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(3)トキによる水稲作稲株の踏みつけ

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(3)トキによる水稲作稲株の踏みつけ
100226 第 12 回トキ野生復帰専門家会合資料
(3)トキによる水稲作稲株の踏みつけ
○調査方法および結果
・ 田植え後の水田におけるトキの稲株踏みつけの状況を明らかにするため、水田を利用す
るトキを 5 分間観察し、歩数および踏みつけた稲株数を記録した。また、トキによる踏
みつけの影響を明らかにするため、利用が確認された水田において踏みつけられた稲株
を識別し、生育の指標として分げつ数および自然高を計測した。
・ その結果、佐渡島内の全 4 個体について歩行や採餌など水田の利用および稲株の踏みつ
けが確認された。5 月 14 日から 6 月 15 日までに述べ 15 日間、10 地点において実施し
た 5 分間の観察では、水田における歩数は 127.7±43.8 歩 (n =46、平均±標準偏差)、引
っ掛け程度を含む踏みつけられた株数は 6.3±4.5 株 (最小 0 - 最大 14 株)となり、歩数
の約 5%で踏みつけが確認された(図 4-2)
。
○水田の利用および観察の状況
・ 5 月上旬から中旬の田植え直後より、水田の利用が確認された(図 4-3)が、観察を行
う際のトキとの距離や位置関係から、稲株の識別が困難な場合が多かった。
・ 6 月下旬においても水田の利用が確認されている(図 4-4)が、6 月中旬以降、稲の自
然高が約 30-40cm に達し、歩数の計測や稲株の識別が困難となった。
○踏みつけおよび踏みつけられた稲株の状況
・ 畦や条に沿って歩行や探索する際など、稲株をほとんど踏みつけない場合もあった。
・ ドジョウやカエルなどを捕獲する際、追いかけるなどして一時的に速足となることで、
歩数および踏みつける回数が増加する傾向にあった。
・ 田植え後の初期の段階では稲株全体を踏みつけ、倒伏する場合も確認されたが、稲の成
長に伴い株の一部を踏みつけたり、引っ掛け程度となる場合が多くなる傾向にあった。
・ 踏みつけられた稲株のうち、識別した稲株はすべて生育が確認された(図 4-5)
。
・ 9 月中旬(刈り取り前約 1-2 週間)における 1 株当たりの穂数は、踏みつけられた株で
11.3±4.7 本(平均±標準偏差)
、周辺株で 18.0±4.8 本、対照株では 18.6±4.3 本となり,踏
みつけられた株と周辺株・対照株では違いが認められた(kruskal-wallis 検定,χ2=20.1,
d.f.=0,p =0.000)
。
・ 周辺株と対照株では穂数に違いが認められなかった(steel-dwass の全群比較,S=0.151,
p =0.927)。
26
4
6
数 (株 )
分間に踏みつけた株
5
8
10
12
14
100226 第 12 回トキ野生復帰専門家会合資料
図 4-3 田植えから約 1
0
トキの 5 分間の歩数お
よび踏みつけた株数
(n =46)。
2
図 4-2 水田における
0
50
100
150
200
250
週間後の水田におけるト
キの足跡。歩幅は約
15cm。
5分間の
歩数 (歩)
図 4-4 稲の生育に伴う
トキによる水田の利用の
状況。
a 水田で採餌する No.11(5 月 14 日)。 b 水田で採餌する No.06(5 月 25 日)
。 c 水田で採餌する No.11(6 月 18 日)
。
稲の自然高は約 10cm。
稲の自然高は約 20cm。
稲の自然高は約 25-35cm。
図 4-5 踏みつけられた
a 踏みつけられた稲株は倒伏 (6 月 6 b 踏みつけられた稲株は分けつ数が c 踏みつけられた稲株は分けつ数が
日)。
6-15 本程度に生育(6 月 13 日)
。
10-20 本程度に生育(6 月 25 日)
。
( )
1株あたり の穂数 本
20
25
30
稲株と周辺株の生育状
況。
稲株は穂数 10-15 本程度
に生育(9 月 16 日)
。
対照株
15
10
踏みつけられた株
27
周辺株
a
5
図 4-6 踏みつけられた
株および対照株における 1 株あた
りの穂数(太線は中央値、実線は四
分位、エラーバーは外れ値を除く最
大・最小値をそれぞれ示す。異なる
記号は有意差が認められたことを
示す。
)
b
0
図 4-7 踏みつけられた稲株、周辺
b
5.モニタリングの結果に基づく課題と今後の対応
(1)トキの放鳥について
○放鳥方法について
