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3.新しい食品の機能性表示の概略

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3.新しい食品の機能性表示の概略
日本食品安全協会会報 第9巻 第4号 2014年
3.新しい食品の機能性表示の概略
長村 洋一
(鈴鹿医療科学大学)
始めに
昨年6月に安倍総理の規制改革の第3の矢として放たれた「健康食品の機能性表示を可能にし
ます」の演説に基づいて消費者庁が合計8回行った「食品の機能性表示に関する検討会」の報告
書が7月30日に公表された。その後法律の改革案がだされ、パブリックコメントの募集も行われ
既に終了している。
こうした一連の動きは、来年の4月に向かって本格的に「食品の機能性表示」をスタートさせ
るために着々と制度改革が進められていることを意味している。巷では、今後の健康食品の世界
がどのように変わってゆくのかということに関して特に関連業界は非常に強い関心を示してい
る。新制度の機能性表示に関して非常に重要な位置を占めるシステマティックレビューによる食
品素材の機能性の科学的エビデンスを得るための具体的調査を開始している企業もかなり出始め
ている。
一方においてかなり大きな健康食品メーカーの上層部の方には「この消費者庁の法案は業界に
とっては最悪のシナリオだ、昨年の安倍総理が指示した演説に対し消費者庁は何を考えているの
だ」と酷評される方もおられる。今度の改革案を困ったものだと評されている方が結構な数おら
れるということも時間の経過とともに強く感じられる。
筆者は「健康食品による消費者の被害を防ぐということを最優先に考えた上での機能性表示制
度」として今回の制度は非常に良くできた法案だと高く評価したい。健康食品の消費者被害には
大きく分けて2つある。一つは、いい加減な表示で高額な健康食品を売りつける消費者に対する
経済的被害の問題と、もう一つは効果がないどころか健康被害を生ずるような商品が出回ること
による健康被害である。前者は一種の詐欺的問題であり、消費者の被害は経済的なことが中心と
なり、ある程度回復の見込める部分もあるが、後者の健康被害については取り返しのつかない悲
劇を生む可能性がある。
そこで、7月30日に出された報告書を基に、新法により健康食品の世界が来年度からどのよう
な問題を抱えるかについて私見を交えて述べさせて頂く。
参考にされた米国のダイエタリーサプリメントの問題
報告書はまず健康食品に関する機能性表示を認めている唯一の保健機能食品制度について触
れ、この制度は堅持するとの基本的姿勢を示している。そして米国のダイエタリーサプリメント
がどのような制度であり。どんな問題点を抱えているかを非常に鋭くまとめてある。特に米国の
ダイエタリーサプリメント(DS)制度を参考にするにあたって、いわゆるヘルスクレームにつ
いては米国においても認めていないことを強調したうえで、以下のようにまとめている。
他方、DS 制度には数々の問題点が指摘されている。最も重要なものとして、製品の有効性に
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関する科学的根拠情報が得られない可能性が挙げられる。DS 制度では、有効性に関する表示
内容の根拠について、届出・開示の対象ではなく、根拠情報を開示するかどうかは事業者の任
意とされている。このような中、FDAが事業者に対して根拠情報の提出を求めても、それに応
じない事業者がいることをFDA 自身が認めているのが実情であり、消費者が根拠情報にアクセ
スできない可能性がある。また、FDA は事業者向けの指針12において、有効性の実証に当たり
事業者が考慮すべき点を示しているが、それが十分に考慮されていない可能性や科学的根拠不
十分な製品が流通している可能性が、保健福祉省監察総監室(Office of Inspector General, U.S.
