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(2009年3月27日) (PDF:255KB)
発 水 産 加 工 情 報 No .3 4 行 2 00 9. 3 .2 7 北海 道立 網 走水 産試 験 場 TEL 本 場 0152-43-4591 TEL 加工 利 用部 0158-23-3266 【食品へのナノテクノロジーの応用について】 1. はじ めに 近年 、ナ ノ メー トル ( 100 万分 の 1~10 億 分 の1 mサ イ ズ) サイ ズ の極 微小 領 域におけ る諸 現象 を 取り 扱う “ ナノ テク ノ ロジ ー” が 注目 され て いま す。 食 品へ の応 用 事例 はまだ 僅か です が 、現 在様 々 な研 究開 発 が行 われ て いま す。 ナノ テク ノ ロジ ー利 用 には 、原 料 を微 細化 ( 粉砕 )す る トッ プダ ウ ン方 式と 、 原子、分 子等 から 組 み立 てる ボ トム アッ プ 方式 の二 つ があ りま す が、 食品 の 場合 では ト ップ ダウン 方式 が多 い よう です 。 農林 水産 省 にお いて も 、平 成 19 年 度か ら委 託 プロ ジェ ク ト事 業「 食 品素 材の ナ ノスケー ル加 工及 び 評価 技術 の 開発 」が ス ター トし 、 網走 水試 で は「 ナノ ス ケー ル加 工 によ る水産 物の 品質 保 持・ 加工 特 性改 善技 術 」の 小課 題 を分 担し て いま す。 ま た、 網走 水 試で は平成 17 年 度か ら 道単 事業「 超微 細化 技 術に よる マ リン サプ リ メン ト素 材 の開 発」に つい ても取 り組 んで き まし た。 今回 は、 こ れま で水 産 試験 場が 取 り組 んで き たナ ノテ ク 研究 につ い てご 紹介 し たいと思 いま す。 2. 超微 細化 に よる サケ 中 骨カ ルシ ウ ムの 消化 吸 収性 向上 水産 試験 場 では 、工 業 試験 場、 東 京海 洋大 学 と協 同し て 、ホ タテ ガ イ外 套膜 や サケ中骨 など の未 利 用水 産資 源 の微 細化 と それ によ る 新規 機能 性 の評 価を 行 って きま し た。 役割分 担は 、微 細 化技 術は 工 試、 材料 の 精製 及び 消 化吸 収性 等 評価 は水 試 、魚 貝類 ア レル ギーの 低減 化は 海 洋大 とし て 研究 を進 め てき まし た 。こ こで は 、微 細化 に 伴う サケ 中 骨 Ca の消化 吸収 性に つ いて 、動 物 試験 の結 果 を紹 介し ま す。 サケ 中骨 は サケ フレ ー ク製 造残 滓 を用 い、 微 細化 物の 調 製は 以下 の よう に行 い ました。 すなわち、 中骨 → ミンチ → 酵素処理 → 加熱(酵素失活) → アルカリ処理 → 水洗 → 乾燥 → 粉砕 。粉砕 は、ア トマ イザ ーミ ル (数 100~ 数 10μm)、ジェ ット ミ ル(数 μm)、湿式 メデ ィ アミ ル(数 100nm)にて 行い まし た 。今 回は 粉 末餌 料を 対 象に 、平 均 粒径 128μ mの 微細 化中 骨と 平均 粒 径 1.9μ m の超 微細 化 中骨 に分 け て、それ ぞ れに つい て ラッ トを 用 いた 消化吸 収性 につ い て比 較試 験 を行 いま し た。また 、アル カリ 処 理を 省略 し た平 均粒 径 3.8μmの 粗精 製超 微 細化 中骨 に つい ても 超 微細 化中 骨 を対 照と し て同 様に 比 較試 験を 行 いま した。 消化 吸収 性 試験 は各 群 8 匹の ラッ トを 用い て 2 週間 継続 実施 し、 第 1 期( 4~ 7 日) と第 2 期 ( 11~ 14 日 ) に そ れ ぞ れ の カ ル シ ウ ム の 消 化 吸 収 性 に つ い て 分 析 、 評 価 を 行 い ま し た 。 その 結果 、 ラッ トに お ける カル シ ウム 吸収 は 超微 細化 中 骨が 微細 化 中骨 より も 高く(図 1)、 また 、 粗精 製中 骨 が精 製中 骨 より も高 い (図 2) と いう こと が 明ら かに な りま した。 前者 につ い ては 胃で の 可溶 化程 度 の違 いが 、 後者 につ い ては 骨タ ン パク 質分 解 物が カルシ -1- ウム 吸収 に 優位 に作 用 した もの と 考え てい ま す。 