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精神医学・ 4
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治療抵抗性統合失調症に対し使用した
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lによる不正性器出血が r
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投与にて改善した 1例*
高谷昭夫**
藤川徳美
大森信忠
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はじめに
統合失調症患者の抗精神病薬への反応'性にはエ
ロゲン作用を示す 10)ため,閉経後の治療抵抗性
統合失調症患者治療における有効性と安全性が予
想され,エストロゲンと RALを併用することに
ストログンが関与していると考えられてお
より乳癌,子宮癌の発症や不正性器出血を軽減で
り8べ エ ス ト ロ グ ン に は dopamine系 や 5-HT
きる可能性がある。
系を downr
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eする作用や神経成長因子へ
今回我々は E3が効果のあった治療抵抗性統合
の作用,脳保護作用などがあると報告されてい
失調症の女性患者に対し, E3に RALを併用す
る。高齢の女性統合失調症患者に対して
ることにより不正性器出血を改善させた症例を経
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l(E2
)や e
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凶o
l(E3
)
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)が臨床効果を認め
験した。 RALがエストロゲンによる副作用軽減
たとの報告がいくつかみられる一方,エストログ
に効果があると考えられたので報告する。
ン投与による乳癌や子宮癌の発症や不正性器出血
が問題となっており,子宮癌の発症を予防する目
的で progesteroneが広く併用されているが,逆
に乳癌の発生頻度は増加する 7)。
閉経後骨組憲症治療剤として開発された選択的
エストログン受容体モジュレーター (SERM)の
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e(RAL) は乳腺,子宮ではエストロゲ
ンに措抗作用を示し,中枢神経においてはエスト
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7日受稿, 2
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6年 1月 2
0日受理
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町南方 9
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論文/JCLS
症例
く症例> 6
9歳,女性。
主訴被害妄想,拒絶,興奮。
家族歴・生活歴未婚。同胞 2人長女。
既往歴陳│自性肺結核症,高血圧症。閉経 5
5歳
。
現病歴 2
8歳時幻覚妄想状態で発症。以後 A 精神
科病院で治療を開始したが,病状は安定せず入退院
2歳時肺結核を合併し,当院結核病
を繰り返した。 3
棟へ入院した。結核治療終了後は B施設に入所した
が,被害妄想,興奮がみられ,怠薬することにより
症状が増悪するため,当院への入退院を繰り返して
いた。 5
3歳時より生理が不規則となり 5
5歳で閉経し
たが,そのころより症状はさらに増悪し,再び当院
に長期入院となった。入院時,血液検査,脳波,頭
部 MRI検査などでは特に異常所見を認めなかった。
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精神医学 4
8巻・ 7号 2
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6年 7月
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e 8mg/日 +levomepromazine1
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た SERMで,核内のエストロゲン受容体に結合
日など種々の抗精神病薬を投与するも症状は改善せ
ず,被害妄想に基づいて他患者へ暴言を吐いたり暴
しその構造変化を起こさせ九遺伝子の転写の促
力を振るったりするなどの精神運動興奮がしばしば
みられ,保護室を使用することも多かった。副作用
から拒薬することも多く,症状が安定することはな
かった。
進あるいは抑制に必須の転写共役因子と相互作用
することによって組織選択的に働く九第 2世 代
の SERMである RALは,骨粗霧症患者に対す
る大規模な臨床試験において,エストロゲン受容
0%低減させ,かっ子宮で
体陽性乳癌の発症を 9
X 年 9月 の 処 方 は haloperido130mg/日十
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5mg/日であったが,拒絶,興奮などの
症状が増悪して保護室使用し, B
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7点を示した。症状
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e(BPRS)スコアは 6
の改善を目的として E31mg/日投与開始し症状が
