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Page 1 Page 2 神奈川大学大学院経営学研究科 『研究年報』第14号
\n Title Author(s) Citation EUにおける経営統合とコーポレート・ガバナンス 明山, 健師; AKIYAMA, Tsuyoshi 研究年報, 14: 167-179 Date 2010-03-25 Type Departmental Bulletin Paper Rights publisher KANAGAWA University Repository 神奈川大学大学院経営学研究科 『 研究年報』第 1 4号 201 0 年 3月 1 67 ■ 研究論文 EUにおける経常統合とコーポレートガバナンス Co r p o r a t eGo v e r n a n c eRe f o r mo nM&A 神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 明 博士前期課程 山 健 師 Am AMA, Ts u y o s h i ■キーワー ド M&A コーポ レー ト・ガバナ ンス/コーポ レー ト・ガバ ナ ンス原則/ 動 を行 うことがで きることとなったので ある。欧 1 は じめに 州株式会社 を設立す る方法の 1つ に合併 による設 グ ローバ リゼーシ ョンのなかで、E Uは、市場 立 とい う方法がある。つ まり、欧州株式会社 を設 を統合 し、地域の国境障壁 を取 り除 くことによっ Aを実施 す る場合 が ある。 この 立す るためにM& て、経済 を活性 化 した。地域統合 に よって世 界 よ うな背景 か ら、E Uで は、地域統合 が深 化す る 最大 の市場 となったE Uで、 グローバ リゼーシ ョ Aが増加 したのである ことによって、M& U市 ンが深 化 した の で あ る。 これ に よ って、E 。 異 なる国籍 を有 す る複数の企業 がM&Aを行 う 場 は世界 か ら注 目を集 め ることとなった。 まず、 場合 に さまざまな問題が発生す る。 しか し、 クロ 1 990 年代 に投資がE U企業 に集 中 し、E U企業への Aに関す る研究 は、 シナジー効果 スボーダーM& M&Alが増加 した。 また、 このEU企業へのM&A や戦 略 な どに焦 点 をあて た ものが多 く、 コーポ の中心 にいたの は、 アメ リカ企業 で ある しか レー ト・ガバナ ンスに焦点 をあててな されている 998年 ごろか ら、E U企業 は、 アメ リカ企業 し、1 研究 は多 くない. そこで、本稿では、 EUのグロー に対抗す るべ く、 EU域内での大型 クロスボーダー U バ リゼ ー シ ョンにつ い て考 察 す る こ とで、E 。 M&Aや アメ リカ企業 に対す るM&Aを行 うように のグ ローバル化の展 開 を明 らかにす る。つ ぎに、 EU企業 によるクロスボー なった。 これによって、 EUにおけるM&Aについて考察す ることで、地域 Aが増加 したので ある。 ダーM& Aとその合理性 を明 らかに 統合後 に増加す るM& 地 域 統 合 に よ って、E U域 内で 自由 に経 営 活 Aによって企 す る。 そ して、 クロスボーダーM& 動 を行 うこ とが で き る欧州 株 式 会 社 ( S o c i e t a s 業 が実際に直面 したコーポ レー ト・ガバ ナ ンスに 関す る問題 と課題 を解明す る。以上の 3つ を検討 Eu r o p a e a )が誕生 した。 欧州株式会社 の誕生 に よって、E U域 内で あれば、 1つ の法人 で経営活 M&Aの際のコーポ レー ト・ す ることで、本稿では、 1 6 8 神奈川大学大学院経営学研究科 r 研究年報』第 1 4号 2 01 0 年 3月 ガバナ ンス問題 に対 しては、両社間で合議 ・調整 ンと呼び、グローバ リゼーシ ョンの反対概念 とす の もとで コーポ レー ト・ガバ ナ ンス原 則 2を策定 る考 え方 がある4。 これ は、経済統合 が、 ブロ ッ ク経済化のように封鎖的な市場 を形成す ることで す ることの重要性 を明 らかにす る。 犀済 を保護 してい るとい うネガテ ィブなとらえ方 2 EU統合 とグローバ リゼーシ ョンの進 展 2 1 リージ ョナ リゼーシ ョンとグローバ リゼー である。た しかに、地域的な経済統合 はその地域 の経済的な発展 を目的 としている。 しか し、大西 洋経済統合地域 にむけた動 きか らも分かるように、 EUの経済統合 は 1つ の地域 に限 らず、徐 々に拡 大 している。 したがって、経済統合 はグローバ リ ン ヨ/ 近年、経済統合地域化にむけた動 きが活発化 し ている。そのなかで も、 もっとも注 目すべ きで あ るのは、EUとアメ リカによる大西洋経済統合 地 ゼーシ ョンを段階的に実現 しようと試み るもので あるといえるだろう。 経済統合 とは、単に企業がグローバルに活動す 域の実現にむけた動 きである。大西洋経済統合地 るグローバ リゼーシ ョンではな く、制度的な統合 域 の枠組み は、2007年 のEU ・アメ リカ首脳会議 を含む、よ り高度のグ ローバ リゼーシ ョンを段階 Uの地域 に特化 した政策 は、EU で採択 された。E 的に実現す るための第 1歩 として、地域で制度面 とい う地域 を越 えて さらに広範 な地域 をノ 包括 した か ら市場 を統一 した ものであるとい うことがで き 政策へ と広 が りつつ ある。 また、 日本 において も、 る。 そ して、各地域で経済統合地域が誕生 し、各 2009年 に鳩 山政権 によって東 ア ジア共 同体 の構 経済統合地域が拡大す ることで、世界中に無数に 築 が提 唱 され た3 0 この よ うに、世界 の各地 で経 存在 していた市場や制度 がい くつかの市場や制度 済統合 が、着実 に進行 している。 