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実務における品揃え操作影響評価のため の購買行動モデルの拡張と

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実務における品揃え操作影響評価のため の購買行動モデルの拡張と
査読論文
実務における品揃え操作影響評価のため
の購買行動モデルの拡張と実証分析
Assessing the Effect of Assortment Changes: An Application
of Extended Purchase Behavior Models to Transaction Data
佐藤 栄作
里村 卓也
野際 大介
千葉大学
慶應義塾大学
福井工業大学
中村 博
守口 剛
中央大学
早稲田大学
1.はじめに
ど多いとは言えず、加えてそれらの既存研究
が示す結論には一貫性を欠く部分があるなど、
小売業が顧客の支持を得るために留意すべ
課題も多く残されている。さらに我が国の状
き要素はたくさんあるだろうけれども、それ
況を見ると、品揃え操作の影響に関する実証
らの中でも特に大きな影響力を持つ要素の1
分析の結果を公表している研究は、筆者の調
つが品揃えであろう。
べた限りでは見当たらない。ただ関連する領
小売業の品揃えのあり方に関する実証研究
域として棚割り等のスペースマネジメントに
は、1990年代のはじめ頃から取り組まれてき
関する実証研究が散見される程度である(た
ている(Broniarczyk and Hoyer 2006)
。そ
とえば、田島・青木 1989;恩蔵・井上・須
れらの中には実験に基づいて品揃え削減の影
永・安藤2009)
。
響を評価した研究(たとえば、Drèze, Hock,
このように品揃え操作の影響を捉えようと
and Purk 1994;Boatwright and Nunes
する実証研究は、およそ20年前から取り組ま
2001;Borle, Boatwright, Kadane, Nunes,
れているものの、いまだ手薄感が否めない。
andShumueli2005;Sloot,Fok,andVerhoef
そこで本研究では既存のモデルを拡張し、食
2006)や、品揃えの最適化手法の研究(たと
品スーパー(以下、SM)の ID-POS データ
えば、Smith2009;Rooderkerk,vanHeerde,
に適用することを通じて、品揃え操作の影響
and Bijmolt 2013)などがある。前者は、品
を捉えることを試みる。本研究で明らかとな
揃えされる商品数の規模が顧客の購買行動に
ったことは大きく次の4つの点である。1点
及ぼす影響を捉えようとする研究の流れに属
目は、商品入替の程度や品揃え拡縮の程度が、
し、後者は、より高い収益を期待できる商品
顧客の来店間隔や購買金額に影響を及ぼす。
の組合せを、販売データに基づいて求めよう
2点目は、商品の入替や拡縮の影響は、元々
とする最適化手法研究の流れに属している。
の店舗の品揃え規模によって変化する。3点
とはいえ品揃えに関する研究の蓄積はそれほ
目は、品揃え規模が小規模な店舗であれば、
2016.11(No.523)
52
商品の入替や品揃えの拡大を行うことで来店
統計モデルを適用している場合がそれに当た
間隔が短縮され、購買金額が増加することが
る。
期待される。4点目は、品揃え規模が相対的
これに対して品揃え操作が顧客の購買行動
に大きな店舗の場合、商品の入替を大規模に
に及ぼす影響を捉えようとする研究は、前節
行ったり、品揃えを拡大したりすると購買金
でも述べたようにおよそ20年前から取り組ま
額が減少する傾向が見られる。
れてきている。ただし品揃え操作と言っても、
ま た、 本 研 究 の 貢 献 の 1 つ は、Borle et
実務におけるそれを直に考慮するというより
al.(2005)の来店間隔と購買金額に関するモ
は、実験の中で品揃えを一時的に操作し、そ
デルを拡張し、ID-POS データを利用して品
の変化を捉えるという研究のアプローチが主
揃え操作が店舗全体での来店間隔や購買金額
なものである1)。
に及ぼす影響を分析するためのモデルを提示
たとえば Drèze et al.(1994)は、棚割り
したことである。ただし本研究の提案モデル
最適化の研究の中で、8つのカテゴリーに
では、顧客の異質性を考慮できていない点、
ついて、売上下位の商品を削減するという
商品カテゴリー毎の購買間隔や販促効果を考
操作を含めた棚割りの変更実験を行ってい
慮できていない点など、今後取り組むべき課
る。その結果、対象カテゴリー平均で約4%
題も数多く残されている。
の売上増加があったと報告されている。また、
以下、第2節では関連する研究の簡単な整
Boatwright and Nunes(2001) は、 食 品 販
理を示す。第3節および第4節では本研究で
売 EC サイトで売上下位の商品を削減する実
適用する統計モデルと研究仮説の概要を説明
験を行った結果、分析対象とした42カテゴリ
し、引き続いて第5節では当該モデルを ID-
ーで平均11%の売上増加を確認している。こ
POS データに適用した結果とその考察を示
れらの実験による研究結果を見ると、品揃え
す。第6節では全体のまとめと今後の課題に
の削減が売上の増加をもたらすということが
ついて述べる。
示唆されるのであるけれども、その後の研究
を見るとそれを否定する結論を導いた研究も
2.関連研究の整理
ある。Borle et al.(2005)は、食品販売 EC
サイトの147カテゴリーにおいて、 24%から
先に述べたように、品揃え操作の影響に焦
91%の商品を削減する実験を行っている。そ
点を当てた研究はまだそれほど多く蓄積され
の結果、顧客の来店頻度とバスケットサイズ
ているとは言えない。そのためここでは、関
が低下するとともに、カテゴリーレベルでも
連するこれまでの研究を体系的に整理すると
購買頻度と購買量が低下する傾向にあること
いうよりは、本研究の位置づけと意義を確認
を確認している。さらに、商品削減の効果
することに主眼を置いて簡単な整理を行うこ
は、カテゴリーの購買量に対するよりもカテ
ととする。
ゴリーの購買頻度や店舗への来店頻度に対す
品揃えの時系列的な変化を前提としないク
る方が相対的に大きいということを発見し
ロスセクショナルな研究は、古くから行われ
ている。この Borle et al.(2005)の結果は、
てきている。たとえば、店舗選択モデルの効
先の Drèze et al.(1994)や Boatwright and
用を規定する要因の1つとして、当該店舗の
Nunes(2001)の結果とは明らかに矛盾して
品揃えに関連する何らかの変数を組み込んだ
いる。
査読論文
53
複数の研究間で矛盾する結果が示される
た商品を購買していた顧客の購買は、それら
というようなことが生じている要因につい
が削減されることで減少するため短期的に負
て、Borle et al.(2005)は次のような考察を
の影響が生じるものの、削減後の品揃えに対
行っている。すなわち、過去に行われてきた
して新たな購買顧客が生じることで短期的な
品揃え削減に関する研究は、実験のために選
負の影響が相殺され、長期的には負の影響が
定された少数のカテゴリーのみによる結果で
小さくなるということである。
ある。これに対して Borle et al.(2005)の
仮に Borle et al.(2005)の研究が示すよ
研究は、販売実績のあるほぼすべてのカテゴ
うに、商品削減は売上に対して負の影響を持
リーを対象としている。この違いが要因の1
つとしても、その影響は持続的なものではな
つとなっている可能性がある。実際、Borle
く、Sloot et al.(2006)の研究が示すように
et al.(2005)の結果では、購買頻度の低い
ある一定の期間の後には回復し得るものであ
カテゴリーほど商品削減の影響を受けやすい
るのかもしれない。とはいえこのような解釈
という傾向が示されている。つまり、過去の
でも、商品削減が売上を増加させるという可
研究で実験用に抽出され検証に利用されたカ
能性を示唆する Drèze et al.(1994)や Boat-
テゴリーではなく、それ以外のカテゴリーの
wright and Nunes(2001)の研究との矛盾は、
方が品揃え削減の影響を受けやすく、Borle
解決できない。それゆえ先にも述べたように、
et al.(2005)の研究では唯一その影響を捉
経験的な研究を積み重ねる中で精緻化を図る
えているために、従来の結果とは異なる結果
必要があるということを、改めて確認してお
が示されたと考えられるということなのであ
きたい。
る。Borle et al.(2005)の主張は、傾聴に値
ところで、これまでに見てきた研究は、品
する重要な指摘であるけれども、他の研究も
揃えの削減と来店頻度や購買金額、カテゴ
含めてその可否を吟味するにはさらに研究の
リー売上の関係に焦点を当てたものであっ
蓄積が必要であり、それらに基づく経験的な
た。これに対して消費者の品揃えに対する知
事実を確認していく必要があろう。
覚に焦点を当てた研究も行われている(Bro-
Borle et al.(2005) の 研 究 に 少 し 遅 れ て
niarczyl, Hoyer, and McAlister 1998)。品揃
Sloot et al.(2006) も 商 品 削 減 の 影 響 に 関
えの操作が売上等にどのような影響を及ぼす
す る 研 究 の 結 果 を 報 告 し て い る。Sloot et
のか、ということに関して理解を深めていく
al.(2006)の研究は、商品削減の影響を、短
ためには、Broniarczyl et al.(1998)の研究
期的なものと長期的なものに明示的に分離
のように、消費者の知覚の観点からそのメカ
して捉えようと試みた最初の研究である。
ニズムに迫るということも極めて意義のある
Sloot et al.(2006)は、洗剤カテゴリーの商
ことである。ショッパーマーケティングの観
品を削減する実験を行った結果、カテゴリー
点からも、今後取り組まれるべき重要な研究
売上は短期的には減少するものの、長期的な
