である。
本件は京都大学生存圏研究所から平成 26 年度概算要求として京都大学に提案され、文部科学省に届け
られることが決まった。なお本要求は、日本学術会議の「科学者委員会 学術の大型計画分科会」の報告(平
成 23 年 9 月 28 日公表)「学術の大型施設計画・大規模研究計画マスタープラン 2011」に取り上げられた計
画番号 23「太陽地球系結合過程の研究基盤形成(提案責任者:京都大学生存圏研究所・教授・津田敏隆」
に含まれている。さらに次のマスタープラン 2014 にも提案中である。
地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(準備中)
本課題を発展させる最も重要な後継プロジェクトとして、SATREPS への応募を準備中である。本件につい
ては、平成 25 年 3 月に LAPAN 本部において議論を行った。構想の概要は次の通りである。「宇宙天気研究
のための斬新な観測網を構築し、国際水準の研究を推進する。具体的には、インドネシアの宇宙開発機関で
ある LAPAN の特性を活かして小型衛星を開発し、日本側は地上からのリモートセンシング観測網を充実する
ことで、地上と宇宙をつなぐ観測網を実現する。地球大気から宇宙天気に関わる領域には、波動を通じてエ
ネルギーや運動量が輸送されている。大気の上下結合を明らかにする。」
平成 25 年度に、RISH から萌芽的な研究に対する検討資金を得られたため、専門メーカーに依頼して小型
衛星の概念設計を行った。平成 25 年中の提案をめざして LAPAN 他と議論を続けていく。
18
Ⅳ.実施結果・成果の詳細
本課題は3つの国内参画機関に予算を配分して実施した。そのため詳細報告は機関毎に取りまとめる。
1. 京都大学主担当部分
担当機関:京都大学
研究項目:インドネシア宇宙天気研究の推進と体制構築
① 赤道大気レーダーによる宇宙天気の観測強化と低緯度電離圏研究
② インドネシア地域の衛星ビーコン観測網整備
③ インドネシアの宇宙天気サービスに向けた基盤整備
事業参加者: 山本 衛(京都大学生存圏研究所・教授)
斎藤 昭則(京都大学大学院理学研究科・准教授)
山本 真之(京都大学生存圏研究所・助教)
橋口 浩之(京都大学生存圏研究所・准教授)
Tulasi Ram (京都大学生存圏研究所・JSPS 外国人特別研究員)(H22 年度)
横山 竜宏(京都大学生存圏研究所・ミッション専攻研究員)(H24 年度)
事業協力者: 大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所・准教授)
長妻 努(情報通信研究機構・研究マネージャ)
津川 卓也(情報通信研究機構・主任研究員)
Bambang Tejaskumana(インドネシア航空宇宙庁・次官)(H22 年度)
Sri Kaloka(インドネシア航空宇宙庁・宇宙科学応用研究センター長)(H22~23 年度)
Clara Yono Yatini(インドネシア航空宇宙庁・宇宙科学応用研究センター長)(H24 年度)
Timbul Manik(インドネシア航空宇宙庁・宇宙科学応用研究センター・上級研究員)(H23 年度)
Buldan Muslim(インドネシア航空宇宙庁・宇宙科学応用研究センター・上級研究員)(H24 年度)
Rizal Suryana(インドネシア航空宇宙庁・宇宙科学応用研究センター・上級研究員)(H24 年度)
David Neudegg(オーストラリア IPS Radio and Space Services・IPS 副マネージャ)(H22 年度)
Michael Terkildsen(オーストラリア IPS Radio and Space Services・コーディネータ)(H22 年度)
Mhd Fairos Asillam(マレーシア国立宇宙庁・宇宙研究ユニット長)(H22 年度)
西岡未知(名古屋大学太陽地球環境研究所・ポスドク研究員)(H22 年度)
Iain Reid(オーストラリアアデレード大学・教授)(H23 年度)
Roland Tsunoda(米国 SRI International・首席研究員)(H23 年度)
坂野井 健(東北大学大学院理学研究科・准教授)(H24 年度)
実施結果の詳細:
電離圏には様々な時間・空間スケールを持つ波動・擾乱現象が存在する。それらは電離圏プラズマを通過
する電波伝搬に大きく影響する。例えば GPS 測位は、民間航空管制に応用されるなど社会インフラとしての
重要性が高まっているが、電離圏擾乱に起因する精度低下が深刻な問題である。また高度 400 km 以上の電
離圏は、国際宇宙ステーションを含む諸衛星が飛翔する領域である。電離圏は、衛星の周辺環境さらには新
たな人類生存環境としても重要性が高まっている。
19
赤道スプレッド F 現象
( Equatorial Spread-F; 以 下
では ESF)は、磁気赤道付近
の日没後の電離圏下部に生
じた密度低下域が、レイリ
ー・テーラー不安定によって
拡大しながら高度 1000km 以
上まで急速に拡大する現象
であり、EAR のような VHF レ
ーダーで観測できる。ESF は
電離圏擾乱の内で最も活発
な現象として赤道低緯度電
離圏研究のホットトピックであ
り続けてきた。しかしながら
ESF を誘発する「種」が未解
明で、日々変動の予測がで
きない。また ESF には太陽活
動度への依存性が顕著であ
ること、磁気嵐に呼応して発
生することなどが知られてい
る。ESF の動態が更に明らか
になり、発生予測の点でブレ
ー ク スルーが 進 め ば 、GPS
測位を利用した次世代の航
図3 赤道大気レーダー(EAR)の長期連続観測状況
空管制や高度な衛星システムの安定運用等、社会に貢献するところが極めて大きい。本課題では ESF の研
究を中心として、低緯度の電離圏の構造と変動について多角的に研究を進めた。
① 赤道大気レーダーによる宇宙天気の観測強化と低緯度電離圏研究
本課題の初年度(平成 22 年度)には、まず国際共同研究を推進するために必要となる合意文書をインドネ
シア航空宇宙庁(LAPAN)と取り交わした。(調印日は 2010 年 11 月 27 日(日本側)と 12 月 1 日(インドネシア
側))
赤道大気レーダー(以後は EAR)では、これまで対流圏・成層圏下部の観測を連続的に行ってきたが、本
課題のための長期連続観測を 2010 年 7 月 9 日に開始した。新観測モードでは、日中は「電離圏高度 150km
エコー/電離圏 E 領域イレギュラリティエコー/対流圏・成層圏下部風速」観測、夜間は「電離圏スプレッドF
エコー/電離圏 E 領域イレギュラリティエコー/対流圏・成層圏下部風速」観測を切り替え実施しである。詳し
くは以下の3種類の観測を組み合わせたものであって、日中と夜間で切り替える。
EAR 新観測モード(日中・夜間 切替え)
日中:電離圏高度 150km エコー観測
電離圏 E 領域イレギュラリティエコー観測
対流圏・成層圏下部風速観測
夜間:電離圏スプレッドFエコー観測
20
電離圏 E 領域イレギュラリティエコー観測
対流圏・成層圏下部風速観測
この観測を平成 24 年度末まで連続的に継続することに成功した。図 3 に 2001 年から現在までの EAR 観
測時間を図示する。毎年の観測時間を一列に示したもので、薄色部分が対流圏・下部成層圏の風速観測時
間であり、濃色部分では電離圏観測が行われている。色のない部分は欠測期間を示している。本課題によっ
て EAR 観測モードを大きく変更した後は、電離圏観測をほぼ常時実施してきたことがわかる。新観測モードの
観測時間は、平成 22 年度の開始から年度末までの総観測時間の 89 パーセントを占めた。平成 23 年度には
全観測時間の 96 パーセント、平成 24 年度には全観測時間の 99 パーセントを占めるに至った。また本課題の
期間中には欠測といえる期間がほぼなくなっていることにも注意すべきである。長期連続観測を安定的に実
施するためには装置の不具合の発生に注意して保守の先回りと問題が発生したときの迅速な対応が不可欠
であるが、本課題の期間中の対応はほぼ完全であったと評価できる。またこの長期連続観測のデータは、web
ページ(http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/ear/data-fai/)から公開中である。EAR 観測機能強化の一環として、平成
23 年度にこれまで通信衛星を利用していたインターネット接続を地上回線(無線 LAN による中継とインターネ
ット・プロバイダ業者の組み合わせ)に変更した。回線速度が従来の 4 倍である 1 メガビット毎秒に高められた。
また平成 24 年度にはアンテナ面の整備(具体的には防水やネズミ食害防止を目的としたコンクリート敷設と、
性能が低下したアンテナの修理)を実施した他、保守作業用の測定器類の校正を進めた。これらは EAR 長期
連続観測の安定化に大いに貢献した。
太陽活動度が極めて低かった 2009 年においては、夜半過ぎの時間帯にプラズマ・バブルが頻繁に観測さ
れた。EAR による多ビーム観測データを駆使して、これの時間・空間構造を解明した。さらに低緯度電離圏観
測衛星 C/NOFS(以下では C/NOFS)との同時観測から、真夜中ごろに生じる赤道向き風速の収束によってプ
ラズマ・バブルが発生しやすい条件が生じることを明らかにした(論文 1-5, 1-6)。インドネシア研究技術省が主
催する海外研修プログラムによって、平成 24 年 6~9 月に LAPAN 研究所から研究員 1 名が来日した。EAR
長期連続観測データの解析手法を研修するとともに、これまでの観測データの統計解析を行わせて、EAR 上
空のプラズマ・バブルの発生状況を調べさせた。太陽活動度の増大と共に日没直後に発生するプラズマ・バ
ブルの発生割合が上昇し、真夜中過ぎに発生するプラズマ・バブルの発生割合が減少することが明らかにな
った。
② インドネシア地域の衛星ビーコン観測網整備
京都大学生存圏研究所では、ソフトウエア無線技術を活用して GNU Radio Beacon Receiver (以後は
GRBR)と呼ばれる衛星ビーコン受信機を開発し、日本及びアジア域に展開して電離圏構造の研究を展開し
てきた。本課題においては、GRBR 観測網をインドネシアおよび周辺地域に拡張してさらに広い領域の電離
圏構造の観測態勢の構築を目指した。まず平成 22 年度においては、新しい受信機ボード WBX の利用プロ
グラムを開発して観測網の展開に備えた。
また GRBR システムを LAPAN に送付して
設置運営方法について講習を行った結果、
同年度中には LAPAN 自身によってポンチ
アナ観測所に設置が行われた。研究面で
は、低緯度電離圏観測衛星 C/NOFS から
地上までの全電子数の経度分布について
図4 衛星ビーコン観測網の水平配置図。受信機の配
統計解析を進めた。東西波長数百 km のい
置を小さな●で示し、EAR/SEALIOM/OMTI の配置を
わゆる Large Scale Wave Structure (以後は
大きな○で示す。
LSWS)と赤道スプレッド F 現象(Equatorial
21
Spread-F; 以後は ESF)の関係について、強い ESF 発生時には LSWS の強度が増すことを見出した。
平成 23 年度以降にも GRBR 観測網の拡充と観測継続に努めた。インドネシアについては、LAPAN の協力
の下でマナド観測所、ビアク観測所への設置が進められた。さらに広域については、別の研究経費を併用し
てタイのバンコク、チュンポンに新設するとともにプーケットでは受信機の移設を行って観測態勢を強化した。
研究面では、C/NOFS による電離圏全電子数(以下では TEC)の経度分布について、経度方向に直線的な分
布を仮定することによって1局のデータから絶対 TEC 値を推定する方法を考案し、他の推定方法との比較か
らその妥当性を検証した(論文 1-11)。またベトナム(アジア)とエチオピア(アフリカ)における観測データを用
いて、東西波長数百 km の Large Scale Wave Structure (LSWS)とプラズマ・バブルの関係を統計解析した。ア
フリカ・アジアいずれにおいても LSWS 強度とプラズマ・バブル発生には相関が見られた。アフリカ上空ではア
ジアに比較して強いプラズマ・バブルが発生するが、LSWS の強度差は大きくないことを見出した。
平成 24 年度にも観測網の拡張が継続された。マレーシアに 2 観測点が増強された他、インドネシア国内の
GRBR 観測点は LAPAN との協力によって 7 カ所に達した。インドネシアの観測点のうち 6 カ所の設置は
LAPAN 主導で行われた。本課題からは観測機器を提供するとともに設置運営の助言を継続した。本課題を
中心とする継続的な努力によって、低緯度域の GRBR 観測網は、アフリカから太平洋に至る広い経度範囲で
約 20 点に達した。図 4 に現在の受信点の分布を示す。
研究面では、EAR を含む東経 100 度に沿った電離圏の南北構造に関するデータ解析を開始した。極軌道
衛星がタイのチェンマイ、バンコク、チュンポン、プーケットから EAR 観測所の上空を南北に縦断するときの
GRBR 観測データを総合することで電離圏全電子数(以下では TEC)の絶対値を推定する方式を開発した。
③ インドネシアの宇宙天気サービスに向けた基盤整備
平成 22 年 12 月 1~3 日の期間にインドネシア・バンドンの LAPAN 研究所において、本研究課題による初
めての国際ワークショップ"2010 International Workshop on Space Weather in Indonesia"を開催した。日本・イン
ドネシア・マレーシア・インド・オーストラリアから合計 106 名の参加者を得て活発な議論が行われたが、特徴的
なことは、LAPAN 研究者が以前に比べて遙かに積極的に日本側参加者に議論を求める姿であった。ワーク
ショップの 3 日目には、アジア=オセアニア地域の宇宙天気研究の実務について議論を行い、関係機関の連
携を深めることで合意した。本課題の事業を効率よく推進するため、合計 10 回の運営委員会を開催した(うち
3 回はインドネシアで開催)。9 月 3 日に実施した第 4 回運営会議にはインドネシア航空宇宙庁から Bambang
Teja 次官と Sri Kaloka 研究センター長を京都大学生存圏研究所に招へいし、計画全般の推進について意見
交換を行った。
平成 23 年 9 月 21 日にインドネシア・バンドンの LAPAN 研究所において、本研究課題の国際ワークショッ
図5 赤道大気レーダー10周年記念シンポジウム(2011 年 9 月 22~23 日)
2011 年 9 月 22~23 日インドネシア研究技術省講堂(インドネシア・ジャカルタ)
22
プ"2011 International Workshop on Space Weather in Indonesia"を開催した。引き続き 9 月 22~23 日にジャカ
ルタにおいて EAR 10 周年記念式典と同記念シンポジウムを開催した。Suharna Surapranata インドネシア研究
技術(RISTEK)大臣、鹿取克章 駐インドネシア特命全権大使(島田順二 公使による代理)、澤川和宏 文部
科学省研究振興局学術機関課長、塩田浩平京都大学事・副学長らをはじめとする来賓と国内外から約 200
名の列席を得て成功した。図 5 に EAR 10 周年記念シンポジウムの出席者の集合写真を示す。平成 23 年度
には計 6 回の運営委員会を開催(うち 3 回はインドネシアで開催)し、計画の進捗状況と進め方について
LAPAN と議論しつつ本課題の事業を効率よく推進した。
平成 25 年 1 月に LAPAN 研究所より 3 名の研究員を招へいし、NICT において実施した研究会において
本課題の研究成果について発表と議論を行った。またこの訪問においては、NICT が実施している宇宙天気
情報サービスの実務について研修を行った。平成 25 年 3 月 25~26 日にインドネシア・バンドンの LAPAN 研
究所において、本研究課題の国際ワークショップ"2013 International Workshop on
Space Weather in
Indonesia"を開催し、本課題の研究成果の取りまとめを行った。さらに 3 月 27 日にはジャカルタの LAPAN 本
部を訪問して、Sri Kaloka 事務局長らと意見交換を行い、本課題の終了後も研究協力を進めることで一致し
た。
研究成果の詳細:
[平成 22 年度]
日没直後に発生する ESF については、従来は毎日の日没前後に発生する Pre Reversal Enhancement
(PRE)と呼ばれる電離圏の高度上昇によって発生するものと考えられてきたが、実際の ESF 発生には日々変
