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4.3 都市・自治体マネジメントの形成のために

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4.3 都市・自治体マネジメントの形成のために
このような課題を克服するために、現在、M 市ではホールシステムアプローチによる組
織変革・地域開発に取り組んでいる。平成 19 年度はアクションラーニングによるチームビ
ルディング18、平成 20 年度からは、AI・OST・フューチャーサーチ19などを活用し、後期
基本計画の策定プロセスを通じて組織や地域の変革を実現しようとしている20。
3)都市ビジョンの相違がマネジメント・スタイルにはあまり関係がない
当初は、生活都市・産業都市・拠点型都市というような都市ビジョンの相違によって、
マネジメント・スタイルにも違いがあるのではないかという問題意識があったが、インタ
ビュー等を通じても、両者の間の明確な関係は確認できなかった。
O 市では、現在も将来もともに産業都市としてのビジョンを描いているが、新総合計画
策定プロセスにおいても、市民総参加のまちづくりを掲げている。産業都市としての特徴
はステイクホルダーの構成が一部異なるものの、参加・協働型の丹念な設計でのマネジメ
ントを志向しており、生活都市における設計とプロセスやコンテクストで大きな相違はみ
られなかった。
4.3 都市・自治体マネジメントの形成のために
今回のアンケート調査及びインタビュー結果を総合すると、以下のような推論が導かれ
る。
(1) 日本の自治体の多くは、先導・管理型マネジメント・スタイルを志向していると思わ
れるが、それを具体的なマネジメント手法を導入することで実現できると考えている
ケースが多い。
多くの場合、たとえば行政評価や SWOT 分析を導入すれば意志決定プロセスが大
きく変わる、たとえば施策の重点化やメリハリ、事業の取捨選択ができるといった
幻想にとらわれているのではないかと思われる。しかしながら、マネジメント手法
の導入や情報づくりはマネジメント全体の設計をしたうえでないと、手法や情報の
位置づけや範囲が定義できないためうまく機能しないことがほとんどである。
(2) 日本の自治体で、先導・管理型にせよエンパワーメント型にせよマネジメント・スタ
イルとして確立しているケースはあまり多くなく、多くは先導・管理型のイメージを
置きながらの設計段階にあると思われる。
マネジメント全体を設計しているケースもそうでないケースも、現実には先導・
管理型のマネジメント・スタイルやその手法の適用を意図していることがほとんど
である。ただ、マネジメント・スタイルを確立していると思われるケースは少ない。
(3) 日本の自治体では、エンパワーメント型マネジメント・スタイルは一般的ではなく、
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大住(2008)を参照されたい。
フューチャーサーチについては、Weisbord & Janoff,(1995)を参照されたい。
大住(2009)を参照されたい。
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また認知度も低い。
アンケート調査では、組織を中心にエンパワーメント型の設計を想定した選択肢
を置いたが、自由記述もあわせてみるとエンパワーメント型を志向しているケース
もきわめて少ないだけでなく、エンパワーメント型の理解が進んでいないことが明
らかとなった。
(4) 具体的なケースからみる限り、都市ビジョンとマネジメント・スタイルとの関連性は、
明確にはならなかった。
(5) 先導・管理型マネジメント・スタイルが持続可能であるかどうか、つまり先導・管理
型からエンパワーメント型への移行が必要なのかどうかは、必ずしも明確ではない。
先導・管理型からエンパワーメント型への転換を図っているケースはある。しか
し、先導・管理型マネジメント・スタイルが、環境変化のスピードが著しく早い現
代社会で持続可能かどうかこの点は不明である。今後の検討を待ちたい。
(むすび)
自治体マネジメントをどう創るか−という設問に対する糸口を経営学の3つのアプロー
チと先導・管理型とエンパワーメント型の二つのマネジメント・スタイルの形成の可能性
を考えた。
先導・管理型マネジメント・スタイルを創るには、三つのアプローチのいずれでも構築
できるであろう。それは、都市・地域、組織、チームの価値形成を体系的に創り上げてい
くことだからであり、三つのレベルの価値を結果として統合すればよいからである。しか
し、エンパワーメント型マネジメント・スタイルを創造するためには、チーム・組織の主
体性・自律性と価値形成が同時に進むことが必要であり21、これは自己組織化そのものであ
る。
日本の自治体マネジメントの多くは、エンパワーメント型でないのはもちろん先導・管
理型マネジメントも十分に形成されていない。マネジメントの設計を考えずに、先導・管
理型マネジメントで活用されているマネジメント手法のいくつかを「決めうち」で導入し