に統合 され る。 そ して、統合 された市場や制度 を 域 統 合 と グ ロ EUのような、経済統合 を リージ ョナ リゼ-シ ョ 図 1 地 ( 出所)著者作成。 調和す ることでよ り完全 なグローバ リゼ-シ ョン ー バ リ ゼ ー シ ョンへの過程 EUにおける経営統合 とコーポレー ト・ガバナンス 1 6 9 が完成す るので ある。 ただ し、地域経済統合 や世 この よ うに、世界 または地域 の統一基準 は、 まず 界標準化の段階かち、各国独 自の制度へ と戻 ろう 最低限の規則 を定め るに留 め るべ きで あ り、各国 とす るもの もある。 これは、一度調和 ない し標準 の多様性 はある程度保 たれ るべ きで ある。 そ して、 化 された市場や制度 を自国内で再度最適化 しよ う グ ローバ リゼーシ ョンが進 め られ ることで、制度 とす るもので ある。 的に① 国際基準 が策定 されて国際的な統一 を目指 す動 き、① さらに多様化へ進む動 き、の両方 が促 22 グローバ リゼーシ ョン とコーポ レー ト ・ガ 進す ることになるので ある。 バナ ンスの標準化 グ ローバ リゼーシ ョンが深化 し、制度 を統一す 23 地域統合 とM&Aの関係性 るための世界標準 コーポ レー ト・ガバ ナ ンス原則 企業 の経営活動 を考察 してみ ると、後述す るよ や国際会計基準 など、 さまざまな面 で国際的な統 うに、EU企業 の なか には欧州 会社 法 に よって最 一 が図 られ た。EUで も、最低 限 の規 則 を会社法 低限の基準 は統一 されつつ あるものの、 アメ リカ によって統一す ることで各国の規則 を調和 してい 型 の経 営 を取 り入 れ 、M&Aに よって新 た な コー る。 さま ざまな制度 が乱立す るなかでグ ロ-バ リ ポ レー ト・ガバ ナ ンスを構築す る企業 が現れてい ゼ-シ ョンを さらに深化 させてい くことには限界 る。 まず 、M&Aはお もに アメ リカで盛 んに行 な があ り、統 一基準 の策定が今後 もな されてい くと われていた。つ ぎに、 ヨーロッパ企業 がアメ リカ 007年 には、 ニ ュー ヨー ク 考 え られ る。 また、2 型 の経営 を取 り入れ る様 にな り、 アメ リカ と同様 ( NYS E)とユ ー ロネクス トが統合 さ にM&Aが盛 んに なった。 しか し、 ヨー ロ ッパ企 れ た。EUで は、ユ ー ロネクス トの他 に も証券取 業 は、単 に ア メ リカ企業 の模 倣 を したの で は な 引所 が統合 され国際的な証券取引所 が誕生 してい か った7。 かつて、 アメ リカ企業 は、M&Aを繰 り る。国際的な証券取引所 が上場規則 を定め ること 返す ことで大型化 し、 ヨーロ ッパ を含む海外 の企 で、統 一基準 が設 け られ た ことにな る。 そ して、 業 に対 してM&Aを行 った。 そ こで、M&Aの対象 証券取引所 いっそ うコーポ レー ト・ガバ ナ ンスの収敵 が進む となっていた ヨーロ ッパ の企業 は、 アメ リカ企業 と考 えられ る。 に対抗す るためにM&Aを行 ったので ある。 しか し、 多 くの学者 によって論 じられてい るよ 990年 代 は シナ ジー 上 述 の よ うな背景 か ら、1 うに、 この よ うな統一基準が永久 的に標準的な基 効果 が固 く信 じられていた。 シナ ジー効果 を達成 準 で あ り続 け る こ とあ り得 ない ため、新 しい基 す ることで吸収合併 を防 ぎ、競争力 を高 め ること 準の策定や改訂 が継続 的に行 なわれ るで あろう5。 で生 き残 りを狙 っていたので あった。 その よ うに 欧州委員会 は、各国の多様性 を維持 しつつ、重要 して誕生 した企業の代表 的な例 として、頻繁 に取 な内容の規則 に関 してはEU域 内 を統一 してい る6。 り上 げ られ る企業 に、 ダイムラーク ラィス ラーや 表 1M&Aの系譜 と分類 時期 1 8 80年代末 -1 900 代初頭 1 920 年代後半 M&Aブーム 特徴 第 1次 スタンダー ド石油 、USスティール、GE、AT&Aが成立 した○ 第 2次 垂直統合、水平統合が盛んに行なわれたo 1 9 60年代 第 3次 コングロマ リッ ト合併が盛んに行なわれたo 1 9 70 年代後半 -1 980 代末 第 4次 LBO型の超大型合併 ( Me gaMe r ge r )が盛んに行なわれた○ 1 9 90 年代 第 ( 出所)筆者作成。 5次 業界や国境 を越 えた戦略的な性格 を有す るM&Aが盛んに行なわ 1 70 神奈川大学大学院経営学研究科 『 研究年報』第1 4号 アベ ンテ イス な どが あ る。 この よ うな、業界 再編 は、 自動 車 、石 油 、科 学 、 医薬 医療 、流 通 、情 報 通 信 、 メデ ィア、航 空 宇 宙 ・軍 需 、 エ アサ ー ビス、 金 融 ・銀 行 ・保 険 の各業 界 で進 んで い った。 ヨー 201 0年 3月 3 EUにおけるM&Aの活発化 31 EU企 業 によ るア メ リカ企 業 へ の M& A EUで は、 ア メ リカ企 業 に対 抗 す る為 に、 規 模 ロ ッパ の 企 業 に と って 、M&Aは非 常 に大 きな変 を拡 大 を 目的 と して M&Aが盛 ん に な っ た。 そ し 化 を もた ら した とい え るだ ろ う。 