動がある。日々変動の説明としては以下の 3 つのモデルが提唱されているが圧倒的な支持を得たものはな
い。
モデル1.「赤道低緯度電離圏の南北半球対称性」:電離圏の南北半球間の対称性が高いとき、分極電界が
強まり ESF 発生に至ると考える。南北対称性は ESF の季節変化の原因とされるが、日々変動に対する検
証は少ない。南北対称性が乱れる原因として中性大気(電離がなく電気的中性を保っている大気成分)
の南北風が指摘されている。
モデル2.「Large-scale wave structure (LSWS)」:LSWS は電離圏 F 領域下部に現れる東西波長数百 km の電
子密度の波状構造であり、ESF 日々変動との相関が良いとされる。LSWS の発生・成長の理論基盤として
中性風速シアーに伴う collisional shear 不安定が提案されている。
モデル3.「中性大気波動」:ESF 日々変動が、下層大気から上方伝搬して来る中性大気波動(おそらく大気
重力波)が電離圏 F 領域下部を変調することによるという説が以前より唱えられている。統計による関連
付けの例はあるが直接的な証拠がまだ不十分である。
上記のうちモデル2に関して、LSWS はイオノゾンデ等による検出が困難で観測例が希少であったが、我々
の研究によって、地上のビーコン観測受信機 GRBR と C/NOFS 衛星を利用した TEC 観測が LSWS 研究の
有力な手段となることが明らかにされた[Thampi, S. V., M. Yamamoto, R. T. Tsunoda, Y. Otsuka, T. Tsugawa,
Geophysical Res. Lett., 36, L18111, doi:10.1029/2009GL039887, 2009]。本課題で構築する GRBR 観測網で
は、LSWS を第一の研究対象として取り上げた。まず論文 1-1 では、太平洋の磁気赤道付近に東西に並ぶ
Pohnpei、Kosrae、Majuro 各島に GRBR を設置し、日没前後の TEC 値の変動を捉えて LSWS の振幅が日没
後に増大する様子を明らかにした。Pohnpei に設置された HF レーダーによって測定された電離圏高度と比較
を行っている。2009 年 9 月 12 日の観測例では、日没後の電離圏上昇 PRE が観測されなかったにもかかわら
ず、TEC 値で捉えられた LSWS の増大に呼応して ESF が発生した事例を報告した。イベント解析ではあるが、
23
ESF の発生に関して PRE よりも LSWS の効果が重要である可能性を示唆しており、上記のモデル2を強化す
る結果を得た。
論文 1-2 は、アジア地域で発生した皆既日食(2009 年 7 月 22 日)に対応した電離圏 E 領域のイレギュラリ
ティの報告である。通常は日没後でスポラディック E 層が発達した時間帯に、電離圏電子密度の空間非一様
性と分極電界が増大し、グラディエント・ドリフト不安定が発達してイレギュラリティエコーが現れる。MU レーダ
ーによって、日中の 11 時前後に日食が最大に発達した約 20 分間のみに、日没後と同様のイレギュラリティエ
コーが初めて観測された。日食に伴うプラズマ不安定現象の報告として貴重である。同時に、日食による短時
間の背景電子密度の現象と同時にイレギュラリティエコーが現れたことは、電離圏電子密度の不均一性が日
夜を通じて存在していることを示唆している。
ESF は磁気嵐に伴って発生することが知られている。論文 1-3 は、ブラジル、インド、オーストラリアに配置さ
れたイオノゾンデで観測された 22 件の磁気嵐データの統計解析によって、磁気嵐に対する低緯度地域の電
離圏 F2 層の応答を明らかにした。磁気嵐によって強い東向き電場が低緯度電離圏に侵入し、F2 層が急速に
上昇すると共に最大電子密度が減少する。本論文で取りまとめられた F2 層の振舞いは、今後のイオノゾンデ
を用いた磁気嵐の研究にとって重要な知見となる。
[平成 23 年度]
ESF の日々変動のモデル2に取り上げられる LSWS について、ベトナム南部の Bac Lieu、Ho Chi Minh、
Nha Trang に設置された GRBR をもとに詳しい解析を実施した(論文 1-4)。解析例においては LSWS の発生
時刻は午後の時間帯で太陽天頂角が 85 度程度の状況である。Bac Lieu のイオノゾンデ(SEALION 観測網に
含まれる)から、日没前後の電離圏の上昇つまり PRE の発生が確認された。LSWS は PRE の時間帯に振幅を
増大し、ESF の発生につながっていく。ESF に伴うビーコン電波のシンチレーションは、LSWS が東に向かって
減少していく経度帯に特徴的に発生していた。これらの結果は従来の研究結果を支持するものであるが、
LSWS の発生時刻が日没のはるか以前であることが確認された点が新しい。ESF の発生シナリオとしては、下
層大気で発生した大気重力波が上方伝搬して電離圏に LSWS を形成し、これが ESF につながるという見方を
示した。
ESF の発生は通常は電離圏高度の日没直後に集中し、磁気嵐に伴う低緯度域への電界進入に伴う ESF
発生も知られている。ところが最近では、太陽活動度が低い時期に、真夜中以降の時間帯における ESF の発
生が報告されて
いる。論文 1-5 で
は、EAR による
多ビーム観測 と
スマトラ島を中心
とする GPS 観測
結果をもとに真
夜中以降に発生
する ESF の性質
を調べた(図 6)。
中緯度の日本に
ある MU レーダ
ーで観測される
F 領域イレギュラ
図6 EAR 多ビーム観測で捉えられた真夜中過ぎの ESF の形状と時間変化。
リティエコーとの
24
類似性が高く、エコー領域が西方に伝搬する(日没後の ESF が示す東方伝搬とは逆である)。このタイプの
ESF は真夜中付近で急激な高度上昇を伴って発生しその後下降に転じる。中緯度域に特有の中規模伝搬性
電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric Disturbance; MSTID)と同様の空間構造を示すことが明ら
かとなった。発生原因として、真夜中付近の赤道向きの中性風速(収束流)が示唆された。このタイプの ESF
について、さらに論文 1-6 では C/NOFS 衛星からの直接観測と EAR 観測の比較研究を実施した。C/NOFS
衛星が直接測定する電界が EAR 観測で見出される ESF の西方伝搬と整合的であること、EAR イレギュラリテ
ィエコーと C/NOFS が加速する電子密度の減少域がおおむね一致することが明らかにされた。さらに真夜中
過ぎの ESF が MSTID をきっかけとして発生している可能性が指摘された。中緯度域の MSTID が太陽活動
度の低い時期に活発化することも、真夜中過ぎの ESF の振る舞いと整合的である。
成層圏突然昇温(Stratospheric sudden warming; SSW)という現象がある。冬期において北極をとりまく西風
(東向き風)がプラネタリー波動の効果で変調を受けるとき、高緯度の成層圏の気温が数日間で数十度(時に
は 50 度)も上昇する。最近 SSW の影響が電離圏まで及んでいる点に注目が集まっている。論文 1-7 では、東
経 100 度に沿う Chiang Mai、Phuket、EAR 観測所の 3 地点に設置された GPS 受信機からの TEC 観測値と、
CHAMP 衛星による直接観測データをもとに、2009 年 1 月に発生した SSW に伴ってアジア域の低緯度電離
圏の変動を精査した。SSW に伴って TEC 値は減少し、特に磁気赤道付近で顕著であった。低緯度では SSW
に伴って半日周期潮汐が増大するが、北半球の振幅が南半球より大きいという非対称性が見出された。また
低緯度の熱圏密度は約 25%も減少することから、低緯度域の熱圏・電離圏における顕著な温度低下が示唆さ
れた。さらに論文 1-8 でも更に研究を進めた。20091 月の SSW に対して CHAMP 衛星(高度 325km)と
GRACE 衛星(高度 475km)を用いて熱圏の大気密度を調べたところ、SSW が最大となるときに赤道域におい
て高度 325km では約 30%、高度 475km では約 45%もの密度低下を示すことが明らかとなった。大気が静水
圧平衡にあると仮定すると、この密度変動は 50 度もの気温低下に相当する。これらの研究によって、北極周
辺の成層圏で発生する現象である SSW が熱圏・電離圏に大きな変動を及ぼし、赤道域においは逆に温度低
下を招く様子が観測から明らかとなった。
論文 1-9 は CHAMP 衛星を用いた磁気嵐の研究である。高度 400km の大気密度と電離圏電子密度の緯
度分布とその時間変動を精査し、磁気嵐の伸展と共に南北両半球の緯度 20~60 度の範囲において両者が
増大すること、緯度 20 度以内の範
囲においては電子密度が時間遅れ
なく逆に現象し大気密度が時間的
に遅れを伴って上昇する様子が明
らかとされた。
衛星ビーコン観測では地上の受
信点を数百 km 間隔で複数点設け
ることによってトモグラフィー解析が
可能となる。論文 1-10 は GRBR によ
るトモグラフィー解析結果の報告で
あり、日本に設置した 3 点の GRBR
観測を解析して電子密度の緯度・高
度 分 布 を 推 定 し た 。
FORMOSAT-3/COSMIC 衛 星 が
GPS 掩蔽観測で捉えた電子密度分
図7 C/NOFS 利用の衛星ビーコン観測(ベトナム南部)
布との比較から、低緯度から中緯度
による LSWS の経度構造と ESF の関連の観測例
にかけての地理緯度 25~42 度の範
25
図8 EAR 観測による ESF 統計解析結果。
囲で両者は良好な一致を得た。さらに電子密度の緯度・高度分布の時間変化を調べることで、夏季の日中に
おいては電子密度の最大値は低緯度側に存在するが、夜間(20~22 時)においては電子密度の極大が高緯
度側に移るという、いわゆる Midlatitude summer nighttime anomaly (MSNA)現象が確認された。
衛星ビーコン観測の問題点のひとつは、TEC の絶対値の推定手法である。論文 1-11 では GRBR 観測網か
らの C/NOFS 衛星観測の際に基本となるデータ解析手法を確立した。ビーコン観測からの直接の観測量は
TEC 値の相対変動値であり、絶対値への変換を行うためには観測データのオフセット量を正しく推定すること
が必要である。従来から有効とされている手法は、隣接した 2 つの受信機が同領域の TEC を測定するとき、
測定値が一致すると仮定して行う「2地点法」である。本論文では、これを C/NOFS 衛星のビーコン観測に適用
したとき、間違った結果が得られる場合があることを明らかにした。C/NOFS 衛星から求められる TEC は低緯度
地域の経度分布であるが、「東西波長数百 km の大振幅の変動が現れる」ことから隣接する受信機が同一の
TEC を計測するという仮定が成り立たない。TEC 経度分布は、一方で 1000km 以上にわたる観測領域全体に
わたってはほぼ一定あるいは直線的な分布を示すことが多い。そこで本論文では、1つの受信機データのみ
を用いるが、TEC 経度分布が緯度に対して1次元分布すると仮定してオフセット量の推定する「1地点法」を開
発した。この手法による TEC 絶対値の推定結果をイオノゾンデと C/NOFS 衛星から求めた TEC 推定値と比較
することで、妥当性を検証した。この手法は、設置間隔が広い GRBR 観測網を用いた C/NOFS 衛星観測に非
常に適している。実際の解析例から、日没前後に現れる LSWS の東西波長が 300~600km であることを明ら
かにした。またひとつの LSWS 波形を 3 つの離れた受信点から再現することに成功し、現象の緯度方向の広
がりが確かめられた。また LSWS が ESF 発生に結びついた例については、ESF に伴うシンチレーションが、
TEC が東向きに減少する領域に集中する様子を明らかにした(図 7)。
[平成 24 年度]
LAPAN 研究員の Dyah Rahayu Martiningram 氏が 6~9 月の期間にインドネシア研究技術省の研修プログ
ラムによって京都大学生存圏研究所を訪問した。同氏には EAR による電離圏観測データの解析手法を講習
すると共に長期連続観測データの統計解析を実施させた。図 8 に EAR によって ESF が検出された日数のヒ
ストグラムを示す。毎月の観測日数が 2010 年以降は本課題による長期連続観測のために飛躍的に増大した。
ESF を日没後に発生する種類(図中で PSS と表記)と真夜中過ぎに発生する種類(図中で PMN と表記)に分
26
けて各月毎の発生数を調べると、日没
後の ESF は春分および秋分の時期に
極大を迎え、真夜中過ぎの ESF は北
半球の夏至の時期に増大する。また
太陽活動度が低かった 2009 年には真
夜中過ぎの ESF の発生が多いが、
2010 年以降は徐々に真夜中過ぎの
ESF の発生割合が低下して日没後の
ESF が卓越するように変化している。
図9
GRBR 観測網から推定された電離圏全電子数の
緯度構造。
論文 1-12 では、ベトナム南部の Bac
Lieu(北緯 9.2 度、東経 105.6 度)に設
置された GRBR による LSWS と ESF の発生状況について詳細に報告した。午後から日没の時間帯にかけて
LSWS が発生し、Bac Lieu 上空と東側の領域において ESF によるシンチレーションが観測された。一方でタイ
の Chumphon(北緯 10.7 度、東経 99.4 度)に設置された SEALION イオノゾンデ観測では ESF の発生はなか
った。これから、ESF 発生領域が経度方向に比較的限られた地域に限られることが明らかとなった。論文 1-13
においては、イオノグラムに現れる多重反射エコ-(サテライト・トレースとも呼ばれる)の形態を詳細に解析し
た。同時に得られた GRBR による LSWS 観測との比較から、イオノグラムの多重反射エコーが LSWS の形態
を反映して発生するとの結論を得ている。
GRBR 観測網は、EAR のある東経 100 度付近では北から順に Chiang Mai、Bangkok、Chumphon、Phuket、
EAR サイトと 5 地点が南北に位置しており、磁気緯度±10 度(地理緯度では北緯 20 度から赤道まで)の領域
をカバーしている。極軌道をもつ衛星を用いることで、C/NOFS 衛星とは異なり電離圏 TEC の緯度構造(南北
構造)を調べることができる。しかしながら TEC 絶対値の推定手法についての検討が未熟であった。論文 1-11
においては、C/NOFS 衛星を用いた経度構造(東西構造)の特徴を利用することで、1 地点からのデータのみ
によるオフセットの推定が可能であった。しかしながら緯度±10 度の範囲では TEC 値が全体として大小
大という分布をで示すことが明らかであって同様の手法は利用できなかった。そこで 5 地点からの TEC 推定値
が緯度方向になめらかに連続するように 5 点のオフセット値を決める解析手法を開発した。またオフセット値の
初期値を周辺に位置する GPS 受信機からの TEC 値を用いて事前に推定しておく手法も開発した。図9にこの
手法で求めた TEC 緯度分布を示す。全体としては地理緯度で北緯 28 度から南緯 13 度までの広大な領域に
わたる電離圏構造が得られており、南北半球の電子密度の増大が非対称性を示すことが明らかとなっている。
この解析手法によって、今後は電離圏の緯度構造と ESF の関連を精査することが可能となる。
論文 1-14 では太陽から地球に吹き付ける太陽風に対する電離圏・熱圏の応答について調べた。2008 年は
太陽活動度が非常に低かったため、突発的なコロナ質量放出(Coronal Mass Ejection; CME)現象の発生が
ほとんど無かったが、一方で太陽面に固定したコロナホールからのプラズマ流を起源とする共回転相互作用
領域(Corotating Interaction Region; CIR)と呼ばれる太陽風構造が卓越した。CIR は太陽の自転に伴う周期
27 日変動を示すという特徴がある。本研究では、CHAMP 衛星による熱圏密度観測と FOMOSAT-3/COSMIC
衛星による電子密度観測(いずれも高度 400km)の全球データの周波数解析を実施し、太陽自転周期とその
1/2 と 1/3 に対応する、それぞれ 27 日、13.5 日、9 日変動成分を見出した。本研究は CIR による太陽風の変
動による地球の電離圏と熱圏の変調を明らかにした。
27
研究成果リスト
査読付き論文
1-1.
