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フランスのバカロレア試験における評価観 - Kyoto University Research

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フランスのバカロレア試験における評価観 - Kyoto University Research
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フランスのバカロレア試験における評価観 : 問題作成と
採点に関する議論の歴史的検討を通じて
細尾, 萌子
京都大学大学院教育学研究科紀要 (2010), 56: 387-399
2010-03-31
http://hdl.handle.net/2433/108466
Right
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
京都大学大学院教育学研究科紀要 第56号2010
フ ラ ンスのバ カ ロ レア試 験 にお け る評 価 観
一問題 作成 と採 点 に 関す る議 論 の歴 史 的検 討 を通 じて 一
細尾萌子
は じめ に
本稿 では 、 フ ランス の高大 接続 の制度 で あ る、バ カ ロ レア試 験 の問題 作成 や採 点 の体 制 に表 れ
た評価 観 を検 討 す る。 これ に よ り、大学 入試 の問題 作成 や採 点 の あ り方 へ の示 唆 を得 たい。
バ カ ロ レア試験 は、高校(lyc6e)最終学 年 末 に全 国一斉 に実施 され る。1808年 の創 設 以来 、中等
教 育修 了認 定資格 と大学 入学 資格 を兼ね るバ カ ロ レア を付 与す る資 格試 験 の伝 統 を保持 して い る。
2008年 の合格 率 は83.5%で
、同年 齢 層 内バ カ ロ レア取得 率 は63.8%で
ある1。合格 す る と基本 的
に どの大 学 に も入 学 で き、各 大 学 の選抜 試験 は行 われ てい な い。 フ ラン スは資 格 の種類 と水準 で
職 業 的分 化 が な され る資 格社 会 で あ るが、 どの大学 で取 得 した資格(学 歴)も そ の等価 性 が法 的
に保 障 され てお り、大学 問格 差 が ほぼ存 在 しない た めで あ る2。
合格 者 の約8割 が大 学 に進 学 す る。
バ カ ロ レア試験 に関 して 日本 で は、宮 脇 陽三 が、創 設 前 史 か ら1970年
まで の制 度 の変遷 を紹
介 して い る3。藤 井佐 知子 は、高校 で履修 した ほぼ全 教科 の試 験 が 主 に論 述試 験(ひ とま とま りの
文 章 で答 え させ る筆 記試 験)で 行 われ る とい う試 験 形式 の特 徴 を指 摘 して い る4。大 場淳 は、試 験
成 績 と大 学 の成績 の相 関 を示 して い る5。フ ランス では 、
創 設 前 史 か ら1930年 代 ま での 制度 史6や、
問題 作成 と採 点 が 高校 の教 員 を主 と した試 験 委員 会 で行 われ て い る こ とが 明 らか に され てい る7。
その他 、採 点 の信頼 性 に 関す る心 理学 的研 究8や 、評 価基 準 を決 定す る要 因に 関す る社会 学 的研 究
9、試験 の費用 に関す る経 済学 的研 究10もな され てい る。た だ し、 どの よ うな学 力 を どの よ うに評
価 しよ うと してい るか とい う、バ カ ロ レア試 験 の評 価観 は検討 され てい な い11。 しか しこの評価
観 を示す こ とで 、現 在 の問題 作成 や採 点 の 体制 が なぜ成 立 したの かが浮 き彫 りに な る と考 え る。
そ こで本稿 で はバ カ ロ レア試 験 の評 価 観 を検討 し、 問題 作成 と採 点 を行 う現在 の試 験 委員 会 の
構 成 が制 度 と して選 び取 られ た 理 由 を明 らか にす る。 まず試 験 委員 会 にみ られ る特 徴 を示 す。 次
に問題 作 成 と採 点 に関す る議 論 を歴 史 的 に検 討 し、 この特徴 の背景 にあ る評 価観 を抽 出す る。
そ の際 、普 通バ カ ロ レア試 験 と技術 バ カ ロ レア試験 、職 業バ カ ロ レア試 験 とい う3種 類 のバ カ
ロ レア試 験 の うち 、普 通バ カ ロ レア試 験 を検討 す る。大 学入 学者 の約4分 の3は 普 通教 育 を対 象
とす る普 通バ カ ロ レア試 験 の合格 者 で あ り、 日本 の大学 入試 と比較 しや す いた め で ある12。
この普 通バ カ ロ レア試 験 に は、 自由に記述 させ る筆記 試 験 と口述 試験 、 実技試 験 の 三っ の試 験
形 式 が あ る。 この うち 、試験 委員 会 の対 象 で あ る筆 記試 験 を扱 う。 口述 試験 では 、全 国統 一 の評
価 の観 点 に基 づ い て、各 試験 官 が 出題 と採 点 を行 って い る。 実 技試 験 で は、 国定 の問題 リス トか
ら抽選 で選択 され た問題 にっ い て 、全 国共通 の評 価 の観 点 を も とに、各 試験 官 が審 査 して い る13。
一387一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第 一章
第一節
第56号2010
バ カ ロ レア 試 験 の 試 験 委 員 会 に み られ る 特 徴
バ カ ロ レア試 験全 体 に お ける普通 バ カ ロ レア試 験 の位 置 づ け
ま ずバ カ ロ レア試 験全 体 にお け る普通 バ カ ロ レア試 験 の位 置 づ け を示 す14。フ ランス に は6歳
か ら5年 制 の 小学校 があ り、そ の次 に4年 制 の 中学 校(college)、高 校 が続 いて い る。高校 に は、3
年 制 の普 通科 と技 術 科 、4年 制 の職 業 科 とい う3コ ー ス があ る。普 通科 と技術 科 の第1学 年 は共
通 コー スで あ る。 しか し第2学 年以 降 は表1の よ うに、普 通科 と技 術科 の2コ ー ス 、 さ らに科 の
下位 区分 で あ る各 系 に分 化 され る。 普通 科 は、経 済 ・社 会 系 と文学 系 、科 学系 の三 つ の系 に分 か
れ る。 技 術 科 は、工 業科 学技 術 系 な どの六 つ の系 に区分 され る。 また 、職 業科 の第1・ 第2学 年
は職 業資 格取 得課 程 で あ る。 第3学 年 以 降 は、60以 上 の職 業 ご との各 専 門領 域 に分化 され る。
バ カ ロ レア試験 には 、表1に 示 した よ うに 、普通 科 に対応 した普 通 バカ ロ レア試 験 と、技 術科
に対応 した技 術 バカ ロ レア試 験 、職 業科 に対応 した職 業 バ カ ロ レア試 験 の3種 類 が あ る。 それ ぞ
れ の バ カ ロ レア試 験 は 、 当該 の 系 また は専 門領域 ご とに実施 され る。例 えば普 通バ カ ロ レア試 験
は、 普通 科 の三 つ の系 に応 じて 、経 済 ・社会 系 と文 学系 、 科学 系 の三 つ に分 か れ てい る。
これ らの試 験 で取 得 され るバ カ ロ レアは全 て 同等 と法 的 に認 め られ てい る。 したが って試 験 教
科 は各 コー ス の教 育 内容 に応 じて異 な るが 、い ずれ のバ カ ロ レア を取得 して も原則 と して どの大
学 ・学部 にも入 学 でき る。 ただ し入 学希 望者 が各大 学 の収容 定員 を超 え る場 合 は 、居住 地 や取 得
され たバ カ ロ レア の種類 、バ カ ロ レア試 験 の成績 な どに応 じて 、各大 学 が入 学制 限 を行 って い る。
さ らに実態 と して 、取 得す るバカ ロ レア の種類 に応 じて進 路 は大 き く異 な って い る。 普 通バ カ