998年 に ドイ ツ企 業 で あ るダ イ ム ラ ー が ア て 、1 表 2世界 3位 以 内 の欧州 企 業 に よ る大型 ク ロスボ ー ダ ーM& Aの事 例 買収企業 被 買収企業 1998 ダイムラー (ドイツ) BP ( イギ リス) クライス ラー ( アメ リカ) ア コモ ( アメ リが 1999 マ ボーダフォン イギ リス) ンネスマ ン ( ドイツ) エ ( アメ リカ) オ アタッチ レンジ ( イギ リス) ゼネカ ( イギ リス) 2000 ボーダ フォン .エア タ ッチ ( イギ リス) ヴ イヴエ ンデ イ ( フランス) BPアムコ ( イギ リス) 2001 ドイツ ーテ レコム (ドイツ) ギ ブ リス) リテ ィッシュ .テ レコ ミュニ ケーシ ョン ( イ 2002 エーオ ン (ドイツ) ヴ イヴエンデ ィ .ユニバ ーサル ( フランス) ナ シ ョナルグ リッ ドグル -プ ( イギ リス) 2003 H SBCH l d n i gsPLC ( イギ リス) RWEA Go ( ドイツ) BPPLCRus s i a nAs s e t s (イギ リス) アス トラ ( ス ウェーデ ン) マ ンネスマ (ドイツ) シーグ ラム ン( カナダ) ア トランテ ィツク .リッチ フィール ド ( アメ リが ボイスス トリーム .ワイヤ レス ( アメ リカ) Vi a gⅠ nt r e kom Gmbh&Co (ドイツ) Po w rG nP LC ( イギ リス) U S Ae ネe ッ トワークス ( アメ リカ) Ni a ga r aMoha wkHo l di ngsⅠ nc ( アメ リカ) ハ ウスキ ール ド .イ ンターチ シ ヨナル( ( アメ リカ) アメ リカ Jン .ウオーター .ワークス アメ リカ) lf A aRe no va Rus s i a nA ss e t s( ロシア) 2004 Sa nt ande rCent r a lHi s pa noS A( スペ イ ン) Ci t i z e nsFi na nc i a lCor p( イギ リス) Abbe yNa t i ona lPLC ( イギ リス) 2005 ロイヤル .ダ ツジ .ベ ン トリアム ( オ ランダ) Uni c r e di t oⅠ t a l i no ( a イタ リア) Be ye is r heHypo-undVe ie r i ns (ドイツ) Goa l Ac qui s i t i onsud (フランス) チ ャー ターワン ( アメ リカ) グス シェル( イギ .トランスポー リス) ト .ア ン ド .トレーデ ィン Al l i e dDo me oqPLC ( イギ リス) 2006 Te l e f oni c aSA ( スペイ ン) Ai r por tDe ve l op me nt( スペ イ ン) 02PLC ( イギ リス) BAAPLC ( イギ リス) 2 007 l RF SH o l di n gsBV ( イギ リス) A C nⅠ a n c ( イギ リス) A B N 「 A OH l d i ngNV ( オ ランダ) Ri o T nMR i t oP LCo ( カナダ) Ⅰ be r dr o l aS A( スペ イ ン) ETRO【 2008】を参考 に筆者作成. ( 出所)J Sc o仕i s hPo we rPLC ( イギ リス) EUにおける経営統合 とコーポレー ト・ガバナンス メ リカ企業のクライスラーを対等合併 と銘打 って 実質 的には吸収合併 を行 った。 これ を契機 にEU 171 る。 さらに、 ク ロスボー ダ ーM& Aを行 うことで、 企業 によるアメ リカ企業 に対す るM&Aが増大す 異 なる法制度や上場規則、企業慣習 などによって の ように、近年では、EU企 ることとなった。表 2 構築 されているコーポ レー ト・ガバ ナ ンスを有す 業 によるM& Aが3 位以内を占め、 クロスボーダー る企業 が合併す ることになる。 そこか ら生 じる問 M&Aのなかで もEU企業 によるアメ リカ企業への 大規模 なM&Aが増 えていることが理解で きる。 21 世紀 に入 ってか らは、E U域 内におけるクロ スボーダー M& Aが増加 してい る。 これ は、 「グ U加盟 ローバ リゼーシ ョン下 の主役企業」 を、E 題点の解決 も必要で あると考 えられ る 。 32 欧州株式会社 とM&A Aが特 にEU域 内で増加 し ク ロスボーダー M& てい る理 由 に欧州株式会社 の設立要件 が挙 げ ら 国の欧州ヘゲモニーの観点に立 った共存共栄の社 れ る。 欧州株式会社 の根拠 法 とな る 「欧州株式 会 ・経済 ・政治構造の ヨーロッパ舞台の創建 に基 Co unc i lRe 釘l l a t i on( EC)No.21 57 /2001 会社法 ( U域 内の各国が共 同 して構築 しよ うと づ いて、E o f8Oc t o be r20010 nt heSt a t ut ef oraEur o pe a n c o mpa n y)1 0 」 によって、欧州株式会社 は、合併 い うのである8 。 また、E Uの なかには、 フランスの よ うに国営 または持株会社の設立、子会社 の設立、子会社の 企業や政府 が大株主で ある企業が多 く存在す る国 欧州株式会社への転換のいずれかのよってのみ設 もある。そのため、 自国企業の競争力の強化の観 立す ることがで きる。 点か ら国家 レベルでの判断が影響す る場合がある まず、合併 によって欧州株式会社 を設立す る場 た とえば、後述す るサ ノフイ ・アベ ンテ イスなど 合 は、異 なる加盟国 を所在地 とし、異 なる加盟国 。 の国内法 によって規制 され る 2社以上の企業の合 が例 に挙 げ られ る。 そ して、国 防会社 や電 力会社 な どで も国益保 併 によって欧州株式会社 を設立す ることがで きる 。 