Tsunoda, R. T., Bubenik D. M., Thampi, S. V., and Yamamoto, M., On large-scale wave structure and
equatorial spread F without a post-sunset rise of the F layer, Geophys. Res. Lett., 37, L07105,
doi:10.1029/2009GL042357, 2010.
1-2.
Thampi, S. V., M. Yamamoto, H. Liu, S. Saito, Y. Otsuka, and A. K. Patra, Nighttime-like quasi periodic
echoes induced by a partial solar eclipse, Geophys. Res. Lett., 37, L09107, doi:10.1029/2010GL042855,
2010.
1-3.
Balan, N., M. Yamamoto, V. Sreeja, I. S. Batista, K. J. W. Lynn, M. A. Abdu, S. Ravindran, T. Kikuchi, Y.
Otsuka, K. Shiokawa, and S. Alex, A statistical study of the response of dayside equatorial F2 layer to the
main phase of intense geomagnetic storms, J. Geophys. Res., 116, A03323, doi:10.1029/2010JA016001,
2011.
1-4.
Tsunoda, R. T., M. Yamamoto, T. Tsugawa, T. L. Hoang, S. Tulasi Ram, S. V. Thampi, H. D. Chau, and T.
Nagatsuma, On seeding, large-scale wave structure, equatorial spread F, and scintillations over Vietnam,
Geophys. Res. Lett., 38, L20102, doi:10.1029/2011GL049173, 2011.
1-5.
Yokoyama, T., M. Yamamoto, Y. Otsuka, M. Nishioka, T. Tsugawa, S. Watanabe, and R. F. Pfaff, On
post-midnight low-latitude ionospheric irregularities during solar minimum: 1. Equatorial Atmosphere
Radar and GPS-TEC observations in Indonesia, J. Geophys. Res., 116, A11325,
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Phys., http://dx.doi.org/10.1016/j.jastp.2013.08.023 , in press, 2014.
招待講演
2010 年
Yamamoto, M., Research Enhancement and System Establishment for Space Weather in Indonesia, 2010
International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, 1-3 December 2010a.
Yamamoto, M., S. V. Thampi, T. Nagatsuma, M. Ishii, Y. Otsuka, K. Shiokawa, and R. Tsunoda, Network of
satellite beacon experiment for the study of equatorial Spread-F from Asia and Pacific regions,
International Beacon Satellite Symposium, Barcelona, Spain, June 7-11, 2010b.
Yamamoto, M., S. V. Thampi, T. Tsugawa, T. Nagatsuma, Y. Otsuka, and R. Tsunoda, Study of equatorial
Spread-F with satellite beacon network in Asia and Pacific regions, 2010 The Meeting of the Americas,
Foz do Iguacu, Brazil, 8-12 August 2010c.
Yamamoto, M., H. Hashiguchi, and T. Tsuda, Overview of MU radar achievements for 25 years, International
Symposium on the 25th Anniversary of the MU Radar, Uji Obaku Plaza, Kyoto, September -3, 2010d.
Yamamoto, M. and S. V. Thampi, Digital satellite beacon receiver; system and application, 2010 Taiwan-Japan
Space Instrument Workshop, National Cheng Kung University, Tainan, September 10, 2010e.
Yamamoto, M., S. V. Thampi, Y. Otsuka, T. Tsugawa, and T. Nagatsuma, Study of Equatorial Spread-F with
Ground-based Observation Network in Asian Region, 2010 Asia-Pacific Radio Science Conference,
Toyama International Conference Center, September 25, 2010f.
Yamamoto, M. K., M. Yamamoto, and H. Hashiguchi, The Equatorial Atmosphere Radar (EAR): System
description and observational results, 2010 International Workshop on Space Weather in Indonesia
proceedings (ISBN:978-979-1458-49-8), 32-33, Bandung, Indonesia, 1-3 December 2010.
Hashiguchi, H., T. Tsuda, M. Yamamoto, M.K. Yamamoto, J. Furumoto, S. Fukao, T. Sato, M.D. Yamanaka, T.
Nakamura, K. Hamazu, S. Watanabe, and K. Imai, Development of 1.3-GHz wind profiler radars at RISH,
Kyoto University, Invited talk, International Symposium on the 25th Anniversary of the MU Radar, O-22,
Uji, September 2-3, 2010.
2011 年
Yamamoto, M., Equatorial Atmosphere Radar (EAR) ~ Research Activity since 2001 ~, Ceremony for 10th
Anniversary of the Equatorial Atmosphere Radar, RISTEK Auditorium, Jakarta, Indonesia, 22,
September 2011.
Yamamoto, M. K., H. Hashiguchi, M. Yamamoto, and S. Fukao, Vertical wind measurement over Sumatra,
Indonesia by the Equatorial Atmosphere Radar (EAR),
International Symposium on the 10th
Anniversary of the Equatorial Atmosphere Radar (EAR), Jakarta, Indonesia, 22-23 September 2011.
Liu, H., Y. Yamazaki, M. Yamamoto, H. Jin, and K. Yumoto, Upper Atmosphere Response to Major and Minor
Stratosphere Sudden Warming, 13th International Symposium on Equatorial Aeronomy, Paracas, Peru,
March 12-16, 2012.
29
2012 年
Yamamoto, M. K., H. Hashiguchi, M. Yamamoto, and S. Fukao, Observation of turbulence and clouds in the
tropics by the Equatorial Atmosphere Radar, 13th International Workshop on Technical and Scientific
Aspects of MST Radar, Kuhlungsborn, Germany, Tu-01, 19-23 March 2012.
2013 年
Yamamoto, M., Research Enhancement and System Establishment for Space Weather in Indonesia, 3rd
International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, March 25-26, 2013.
Saito, A., Space-borne imaging observation of the ionosphere from the international space station, 3rd
International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, March 25-26, 2013.
30
2. 名古屋大学主担当部分
担当機関:国立大学法人 名古屋大学
研究項目:インドネシア地域の電離圏擾乱観測網の構築
事業参加者: 大塚 雄一(名古屋大学太陽地球環境研究所・准教授)
西岡 未知(名古屋大学太陽地球環境研究所・研究員)(H22-23 年度)
福島 大祐(名古屋大学太陽地球環境研究所・大学院博士後期課程)(H23-24 年度)
大松 直貴(名古屋大学太陽地球環境研究所・大学院博士後期課程)(H24 年度)
事業協力者: 加藤 泰男(名古屋大学太陽地球環境研究所・技術職員)(H24 年度)
研究協力機関;京都大学生存圏研究所、情報通信研究機構、インドネシア航空宇宙庁
超高層大気や地球周辺の宇宙空間の環境をモニター・予報するための「宇宙天気」にとって、電圏擾乱の
発生機構を調べることは、重要な研究課題の一つである。本事業では、地球上において最も激しい電離圏擾
乱が発生する赤道域に位置する、インドネシア及びタイにおいて、電離圏・熱圏の光学・電波観測を継続して
きた。特に、熱圏風速を測定できるファブリ・ペロー干渉計を同一磁力線が通るインドネシアのコトタバン及び
タイのチェンマイにそれぞれ設置し、世界初となる熱圏風速の磁気共役点観測を開始した。これにより、赤道
域電離圏に起こる現象について、熱圏風が重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。また、
GPS 受信機やレーダーによる電離圏擾乱の観測を継続して行うことにより、太陽活動度に対する変化も明ら
かすることができ、電離圏擾乱生成機構解明のため、貴重な手がかりが得られている。
研究結果の詳細:
[平成 22 年度]
磁気嵐に対する電離圏応答
ボルネオ島にある LAPAN のポンチアナ観測所に 3 台の GPS 受信機を設置し、電離圏擾乱によるシンチレ
ーションの観測を開始した。各 GPS 受信機は、GPS 信号の受信強度を 20Hz で取得することができる。3 台の
アンテナを約 100-120m の間隔で設置することにより、信号強度変動の時間差から電離圏擾乱の伝搬速度を
測定することができる。2003 年からコトタバンにおいて同じシステムが稼動していることから、今回の設置により、
図10: 2004年7月22-28日の磁気嵐時に地上のGPS受信機によって観測されたプラズマバブルに伴う電離圏
擾乱の分布図。右下の図は、GPS全電子数(△)、GPSシンチレーション(〇)、VHFレーダーの位置を示す。
31
同緯度で東西に約 700km 離れたコトタバンとポンチアナで電離圏擾乱を同時観測できることになり、より広範
囲で電離圏擾乱の動きが捉えられるようになった。
赤道電離圏特有の現象であるプラズマバブルは、電離圏下部に生じた電子密度の減少領域が急激に高
高度に上昇する現象であるが、プラズマバブル内部には、様々な空間スケールをもつプラズマ密度の粗密構
造(電離圏擾乱)が存在する。GPS 等の衛星から送信された電波が電離圏擾乱を通り、地上で受信される時、
受信信号の振幅や位相が変動することがあるこの現象は、シンチレーションとよばれる。プラズマバブルの発
生は、地方時や季節、太陽活動度に強く依存するが、地磁気活動度にも依存し、地磁気擾乱時には静穏時
と異なる発生特性を示す。我々は、インドネシアにおいて GPS 受信機によるシンチレーションの観測を 2003
年から継続している。論文 2-1 は、この GPS シンチレーション観測データに加え、異なる経度域に位置する 9
台の GPS 受信機データや、世界各地の GPS 受信機で得られた全電子数データ、及び情報通信研究機構が
運用するイオノゾンデ観測網のデータを用いて、2007 年 7 月 22-28 日の間に 3 回連続して発生した磁気嵐中
に発生したプラズマバブルの経度依存性を明らかにした(図 10 に例を示す)。その結果は、下のようにまとめら
れる。
1. アメリカの経度域では、25 日と 27 日に起こったどちらの磁気嵐においても、F 層高度が上昇し、プラズマ
バブルが発生した。プラズマバブルに伴う電離圏擾乱は、磁気赤道に位置する、ペルーのヒカマルカに
設置されている大型レーダーでも観測され、25 日(27 日)の日没時には、高度約 1500km(1200km)まで達
していることが明らかになった。プラズマバブルは、磁力線に沿って伸びた構造をもつため、この時は、磁
気緯度 20 度付近までプラズマバブルが到達しており、中緯度域にまでプラズマバブルによる電離圏擾乱
の影響が及んでいることが明らかになった。
2. アジア域においては、25 日には真夜中過ぎに電離圏擾乱が発生し、約 3 時間継続した。真夜中過ぎに
発生した電離圏擾乱は、擾乱時ダイナモ電場により F 層が高高度に持ち上げられ、プラズマバブルの発
生原因であるレーリー・テーラー不安定が成長したためと考えられる。
3. 27 日は、アメリカ域からアジア域まで連続して日没直後にプラズマバブルが発生した。アジア域では、プ
ラズマバブルの発生前に、F 層最大電子密度及び F 層高度の変調が観測されており、高緯度から赤道向
きに伝搬する大気変動である伝搬性熱圏擾乱が発生したことが示唆される。一方、フィリピンでは、急激
な F 層高度の上昇が観測されており、磁気圏電場の赤道域電離圏への侵入があったと考えられる。
このように、連続して磁気嵐が発生した場合、磁気圏電場の侵入や、擾乱時ダイナモによる電場生成、大気
波動の影響が組み合わされ、広い経度域にわたっ
て電離圏擾乱が発生したと考えられる。
論文 2-2 は、数値計算及び複数の電離圏観測
データを用いることにより、中低緯度電離圏におけ
る磁気嵐の影響を調べた。磁気嵐時には、電離圏
プラズマ密度は通常に比べて大きくなる正相嵐が
起こる場合と、小さくなる負相嵐が起こる場合とが
ある。本研究では、正相嵐が起こる機構について
詳細に調べた。磁気嵐により、オーロラ帯に加熱が
あると、極域から赤道に向かう熱圏風が駆動される。
赤道向き熱圏風は、(1)磁力線に沿って下向きにプ
ラズマを動かす重力拡散を弱める(あるいは、止め
図 11: インドネシア・コトタバンの赤道大気レーダ
る)、(2)プラズマを消滅率の小さい高高度へと持ち
ー・サイトに設置したファブリ・ペロー干渉計 (FPI)
o
上げる、(3)電離圏プラズマを磁気緯度±30 付近
と全天大気光イメージャー。
の F 層ピーク高度付近に集める。昼間の東向きの
32
磁気圏電場の侵入は、E×B ドリフトによるプラズマの輸送をもたらし、通常よりも高緯度にプラズマ密度の極
大域を移動させる。正相嵐は、磁気嵐の開始時に午前から昼の位置にある経度域において起こりやすい。こ
れは、この時間帯では、電離圏プラズマの生成・消滅よりも、力学的作用の方がより効果的であるためである。
これらの正相嵐を引き起こす機構は、2004 年 11 月 7-8 日に起こった巨大磁気嵐時の電離圏変動の観測結果
を良く説明することが明らかになった。アジア・オセアニアの経度域では、磁気嵐の主相の開始は午前 6 時 LT
に当たっており、以下のことが明らかになった。(1)主相の開始時に、顕著なプラズマ密度の増大が南北両半
球で得られた GPS 全電子数、酸素原子の 630nm 大気光、及び F 層最大電子密度観測データに表れた。(2)
主相開始前には、西向き電場が存在していたが、主相開始後は、東向きの磁気圏電場が侵入し、西向き電
場に重畳した。(3)赤道向き熱圏風が観測された。
大気光観測
インドネシア・コトタバンの赤道大気レーダー観測所において超高層大気の光学、GPS、レーダー及び磁場
観測を継続して実施するとともに、2010 年 6 月に、熱圏風速を測定するためのファブリ・ペロー干渉計 (FPI)
を新規に設置した(図 11)。コトタバンは、同年 2 月に FPI を設置したタイ・チェンマイと同じ磁力線が通る位置
