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Title 子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題 : 広汎性発達

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Title 子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題 : 広汎性発達
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子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題 :
広汎性発達障害の二次的障害への援助を中心に
須田, 誠(Suda, Makoto)
慶應義塾大学大学院社会学研究科
慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要 : 社会学心理学教育学 : 人間と社会の探究 (Studies in
sociology, psychology and education : inquiries into humans and societies). No.58 (2004. ) ,p.7781
Departmental Bulletin Paper
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN0006957X-00000058
-0077
子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題77
②世帯外のネットワークの規模が大きいほど,母親の育児不安度が低くなる。
③ネットワークの密度は,カーブ効果を示す。
④リスクファクターがあるとネットワーク構造の力(特に密度)は高まる。
以上のことから,母親の育児不安度を改善するためには〆母親だけが育児を行うのではなく、父親や
世帯外のネットワークが育児をサポートする体制を整えることが求められるといえる。特に,子どもが
病気がちであったり反抗期であったりと,育児のストレッサーが強い状況(リスクファクターがある)
において,父親や世帯外のネットワークからのサポートが必要になることが示唆された。
4.結論
直接効果の仮説は世帯外ネットワークの構造に関わるものであり,緩衝効果は父親の育児参加,三世
代世帯ダミー,世帯外ネットワークのすべてに関わるものである。
世帯外ネットワークについてみると,規模が大きいほど,そして密度が中程度であると母親の育児不
安が低い,すなわちネットワークのサポート効果が高い。このため,ここで働いている力は,ソーシャ
ル・サポート効果だけでも社会的資源効果だけでもなく,合成効果であると考えられる。
また,リスクファクターがないときよりもあるときの方が,父親の育児参加,三世代世帯ダミー,世
帯外ネットワークの規模と密度の係数の絶対値が大きい。すなわち,リスクファクターがあるときに、
育児ネットワークは強いサポートカを発揮している。このため,緩衝効果もあるといえる。
*第一生命経済研究所副主任研究員
子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題
一広汎性発達障害の二次的障害への援助を中心に−
須 田
誠*
1.発達障害の二次的障害
発達障害は,生まれついての中枢神経系の障害であり,正確には広汎性発達障害(PervasiveDevel‐
opmentalDisorder:PDD)と呼ばれている。ここに自閉I性障害(AutisticDisorder:いわゆる自閉症)や
アスペルガー障害(Asperger'sDisorder:AS)が含まれる。これらの障害の中でも,知的な発達の遅れが
ない場合(おおよそIQ70以上)は特に高機能広汎性発達障害(High-FunctioningPervasiveDevelop‐
mentalDisorder:HFPDD)と呼ばれる。ASは一般に知的な遅れがなく言語が獲得されているため,
HFPDDと言える。
軽度の自閉症やASなどのPDDは,コミュニケーションを取ることが困難であるため対人関係がう
まく築けない,共感性や想像力に乏しい,常同反復的行動を取るなどといった特徴があるとされている。
尚,近年マスコミで取り上げられることの多い,注意欠陥/多動‘性障害(Attention-Deficit/Hyperac‐
tivityDisorder:ADHD)や行為障害(ConductDisorder:CD)は特定不能の広汎‘性発達障害(Pervasive
DevelopmentalDisordersNotOtherwiseSpecified:PDD−NOS)に含まれる。
78社会学研究科紀要第57号2004
今回の研究では特にHFPDDを取り上げた。HFPDDの子どもは,学校などの準拠集団への適応上,
多大な困難を持つ。学校適応の失敗は,二次的な障害として,社会性の欠如や自尊心/自己効力感/気力
の低下を招き,いじめ/学力低下/不登校/非行などを増悪させる。さらには,職場での不適応につなが
り,ひきこもりや無為な生活を増悪させる。
今回の研究報告では,HFPDDの子どもと青年がどのような二次的障害に苦しみ,どのように治療の
場に現れ,どのように援助が進むのかについて,具体的に報告する。