護 の観 点 か ら、国家 レベル での話合 い によって また、持株会社の設立 によって欧州株式会社 を設 M&Aがな され る場合 がある。 た とえば、汎 ヨー 立す る場合 は、加盟国の国内法 に規制 され る企業 ロ ッパ航空宇宙 ・国防会社 として誕生 したEADS の うち、欧州株式会社 を設立 しようとす る当該企 などで ある9 。 日本 において も、J パ ワー株問題 な 業の 2社以上が異なる加盟国の国内法 によって規 どで この よ うな政府 の介入が問題視 されてい る。 制 され るか、 2ヶ国以上 に 2年以上、子会社 を有 このような、問題の解決 も必要であると考 えられ す ることで欧州株式会社 を設立で きる。 そ して、 表3欧州株式会社 の設立要件 設立方法 設立要件 合併 異なる加盟国を所在地とし、異なる加盟国の国内法によって規制 される. 2社以上の 企業の合併によって欧州株式会社を設立することができるo 持株会社の設立 加盟国の国内法に規制される 企業のうち、欧州株式会社 を設立 しようとする当該企 されるか 、2 ヶ国以上に 2年以 業の 2社以上が異なる加盟国の国内法によって規制 上、子会社を有することで欧州株式会社 を設立できる○ 子会社の設立 加盟国の国内法に規制される企業のうち、欧州株式会社を設立 業の 2社以上が異なる加盟国の国内法によって規制 されるか、 しようとする当該企 2ヶ国以上に2 年以 上、子会社を有することで欧州株式会社 を設立できるo EU域内に本店または本社 を有 し、その本店または本社を設置する加盟国以外に 2 子会社の 欧州株式会社への転換 年以上子会社を有する場合に、子会社を欧州株式会社に転換することができるo ( 出所)筆者作成。 172 神奈川大学大学院経営学研究科 F 研 究年報』 第 1 4号 2010年 3月 子会社の設立 によって欧州株式会社 を設立す る場 えてい るとはい えないの も現状 で ある。 そこで、 合 は、欧州株式会社 を設立 しよ うとす る当該企業 クロスボーダ ー M&Aに伴 うコーポ レー ト・ガバ の 2社以上が異なる加盟国の国内法 によって規制 ナ ンス改革 を考察す ることで、 これ らの改革の問 され るか、 2ヶ国以上 に 2年以上、子会社 を有す ることで欧州株式会社 を設立で きる。 さらに、子 題点 と課題点 を明ちー かにす る。以下では、 このよ うなM&Aによって生 じる問題点や コーポ レー ト・ 会社の欧州株式会社への転換 によって欧州株式会 ガバ ナ ンスの問題 点 を考察す るために、M&Aが 社 を設立す る場合 は、EU域 内に本店 または本社 盛んに行 なわれた製薬業界 と石油業界の企業 を取 を有 し、その本店 または本社 を設置す る加盟国以 り上 げ、 クロスボーダ ーM&Aによって生 じる問 外 に2 年以上子会社 を有す る場合 に、子会社 を欧 題点 を明 らかに してい く。 州株式会社 に転換す ることがで きる11。 欧州株式会社の設立要件 には、合併 による欧州 株式会社の設立が含 まれてお り、欧州株式会社 を 設立す るためのM&Aが増加す ることが考 え られ る。 その場合 に、上述 したよ うなコーポ レー ト・ 4 M&Aに伴 う企業経営機構改革 41 アベ ンテ イスの企業経営機構改革 今 日、製薬業界 は、 クロスボーダ ー M&Aが盛 ガバナ ンスに関す る問題が生 じることは十分に考 んに行 なわれ てい る。一ヨ- ロ ッパ で最大 の製薬 え られ る。 このような問題 にどのように対処 して 会社 で あるサ ノフ イ ・アベ ンテ イス も、 クロス い くのかは、今後地域統合 を進 めてい くためにも ボーダー M&Aによって発足 した企業 で ある。 ま 重要 な課題で ある。 998 年 に ドイツのヘキス トとフランスの ロー ず、1 ヌ ・プーランが合併 したことで、 フランスに本社 33 M&Aに伴 う諸問題 1 9 98年代 か ら増大 したクロスボーダー M&Aに を持す アベ ンテ イスが発足 したO その後、 2004 よって、M&Aによって誕生 した企業の内部では、 年 にフランス企業のサ ノフイ ・サ ンテラボによっ ′ \ て、 アベ ンテ イスが買収 されてサ ノフイ ・アベ ン 歴史 ・文化 ・慣習 ・コーポレー ト・ガバ ナ ンスな テ イスが発足 したので ある。 このサ ノフイ ・アベ どの変化が発生 している。 まずは、異なる国籍の ンテ イスが誕生す るまでのM&Aには、クロスボー 企業が結合す ると、 どち らの法に準拠 して設立す ダー M&Aによるコーポ レー ト・ガバ ナ ンス改革 るのか とい う問題 を解決 しな くてはな らない。 く とフランス政府 による介入の 2つの問題が隠 され わ えて、 どのようなコーポレー ト・ガバナ ンスを ていた。 採用す るのか も決定 しな くてはな らない。 このよ まず、第 1の問題 は、 クロスボーダ ー M&Aに うな必要性 か ら、 クロスボーダーのM&Aによっ よるコーポ レー ト・ガバ ナ ンス改革 の問題 で あ て誕生 した企業 に、 コーポ レー ト・ガバナ ンスに る。 アベ ンテ イスの前 身で あ るへ キス トとロー 関す る改革 を行 う企業 が現れた。 そのなかには、 ヌ ・プーランがそれぞれ本社 を設置 していた ドイ は じめか らアメ リカ型の経営 を取 り入れ るために ツとフランスは、歴史的に戦争 などを通 して対立 M&Aを実施 し、 アメ リカ型 の企業経営機構 を採 して きた。 その よ うななか、今 日の よ うにEUを 用す る企業や合併 した企業のなかで影響力の強い 統合す ることに成 功 したのは、それ まで対立 を続 企業側の企業経営機構 により近い形態 を採用す る けていた ドイツとフランスが和解 したことがきっ 企業、新 しいハ イブ リッ ド型の経営機構 を採用す かけとなったといって も過言ではないほどの対立 る企業 などがある。 