にあり、世界初となる熱圏中性大気風速の磁気共役点観測を開始することができた。観測データは、準リアル
タイムで、他地点の光学観測データとともに、http://stdb2.stelab.nagoya-u.ac.jp/omti/
index.html で web 公開している。
電離圏の空間構造を明らかにするために、630nm 大気光のイメージング観測は有効な手段である。
従来より大気光のイメージング観測は主に地上から行われていたが、
論文 2-3 では、
FORMOSAT-2 衛
星に搭載された光学観測器 ISUAL (Imager of Sprites: Upper Atmospheric Lightning) を用い、初め
て 630nm 大気光のリム方向のイメージング観測に成功した。ISUAL は通常は天底観測を行っている
図 12: 2011 年 4 月 5 日の夜間に、同一磁力線で結ばれた、タイ・チェンマイとインドネシア・コトタ
バンで同時に観測された 630nm 大気光の全天画像(上)と両観測地点のファブリ・ペロー干渉計で観測さ
れた東西風の時間変化(下)。プラズマバブルの移動速度から求めたプラズマの E×B ドリフト速度も図
中に×で示す。
33
が、2006-2008 年の 14 晩にリム観測を行った。その結果、赤道付近及び南緯 30o 付近の中緯度に大気
光の増光帯が見られることが明らかになった。 ISUAL の観測と同時刻・場所を観測していた
FORMOSAT-3/COSMIC 衛星と CHAMP 衛星に電子密度の観測データと比較したところ、ISUAL で観
測された大気光増光領域と同緯度に電子密度の増大が観測された。中緯度における大気光増光領域は
南半球で観測されたが、その領域を通る磁力線が北半球の電離圏を通る位置においても電子密度の増
大が観測された。この結果は、中緯度域の電子密度増大領域が南北両半球に存在していたことを意味
する。一方、赤道域における大気光増光領域は、中緯度のものよりも明るかった。この生成原因とし
て、ブライトネス・ウェーブとよばれる現象が有力であると考えられる。ブライトネス・ウェーブと
は、真夜中過ぎに赤道付近で発生する大気光の増光領域である。ブライトネス・ウェーブは以下のよ
うな過程を経て形成されると考えられている。熱圏における大気潮汐、特に半日周期の大気潮汐波に
より、赤道域において真夜中付近に中性大気温度の高い領域ができる。この中性大気温度が極大とな
る現象を Midnight Temperature Maximum (MTM)という。中性大気温度の極大領域、つまり圧力の極大
領域が生じることによる圧力勾配で極方向へ向かう中性風が生じる。すると中性風との衝突によって
高緯度方向に動かされたプラズマは磁力線に沿って降下し、大気光が増光する。しかし、MTM は、現
在精緻化されてきた電離圏・熱圏の全球モデルでも定量的には再現されておらず、謎の多い現象であ
る。本研究では、衛星による大気光のリム観測の有効性を示すことができた。
[平成 23 年度]
同一磁力線上にあるインドネシアのコトタバンとタイのチェンマイにおいて、ファブリ・ペロー干渉計による熱
圏風速の観測を実施し、2011 年 4 月 5 日の夜間に、両観測点において熱圏風速を同時に観測することに成
功した。図 12 に結果を示す。同晩には、全天大気光イメージャーや VHF レーダー及び赤道大気レーダーで
プラズマバブルが観測されており、その移動速度から電離圏電場が推定できた。熱圏風速と電場との比較に
より、同晩において電離圏電場は主に熱圏風による F 層ダイナモによって生成されたものと考えられるが、E
層での電場生成も一割程度寄与している可能性が示唆された。
FORMOSAT-2 衛星に搭載された光学観測器 ISUAL を用いて 630nm 大気光のリム方向のイメージング観
図 13: (左)サテライト・トレースが現れたイオノグラムの例。(右)イオノグラムから作成した距離・
時間断面図及び全天大気光イメージャーで観測されたプラズマバブル。サテライト・トレースとプ
ラズマバブルの出現に相関があることが分かる。
34
測を行い、初めて電離圏擾乱の一種である中規模伝搬性電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric
Disturbance; MSTID)のリム・イメージング観測に成功した[論文 2-4]。2007 年 5 月 16 日地方時 0 時付近の
ダーウィン上空におけるリム観測よって得られたデータを解析することにより、まず大気光発光強度の高度分
布を推定し、発光のピーク高度が 220km であることを明らかにした。ISUAL による観測と同時刻において、ダ
ーウィンに設置された全天大気光イメージャー(名古屋大学所有)によって 630nm 大気光のイメージング観測
が行われ、水平波長約 300km で北東から南西にのびる波面をもち、北西方向に約 100m/s で伝搬する
MSTID が観測された。この MSTID の水平構造から大気光変動の三次元分布をモデル化し、衛星リム観測に
より観測されるべき画像を生成した。この画像を ISUAL による観測画像と比較したところ、発光ピークの位置・
形状が良く一致することが分かった。この結果は、大気光のリム・イメージング観測によって MSTID の観測が
可能であることを示すものであり、大気光の衛星リム観測が電離圏の三次元構造の推定に有効な観測手段で
あることを証明した。
電離圏には様々な擾乱現象が生起するが、赤道域においてはプラズマバブル、中緯度においては
MSTID が最も顕著な現象としてあげられる。両者とも空間スケールが数百 km であり、夜間に発生する
MSTID とプラズマバブルは、それぞれ中度及び赤道域特有のプラズマ不安定によって生成される。しかし、
プラズマ不安定の線形理論だけでは、これらの現象がいつどこで発生するかを予測できない。予測するため
には、これらの擾乱現象の種としてはたらくと考えられる大気重力波がどのように関与しているかを明らかにす
る必要があることを指摘した[論文 2-5]。
赤道域のイオノグラムでは、F 層のトレースの上部に別のトレースが現れることがある。このトレースは、サテ
ライト・トレースと呼ばれ、電離圏擾乱と関連していることが知られていた。論文 2-6 は、ダーウィンで観測された
イオノグラムと全天大気光イメージャーの観測を同時に行い、イオノグラム上に現れるサテライト・トレースがプ
ラズマバブルによるものであることを示した(図 13)。イオグラム・データから距離・時間断面図を作成すると、サ
テライト・トレースは時間ともに下降し、再び上昇する様子がはっきりと分かる。また、サテライト・トレースが最も
図 14: インドネシア・コトタバンにおいて 30.8MHz の VHF レーダーで観測された 2006-2012 年にお
ける F 領域 FAI エコーの SN 比の地方時・季節変化。高度 200km から 540km の SN 比を平均した。
5-8 月の真夜中過ぎに FAI エコーが頻繁に観測されていることが分かる。
35
低い高度に達したところでトレースが拡がるスプレッド F 現象が発生する。大気光イメージャーでは、630nm 大
気光の全天画像から、大気光減光領域としてプラズマバブルが観測される。両観測データを比較することによ
り、サテライト・トレースの高度が最も低くなった時に、プラズマバブルが観測点の真上に到達していることが明
らかになった。この結果、サテライト・トレースは、プラズマバブルによって、イオノゾンデから送信された電波が
斜め反射していることが原因であることが判明した。また、サテライト・トレースの距離・時間変化からプラズマバ
ブルの伝搬速度を推定することが可能であることを示すことができた。
[平成 24 年度]
F 領域沿磁力線不規則構造の観測
2006 年からインドネシア・コトタバンの赤道大気レーダー観測所において連続観測を行っている VHF レー
ダー(送信周波数 30.8MHz)の観測を継続した。また、本レーダーによって観測された F 領域 FAI のデータを
解析し、FAI エコー発生頻度の季節・地方時及び太陽活動度変化を明らかにした。統計解析を行うため、本
研究では、高度 200km から 540km までのエコーの SN 比を平均した。図 14 に、2006 年から 2012 年までに
南向きビームで観測された FAI エコーの SN 比の季節及び地方時変化を示す。但し、図中の黒い部分は、デ
ータ欠測を表す。図より、FAI エコーは、2006 年 3–5 月の真夜中前と 2006 から 2009 年の 5–8 月における
真夜中過ぎに頻繁に観測されていることが分かる。太陽活動度が非常に低い 2007-2009 年において、真夜中
過ぎ FAI の発生頻度は高く、太陽活動度と逆相関があることが明らかになった。
これまで赤道域における F 領域 FAI はプラズマバブルに伴って発生すると考えられてきた。プラズマバブル
は、インドネシア域では春・秋に発生頻度が高く、GPS シンチレーションを伴う。しかし、5-8 月の真夜中過ぎに
発生する FAI はシンチレーションを伴っていない。また、プラズマバブル及び FAI は日没直後に発生するため、
メーター・スケールの不均一構造である FAI は拡散によって真夜中頃には消滅し、真夜中以降に観測される
ことは稀である。これらのことから、5-8 月の真夜中過ぎに VHF レーダーによって観測された FAI はプラズマバ
図15: (上) タイのチュンポンに設置されたイオノゾンデで観測されたF層ピーク高度の季節変化。×印
は、00時における各日の観測値、赤線は、90日移動平均値を示す。(下)重力によるドリフト速度の季節
変化。青線は、F層ピーク高度より40km低い高度(上図の青線)における値であり、黒線は高度220kmに
おける値である。
36
ブルによるものとは考えにくい。また、中緯度で観測される FAI は、日本において夏季夜間に観測されるが、
日没時から真夜中にかけて出現頻度が高く、水平波長が数百 km のプラズマ密度の波状擾乱(伝搬性電離圏
擾乱; TID)に伴って発生する。しかし、インドネシア域ではそのような TID が観測されておらず、発生する地方
時も異なる。以上のことから、インドネシアで 5-8 月の夜間に観測された F 領域 FAI の発生原因は未解明であ
ると言える。
5 方向のレーダー・ビームで観測された FAI の発生時刻の時間差から、FAI の東西方向の伝搬速度を求め
た[論文 2-7]。その結果、観測された真夜中過ぎ FAI のうち、46%は西向きに、14%は東向きに伝搬することが
分かった。残りの 40%は、FAI 発生にビーム間の時間差が顕著で無く、伝搬速度が決められなかったものであ
る。赤道域における F 領域プラズマのドリフト速度は、平均的には、夜間において東向きである。成長した後の
プラズマバブルは、背景のプラズマとほぼ同じ速度で伝搬すると考えられることから、平均的には、プラズマバ
ブルは夜間を通して東向きに伝搬するはずである。しかし、本研究の結果は、真夜中過ぎ FAI は西向きに伝
搬するものが多いことを示しており、FAI がプラズマバブルに伴って発生しているという考え方に反する。一方、
中緯度では、電離圏電子密度の波状構造である中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)に伴って FAI が発生し
ている。この中緯度における MSTID 及び FAI は、北(南)半球において南西(北西)方向に伝搬する。真夜中過
ぎの FAI が西方向に伝搬するものが多いことから、中緯度の MSTID 及び FAI がコトタバン(地磁気緯度 10
度)でも観測されている可能性が考えられる。
コトタバンにおいて 5-8 月の真夜中過ぎに観測された FAI の生成機構を解明するため、論文 2-8 は、コトタ
バンとほぼ同経度にあり、磁気赤道に位置するタイのチュンポンに情報通信研究機構によって設置されたイ
オノゾンデ・データを活用し、電離圏 F 領域のピーク高度を調べた(図 15 の上図)。その結果、5-8 月の
2100-0200LT 付近にピーク高度が極大をもつことが明らかになった。この F 層ピーク高度の上昇が起こる季節
及び地方時は、FAI の発生頻度のそれとよく一致しており、F 層高度の上昇が FAI の発生に関連していると考
えられる。F 層が高高度に持ち上げられると、中性大気との衝突が小さくなるため、重力 g と磁場 B とによる g
×B 方向の電流が流れやすくなり、プラズマバブルの発生原因であるレーリー・テーラー(R-T)不安定の成長
率が大きくなる。しかし、通常、夜間においてプラズマの E×B ドリフトは下向きであるため、g×B 電流を打消し、
R-T 不安定の成長率は負となり、不安定は成長しない。夜間において、不安定が成長するためには、g×B の
速度が下向き E×B ドリフトの大きさを上回る必要がある。つまり、重力によるドリフト速度 g/ν(g は重力加速度、
ν はイオンと中性大気の衝突周波数)が、E/B よりも大きくなる必要がある。本研究では、磁気赤道のチュンポン
で観測された F 層ピーク高度の値を用いて R-T 不安定の線形成長率を計算した(図 15 の下図)。その結果、
平均的には 10-20m/s 程度である鉛直方向の ExB ドリフトに比較して、 g/ν が 5-8 月には大きくなることが明ら
かになった。この結果は、真夜中過ぎの FAI がプラズマバブルに起因するものであることを示唆している。
図16: インドネシア・コトタバンの30.8MHz VHFレーダーで観測された2007年におけるE領域FAIエコ
ー発生頻度の地方時・高度変化。左から、夏(5-8月)、冬(11-2月)、分点時(3-4,9-10月)の結果。
37
図17: (左)インドネシア・コトタバンに設置された全天大気光イメージャーで観測されたMSTIDの
伝搬方向の年変化。南向きに伝搬するものが多いことが分かる。(右)対流圏の活発な対流活動で生
成された大気重力波が上方伝搬して電離圏擾乱を引き起す様子を示す模式図。
E領域沿磁力線不規則構造の観測
コトタバンの VHF レーダーによる E 領域 FAI の連続観測データを解析することにより、E 領域 FAI エコー発
生頻度の高度、季節、地方時変化を明らかにした[論文 2-9]。季節変化を調べるため、観測データを夏(5-8
月)、冬(11-2 月)、分点時(3-4,9-10 月)に分類し、それぞれの季節において E 領域 FAI エコー発生頻度の地
方時・高度変化を調べた。結果を図 16 に示す。図より、FAI エコーは顕著な地方時依存性を示し、午前中
(7-12LT)及び日没後から真夜中にかけて(18-24LT)に発生頻度が高いことが分かる。午前中の FAI エコーは、
時間とともに高度が下がる傾向が見られる。この FAI エコーは、7LT において高度約 100km に見られ、9LT で
は高度約 90km に見られることから、FAI エコーが下降する位相速度は 5km/h と見積もることができる。同様の
傾向は、約 12 時間後の 19-24LT にも見られ、半日周期の大気潮汐波が FAI 発生に関係している可能
性が示唆される。また、南東及び南西方向に走査したレーダービームで得られたドップラー速度を組
み合わせ、磁力線直交東西成分を求めた。ドップラー速度は、日中において上向き、夜間では下向き
となることが分かる。また、ドップラー速度の東西成分は、高度 94km を境にエコー領域の上部と下
部とで方向が異なる。エコー領域上部では、日中は西向き、夜間は東向きとなっており、F 領域にお
ける電場による E×B ドリフトと同様の傾向を示している。一方、エコー領域の下部では、ドップラ
ー速度の向きは反転している。これらの結果は、低高度においてプラズマは、中性大気との衝突によ
ってほぼ中性大気と同じ速度で動くが、高高度では衝突周波数が小さくなるため、電場による E×B
ドリフトの影響が強く表れるためと考えられる。
昼間の高度 150km 沿磁力線不規則構造の観測
沿磁力線不規則構造(Field-Aligned Irregularity; FAI)の一種である高度 150km FAI は、高度 130km から
170km 付近に出現し、昼間に観測される。このエコーは、南米ペルーのヒカマルカに設置されたレーダーで
最初に観測された。このエコーの特徴として、発生高度が午前中は時間とともに下降し、正午頃に最低になっ
た後、午後は上昇することがあげられる。このように、エコー強度の時間・高度断面図において、150km FAI エ
コーはネックレスの形状に似ているということから、ネックレスエコーと呼ばれることもある。ヒカマルカの観測以
来、150km FAI エコーはポンペイ(ミクロネシア)、サン・ルイス(ブラジル)、コロゴ(コートジボワール)など磁気
赤道付近でのみ観測されてきた。このため、150km FAI は磁気赤道域特有の現象であると考えられ、その生
成原因も磁場が水平になる磁気赤道を前提として考えられた。しかし、近年、磁気赤道から離れたガダンキ
38
(インド)やコトタバン(インドネシア)でも 150km FAI エコーが観測されることが判明した。このように、磁気赤道
から離れた緯度においても 150km FAI 観測されることから、従来考えられていた生成原因が疑問視されるよう
になってきた。一方、電離圏電場は、E×B ドリフトによって電離圏プラズマを動かすため、電離圏構造に影響
を与える。従って、電離圏ダイナミクスの研究には、電場の観測が必要である。しかし、従来、電離圏電場は、
大型の非干渉散乱(Incoherent Scatter; IS)レーダーによるプラズマドリフト速度の観測や人工衛星搭載機器な
ど高価な装置によって観測されてきた。ところが、150km FAI が存在すれば、比較的小型の干渉散乱レーダ
ーでも FAI エコーを観測することがきる。この FAI エコーのドップラー速度は、電離圏電場による E×B ドリフト
速度にほぼ等しいことが指摘されている。これまでに、150km FAI のドップラー速度と F 領域電場との比較は、
主に南米域での観測に基づき行われてきたが、本研究では、 インドネシアの赤道大気レーダー(EAR)に
よって昼間に観測された 150km 沿磁力線不規則構造(FAI)エコーのドリフト速度の統計解析を行っ
た。その結果、150km FAI エコーの磁力線直交上/南向きドリフト速度は、午前中速度が大きくなり、
午後にかけて減少すること、東西方向のドリフト速度は西向きであり時間とともに減少することが明
らかになった。この日変化の傾向は、F 領域プラズマドリフト速度のものと一致する。しかし、150-km
