...

マイクロ波ドップラーセンサデータに基づく人の転倒検知に関する統計的

by user

on
Category: Documents
28

views

Report

Comments

Transcript

マイクロ波ドップラーセンサデータに基づく人の転倒検知に関する統計的
マイクロ波ドップラーセンサデータに基づく人の転倒検知に関する統計的研究
Statistical detection of human falls based on the microwave Doppler radar data
中央大学大学院 理工学研究科 経営システム工学専攻
福元 啓祐
1. 研究背景・目的・先行研究
近年、核家族化、独居世帯の増加に伴い、高齢者が家庭内で単独で生活するという状態が増えつつある。特に、
近年、独居老人の増加が顕著で、社会問題として独居老人の孤独死があり、また、高齢者の転倒のうち3分の2
は怪我をするという国の調査結果がある。単身の時に、転倒が起こってしまうと、一人ではカバーできずに生命
や身体への影響を及ぼす可能性が大いにある。
このことからも転倒という状態を検知でき、
早期発見することで、
孤独死の減少や、身体異常の悪化などを防げるのではないかと考える。
先行研究とし、次のものがある。齊藤ら(2008) は、赤外線センサを格子状に配置し、人の状態推定をおこなっ
た。Liang Liu et al. (2011) は、2つのマイクロ波ドップラーセンサを用い、パワースペクトルの最大の箇所を
転倒位置として検出する研究を行っている。ただ、一つのセンサによる横向きの転倒検出は極めて低い。
以上の社会背景から老人ホームにおいて赤外線センサを用い、ベッドからの転倒の検知、トイレでの転倒の検
知等行われているが、場所やシュチエーションが限定的で、赤外線外や家具等の物体の影では検知ができない問
題点がある。また、マイクやビデオカメラ等を使用し、対象者を直接観察する方法も提案されているが、プライ
バシーの観点から本研究では見守りシステムには適さないと考えられる。
本研究は、プライバシーの観点や生活環境を考慮し、赤外線センサなどの他センサと比べ広範囲を検知できる
マイクロ波ドップラーセンサを用いた研究を行った。また、電力問題やコストの観点から一つのマイクロ波ドッ
プラーセンサを用いて転倒を検知する方法の検討を行う。 転倒という突発的事象は、データとして得られる周
波数が非定常なデータになっていることに着目し、通常、定常があるか否かを検定するために用いられる単位根
検定を使って、非定常部位を抽出し、転倒部位の推定を行う。
2. マイクロ波ドップラーセンサとは
マイクロ波ドップラーセンサとは、マイクロ波を放射し、何かしらの物体から反射して返ってきたマイクロ波を
受信し、送信波と受信波との周波数のずれ(差分)を電気信号として出力する装置である。送信波と受信波のず
れは、人や物体等が動いた際に送信波の周波数がずれることにより生じる。
図1.マイクロ波ドップラーセンサ概念図
出力するマイクロ波には、金属や水等を除く物体を透過する特徴があり、木製の家具やイスなどの日用品で遮
蔽されていても検出することが可能である。ただし、マイクロ波ドップラーセンサ単体では、指向性を持たず、
観測対象の方向等の把握は困難である。
通常の電波式センサと異なる点は、マイクロ波ドップラーセンサは、位相が90度異なる2つの信号(I信号、
Q信号)を送受信する点である。このことから、観測対象がセンサに接近しているか、離反しているかがわかる。
また、
マイクロ波ドップラーセンサの送信波は同心円状に放射されることから、
対象物の距離や面積によって、
得られるデータの強度が異なる。このことから、離れれば離れるほど同心円状に広がる電波が薄くなり、得られ
るデータの電波強度が弱くなる。また、観測対象の面積が小さければ同様に得られるデータの電波強度が弱くな
る。これを補正するため、本研究では電波伝搬減衰を当てはめることで電波強度の強弱の補正を行う。
3. 理論
本章では、本研究で行っている数理手法について概説する。
3.1 単位根検定
時系列データの解析で、定常である単位根があるか否かを調べることから、データの周期が定常か非定常なデ
ータであるかを検出できる。 通常、単位根検定はモデル化を行うために、定常部分に着目し、定常か否かを検
定する手法であるが、本研究では、転倒という突発的な事象の検知を目指すことから非定常部分に着目する。
○ADF 検定(Augmented Dickey Fuller Test)
次の yt が帰無仮説と対立仮説両方のもとで、
p
yt   i yt i   t ,  t ~ i.i.d (0,  2 )
(3.2.1)
i 1
という、AR(p)過程に従うことが仮定される。
単位根の帰無仮説を検定するために(3.2.2)を検定する必要がる。
1  2     p  1
(3.2.2)
そこで、(3.2.1)を変形したモデルを推定する。
p 1
yt  yt 1    i yt i   t
(3.2.3)