2.高機能広汎性発達障害者へのインタビュー
本研究は,まず,HFPDDの子どもと青年の家庭や学校での生活の実態を把握することで,その援助
の在り方を検討することとした。
方法は,関東郊外の精神科診療所に定期的に通院しているPDDと診断された患者13名に,2003年
9月から2004年1月までの期間に,インタビュー及び行動観察を行うというものであった。各患者へ
のインタビューは1回約1時間で,主に家庭と学校/職場のことを質問し,1回から2回行われた。さら
に,彼等が受診した際には,受付/カウンセリングやデイケア参加/診察/会計に至るまでの診療所内で
の行動観察を1回から2回行った。また,他の医療スタッフによる診療録への記録も参考にした。対象
となった患者は全て診療所内の医師による診察および心理・福祉・看護スタッフによるカウンセリング
やデイケアに参加中であり.さらに外部専門機関の支援も受けており、インタビューおよび行動観察に
際しては,これらの治療関係を壊さないよう心掛けた。
患者13名(男性:11名,女性:2名)は,全員が15歳以上で,10代が5名,20代が6名,30代
前半が2名であった。全員が普通高校に進学経験があるが,3名は中退している。4年制大学卒が1名,
短大卒が1名,専門学校卒が2名である。就労経験がある者は7名で,そのうち2名が仕事を続けてい
る。全員が恐らくHFPDDである。「恐らく」と述べたのは,全員が,本人や家族の拒否のため知能検査
や神経心理学的検査を受検しておらず,その生育歴や行動から「おおよそIQ70以上であろう」と推測し
たからである。
尚,一般にPDDの患者は,学校や職場への適応に挫折し,その後,生活に困窮して障害者年金を申請
する者も多い。その際,知能水準の把握が必要な場合があり,知能検査を受検するに至って,改めて自
らの能力や障害の受容や否認がなされることも多い。
3.高機能広汎性発達障害者の生活や治療の特徴
13名の患者はそれぞれ多様な生活を送っているのだが、全員に共通していたのは次の11点である。
1.家族から専門機関にかかることを勧められなかった。
2.家族から疎ましがられていると訴える。
3.学校や職場でのいじめられた体験を訴える。
4.複数の専門機関にかかったことがある。
5.抑うつ/不安/パニック/強迫,時には被害念慮や妄想様体験がある。
6.薬物療法が必要である。
7.自発的・率先的に暴力や反社会的行動を取ったことはない。
8.仲間(スタッフや患者)と会話や活動を共にするために受診をしている。
子どもから大人への移行期に生じる心理社会的問題79
9.デイケアやカウンセリングのスタッフや場所に依存的になっている。
10.「学校に満足に通えない/仕事も満足にできない自分」は無価値だと訴える。
11.「恋人もできない/結婚もできない自分」は無価値だと訴える。
上述の11点に関して,lおよび2では家族関係の問題が現れている。ここには遺伝的要因の問題も
含まれており,HFPDDの家族は同じような行動の傾向を持つ者がいる場合が多いので,HFPDDの行
動を「軽く」「当たり前」「我慢できること」等と見なすことがあるため,家族から障害に対する理解が
得られにくいことがある。
3は学校現場の難しさが現れている。教職員は校内のカリキュラムをこなすことで手いっぱいである
ことと,学校現場ではHFPDDに対する理解がまだまだ乏しいという問題がある。
4および5ではHFPDDの症状の問題が現れている。教育相談所や一般精神科においてすらHFPDD
に関する認識がまだまだ乏しく,加えて,HFPDDの中には強迫性障害(Obsessive-CompulsiveDis‐
order:OCD)や分裂病型人格障害(SchizotypalPersonalityDisorder:SPD)や妄想性障害(Delusional
Disorder)や統合失調症(Schizophrenia:これまでの精神分裂病)で見られる精神症状を示すことがあ
り,加えて,HFPDDの中には頑に心理検査を拒否する者もいるため,鑑別しがたい場合も多いのであ
る。また,ここにはコミュニティの問題も含まれており,HFPDDに対する教育相談所や保健センター
や病院などの各種専門機関での連携ネットワークが作られていないという問題もある。
6は精神療法の限界の問題である。検査や薬物も含めた治療へのコンブライアンスを良くするために
も受容的な個人精神療法が必要である。抑うつ/易怒/強迫には薬物療法も必要であるが,今回の13名
の患者には,抗精神病薬であるリスペリドンやSSRI系の抗うつ剤が有効であった。
7は司法精神医学に関することである。ADHDやCDなどのPDD-NOSと反社会性人格障害(Antiso‐
cialPersonalityDisorder:ASPD)は関連しており,これらの障害と犯罪や暴力が関連しているという
報告もある◎社会学的な定義による人間行動を精神医学がどのように取り扱うかについては,慎重な議
論が必要である。尚,今回の13名の患者に関しては,「反社会的」であるというよりも「非社会的」な
印象の者が多かった。人格の問題としてとらえるならば,ASPDというよりもSPDの印象である。
8と9は対人関係にまつわることである。対人関係に問題を持つとされるHFPDDだが,二次的障害
である孤独感からの回復のためには,人との関わりが有効であり,彼等の治療において受容的な個人精
神療法の持つ意味が大きい。
10と11は二次的障害の問題ではあるが,人間のライフコースにおける学校に通うこと/仕事をする