ロ レア取 得者 の約8割
は、3年 制 の大学 な どの長 期 高等 教 育機 関 に進 学 してい る。 技術 バ カ ロ レ
ア取得 者 の5割 強 は 、2年 制 の上 級 技術 者課 程(STS)な どの 、職 業資 格 を取得 す る短 期 高等 教育機
関 に入 学 してい る。 職業 バ カ ロ レア取得 者 の8割 弱 は、進 学 せず に直接就 職 してい る。
普 通バ カ ロ レア試 験 は、 高校 学年 末 の6.月 に 実施 され る第1群 試 験 と、7月 に実 施 され る追試
験 の第2群 試 験 か らな る。第1群 試 験 は、高校 第2学 年 末 の予備試 験 と第3学 年末 の本 試 験 か ら
な る。 予備試 験 は 第2学 年 の学 習指 導要 領(programme)に
準拠 してい る。試 験 教科 は、表2に
、本 試 験 は第3学 年 の学 習指 導 要領 に
科 学系 の例 を示 した よ うに、 普通 教育 に 関す る教 科 で あ る。
予 備試 験 と本 試験 を合 わせ る と、第2・ 第3学 年 の各 系 で学 習 した12の
受 験者 が1教
必修 教 科 中8教 科 と、
科 を必 ず選 択 す る専 門教 科 、最大 二 つ まで選 択 で き る 自由選 択教 科 の試 験 が ある。
この よ うに第1群 試 験 は 、各 系で 履修 され た 教科 をほぼ網 羅 してい る。
表1高
高校
普 通科
技術科
校 とバ カ ロ レア試験 の コー ス の対応15
バ カ ロ レア試 験
系 ・専 門領 域
・経 済 ・社 会 系(ES)
・文 学 系(L)
当該 の系の普通バ カロ レア試験
・科 学 系(S)
・工 業 科 学技 術 系(STI)
当該 の系の技術バ カロ レア試験
・医 療 社 会 福 祉 系(SMS)
・実 験 科 学技 術 系(STL)
・経 営 科 学技 術 系(STG)
・ホ テ ル 業 系(h6tellerie)
・音 楽 舞 踊 系(TMD)
職業科
会 計 や 航 空 、 写 真 な どの60以
上 の 専 門領 域 。
一388一
当該 の専門領 域 の職業 バカ ロレア試験
細 尾:フ
表2科
ラ ン ス の バ カ ロ レ ア 試 験 にお け る 評 価 観
学 系 にお ける高 校第2・ 第3学 年 の教科 とバ カ ロ レア試 験教 科 の対 応16
バ カ ロ レア試 験
高校
教科名
試験教科名
必修教科
数学
配点指数
時間
(時間)
試験形式
予備試験
物 理 ・化 学
生命 ・地球科学 または
技術 工学また は
フランス語
フランス語
2
筆記
2
口述
1/3
個別課題 学習
2
平常点
3人
本試験
数学
4
で0.5
7
筆記
4
物 理 ・化 学
6
3.5+1
哲学
生命 ・地球科学 または
6
筆 記 ・実 技
筆 記 ・実 技
歴 史 ・地 理
生 物 ・生 態 学 ま た は
5+2
3.5+1.5
第 一外 国語
第 二外 国語
技術 工学
4+5
筆 記 ・実 技
筆 記 ・実 技
歴 史 ・地 理
3
4
体 育 ・ス ポ ー ツ
公 民 ・法 律 ・社 会
第一外 国語
第二外 国語 または
3
2
筆記
筆記
筆記
個別課題学習
学級 生活の時 間
地域語
哲学
3
筆記
4
体 育 ・ス ポー ツ
2
平常点
生 物 ・生 態 学
フ ラ ンス 語
専 門 教科(3年)(1教
専 門教科(1教
科 選 択)
3.5+1
4+3
3
2
科選 択)
数学
数学
9
筆記
4
物 理 ・化 学
物 理 ・化 学
8
筆 記 ・実 技
3.5+1
生命 ・地球科 学
8
筆 記 ・実 技
3.5+1
体 育 ・ス ポ ー ツ
2
平常点
自由選 択教科
(2教 科受験 可)
2
生命 ・地球科 学
芸術活動(2年 はこの教科 の
み 自由選択)
自由選択 教科(2教 科選択可)
ラテ ン語
ギ リシ ャ 語
(ラ テ ン
語 とギ リ
第三外 国語
外 国語 、 地 域 語 、 ラテ
ン語 、 ギ リシ ャ語 、 体
体 育 ・ス ポー ツ
育 ・ス ポ ー ツ 、 芸 術
1教 科 目
の み3)
芸術
シ ャ語 は
ま た 、普通 科 の全 て の系 にお け る必 修教 科 で あ る、第2学 年 の 「
個 別課 題 学習 」 と第3学 年 の
「
体 育 ・ス ポー ツ」 は 、第1群 試験 で は な く出身 高校 の平 常 点で成 績 がつ け られ る。 「
個別 課題
学 習 」 とは 、教科 横 断 的な テー マ につ いて 、 グル ー プ また は個 人 で調 べ学 習や 発表 、論 文 作成 を
行 う教科 で あ る。 この平 常 点 は第1群 試 験 の 点数 に加 算 され る。
第1群 試 験 で は、2時 間 か ら4時 間 に及 ぶ論述 式 の筆 記試 験 が 中心 で あ る。 フ ラ ンス語 で のテ
キス トの解釈 に関す る 口述試 験や 、物理 ・化 学 で の実験 な どの実技 試験 も実施 され て い る。 多 肢
選 択 問題 な どの、答 えが一つ に決 まっ てい る客観 テ ス ト式 の 問題 は基本 的 に 出題 され ない。
第1群 試 験 は各 教 科20点
満 点 で採 点 され 、 系 ご とに異 な る各教 科 の配 点指 数 がか け られ る。
配 点 指数 は文 学 系 では哲 学 な どの文 系教 科 が高 く、科学 系 で は数 学 な どの理 系 教科 が 高い。 そ の
後 、 全教 科 の平均 点 が10点
以 上 で合格 とな る。8点 未 満 の場合 は不合 格 とな るが、8点 以上10
点未満 の場合 は第2群 試 験 を受 験 で きる。 そ の結果 平均 点 が10点
験 受 験後 に8点 以 上10点
以上 で合 格 とな る。 第2群 試
未 満 の者 に は 中等 教 育修 了証 書 が授 与 され る が、高 等教 育機 関に は基
本 的 に進 学 で きな い。第1群 試 験合 格者 には 、点 数 に応 じて、 「
秀 」(16点
点以 上16点 未 満)、
「
良」(12点
以上14点 未 満)の 評 点 が与 え られ る。
一389一
以 上)、
「
優 」(14
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
以 上 の よ うに普 通 バ カ ロ レア試 験 は 、教 育 内容 がそれ ぞ れ異 な る高校 の コー ス ご とに実施 され
る もの の、合 格者 は どの大学 ・学部 に も原則 として入学 で き る とい う、他 の種 類 のバ カ ロ レア試
験 との共 通 点 を抱 い て い る。 他 方 、大学 な どの長 期 高等 教 育機 関 の進 学者 が主 な対 象 で あ るた め
に、 普通 教 育 に関す る教 科 が 中心 であ る とい う独 自性 を もっ てい る。次 節 で は、 この普 通 バ カ ロ
レア試 験 で設 置 され て い る試 験 委員 会 の構成 を示 す 。
第二節
普 通 バ カ ロ レア 試 験 の 試 験 委 員 会 の 構 成
普 通 バ カ ロ レ ア 試 験 は 、図1の
よ うに 、問 題 作 成 委 員 会(commissiond'61aborationdessujets)
と合 意 委 員 会(commissiond'entente)、
委 員 会(d61ib6rationdesjurys)の
調 整 委 員 会(commissiond'harmonisation)、
合否 判 定
四 つ か ら な る試 験 委 員 会 で 実 施 され て い る 。 各 委 員 会 は 、 フ
ラ ン ス の 海 外 県 ・海 外 領 土 を 除 く本 土 を26に
区 分 した 大 学 区 ご と に設 置 され る。 採 点 の 調 整 を
行 う合 意 委 員 会 と調 整 委 員 会 、 合 否 判 定 委 員 会 の 三 つ は 、 本 稿 で は 採 点 組 織 と総 称 す る 。
ーLL'問
試験終 了直後1合
題 作'委
員云
↓
意委員会1
問題 と採 点 勧 告 の 作 成
採点者 の研 修
盤
終
間
期
点
採