・ 今回放鳥式典と併せてハードリリースで放鳥を実施したことについては、昭和 56 年のトキ全
鳥捕獲以来 27 年ぶりに日本の空にトキが舞うという記念すべきイベントを、全国的に発信す
る普及啓発効果は高かった。しかし、放鳥時に地域住民など約 2000 人の見物客が集まったこ
とで、箱から飛び出したトキが驚いて、放鳥場所から離れてバラバラに行動してしまい、結
果として群れをつくらなかったと考えられる。今後の放鳥でもある程度の普及啓発効果は期
待するものの、よりトキが群れを形成しやすく佐渡に定着しやすい方法で放鳥することが望
ましい。そのため、当面の放鳥はそうした効果が期待できるソフトリリースを中心に実施す
る。
・ 一方、ハードリリースはコストがかからないというメリットがある。島内で複数の群れが形
成されており、たとえ放鳥直後に分散してもいずれかの群れに合流できる可能性が高い状態
であれば、ハードリリースでの放鳥も検討する。
(参考)
第 1 回放鳥とソフトリリースで行った第 2 回放鳥の、放鳥直後一ヶ月間のトキの確認位置を
比較すると、ハードリリースでは放鳥場所から離れて島内に広く分散しているのに対し、ソフ
トリリースでは放鳥場所付近に集中している(図 5-1)
。
図 5-1)第 1 回放鳥および第 2 回放鳥直後一ヶ月間のトキ確認位置の比較
第 1 回放鳥(2008/9/25~2008/10/31)
第 2 回放鳥(2009/9/29~2009/10/28)
※凡例については、
「1.トキの移動状況等について」参照。第 2 回放鳥は第 1 回放鳥の凡例に関わらず、色毎に第 2 回放
鳥トキの個体番号を示す。
28
○放鳥時期について
・ 稲刈り後でエサ場面積が増える、群れ形成が期待できる、換羽後の方がよい、農閑期の方が
農作業への影響が少ないなどの理由から、9 月末に放鳥を実施した。群れの形成はなかった
ものの、放鳥による農作業への影響を避けられたこと、放鳥直後にエサ不足で死亡する個体
もいなかったことなどから、放鳥時期の設定としては適切であったと考えられる。
・ 9 月末の稲刈り後はエサを取れる場所が増えると考えられるが、3 ヶ月ほどで冬を迎え、一年
中で最もエサ生物量が少ない時期になる。第 1 回放鳥では冬にエサ不足で死亡する個体は確
認できなかったが、エサ量の多い春・夏に放鳥する方がよりトキの生存や定着にとっては望
ましいという意見もあるため、今後は春から夏にかけての放鳥も検討する。ただし、3~4 月
頃には行動範囲が広くなる個体が多かったことや、本州に移動する個体が 3 月に多かったこ
とから、この時期の放鳥は群れの形成に影響を与える可能性があるため放鳥時期としては適
当ではないと考えられる。
○放鳥数について
・ 第 1 回は試験放鳥で、モニタリング体制を確立し、トキの行動をできるだけ詳細に観察する
ことが目的であるため、10 羽という数は適当だったと考えられる。しかし、トキが群れをつ
くるためには放鳥個体数が多い方がよいと考えられることから、今後の放鳥では飼育個体数
や施設の許容量を考慮したうえで、できるだけ多くの個体を放鳥する。現在のところ、順化
ケージで同時に訓練可能な最大羽数は 20 羽前後であるため、一回の放鳥では 20 羽前後が最
大となる。
・ 第 1 回放鳥予定個体の 15 羽中 2 歳以上の 12 羽が 6 組のペアをつくり、うち 4 組のペアが造
巣、産卵に成功したが、孵化まで成功したのは 1 ペアのみだった。営巣空間が制限されてい
たことや営巣木が不足していたことが原因と考えられる。そのため、順化ケージで繁殖をさ
せることを想定した場合は、10 羽前後が適当であると考えられる。
○個体識別及び GPS 送信機について
・ 翼に付したアニマルマーカーは個体識別には非常に有効であったが、繁殖行動へ影響を与え
る可能性が指摘されている。一方で、順化ケージ内ではアニマルマーカーを付けたペアが繁
殖に成功したことも確認されており、影響の有無は分からない。今後はアニマルマーカーを
目立たない位置に着色するように工夫するとともに、引き続き飼育下での観察を続ける。
・ アニマルマーカーの色については、青と緑が区別しづらかったため、今後は緑を薄めの色に
する。また、赤は血が付いていると間違えられる可能性があるため、第 1 回放鳥では使用し
なかったが、アニマルマーカーへの理解も進み、個体識別のパターンを増やす必要があるこ
とから今後は使用する。
・ アニマルマーカーは紫外線等により退色し、換羽で全身の羽が抜け替わってしまうため 1 年
間しか有効ではない。しかし、一部のトキで雤覆内側の羽が抜け替わらずに残っていること