であった。 そのような両国 を代表す る企業である しか し、世紀 の大合併 とまで いわれ なが らダ イムラークライス ラーが失敗 に終 わったよ うに、 M&Aに伴 うの改革 が必ず しも企業 に好影響 を与 2社が統合す ることは、独仏和解の象徴 ともいえ る出来事であった。 へキス トは医薬医療 の企業 として知 られ る ドイ EUにおける経営統合 とコーポレー ト・ガバナンス 1 73 図2 サ ノフイ ・アベ ンテ イスの M&A ( 出所) C hr is t o sCa b o l i s・Ar t u r oBr i s 【 2 0 0 4 】 7 9 頁. を参考に筆者作成. ツを代表 す る企業 で あった。M&Aが行 なわれ た わ えて、取締役の任期 は 6年 で、取締役の年齢制 当時のへキス トは、7つの主要 な子会社 を有す る 5 歳 以下 で あ るこ とが定 めれ て い た。 取締 限 は6 持株会社 で あった。 へ キス トは企業 経営機構 に、 役会 は、必要 に応 じて開催 され ることと定 め られ 0 人 の取締 役 を有 し 二層 型経 営機 構 を採 用 し、2 ていたため、比較 的、頻繁 に開催 され、意 思決定 ていた。 その うち、半数 が従業貝 か ら選出 された は、定足数 に対 す る多数決 によって行 なわれた。 取締役で あった1 2 。 くわ えて、取締役 の任期 は 5 株主総会 の出席 には、株主総会 開催 の 5日以上前 年で、取締役 に年齢制限 はなか った。取締役会 は、 か ら株 を保有 してい ることが求 め られていた。 ま 最低 で も半年 に 1回行 なわれ、意思決定 は多数決 ALO ( Bu l l e 血d e s た、株主総会 開催 の通知 は、B nn A o n c e si . e g le a sOb l i g a t o r i e s )に よ って告 知 さ によって行 なわれていた。株主総会 の出席 には、 株主総会開催の 7日以上前か ら株 を保有 してい る れ た。 そ して、委任状 による投票 が認め られ 、 1 ことが求 め られていたO また、株主総会 開催 の通 株 1議決権制 が定 め られていた。 知 は、公式広報 によって告知 され た。 そ して、委 そ して、へキス トとローヌ .プーランが統合 さ 任状 による投票 が認 め られ 、 1株 1議決権制 が定 れ たアベ ンテ イスは、企業経営機構 に二層型経営 め られて いた。 機 構 を採 用 し、1 6 人 の取締 役 を有 して い たQ そ ローヌ ・プ ー ラ ンは医療 と工業 の コ ング ロマ の なか で も、 4人 が従業 員 か ら選 出 され た取締 リッ ト企業 と して知 られ るフランスを代表す る企 役 で あった14。 くわ えて、取締 役 の任期 は 5年 で、 業 で あ った。M&Aが行 なわれ た 当時 の ロー ヌ ・ 取締 役 の年 齢 制 限 は75 歳 以下 で あ るこ とが定 め プー ランは、製薬、動植物衛生、科学工業の 3つ れていた。取締役会 は、最低 で も 3ヶ月に 1回の の部門 を有 していたO ローヌ ・プー ランは企業経 開催 が定め られ、意思決定 は、 多数決 によって行 営機 構 に、一 層型 経 営機 構 を採 用 し、1 2 人か ら なわれ た。株主総会の出席 には、株主総会 開催 の 1 8人 の取締 役 を有 して いたO その なかで も、 3 3日以上前 か ら株 を保有 してい ることが求 め られ 人が従業員 か ら選 出 され た取締役で あった13。 く LO ( Bu l l e t i n ていた。株主総会 開催 の通知 は、BA 1 7 4 神奈川大学大学院経営学研究科 『 研究年報』第 1 4 号 2 01 0 年 3月 表 4アベ ンテ イスの コ-ポ レー ト・ガバナ ンス ローヌ .プーラン へキス ト アベ ンテ イス 取席役数 1 2 1 8 人 20 人 1 6 人 _ 従業員代表 3 人 ( 1 6 25%) 1 0 人 ( 50%) 4人 ( 25 %) 取締役の資格 自然人 または法人 自然人 自然人 取廟役の持株制限 最低 1 0 株 なし 最偵 l 株 任期 6 年 5 年 5 年 棉 企 経 業 横 普 企業経営機構体制 年齢制限 一層型企業経営機構 6 5 歳 以下 二層型企業経営機構 なし 二層型企業経営機構 1 /3が75 歳 以下 会議の頻度 必要に応 じて 最低 6ケ月に1 回 最低 3ケ月に1回 意思決定 定足数に対す る多数決 単純 な多数決 単純 な多数決 報酬 出席 に応 じた報酬 固定報酬 と変動報酬 固定報酬 と変動報酬 総会の通知 n A B OA b n l L i o g O n a c t o e ( r B s i e u e L s l l ) e g t l a i に公表 nd e s e s 公式公報で公表 n A BA O b n l L i o g O n a c t o e ( B r s i u e e L s l l ) e g t l a i に公表 nd e s e s 秩 A 総 主 T Z = 出席に必要な株式保有期間 総会の5日前 委任状 による投票 あり 総会の7日前 あり J 総会の3日前 のツ-ルが許可 あり レコ ミュニケーシ ( テ レビ会議 され とテ ョン る) ( 出所)Chr iS t osCa bo hs・Ar t ur oBr i sl 200 41 35 3 6頁 を参考 に筆者作成 de sA n nonc e sL e ga l esObl i ga t or i es ) に よ って告 れ たので あ るcM&Aに おいて、 各 国政府 間の対 知 された。