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投資不動産時価情報の有用性について
論 文 論 文 投資不動産時価情報の有用性について ―賃貸等不動産会計基準の実証的検証を中心に― 山 本 卓 目 1.本稿の背景と目的 2.先行研究と仮説設定 次 3.実証分析 4.まとめ 本稿は、 「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」の新たな適用に伴い財務諸表の注記で開示された 賃貸等不動産の時価情報の有用性に焦点を定めた実証分析を中心に行った。分析手法としてイベント・スタディ と価値関連研究(株価モデル)を併用した。その結果、投資家は、特に建設・不動産・倉庫業において当該時価 情報の有用性を強く認識しており、投資判断の重要な情報に位置付けていること等が明らかとなった。 1.本稿の背景と目的 国際財務報告基準、以下同様)に規定のあるIAS 第40号「投資不動産」の会計基準を意識して作 企業会計基準委員会は、2008年に企業会計基 成されたものである。日本基準の「賃貸等不動 準第20号「賃貸等不動産の時価等の開示に関す 産」とは、「棚卸資産に分類されている不動産以 る会計基準(以下「賃貸等不動産会計基準」とい 外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲ う)」を公表した。このたび、10年3月期の財務 インの獲得を目的として保有されている不動産」 情報が公表されるに至り、賃貸等不動産会計基準 であり(注1)、通常一般的に認識されている「投 適用の実態について、実証的見地からも検証する 資不動産」の概念にほぼ当てはまるものである。 要請が高まっている。賃貸等不動産会計基準は、 ただ、IFRSとは異なり、賃貸等不動産の時価は IFRS(International Financial Reporting Standards; 財務諸表において注記情報として開示されるが、 山本 卓 (やまもと たかし) (財)日本不動産研究所システム評価部所属。中央大学法学部法律学科卒業、青山学院大 学大学院国際マネジメント研究科修士課程修了、埼玉大学大学院経済科学研究科博士後 期課程修了、博士(経済学)取得。著書に『財務情報と企業不動産分析』 (創成社、2009 年)などが、論文に「リース会計基準改正の企業行動に与えた影響の検証」 『証券アナリ ストジャーナル』48(2)、pp.85-95.(2010年)および“Asset Impairment Accounting and Appraisers: Evidence from Japan”The Appraisal Journal, Vol.76, No.2, pp.179-188.(2008年) など多数ある。 90 証券アナリストジャーナル 2010.11