FAI ドリフト速度は、F 領域プラズマドリフト速度と比較し、平均で鉛直成分は約 3m/s 小さく、東
西成分は 25m/s 小さいことが明らかになった。この違いを電場生成領域である E 領域の緯度による違
いで説明するのは難しく、高度 150km 付近で生成される局所的な電場が影響している可能性が考え
られる。また、インドのガダンキのレーダーで観測された 150kmFAI エコーのドリフト速度との比較を
行った[論文 2-10]。その結果、コトタバンとガダンキの磁力線直交・上/南向きドリフト速度は、午
後にかけて速度が低くなっていくという日変化の傾向が一致していることが明らかになった。このこ
とから、
南アジア域から東南アジア域にかけての広い範囲にわたる F 領域の E×B ドリフトが、
150kmFAI
エコーの磁力線直交・上/南向きドリフトと一致することが明らかになった。
大気光イメージャーを用いた電離圏擾乱の研究
論文 2-11 は、2002 年からコトタバンにおいて連続観測を行っている全天大気光イメージャーのデータを解
析し、電離圏プラズマ密度の波状構造である中規模伝搬性電離圏擾乱(Medium-Scale Traveling Ionospheric
Disturbance; MSTID)の統計的性質を明らかにした。この結果、観測された MSTID は、南向きに伝搬するもの
が多く(図 17 の左図)、平均的には周期約 40 分、伝搬速度は約 170m/s であることが明らかになった。従来の
研究により、中緯度における MSTID は南西方向に伝搬するものがほとんどであることが明らかになっているが、
赤道域における MSTID は中緯度と異なる性質を持つことから、その生成原因も中緯度とは異なると考えられ
る。特に伝搬方向が、磁力線に沿った南向きであることから、赤道域における MSTID は大気重力波に起因す
るものと考えられる(図 17 の右図)。コトタバンで観測された MSTID は、太陽活動度が減少するにつれて発生
頻度が減少し、水平波長が増加する傾向をもつことが明らかになった。これは、低太陽活動期においては、中
性大気密度が減少するため、熱圏大気の粘性が増大し、大気重力波が高高度に伝搬できなくなるためと考え
られる。よって、このような MSTID の太陽活動度依存性は、MSTID が熱圏中の大気重力波であるという考えと
矛盾しない。また、雲頂温度のデータを用いて、MSTID の伝搬方向と対流活動分布の位置関係を調べた。こ
の結果、下層大気における対流活動度が活発な場所で大気重力波が発生し、電離圏高度にまで伝搬しプラ
ズマ密度の擾乱(MSTID)を引き起こしていると考えられる証拠を得た。
論文 2-12 及び 2-13 は、イオノグラムで観測されたサテライト・トレースと大気光イメージャーによるプラズマバ
ブルの全天観測データを詳細に解析し、トレースが、(1)プラズマバブルによる F 層下部の構造により直接斜め
反射するために生じる場合と、(2)さらに地上反射を経由してできるものがあることを明らかにした。また、サテラ
イト・トレースの距離の時間変化を観測することにより、一台のディジタル・イオノゾンデだけでプラズマバブル
の移動速度を精度良く求められることを示した。
39
研究成果リスト
査読付き論文
2-1. Li, G., B. Ning, L. Hu, L. Liu, X. Yue, W. Wan, B. Zhao, K. Igarashi, M. Kubota, Y. Otsuka, J. S. Xu, J.
Y. Liu, and J. L. Chau, Longitudinal development of low-latitude ionospheric irregularities during the
geomagnetic storms of July 2004, J. Geophys. Res., 115, A04304, doi:10.1029/2009JA014830, 2010.
2-2. Balan, N., K.. Shiokawa, Y. Otsuka, T. Kikuchi, D. Vijaya Lekshmi, S. Kawamura, M. Yamamoto, and G. J.
Bailey, A physical mechanism of positive ionospheric storms at low latitudes and midlatitudes, J. Geophys.
Res., 115, A02304, doi:10.1029/2009JA014515, 2010.
2-3. Adachi, T., M. Yamaoka, M. Yamamoto, Y. Otsuka, H. Liu, C.-C. Hsiao, A. B. Chen, and R.-R. Hsu,
Midnight latitude-altitude distribution of 630-nm airglow in the Asian sector measured with
FORMOSAT-2/ISUAL, J. Geophys. Res., 115, A09315, doi:10.1029/2009JA015147, 2010.
2-4. Adachi, T., Y. Otsuka, M. Yamaoka, M. Yamamoto, K. Shiokawa, A. B. Chen, and R.-R. Hsu, First
satellite-imaging
observation
of
medium-scale
traveling
ionospheric
disturbances
by
FORMOSAT-2/ISUAL, Geophys. Res. Lett., 38, L04101, doi:10.1029/2010GL046268, 2011.
2-5. Makela, J., and Y. Otsuka, Overview of Nighttime Ionospheric Instabilities at Low- and Mid-Latitudes:
Coupling
Aspects
Resulting
in
Structuring
at
the
Mesoscale,
Space
Sci.
Rev.,
doi
10.1007/s11214-011-9816-6, 2011.
2-6. Lynn, K. J. W., Y. Otsuka, and K. Shiokawa, Simultaneous observations at Darwin of equatorial bubbles by
ionosonde-based
range/time
displays
and
airglow
imaging,
Geophys.
Res.
Lett.,
38,
23,
doi:10.1029/2011GL049856, 2011.
2-7. Otsuka, Y., K. Shiokawa, M. Nishioka and Effendy, VHF Radar Observations of Post-Midnight F-Region
Field-Aligned Irregularities over Indonesia during Solar Minimum, Indian Journal of Radio and Space
Physics (IJRSP), 41, 199-207, 2012.
2-8. Nishioka, M., Y. Otsuka, K. Shiokawa, T. Tsugawa, Effendy, P. Supnithi, T. Nagatsuma, and K. T.
Murata, On post-midnight field-aligned irregularities observed with a 30.8-MHz radar at a low latitude:
Comparison with F-layer altitude near the geomagnetic equator, J. Geophys. Res., 117, A08337,
doi:10.1029/2012JA017692, 2012.
2-9. Otsuka, Y., Seasonal and Local Time Variations of E-Region Field-Aligned Irregularities Observed with
30.8-MHz Radar at Kototabang, Indonesia, Special issue of International Journal of Geophysics,
"Low-latitude Mesosphere, Thermosphere and Ionosphere", vol. 2012, 695793, doi:10.1155/2012/695793,
2012.
2-10.
Patra, A. K., P. P. Chaitanya, N. Mizutani, Y. Otsuka, T. Yokoyama, M. Yamamoto, A comparative
study of equatorial daytime vertical E x B drift in the Indian and Indonesian sectors based on 150 km
echoes, J. Geophys. Res., 117, A11312, doi:10.1029/2012JA018053, 2012.
2-11.
Fukushima, D., K. Shiokawa, Y. Otsuka, and T. Ogawa, Observation of equatorial nighttime
medium-scale traveling ionospheric disturbances in 630-nm airglow images over 7 years, J. Geophys. Res.,
117, A10324, doi:10.1029/2012JA017758, 2012.
2-12.
Lynn, K. J. W., K. Shiokawa, Y. Otsuka and P. Wilkinson, Optical and ionosonde observations of
electron density depletions over Darwin, Asian J. Phys., in press, 2014.
40
2-13.
Lynn, K. J. W., Y. Otsuka, K. Shiokawa, Ionogram-based range-time displays for observing
relationships between ionosonde satellite traces, spread F and drifting optical plasma depletions, J. Atmos.
Solar-Terr. Phys., 98, 105-112, http://dx.doi.org/10.1016/j.jastp.2013.03.020, 2014.
2-14.
Li, G., B. Ning, M. A. Abdu, Y. Otsuka, T. Yokoyama, M. Yamamoto, and L. Liu, Longitudinal
characteristics of spread F backscatter plumes observed with the EAR and Sanya VHF radar in Southeast
Asia, J. Geophys.Res. Space Physics, 118, 6544-6557, doi:10.1002/jgra.50581, 2013.
大塚雄一, 水谷徳仁, 塩川和夫, Amit Patra, 横山竜宏, 山本衛, 赤道大気レーダーを用いた高
2-15.
度 150km 沿磁力線不規則構造のドリフト速度に関する研究, 南極資料(和文誌), 印刷中, 2014.
招待講演
2010 年
Otsuka, Y., K. Suzuki, K. Shiokawa, T. Tsugawa, A Study of Medium-Scale Traveling Ionospheric
Disturbances Observed with a GPS Network in Europe (Invited), Asia Oceania Geosciences Society
(AOGS) 2010, Huderabad, India, 5-9 July, 2010a.
Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Ogawa, and Effendy, VHF Radar Observations of Field-Aligned Irregularities in
Indonesia (Invited), Asia Oceania Geosciences Society (AOGS) 2010, Huderabad, India, 5-9 July, 2010b.
Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Ogawa, and Effendy, VHF radar observations of nighttime F-region field-aligned
irregularities over Indonesia (invited), AGU 2010 Spring Meeting, Foz do Iguassu, Brazil, 8-12 August
2010c.
Otsuka, Y., Perkins and gradient drift instabilities (invited), WORKSHOP Coupling between the Earth's
atmospheric and Plasma environments, Bern, Switzerland, Sep 27 - Oct 1, 2010d.
Otsuka, Y. et al., Optical and Radio Observations of Ionospheric Irregularities in Indonesia (invited), 2010
International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, December 1-3, 2010e.
2011 年
Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Nagatsuma, T. Tsugawa, S. Perwitasari, et al., VHF radar and ionosonde
observations of post-midnight irregularities in Indonesia, International Union of Geodesy and Geophysics
(IUGG) 2011, Melbourne Australia、28 June - 7 July, 2011a.
Otsuka, Y., K. Shiokawa, T. Nagatsuma, T. Tsugawa, Effendy, and S. Perwitasari, VHF radar and ionosonde
observations of post-midnight irregularities in Indonesia, Asia Oceania Geosciences Society (AOGS)
2011, August 8-12, 2011, Taipei, Taiwan, 2011b.
Otsuka, Y., M. Nishioka, T. Tsugawa, and A. Saito, Study of the Ionospheric Variations Using
Two-dimensional Maps of Total Electron Content Obtained from GPS Receiver Networks, ISROSES-II
(International Symposium on Recent Observations and Simulations of the Sun-Earth System II), Borovets,
Bulgaria, 11-16 September, 2011c.
Otsuka, Y. et al., Optical and Radar Observations of Plasma Bubbles over Indonesia: Recent Results,
International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, 21 September, 2011d.
Otsuka, Y., K. Shiokawa, M. Nishioka, and Effendy, Post-midnight field-aligned irregularities observed with a
VHF radar at Kototabang, Indonesia, American Geophysical Union (AGU) Fall Meeting 2011, San
Francisco, USA, 5-9 December, 2011e.
Otsuka, Y., D. Fukushima, K. Shiokawa, M. Kubota, T.Tsugawa, M. Nishioka, T. Nagatsuma and Effendy,
Optical and Radar Observations of Ionospheric Irregularities in Indonesia and Thailand: Recent Results,
41
The 1st Asia-Oceania Space Weather Alliance (AOSWA) Workshop, Chiang Mai, Thailand, 22-24
February, 2012f.
2012 年
Otsuka, Y., K. Suzuki, K. Shiokawa, and T. Tsugawa, A Study of Medium-Scale Traveling Ionospheric
Disturbances Observed with a GPS Network in Europe 39th COSPAR Scientific Assembly, Mysore,
India, July 14-22, 2012.