委任状 に よる投票 が認 め られ 、 1株 1 立 に よって、M&Aが行 なわれ て い る とい う現状 議決権制 が定 め られていた。 さらに、株主総会 で が ある。 これ に よ り、 リ市場 の公平性 が失 われて し はテ レビ会議 とテ レコ ミュニケー シ ョンの ツール ま うため、国家 に よる市場 の介入 は厳 に慎 まなけ が許可 されていた。 この よ うに、 アベ ンテ イスは、 ればな らない。国家 レベル の利害衝 突 をな くす た 両社 の よ り厳 しい規 定 を採用 して いた。 めに も、地域統合 を進 め、国家 レベル の利害 とい 第 2の問題 は、 フランス政府 による介入で ある。 う概念 その もの をな くす必要 があ ると考 え られ る。 フランス政府 は、 フランス を代表 す る企業 が、 ド イツ とフ ランスの合 同出資の企業へ とな ることに 42 アル セ ロール ミタルの企 業経営機構改革 抵 抗 が あ った15。 つ ま り、 フ ラ ンス政府 は、国 内 鉄鋼 会 社 で あ るアル セ ロール ミタル もク ロス の有 力 な企業 は純 粋 な フランス企業 で あ るべ きで ボ ーダ ー M&Aに よって誕生 した企業 で ある。 ア あると考 えていた。 そのために、 フランス政府 は ル セ ロール ミタル は、 ル ク セ ンブル クの アル セ サ ノフ イ ・サ ンテ ラボによるアベ ンテ イスの買収 ロール とオ ラ ンダの ミタル スチ -ル の合併 に よっ を支援 した といわれ て い る16。 一連 のM&Aに は、 て誕生 した。 アル セ ロール と ミタル スチ ール の両 政府 の介入 が見 られ るな ど、極 めて政策 的に行 な TheMe mo r a ndum 社 は、2006年 に 「協 定 規 約 ( われていた とい う特徴 がある。企業規模 がアベ ン 以下 「 MOU」とい う)」に調 印 し, o fUnde r s t a ndi ng, テ イスの半分程度 で あったサ ノフ イ ・サ ンテ ラボ 合併 に ともな うコーポ レー ト ・ガバ ナ ンスの問題 によって、 アベ ンテ イスへ の敵対 的買収 が行 なわ につ いての合 意 を した17。 その ため、 アル セ ロ- EUにおける経営統合 とコーポレー ト・ガバ ナ ンス ル ミタル の コ ー ポ レー ト ・ガバ ナ ンス はMOUを 1 75 の全 員 が独 立 取 締 役 で構成 され て い た。 その構成 基礎 と して構 築 され る こ と とな っ た。MOUに基 員 は、6ヶ国 の国 か ら招曙 され 、 国 際 的 な視 野 を 8 人 と し、アル セ ロー づ いて 、設立 時 は、取締 役 は 1 持 つ こ とがで きた。 アル セ ロール の取 締 役 の独立 ル 出身 の取締 役 か ら 6人 、 ミタル スチ ール 出身 の 性 の基 準 は、 (1) 社 内 の 管 理 職 の位 置 を 占め な 取締 役 か ら 6人 、 アル セ ロール の主 要株 主 を代 表 い、 (2) 独 立 した判 断 に影 響 を及 ぼ す 可 能 性 が す る取 締 役 か ら 3人 、従業 員代 表 か ら 3人 指名 す 3) あ る経 営機 関 の メ ンバ ー と家族 関係 が ない 、 ( るこ と とな った 18。 会 社 の株 式 資本 の少 な くと も 2%を所 有 す る株 主 まず 、 アル セ ロール は、本 拠 地 をル ク セ ンブル 4) 会 社 に取 締 役 会 の意 見 に判 を代 表 しない 、( クに設 置 しル クセ ンブル ク法 に準拠 して い た。 そ 断 に影 響 を及 ぼす 品物 あ るい はサ ー ビス を提 供 し して 、 遵 守 す るコー ポ レー ト ・ガバ ナ ンス規 則 に ない、 の 4つ が挙 げ られ る。取 締 役 会 内委 員 会 は、 国際基 準 全般 を挙 げて い た。 具体 的 な コ ーポ レー 監 査 委 員 会 と指名 ・報 酬 委 員会 の 2つ で あ った 19。 ト ・ガバ ナ ン ス を考 察 す る と、 一 層 型 企 業 経 営 つ ぎに、 ミタル スチ ール は、 本拠 地 をオ ラ ンダ 機 構 を採 用 し、 取 締 役 会 会 長 とCEOの 役 割 は 分 に設置 しオ ラ ンダ法 に準 拠 して い た。 そ して、遵 8人 を定 員 と し、 そ 離 して い た。 取 締 役 会 は、1 守 す る コ ー ポ レー ト ・ガバ ナ ンス規 則 にNYSE上 表 5アル セ ロール ミタル の コーポ レー ト ・ガバ ナ ンス アノ レセロール 準拠法 ル クセ ンブル ク法 遵守 レー するコーポ ト.ガバナ 国際基準全般 ンス規則 企業経営機構 一層型企業経営機構 CEOの分離と 分離 取締役会会長 ミクル スチ-ル オ ランダ法 アルセ ロール ミタル ル クセ ンブル ク法 SEC規則 Unde r s t a ndi ng N オY ランダ法 SE上場規則 T Nh Ye SE Me 上場規則 mor a ndum o f オ ランダコーポ レー ト .ガバ ル クセ ンブル クコーポ レナ ンス規則 ト .ガバ ナ ンス原則 一層型企業経営機構 一層型企業経営機構 なし 分離 ( CEOは取締役 を兼任) 取締役会人数 18 9 18 ( 過半数 が独立) 取締役 の国籍 6ヶ国 4ヶ国 めないo ( 2 )独立 した判 断に影響 を及 ぽす可能性 が ある経営機 関の メ ンバ ーと家族 関係 がない○ ( 1 )会社の株式資本 社 内の管理職の位置 を占 3 の少 な く とも2%を所有す る株主 を代 シ ヨンにつ かな ( 2)経営管理 の全 ての構成 員 と関係 がないo ( 3) ミタル スチ ールか らその ( 1 ) 社 内の執行力の あるポジ 年 間収益 の1 %以上 を取 引す るあ らゆ る組織 の執行役 を務 独立性 の基準 い D ( 2)NYSEの独立性 の基準 ( 3)ル クセ ンブル ク証券取引 所 コーポ レー ト .