大学
区:英 語
毒
試 験9カ
採点結 果の統計的調整
採点期 間終了後1合 否判定委員会1統 計 的手法 と内申書 の参酌
図1問
題 作 成委 員会 と採点組 織 の概 要(図1は
筆者 が作成)
ま ず試 験 の約9カ 月 前 に、図1の よ うに各 教科 の 問題作 成 が大 学 区間 で割 り振 られ 、各 大学 区
に 問題 作 成委 員会 が設置 され る。学 習指 導 要領 の実 施状 況 を監 督す る視 学 官1名 と大 学 教員1名
が共 同委 員長 を務 め、委 員 は 区内 の多様 な 高校 の教 員 で組 織 され る。委 員 は学 習指 導要 領 に基 づ
いた討 議 で 問題 を作 成 し、採 点 の方針 を示す 「
採 点 に 関す る勧 告」(以 下 、採 点勧 告)を 同時 に
策 定 す る。各 大 学 区で作 成 され た問題 と採 点勧告 は集 め られ 、本 土 で は全 国共通 に使 用 され る17。
そ して試験 の 終了 直後 に、合 意委 員会 が設 置 され る。 採 点者 の一 部 を対象 に、採 点勧 告 に基 づ
いた 同 じ答案 の共 同採点 な どの研 修 が行 われ る。 こ こでの決 定 事項 は採 点者 全 員 に伝 え られ る。
そ の後 約2週 間で高 校教 員 が採 点す る。 この採 点期 間 の終盤 に、採点 者全 員 で調整 委 員会 が 開
かれ 、採 点結 果(得 点分 布 の平 均や 分散 な ど)が 委 員 間で 統計 的 に調整 され る。
採 点期 間 が終 了す る と合否 判 定委 員会 が 開かれ る。 採 点者 間で採 点結 果 が比 較 され 、 ば らっ き
が大 きい 場 合 は低 い方 の 点 数 を 上 げ る こ とが で き る18。ま た、任 意 で提 出 され る高校 の 内 申書
(1ivretscolaire)の成 績 がバ カ ロ レア試 験 の得 点 よ りも良い 場 合は 、合否 ライ ンの点 数 を数 点上 げ
る こ とが認 め られ てい る。 その 際 、内 申書 を加 味す る比 率 につ い ての規 定 は ない。
この 内 申書の様 式 は全 国共 通 で あ る。 ①各 教科 の学業 成績(生 徒 の各 学期 ・年 間の 平均 点 とク
ラ スの年 間 の平均 点)と 、② 各 教科 の教 師 の評価(教 育 目標 へ の到 達 レベル と自由記述 の所 見)、
③ 生 徒 の個人 情報(名 前 と生年.月日、出身校)、④ 学習 指導 チ ー ム(6quipep6dagogique)の
所見(バ
カ ロ レア試験 の合 格 可能 性)が 記載 され る。 日本 の よ うな行 動 や性 格 の記録 欄 は ない19。
一390一
細 尾:フ
ラ ン ス の バ カ ロ レ ア 試 験 にお け る 評 価 観
採 点 組 織 の 以 上 の 調 整 手続 き は 、 ドシ モ ロジ ー(docimologie)に
(mod6ration)と
お い て 、 モ デ レー シ ョ ン
い う概念 で 理論 化 され てい る。 ドシモ ロジー は 、ア メ リカ な どで発展 してい た
精 神 測定 学 を礎 に 、心理 学者 の ピエ ロン(H.Pi6ron)が1928年
に提 唱 した 学 問で あ る。 伝 統的 な
論 述試 験 は 主観 的 で採 点 にば らっ きが あ る と批判 し、試 験 の客観 化 を追究 した。 その 際、 大規模
な 同質集 団 の能力 の分布 は正 規 分布 を描 く とい うゴール トン(F.Galton)の
理 論 が援用 され た20。
採 点 の調整 手続 きは 、三種 類 のモ デ レー シ ョンに区分 され てい る。 モデ レー シ ョン とは、採 点
者 間で 「
点数 を比較 可能 にす る こ とを 目的 と した 、採 点 の差 異 を減 らす た めの 手続 きの総 体」21を
さす。 一 つ 目は、採 点勧 告 に基 づ いて 同 じ答 案 を共 同採 点 し、評 価 基 準 を調 整 す る こ とで あ る。
これ に よ り採 点者 間で評 価基 準 が共 有 され 、採 点 のば らっ き が減 る と述 べ られ て い る。 二 つ 目は
採 点 結果 を統 計 的 に調整 す る こ とであ る。受 験者 集 団 の能 力 の分布 は正 規 分布 曲線 に従 うとい う
仮 定 に基 づ き、得 点 分布 の平 均 や分 散 を採 点者 間 で揃 え る こ とで 、採 点者 の主観 の評価 基 準へ の
影 響 を 防げ る と論 じられ て い る。 三 つ 目は 、 内 申書 の成 績 を参 考 に して採 点結 果 を調整 す るこ と
で あ る。 評価 の数 を増や す こ とで採 点者 間 の評価 基 準 のず れ を相殺 で き る とい う考 えに基 づ いて
い る22。この よ うに いずれ の調 整 手続 き も、評価 基 準 を統一 す る手 だ て と して説 明 され て い る。
以 上 の よ うにバカ ロ レア試 験 の試 験委 員会 には、 多様 な 高校 の教 員 が、討 議 とモ デ レー シ ョン
とい う協 同 に よっ て問題 作成 と採 点 を行 うとい う特 徴 がみ られ る。 で は なぜ この よ うな構成 が制
度 として結 実 した のだ ろ うか。 そ こで次 章 で はまず 、 問題 作成 に 関す る議論 を歴 史 的 に検討 し、
問題 作成 委員 会 は どの よ うな評価 観 に基 づ い て創 設 され た の か を探 る。 そ して次 々章 で は、採 点
に 関す る議論 を辿 り、採 点組 織 の設 立 の背 景 にあ る評価 観 を 明 らか にす る。
第 二章
第 一節
問題 作 成 委 員 会 に 表れ た評 価 観
大学 教 員が 問題 を作 成(第 二次 世 界 大戦前)
創設 時 のバ カ ロ レア試 験 で は、高校 上 級2学 年 の履 修証 書(certificatd'6tudes)の提 出が 求 め ら
れ 、2学 年 の全 履修 教科 にっ い て の 口述 試験 が課 され た。 しか しバ カ ロ レア の授 与機 構 は大学 で
あ った た め、各 大学 で大 学教 員 が 問題 作 成 と採 点 を行 って い た。 また1830年
か らは、 口述試 験
だ けで は試験 の正 当化 に不十 分 との理 由か ら論述 試 験 が導入 され 、比 重 が次第 に増 してい っ た23。
高校 では 、次 の クーザ ン文 相(V.Cousin)の1840年
の通 達 に表れ て い る よ うに 、断片 的 な知識
を記 憶す る低 次 の能 力 よ りも、 思考 力や 表 現力 といっ た知識 を使 い こなす 高次 の能 力 を教 育 目標
と して重 視 して い た。「
順 序や 説 明 も な しに細 か く詳 しい事 実 をつ め こむ教 育や 、知 性 よ りも記 憶
に頼 るよ うな教 育 か らは 距離 を取 らな けれ ば な らない 」24。当時 の学 校体 系 は 、ブル ジ ョワ階層
の子弟 は 中等 ・高等 教 育 を、大 衆 階層 の子弟 は初 等 ・実 業 教育 を受 ける複線 型 で あ り、国 の指 導
者 層 とな るブル ジ ョワ階層 の子弟 には高 次 の能力 の習得 が期 待 され て いた た めで あ る25。
しか し大 学教員 が 作成 したバ カ ロ レア試験 問題 で は 、高校 の教育 内容 以 上 の知識 を記 憶 す る学
力 が 問 われ てい た。 そ のた め高校 では暗 記偏 重 の受 験準 備 教育 が行 われ る よ うに な り、 これ は履
修 証 書 の提 出義務 が1849年
に廃 止 され て 以降 い っそ う拡 大 した。 平 常 の成 績 に 関係 な く、バ カ
ロ レア試 験 の得 点 のみ で合否 が決 定 され る よ うに なっ たた め であ る26。
これ に対 し歴 代 文 相 は、 受験 準 備 教育 が 高校 教 育 を歪 めて い る と非 難 した。 ル ー ラ ン文相(G.