2013 年
Otsuka, Y., D. Fukushima, K. Shiokawa, and Effendy, Optical and Radio Observations of the Ionosphere and
Thermosphere in Indonesia, 3rd International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung,
Indonesia, March 25-26, 2013.
42
3. 情報通信研究機構主担当部分
担当機関:独立行政法人 情報通信研究機構
研究項目:インドネシア地域の電離圏構造観測網の調査・整備
事業参加者: 長妻努(情報通信研究機構・研究マネージャ)
津川 卓也(情報通信研究機構・主任研究員)
研究協力機関;京都大学生存圏研究所、名古屋大学太陽地球環境研究所、インドネシア航空宇宙庁
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、
世界 14 カ国が加盟する ISES(International
Space Environment Service)の宇宙天気予
報センターとして、独自に観測データをほぼ
リアルタイムで収集するとともに、海外のセ
ンターと情報交換をおこなって、超高層大気
から太陽に至る宇宙空間の環境の変動「宇宙
天気」の現況把握及び予測に関する研究や宇
宙環境情報サービスを行っている。宇宙天気
図 18: SEALION の観測機器と観測点の分布。
は、衛星を用いた通信・放送、及び高度衛星
測位の利用にとって重要な研究分野である。
特に磁気赤道域・低緯度域で発生する電離圏
電子密度の増大領域「赤道異常」や、強い電
離圏擾乱現象「プラズマバブル」などはしば
しば日本の位置する中緯度まで発達し、高度
衛星測位に影響を及ぼすことから、我が国に
とってインドネシアを含む東南アジア域の電
離圏の現況把握・予測は重要である。本事業
では、磁気赤道域・低緯度域の電離圏構造の
現況把握及び予測の研究を行うため、インド
図 19: AOSWA の概念。
ネシア及び周辺諸国において NICT が展開し
ているイオノゾンデを中心とした電離圏観測
網 SEALION(Southeast Asia Low-latitude
Ionospheric Network)(図 18)による長期連
続観測を行うとともに、インドネシアと協力
して宇宙天気研究に利用できる既存の電離圏
観測網の調査・整備を行った。赤道・低緯度
域の電離圏擾乱の発生・伝播の現況把握及び
予測を行うためには、磁気赤道域や地磁気共
役点の電離圏観測が重要であること、及び、
本課題の審査コメントの指摘事項「本課題の
実施に当たっては、既存のデータとの連携や、
図 20: 2010 年 12 月 3 日インドネシア・バンドン
インドネシア以外の国との連携も視野に入れ
LAPAN 本部で開催された第 1 回 AOSWA キックオ
て展開することが望まれる」を踏まえて、イ
フミーティングの様子。
ンドネシア・コトタバンと同一経度内の磁気
43
赤道(タイ・プーケット)
、及びコトタバンの地磁気共役点(タイ・チェンマイ)においてもイオノゾ
ンデや GPS 受信機等を用いた電離圏観測を実施した。
また、本事業を契機の 1 つとして、アジア・オセアニア域における宇宙天気の研究開発、及び宇宙
天気予報を推進していくためのリージョナルな枠組みとなる Asia-Oceania Space Weather Alliance
(AOSWA)を設立した(図 19)
。宇宙天気の研究開発・及び予報業務においては、現象の源となる太陽・
太陽風の監視のみならず、電離圏や地磁気の変動の監視のために広域・汎地球的な観測網の構築が重
要である。また、近年アジア・オセアニア域の国々は宇宙開発・利用に力を入れ始めており、宇宙天
気予報の必要性も認識され始め、予報センターの設立も相次いでいた。AOSWA は、これらの背景を
踏まえ、アジア・オセアニア域の各国が独自に行っている宇宙天気観測(特に電離圏や地磁気の観測)
データの交換と地域的な宇宙天気研究・予報業務の協力体制の実現を目的として、2010 年に NICT
の呼びかけによって、7 カ国の 13 機関を中心として設立された。以来、NICT が主導的に会合の開催
や Web(http://aoswa.nict.go.jp/)を通した情報発信などを行っている。2013 年 1 月からは”AOSWA
LINK”という電子版 News Letter(年 4 回発行予定)の発行を開始した。
平成 22 年(2010 年)度
インドネシア・コトタバンの赤道大気レーダー観測所、及びインドネシア・コトタバンと同一経度
の磁気赤道(タイ・チュンポン、プーケット)、コトタバンの地磁気共役点(タイ・チェンマイ)、日
本とインドネシアの中間で磁気赤道に位置す
るフィリピン・セブにおいて、イオノゾンデ
や GPS 受信機等を用いた電離圏観測を実施
し、現地において必要な装置の改修・機器の
入れ替え、データ収集、保守作業等を実施し
た。同一経度上にあるコトタバン、チュンポ
ン、チェンマイのイオノゾンデ観測は、赤道・
低緯度域の電離圏擾乱の発生に重要な赤道異
常の発達と南北非対称性の現況把握に有効で
ある。また、地磁気赤道上のプーケット、セ
図 21: SEALION Symposium 2011 の参加者。
ブのイオノゾンデ観測は、電離圏擾乱の東へ
の伝搬の現況把握、日本への到達予測に利用
できる。
2010 年 12 月 1-3 日インドネシア・バン
ドンにおいて LAPAN 主催で開催されたイン
ドネシア宇宙天気国際ワークショップ
(IWSWI 2010)に参加した。LAPAN と
NICT それぞれが運用している観測ネットワ
ークや研究活動の紹介(論文 3-10)
、及び宇
宙天気予報業務の現状についての紹介を行い、
今後の協力体制の構築に関する自由討論を行
った。その結果、次回までに、LAPAN-NICT
間のネットワーク接続の状況や交換すべきデ
図 22: インドネシア・スマトラ島の GPS 受信機網
ータに関する検討を行うこととなった。また、
SUGAR の GPS データを利用した全電子数変動の
インドネシア・コトタバンに NICT が設置し
2 次元マップ。波長数 100km 程度の波状構造が捉
44
えられている。
ているイオノゾンデのデータ(イオノグラム)に関して、NICT と LAPAN それぞれに熟練者による
各種電離圏パラメータの手動読取を実施していることが判明したので、今後それぞれの読取結果の比
較・検証を実施していくこととした。
IWSWI 2010 の最終日に、第 1 回 AOSWA Kick-off meeting を開催した(図 20)。日本・インドネ
シア・マレーシア・インド・オーストラリアの研究者が一同に会して、アジア・オセアニア域の宇宙
天気の研究開発や宇宙天気予報業務を推進するための地域的な協力体制の構築について議論が行われ、
Asia Oceania Space Weather Alliance (AOSWA)という枠組みの構築に向けて関係機関が連携してい
くこと、関連機関が一同に介して議論や情報交換を行う場の一つとして、2011 年 8 月に台湾・台北で
開 催 さ れ る Asia Oceania Geosciences Society (AOGS) に ”Collaborative Researches and
Operations of Space Weather Forecasting in Asia-Oceania region” というセッションを提案し、そ
こで関連する研究成果の発表や情報交換を行うことで合意した。
2011 年 1 月 26-28 日タイ・バンコクにおいて NICT の SEALION 観測網に関する研究集会
(SEALION Symposium 2011)を主催した(図 21)。この研究集会には、日本・インドネシア・タ
イ・ベトナム・フィリピン・中国・マレーシア・ラオスから 67 人の電離圏及び宇宙天気研究者が参
加し、各国における宇宙天気の研究及びサービスの現状や宇宙天気研究に関する議論を行った他、各
国の観測機器網やデータ取得方法について情報交換を行った。この研究集会を契機に、インドネシア
及びその周辺諸国(タイ、マレーシア等)の既存の電離圏構造観測網(主として GPS 受信機、イオ
ノゾンデ網)の調査及びデータ交換に向けた議論が開始された。この議論において、東南アジア各国
においても密な GPS 受信機網が存在することがわかったが、一方で受信機網運用機関のデータポリ
シーにより、他国への GPS 受信機データ提供が難しいことなども明らかになった。本会議において、
第 2 回 AOSWA Kick-off meeting が行われ、AOSWA は活動を開始することとなり、NICT が事務局
を担当することとなった。Web ページ(http://aoswa.nict.go.jp/)や Mailing List を事務局が整備し、
相互のコミュニケーションや情報交換を促進することとなった。
インドネシア及びタイの利用可能な GPS 受信機網データについては、GPS データ自動収集システ
ムとそのデータを用いた東南アジア域電離圏全電子数(TEC)2 次元マップ作成ツールを開発した(図
22)
。これにより、これまで球面調和関数やモデル等で補完された TEC マップでは捉えられなかった
数 100km スケールの電離圏変動の水平構造や時間発展が、GPS 受信機網が密な領域においては明ら
かにできることがわかった。
図 23: 2011 年 2 月 22-24 日タイ・チェンマイで開催された第 1 回 AOSWA ワークショップの
参加者。
45
論文 3-1 では、2001 年から 2009 年の 12 月(冬至期)における Jicamarca のレーダー観測、CHAMP
衛星観測、赤道域の地磁気ネットワーク観測データを用いて、成層圏突然昇温(Sudden Stratospheric
Warmings:SSW)時の赤道域電離圏での電磁環境変動について調べた。SSW 時には、Jicamarca
のレーダーにおいて昼側の電離圏プラズマの大きな下向きドリフト(西向き電場)変動が、朝側の大
きな上向きドリフトと夕側の下向きドリフトに伴って観測されており、遅い地方時にシフトする傾向
が見られる。また、地磁気変動として、朝側の領域で赤道ジェット電流の増大、そして夕方側では大
きな逆向き赤道ジェット電流が昇温期間中の新月と満月の頃に観測されている。更に、地磁気と
CHAMP 衛星の観測から、この午後の逆向き
赤道ジェット電流の開始には、経度依存性が
あることが明らかになっている。得られた解
析結果は、SSW 期間中の赤道電離圏における
電磁環境変動が、半日周期の月潮汐波の影響
によって強まることを示している。このこと
は、SSW に伴う赤道域の電離圏擾乱の発生と
発達が月齢の情報によって予測できる可能性
を示唆している。
平成 23 年(2011 年)度
図 24: GPS データから GTEX フォーマットの
TEC データに変換する Windows 用ソフトウェ
ア。
昨年度に引き続き、インドネシア・コトタ
バン、タイ・チュンポン及びチェンマイ、ベ
トナム・バクリウ、フィリピン・セブにおい
て、イオノゾンデや GPS 受信機等を用いた
電離圏観測に必要な装置の改修・機器の入れ
替え、データ収集、保守作業等を行い、連続
観測を実施した。また、インドネシア及びそ
の周辺諸国(タイ、マレーシア等)の既存の
電離圏構造観測網(主として GPS 受信機、
イオノゾンデ網)の調査を継続して行い、デ
ータ交換に向けて議論を続けた。
NICT と LAPAN 双方で行っているイオノ
図 25:チュンポンにおける GPS-TEC 観測と IRI
モデルによる TEC 予測値の季節毎の比較。
ゾンデ・データの手動読取処理の相互比較を
行い、時折読取ミスによる差異が生じてはい
るものの、概ね双方の値はよく一致している
ことが示された。但し、一部のパラメータに
ついては、差が大きいことも判明し、これは
読取方法の定義の違いに依るものであること
が判明した。
2011 年 4 月 30 日-5 月 1 日に米国・ボウ
ル ダ ー で 開 催 さ れ た ISES meeting に 、
AOSWA のコアメンバーである日本、インド、
中国、韓国の RWC が参加し、AOSWA につ
図 26:チュンポンおよび国分寺における電離圏ス
ラブ厚の比較。
いての報告を行った。また、2011 年 8 月 12
46
日 台 湾 ・ 台 北 で 開 催 さ れ た AOGS2011 の セ ッ シ ョ
ン”Collaborative Researches and Operations of Space
Weather Forecasting in Asia-Oceania region”をホスト
し、AOSWA に関連した 11 件の口頭発表が行われた。
このセッションの後に、
第 2 回 AOSWA Kick-off meeting
を開催し、今年度中に AOSWA 独自の Workshop を開催
することや、
同 Workshop のテーマについて議論された。
第 1 回 AOSWA ワークショップを 2012 年 2 月 22-24
日にタイ・チェンマイにて NICT 主催で開催した(図 23)
。
10 カ国、30 研究機関から 76 名が参加し、各国・各研究
機関の宇宙天気研究・予報業務に関して 41 件の口頭発
表と 21 件のポスター発表が行われた。いずれの発表も
大変盛況で、熱心な議論で講演時間の延長が相次いだ。
今回は、初顔合わせの意味で各機関における活動内容を
紹介する発表が行われ、各国の宇宙天気・電離圏観測機
器網やデータ取得方法について情報交換がなされた。上
記の議論において、国外へのデータ提供が難しい各国の
GPS 受信機網データは、NICT・京大・名大が共同で策
定している GNSS-TEC Exchange (GTEX)フォーマ
図 27:GAIA モデルにより再現された
ットで標準化した TEC データに変換して共有するとい
電離圏 F 領域最大密度、電離圏上向き
う案を NICT が提案し、参加機関に受け入れられた。最
ExB ドリフト速度、熱圏下部中性大気
終日には、第 2 回 AOSWA ワークショップが 2013 年に
温度、地上での降雨量率分布。
中国の宇宙天気研究機関主催で行われることも発表され、
盛況のうちに終了した(論文 3-13)
。
インドネシア及び周辺諸国において、各研究機関が取
得している GPS データから GTEX フォーマットの TEC
データに変換するツールを開発・整備し配布を開始した
(図 24)
。本ツールは、東南アジア域などで多く利用さ
れている Windows 上で動作可能なソフトウェアで、多
数の GPS 受信機データを一括して処理できる他、簡易
的に 1 日毎の TEC 変動を表示できる機能を持たせ、ユ
ーザーによる GTEX フォーマット TEC データシェアへ
の利便性を向上させた。プラズマバブルなど赤道・低緯
度域の強い電離圏擾乱の発生は、赤道異常の発達や南北
非対称性など背景電離圏の時間発展や構造が影響する。
そのため、擾乱前の静穏な電離圏の正確な現況把握や予
測は重要である。論文 3-2 では、磁気赤道のチュンポン
における 2004-2006 年の GPS-TEC 観測結果と、電離圏
図 28:発行を開始した AOSWA ニュー
経験モデル IRI-2007 による TEC 予測値との統計的な比
スレター(AOSWA LINK)
。
較を行った。その結果、朝の時間帯において両者は概ね
一致するものの、最大昼間は 15TECU、夜間は 5TECU 程度モデルによる予測値が低く見積もられる
ことがわかった(図 25)
。このモデルによる TEC 過小評価は、プラズマ圏の寄与を考慮していないこ
47
と、あるいは電離圏スラブ厚が実際とは異なる
ことが示唆された。このことは、現在電離圏研
究に広く利用されている IRI モデルが、赤道・
低緯度域の電離圏予測には不十分であることが
示された。
論文 3-3 では、2004-2006 年の磁気赤道のチュ
ンポン及び中緯度の国分寺における GPS-TEC
観測とイオノゾンデ観測データから、磁気赤道
での電離圏スラブ厚を推定し、季節毎の変動を
調べた。その結果、磁気赤道では電離圏スラブ
厚が日出前に最大になること、中緯度に比べ電
離圏スラブ厚が極めて大きいことがわかった
図 29:2012 年 10 月 15-17 日タイ・バンコクで
(図 26)
。磁気赤道と中緯度での電離園スラブ
開催された ICAO/ISTF の参加者。
厚の違いは、プラズマ圏からのプラズマ供給の
違いで説明できることが示唆された。論文 3-4
では、2005 年 5 月 15 日の磁気嵐時における低
緯度電離圏変動について、複数の観測サイトに
おける複数の観測機器において詳細に調べた。
磁気嵐直後からの正相電離圏嵐や 2 日後の負相
電離圏嵐が GPS-TEC 観測で確認された他、磁
気嵐急始が日没後となる経度域においては、プ
ラズマバブルの発生によるものと考えられる
GPS-TEC の急激な減少と ROTI 増大が観測さ
れるなど、赤道・低緯度域電離圏における磁気
図 30: LAPAN 研究者による NICT 宇宙天気予報
