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シンポジウム ヨコハマこどもの地域医療
「平成 22 年度 地域医療を支える市民活動推進事業」 シンポジウム ヨコハマこどもの地域医療 ~言いたい!聞きたい!小児医療のイロイロ~ ・ 市民、医療機関、子育て支援団体、行政それぞれの立場を超えて、今後の小児の地域 医療について考え、今後の施策に反映させることを目的として、シンポジウムを開催 しました。基調講演では、横浜市立大学小児科・横田教授から、小児救急医療をめぐ る状況の報告と、今後の施策や取り組みについて提言がなされました。パネルディス カッションでは、パネラーそれぞれの立場から活動報告や意見が出され、活発な議論 が展開されました。また市からはアンケート調査結果の報告と、各区の取り組みを報 告しました。 ・ 当日は約 180 人が参加し、会場からも「小児救急の現場の状況が理解できた。」「親達 が学ぶ機会を積極的につくってほしい。」等の感想が出されました。 実施概要 ◆日時:平成 22 年 12 月 19 日(日)午後 1 時 30 分~3 時 30 分 ◆会場:横浜市社会福祉センター大ホール ◆プログラム 1 基調講演 「すべてのこども達のために・・・医療が子育てにできること」 横浜市立大学 小児科教授 横田 俊平 (横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学教授) 2 小児救急医療受診に関するアンケート調査報告他 健康福祉局医療政策課 3 田中靖(課長) パネルディスカッション 「今、みんなで考える小児救急のこれから」 コーディネーター:横田 俊平(横浜市立大学小児科教授) 地域医療機関代表:吉田 義幸(横浜市小児科医会・吉田こどもクリニック院長) 子育て中の市民 :千葉 明子(4 人のこどもの母) 子育て支援団体 :松岡 美子(よこはま 1 万人子育てフォーラム代表・緑区地 域子育て支援拠点 行政代表 :林 文子(市長) 「いっぽ」施設長) 「シンポジウム ヨコハマこどもの地域医療」チラシ 基調講演 『すべてのこども達のために…医療が子育てにできること』 この春まで日本小児科学会会長に就いており、全国の状況が把握できました。最近、 小児科医の研修制度が変わり地方の大学には小児科を志す人が少なく、山形、岩手、 宮崎がここ 5 年間で新しい小児科研修医は 1 人という状況があります。何年か経ったと きに、そこの小児科医はいなくなる状況があり、国内で地域差がでてきています。 今回、横浜市からシンポジウムのお話をいただいて、医療を受ける皆さんの思いや問 題を教えていただく機会を沢山持ち、私達の医療に生かすことが大事と考えました。 今、 「小児救急」は非常に大きな問題になっています。 「救急」という言葉に綾があり、 発熱で受診をしても「救急」、命に関わるような状況でも「救急」です。私達は、翌日の 受診でもよかったという「救急」を「急病」と呼んでいます。 「救急」の究極の姿は、 「救 命救急」という形があります。 「救急」なのか「急病」なのかという点でも、市民意識と、 小児科医の感じ方が違います。市民アンケート調査の中で夜間救急センター受診の理由 の 80%が「発熱が心配で受診」です。それに対して、私達医療側が、 「発熱」で考えるこ とは、「髄膜炎や脱水症」が心配になりますので小児科医は医療機関の受診を勧めます。 この「発熱」が受診の大半の理由で、医師も心配になる「髄膜炎」は、「Hib ワクチン」、 あるいは「肺炎球菌ワクチン」を打つことで、ほぼゼロに近い値にできます。このワク チン接種は、発熱の受診対策になります。 それから大事なことは、お母様方が経験を積んで欲しいという事です。「母親力」とい いますが「熱があっても元気なら大丈夫だろう」と、いうような経験を積み、もしくは 経験のある方と話ができる状況を作り、家庭の看護力を培ってください。 お母さん達が求める医療は、小児医療が提供できる現状との乖離が随分ある感じがし ます。例えば、発熱時に近くの小児科の先生がいていつでも診てもらえることを頭に描 くと思いますが、小児科医はそんなにたくさんいません。すると、限られた小児科医に 沢山の負担がかかることになります。「近い」 、 「いつでも」の条件を満たす為には、よほ どの仕掛けが必要です。 日常の臨床の中でも、お母様方の気が短くなってきており、重症患者だから先に診察 する私達の立場を、なかなか理解していただけないことがあります。小児医療の現状は、 統計では小児科医の総数は変化がなく、開業医が増えている、つまり勤務医が非常に減 っていることを表しています。また、地域の偏在も大きく、大都市に小児科医が集中し ています。