Rouland)は1862年
に、「
バ カ ロ レア試 験 は しば しば記憶 力 の体 操 に留 ま ってお り、確 固 として規
一391一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
則 正 しい高校 の学習 を放 棄 させ 、みせ か けの性急 な準備 教 育 を促 進 してい る」 と指 摘 して い る。
また1885年
のバ カ ロ レア試 験 に 関す る世論 調査 で も、 中等 教員 らが 同様 の批判 を行 った27。
そ こで高校 の教 育 目標 とバ カ ロ レア試 験 で問 われ る学 力 の乖 離 を解決 し、高校 教 育へ の 受験 準
備 教 育 の弊 害 を緩 和 す るた め に、 二つ の解決 策 が提 示 され た。 一つ は 、 中等 学 校 の平 常の成 績 を
合 否判 定 の 資料 にす る案 で あ る。 も う一 つ は、 大学 教員 と中等 教員 の 両者 が作 問す る案 で あ る。
前者 の案 と して は、 コ ンブ文相(E.Combes)が1896年
に、 中等 学校 最 終2学 年 の進級 試 験
をバ カ ロ レア試験 の代替 とす る法案 を提 出 した。 翌 年 に はラ ンボ文 相(ARambaud)が
、 中等
学 校 の 内 申書 で合 否 判 定 を行 う法案 を提 出 した。 しか しい ずれ も、学校 間で進 級試 験 の水 準や 内
申書 の価 値 に格差 があ る こ とや 、教 員 の情 実 に よる不正 行 為 の恐れ が非 難 され 、可 決 され な かっ
た28。そ の後 も、バ カ ロ レア試 験 の成 績 と中等 学校 の 平常 の成 績 を合 わせ て 合否 判 定 を行 う案 が
度 々提案 され た。 しか し、平 常 の成績 は教員 間の評 価方 法 の相 違や 教員 の情 実 に左 右 され る と指
摘 され 、導 入 され な か った29。こ うして 平常 の成 績 案 は、 学校 間格 差 や教 員 の情 実 、評 価方 法 の
不 統 一 とい った公 正 性(公 平 な評 価 方法 で あ るか)の 観 点 か らの批 判 を受 けて 実現 しなか っ た。
た だ し1890年
か らは、任 意 で提 出 され た 内 申書(学 年 ご との点 数 と順位 な ど)が 合 否 判定 時
に参 酌 され る よ うにな った。これ は教員 団体 や 世論 が長 年希 求 して きた制度 で あ り、1885年 の世
論 調 査 で も大 半 が賛 成 して いた30。試 験 に よ る合 否判 定 を行 いつ つ 平常 の成 績 を加 味す る ことで、
公 平性 を保 ちつ つ受 験準 備教 育 を抑 制 で きる折衷 案 と して 支持 され て いた と考 え られ る。
後者 の案 と して は 、大 学教 員 団体 の 中等 教 育問題 研 究 会(Soci6t6pourl'6tudedesquestions
d'enseignementsecondaire)で
、プ チ ・ド ・ジ ェル ビイ ユ(PetitdeJulleville)が1881年
に報
告 書 を提 出 した。 そ こで は、バ カ ロ レア試験 が 中等 教育 の 習得 度 と大 学教 育へ の適1生を ともに評
価 す るた めに は、大 学教 員 のみ で はな く、 大学 教員 と中等 教員 の 両者 が 問題 作 成 を行 うべ き で あ
る と論 じられ た。 同研 究 会 は この主 張 に従 っ て、バ カ ロ レア試 験改 革運 動 を推 進 して い った31。
第 二節
レベル の高 い高 校 の教 員 が問題 を作成(第 二 次世 界 大戦 後 か ら1985年 ま で)
そ の結 果1902年
に は、大 学 教員 と中等教 員 が作 問 に召集 され る よ うにな った。 第 二次 世界 大
戦 後 に は、ベ ビー ブー ム に よる受験者 の急増 で 人手 不足 とな り、作 問 の主 体 が大学 教員 か ら高校
教 員 へ と転換 した32。 しか しレベ ル の高 い高 校 の教員 が 中心 で あ り、難 しい問題 が 作成 され た33。
そ の例 と して 、1960年 の 地理 の 、「
東 パ キス タ ン」(現在 のバ ング ラデ シュ)と い う題 の 小論 文
をみ てみ よ う。資 料1の 模範 解 答 が受験 参 考書 に掲 載 され て い る。 この問題 で 問 われ た学 力 は次
の よ うに整理 で き る。 当時 の高校 地 理3年
の学 習指 導 要領 で は、① 世 界 の主 要国 の経 済状 況 と、
② 主 要 な原料 、③ 国際輸 送 、④ 世界 の経 済活 動 にお ける フラ ンス とそ の植 民地 の位 置 が教 育 内容
と して 定 め られ て い る34。こ こで 示 され た 国の 中 に東パ キス タ ンは ない こ とか ら、 高校 の教 育 内
容 以 上 の知識 が 求 め られ て い る こ とが わか る。ま た、「
東 パ キ ス タンは最 も小 さく人 口密 度 が高 い
領 土 」や 「
東パ キス タン の大半 はベ ンガル 地方 にあ る」な どの個別 ・具 体的 な事 実 的知識 を、 「
国
の特徴 は人 口や 地形 、気 候 な どの範 疇 に分類 で き る」 な どの一 般 ・抽象 的 な概 念 的知識 で 関連 づ
けて説 明す る能 力 が期待 され て い る。 これ は知識 を記憶 す る に留 ま らず 、知 識 間 の構造 を把 握 す
る「
理解 」を表 現す る点 で高次 の能 力 で あ る。た だ し生徒 の 平均 的 な水準 を超 えてい る とい え る。
学 習 指導 要領 で は資 料 を用 いた 学習 が想 定 され てい るの に対 し、資 料 な しで論述 す るた めで ある。
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細 尾:フ
ラ ン ス の バ カ ロ レ ア 試 験 にお け る 評 価 観
他 の教 科 で も 、高校 の教 育 内容 以上 の 知識 に基づ く、一 部 の優 秀 な 生徒 を対 象 に した 「
理解 」
を表 現す る高次 の学 力 が求 め られ た。実 際 の例 と して 、1978年 に実 施 され た数 学 の問題 は難 しす
ぎ る と判 断 され 、満 点 が通 常の20点
か ら28点
に変更 され た。 これ につ いて受 験者 や 保護 者 は 、
問題 が 生徒 の平 均 的 な水 準 に適 合 して いな か った と非難 した35。高校 の数 学 教員 団体 も、 「
学習
指 導 要領 で 定 め られ て いな い概 念 の使 用 を必 要 とす る問題 が 出題 され てい た」36と指 摘 した。
そ の結 果 、 暗記重 視 の受 験 準備 教 育 は収 ま らな か った37。バ カ ロ レア試 験 が 問 う高次 の 学力 に
暗記勉 強 で対 処 で きた か は定か で はな いが 、高校 の教育 内容 以 上 の知識 が問 われ てい たた め 、高
次 の学力 の前 提 と して の知識 を身 につ け させ るた めに 、暗記 偏重 の傾 向が生 まれ た と考 え られ る。
資料1バ
カ ロ レア試 験 「
東 パ キス タ ン」 の模 範解 答(哲 学 系 と実 験科 学 系、 数学 系共 通)38
パ キ ス タ ン に は 、1500km離
れ 、 互 い を結 ぶ ル ー トが な い 二 つ の領 土 か ら な る とい う不 幸 な特
徴 が あ る。 東 パ キ ス タ ンは 最 も小 さ く最 も人 口密 度 が 高 い 領 土 で あ る(フ ラ ン ス の4分
大 き さで 、 人 口は ほ ぼ 同 じ)。
1.一
ベ ンガ ル 地 方 の 一 部 分
の1程