テーマの1つであるだろう。
負の影響はそれほど大きくはない、というこ
さらに品揃えの研究には、品揃え最適化手
とを発見している。その上で、短期的な影響
法を研究する流れがある(たとえば、Smith
と長期的な影響が生じるメカニズムを、当該
2009;Rooderkerk, van Heerde, and Bijmolt
カテゴリーの購買顧客の変化という観点から
2013)
。先の一連の研究は、品揃え削減と売
考察している。それによると削減対象となっ
上の関係について論じている。これに対して
2016.11(No.523)
54
品揃え最適化手法の研究がその射程としてい
るのは、どの商品を品揃えし、どの商品を品
3.モデルの概要
揃えから外せば、当該カテゴリーの収益は最
本研究では Borle et al.(2005)の来店間
大化されるのかという実務的課題に対して、
隔モデルと購買金額モデルを、品揃え削減の
一定の回答を与えるような手法を提示するこ
みではなく拡大も含めた通常の品揃え操作の
とにある。実務的観点から見るととても魅力
データ2) に適用する。したがって本研究で適
的ではあるけれども、古くから指摘されてい
用するモデルは、Borle et al.(2005)のモデ
る NP 困難な問題という点を除いても、目的
ルの構造を保持しつつ、品揃え操作の変数を
関数の定式化や、それをサポートする購買行
再構成することで適用範囲を拡張するモデル
動の理論など複数の点で、これはこれで課題
という位置付けになる。それゆえ本研究で適
は少なくないように見受けられる。
用する来店間隔モデルと購買金額モデルは、
ここまで、品揃え操作に関する様々な研究
厳密には Borle et al.(2005)のそれらとは
の流れを確認してきた。それらの一連の研究
若干の違いがある。その点を踏まえて本研究
の課題を踏まえて、本研究の問題意識を改め
で適用するモデルの構造を1節と2節で簡単
て確認しておくこととする。本研究で取り組
に確認しておくこととする。
むリサーチクエスチョンの1つ目は、我が国
ところでこれまでの研究で提案されてきて
の SM で品揃えが縮小された場合の来店頻
いる購買間隔のモデルは、商品カテゴリーの
度や購買金額に対する影響はいかなるものか、
購買生起や同カテゴリー内のブランド選択、
を明らかにするということである。先の一連
購買量と一緒に構築されることが一般的で
の研究はすべて海外のものであり、我が国で
ある(たとえば、Gupta 1988, 1991;Bucklin
は同様の研究を行った結果を報告している文
and Gupta 1992など)
。それら商品カテゴリ
献が、筆者の調べた限りでは見当たらない。
ーの購買間隔モデルでは、当該カテゴリーの
実務の中ではおそらく分析されていることで
家庭内在庫量や消費量、当該カテゴリーで行
あろうけれども、外部の者がそれらに触れる
われるセールス・プロモーションの影響が考
ことは困難であるから、このような既存研究
慮されている。さらに潜在クラスモデルの枠
を追試した結果を公表しておくことも、それ
組みでモデル化することによる顧客間の異質
なりに意義のあることであろう。
性を考慮するモデルも提案されている。これ
リサーチクエスチョンの2つ目は、品揃え
らに対して本研究では、店舗レベルの来店間
が拡大され商品数が増加した場合の来店頻度
隔をモデル化の対象としているため、個々の
や購買金額に対する影響を明らかにするとい
商品カテゴリーの購買間隔や販促効果の影響
うことである。この観点からの研究は、これ
は、本研究の段階では考慮できていない。ま
までは行われていないのであるけれども、品
た消費者の異質性についても考慮できていな
揃えの縮小と拡大の両面を見ることで、より
い。これらの点が、本研究で提案される来店
実務に近いところでの品揃え操作の影響に関
間隔モデルと、既存研究の商品カテゴリーレ
する知見を得ることが可能となる。
ベルの購買間隔モデルとの間の差異であり、
本研究の提案モデルを拡張するために取り組
むべき今後の課題となっている。
査読論文
55
1)来店間隔モデル
顧客の来店間隔日数が負の二項分布に従う
ものと仮定し3)、以下のようにモデル化を行う。
,
⑴
ここで、
4.影響要因に関する研究仮説
と平均パラメータの構造化
1)研究仮説
本研究の主眼は、品揃え操作の影響を評価
するところにある。先に見たように、関連す
: 世帯 の来店時点 における前回来店
時からの経過日数、
る既存研究では、専ら品揃え削減の影響を評
価することに焦点が当てられ、必ずしもその
:世帯 の来店間隔日数の平均 、
規模の影響は考慮されていない。けれども通
:Dispersion parameter と呼ばれるバラ
常の品揃え操作では、既存の取扱商品の中か
4)
ツキに関するパラメータ、
ら一部が削減され、新商品が導入される。そ
である。
してその結果として、品揃え商品数全体が減
を以下のように構造化すること
少したり増加したりする。それゆえ品揃え操
で、様々な要因が来店間隔に及ぼす影響を捉
作は、既存商品の中で入替対象となった商品
えることができる。
の割合(入替率=削減商品数/前期末商品
さらに
,
ここで、
⑵
は説明変数行列、 はパラメー
タベクトルである。なお、Borle et al.(2005)
数)と、操作後の商品数の増減(拡縮指数=
期初商品数/前期末商品数)によって特徴づ
けることができる。そこでこの2つの要素に
対する仮説を設定する。
は購買間隔を週単位で取り扱っているけれど
はじめに入替率について考える。商品の入
も、本研究では日本の SM 利用顧客の来店頻
替は売れない商品を削減して売れると期待さ
度を考慮して日を単位として扱っている。
れる商品と入れ替えることが前提であるとい
うことを考慮すれば、商品の入替率は来店頻
2)購買金額モデル
度と購買金額を高める方向で影響することが
顧客の購買金額の対数が正規分布に従うも
期待される。しかしながら顧客が日常的に購
のと仮定し、以下のようにモデル化を行う。
買している商品カテゴリーにおいて一度に大
,
ここで、
⑶
は世帯 の来店時点 における
購買金額分布の平均であり、
は分散である。
購買間隔モデルの場合と同様に、平均
ここで、
は説明変数行列、
ータベクトルである。
さゆえに小売業の意図に反して顧客の購買行
動に負の影響を及ぼす可能性も考えられ、結
果として来店間隔が延びたり、購買金額が減
少したりするということも予想される。この
は以下のように構造化される。
,
きな規模で入替をした場合、その変化の大き
ようなことから、本研究の段階では入替率の
⑷
はパラメ
影響の有無のみに注目し以下のような仮説を
設定する。なお入替率の影響の方向を説明す
るメカニズムの実証的研究は今後の課題とし
たい。
2016.11(No.523)
56
仮説1:商品入替の規模が、来店間隔日数に
影響する。
仮説2:商品入替の規模が、購買金額に影響
方の場合が考えられる。これらの点を考慮し
て削減規模・拡大規模の影響については、以
下の仮説を設定する。
する。
仮説3:品揃え商品数の拡縮の規模が、来店
次に、品揃えの拡大および縮小の規模の影
響について考える。商品の入替率がどのよう
間隔日数に影響する。
仮説4:品揃え商品数の拡縮の規模が、購買
であったとしても、削減した商品数と同じ数
金額に影響する。
の新商品が補充されていれば、品揃え商品数
に変化は無く、拡大・縮小の規模の影響は生
ところで顧客の来店間隔や購買金額に影響
じない。これに対して品揃え商品数が一定規
する要因は、品揃えのみではない。とはいえ
模以上に削減されたり拡大されたりすると、
モデルの構造を必要以上に複雑にせず、本研
その影響が生じてくると予想される。ただし
究の主眼である品揃え変化の影響を捉えてい
その影響の仕方は、既存研究の間でも矛盾す
くためには、あまりに多くの要因を組み込む
る結果が得られていることから示唆される
こともまた得策ではない。そこで本研究では、
ように、それほど単純ではないかもしれない。
品揃えに関連する要因の他には、店舗の価格
たとえば大幅に品揃えが削減され商品数が少
水準と曜日の影響を考慮することとする。ま
なくなれば、顧客の目的とする商品が不足す
た、本研究の実証分析で利用するデータの
る可能性が高くなり、結果として購買されに
期間が2014年4月前後にまたがるため、消
くくなったり、店舗への来店が減ったりとい
費税増税の影響も考慮する。さらに Borle et
った影響が生じることが1つの可能性として
al.(2005)と同様に、来店間隔に対しては前
想定される。他方、元々の品揃え商品数が過
回来店時の購買金額を、購買金額に対しては
剰であったとしたら、商品削減によって顧客
前回来店時からの購買間隔をそれぞれの影響
はかえって商品選択がしやすくなって購買し
要因として考慮する。
やすくなったり、来店が促進されたりする可
能性も考えられる。適度な品揃え商品数の規
模というのは個々の顧客によっても異なるで
2)来店間隔モデルの平均の構造化
1節の議論を踏まえて、来店間隔モデルの
あろうし、商品選択のしやすさも個々の顧客
平均パラメータ
の情報処理能力に依存するものであろう。本
る。
を以下のように構造化す
研究では品揃えの変化に対する反応について
顧客の異質性を仮定してないため、このよう
な適度な品揃え数の規模について直接的に取
り扱うことはできないのであるけれども、こ
の点について議論を深めていくことも興味深
いテーマであると考える。
ここではより単純に品揃え商品の削減規
,
,
,
⑸
ここで、
: 世帯 の来店時点
における
購買金額、
模・拡大規模の影響は、店舗の元々の品揃え
:
世帯 の購買経験カテゴリー全体
の状況と顧客の状況に依存して、正と負の双
における前期末商品数に対する当
査読論文
57
,
期期初削減商品数の割合
(入替率)
、
: 世帯 の購買経験カテゴリー全体
における前期末商品数に対する期
初商品数の指数(拡縮指数)
、
: 店舗全体の価格指数(実販売額÷
最大売価推定販売額)
、
う。式⑴で仮定したように購買間隔日数
が、負の二項分布に従うとするとその確率関
数と尤度関数は以下のようになる、
P
,
∏
: 2014年4月~6月は1、その他は
0の値をとる消費税ダミー、
∏
P
.