が確認されている。換羽は 6 月頃から始まり、9 月頃にはおおむね終了するため、9 月末頃に
着色すると最も長く有効であるが、放鳥時期や順化訓練期間によっては難しい場合もある。
その場合は雤覆内側に着色すれば換羽後も色が残る可能性がある。
29
・ カラーリングと番号入りカラーリングは、個体を識別する上で有効であったため、今後も継
続して装着する。しかし、カラーリングについては時間が経つと、泥で汚れて色が分からな
くなってしまったため、今後は足関節の上部に装着する。また、個体識別のパターンを増や
すため、2 色から 3 色に変更する。
・ 第1回放鳥では、交尾等繁殖行動への影響を考慮してメスは 1 個体(No.04)しか発信機を装
着しなかった。このため、それ以外のメスは、本州に渡り長距離を移動した時の動きを十分
に追跡することができなかった。今後は広範囲に移動する可能性が高く、目視での観察だけ
では追跡が難しいと考えられるメスへの送信機の装着数を増やす。また、繁殖への影響の有
無については不確定なため、飼育下での確認実験を行うが、繁殖への影響が明らかになるま
では、GPS 送信機を装着し、モニタリングによりトキの行動を追跡することを優先させる。
・ 佐渡では冬期に悪天候が続くため、ソーラー型の発信器では充電が十分できないのではない
かとの懸念があったが、大きな問題はなく発信されることが確認された。また、バッテリー
型は当初の想定通り 1 年間で寿命を迎え、発信が途絶えている。このため、今後はソーラー
型の GPS アルゴス発信器を装着していく。
○飼育下における各個体の関係
・ 佐渡市の羽茂地区で安定的に同一行動が見られた№06と11が、野外に放鳥されるまで常
に同じケージで飼育されていた。しかし、同様に安定的に同一行動が見られる№01と09
では、順化ケージに入れられる直前の 2 ヶ月程度しか一緒に飼育されたことがなかった。第
1 回放鳥個体だけではまだ例数が少ないため、群れ形成への影響について、今後とも継続し
て検討していく。
30
(2)生息環境について
⑥
①
②
③
④
⑤
⑦
⑧
①
ビオトープや湿地では、トキが利用しやすい浅い部分を確保する。
②
調整水田をパッチ状に配置することで、田植えから稲刈りまでの餌場として利用できると共に、田植え後の時期には踏みつけ害の回避が期待
できる。
③
降雪が少ない時には開放水面となるため、積雪期の餌場としては有効。また、水田の落水期には生物の待避場所となる。
④
刈り取り後は粗く耕起して乾燥しないよう湿った状態にする。トラクターの轍に水が溜まったり、部分的に水が浅く張っていたり、土や稲株
の塊があるなど、多様な状態を創出する。暗渠の栓を閉めるだけでも、簡単に湿った状態を保つことができる。
額縁減反や水田内ビオトープなど水田の一部に稲を植えない部分を作ると、田植えから稲刈りまでの餌場として利用し、踏みつけ害の回避も
期待できる。
⑤
トタンやシートを利用している畔では、土が出るように工夫する。
可能な限り除草剤は使用せず、定期的に草刈りを行うことで、主に田植えから稲刈りまでの餌場として利用しやすい環境をつくる。
⑥
現状ではトキは餌場として利用しないため、低木・高茎草本の刈り取り、耕起、湛水等の管理を行い、餌場として利用できる環境に再生する。
⑦
沢沿いの水田は、周りの斜面から湧水がしみ出している場所が多く、積雪時には開放水面を確保しやすい。そのため、湧水を利用して凍結や
積雪のない餌場を確保することが、冬期には有効な対策となる。
⑧
過去には夏期に山地渓流でサワガニを捕食する事例が知られているが、これまでのモニタリングではそのような例は観察されていない。渓流
沿いに草木が繁茂しており利用しづらいことが原因と考えられるため、これらの草木を適度に刈り取れば利用する可能性がある。
31
(3)ねぐら、止まり木について
・ 森林が管理されないまま放置されて密になってしまうと、トキが利用できる空間がなくなってしまうため、
適度な間伐等を行い、明るい森林環境をつくることが望ましい。止まり木は餌場の近くにある場合が多い
ため、餌場付近の森林を優先的に管理するのがよい。
・ 放鳥トキは枯れ木を利用する頻度が非常に高く、松くいやナラ枯れ対策の他、安全対策のために伐倒の必
要性がある場合を除き、山林の枯れ木を伐倒せずに極力残す。
・ トキが頻繁に利用する止まり木や長期間利用しているねぐらについては、トキの重要な生息環境となって
いるため、場所に応じて不必要に人が近づかないような対策を立てる。
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