の
東 パ キ ス タ ン の 大 半 は 、 ガ ン ジ ス川 と ブ ラ マ プ トラ川 の 大 三 角 州 を 中 心 とす るベ ン ガ ル 地 方 の
一 部分 にある
。 そ の た め に 水 と土 が 混 ざ っ た 沖 積 土 の 平 原 で あ り、 増 水 に よっ て 肥 沃 な 泥 土 が あ
る。 そ れ に も 関 わ らず 、 耕 地 整 理 は ま だ な お 不 十 分 で あ る。
夏 の 季 節 風 に よ る 雨 量 は2m近
く に しば しば 達 し、北 の ア ッサ ム 州 との 国 境 に 近 づ く につ れ て よ
り危 険 に な る。 ま た 、密 林 の植 生 帯 に 属 す る。
2.一
人 口過 密 の領 土
米 の 耕 作 は 優 れ た条 件 で 行 われ て い る(少 な く と も二 毛 作)。 しか し人 口 は4400万
人(平 均 人
口密 度 は300人/km2以
上)で 、 人 口密 度 が1200人/km2に
達 す る農 村 地 帯 もあ る。 そ の た め 、作
物 を 輸 入 す る 必 要 が あ る 。 た だ幸 運 な こ とに 、 東 パ キ ス タ ン に は 世 界 中 で評 価 され て い る三 つ の
耕 作物 が あ る。 茶 とサ トウキ ビ、 そ して 特 に ジ ュ ー トで あ る。 ベ ン ガ ル 地 方 は こ こ しば ら く の 間 、
ジ ュ ー トの 供 給 を独 占 して い る。
3.一
独 立 に 関す る 問 題
か つ て は ジ ュ ー トの 大 半 は カル カ ッ タ で耕 作 され て い た 。 しか し今 日で は 政 治 的 国 境 が 引 か れ
た こ と に よ り、 生 産 国 と加 工 国 が 分 断 され た 。 東 パ キ ス タ ン は 特 に 東 パ キ ス タ ン最 大 の 都 市 で あ
る ダ ッカ(人 口40万 人)に ジ ュ ー トの加 工 工場 を設 置 して い る。 ま た 、 ヨー ロ ッパ や ア メ リカ と
直 接 貿 易 が で き る よ うに な るた め に 、 総 力 を注 い で チ ッ タ ゴ ン に近 代 的 な 港 を建 設 して い る。
第 三節
多様 な高 校 の教 員 が問 題 を協議 で作 成(1986年
以 降)
この受 験 準備教 育 は 、1980年 代 にバ カ ロ レア取得 率 が30%弱
広 く問題 視 され るよ うにな った39。そ こで1986年
(commissiondechoix)の
に 上昇 した こ とを受 けて激 化 し、
以 降 は、問題 を作成 ・選 択す る問題選 択 委員 会
設 置 が全 大学 区 に義務 づ け られ た。 委員 会 は、 大学 教員 の委 員長1
名 と、大 学 区 内の多 様 な高校 の 教員 数名 、視 学 官1名 で構 成 され た40。
この よ うに多様 な高校 の教 員 が協 同 で問題 を作 る組織 が成 立 し、平均 的 な水 準 の生徒 を対象 に
した 高次 の学 力 が 問われ る よ うに なっ た。 しか し大 学教 員 が作 問 の責任 者 で あっ たた め に、 なお
も高校 の教 育 内容 以 上 の知識 が 求 め られ た。実 際、1986年 の 内部通 達 に 、数 学 の 「
試験 問題 の適
当 な出題 範 囲 と難 しさを保つ こ とに注意 しな けれ ばな らない。 〔
中略〕 しか し近年 で は、 この点
が常 に は守 られ てい な い」 と記 され て い る41。その 中で1990年
代 にはバ カ ロ レア取 得率 が50%
を超 え て大衆 化 し、 暗記 中心の 受験 準備 教 育へ の非 難 はい っ そ う激 しくなった42。
そ の た め1997年
教 員1名
か らは、上 述 の問題 選択 委員 会 が 問題 作成 委員 会 に改組 され 、委員 長 が大 学
か ら大 学教 員 と視 学官 の共 同委 員長 に変更 され た。 その理 由につ い て は、 「1995年 の
一393一
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
バ カ ロ レア試 験 で生 じたい くつ か の困難(問 題 の物 理 的ま た は印刷 上 の 問題 、学習 指導 要領 の精
神 と問題 の不 適合)は 、問題 選 択 の大学 区総 長 へ の委任 方 法 を再定 義す る必要 を示 してい る」 と
述 べ られ て い る43。この よ うに、 学習 指導 要 領 に詳 しい視 学官 の権 限が委 員 会 の一員 か ら問題 作
成 の責任 者 へ と強化 され た の は、 高校 の教 育 内容 の範 囲 内に 問題 を収 め る こ とが 目的 で あっ た。
以 上 よ り、問題 作成 に 関す る制度 の 変遷 は次 の 四つ に大 別 で き よ う。 ①大 学教 員 が作成(1808
年 の創 設 よ り第 二次 世界 大戦 前)、② レベ ル の高 い高 校 の教 員 が作成(第 二次 世 界大 戦後 か ら1985
年 まで)、 ③大 学教 員 の下 で多様 な高校 の教員 が協 同で作 成(1986年
学 教員 と視学 官 の下 で多 様 な高校 の教員 が 協 同で作 成(1997年
か ら1996年
ま で)、 ④ 大
以 降)で あ る。
各 制度 下 で問 われ た学 力 は表3の よ うにま とめ られ る。① 高校 の教 育 内容 以 上 の知識 を記憶 す
る学 力 か ら、② 高校 の教 育 内容 以上 の知 識 に基 づ いて 、優秀 な生徒 を対 象 に した 「
理解 」 を表 現
す る高次 の学 力 、③ 高校 の教 育 内容 以上 の 知識 に基 づ い て、平 均 的 な水準 の 生徒 を対 象 に した 「
理
解 」 を表 現す る高次 の学 カへ と、能 力 の質 と水 準 が変化 した。 ここで は能 力 の水準 は試 験成 績 の
優 秀 さを、能 力 の質 は認 知行 動 の複雑 さを意 味 してい る。 そ して④ の 改革 で知 識 の範 囲が 高校 の
教 育 内容 に限定 され 、 平均 的 な水準 の生
徒 を対象 に した 、 「
理解 」 を表 現す る高
表3バ
次 の 学力 の評 価 が志 向 され る よ うにな った。
した が って 問題 作成 委員 会 は、 この高校 の教
育 目標 と重 な る高次 の学 力 を評価 の対象 とす
る評価 観 に基 づ い て創 設 され た とい える。
カ ロ レア試験 問題 で 問わ れ た学 力の 変遷
能力
質
表現す る
採 点 組 織 に 表 れ た 評 価 観(表3は
第 一節
水準
「
理 解 」を
記憶す る
第 三章
知識
高い
平均
低い
高校 の教
育 内容 の
範 囲内
④
く」
一一
高校 の教育
内容 の範囲
外
② じ㍉
③ ぐク
〔塗
①
筆者 が作成)
論述 試験 派 と客 観 テス ト派 の 論争
続 い て第 三 章 では 、バ カ ロ レア試 験 の採 点 に関す る議 論 をた ど り、採 点 組織 の評価 観 を探 る。
採 点 にっ い て は、採 点 者 間 の採 点 の ば らっ きが 古 くか ら指 摘 され て いた44。 この疑惑 は、 ニ ュー
ヨー ク のカ ーネ ギー財 団が コロ ン ビア大 学教 育 学部 国 際教 育研 究所 に委 託 した、試 験 に 関す る国
際調 査(以 下、 カー ネ ギー調 査)で 初 めて検 証 され た。 バ カ ロ レア試験 は将来 の指 導者 層 を選 抜
す る重要 な試 験 で あ り、高校 教員 が個別 に行 って いた採 点 の正確 さが 問 われ て い たた めで あ る45。
カ ーネ ギ ー調査 で は 、フ ランス委 員 会 の委員 で あ った ソル ボ ンヌ大 学理 学部 教授 の ロー ジェ(H.