式⑸の固定効果のパラメータを1つのベク
: 土日・休日は1、それ以外は0の
値をとる休日ダミー、
に ま と
ト ル
め、多変量正規分布
に従う
ものと仮定する。その上で関連する事前分布
である。
加えて、世帯間の異質性を考慮するために
変量効果 を導入し、それらは以下のよう
に平均 ̅ で分散 の正規分布に従うものと
̅
仮定する、
̅
.
,
̅
⑹
,
3)購買金額モデルの平均の構造化
来店間隔の場合と同様に1節の議論を踏ま
を、
,
と 設 定 す る。 ま た、 変 量 効 果 で あ る
つ い て も、 事 前 分 布 を ̅
,
と 設 定 す る。 さ ら に̅
,
,
,
,
,
に
,
,
,
,
,
と設定し、これらの
,
設定の下で , および については MH
法、 ̅ と についてはギブスサンプリング
で推定を行う。
購買金額モデルのパラメータも来店間隔モ
えて、購買金額モデルの平均パラメータ
を以下のように構造化する。
デルと同様に、ベイズ・アプローチによる
推定を行う。はじめに式⑶における購買金
,
,
ここで、説明変数
⑺
は世帯 の前回来店
時からの経過日数であり、その他の説明変数
は購買間隔モデルと同じである。またここで
も世帯間の異質性を考慮するために変量効果
を導入し、それらは以下のように平均 ̅
で分散 の正規分布に従うものと仮定する、
̅
.
⑻
額 の対数が正規分布に従うとの仮定から、
,
,
その確率密度関数と尤度関数は以下のように
なる。
P
∏
∏
ータ推定は、ベイズ・アプローチにより行
58
.
来 店 間 隔 日 数 の 場 合 と 同 様 に、 式 ⑺ の
固定効果のパラメータを1つのベクトル
にまとめ、多
に従うも
変量正規分布
,
の と 仮 定 す る。 そ の 事 前 分 布 は、
4)推定方法
変量効果を含む来店間隔モデルのパラメ
,
√
,
定 す る。 加 え て 変 量 効 果
事前分布を̅ ̅
と 設
に 対 し て は、
,,
2016.11(No.523)
,
と 設 定 す る。 さ ら に
,
,
,
,
6),
,
,
,
(図表1参照)
。
定用データとして用いている
,
,
,
分析に用いる変数の構成は、前節に記した通
,
と設定し、ギブスサンプリングによ
りである。また購買金額については税込み金
,
,
り推定を行う。
額を使用している。
ここでは、品揃え変化を捉える時間枠の期
の設定の仕方、および品揃え操作の推定方法
5.実証分析
について簡単に述べる。
1)データの概要
はじめに期の設定についてであるけれども、
本研究は、経営科学系研究部会連合協議会
SM であれば通常の棚替えは春と秋に行われ
主催の平成27年度データ解析コンペティショ
る。それゆえ棚替え後の半年を1つの期とし
ンにおいて取り組んだ研究の一部である。同
て設定することが、通常の業務とも連動して
コンペティションには㈱アイディーズ様より
いて受け入れやすい。とはいえ本分析で利用
ID-POS データを含む i-code データと呼ばれ
するデータの期間は2年間であり、春と秋の
るデータが提供された。同データには関東お
棚替えを基準に考えると、期が4つと少なく
よび中部地区の SM 9店舗のデータが含ま
なってしまい、かつ最後の期については3ヶ
れている。データ期間は2013年7月1日から
月分のデータしかないというアンバランスな
2015年6月30日までの2年間である。
状況になってしまう。品揃えの変化をできる
分析を行うに際しては、ID-POS データを
だけ多く観測している方が推定は安定すると
取引単位で集計した購買金額が負となってい
いうことも考慮すると、棚替え業務とは必ず
たり、数十円程度と極めて少額となっていた
しも連動しないものの、ここでは敢えてもう
りするケースがわずかに見られたため、それ
少し期間を短く設定し、3ヶ月を1つの期と
らのデータを除外した5)。さらにモデルの推
して取り扱うこととした。なお、最初の2期
定に際しては、分析期間の各期に1回以上来
間(2013年7月~12月)の半年分は、来店間
店している会員顧客を対象とし、それらの中
隔日数の値が過小となることを避けるために
から店舗1・2・3・4・5・6・8の7店
初期化期間として分析からは除いている7)。
舗については約10%、店舗7・9については
つぎに品揃え操作の推定であるけれども、
約20%の会員顧客をランダムに抽出して推
これは商品毎の販売実績を店舗毎に集計し、
図表1 店舗別各期間1回以上来店会員数と推定用会員数
店舗
各期間1回以上来店
会員数
データ数
推定用
会員数
データ数
店舗1
7,795
769,451
742
75,595
店舗2
15,404
1,133,323
1,462
106,356
店舗3
4,993
351,150
473
32,575
店舗4
4,014
374,984
377
35,443
店舗5
3,928
352,530
367
32,611
店舗6
5,793
409,364
551
38,404
店舗7
2,582
281,025
507
55,842
店舗8
7,086
556,931
673
50,905
店舗9
2,261
204,531
445
41,551
査読論文
59
販売実績のある週は、当該商品が品揃えされ
と2014年4月~6月の期が、翌年同期の2015
ていると仮定した。その上で、一時的に取り
年4月~6月と比較して特に高くなっている
扱われている特売商品や、年末年始の特殊な
傾向が見受けられることによる。これは容量
商品を品揃え変動の対象から除くために、デ
変更等でリニューアルされた商品が多いこと
ータ期間内で20週以上販売実績のあった商品
などに起因した一時的な品揃え拡縮の変化で
のみを品揃え変数を構成するための対象とす
ある可能性が高いことから、この期間を増税
ることとした。このように品揃え操作につい
に伴う特殊期間として扱う必要があると判断
ては、販売実績の有無と販売実績が観測され
し、先のようなダミー変数を導入しているも
た週数に基づいて判定しているため、実際に
のである9)。
品揃えされているけれども販売実績がほとん
ど観測されていない商品については含められ
2)利用データの記述統計
本節では以降の分析で利用するデータの特
ないという課題が残る。
なお本研究では i-code データの独自分類8)
に基づき、生鮮食品を除いて、調味料、穀物類、
徴を確認するために、当該データに関する若
干の記述統計量を示す。
乾物類、加工食品、即席食品、半惣菜、惣菜、
はじめに分析対象9店舗相互の相対的な売
弁当、菓子、飲料、酒類の11カテゴリーを購
上規模、価格水準、品揃え規模を確認できる
買経験カテゴリーの判定基準として使用して
ように売上金額指数、売上点数指数、平均売
いる。ただし日用雑貨はデータに含まれてい
価、商品数指数を図表2に記載する。売上金
ないため購買経験カテゴリーの対象とはして
額指数、売上点数指数、商品数指数はいずれ
いない。
も店舗1を100とした場合の各店舗の相対的
また、2014年4月の消費税増税の影響を考
な規模を示す指数としている。売上金額指数
慮するために、2014年4月~6月の3ヵ月間
と売上点数指数の元となる売上金額と売上点
を1、その他の期間を0とする増税ダミーを
数は、分析期間全体について各店舗の売上金
構成し分析に使用している。このようなダミ
額と売上点数を集計した値を使用している。
ー変数の構成とした理由は、「図表4 店舗・
また平均売価は、各店舗の売上金額合計を売
期別入替率(最大値)と拡縮指数(最大値)
上点数合計で割った値である。商品数指数は、
の推移」に示されるように、拡縮指数(最大
各期において販売実績のあった商品数に基づ
値)の期別推移(図表4下段の数値)を見る
き計算された平均販売商品数に基づく指数で
図表 2 店舗別各種指数および平均売価
平均売価
商品数指数
店舗1
店舗
売上金額指数 売上点数指数
100
100
194
100
店舗2
130
133
190
111
店舗3
55
63
171
83
店舗4
56
64
170
80
店舗5
61
70
170
87
店舗6
83
91
178
101
店舗7
28
31
179
53
店舗8
100
112
174
99
店舗9
24
27
176
56
2016.11(No.523)
60
ある。
高く、その他の店舗はそれら2店舗に対して
売上金額指数と売上点数指数の相対的な規
低めの水準となっている。特に店舗3・4・
模は概ね同じ傾向を示しており、店舗2が最
5が相対的に最も価格水準の低いグループで
も大きい。他方、店舗7・9が相対的に小さ
ある。商品数指数の相対的な規模については
な規模となっていることが窺える。店舗1と
概ね売上金額指数と連動しているものの、店
8は売上金額指数では同程度であるけれども、
舗6が売上金額指数に対して商品数指数が高
売上点数指数では店舗8が大きくなっている。
めであるという特徴を示している。