0月 2
0日より E32mg/
やや改善したため, X年 1
膜 増 殖 が み ら れ な く な る 10)ため, RALに は 乳
日へ増量したところ,被害妄想は軽度残存するもの
腺,子宮においてエストロゲンに対する強い桔抗
の拒絶,興奮は消失し, BPRSスコアは 3
5点と改善
した。ところが X年 1
2月 2
0日より E3の副作用と
考えられる不正性器出血が出現し,貧血もみられた
ため (Hb6
.ug/dl
)E3を中止したところ,再び被害
7
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の 発 癌 性 も 認 め な か っ た 九 ま た RALは 1
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lの 刺 激 に よ る ヒ ト 乳 癌 由 来 の MCF-7
細胞の増殖を抑制する作用を持ちヘ卵巣摘出後
のラットに RALを投与すると E2による子宮内
作用があると言える。
今回の症例と今までの報告をみると,乳腺,子
宮において RALがエストロゲンによる副作用を
妄想,興奮,拒薬が出現し BPRSスコアは 5
2点に増
悪した。エストログンによる副作用の問題を解決す
軽減すると考えられる O 今 後 RALの有効性と安
るために, X+1年 3月 2
3日より RAL(Evista
⑧)6
0
併用投与する遅発性統合失調症の症例を集め,長
mg/日の投与を試みたが,被害妄想,興奮,拒薬な
どの症状の改善はなく BPRSスコアも 5
3点と変化は
なかった。同年 4月 1
3日より RAL60mg/日に E3
1mg/日を併用したところ症状はやや改善し,同年 8
月1
0日より E32mg/日へ増量し,精神症状はさら
に改善し BPRSスコアも 3
5点、となった。不正性器出
期間乳癌,子宮癌の発症を検討する必要がある。
血などの副作用は出現しなかった。
全性を高めるためには,エストロゲンと RALを
その際,生物活性の高い E2と RALを併用する
ほうが臨床効果は現れやすいと思われる。また
RALには中枢神経においてエストログン作用が
あるため,遅発性統合失調症に対し RALを単独
投与した時の臨床効果を検討する価値があると思
われる。卵巣摘出ラットの海馬で低下したアセチ
考察
本症例は 2
8歳時に幻覚妄想状態で発症し,
種々の抗精神病薬を投与されたが効果を認めず,
閉経後はさらに症状が増悪し,被害妄想に基づく
精神運動興奮のため他患者とのトラブルが絶え
ず,長期入院を余儀なくされていた治療抵抗性統
合失調症である。 E3投与により症状改善が認め
られたが, E3による不正性器出血を認めたため
RALを併用したところ,不正性器出血はみられ
なくなり, E3投与を継続することができた。こ
の経過をみると, RALが E3による不正性器出
血を改善させたものと思われる O
RALは閉経後骨組霧症治療剤として開発され
ルコリンエステラーゼ、活性を偽手術群と同レベル
まで回復させる E2の ED50値 は <0.03,RAL
の ED5
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直は 2
.
4mg/kgであり
,ヒトにおい
10)
0mg/日で
て RALが中枢神経へ作用するには, 6
は少ないことが予想される。また卵巣摘出ラット
において RALのコレステロール代謝,骨,子宮
への作用容量はいず、れも中枢神経への作用容量よ
り小さく九 RALは血液脳関門を通過しにくい
と考えられる。よって① RAL60mg/日以上投
与する,②脳血管関門を通過しやすい薬物構造へ
改良する,などが有効性を高めるうえで必要にな
ってくると思われる。
精神医学 4
8巻・ 7号
文献
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ジュレーター :SERM. 医薬ジャーナル社, p
本誌の複写利用について
日噴より本誌をご購読いただき誠にありがとうございます.
ご承知のとおり,出版物の複写は著作権法の規定により原則として禁止されており,出
版物を複写利用する場合は著作権者の許諾が必要とされています.弊社は本誌の複写利用
にかかる権利の許諾ならびに複写使用料の徴収業務を鞠日本著作出版権管理システム
(
JC
LS) に委託しております.本誌を複写利用される場合には JCLSにご連絡のうえ,
許諾を得てください. JCLSの連絡先は以下のとおりです.
側日本著作出版権管理システム(JCLS)
所在地 干 1
1
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3 東京都文京区本郷 4
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6 本郷 4
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6ピル 8階
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著作権法は著作権者の許諾なしに複写できる場合として,個人的にまたは家庭内その他
これに準ずる限られた範囲で使用すること,あるいは政令で定められた図書館等において
著作物の一部(雑誌にあっては掲載されている個々の文献の半分以下)を一人について一
部提供すること,等を定めています.これらの条件に当てはまる場合には許諾は不要とさ
れていますが,それ以外の場合,つまり企業内(政令で定められていない企業等の図書
室,資料室等も含む),研究施設内等で複写利用する場合や図書館等で雑誌論文を文献単位
で複写する場合等については原則として全て許諾が必要です.
複写許諾手続の詳細については JCLSにお問い合わせください.なお,複写利用単価
を各論文の第 1頁に, ISSN番号と共に表示しております.
鞠医学書院
Fly UP