微細化中骨 超微細化中骨 粗精製中骨 80 精製中骨 100 bc a c ab 60 40 a カルシウム吸収率 (%) カルシウム吸収率 (%) 100 20 bc 80 b c 60 40 20 0 0 第1期 第2期 第1期 図1 サケ中骨の微細化度合いとカルシウム吸収率 第2期 図2 サケ中骨の精製度合いとカルシウム吸収率 3. ナノ ・マ イ クロ バブ ル 水の 活用 ナノ ・マ イ クロ バブ ル の正 確な 定 義は あり ま せん が、 あ えて 言う なら ば 直径 1mm 以 下の 気泡 ( バブ ル) と いう こと に なるか と思 いま す 。そ のう ち 数 100nm サ イズ のも の をナ ノバ ブ ル、10 ~数 10μ m サイ ズの も のを マイ ク ロバ ブル と いう 例が 多 いよう です 。 水産 業関 連 での ナノ ・ マイ クロ バ ブル 水の 利 用方 法と し て、 殺菌 、ノ ロ ウイ ルス の 不活 性化 、 水の 浄化 、 魚貝 類の 養 殖など で試 され て いま す。 水 産試 験場 で は、 ナノ ・ マイ クロ バ ブルの 特徴 でも あ るバ ブル の 高い 水中 安 定性 と高 溶 解性(高溶 存酸 素) マイクロバブル発生装置 を活 用し た 、高 酸素 水 パッ クに よ るホ タテ 生 鮮貝 柱(活 貝柱)の鮮 度保 持技 術 の開 発を 行い まし た。 そ の詳 細は 、 水産 加工 情 報 No.32( http://www.fishexp.pref.hokkaido.jp/)に 掲載 して い ます ので 、 是非 ご一 読 願い ます 。 4. おわ りに 網走 水試 で は、 現在 農 水省 ナノ テ クプ ロジ ェ クト 事業 で 、生 鮮魚 貝 肉の 微細 化 とその効 果に つい て 検討 して い ます 。魚 貝 肉の 微細 化 装置 とし て は、 カッ タ ーミ ル( フ ード カッタ ー)、 マス コロ イダ ー (臼 型粉 砕 機)、 湿式 メデ ィア ミ ル( ボー ル ミル )な ど があ り、 微細 化に より 新 たに 発現 す る機 能が 楽 しみ でも あ りま す。 しか しそ の一 方 で、微細 化 に伴 う発 熱 、魚 貝肉 の 品質(鮮 肉 性) 低下 が大 き な課 題で も あり ます 。 本研 究開 発 で目 標と す ると ころ の 一つ に、 微 細化 技術を 活用 した 魚 貝肉 への 凍 結耐 性の 付 与、 蒲鉾 ゲ ル形 成能 等の 向上 など が あり 、非 常 に興 味深 い 知見 が得 ら れて いま す。 これ ら内 容 につ きま し ては 、近 い うち に詳 し くご 紹介 した いと 思い ま す。 カッ ター ミ ル -2- 【食品成分の非破壊分析】 1. はじ め に ス ーパ ー の果 物売 場 で「 糖度 」 とい う表 示 や「 光セ ン サー 」と 書 かれ た果 物 の箱 を見た こと があ る と思 いま す 。「糖 度」 は果 物の お いし さを 客 観的 に評 価 する 方法 と して 、従 来、 果汁 を搾 っ て屈 折糖 度 計で 測定 さ れて きま し た。 しか し 、近 年、 近 赤外 線を 利 用し た「光 セン サー 」を用 いる こ とに よっ て 、果 物を 破 砕す るこ と なく、 「 糖度 」を 瞬時 に 数値 化し(非 破壊 分析)、選別 や表 示 がで きる よ うに なり ま した 。ち な みに 近赤 外 線と は可 視 光線 と赤外 線の 間に あ る光 です(図 1)。 200 400 紫外 800 可視 図1 2. 2500 近赤 外 25000 赤 外 1000000 nm (波長) 遠赤 外 光の 波長 と吸 収 スペ クト ル 近赤 外分 光 分析 対 象物 に 近赤 外線 を 照射 し、 反 射も しく は 透過 した 電 磁波 の波 長 ごと の強 度 分布 (スペ クト ル)を 測定 する こ とに よっ て 対象 物の 特 性を 調べ る 方法 を近 赤 外分 光分 析 とい います。 近赤 外分 光 分析 は、 果 物の 糖度 の 他、 食品 、 医薬 品や 工 業原 料等 の 品質 管理 に 利用 されて いま す。 近 赤外 分光 分 析で 成分 量 を推 定す る には 、ス ペ クト ルデ ー タと 化学 分 析値 から目 的と する 成 分値 を算 出 する 検量 線 を作 成し な けれ ばな り ませ ん。 こ の検 量線 の 有効 性を検 量線 を作 成 した 試料 と は別 の新 た な試 料で 確 認し 、目 的 とす る成 分 値の 推定 が 可能 になり ます 。 