平均売価を見ると店舗8は店舗1よりも20円
次に各店舗の購買行動の特徴に関する記述
程度低くなっており、価格水準を低めに設定
統計量を図表3に示す。図表3は顧客毎の平
して売上点数を稼いでいるという特徴が見て
均値を求めた上で、それら平均値の店舗毎の
取れる。価格水準では店舗1・2が相対的に
分布を示したものとなっている。
図表 3 来店間隔等の顧客別平均値の店舗別分布
店舗
店舗1
店舗2
店舗3
店舗4
店舗5
店舗6
店舗7
店舗8
店舗9
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
平均来店間隔(日)
平均購買金額(円)
平均入替率
平均拡縮指数
最小値
1.0
229
0.041
0.953
1.0
114
0.043
0.919
1.1
284
0.070
0.908
1.0
295
0.078
0.883
1.0
285
0.074
0.901
1.1
376
0.060
0.896
1.0
195
0.034
0.948
1.0
263
0.065
0.930
1.0
181
0.049
0.846
第1四分位点
3.9
1,712
0.066
0.991
5.1
1,001
0.077
0.994
5.9
1,747
0.105
0.966
4.2
1,327
0.110
0.966
4.3
1,318
0.109
0.967
5.5
1,670
0.108
0.962
3.5
1,130
0.060
0.987
5.1
1,656
0.102
0.972
4.2
1,104
0.083
0.960
中央値
7.1
2,417
0.069
0.995
10.0
1,485
0.081
1.000
9.9
2,511
0.110
0.974
7.5
1,923
0.114
0.973
7.8
1,897
0.113
0.975
9.5
2,340
0.114
0.972
6.4
1,636
0.063
0.990
8.8
2,371
0.106
0.978
8.0
1,600
0.090
0.970
平均値
9.7
2,710
0.069
0.995
12.5
1,674
0.081
1.000
11.8
2,887
0.110
0.974
9.9
2,157
0.115
0.974
10.0
2,157
0.114
0.976
11.6
2,594
0.114
0.972
9.0
1,800
0.063
0.991
11.0
2,653
0.106
0.979
10.6
1,780
0.091
0.970
第3四分位点
13.1
3,350
0.071
1.000
17.6
2,121
0.086
1.007
15.9
3,573
0.115
0.983
13.5
2,717
0.119
0.982
13.6
2,688
0.118
0.984
15.7
3,217
0.120
0.983
12.2
2,285
0.065
0.995
14.9
3,273
0.111
0.986
14.8
2,266
0.098
0.980
最大値
81.1
23,170
0.125
1.035
63.9
13,140
0.145
1.055
54.7
18,420
0.178
1.040
49.6
10,040
0.168
1.037
50.9
16,850
0.181
1.054
61.1
15,890
0.188
1.037
62.6
9,403
0.082
1.027
58.3
17,800
0.145
1.039
59.2
11,240
0.188
1.020
査読論文
61
平均来店間隔日数を見ると、店舗2が中央
れども、ここではおおよその全体的な変化を
値・平均値ともに最大であり、店舗7が中央
捉えるために入替率と拡縮指数の最大値の推
値・平均値ともに最小となっている。平均購
移に着目することとした。
買金額では、店舗3が中央値・平均値ともに
図表4上段の入替率(最大値)の推移を見
最大で、店舗2が中央値・平均値とも最小で
ると、3月から4月の春の棚替え時期の値が
ある。平均入替率では、店舗4・5・6の中
高くなっている店舗が多く、次いで9月から
央値・平均値が相対的に高く、店舗1・7の
10月の秋の棚替え時期の値が高い傾向を示し
中央値・平均値が相対的に低い。拡縮指数に
ている。
しかしながら各期の入替率
(最大値)
関しては品揃えの拡大・縮小の規模を見る指
の推移を見ると、春・秋の棚替え時期以外の
標であるため中央値・平均値ではなく最大
期であっても一定程度の商品の入替は恒常的
値・最小値に注目すると、平均拡縮指数の最
に発生していることが確認できる。
大値では店舗2・5が相対的に大きく、最小
2014年3月までの期と2014年4月以降の期
値では店舗4・9が相対的に小さいという特
を比較すると、後者の方が入替率(最大値)
徴がある。
の値が高くなっている傾向が見られる。これ
図表4は、品揃えに関する店舗毎の入替率
は消費税増税に対応した商品のリニューアル
の最大値と拡縮指数の最大値の推移を示して
等による入替等の影響であろうと推察される。
いる。入替率と拡縮指数は顧客の購買経験カ
図表4下段の拡縮指数(最大値)の推移を
テゴリーに依存して値が規定されるため、厳
見ると、おおまかには2014年10月~12月期ま
密には顧客毎にその推移は異なるのであるけ
では拡大傾向の値を示す店舗が多く、2015年
図表4 店舗・期別入替率(最大値)と拡縮指数(最大値)の推移
入替率(最大値)
13.10-12
14.1-3
14.4-6
14.7-9
14.10-12
15.1-3
15.4-6
店舗1
0.07
0.11
0.21
0.16
0.18
0.17
0.15
店舗2
0.09
0.11
0.22
0.14
0.20
0.27
0.29
店舗3
0.09
0.07
0.18
0.23
0.14
0.26
0.33
店舗4
0.09
0.11
0.41
0.28
0.15
0.24
0.39
店舗5
0.10
0.09
0.23
0.28
0.17
0.21
0.28
店舗6
0.08
0.11
0.17
0.26
0.21
0.19
0.29
店舗7
0.10
0.10
0.15
0.10
0.10
0.11
0.10
店舗8
0.07
0.08
0.20
0.22
0.23
0.22
0.17
店舗9
0.07
0.07
0.16
0.12
0.19
0.12
0.31
拡縮指数(最大値) 13.10-12
14.1-3
14.4-6
14.7-9
14.10-12
15.1-3
15.4-6
店舗1
1.21
1.05
1.08
1.07
1.22
1.00
1.03
店舗2
1.29
1.09
1.08
1.17
1.09
0.98
1.02
店舗3
1.25
1.08
1.18
1.00
1.13
0.97
0.91
店舗4
1.30
1.04
1.17
0.99
1.10
0.98
0.91
店舗5
1.19
1.16
1.23
1.01
1.19
0.99
0.91
店舗6
1.24
1.06
1.22
1.02
1.16
0.96
0.94
店舗7
1.09
1.07
1.06
1.03
1.06
0.98
1.03
店舗8
1.36
1.11
1.09
1.01
1.19
0.97
0.96
店舗9
1.08
1.14
1.08
1.05
1.23
1.03
0.91
2016.11(No.523)
62
1月~3月期以降は縮小傾向の値を示す店舗
述べたように、i-code データは独自の商品分
が多くなっている。同月期間で比較してみる
類コード体系となっており4段階のレベルで
と、2014年4月~6月期と2015年4月~6月
商品分類体系が作られている。分類レベルを
期では、前者が拡大傾向を示していることが
示す番号が大きくなるに従い分類が細分化さ
特徴として見受けられる。これは2014年4月
れる構造であり、大まかには分類2が JICFS
の消費税増税に対応した商品リニューアル等
大分類、分類3が JICFS 中分類に近い分類
で一時的に導入商品数が増加したことの影響
となっているけれども、分類4は JICFS 細
であると推察される。同様の傾向は2014年1
分類よりもかなり細分化されている傾向にあ
月~3月期と2015年1月~3月期でも見られ
る。ここでは分類2・3・4のレベルに対応
る。2013年10月~12月期と2014年10月~12月
した購買経験カテゴリー数の分布を示してい
期を比較すると、顕著な差が見られる店舗と
る。
そうではない店舗が混在していて、先の2つ
の比較の場合程の特徴は見られない。
図表5は顧客の平均購買経験カテゴリーの
購買経験カテゴリーの分布を見ると、各店
舗とも顧客間である程度のバラツキがあるこ
とが確認できる。
店舗毎の分布である。1節のデータの概要で
図表5 店舗・商品分類レベル別購買経験カテゴリー数の分布
店舗
店舗1
店舗2
店舗3
店舗4
店舗5
店舗6
店舗7
店舗8
店舗9
分類レベル