ているケースが多いのではないかと思われる。
マネジメント・スタイル自体は、自治体の選択であろうが、21 世紀の環境変化により適
応できるのは「エンパワーメント型モデル」であろう。
「エンパワーメント型マネジメント・
スタイル」の形成や移行の進め方が重要であり、これは、主体的に価値を共創するチーム
や組織づくりが核になる。その際、チームや組織の内部で共有される情報やコンテクスト
が実は外部にある目的に適合した情報を取り入れながら創られるので、マーケティングや
結果として戦略もすべて統合されていく。このような設計には、ポジティブ(ホールシス
21
これは、自己組織化により組織・マーケティングが同時に進められていることであろう。
そうなれば戦略も導かれよう。
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テム)・アプローチが効果的と考えられ、これらを含めたコンテクストづくりのためのアプ
ローチの研究が必要であろう。
(参考文献)
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年
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2006 年 2 月
大住莊四郎「公共組織への市民価値に基づく戦略パターンの適用」関東学院大学経済学会
研究論集『経済系』第 232 集、27∼45 頁、2007 年 7 月
大住莊四郎「アクションラーニングによる自治体の組織開発:松戸市の事例をもとに」関
東学院大学『経済経営研究所年報』第 30 集、21∼36 頁、2008 年 3 月
大住莊四郎「ポジティブ・アプローチによる自治体の組織開発:松戸市の事例をもとに」
関東学院大学『経済経営研究所年報』第 31 集、2009 年 3 月
金井壽宏『経営組織』日本経済新聞社、1999 年
金井壽宏『リーダーシップ入門』日本経済新聞出版社、2005 年
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堀公俊『ファシリテーション型リーダーシップが身につくスキル』あさ出版、2005 年
内閣府経済社会総合研究所『自治体マネジメントに関するアンケート調査報告書』2008 年
1月
山本清「世界と日本の NPM」村松岐夫『公務改革の突破口』13-29 頁、東洋経済新報社、
2008 年
i
ポジティブ・アプローチについて
ポジティブ・アプローチは、ギャップ(問題解決)アプローチに対比されるものと
して説明されることが多い。この二つのアプローチを対比させると図付−1のように
なる。
ギャップ・アプローチ(問題解決アプローチ)はつぎのような意思決定プロセスを
とる。問題が認知されれば、問題自体を特定化する。つぎに、問題に関係する情報収
集を行い、原因を分析する。原因が明らかになればその解決方法を検討し、アクショ
ンプランを作成する。
ポジティブ・アプローチはつぎのような意思決定プロセスをとる。自分や自組織の
強み・価値を発見し、その強み・価値を活かしてどのようなすばらしい未来を創り出
すかありたいすがたの最大の可能性を描く。最大の可能性について現実的な達成状況
を共有することによって新たな取り組みが主体的にはじまる。
ギャップ・アプローチ自体は、伝統的な問題解決の方法であり、きわめて一般的な
ものである。この方法が妥当性をもつには、一つの条件がある。特定化された問題の
原因が明らかになることである。しかしながら、現代社会において原因が特定化でき
るような問題はさほど多くはない。現代社会では変化の速度が加速度的に高まってお
り、問題をとりまく完全な情報を入手することは日増しに難しくなっている。完全情
報を基にした最適解を求めることはもはや現代では困難であることが多い。
このような場合、最適解を最初から志向するのではなく、入手可能な情報をもとに
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した適応解を試行錯誤で実施し、その結果をみながらさらによい適応解を探りながら
現実的な対応を重ねていくことが有効とされる。その際、内発的な創発により、全員
参加(ホールシステム)でポジティブ・アプローチを志向する。
ギャップ・アプローチとポジティブ・アプローチとの根本的な相違は、前者が「あ
るべき基準」が外から与えられるのに対し、後者は「ありたいすがた」が内側からで
てくる(内発的である)ことである。このため、ギャップ・アプローチの場合、しば
しば「やらされ感」となるのに対し、ポジティブ・アプローチの場合、内発的なゴー
ルを自ら創り出すことから創発が生まれやすい。
図付-1
ギャップ・アプローチとポジティブ・アプローチ
(備考)Whitney & Trosten-Bloom, (2003)から作成。
ポジティブ・アプローチは内発的であるため非常にパワフルである。ポジティブ・
アプローチによる組織開発は、グローバル企業・国際機関・海外の政府・地方自治体
などで広がりをみせている。
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