こと/恋愛をすることの意味に関連した問題である。
4.ひとつの事例
上述した高機能広汎性発達障害者の生活と治療の特徴を具体的に知るために,代表的な事例を紹介す
る。尚,事例はプライバシー保護のため,若干のプロフィールの変更がなされている。
事例:Aさん(27歳の男性)。言語発達に遅れはなく,手のかからない子どもだった。不器用ではあっ
たが,幼稚園から小学校低学年まで特に問題なく過ごした。しかし,小学校高学年になると,順番やルー
ルに厳しく一方的に自分の話ばかりするため,友人ができず,孤独な学校生活を過ごすようになった。
中学校では級友から暴力を伴う過酷ないじめを受けた。担任の勧めにより教育相談所にかかったが,相
談員に「個性的なお子さんですね。大丈夫ですよ」と言われて終わってしまった。Aさんは勉強に励み,
80社会学研究科紀要第57号2004
もともと得意だった数学や理科や社会の成績はますます上がった。普通科高校に進学後も,学校では級
友に「テレビに出ているインチキ宗教家に似ている」等とからかわれ,家庭では母親や兄弟に「目つき
が気持ち悪い」と疎ましがられる生活が続いた。大学では経済を学び,課題やレポート提出に際しては,
仲間もおらず要領も悪いのでかなり手こずったが,なんとか卒業し,半官半民の企業に就職した。入社
後3年経過しても仕事で応用がきかず,急に新しい仕事を頼まれたり,同時に複数の仕事を頼まれると
パニックを起こして、職場を飛び出してしまうこともあった。職場の同僚や上司から「クズ」「頭がおか
しい」と言われるようになり,辞職も考えたが.両親がそれを許さなかった。Aさんは夜も眠れず.「会
社の奴らの笑い声が聴こえる」「今と中学時代を混乱する」などと訴えて会社を休むようになり,最終的
には解雇されてしまった。その後,ひきこもり生活が始まり,ついには家族に連れられて総合病院の精
神科を受診したoその際の本人の主訴は「一人でいると頭が痛くなる」というものであったが,同時に
妄想様体験/喚覚過敏/洗浄強迫などが確認され,統合失調症の疑いのまま病名未定の状態が続いた(保
険診療上は「うつ状態」としてSSRI系の抗うっ剤が処方された)。その後,その病院の医師との関係が
悪くなり.別の診療所に移ったが,その頃には抑うつや強迫は落ち着き、心理士による精神療法では
これまでの不満を興奮して訴えるようになった。知能検査等の受検は拒否したが,生育歴や行動観察を
参考に,PDDと診断された。受容的な個人精神療法の中でAさんが怒りを見せることは少なくなり,逆
に,涙ながらに「寂しい。親に再就職と結婚を迫られても,どこか他の人と違う自分には無理だと思う。
友達が欲しい」と訴えるようになった。統合失調症の寛解期の患者が多く参加するデイケアをすすめら
れたが,「自分はあの人たちとは違う」と言って断った。その後,無気力がひどくなり,無為な生活をし
ていたが,精神障害者の作業所に通うようになった。最初はそこでの単純作業をバカにして通所をため
らったが(後に「本当は不器用のためボールペン組み立ての作業が他の通所者と同じくらいにしかでき
なかったのがショックだった」と告白した),無為な生活からの脱出を決意して,現在では休まずに作業
所に通うようになった。最近では,「自分は普通の職場では働けない。将来的には親を説得して,障害者
年金を申請しようと思う」「診療所に来ると,心理士だけでなく、受付の人や看護婦さんも立ち話に付き
合ってくれるので安心する」等と語るようになった。こうしたAさんの変化を受けて、現在では、医
師・看護・心理・福祉スタッフなどの組織内連携,診療所.保健センター.役所福祉課.作業所などと
の組織間連携,そしてAさんの家族に対する働きかけを強めている状況である。
5.今後の研究に向けて
コミュニケーションを取ることが困難であると言われるHFPDDだが,受容的な個人精神療法の持つ
意味は大きい。彼等が自分のペースとルールでゆっくり話をし二次的障害から生まれる感情の意識化
と言語化が効果的になるような,個人精神療法の構造を作り出す必要がある。また,HFPDDの問題は
心理士ひとりが解決できるようなものではない。コミュニティ心理学における臨床心理学的地域援助の
視点が必要である。
さらに,社会的な現象や行動を精神医学的診断に用いることについて,特定の疾患や障害の情報が流
通する社会学的なプロセスについて、そして,障害を持った人間がそのライフコースにおいて学校に通
うこと/仕事をすること/恋愛をすることの心理学的な意味や社会学的意な意味について検討が必要で
ある。
今後は、様々な知見を用いて,HFPDDのひとりひとりが,様々な個人や組織と関わりながらどのよ
日本家族社会学の社会学
8
1
うに生きるのかという人生設計の課題を援助する必要がある。
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*慶雁義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻
日本家族社会学の社会学
−小山隆とアメリカ社会学との関係から−
水 野 宏 美 *
1.問題の所在
20世紀を終え,[1本の家族研究は戦後の膨大な研究蓄積を整理する時期にある。戦後の展開を振り
返ってみると,家族の実証研究の前提となる家族概念および家概念をめぐっては概念的諸議論があり,
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