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
分類2
分類3
分類4
最小値
1
3
21
1
3
21
1
3
21
1
3
21
1
4
21
1
3
21
1
3
21
1
3
21
1
3
21
第1四分位点
7
47
243
5
35
178
7
44
230
7
47
242
7
47
240
7
48
250
6
42
213
7
48
244
6
42
216
中央値
9
58
303
7
48
255
8
56
287
9
57
290
9
57
291
9
60
308
8
54
287
9
58
301
8
55
287
平均値
8
55
279
7
47
238
8
53
270
8
55
277
8
55
277
8
56
282
8
51
262
8
56
280
8
52
263
第3四分位点
10
65
335
9
59
311
10
65
332
10
65
334
10
65
334
10
65
335
10
65
332
10
65
335
10
65
332
最大値
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
11
73
358
査読論文
63
3)来店間隔モデルの推定結果
店舗(3・ 5・ 8)が正の影響を示している。
来店間隔モデルの推定結果を図表6に示す。
商品入替の規模による影響の方向は、店舗に
入替率と拡縮指数に基づく品揃え操作の影響
よってバラツキがあるものの、9店舗中8店
に関する推定結果の詳細な解釈は、購買金額
舗でその影響が統計的に有意となっていると
モデルの結果と合わせて次節で行うこととし、
いう事実から、仮説1は支持される。
ここでは推定結果の特徴のみを簡単に整理し
ておく。
つぎに品揃え規模の拡縮指数の影響を見る
と、やはり店舗6を除いた8店舗で統計的に
はじめに来店間隔に対する商品入替の影響
有意となっている。影響の方向についても5
を見ると、入替率に対するパラメータ推定値
つの店舗(1・ 2・ 4・ 7・ 9)が負の影響を
は、店舗6を除いた8つの店舗で統計的に有
示し、3つの店舗(3・ 5・ 8)が正の影響
意となっている。その中で5つの店舗(1・
を示しているという特徴は、入替率の推定結
2・ 4・ 7・ 9)が負の影響を示し、3つの
果と共通している。以上の結果から拡縮指数
図表6 来店間隔モデルのパラメータ推定値
来店間隔
βIh
βI1
βI2
βI3
βI4
βI5
βI6
定数項
前回購買金額
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
ν
来店間隔
βIh
βI1
βI2
βI3
βI4
βI5
βI6
定数項
前回購買金額
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
ν
来店間隔
βIh
βI1
βI2
βI3
βI4
βI5
βI6
定数項
前回購買金額
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
ν
推定値
1.256
0.056
-0.059
-0.473
0.094
-0.036
0.016
1.280
店舗1
2.5%点
1.115
0.042
-0.086
-0.537
0.047
-0.057
0.001
1.261
推定値
1.314
0.032
-0.126
-0.849
0.104
0.078
0.031
1.241
店舗4
2.5%点
1.149
0.023
-0.149
-0.916
0.052
0.052
0.003
1.215
推定値
1.240
0.005
-0.131
-1.940
-0.207
-0.044
0.023
1.069
店舗7
2.5%点
1.093
-0.010
-0.146
-2.041
-0.249
-0.071
0.005
1.050
推定値
2.201
-0.004
-0.026
-0.411
0.018
0.003
0.020
1.086
店舗2
2.5%点
2.130
-0.012
-0.041
-0.436
-0.006
-0.023
0.001
1.074
97.5%点
1.438
0.050
-0.103
-0.782
0.159
0.103
0.054
1.264
推定値
2.067
0.017
0.089
0.664
0.001
-0.098
0.045
1.148
店舗5
2.5%点
1.899
0.001
0.057
0.604
-0.010
-0.145
0.020
1.121
97.5%点
2.236
0.031
0.121
0.764
0.011
-0.049
0.065
1.173
推定値
1.956
0.021
-0.037
-0.051
-0.019
-0.010
0.004
1.218
店舗6
2.5%点
1.832
0.012
-0.071
-0.179
-0.067
-0.043
-0.015
1.196
97.5%点
1.398
0.021
-0.102
-1.863
-0.148
-0.022
0.038
1.089
推定値
1.951
0.040
0.054
0.752
0.004
-0.024
0.047
1.255
店舗8
2.5%点
1.852
0.031
0.038
0.673
-0.037
-0.058
0.025
1.234
97.5%点
2.068
0.049
0.074
0.842
0.026
-0.001
0.065
1.276
推定値
1.740
-0.008
-0.094
-0.416
-0.073
-0.054
-0.025
1.110
店舗9
2.5%点
1.514
-0.027
-0.111
-0.504
-0.236
-0.076
-0.047
1.087
97.5%点
1.407
0.072
-0.038
-0.399
0.124
-0.014
0.031
1.301
97.5%点
2.287
0.005
-0.011
-0.330
0.045
0.019
0.047
1.098
推定値
2.167
0.047
0.120
0.442
0.012
-0.041
0.002
1.286
店舗3
2.5%点
2.011
0.030
0.089
0.364
-0.013
-0.063
-0.017
1.261
97.5%点
2.334
0.068
0.145
0.542
0.048
-0.011
0.023
1.315
97.5%点
2.077
0.031
0.003
0.064
0.029
0.019
0.024
1.243
97.5%点
1.899
0.014
-0.079
-0.363
0.055
-0.027
0.009
1.132
2016.11(No.523)
64
の影響についても、店舗によってバラツキが
あるものの、9店舗中8店舗でその影響が統
計的に有意となっており、仮説3は支持され
る。
4)購買金額モデルの推定結果
購買金額モデルの推定結果は図表7に示す
通りである。
入替率の影響は、7店舗で統計的に有意と
その他の要因についても、統計的検定の結
なっている。影響の方向は、3店舗が正であ
果を簡単に確認しておく。はじめに前回購買
り残りの4店舗が負である。店舗によって影
金額の影響は、統計的に有意となった店舗が
響の方向に差異があるものの、9店舗中7店
6つで、それら全てが正の影響を示している。
舗で入替率の購買金額に対する影響が有意と
前回購買時にまとめ買いをするほど、次回来
なっていることから、仮説2は概ね支持され
店までの間隔が長くなると予想するのが自然
たと解して良いであろう。
であるけれども、正の影響を示している店舗
はこの予想を支持するものである。
品揃え規模の拡縮の影響は、7店舗で統計
的に有意であり、店舗9を除く6店舗が負の
価格指数の影響は、統計的に有意となった
影響を示している。つまり品揃えが拡張され
店舗が3つであり、そのうち2つが正の影響、
て商品数が増加するほどに、購買金額は低下
1つが負の影響を示している。店舗の価格水
する傾向がある一方、品揃えを縮小し商品数
準が下がれば、来店間隔が短縮することが期
を絞り込む方が、購買金額が高まる可能性が
待されるので、正の影響が自然であると考え
あるということを示唆している。したがって
られるけれども、その逆の傾向を示す店舗の
仮説4は概ね支持される結果となっている。
方が1つ含まれるという結果であった。ここ
またこの結果は、Borle et al.(2005)の結果
で利用した価格指数は、ID-POS の購買実績
とは逆であり、むしろそれ以前の実験に基づ
に基づいているため、厳密には店舗の価格水
く先行研究の結果を支持するものとなってい
準を捉えていない可能性もある。価格指数の
る。Borle et al(2005)は食品販売 EC サイ
構成の仕方については更に吟味する必要があ
トを研究対象としていた。これに対して本研
るため、今後の課題としたい。