嵐に対する一連の応答を明らかにした。また、
センターの見学。
電離圏変動を予測するためには精度の高い電離
圏モデルが必要であるが、地球の対流圏から中間圏・熱圏・電離圏までをシームレスにつなぐ新しい
モデル(GAIA モデル)の開発を開始し、論文 3-5 で報告した。このモデルにより、従来のモデルで
は正確な影響を評価することが難しかった対流圏活動の電離圏への影響を評価することが可能になっ
た(図 27)
。
平成 24 年(2012 年)度
昨年度に引き続き、インドネシア・コトタバン、タイ・チュンポン及びチェンマイ、ベトナム・バ
クリウ、フィリピン・セブにおいて、イオノゾンデや GPS 受信機等を用いた電離圏観測に必要な装
置の改修・機器の入れ替え、データ収集、保守作業等を行い、連続観測を実施した。さらに今年度は、
LAPAN がインドネシア国内の複数箇所で観測を行なっている GPS シンチレーション観測機器
(GSV4004B)と同型機種をタイ・プーケット及びセブに設置し、リアルタイム観測を開始した。本
観測点は、LAPAN の GPS シンチレーション観測サイトと相補的であることから、LAPAN と共同し
た広域リアルタイム GPS シンチレーション観測網構築の議論を進めた。
AOSWA については、事務局の運営を継続して行い、これまでのウェブサイト及びメーリングリス
トの管理に加え、新たにニュースレターを発行するなど、アジア・オセアニア地域における宇宙天気
研究者間の情報交換・共同研究を促進した(図 28)
。インド・マイソールで開催された COSPAR 期
48
間中(2012 年 7 月 13-14 日)に、ISES meeting が開催され、日本、インド、中国、オーストラリア
の RWC の代表間で、AOSWA の活動に関する議論を行った。また、2012 年 8 月 16 日にはシンガポ
ールで開催された AOGS2012 のセッション”Asia-Oceania Space Weather Alliance : AOSWA“を開催
し、13 件の口頭発表があった。このセッションの後に、第 2 回 AOSWA ワークショップに関するア
ナウンスがあり、2013 年 11 月に中国・昆明で開催予定であることが報告された。
各国の電離圏データ交換を促進するための GPS-TEC データ標準フォーマット(GTEX)の仕様策
定及び GPS 受信機データから GTEX データに変換するツールの改良を進めた。また、主要な宇宙天
気ユーザーである国際民間航空機関(ICAO)アジア・太平洋地域事務所の電離圏研究対策委員会
(ISTF)会議(2012 年 10 月 15-17 日タイ・バンコクにて開催)に出席し、ISTF 加盟各国の電離圏
データ共有の議論に参加した(図 29)
。当会議においては ISTF 加盟各国の電離圏データ共有のため
のフォーマットが決定され、NICT が策定・提案した GTEX フォーマットが採用された。
2013 年 1 月 22-24 日に LAPAN から 3
名の研究者が NICT を訪問し、宇宙天気
予報センターや予報業務の見学を行った
(図 30)
。また、今後の宇宙天気予報業
務を LAPAN で実施していくのに際し、
NICT に予報やその判断根拠となる情報
の共有、TV 会議、予報業務の技術移転
のための研修生の受け入れ等に関する議
論が行われた。その結果、今後研修生の
派遣等も含め、予報業務立ち上げのため
の協力や、準リアルタイムの宇宙天気デ
ー タ 交 換 促 進 の た め に は 、 NICT と
図 31:2005-2009 年のチュンポン(12:30LT)にお
ける GPS-TEC 観測値、NN 予測値、及び IRI モデル
値。
LAPAN 双方が合意した覚書(MOU)を
締結することが不可欠であるとの共通認
識が得られ、現在文案の最終調整等が行
われている。
論文 3-6 では、タイ・チュンポン及
びチェンマイにおける 2004 年 9 月-2005
年 8 月のイオノゾンデ観測データから得
られた電離圏 F 領域最大電子密度
(NmF2)の日変化及び季節変化につい
て、電離圏経験モデル IRI-2007 による
予測値との統計的な比較を行った。その
結果、日変化及び季節変化は概ね同様の
傾向があるが、モデルの予測値がほとん
どの季節において低く見積もられること
がわかった。また、磁気赤道のチュンポ
ンとやや高緯度側にあるチェンマイの
NmF2 観測値を比較した結果、どの季節
でも昼間の時間帯(9-21LT)でチュン
ポンがチェンマイより低い値を示し、赤
図 32:インド・トリバンドラムのイオノグラム N-H
解析により得られた電子密度高度分布の時間変化(a:
静穏時,b:磁気嵐時)と磁気嵐時のイオノグラム(c,
d)
。
49
道異常の発達がはっきりと現れていた。これらの結果は、赤道域の電離圏観測データの反映が不足し
ている IRI モデルの将来的な改善に寄与する。論文 3-7 では、ニューラルネット(NN)を利用した
赤道域 TEC 変動の予測モデルを開発した。磁気赤道チュンポンにおける 2005-2009 年の GPS-TEC
観測データと 1 階層型ニューラルネット(逆伝播法)を利用した。NN モデル予測値を実際の観測値
及び IRI-2007 モデルによる予測値と比較した結果、磁気嵐時の大きな変動については差が見られる
ものの、NN モデル予測値は IRI-2007 に比べて観測値を非常によく再現していることがわかった(図
31)。本モデルは赤道域電離圏変動の
予報に利用できると考えられる。論文
3-8 では、磁気嵐時の赤道域電離圏 E
領域と F 領域の電場が、東西方向に異
なる向きであったことを示す現象を初
めて明らかにした。インドネシア・コ
トタバンの磁場データ、SEALION 観
測データ、インド域の地上観測データ、
及び衛星観測データを利用し、2006
年 12 月 14-15 日に発生した磁気嵐時
図 33:(a)2-4 月(FMA)
、5-7 月(MJJ)および(b)
の電離圏の変動を詳細に調べた。イン
8-10 月(ASO)
、11-1 月(NDJ)における、チェンマ
ドから東南アジアにわたる昼間側赤道
イもしくはコトタバンで観測された北向き熱圏風(横
域電離圏において、高度 100km 付近
軸)とコトタバンとチェンマイで観測された hmF2 の
の E 領域では西向き赤道ジェット電流
差(縦軸)の関係。
が発達し、E 領域における強い西向き
電場の存在が示された。同時に高度
300km 付近の F 領域が ExB ドリフト
によって高高度に上昇し、F 領域にお
ける強い東向き電場の存在が示された。
電場の反転は高度約 280km 付近で起
こっており、この高度において通常は
見られない電子密度の低い領域が確認
された(図 32)
。論文 3-9 では、航空
機の離着陸時に利用される地上型衛星
航法補強システム(GBAS)に対する
プラズマバブルの影響を評価するため、
GPS シンチレーションモニターを開
発し、タイ・バンコクにおいて観測を
行った。また、単純化したプラズマバ
ブル構造を含む電離圏モデルを開発し、
GPS の電離圏遅延及びシンチレーシ
ョンの見積りと観測結果との比較を行
った。観測結果から、プラズマバブル
が発生した場合は、GBAS の利用可能
図 34: 5 ヶ所のイオノゾンデで観測された FSF(左列)
性(availability)が低下することが確
と RSF(右列)の例。
認され、モデルによるシミュレーショ
50
ン結果とも一致した。プラズマバブルによる強いシンチレーションが発生すると、GPS 信号のロック
損失が起こり、availability が低下すると考えられる。そのような場合でも、慣性航法装置(INS)の
補助があると availability が改善されることが確認された。
論文 3-11 では、インドネシア・コトタバンとタイ・チェンマイのファブリ・ペロー干渉計(FPI)及
びイオノゾンデを利用し、世界初となる熱圏風速の磁気共役点観測を実施した。FPI で観測された熱
圏風速の南北成分をイオノゾンデの磁気共役点観測から推定された風速と比較した。両観測で得られ
た風速は、概ね良い一致を示したが、異なる日もあった(図 33)
。イオノゾンデ観測による風速推定
では、コトタバンとチェンマイにおける熱圏風が一様であるという仮定をしており、熱圏風速に局所
的な変動がある場合に、両方法で求めた風速に違いが生じたと考えられる。論文 3-12 では、弱い太
陽活動期における赤道・低緯度域のスプレッド F 現象発生について、インドネシア(TNJ)、
タイ
(CGM)、
ブラジル(PAL、SJC)
、アルゼンチン(TUC)の 5 ヶ所のイオノゾンデ観測データを利用して調べ
た。2009 年の 3-4 月及び 9-10 月のデータを解析した。スプレッド F は、range spread-F(RSF)
と frequency spread-F (FSF)の 2 つのタイプに分けることができた(図 34)。南半球の赤道異常
帯に位置する TUC では RSF タイプが卓越するが、同じ南半球の経度が異なる SJC と北半球の CGM
では、FSF タイプが卓越していた。また、東南アジア域の CGM 及び TNJ は、南アメリカ域の PAL、
SJC、TUC に比べ、スプレッド F の発生が非常に低い傾向が見られた。低緯度域の RSF 及び FSF
の発生は、経度と南北半球の両方に依存して大きく異なるため、その発生メカニズムを明らかにする
ためには、より広い経度域におけるイオノゾンデ観測が必要である。
研究成果リスト
査読付き論文
3-1.
B. G. Fejer, M. E. Olson, J. L. Chau, C. Stolle, H. Lühr, L. P. Goncharenko, K. Yumoto, and T.
Nagatsuma, Lunar dependent equatorial ionospheric electrodynamic effects during sudden stratospheric
warmings, J. Geophys. Res., 115, A00G03, doi:10.1029/2010JA015273, 2010.
3-2.
Kenpankho, P., K. Watthanasangmechai, P. Supnithi, T. Tsugawa, and T. Maruyama, Comparison of GPS
TEC measurements with IRI TEC prediction at an equatorial latitude station, Chumphon, Thailand, Earth,
Planets, and Space, 63, 365-370, 2011.
3-3.
Kenpankho, P., P. Supnithi, T. Tsugawa, and T. Maruyama, Variation of ionospheric slab thickness
observations at Chumphon equatorial magnetic location, Earth, Planets, and Space, 63, 359-364, 2011.
3-4.
Bagiya, M. S., K. N. Iyer, H. P. Joshi, S. V. Thampi, T. Tsugawa, S. Ravindran, R. Sridharan, and B. M.
Pathan, Low-latitude ionospheric-thermospheric response to storm time electrodynamical coupling
between high and low latitudes, J. Geophys. Res., 116, A01303, doi:10.1029/2010JA015845, 2011.
3-5.
H. Jin, Y. Miyoshi, H. Fujiwara, H. Shinagawa, K. Terada, N. Terada, M. Ishii, Y. Otsuka, and A. Saito,
Vertical connection from the tropospheric activities to the ionospheric longitudinal structure simulated by
a new Earth's whole atmosphere-ionosphere coupled model, J. Geophys. Res., 116, A01316,
doi:10.1029/2010JA015925, 2011.
3-6.
Wichaipanich, N., P. Supnithi, T. Tsugawa, and T. Maruyama, Thailand low and equatorial F2-layer peak
electron density and comparison with IRI-2007 model, Earth, Planets, and Space, 64, 485-491., 2012.
51
3-7.
Watthanasangmechai, K., P. Supnithi, S. Lerkvaranyu, T. Tsugawa, T. Nagatsuma, and T. Maruyama,
TEC prediction with neural network for equatorial latitude station in Thailand, Earth, Planets, and Space,
64, 473-483., 2012.
3-8.
Tulasi Ram, S., N. Balan, B. Veenadhari, S. Gurubaran, S. Ravindran, T. Tsugawa, H. Liu, K. Niranjan,
and T. Nagatsuma, First observational evidence for opposite zonal electric fields in equatorial E and F
region altitudes during a geomagnetic storm period, J. Geophys. Res., 117, A09318,
doi:10.1029/2012JA018045, 2012.
3-9.
Tsujii, T., T. Fujiwara, T. Kubota, C. Satirapod, P. Supnithi, T. Tsugawa, and H. Lee, Measurement and
simulation of equatorial ionospheric plasma bubbles to assess their impact on GNSS performance,
Journal of Korean Society of Surveying, Geodesy, Photogrammetry and Cartography, Vol. 30, No. 6-2,
2012.
3-10. T. Nagatsuma, S. Watari, and K. T. Murata, Space Weather Monitoring and Forecasting Activity in NICT,
Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, Vol. 10, No. ists28, pp. Tr_7-Tr_9, 2012.
3-11. Nishioka, M., T. Maruyama, Y. Otsuka, T. Tsugawa, H. Ishibashi, K. Shiokawa, and M. Ishii, Comparison
of meridional thermospheric winds observed by ionosondes and Fabry-Perot iterferometers, Antarctic
Record (南極資料・和文誌), in press, 2014.
3-12. Pezzopane, M., E. Zuccheretti, P. Abadi, A. J. de Abreu, R. de Jesus, P. R. Fagundes, P. Supnithi, S.
Rungraengwajiake, T. Nagatsuma, T. Tsugawa, M. A. Cabrera, and R. G. Ezquer, Low-latitude
equinoctial Spread-F occurrence at different longitude sectors under low solar activity, Annales
Geophysicae, 31, 153-162, doi:10.5194/angeo-31-153-2013, 2013.
3-13. T. Nagatsuma, New Ages of Operational Space Weather Forecast in Japan, Space Weahter, 11, 207-210,
DOI: 10.1002/swe.20050, 2013.