そして、小児医療の裾野が広がり、ADHD や不登校児も小児科医が診るように なり、心の問題も扱うようになってきています。片や、小児救急で日夜を問わない診療 を要求されます。また、健康なこどもの保健をサポートすることも加わっています。今 後の小児医療のあり方について、一般の急病を必ず小児科医が診なくてはいけないのか、 小児科の専門研修を受けた医師が大きな病院に沢山いて、質の高い医療を提供するのが 我々小児科医の役割だろうと考えます。以前、横浜市の小児救急は、毎日違う病院が行 っていましたが、それを止め小児救急拠点病院を整備しました。 小児科医は、基本は健康なお子さんを診てその健康を維持すること、病気のお子さん に質の高い医療を提供すること。障害児のケアネットワークをサポートすること。この 3 つが、小児科医の重要な役割と思っています。それは、新生児、乳児期、思春期という 時間的な縦軸の中で、このような問題が提供されていくべきだろうと思います。 医療の理想として、こども医療センターと 4 大学病院が、サブスペシャリティー、い わば専門的役割をとり、そこと小児救急拠点病院が地域の診療所、あるいは障害児の在 宅管理と繋がり医療を提供していく、この大きな流れを推進していくべきだろうと思い ます。横浜市は、全国に先駆けて小児救急拠点病院構想を実現し、市内7病院に 11 人以 上の小児科医を揃えることを目指し、24時間365日の小児救急を受けています。こ のシステムが威力を発揮したのが新型インフルエンザでした。重症例は大学病院へ運び、 入院が必要で人工呼吸器の不要な場合は小児救急拠点病院で短期入院をする、この情報 を中央情報センターに送り、市内の入院対応が大変うまくいきました。 お子さんの体調が悪い時には、1 番目はお子さんをしっかり見るということも大事です が、日本小児学会では、 「こどもの救急」というサイトを作っておりますのでご利用いた だくこと、2 番目は小児救急電話相談等を活用し相談すること。3 番目は夜間急病センタ ーを受診する、あるいは救急車を呼ぶなど段階的に進めるものです。 こども達は次世代の魂です。こども達の健康を保持し病気のこども達を助けていくこ とは、我々大人の役目です。是非こども達に良いシステムを作って、お母さん達もしっ かりと子育てを行ない、困った時にはいろいろ相談できる人を作ること、これがとても 大事な点だと思います。 報告:『小児救急に関する医療者・市民アンケート調査の結果及び啓発活動の取組』 小児救急に関する調査を、市民向け、医師向けと行いました。市民向けには、3 歳児健 診を利用し、保護者 672 名の方に回答していただき、医師については、小児救急援拠点 病院で働いている医師 49 名から回答をいただいています。医師からは軽症者の増加とそ の要因、市民からは一番多い受診症状や、小児救急に関して行政に期待することなどが 明らかになりました。 今年度は地域医療を支える市民活動推進事業で、各区で様々な取組みをしております。 18 区共通で、小児救急キャラバンという取組みを行っています。日本赤十字社神奈川県 支部の協力を得まして、日赤の講師、それから横浜市の病院職員が各区を巡回し、横浜 市の小児救急医療について現状をお話しし、共に考えてもらうことや、怪我とか病気の 時の対処方法などの実務的な講習会等をやっています。区の既存の事業を活用し、地域 子育て支援拠点事業や保育園の講座など様々な場面で行っております。 また各区共通の取組み以外に、区の実情に応じ、いろいろと取組みを工夫して行って います。区民祭りで小児救急医療の啓発コーナーを行った神奈川区や都筑区、それから 保土ケ谷区では、消防署と連携して、啓発用マグネットを作成し冷蔵庫に貼り付けまし ょうと配っています。西区、戸塚区では実務的な研修を行っており、合計 13 区で取り組 んでいます。 企業とのコラボレーションでは、平成 19 年度より、横浜市では医師会の監修協力を受 け、ベネッセコーポレーションと協働で人気キャラクターの「しまじろう」を使った啓 発冊子を、4 ヶ月健診で配布しており好評を得ています。 パネルディスカッション 「今、みんなで考える小児救急のこれから」 吉田氏「開業医の立場から、初期救急医療機関での小児救急の現状と課題をお話します。 初期救急の小児患者は若干の減少傾向ですが、急患でない患者さんも多いことも 事実で、症状が軽い患者さんは翌日かかりつけ医を受診するほうがよいと考えます。 その理由は、重い感染症をうつされる可能性があること、発症したばかりの段階で は診断がつかないこと、待ち時間が非常に長くなり診療時間が短くなること、スタ ッフの負担が増え、医療事故の原因にもなり得ることです。 しかし、すぐに救急にかかるべきか否かを正しく判断することは簡単ではありま せん。