Laugier)が
、心 理学 者 の ウェイ バ ー グ(D.Weinberg)と
採 点 に 関す る実験 調 査 を1932年
ともに、バ カ ロ レア試 験 の論 述試 験 の
に行 った。6教 科 の答 案 を100枚 ず つ抽 出 し、各答 案 を5人 の
教 員 に採 点 させ た。そ の結果 、哲学 な どの文系 教科 の み な らず 、数 学 な どの理 系 教科 にお い て も、
合 否 を左 右す る程 大 き な採 点の ば らつ きが み られ た46。
ドシモ ロジー を提 唱 した ピエ ロンは この調 査結 果 な どを援 用 し、従 来の論 述試 験 で は評価 の観
点 の重み づ けや評 価 指標 が採 点者 間で異 な る ため に採 点の ば らつ きが 大 きい と指摘 した。 そ して
公 正 さを確保 す るため に、「
正 確 さの 客 観的 な管理 」がで き る客観 テ ス トの必 要性 を主 張 した。客
観 テ ス トは 問題 が多 様 かつ 多数 で 、受験 者 の適 性 を正確 に測定 で き る と考 えて い たた めで あ る47。
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細 尾:フ
ラ ン ス の バ カ ロ レ ア 試 験 にお け る 評 価 観
これ に対 し教 育学 者 の ピオベ ッタ(J.-B.Piobetta)は、論 述試 験 は受 験者 の能 力全 体 を評 価 で き
る もの の、 客観 テ ス トは記憶 力 な どの 「
単純 な知 能 」 しか 測れ な い と批 判 した 。 その 上、創 造 力
な どの 「
教 育 が求 め る知 能」 と異 な る 「
単純 な知能 」 のみ を測 る と教 育 を歪 め る と警告 した48。
そ の後 バ カ ロ レア試 験 の論 述試 験 の採 点 に 関す る実験 調 査 が多数 行われ 、カ ーネ ギー調 査 と同
様 に、採 点 の ば らつ きが一 貫 して示 され た49。これ を も とに ピエ ロンは 、 「
採 点 者 が多 かれ 少 なか
れ 持 っ てい る不安 定 さや 気 ま ぐれ で成功 か失 敗 か が決 ま るな んて 、受験者 はな ん と哀 れ だ ろ う!」
と、 ピオベ ッタの指 摘 に反論 した。 そ して 、採 点者 の 主観 が採 点 に反 映 され ない客 観 テス トでは
採 点 の ば らつ きが な くな る とい う理 由か ら、客 観 テス トを試 験 全 般 に導 入 す る こ とを主張 した50。
この よ うに客観 テ ス ト派 と論 述試 験派 の論 争 が繰 り広 げ られ た もの の、 客観 テ ス トはバ カ ロ レ
ア試 験 には取 り入 れ られ な か った。 それ は世 論 の多 くが、 客観 テ ス トは 「
単純 な精 神作 用 」や 反
応 の 速 さしか測れ ず 、 思考 の厳密 さや表 現 の優雅 さ、論 証 力 な どの 「
洗 練 され た能 力」 を評 価 で
き ない と考 え てい た た めで あ る51。客 観 テ ス トで担 保 され る信 頼性(評 価 対 象 を正確 に測 定 して
い るか)の 高 さは、 公正 性 の点 か ら魅 力 的 で あっ た。 しか し高校 の教 育 目標 は一貫 して、 規定 の
教 育 内容 につ いて 「
位 置 づ け、描 写 し、説 明 し、 比較す る」52力な どの 高次 の学 力 で あっ た。 そ
のた め高 校教 育 を歪 曲 しな い よ うに、 この よ うな高 次 の学 力 を評 価 で き、 妥 当性(当 初 意 図 した
ものを評 価 して い るか)の 高い論 述試 験 が支 持 され た と考 え られ る。
これ は、 ドシモ ロジー 学者 の 中 に さえ、 客観 テ ス トの導入 に反対 す る者 がい た こ とか らも伺 え
る。カーネ ギー調 査 の フラ ンス委 員会 代表 の デ ク ロ(A.Desclos)は 、客観 テ ス トは正確 な測 定 がで
き る と評 価 した ものの 、妥 当性 につ いて は疑 問視 してい た53。また近 年 で はバ シ ェ(EBacher)
が、 「
選 択 して構 成 し、論述 し、話 す能 力 を ほ とん ど調 べ る こ と」 が で きず 、 測 定対象 が 狭 い客
観 テ ス トの み を使 用 す る と、重 要 な教 育 目標 が教 員や 生徒 に無視 され る危 険性 を指摘 してい る54。
こ うして採 点 のば らつ き をな くす とい う課題 は、高 校 の教 育 目標 と して め ざ され てい る高 次 の学
力 を評 価 す る とい う課題 と両輪 となっ て、バ カ ロ レア試 験 に課 され る こ ととなっ た。
第 二節
モ デ レー シ ョン を行 う採 点組織 の 成 立
で は この課 題 に対 して、 どの よ うな解 決策 が採 られ たの だ ろ うか。バ カ ロ レア試 験 にお け る採
点 のば らつ き を減 らす た めに、 一部 の大 学 区 では 、採 点者 間 の調 整 手続 きが 自発 的 に行 わ れ てい
た。1930年 代 には合意 委 員会 が置 か れ、採 点方 法 につ い ての合 意 が 図 られ て い た。ま た 同時期 か
ら合 否判 定委 員会 にお いて 、採 点結 果 の比較 や 内 申書 の参酌 が行 われ てい た55。1960年 代 に は調
整 委員 会 が設 け られ て採 点者 間 で得 点分 布 が比較 され 、採 点結 果 が調整 され て い た56。
1980年 代 に な る と、前 述 した バ カ ロ レア 取得 率 の上昇 で世 間の 関心 が高 ま り、採 点 の ば らっ き
が教 育雑 誌 な どで広 く指摘 され る よ うにな った57。そ のた め 、受験 者 が 自分 の答 案 の採 点 に 関す
る情 報 を請 求 した り抗議 を した りす るこ とが急増 し、社 会 問題 とな った。
そ こで1986年
の通達 で は、 上述 の調 整 手続 き を全 国 に普及 させ るた めに、採 点 者 の研修 を行
う合 意委 員会 と、採 点結 果 を統 計 的に調 整す る調 整 委員 会 、統 計的 手 法 と内 申書 の参酌 で採 点 結
果 を調整 す る合 否判 定 委員 会 か らな る 、採 点組 織 の設置 が全 大学 区 に提案 され た58。 しか し採 点
の調整 手 続 き は、通 達 で提案 され た通 りには必 ず しも実 施 され な か った。 義務 づ け られ て はい な
か った た めに、 一部 の 大学 区で は採 点組 織 が設 置 され なか っ たた めで あ る。 さらに採 点組 織 が設
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京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
第56号2010
置 され た大 学 区で も、採 点者 の 多 くは 自分 の採 点結 果 の修 正 を拒 んだ た めで あ る59。
こ うした状 況 の 中で 、受験 者 や保護 者 が 、採 点者 間 で採 点 がば らつ いて い るの は不 平等 と抗 議
す る よ うにな った。 特 に1994年
レア試 験 で20点