究では実店舗を対象としていることにも、こ
消費税増税の影響は、7店舗で統計的に有
のような結果の差異を生じさせている可能性
意となっており、そのうち1店舗が正の影
はあり、ネット環境における品揃えの影響と
響で、残り6店舗が負の影響を示している。
実店舗におけるそれの影響には何らかの異な
SM では消費税増税対応の施策として、セー
る影響のメカニズムが働いている可能性も示
ルス・プロモーションなどの取り得る手段も
唆される。
相対的に多い。そのような施策を競合店舗以
価格指数の影響は、有意となった店舗が5
上に巧みに実施できれば、むしろ増税の影響
店舗で、そのすべてが正の影響となっている。
を相殺してなお来店頻度を高めるような成果
来店間隔モデルのところで述べたが、本研究
を出すことも不可能ではないということが、
で構成した価格指数は真の価格変動を捉えて
この結果からは示唆される。
おらず、むしろ顧客の購買金額の変動を捉え
最後に休日の影響は、6店舗で正の影響が
ている可能性もある。より精緻な価格指数を
確認された。これは週末型の来店行動パター
構成するためには、全商品の日別販売価格の
ンを捉えていると解釈できる。
情報を利用する必要があるため、これについ
ては今後の課題としたい。
査読論文
65
図表7 購買金額モデルのパラメータ推定値
購買金額
βQh
βQ1
βQ2
βQ3
βQ4
βQ5
βQ6
定数項
経過日数
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
購買金額
βQh
βQ1
βQ2
βQ3
βQ4
βQ5
βQ6
定数項
経過日数
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
購買金額
βQh
βQ1
βQ2
βQ3
βQ4
βQ5
βQ6
定数項
経過日数
入替率
拡縮指数
価格指数
増税ダミー
休日ダミー
推定値
7.463
0.065
-0.024
-0.517
0.113
-0.011
0.165
店舗1
2.5%点
7.395
0.060
-0.040
-0.705
0.090
-0.027
0.156
97.5%点
7.518
0.071
-0.008
-0.343
0.140
0.003
0.173
推定値
7.145
0.034
0.038
-0.394
0.079
-0.013
0.039
店舗2
2.5%点
7.093
0.029
0.028
-0.488
0.055
-0.024
0.030
97.5%点
7.185
0.038
0.049
-0.301
0.106
-0.002
0.047
推定値
7.576
0.071
-0.021
0.071
0.111
-0.078
0.125
店舗3
2.5%点
7.486
0.063
-0.050
-0.134
0.094
-0.105
0.113
97.5%点
7.669
0.078
0.002
0.286
0.127
-0.046
0.140
推定値
6.928
0.068
-0.128
-0.659
-0.008
0.021
0.099
店舗4
2.5%点
6.844
0.061
-0.152
-0.832
-0.054
-0.006
0.087
97.5%点
6.997
0.076
-0.103
-0.500
0.037
0.045
0.111
推定値
6.969
0.052
-0.114
-0.679
0.012
0.037
0.112
店舗5
2.5%点
6.885
0.044
-0.140
-0.873
0.006
0.013
0.099
97.5%点
7.060
0.060
-0.085
-0.510
0.018
0.061
0.125
推定値
7.086
0.065
-0.124
-0.991
-0.016
0.056
0.137
店舗6
2.5%点
7.017
0.059
-0.142
-1.125
-0.064
0.036
0.126
97.5%点
7.155
0.072
-0.101
-0.835
0.020
0.082
0.150
推定値
7.161
0.065
0.027
-0.112
0.078
-0.026
0.106
店舗7
2.5%点
7.085
0.060
0.005
-0.440
0.035
-0.041
0.094
97.5%点
7.258
0.072
0.052
0.169
0.118
-0.008
0.117
推定値
7.428
0.068
-0.009
-0.170
0.008
-0.017
0.124
店舗8
2.5%点
7.368
0.062
-0.026
-0.320
-0.015
-0.037
0.114
97.5%点
7.492
0.074
0.008
-0.022
0.025
0.003
0.134
推定値
7.154
0.057
0.050
0.270
-0.023
-0.025
0.069
店舗9
2.5%点
7.065
0.050
0.030
0.120
-0.077
-0.044
0.058
97.5%点
7.227
0.064
0.072
0.427
0.022
-0.006
0.081
消費税増税の影響は、6店舗で有意となっ
と予想されるケースもあれば、減少すると予
ており、そのうち2店舗が正の影響を示し、
想されるケースもある。消費税増税の影響は、
残り4店舗が負の影響を示している。ちなみ
店舗側の対応策との相互作用があるためこの
に先の購買間隔モデルの推定結果と合せてい
ような多様な結果が確認されているものと推
ずれかで増税の影響が有為となっている店舗
測される。
について確認してみると、
店舗1
(来店間隔:
最後に休日の影響は、すべての店舗で正の
負)
、店舗2(購買金額:負)
、店舗3(来店
有意な影響が確認された。やはり購買金額は、
間隔:負、購買金額:負)、店舗4(来店間
平日よりも休日に多くなるのが一般的な傾向
隔 : 正)
、店舗5(来店間隔:負、購買金額:
である。
正)
、店舗6(購買金額:正)
、店舗7(来店
間隔:負、
購買金額:負)
、
店舗8
(来店間隔:
5)分析結果の考察
負)
、店舗9(来店間隔:負、購買金額:負)
本節では、品揃え操作に関する来店間隔モ
となっている。来店間隔と購買金額の組合せ
デルと購買金額モデルのパラメータ推定結果
で見ると、単位期間当りの購買金額が高まる
を俯瞰し、それらの特徴について考察する。
2016.11(No.523)
66
ただしここでの考察は、高々9店舗の少数事
図表8の上側の図は来店間隔モデルの結果、
例に基づいた定性的な分析に留まるものであ
下側の図は購買金額モデルの結果をそれぞれ
る。それゆえこの考察を精緻化し一般化する
示している。図表8の縦軸の数値
(入替率(最
ためには、より多くの店舗事例を分析し確認
大値)14.1-3期~15.4-6期の平均)は、図表4
するなど継続的な研究が必要であるという課
上段の数値(期別の入替率(最大値))の中
題を有していることについては予め留意して
で、モデルの推定に使用した14.1-3期~15.4-6
いただきたい。
期の店舗別平均値であり、店舗の商品入替の
平均的な規模を表している。
また図表2の「商
5)1. 入替率の推定結果に関する考察
品数指数」を店舗の相対的な品揃え規模の指
はじめに店舗別の入替率(商品入替規模)
標と考えて、その値に基づき、各店舗を品揃
の特徴と、対応する入替率パラメータ推定値
えの大規模グループ(□)
、中規模グループ
との関係を見ると図表8のようになっている。
(○)
、小規模グループ(△)の3つに分け
図表8 店舗別入替率と入替率パラメータ推定値の関係
大規模
中規模
小規模
大規模
中規
店舗4
0.25
店舗5
店舗6
店舗2
0.20
店舗9
店舗1
店舗7
店舗3
店舗8
0.15
0.10
0.05
0 05
入替率(最大値)
入替
14.1‐3期~
4.1‐3期~15.4‐6期の平均
平均
入替率(最大値)
入替
14.1‐3期~
4.1‐3期~15.4‐6期の平均
平均
0.30
店舗4
店舗5
店舗
店舗3
店舗6
店舗1
0.00
‐0.150
‐0.100
‐0.050
0.000
0.050
0.100
0.150
‐0.150
‐0.100
来店間隔モデル 入替率パラメータ推定値
大規模
中規模
小規模
入替率(最大値)
入替
14.1‐3期~
4.1‐3期~15.4‐6期の平均
平均
0.30
店舗4
0.25
店舗5
店舗
店舗3
店舗6
0.20
店舗2
店舗8
店舗9
店舗1 0.15
店舗7
0.10
0.05
0 05
0.00
‐0.150
‐0.100
‐0.050
0.000
‐0.050
購買金額モデル 入替
0.050
0.100
購買金額モデル 入替率パラメータ推定値
査読論文
67
て記載している。
することが期待される。これら2つの結果か
図表8では、店舗4を除くと、入替率の平
ら、小規模店舗グループに関しては、積極的
均が高いほど、来店間隔モデルの入替率のパ