近赤 外分 光 分析 装置 に は実 験室 用 の測 定器 、 工場 等で 使 用さ れて いる オ ンラ イン シ ステ ム、 そ して 持ち 運 び自 由な 小 型のハ ンデ ィタ イ プの 測定 器 があ りま す 。水 産物 に はな かな か 利用さ れる こと が なか った 近 赤外 分光 分 析装 置で す が、 近年 、 果物用 のハ ンデ ィ タイ プの 測 定器 が水 産 物用 に改 良 され たた め 、研究 開発 が進 み 、マ アジ や カツ オな ど 数種 の魚 の 脂肪 量の 推 定が可 能に なり ま した(図 2)。従 来、脂 肪量 の測 定 は魚 をミ ン チにし て脂 肪を 抽 出す ると い う方 法で 1 日以 上必 要 でし たが 、 近赤外 分光 分析 を 利用 する こ とに よっ て 、ミ ンチ に する こと な く、非 図 2 破壊 で瞬 時 に測 定結 果 を知 るこ と がで きる た め、 脂肪 量 による 近赤外分光分析装置 (魚用 ハン ディ タイ プ ) 選別 に利 用 でき るよ う にな りま し た。 島根 県浜 田 市で は4 ~ 8月 に島 根 県西 方沖 で 漁獲 した マ アジ の中 か ら、 大き さ が 50g 以 上で 、脂 肪 量が 10% 以 上の もの を「ど んち っ ちア ジ」と して ブラ ン ドシ ール を つけ て販売 して いま す 。こ の脂 肪 量の 測定 を 近赤 外分 光 分析 で行 っ てい ます 。 3. コン ブの 非 破壊 分析 水 産試 験 場で は近 赤 外分 光分 析 によ るコ ン ブの 呈味 成 分量 の推 定 につ いて 検 討を 行いま -3- した 。コ ン ブは だし と して 利用 さ れる こと も 多く 、コ ン ブの 品質 評 価指 標の 1 つと してラ ウス コン ブ (和 名: オ ニコ ンブ ) に含 まれ る だし の成 分 につ いて 検 討を 行い ま した 。コン ブだ しと い うと 、う ま み成 分の グ ルタ ミン 酸 をイ メー ジ され る方 が 多い と思 い ます が、グ ルタ ミン 酸 だけ では コ ンブ だし の 味を 再現 す るこ とは で きま せん。味の 素(株 )によ ると 、 グル タミ ン 酸と マン ニ トー ル、 カ リウ ムが 特 定の 比率 で 存在 する と きに コン ブ だし の味に なる そう で す。 ちな み に、 マン ニ トー ルは コ ンブ に多 く 含ま れて い る糖 アル コ ール で、さ わや かな 甘 みを 有し て いま す。 カ リウ ムは ミ ネラ ル成 分 の一 つで 多 いと 苦み を 感じ ます。 ラ ウス コ ンブ 61 検 体を 用い て 、近 赤外 分 光分 析装 置 で得 られ た 1,100~2,500nm の スペ ク トル デー タ と化 学分 析に よっ て求 め たマ ンニ ト ール 、グ ル タミ ン酸 、 カリ ウム の値 から 検量 線 を作 成し ま した (図 3)。ま た、 新た な 59 検体 を用 いて そ の検 量線 を 評価 した 結 果、 マン ニ トー ルに つい ては 化学 分 析値 と予 測 値の 誤差 の 割合 が少 な く、 実用 化さ れて いる マ アジ と同 じ レベ ルで 推 定が 可能 で ある こと がわ かり まし た 。一 方、 グ ルタ ミン 酸 とカ リウ ム はや や誤 差の 図 3 近 赤 外分 光分 析 装置 割合 が大 き いと いう 結 果で した ( 図 4)。 推定値(%) 推定値(%) 50 40 30 20 10 10 図4 4. 20 30 40 50 化学分析値(%) 60 9 8 7 6 5 4 3 2 推定値(%) 60 (実験 室用 ) 2 3 4 5 6 7 化学分析値(%) 8 9 18 16 14 12 10 8 6 4 2 2 4 6 8 10 12 14 16 18 化学分析値(%) マン ニト ール(左)、 グル タミ ン酸(中)、 カリ ウム(右)の 化学 分析 値 と推 定値 おわ りに 水 産物 は 果物 や医 薬 品等 と異 な り、 その 形 状や 取り 扱 い方 法が 難 しく 、近 赤 外分 光分析 装置 の利 用 はま だわ ず かで す。 し かし 、食 品 の安 心・ 安 全や 品質 保 証、 また ブ ラン ド化の 一要 素と し ては 、非 破 壊で 迅速 に 成分 の推 定 が可 能な 近 赤外 分光 分 析は 、水 産 物で も今後 利用 され る 技術 にな る と思 われ ま す。 (利用 技術 科 -4- 宮崎 亜 希子)