3-14. Maruyama, T., G., Ma, and T. Tsugawa, Storm-induced plasma stream in the low to mid-latitude
ionosphere, J. Geophys. Res. Space Physics, 118, 5931-5941, doi:10.1002/jgra.50541, 2013.
3-15. Rungraengwajiake, S., P. Supnithi, T. Tsugawa, T. Maruyama, and T. Nagatsuma, The variation of
equatorial spread-F occurrences observed by ionosondes at Thailand longitude sector, Adv. Space Res.,
52, 1809-1819, 2013.
招待講演
2010 年
T. Nagatsuma, M. Kubota, T. Tsugawa, H. Ishibashi, H. Jin, K. Sakaguchi, T. Maruyama, and K. T. Murata,
NICT's South-East Asia Low latitude Ionospheric Network: SEALION, 2010 International Workshop on
Space Weather in Indonesia, Dec. 1-3, 2010.
T. Nagatsuma, S. Watari, H. Shinagawa, K. T. Murata, Space Weather Forecasting Acvitivity in Japan Current and Future -, 2010 International Workshop on Space Weather in Indonesia, Dec. 1-3, 2010.
T. Tsugawa, H. Ishibashi, H. Kato, M. Kubota, A. Saito, M. Nishioka, Y. Otsuka, T. Nagatsuma and T.
Murata, High-resolution total electron content observations of severe ionospheric disturbances using dense
GPS receiver networks, 2010 International Workshop on Space Weather in Indonesia, Dec. 1-3, 2010.
Tsugawa, T., H. Kato, M. Kubota, H. Jin, T. Maruyama, T. Nagatsuma, A. Saito, M. Nishioka, Y. Otsuka, W.
52
Miyake, P. Supnithi, and P. Kenpankho, High-resolution total electron content observations of severe
ionospheric disturbances using dense GPS receiver networks, Asia-Pacific Radio Science Conference,
Toyama, Japan, Sep. 22-26, 2010.
M. Nishioka, Plasma bubbles detected by GPS observations, WORKSHOP Coupling between the Earth's
atmospheric and Plasma environments, Bern, Switzerland, Sep 27 - Oct 1, 2010.
Tsugawa, T., H. Kato, M. Kubota, H. Jin, T. Maruyama, T. Nagatsuma, A. Saito, M. Nishioka, Y. Otsuka, W.
Miyake, P. Supnithi, and P. Kenpankho, High-resolution total electron content observations of severe
ionospheric disturbances using dense GPS receiver networks, 2010 Asia-Pacific Radio Science Conference,
Toyama, Japan, Sep. 22-26, 2010.
2011 年
T. Nagatsuma, S. Saito, K. Sakaguchi, M .Kunitake, Y. Miyoshi, K. Seki, and K. T. Murata, Development of
the NICT's Radiation Belt Prediction Model, 2011 International Workshop on Space Weather in Indonesia,
Bandung, Indonesia, Sep. 21, 2011.
T. Tsugawa, H. Ishibashi, M. Nishioka, H. Kato, K. Yamamoto, A. Saito, Y. Otsuka, T. Maruyama, T.
Nagatsuma, and K. T. Murata, Current status of NICT’s ionospheric observations in the Southeast Asia by
SEALION and GPS-TEC, 2011 International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung,
Indonesia, Sep. 21, 2011.
T. Tsugawa, A. Saito, Y. Otsuka, M. Nishioka, and T. Maruyama, The Commencement and Evolution of
Ionospheric Variations after the Great Tohoku Earthquake on March 11, 2011, AOGS 2011 Conference,
Taipei, Taiwan, Aug. 8-12, 2011.
2012 年
T. Tsugawa, M. Nishioka, H. Shinagawa, T. Maruyama, T. Ogawa, A. Saito, Y. Otsuka, M. Matsumura, T.
Nagatsuma, and K. T. Murata, Ionospheric Disturbances Detected by GPS Total Electron Content
Observation After the 2011 Tohoku Earthquake and Tsunami, Asia Oceania Geosciences Society (AOGS),
Singapore, Aug 16, 2012.
T. Tsugawa, M. Nishioka, H. Ishibashi, T. Maruyama, P. Supnithi, B. Muslim, A. Saito, Y. Otsuka, M.
Yamamoto, T. Nagatsuma, and K. T. Murata, Current Status and Recent Progress of NICT's Ionospheric
Observations in the Southeast Asia by GNSS-TEC and SEALION, Asia Oceania Geosciences Society
(AOGS), Singapore, Aug 16, 2012.
2013 年
T. Nagatsuma, K. Sakaguchi, S. Saito, Y. Miyoshi, and K. Seki, Operation and research of relativistic
electron flux forecast, 3rd International Workshop on Space Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia,
53
March 25-26, 2013.
T. Tsugawa, M. Nishioka, S. Saito, A. Saito, Y. Otsuka, and M. Ishii, Dense Regional And Worldwide
INternational GNSS-TEC observation (DRAWING-TEC) project, 3rd International Workshop on Space
Weather in Indonesia, Bandung, Indonesia, March 25-26, 2013.
54
4. LAPAN による宇宙天気研究
宇宙天気サービスの開始に向けて LAPAN は独自の取り組みを実施した。具体的には、インドネシア国内
に散在する観測所からの観測データ取得ネットワークの開発を進めた。また本課題の第 1 回国際ワークショッ
プ(2010 年 12 月、バンドン)にインドネシア国内のサービス需用者(インドネシアテレコム、衛星事業者、運輸
省など)を招き、サービスの必要性・重要性に関して議論した。これを契機として結成されたアジア・オセアニア
宇宙天気イニシアチブ(AOSWA)の第1回会合が 2012 年 2 月にタイ・チェンマイで開催されたが、LAPAN は
独自に研究者を派遣するなど積極的に参加した。
インドネシア研究技術省(RISTEK)は、若手研究者を国外の大学研究機関に 3 ヶ月官派遣する制度を開
始している。2012 年 6~9 月にはこの制度を利用して LAPAN から数名が RISH に派遣され、EAR 観測デー
タ解析について研修を受けた。
LAPAN は、さらに国連が支援する宇宙天気研究の振興の枠組みである International Space Weather
Initiative (ISWI)との議論を独自に進め、ISWI が毎年に大学院生・若手研究者向けに開催している ISWI ス
クールをインドネシアに誘致した。この会合(2012 ISWI & MAGDAS School)はインドネシア・チロトにおいて
2012 年 9 月に開催された。アジア・アフリカを中心として宇宙天気研究を行っている若い研究者が熱心に参加
し、宇宙天気研究の先進地域から参集した第一級の研究者による講義に熱心に取り組んだ。本課題からは、
代表者が講師の一人として参加することで支援した。この施策は LAPAN 研究者の水準向上に向けた優良な
研修であったと高く評価できる。
LAPAN は 2012 年に毎週 1 回の宇宙天気情報サービスをインドネシア国内に向けて開始した。今後は
NICT をはじめとする AOSWA 参加機関との交流等を利用して、サービスの拡充を進められよう。
以下の英文部分は、本課題の期間中の LAPAN 研究活動状況のまとめであり、LAPAN バンドン研究所の
Clara Yono Yatini 宇宙科学応用研究センター長が作成した。
LAPAN activities related to the cooperative research project “Indonesia Space Weather”
1.
Space Weather Information
We are starting to release weekly informarion related to the space weather parameters (solar activity
and prediiction of sunspot and flare, geomagnetic activity, ionospheric response, as well as monitoring
of space debris).
2.
Space Weather Research and Observation
a.
Solar Activity
Observing the Sun by optical and radio for getting information of sunspot number and solar activity
(solar radio bursts), modelling and research on the solar activity
b. Space Environment
Developing a software for tracking the space artificial objects
c.
Geomagnetic Activity
Monitoring the geomagnetic field from eleven observatories and developing models of regional quiet
days and geomagnetic perturbation
d. Ionosphere
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Monitoring the ionospheric conditions by ionosondes, beacon receivers, radars, radio communications,
modelling and research on the ionospheric condition related to space weather.
3.
International Workshop on Space Weather in Indonesia theme: RESEARCH Enhancement and System
Establishment for Space Weather in Indonesia
a.
1st Year 2010 (1 -3 November 2010) (Figure A)
b. 2nd Year 2011 (September 21, 2011)
c.
3 rd Year 2013 (25 – 26 March 2013) (Figure B)
Figure A: 1st workshop in December 2010
Figure B: 3rd workshop in March 2013
The speakers came from LAPAN, ITB, Japan (RISH, NICT, Nagoya University), and India. The
workshops are attended by researchers from LAPAN, ITB, RISH Japan, and India. The topics include
some contributed posters also displayed during the workshops
.
4.
ISWI & MAGDAS School 2012
ISWI & MAGDAS School on Space Sciece was held in Ciloto, near Bandung, 17 – 26 September 2012.
(Figure C)
The goal of the school is to develop the scientific insight necessary to understand the science, and to
reconstruct and forecast near Earth space weather. This includes instrumentations, data analysis,
modelling, education, training, and public outreach. The school also offers a special session on
Magnetic Data Acquisition System (MAGDAS) observation and data analysis which will be provided
by International Center for Space Weather Science and Education (ICSWSE), Kyushu University,
Japan.
Sponsors:
1.
Space Science Center, National Institut of Aeronautics and Space (LAPAN)
2.
The Scientific Committee on Solar Terrestrial Physics (SCOSTEP)
3.
NASA,
4.
International Center for Space Weather Science and Education (ICSWSE), Kyushu University
5.
Japan Society for the Promotion of Science (JSPS)
6.
RISH Kyoto University
RISH also participated in this school as lecturers
56
1.
Prof. Mamoru Yamamoto: Ionospheric Irregulaities
2.
Prof. Toshitaka Tsuda: Atmospheric Couping Processes
Figure C: ISWI & MAGDAS School in September 2012
5.
Visit Japan (23 – 26 January 2013; Clara, Buldan, Rizal)
RISH invited three persons from LAPAN to visit Japan.
6.
Visiting scientist
Visited RISH as visiting researcher
Name of visitor
:Dyah Rahayu Martiningrum
Supervisor
: Prof. M. Yamamoto
Duration : 28 June – 22 September 2012
Research topic
: Study of Equatorial Spread F
57
5. 赤道大気観測所共同利用
赤道大気レーダー(EAR)は平成 12 年度末に完成した大型大気観測用レーダーであり、インドネシア共和
国西スマトラ州の赤道直下に位置している。同種の MU レーダーと比べても最大送信出力が 1/10 である以外
はほぼ同等の性能を持っている。運営はインドネシア航空宇宙庁(LAPAN)との協力関係のもとに進められて
いる。現在では図 35 のように観測装置が充実した総合的な観測所に成長しており、平成 17 年度から全国・
国際共同利用を開始し活発に実施中である。共同利用の公募は年 1 回としており、専門委員によって審査を
行い、EAR 運営状況について議論を行い、観測時間の割当て等を行う。図 36 に共同利用課題件数の年次
推移を示す。これらのうち、インドネシア研究者による課題数は毎年3~5件である。本課題実施中(平成 22~
24 年度)には徐々に件数が増加した。例えば最終年度である平成 24 年度では、EAR 全国・国際共同利用を
実施した。採択課題数は、赤道大気観測所共同利用が 24 件、データベース共同利用が 5 件の合計 29 件で
ある。採択課題の内、4 件はインドネシア研究者による提案課題であり、日・イ以外からの提案課題は 3 件であ
っ
た。
インドネシア気象庁
GAWステーション
BLR, ソーダ-
山頂(約2km四方)はインドネ
シアの国有地であり、科学目
的用地として確保されている。
LAPAN事務局棟
流星レーダー
VHF電離圏レー
ダー (名大STE研)
EAR観測棟
地上気象観測
装置群
大気光イメージャ(名大)
多機能ライダー(首都大)
X-バンド気象レーダー(島根大)
GPSシンチレーション受信機(名大)
衛星回線用アンテナ
アイオノゾンデ
(独)情報通信
研究機構
図 35: 赤道大気レーダー観測所の全景(Google Earth より取得)
図 36: 赤道大気レーダー共同利用件数の年次推移
58
Ⅴ. 自己評価
1.目標達成度
提案時に掲げた目標を全て達成し、さらに目標を上回る達成部分がある。「目標2」に掲げた GPS 観測
データの収集については、観測網が大きいインドネシア国土地理院からのデータ提供が未達成である。
しかしながら相手のある交渉ごとの問題である。このデータ提供には LAPAN も強い興味を持っており、
共同で交渉を継続している。一方、目標を上回る達成としては、研究期間内の LAPAN による宇宙天気
サービスの開始、本課題の第1回国際ワークショップにおける議論を契機として形成されたアジア・オセ
アニア地域の宇宙天気関連機関の連携組織 AOSWA、アフリカから太平洋にかけての広い領域の観測
網整備、GPS データの標準 GTEX フォーマットの開発と普及等が挙げられる。以上まとめると、本課題の
目標達成度は計画を大きく上回ったと自己評価している。
2.成果
本課題では磁気赤道を中心として発生する電離圏の擾乱現象である赤道スプレッドF現象(プラズマ
バブルとも呼ばれる)の研究を中心として低緯度・赤道域の電離圏の研究を広く実施した。計画時の予
想を上回る成果としては、真夜中過ぎの ESF の研究が挙げられる。結果として 40 編もの査読付き論文が
公表できた。また共著者に東南アジアやインドの研究者が多く含まれていることは、我々の国際共同研
究ネットワークの広がりをよく示している。本課題の期間中には関連のある3件の受賞があった(P13)。こ
のうち COSPAR (国際宇宙空間研究委員会) Zeldovich Medal は宇宙科学では権威ある若手研究者表
彰である。電離圏分野では日本初の受賞を果たしたものであって、我々の研究水準の高さを示すひとつ
の良い例と考えられる。
3.計画・手法の妥当性
本課題では EAR による長期連続観測、広域観測網の構築、毎年1回のインドネシアにおける国際ワ
ークショップ開催を3つの柱として計画を推進した。これによって目標を計画を上回って達成できたわけ
であり、妥当な計画であったと評価している。本課題の期間中には、この他に赤道大気レーダー10 周年
記念シンポジウム、第 1 回の AOSWA ワークショップ、LAPAN が誘致した国際宇宙天気イニシアチブに
よる国際学校も開催され、それぞれ国際共同研究ネットワークの構築に貢献した。
4.実施期間終了後における取組の継続性・発展性
平成25年度に科研費(基盤研究B(海外学術調査))が発足した。また同時に発足した日本学術振興
会研究拠点形成事業(Bアジア・アフリカ学術基盤形成型)にも参加しており、これらを通じて本課題の取
組を維持発展できる。一方、RISH は「赤道MUレーダー」を概算要求中である。この要求は高く評価され
ており、日本学術会議のいわゆるマスタープランの研究計画の一部に含まれている。さらに本課題の後
継プロジェクトとして、SATREPS への提案を準備中である。これらの取組み例から、本課題の終了後の継
続性・発展性も、計画時の予想を上回って達成されたと自己評価している。
5.その他
特になし
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