な商品入替が、来店間隔と購買金額の双方の
ラメータ推定値が大きくなる傾向が見える
観点において、単位期間当りの売上を向上さ
(図表8上図)
。このことは、商品入替の規
せる方向に影響するという示唆が得られる。
模が大きくなるほど、来店間隔には望ましく
他方、来店間隔モデル(図表8上図)の場
ない影響(来店間隔を延ばす影響)が生じる
合には、店舗4を除けば中規模グループは入
可能性があることを示唆しているように見え
替率が正の影響(入替率の増加に応じて来店
る。他方、入替率の平均値が高いほど、購買
間隔も増加)であるのに対して、大規模店舗
金額モデルの入替率のパラメータ推定値は、
は店舗によって正(店舗8)と負(店舗1・
緩やかに小さくなる傾向が見える(図表8下
2・6)の双方の影響が確認され必ずしも一
図)
。この場合も商品入替の規模が大きくな
貫したものとはなっていない。強いて言えば
るほど、購買金額には望ましくない影響(購
大規模店舗グループは、小規模店舗グループ
買金額の減少)が生じる可能性を示唆してい
や中規模店舗グループと比べると、パラメー
るように見える。
タ推定値が0に近いところで分布しており、
全体的にはこのような傾向に見えるのであ
他グループに比べて入替率の来店間隔に与え
るけれども、商品数指数に基づく品揃え規模
る影響の絶対値が相対的に小さくなっている
別に店舗をグループ化してみると、もう少し
傾向はみられる。これは、元々の品揃え数の
複雑な構造がありそうである。つまり小規模
規模が大きいがゆえに入替規模の影響が相対
グループと大・中規模グループに層別すると、
的に抑えられていると解釈することができる。
上記のような全体的な傾向は、必ずしも明確
購買金額モデル(図表8下図)を見ると、
には確認できなくなってくる。ということは
大・中規模グループの場合、店舗2を除いて
上記のような全体的な傾向は、単に疑似相関
残りの6店舗の入替率パラメータが負の値で
を捉えているに過ぎないと判断せざるを得な
推定10) されている。このことは、大・中規模
い。やはり品揃え規模別に層別して解釈する
グループの場合、入替率の大きさに応じて購
ことが必要なようであるので、以下そのよう
買金額が減少することを示唆している。
な観点からさらに考察を加える。
来店間隔モデル(図表8上図)と購買金額
以上の結果をまとめると、次のような実務
上の示唆が得られる。
モデル(図表8下図)のいずれのケースにお
• 入替率の影響は店舗の品揃えの規模に
いても、小規模店舗グループ(△、店舗7・
よって異なる可能性があるので、店舗の
9)とその他(大・中規模店舗グループ)で
品揃え規模に注意しながら入替規模を調
は特徴が異なっている。具体的には、小規模
整する必要がある。
グループの場合、入替率の来店間隔に対する
• 小規模店舗の場合には、死に筋商品を
パラメータは負の値で推定されているので、
カットし売れ筋商品を導入するような積
入替率の大きさに応じて来店間隔が短縮する
極的な商品入替を行うことで、来店間隔
ことが期待される。同様に入替率の購買金額
の短縮と購買金額の向上が期待できる。
に対するパラメータは正の値で推定されてお
• 大・中規模店舗の場合には、入替規模
り、入替率の大きさに応じて購買金額が増加
を大きくすると購買金額が低下する可能
2016.11(No.523)
68
性が高いので、一度にたくさんの商品を
て記載している。
入れ替えることはできるだけ避けて、入
この場合も品揃え規模を無視して解釈をし
れ替える商品数を限定し、顧客の購買行
ようとすると、疑似相関を捉えてしまう可能
動に極力影響を与えないように少しずつ
性があるので、ここでは前節の入替率の考察
商品の入替を行うというオペレーション
と同じように、品揃え規模に基づくグループ
が望ましい。
毎の特徴を確認していくこととする。
はじめに、来店間隔モデル(図表9上図)
ところで、上記のような結果が得られてい
と購買金額モデル(図表9下図)の双方につ
る背景には、たとえば次のようなことも考え
いて、小規模店舗グループ(△、店舗7・
られる。小規模グループの場合、もともと品
9)の特徴を確認する。小規模グループの場
揃え数が少なく売れ筋商品に絞り込まれてい
合、拡縮指数の来店間隔に対するパラメータ
る可能性が高く、少しの商品の入替でも入替
は負の値で推定されているので、品揃えの拡
率は大きくなる傾向にあり、その場合の新規
大により来店間隔が短縮することが期待され
導入商品も売れ筋である可能性が高い。そう
る。拡縮指数の購買金額に対するパラメータ
すると商品の入替の規模が店舗成果を高める
は、店舗9が正の値で推定され、店舗7は統
方向で影響するようになるはずであり、本分
計的に有意ではないので影響が確認されてい
析では結果としてその傾向を捉えているので
ない。これらの結果を総合すると、小規模店
はないかと推察される。
舗の場合は、先の入替率のときと同様に、品
あるいは、顧客の購買パターン(まとめ買
揃えの拡大が、来店間隔と購買金額の双方の
い、当用買い等)に対して、個々の店舗がど
観点において、やはり単位期間当りの売上を
のようなパターンの顧客が主体であるのかに
向上させる方向に影響するという示唆が得ら
よってもこの影響の仕方が異なるのかもしれ
れる。
ない。店舗の品揃え規模と顧客の購買パター
つぎに、来店間隔モデル(図表9上図)の
ンは密接に関係しているだろうから、そのよ
大・中規模グループの特徴を見ると、店舗に
うな顧客の購買パターンの影響が背景にある
よって正と負の双方の影響が確認され、特に
だろうということも推察される。
注目できそうな特徴は表れていない。
他方、
購買金額モデル(図表9下図)の大・
5)2. 拡縮指数の推定結果に関する考察
中規模グループの特徴を見ると、拡縮指数の
図表9は、図表2の「商品数指数」に基づ
パラメータ推定値が有意になっていない店舗
く店舗規模と、品揃え拡縮の影響の関係を図
3を除くと、残りの6店舗すべてにおいて拡
示したものである。 図表9の上側の図は来
縮指数のパラメータ推定値は負である。この
店間隔モデルの結果、下側の図は購買金額モ
ことは、品揃えの拡大が購買金額に負の影響
デルの結果をそれぞれ示している。図表9の
をもたらすことを意味している。つまり品揃
縦軸の数値は、図表2の「商品数指数」の値
え商品数を現状以上に増やし、品揃え規模を
を示している。また前節と同様に、図表2の
拡大すると、購買金額は低下してしまう可能
「商品数指数」の値に基づき、各店舗を品揃
性があるので、むしろ品揃えを絞り込む方向
えの大規模グループ(□)、中規模グループ
で操作した方が、購買金額は増加すると期待
(○)
、小規模グループ(△)の3つに分け
されるということである。この結果は、先に
査読論文
69
図表9 店舗規模と拡縮指数の関係
中規模
120
店舗2
100
店舗6
80
店舗1
店舗4
商品数指数
商
大規模
小規模
店舗1
店舗5
店舗3
60
店舗9
店舗7
中
店舗6
店舗8
40
店舗5
商品数指数
商
大規模
店舗4
20
‐2.500
‐2.000
‐1.500
‐1.000
‐0.500
0
0.000
0.500
1.000
‐1.200
‐1.000
来店間隔モデル 拡縮指数パラメータ推定値
大規模
小規模
店舗1
店舗4
120
店舗2
100
店舗6
80
中規模
小規模
店舗1
店舗5
店舗3
60
店舗9
40
店舗2
100
店舗8
店舗6
店舗8
店舗5
80
店舗4
‐0.500
0
0.000
店舗3
60
店舗9
店舗7
40
20
20
0.500
1.000
縮指数パラメータ推定値
‐1.200
‐1.000
‐0.800
‐0.600
‐0.400
‐0.200
0
0.000
0.200
0.400
購買金額モデル 拡縮指数パラメータ推定値
も述べたように Borle et al.(2005)の結果
• 大・中規模店舗の場合には、品揃え規
とは逆で、むしろそれ以前の実験に基づく先
模を拡大すると購買金額が低下する可能
行研究の結果を支持するものとなっている。
性が高いので、むしろ品揃えを絞り込む
以上の結果から、次のような実務上の示唆
方向で操作することに注意を向けること
が得られる。
が望ましい。
• 品揃え拡縮の影響は、元々の店舗の品
揃えの規模によって異なる可能性がある
ただし、大・中規模グループの品揃え拡縮
ので、店舗の品揃え規模に注意しながら
が来店間隔に及ぼす影響が、店舗によって正
品揃えの拡縮を調整する必要がある。
にも負にも変化するメカニズムを、本研究で
• 小規模店舗の場合には、スペース制約
明らかにすることはできておらず、今後の課
に留意しつつ、可能であるならば品揃え
題として残される。さらに、品揃えの拡大を
を拡大していくことで、来店間隔の短縮
避け、むしろ適度に絞り込む方が、購買金額
と購買金額の向上が期待できる。
が高まる可能性があるとはいえ、拡大も縮小
2016.11(No.523)
70
‐0.600
‐0.