その判断の助けになるものが、 「小児救急のかかり方ハンドブック」であり、 また「小児救急電話相談」です。 小児科開業医にできる最も重要なことは、良いかかりつけ医になることです。良 いかかりつけ医なら状態が急変しそうな場合、どういう時に救急にかかればよいか を指示してくれるはずです。お母さん方は、積極的に質問してください。的確なア ドバイスがない場合は、かかりつけ医を変えたほうがよいかもしれません。 市民の皆様は是非こどものかかりつけ医を探してください。横浜市行政には、 Hib ワクチン、肺炎球菌ワクチンの公費補助に関する医師会への協力を是非お願い したいと思います。」 千葉氏「西区で4人のこどもの母をしています。うちのこども達は、いろんな病気のバッ クグラウンドがあるので、初期救急も二次救急も三次救急もいろいろなところの小 児救急を受診しました。私の経験や周囲の話を聞くと、実際に夜間救急に行くので はなくて、昼間個人の診療所や小児科にかかっていることがほとんどです。でも、 薬を飲んでも熱が下がらなかったり、ぐったりした子供の様子を見て不安がいっぱ いになると思います。そのなかで、先生達の「大丈夫だよ」という一言に、とって も救われました。 主治医を見つけることは、本当に安心感に繋がります。私は、初めてお母さんに なった人にも、先生見つけるといいよと言っています。 親の第一歩として、まず信頼関係のおける主治医を見つけること、そして、お母 さん達の仲間作り、また場所があると、うちの子どうかなっていうのがわかると思 います。 親からの期待ですが、小児科の先生達は不安感があるという前提で診て欲しい。 地域子育て支援拠点などで意見交換できる場が欲しいと思います。 そして、行政は、ワクチンが本当に実施できるのであればそれは、切に願います。 あと、繰り返し今後も何度でも何度でも記憶に残るように、救急情報のことはいろ んなところで情報提供して欲しいと思います。 」 松岡氏「地域子育て支援拠点は、0 歳から 6 歳までの親子でしたらどなたでも利用できます。 お話を聞くことも、情報を皆さんに伝えることも、こちらから情報を発信すること もできます。 病気になってからだと、親はあわててしまいます。病気になる手前、つまり、母 子保健と言う分野がとても重要になります。 実際に今運営している地域子育て支援拠点『いっぽ』ですが、ここで母子保健に 関する講座をやっています。歯科衛生士や緑区の歯科医師会が協力して頂き、地域 子育て支援拠点に出向いてお話をしてくださいます。一人ずつ丁寧にブラッシング をすると、健診で泣き叫んだ子が誰も泣き叫びませんでした。 診察室ではない身近な地域子育て支援拠点、広場で、医師と親とが話ができるよ うな場を持ち、お互いにわかり合えることで、むやみに病院に駆け込むことが減る のではないかなと思います。」 市長 「Hib ワクチン等の対策ですが、横浜も実施していきます。 横浜市では 24 時間 365 日の小児救急拠点病院が 7 箇所整備済みです。また、小 児救急電話相談の時間帯を拡げたところ、相談件数は 1.7 倍増加しました。啓発活 動の推進ですが、小児救急キャラバンを 18 区で日本赤十字社神奈川県支部と協働 でやらせていただいて、ご相談を受けています。 行政だけでやれることには限界があります。医療の現場の先生方 NPO の皆様、 子育て中の皆様と、率直なお話のなかから進めていきたいと思っています。」 ---------------------教育現場における啓発についても議論されました--------------- 吉田氏「学校医の仕事は健診がほとんどです。それ以外に、医師会では、喫煙防止事業を 行っています。また、講演会とか親とのコミュニケーションをとることが非常に 大事だと思ってます。」 千葉氏「先生やお医者さんの一言がこんなに効果があるんだな、こんなに覚えているんだ と、実感しております。なので、学校教育に病気と健康の教育があれば変わると 思います。」 松岡氏「地域子育て支援拠点では中学生にボランティアに来てもらい、赤ちゃんと接しま す。こどもが生まれた後はどれだけ大変かということは性教育でもあります。」 市長 「主に中学校の技術家庭科の時間とか、横浜の時間という総合的な学習の時間があ りますが、それらを中心にして授業のなかで、小さいお子さんと中学生のふれあ い教育を実施している学校もあります。」 横田氏「ご質問のなかにも、母子手帳に QR コードを付けるような対策が立てられないか とか、困ったお母さん、こどもさんの駆け込み寺を作れないか、こども達の居場 所がない等、ご質問として上がってきています。また今後も皆様からのご意見を いただきながら、住んでよかった、そういう横浜市にしたいと思います。」