  1  2     p


 k  1  2     p , k  1,2, , p  1
(3.2.4)
i 1
と変形したモデルを推定する。
(3.2.4)に注意すると、単位根の条件式(3.2.2)は   1 であることと同値となる。
のとき、(3.2.1)の
  1AR(p)過程は定常となる。
H 0 :   1 を H1 :   1 に対して検定するという形で単位根検定を行うことができる。
3.2 サポートベクターマシン(SVM, Support Vector Machine)
SVMは、教師あり学習を用いる識別法の一つで、パターン認識の能力において最も優れた手法の1つである
と考えられる。未学習であっても、判別能力が高い。SVMは2つのクラスを識別する識別機を構成するための
学習法で、多クラスの識別機を構成するためには、複数のSVMを組み合わせる必要がる。
線形分離可能な問題にのみ適応可能である線形SVMは次式で定義される。
f x   sign(wT x  b)
g x   wT x  b
(3.5.1)
(3.5.2)
(3.5.2)におけるベクトルwとbは、識別関数を決定するパラメータであり、学習によって決定する。g(x)<0のとき、
sign(g(x))=-1をとり、 g(x)>0のとき、 sign(g(x))=1をとる。また、g(x)=0のとき、識別境界を表す。SVM は,
マージン最大化という考え方に基づいて学習を行う.マージン最大化とは,データを2 種類に分類する際,各デ
ータ点との距離(マージン)が最大となる分離超平面が最も汎化能力の高い分離超平面であるとする。
4. 実験と提案手法
データとして、歩行時の転倒、直立からの転倒、
(転倒は前向きと、後ろ側に尻餅)転倒と似た行動として、歩
行からのベッドへの寝そべり、
直立からのベッドへの寝そべりという行動と、
センサに正対した向きで接近方向、
離反方向及び、横向きの行動のデータを500Hzのサンプリング周波数で取得した。観測対象者はセンサから
約2m、約4mの位置で行動。なお、高齢者を模擬するため、高齢者キットを装着し、前傾姿勢で、足腰の稼働
領域が狭くなるようにして、データの取得を行った。 生データの分散を取り、対数を取ったものに、電波伝搬
減衰を当てはめる(図3)
。図3の黒線は対数をとったデータで、赤の破線が電波伝搬減衰を当てはめたものであ
る。補正後、差分をとる。ドップラーシフト、周期の計算をすることで、観測対象の速度を求める。
得られた速度に対して、350のサンプルデータずつ、単位根検定を行う。得られた結果(図5)から、ピー
クの高いところを中心に、前後2秒の範囲の生データの最大振幅、尖度、歪度を特徴量とし、SVMで分類を行
う。2人のデータのうち一人を学習データとする。
図2.歩行時の転倒(センサーへの接近方向)の生データ
図4.ドップラーシフトを用いた速度
図3.電波伝搬減衰の当てはめ
図5.単位根検定の結果
5.結果と考察
転倒の認識率が 80.5%、寝そべり 100%という結果が得られた。従来の手法では、マイクロ波ドップラーセン
サを2つ用いて 90%を超える検出率を達成していたが、本研究では一つのマイクロ波ドップラーセンサを用いて、
この結果を得ることが出来た。
観測対象がセンサ向きとセンサに対して逆向きでの転倒における単位根検定は、転倒時に、非定常の結果が得
られた。一方、センサに正対せず、横向きの転倒では、マイクロ波ドップラーセンサが同心円状にマイクロ波を
放出するという性質から、非定常の結果が得られないところもいくらかあった。センセの放出する電波に対して
横向きの際は、単位根検定のサンプル数を300~250にすることで、非定常の値を得ることができた。ただ、
サンプル数を小さくすると、様々な動きも非定常として出てくる欠点がある。ただし、その際の p 値は低い。
この横向きでの転倒の検知というのが、今までの先行研究では、報告されておらず、その点において、本研究
を適用する利点があると考えられる。
ただし、
転倒の認識率を悪くしているのがセンサの放出する電波に対して、
横向きの転倒なので、改善する余地がある。
また、SVMで特徴量を取得する際、転倒位置の前後2秒で計4秒分をとるのは、寝そべりの時間を考慮し、
とっている。この前後2秒という間隔を変えることで、最適な箇所を取ることができ、認識率が向上する可能性
があるのではないかと考える。
また、SVMの特徴量もいくらか認識率向上につながるものが残っている可能性があるので、今後の課題とした
い。
謝辞
本研究を行うにあたり、様々な方の多大なるご協力、ご厚意により修士論文の完成に至りました。ご多忙の中、
温かくご指導頂きました鎌倉稔成教授には心より感謝致します。小椋透先生、大草孝介先生をはじめとした鎌倉
研究室の方々、参加させていただいている共同研究先の沖電気工業株式会社の方々には、ご助言、ご指導をはじ
め様々なご協力をしていただきました。
また、日常生活を支えてくださった、家族や寮の方々、ここに書ききれなかった方々を含め、皆様と出会えた
ことで今の私があると思っております。皆様に出会えたことで、貴重な学生生活を送らせていただけたことに心
より感謝します。
参考文献
[1]
Liang L., Mihail P., Marjorie S. and Marilyn R., “Automatic Fall Detection Based on Doppler Radar
Motion Signature”, Pervasive Computing Technologies for Healthcare (Pervasive Health), 2011 5th
International Conference ,222-225 ,22-25 May 2011
[2]
齊藤 光俊, 北園 優希, 芹川 聖一,”赤外線センサを格子状に配置した人物状態推定センシングシステムの
開発”, 電気学会論文誌E(センサ・マイクロマシン部門誌) Vol. 128 (2008) No. 1 P 24-25, 2008
[3] Okusa, K., Kamakuta, T., and Murakami, H. (2010). A Statistical Regis- tration of Scales of Moving
Objects with Application to Walking Data(in Japanese). Bull. the Japanese Soc. Computational Statist., 23,
2, 97–111.
[4] 内閣府,”平成 22 年度高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果”,2010
[5] Christopher M. Bishop, 元田浩, 栗田多喜夫, 樋口知之, 松本裕治, 村田昇, 2007, “パターン認識と機械学習
上・下巻”, シュプリンガー・ジャパン株式会社
[6]沖本竜義,”経済・ファイナンスデータの計量時系列分析”, p.104~p.123
Fly UP