購買金額モデル 拡縮
120
商
商品数指数
中規模
‐0.800
も程度の問題がある。本研究では、品揃え拡
研究開発という観点から見れば、そこにはま
縮の影響を線形で捉えているのみであるため、
だまだ多くの取り組むべき課題が残されてい
望ましい拡縮の程度について示唆を得ること
る。
はできていない。この点を明らかにしていく
ことも今後の課題である。
たとえば本研究の分析結果を見ると、元々
の店舗の品揃え規模が相対的に大きな店舗の
場合、品揃え操作の影響が店舗によって異な
6.まとめと今後の課題
った傾向を示している。品揃え規模が一定以
上の店舗について、このような影響の差異が
本研究では、Borle et al.(2005)のモデル
生じるメカニズムを明らかにする研究は、こ
を拡張し、品揃えの縮小と拡大の双方を含む
れまで行われてきていないものであり、学術
通常の店舗の品揃え操作の影響を評価可能な
的にも実務的にも重要なものである。
モデルが提案された。本提案モデルを9店舗
また、本研究では品揃え操作の影響の有無
の ID-POS データに適用した結果、商品入替
について線形な構造を仮定しているものの、
の程度や品揃え拡縮の程度が、顧客の来店間
品揃えの入替率や拡縮指数と顧客の購買行動
隔や購買金額にさまざまな影響を及ぼすこと
には非線形な関係がある可能性も否定できな
が経験的に示された。特に注目すべき点は、
い。一定の閾値を超えた入替率や拡縮指数の
商品の入替や拡縮の影響が、元々の店舗の品
場合により強い影響となるといった構造を評
揃え規模によって変化する可能性が高いとい
価できれば、顧客の購買行動にそれほど大き
うことである。品揃え規模が小規模な店舗で
な影響を与えない範囲の品揃え操作の目安を
あれば、商品の入替や品揃えの拡大を行うこ
得ることもできるので、品揃え操作の影響の
とで来店間隔が短縮され、購買金額が増加す
非線形な構造を捉える手法の研究開発を行っ
ることが期待される。けれども大・中規模の
ていくことにも実務上の意義は少なくない。
店舗の場合には、商品の入替を大規模に行っ
この他にも、品揃え操作の影響の時間的変
たり、品揃えを拡大したりすると購買金額が
化のメカニズムを明らかにする研究や、品揃
減少する傾向が見られるため、品揃えを操作
え操作が購買行動に及ぼす影響と顧客の知覚
する場合にはそのような負の影響を避けるた
へ及ぼす影響との間の関係を明らかにする研
めに、一度にあまり大規模な操作をすること
究なども今後取り組むべき重要な課題である。
は望ましくないという示唆が得られる。また、
最後に、本研究では顧客毎に購買経験のあ
購買金額に関する本研究の結果は、Borle et
る商品カテゴリー全体の品揃え操作に注目し
al.(2005)の研究よりもむしろ、それ以前の
て研究を進めてきたけれども、商品カテゴリ
既存研究の結果を支持するものであった。
ー毎に影響の仕方に注目した研究を行うこと
本研究で提案されたモデルは、ID-POS デ
も重要な課題として残されている。商品カテ
ータに適用することで店舗の品揃え操作の影
ゴリーレベルへの提案モデルの拡張を行う際
響を評価可能にしたという点で意義がある。
には、既存の購買間隔モデルと同様に家庭内
とはいえ品揃えに関する研究の蓄積がそれほ
在庫量の影響や販促効果の考慮、消費者の異
ど多くないということからも分かるように、
質性の考慮も課題となることを改めて確認し
本提案モデル自体もまだまだ初歩的なもので
ておきたい。
あり、品揃えの影響を捉えるモデル・手法の
査読論文
71
謝辞:
本研究は、経営科学系研究部会連合協議会
主催平成27年度データ解析コンペティション
において㈱アイディーズ様よりご提供いただ
いた i-code データを利用しています。貴重
なデータをご提供いただいたことに感謝申し
上げます。また本研究は、科学研究助成金・
基盤研究(C)
(課題番号:15K03722)の助
成を受けた研究の一部であり、研究助成をい
ただいたことにつきましても重ねて感謝申し
上げます。最後になりますが、『流通情報』
編集委員会ならびに査読者の先生方には丁寧
に査読を行っていただき、貴重なコメントを
いただきました。このことにつきましても深
く感謝申し上げます。
〈注〉
1) 言わずもがなだがこの指摘は実験によるアプローチを
否定するものではない。ここでは単に既存研究の多く
が実験による研究アプローチを採用しているという事
実を確認しているに過ぎない。 多様な要因が関係す
る品揃えや棚割りの研究は、 最終的にはそれらの要
因をコントロールしなければならないことは言うまでも
ない。 その意味では本研究のアプローチは、 そのよ
うな実験的アプローチに至る前段階の研究もしくは実
験研究の結果をより実際的な状況で検証するという位
置付けにあることを確認しておきたい。
2) 本研究で分析対象とするデータは、 品揃え操作を直
接観測したデータではなく、 ID-POS データの商品別
販売実績に基づき品揃えの変動(操作)を推定した
データである。 具体的な推定の仕方については、5
節のデータ概要で取り上げる。
3) Borle et al.(2005)では COM-Poisson 分布が
仮定されているけれども、 本研究では購買間隔につ
いて仮定されることが比較的多い負の二項分布を仮
定している。
4) 負の二項分布のパラメータの構造化には複数の方
法 が あ る。 詳 細 は Winkelmann(2003, pp.2224)を参照されたい。
5) このような異常値と思われるデータの割合は店舗によ
って異なるものの、 その割合はおおよそ0.1%程度で
あった。
6) 会 員 顧 客をランダムサンプリングしているのは、
MCMC による推定時間負荷を低くするためである。
筆者の計算環境(HP Z440 Workstation, Intel(R)
Xeon(R)CPU E 5-1603 v 3 2.80GHz, メモリ
ー48GB )で最もデータ量の多い店舗2の推定を図
表1のランダム抽出サンプルで行った場合、 繰り返し
数20,000回で24時間以上の時間を要した。
7) 分析対象会員顧客として抽出したサンプルには来店
間隔日数が90日以上となる履歴を含む顧客が存在す
る。この状況で1期目(2013年7月~9月)のみを
除いて2期目の購買間隔日数を計算すると、データ期
間の開始時点からの期間が十分には長くないという問
題から、 その平均値が他の期に比べて過小に推定さ
れてしまう傾向にある。この点を考慮して最初の2期
間を分析から除いている。
8) i-code データの商品分類は、分類1から分類4までの
4段階のものが提供されている。 本研究で利用して
いるのは分類2であり、 JICFS 分類の大分類に類似
した分類となっている。
9) 消費税増税の影響期間について明らかにしていくこと
は興味深いテーマであるけれども、 本研究の主目的
2016.11(No.523)
72
から外れる議論となるため、ここでは上記のような前
ences,” in N. Agrawal and S. A. Smith eds.,
提で分析を進めることとしている。したがって、 消費
Retail Supply Chain Management:Quantitative
税増税に関するダミー変数の設定を変えた場合には、
Models and Empirical Studies, Springer, 183-
本研究の分析結果とは異なる結果が得られる可能性
205.
があるということには注意されたい。
10)ただし、内2店舗(3・8)は統計的に有意ではない。
〈参考文献〉
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(受稿日:2016年4月27日、受理日:2016年
9月20日)
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73
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