には 、哲 学 の全 国 コン クール で二 等 賞 を取 った もの の、 バ カ ロ
満 点 中1点 で あ った こ とを受験 者 がテ レ ビで公 表 し、採 点 のば らつ き に関す る
議 論 が巻 き起 こっ た60。この時期 に採 点の ば らつ きが世 間 の注 目を あびた の は、 「2000年 ま で に
バ カ ロ レア水 準(高 校 最 終学 年)に 到 達 す る者 の割 合 を 当該 年齢 層 の80%に
ロ レア取 得者 倍増 計 画 が1985年
して50%を
」 とい う政 府 のバ カ
に発 表 され た こ とを受 け 、1990年 代 にバ カ ロ レア取得 率 が急増
超 え、採 点 の公 平性 が強 く求 め られ るよ うに なっ たた めで あ る と考 え られ る。
そ こで1995年
か らは、採 点 組織 の設 置 が全 大学 区に義 務づ け られ た。そ の理 由 と して は、 「
近
年 のバ カ ロ レア試 験 で は、試 験 の採 点 に関す る様 々な事 件 の ため に、試 験 の 円滑 な実施 が 妨 げ ら
れ た。 これ らの事 件 の 多 くは、 同 じ答案 の 点数 が採 点者 間 で大 き く異 な る こ とが い くっか の教 科
の二 重採 点 の実験 調 査 で示 され た こ とを契機 に生 じた もの で あっ た。 〔中略〕 採点 の統 一性 と教
員 の教 育的 自由及 び合 否判 定 委員 会 の至 上権 とを 両立 させ る必 要 が あ る」 と述 べ られ てい る61。
ここか ら、採 点組 織 の設 置 の義務 化 は 、採 点 のば らつ き を緩 和 す るた めで あ った こ とがわ か る。
以 上 の検討 か ら、 採点組 織 は 、高校 の教 育 目標 として め ざされ てい る高 次 の学力 を採 点 の ば ら
つ きな く評価 す る とい う評価 観 に基 づ いて成 立 した とい え よ う。 そ の た めに、 公平 性 は確保 で き
て も低 次 の学 力 しか測れ な い客 観テ ス トは退 け られ 、 高次 の学 力 を評価 で き る論述 試験 が保 たれ
た。 そ して こ の論 述試 験 の枠 内で採 点 のば らっ き を減 らす た めに 、高校 教員 か ら任 命 され る採 点
者 間 のモ デ レー シ ョン とい う、高校 教員 の協 同 で評価 基 準 を統一 す る方 法 が採択 され たの で ある。
お わ りに
本 稿 では 、 問題 作 成や 採 点 に関す る議 論 を歴 史的 に検 討す る こ とによ り、バ カ ロ レア試 験 の評
価 観 を探 究す る こ とを課 題 と した。 バ カ ロ レア試 験 に は、 高校 教育 を歪 曲せ ず に論 述試 験 にお け
る公 平性 を保 証す るた め に、評価 方 法 の妥 当性 と信 頼性 、公 正性 をす べて確 保 す る こ とが期 待 さ
れ て い た。 そ のた め問題 作成 や採 点 に 際 して は、高 校 の教 育 内容 にっ いて の 、平均 的 な水 準 の生
徒 を対象 に した 「
理解 」 を表 現 す る とい う、高校 の教育 目標 と重 な る高次 の学 力 を、採 点 の ば ら
つ きな く評価 す るこ とが志 向 され る よ うにな った。 多様 な高校 の教 員 が協 同 で問題 作成 と採 点 を
行 うバ カ ロ レア試 験 の体 制 は、 この評 価 観 を具 体化 す る しくみ と して成 立 した の で ある。
日本 では近 年推 薦 入試 や ア ドミ ッシ ョン ・オ フィス入 試(AO入
さない形 態 で普及 ・拡大 し、2007年 度 には大 学入 学者 の約4割
試)が 必 ず しも学力 検 査 を課
が、小 論 文(比 較 的短 い 文章 で
答 え させ る論述 試験)や 面接 で選 抜 され て い る62。受験 者や 高 校 、大 学 に とっ て利 害 関係 の大 き
いハ イ ・ス テイ ク スな 大学入 試 で は、信 頼性 や公 正 性 が求 め られ る と ともに 、高校 教育 を乱 さな
い よ うに妥 当性 を確保 す る こ とも重 要 とな る。 しか し、 自由 に表現 で き る小論 文や 面接 には採 点
者 の主観 が入 りや す く、信頼 性 や公 正性 の保 証 は 困難 で ある。 そ の上 、知識 の記憶 力 が問 われ る
筆 記試 験 も歴 史 的 に は出題 され てお り、妥 当性 が必 ず しも担保 され る わ けで もない63。 したが っ
て、 小論 文や 面接 な どの試験 形 式 を大学 入試 に取 り入れ る際 には 、妥 当性 と信 頼性 、公 正性 を と
もに高 め るた めに は、 どの よ うな教 育 内容や 水 準 、質 の学 力 を どの よ うに評 価 す るべ きか とい う
評 価観 を吟 味 し、それ に基 づ い て問題 作成 や 採 点の組 織 や方 法 を設 定す る必 要 が あ る とい え よ う。
一396一
細尾
フ ラ ン ス の バ カ ロ レ ア 試 験 にお け る 評 価 観
今 後 の課題 としては 、次 の二 点 をあ げて お きた い。一 つ は 、本稿 で 明 らか に したバ カ ロ レア試
験 の評 価 観 が、 フ ラ ンス社会 にお け る能 力観 や メ リ トク ラシー 論 と結 びつ い て どの よ うに変容 し
て きた のか を歴 史的 に 明 らか にす る こ とで あ る。 も う一 つ は 、モデ レー シ ョンの論 拠 で あ る ドシ
モ ロジー の理 論 的展 開 を辿 り、 客観 テ ス トを否 定す るな どの 、ア メ リカ の精 神 測 定論 とは異 な る
フ ラ ンス独 自の理 論 的特 徴 とそ の要 因 を探 究 してい きたい。
1Ministさredel'Educationnationale
,ReρOresetre'fe'relleesstatistiques,2009,pp.233-235.こ
れ は 第2群
試 験 後 の 合 格 率 で 、 第1群
試 験 の 合 格 率 は 普 通 バ カ ロ レ ア 試 験 で74.9%で
あ る。
2藤 井 佐 知 子
「フ ラ ン ス の 資 格 制 度 一 特 質 と 課 題 一 」 日 本 生 涯 教 育 学 会 年 報 編 集 委 員 会 編 『生 涯
学 習 と 資 格 』 、 日 本 生 涯 教 育 学 会 、1994年
、pp.105-110。
3宮 脇 陽 三 『フ ラ ン ス 大 学 入 学 資 格 試 験 制 度 史 』 風 間 書 房 、1981年
。
4藤 井 佐 知 子
「フ ラ ン ス に お け る 接 続 問 題 」 荒 井 克 弘 ・橋 本 昭 彦 編 著 『高 校 と 大 学 の 接 続
入試
選 抜 か ら 教 育 接 続 へ 』 玉 川 大 学 出 版 部 、2005年
、pp.277-294。
5大 場 淳
「フ ラ ン ス の バ カ ロ レ ア と 高 等 教 育 の 質 保 証 に 関 す る 一 考 察 」 広 島 大 学 高 等 教 育 研 究 開
発 セ ン タ ー 『高 等 教 育 の 質 的 保 証 に 関 す る 国 際 比 較 研 究 』 同 セ ン タ ー 、2005年
6Piobetta
,J.-B.,Lebaeea、laureiat,Paris:J.-B.BailliさreetFils,1937.