ガバ ナ ンス 原則 ( 1 )CEOの兼任 の禁止 表 判 いはサービスを提供 ( 4)会社 断に影響 しないo に取締役会 を及ぼす品物 の意見 しない○ ある に めない○ 委員会 指命 .報酬委員会 監査委員会 報酬委員会 監査委員会 指命 .報酬 .コーポ レー ト . 監査委員会 ( 出所)Ar c e l or l 2005] , Ar c e l or Mi t t a l l 2007] , Mi t t a lSt ee l l 2005]を参考 に筆者作成 。 176 神奈川大学大学院経営学研究科 『 研究年報』第1 4号 201 0年 3月 場規則やSEC規則、オ ランダ法、オ ランダ ・コー の存在 は不可欠な もので あるとい うことがで きる ポ レ- 卜・ガバ ナ ンス規 則、 を挙 げて いた。 具 で あろ う。 体 的 なコーポ レー ト・ガバ ナ ンス を考察す ると、 一層型企 業経 営機 構 を採 用 し、取締 役 会会長 と CEOの役割 は分離 していなか った。取締役会 は、 9人 を定員 と し、 その全員が独立取締役で構成 さ 43 M&Aにお ける最善 の コーポ レー ト・ガバナ ンス改革 本拠地が異 な り、準拠法 が異 なる 2つの企業 が れていた。 その構成員 は、4ヶ国の国か ら招樗 さ 合併 す る場合 には、法例 ・規則 等 だけで はな く、 れ、 アル セロールほ どではないが、国際的な視野 文化や歴史、慣習や イデオ ロギーなどさま ざまな を持つ ことがで きた考 えられ る. ミタル スチール 要 因によって構築 されたコーポ レー ト・ガバ ナ ン の取締役 の独立性 の基準 は、 (1)社 内の執行 力 スを統合 す る必要がある。 この よ うな統合作業の の あるポジシ ョンにつ かない、 (2) 経営管理 の 全 ての構成 員 と関係 がない、 (3) ミタル スチ - 過程 では、幾度 に も. わた る国家 レベルでの会議や 調整 な どが実施 されてい る。 その よ うに して、複 ルか らその年間収益の 1%以上 を取引す るあ らゆ 数 の国で構築 されたコーポ レー ト・ガバ ナ ンスを る組織 の執行役 を務 めない、の 3つが挙 げ られ る。 企業 レベルで統一す るには、国家 レベルでの統合 取締役会 内委員会 は、監査委員会 と指名委員会、 と同様 に、幾度 に もわた る合議や調整 が必要 とな 報酬委員会の 3つで あった20。 るのである。 そ して、両社 が合併 して誕生 したアル セロール これ 抜)対 等合 併 は もち ろん、 吸収合 併 や買 ミタル は、本拠地 をル クセ ンブル クに設置 しル ク 収 の場合 に もい え る。立 場 が対 等 で ない に して セ ンブル ク法 に準拠 してい る。 そ して、遵守す る も、吸収 もしくは買収 され る企業 に も、文化や歴 コーポ レー ト・ガバ ナ ンス規 則 にMOU、NYSE 史、制度や慣習、 イデオ ロギーなどは存在す るの 上場規則、ル クセ ンブル クコーポ レー ト ・ガバ ナ で ある。 その環境 が急激 に変化す ると少 なか らず ンス原則 を挙 げてい る.具体的 なコーポ レー ト・ 内部 か らの反発が生 じる。 これ を最小限 に抑制す ガバ ナ ンスを考察す ると、一層型企業経営機構 を るため に も、 入念 な合 議 や調整 が必要 なの で あ 採 用 し、取締 役 会会 長 とCEOの役 割 は分離 して る。先 に挙 げたダイム ラークライス ラーの対等合 8人 い る。取締 役 会 は、 アル セ ロール と同様 、1 併 の よ うに、内外 に対等で あることを公表 しつつ を定員 とし、 その全貝 が独立取締役で構成 されて も、実質的なダイムラーの支配 によって クライス いた。 アル セロール ミタルの取締役の独立性 の基 ラ-部門 とダイムラー部門の連携 が取れ な くなっ 準 は、 (1)CEOの兼任 の禁止 、 (2)NYSEの独 て しまった例 があるO ダイムラー とクライス ラー 立性の基準 、(3)ル クセ ンブル ク証券取引所 コー では、両社の文化 が極端 に異 なるに もかかわ らず、 ポ レー ト.ガバ ナ ンス原則、の 3つ が挙 げ られ る。 ダイムラー部門 とクライスラー部門の経営者 を分 取締役会 内委貞会 は、監査委員会 と指名 ・報酬 ・ け、 それぞれがほぼ独立 して経営 していた。 この コーポ レー ト・ガバ ナ ンス委員会の 2つ がある21. よ うな状況 の なか、 ダイムラ-クライスラーが失 アル セロール ミタルのコーポ レー ト・ガバ ナ ン 敗 に終 わって しまった ことか らも、企業 内では合 スは、本社 を設置 したアル セロールの コーポ レー 議 や調整の うえで統制 され ることが重要で あると ト ・ガバ ナ ンス を基 に、MOUに よって規 定 され 考 え られ る。 てい る。MOUはアル セ ロール と ミタル スチ ール その方 法 と して、 アル セ ロール ミタル のMOU がM&Aを行 う際 に合議 の もとで決 定 され た もの の よ うな両社の合意の もとで作成 された企業独 自 で あ る.つ ま り、MOUに よって、両社 の コーポ コーポ レー ト・ガバ ナ ンス原則 を新 たに策定す る レー ト ・ガバ ナ ンスの調和 が図 られてい るので あ ことが必要 で あ ると考 え られ る。