Department of Health and Human Services)より指摘されている。
(報告書p6より引用)
この問題点を踏まえたうえで検討を行ったこと述べており、新制度では後述するが米国のDS
制度の抱えている問題をできるだけ継承しないような工夫がなされているのが明らかである。
食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書の概要
規制改革案の中には「いわゆる健康食品をはじめとする保健機能を有する成分を含む加工食品
及び農林水産物の機能性表示の容認」となっていることから対象とする食品について報告書のp8
に論じられている。今回は、保健機能食品でない食品における機能性表示を認めることにする訳
であるので何らかの定義がなされるかと考えていたが、結局は定義されなかった。
米国のDS制度においては形状 として「摂取するために加工された製品(錠剤、カプセル、粉
末等)、一般的な食品、または単独で食事として用いられるものではない 」と明確な定義を行っ
ている。この定義からすると日本のヨーグルトや納豆のように明らかな食品形態を有する特定保
健用食品は該当しないことになる。食品形態を有する製品をDSとして認めないという米国の姿
勢には錠剤カプセル型のいわゆる医薬品と紛らわしい健康食品を管理しようという姿勢が強く伺
われる。しかし、食品素材成分を健康維持に役立てようとするときには錠剤カプセル型より「食
品の形態」を有する方が事故の確率が低くなるので良い、というのが筆者の考え方なので日本の
新制度の方が米国の制度より良いと考えている。
この新制度が具体的にどのように運用されるかは、来春早々までに出されると言われているガ
イドラインがでないと不明瞭な部分が多々あるので以下に消費者庁の報告書につけられた概要が
非常にわかり易くまとめられているのでそれぞれに区切って図1~3に示す。
以上のような安全性確保に関する詳細な方法、機能性表示に要求されている科学的根拠のレベ
ルそして消費者の誤認を招かない食品表示の在り方に関するこの全体像は非常に良くできてい
る。安全性確保およびその機能性の確かさに関して現行の特定保健用食品と同等かそれ以上とな
るので、運用がしっかりなされれば、世界においても誇れるような制度であると感じている。現
在販売されている”いわゆる健康食品”の機能性表示が解禁になるとだけ考えておられた業界の一
部の方には非常に衝撃的な制度と映るかもしれないことは想像に難くない。しかし、消費者が健
康維持を目的に摂取する安心な食品に関する規制としては世界に先駆けた方法であると感じてい
る。
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図1 新制度における安全性確保に関する基本的考え方
(消費者庁 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書概要より)
図2 新制度における機能性表示に関する科学的根拠の基本的考え方
(消費者庁 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書より)
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図3 新制度における機能性表示に関する誤認を防ぐための基本的考え方
(消費者庁 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書より)
図4 新制度における国の関与の在り方に関する基本的考え方
(消費者庁 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書より)
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活用して欲しい健康食品管理士
この新制度における国の関与の在り方を前ページ図4に示すが、内容としては主に法的な観点
からどうするかと言うことと消費者教育の問題が記載されている。特に事前の情報開示は米国の
制度と異なっているので、監視団体が問題ありとみれば販売前に待ったが掛けられる点で大きい
と感じている。その他の法的な部分は現行法との刷りあわせのみで、具体的に発生する問題を本
当に処理できるかに関しては多くの不安材料がある。しかも、消費者教育に関する具体的な像は
全く見えない状況である。
この図4の最下段に、施行後2年を目途に施行状況を検討し、必要な措置を講ずることを期待、
とある。これはかなり大幅な変化を伴う新しい制度の施行だけに予想外の問題が発生する可能性
を加味しての文言であると思われるが、現時点で既に予測される問題点としては消費者の混乱で
ある。今後2年間の運用を通して消費者対策をどうしたら良いかも具体像が見えてくると思われ
る。その時にはアドバイザリースタッフとして活躍してきた我々健康食品管理士集団に対する何
らかの具体的位置づけをして頂けるようしっかり勉強をしなければいけない。
図5 新制度において健康食品管理士を活用して欲しい部署
(消費者庁 食品の新たな機能性表示制度に関する検討会報告書より改変)
最後に図5として健康食品管理士を活用するとしたらどんな部署で活躍できるかに関し筆者個
人の考え方を加えさせて頂いた。特に、現在既に健康食品管理士は全国の基幹病院には殆どいる
状況であるため、医療機関からの連絡に関しては制度さえ整えて頂ければ十分に活用できるので
是非その活用に関して通達なりを出して頂きたい。
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