71、egrand
,P,Lebaeehθznousetaillθurs,Paris:HachetteEducation,1995.
8Noizet
、pp.69-94。
,G.,"Etudedocimologiquesurlacorrectiondel'6critdubaccalaur6at",inBulleimde
17nstitutNationald'Etudedu7}availetdてOrientatiαnProfessionnelle,4,1961,PP.257-267.
9Merle
,P,LesnotesSeeretsdefabrieation,Paris:PU.E,2007.
100get
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lbrganisationdese'preuves,Th6sededoctorat,Universit6deBourgogne,1999.
11本 稿 で の 学 力(教
育 目標)は
、 内 容 的 側 面 を 構 成 す る 知 識(教
育 内 容)と
る 能 力 の 二 次 元 で 捉 え て い る(石
井 英真
行 動 的側 面 を構 成 す
「『改 訂 版 タ キ ソ ノ ミ ー 』 に よ る ブ ル ー ム ・タ キ ソ ノ ミ ー
の 再 構1築 ■ 知 識 と 認 知 過 程 の 二 次 元 構 成 の 検 討 を 中 心 に 一 」 『教 育 方 法 学 研 究 』
第28巻
、2002
年 、pp.47-58)。
教 育 目標 と し て の 学 力 規 定 は 次 を 参 照(田 中 耕 治 『教 育 評 価 』岩 波 書 店 、2008年)。
12Ministさredel'Educationnationale
,oρ.eit.,p.202.
13フ ラ ン ス 語 の 口 述 試 験 に つ い て は 、B.0.,no.2003-002,8janvier2003を
参 照 。 ま た 物 理 ・科
学 の 実 技 試 験 に つ い て は 、B.0.,no.27,4juillet2002を
参 照。
14拙 稿 「バ カ ロ レ ア 試 験 制 度 」 フ ラ ン ス 教 育 学 会 編 『フ ラ ン ス 教 育 の 伝 統 と 革 新 』 大 学 教 育 出 版 、
2009年
15B
、PP.152-160。
.0.,no.5,29juin2006を
16EduSCOLのHP(http://edusco1
も と に 筆 者 が 作 成 した 。
.education.fr/DO185/accueil.htm、2009年11月19日
を も と に 筆 者 が 作 成 した 。 農 業 高 校 で の み 開 設 され て い る 教 科 は 省 略 した 。
17B .0,no.13,28mars1996.
18B .0,no.20,18mai1995.
19B .0.,no.24,17juin2004及
びB.0.,no.5,29juin2006.
20Pi6ron
,H.,Examensetdoeimo7097b,Paris:PU.E,1963,pp.8-14.
21Noizet
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P.47.
22乃1銘
,p.48,p.51,pp.54-55,p.58.
23Piobetta
,oo.eit.,p.24,p.30,p.63.
24」tOid ..P.67.
25Goblot
,E.,.Labarn'e'Teetlenive(1uEtudesoeiologr'quesurlabourgeoisiefrangaise
moderne,Paris:LibrairieFelixAlcan,1925,pp.126-127.
26Piobetta
,op.eit.,p.44,pp.69-70,pp.99.
27」tOid .,p.70,p.93,p.107,p.113,p.118,p.138,p.162,p.182.
28」tOid ..p.212,pp.219-223.
一397一
確 認)
京都 大 学大 学 院教 育 学研 究科 紀要
29Legrand
,oρ.eit.,pp.98-100.
30Piobetta
31thid
第56号2010
,oo.αit.,p.163,p.175,p.195,p.198.
.,pp.158-161.
32宮
脇
、 前 掲 書 、pp.292-293、p.376。
33Merle
,oρ.αit.,pp.117-118.
34BulletinOfficielduMinistさrede1'EducationNationale
,Horafres,programmes,me'thodes
de1'ellselghementduseeonddegrtt,Paris:C.N.D.P.,1956,p.122.
35"Lessujetsdemath6matiquesdubacC6taientinadapt6s"
36``Lebaccalaur6atC
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,bquoijoue-t-on?",Bu17eimdeIAssoeiatibndesAofesseursde
Mathei2atiquesde1'E2se19hementPublie,316,1978,p.884.
37Prost
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llationalsur7esseeolldseye7es,Paris:Ministさrede1'EducationNationale,1983,p.135.
38At?naleseorrige'esdubaeca7aureiatHistofreetge'ographie(Paris:Vuibert
pp.113-114)を
も と に 筆 者 が 訳 出
39Prost
,fOid.,p.135.
40B
.0,no.35,100ctobre1985.
41B
,1961,
し た 。
.0,no.40,13novembre1986.
42Bouveresse
,J.andDerrida,J.,『RapportdelaCommissiondePhilosophieet
d'Epist6mologie",inDerrida,J.(ed.),Dudroittila」philosophiθ,Paris:EditionsGali16e,1990,
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48Piobetta
,J.-B.,Examenseteoneours,Paris:PU.E,1943,pp.14-18,pp.23-30.
49NoizetandCaverni
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50Pi6ron
,oo.αit.,1963,p.31,p.166,p.175.
51Legrand
,oρ.eit.,p.129.
52BulletinOfficielduMinistさrede1'EducationNationale
53Desclos
,oρ.eit.,p.122.
,A,"R6sum6,remarquesetsuggestions",inCommissionfrangaisepour1'enquete
CarnegiesurlesexamensetconcoursenFrance,oρ.eit.,p.385.
54Bacher
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ぬ
」
ρ研 αbolbμ
嗣 ψgα6θ:Paris:
P.U.E,1973,pp.58-59.
55Piobetta
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57例
58B
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,oo.αit.,1963,p.161.
え ば
、`Z'arbitrairedelanotation?",五
θ、
㎞
59Legrand
融1襯
召昭 翻 α1,novembre,1983.
,oρ.eit.,pp.68-69.
60``Lacopieparlaquellelescandalearrive"
61B
礁
.0,no.3,22janvier1987.
,五 蒼yi6ワ θmθ η6ゴ 召メθ召鷹1994/7/14-20.
.0,no.20,18mai1995.
62中
央 教 育 審 議 会
63佐
々 木 亭
「学 士 課 程 教 育 の 構 築
『大 学 入 試 制 度 』 大 月 書 店
に 向 け て(審
、1984年
議 の ま
と め)」2008年3
(教育 方 法 学 講 座
(受 稿2009年9月7日
.月25日
。
、pp.8-9、pp.118-126。
、 改 稿2009年11.月30日
一398一
博 士 後 期 課 程1回
、 受 理2009年12.月11日)
生)
細尾:フランスのバカロレア試験における評価観
View of Evaluation in Baccalaureate in France:
A Historical Analysis of Discussions
on Making Exam Questions and Marking
HOSOO Moeko
The purpose of this paper is to clarify a view of evaluation in baccalaureate in
France. Baccalaureate is a certifying examination that confers the completion of
high school and the qualification for university admission. It is conducted near
the end of high school, and candidates take exams for almost all subjects they
have finished. Most are short articles. Successful candidates can be basically
admitted to enter any university. I began so by revealing characteristics of the
organization of evaluation in baccalaureate. It is composed of a commission on
making exam questions and three commissions on marking. In the former
committee, teachers of various high schools draw up exam questions upon
deliberation with chairpersons of a professor and an inspector. In the latter, high
school teachers who are appointed markers adjust their grades by means of
moderation. I then examined historical discussions on making exam questions
and marking of baccalaureate. Diverse controversies have been developed in
terms of validity, reliability and equity of evaluation. Through these
investigations, I pointed out that baccalaureate has a view of evaluation aiming
to assess the elevated ability at the average level of students concerning what
they learned in high school without wide grade variations.
- 399 -
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