EUが地域 レベ る。 アルセ ロール ミタルのM&Aにおいて、MOU ルの コーポ レー ト・ガバ ナ ンスの調和 を進 め る際 EUにおける経営統合 とコーポレー ト・ガバナンス 1 77 図3巨∪と企業のM&Aにお けるコーポ レー ト・ガバナ ンスの調整 EU 国 レベル 合議 調和 地 域 統 一 ( 出所)著者作成。 に も、EU内での最低 限の基準 を定 め るこ とを 目 し、 その設立方法の 1つ の合併 が含 まれた ことか 標 とした。地域 レベルでの コーポ レー ト・ガバ ナ ら、EUにおい て ク ロス ボ ー ダ ー M&Aが盛 ん に ンスの統合 と同様 に、企業 がM& Aに伴 って コー なった. そ こで、 クロスボーダ ーM& Aに よって ポ レー ト・ガバ ナ ンス改革 が必要 とされ る場合 は、 新た誕生す る企業 におけるコーポ レー ト ・ガバ ナ 企業 内で独 自の基準 を定め、 コーポ レー ト・ガバ ンスをどの よ うに構築す るのか、 とい う問題 が生 ナ ンス原則 として文書化す ることが必要 なので あ じたので ある。 る。 実際に企業 では、両社の よ り厳 しい規定 を採用 す ることで新 しいコーポ レー ト・ガバ ナ ンスを構 5 おわ りに 地域統合 に関す る研究 はい まだ発展途上で あ り、 築 した り、両社間で コーポ レー ト・ガバ ナ ンスに 関す る合意文書 を作成 し、原則化す ることで、コー ポ レー ト・ガバ ナ ンスを調整 していた。 また、サ 地域統合 その ものに対 して も意見の割れ るところ ノフ イ ・アベ ンテ イスに関 して は、M& Aに国家 で ある。論者 によっては、地域統合 をブロ ック経 が介入す るなど、国家 レベルの利害 が関わ ってい 済の よ うなネガテ ィブな もの として とらえ、地域 ることが明 らか となった。 そ こで、筆者 は、国家 統合 をまるで悪 の よ うに論 じてい る。 しか し、筆 によ る介入 は、市場 の公平性 を侵 す もので あ り、 者 の考 える地域統合 は、経済発展 をために地域 が 厳 に慎 まなければな らず、 それ を地域統合 を進め 協調 し、 よ り国際的な地域経済 を創造す るもので ることによって解決す ることがで きるで あろ うこ なければな らない 。 その ような意味で、地域統合 とを明 らかに した。 また、 M&Aの際の コーポ レー は、 グローバ リゼーシ ョンを段階的に達成 しよ う ト ・ガバ ナ ンス問題 に対 して は、両社 間で合議 ・ とす るもので あ り、統合地域 が複数出現す ること 調整 の もとで コーポ レー ト・ガバ ナ ンス原則 を策 で各統合地域 がグローバル な視点では さまざまな 定す ることで円滑 にコーポ レー ト・ガバ ナ ンスを 制度 を調和す ることにつ なが るので ある。 構築す ることがで きることを解明 した。 EUで は、 地 域統 合 が進 み EUが単 一 市 場 を完 成 させ るとM& A増加 した。 その性質 は、 は じめ はアメ リカ企業 によるEU企業 の買収 で あったが、 その後EU企業 はアメ リカ企業 に対抗 して、 アメ リカ企業 にM& Aを仕掛 け るよ うにな った。 さら に、欧州株式会社法 によって欧州株式会社が誕生 1 7 8 神奈川大学大学 院経営学研究科 『 研究年報』第 1 4 号 勤草書房. 注 】 奥村唯一【 2007 『 グローバル資本主義 と巨大企業 1 本稿 で は、M&Aは敵対 的買収 を含 む買収 ・ 2001 『 グローバ リゼーシ ョ 加藤義菩 ・青木一能 【 2 小島大徳 【 20041 は、 コーポレー ト・ガバ ナ ン ス原則 とは、 「 企業 の コーポ レー ト・ガバ ナ ンス構築 を目的 として、経営者 が企業の利害 関係者間の利害調整 を行いなが ら、健全で効 世 紀世 界 の経済 ・政治 ・社 ンの光 と影-21 会-』文異堂. 】 2 008 『 企業の責 厚東偉介 ・平 田光弘 ・菊池敏夫 [ 任 ・統治 ・再生』文具堂. 】 率的な企業経営 を行 える企業構造の一形態 を 2 009 『 企業経営原論』税務経理協会 . 小島大徳 [ なす もの」で あると定義 してい るO小島大徳 小島大徳 【 2 008 a 汗EUの企業行動 と企業統治改革 」 【 2004】 1 87頁. 「 東 ア ジア共 同体 首相 が講演 」『朝 日新 聞』 2009年11月1 6日付。 4 鈴井清巳 [ 2005】 92 頁. 5 合併』 日本経済評論. 】 合併 を意味す る。 3 2 0 1 0 年 3月 た とえば、小島大徳 【 2007] 215頁. などが挙 げ られ る。 6 小島大徳 【 2008a] 89頁. 7 奥村暗-【 2007】 256 257頁. 8 奥村暗-[ 2007】 398頁. 9 奥村暗-[ 2007] 206 208頁. 1 0 Eur o pea nCommi s s i on【 2001 a】 ll European Commi ssi on【 2001a】 Ti t l e Ⅱ, Fo r ma t i on. 『 企業の責任 ・ 統治 ・ 再生一 国際比較の視点-』 78 95頁. 文具堂 , 】 2008 b 「自由の対立 小 島大徳 【 」『国際経営論集』 第36号, 神奈川大学経営学部, 11 9 1 34頁. 】 小邑木徳 【 2 00 7 『 市民社会 とコーポ レー ト・ガバ ナ ンス』文具堂. 2 004]『 世界の コーポ レー ト・ガバ ナ ン 小島大徳 【 ス原則一原則の体系化 と企業の実践-』文英 堂.、 ∴ 、 」『総合政 信夫隆司 [ 2 004] 「コへインの国際制度論 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