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han sungmin_5
特別支援教育センター研究紀要,5 ,39―46(2013)
資 料 点字ディスプレイとノートテーカー※
韓 星 民※※
活字へのアクセスが困難な視覚障害者に ICT 技術は多くの恩恵をもたらした。
中でも,点字ディスプレイやノートテーカーは,点字使用可能な視覚障害者にとって点
字による情報処理を可能にさせて意味で大きな意義をもつデバイスとして現在も多くの学
生や研究者が活用している。今後,教育道具として,そして電子教科書の表示装置として
の可能性もある支援機器の概要を理解し,教育現場での活用方法に関する実践的研究が望
まれている。
ただ,点字ディスプレイやノートテーカーは,教育現場で必要とされるデバイスである
にもかかわらず,点字が使えない指導者にとっては,どのような動きをしているのか全く
うかがうことのできないブラックボックスとして認識されて来ていたのも事実である。
本稿では,点字ディスプレイとノートテーカーの用語を整理し,学習補助具としての役
割からコミュニケーションエイドへと進展しつつある現状について現象学的・生態心理学
的視点で考察を深める。
視覚特別支援学校をはじめ,福祉関連分野の視覚障害児者の支援業務に携わる方々が,
学習補助具としてコミュニケーションエイドとして進展しつつある,点字ディスプレイや
ノートテーカーについて正しく理解し,教育や福祉場面で活用されることが今後の課題と
なっている。
はじめに
印刷文字にアクセス困難な視覚障害者にとって
ICT 技術は印刷文字へのアクセスを可能にしただ
けでなく,情報入手のためにさらなる活用が期待
されている。インターネットをはじめとするおお
くの情報が電子文章化されており,支援機器を使
用したアクセスが可能になりつつあるが,アクセ
ス困難なフォーマットやデジタルデバイド現象が
生じているのも問題点として残る。
ICT 技術は CUI 技術から GUI → NUI と変化し
ている。GUI の環境下ではマウスをはじめとす
る便利なインターフェースが広く用いられてい
る。視覚障害者にとってパソコンのスクリーンに
表示される情報を出来るだけ受け取るための技術
が研究開発されている(浅川 2002)
。中でも言語
情報はスクリーンリーダーや点字ディスプレイ,
※ Braille Display and Note Taker
※※ 福岡教育大学教育総合研究所附属特別支援
教育センター第 5 部門
― 39 ―
画像などは触覚ディスプレイが開発されている。
日本で点字読み可能な視覚障害者は視覚障害者
全体の 1 割とされており,点字ディスプレイの利
用には点字読み可能な視覚障害者が条件となる
が,スクリーンリーダーは中途失明の方にも,比
較的簡単な訓練により用いる事が出来ることか
ら,ICT 利用のためには点字ディスプレイと共に
大変重要なツールとなっている(石川 1999,石
川 2004)。
本稿で取り上げる点字ディスプレイは普通のコ
ンピューターの利用が可能なユーザーが多く用い
ている事から,ICT の普及が点字ディスプレイの
普及にも大きく関わっている事が分かる。そし
て,点字学習用として使っているユーザーもいる
が,基本的には点字読み可能でパソコン利用可能
な視覚障害者が多く用いるものとなっている。
点字ディスプレイによってはそれ自身が情報処
理可能な製品になっており,点字ディスプレイを
知る事は視覚障害児者の情報入手の一側面を理解
する事ができ,高度化・複雑化する視覚障害関連
韓 星 民
支援にも役立つと考えられる。
点字ディスプレイは触覚(点字)を用いた視覚
代行支援機器として,感覚代行分野でも古くから
研究されているが,点字が読めない限り点字ディ
スプレイを正確に理解する事は困難なため,点字
ディスプレイで行う情報処理について概観し,現
在日本の点字ディスプレイユーザーの活用状況に
ついてインタビュー調査し,その結果を基に分析
を深める。
パソコンを使った音声による情報処理が比較的
簡便に行えるようになっているが,文字情報処理
が必要とされる分野では今後もその役割が期待さ
れ,高機能な製品が続々と登場している。
ために果たした役割は否定できるものではない
が,点字利用の形態は初期に比べ ICT の影響も
あり,電子化・機械化が進んでいる。
1.文字としての点字
点字が視覚障害者の生活文化・地位向上に及ぼ
した影響は計り知れない(本間 1951)
。
点字は 6 点の凹凸からなる文字である。目で読
む事も可能だが,基本的には,視覚障害者が人差
し指の末端を使い点のオンオフの組み合わせのパ
ターン(符号)を文字として使用しているもので
ある(広瀬 2009)。
触覚による読み書きに適した文字として提案さ
れた点字は視覚障害者のルイ・ブライユによって
考案され,現在世界各国の文字に 6 点の組み合わ
せでそれぞれの国の言葉に対応させている(広瀬
2010)。
点字学習はパソコンを使った音声による情報処
理に比べ,難しい側面を持っている。特に韓(韓
2010a )は,点字は幼少期に学習を始める重要性
について述べており,点字学習開始時期が点字読
みスピードに大きく影響すると述べている。
点字学習の難しさから音声による情報提供を
勧めていたアメリカも点字の重要性を再認識し,
1990年代以降,点字の普及に力を注いでいる。ア
メ リ カ の BRL( Braille Readers are Leaders )
プログラムによると,アメリカで就職を果たした
ブラインドの85%が点字読み可能な視覚障害者
であり,点字の読み書き可能な視覚障害者は学習
面だけでなく生活面の適応能力も高いと考察して
おり,点字の読み書き能力は学生生活において,
もっとも重要なポイントの一つになると報告して
いる(韓 2010b )
。
点字が視覚障害者の情報コミュニケーションの
2.紙点字からペーパーレス点字へ
初期の点字は,点筆という先が尖った鉄棒で,
点字盤という規格化されて点の凹みの上に置かれ
た,紙に力を加え,紙の膨らみで点を表現したも
のである。点字盤や点字タイプライターは教育現
場では現在も多く用いられているが,点字プリン
ターの登場で,点字の多量印刷が可能になってい
る★01。
点字ディスプレイは,パソコンに接続し,文字
情報を点字変換し表示する機器として開発された
ため,初期はパソコン画面の点字表示機能が主
な役割であった(井上 1994)。現在は独自の中央
処理系を持ち,点字データの入力・保存・検索が
可能な点字電子手帳(ノートテーカー)が開発さ
れ,視覚障害児者の学習道具として広く使われて
いる。PDA やノートパソコンに点字表示部(点
字ディスプレイ)が装着された種類も登場してい
る(韓 2009)。
3.点字ディスプレイとノートテーカーの用語変
遷
機能や使い方が変わることにより,点字ディス
プレイを示す言葉も変化している。点字ディスプ
レイに関する用語を整理し,その原理について解
説する。
点字ディスプレイは,少ない電力,高密度で安
定した駆動をさせることが可能な圧電素子である
バイモルフという小さな板の上に乗ったピンが上
下することにより,点字となる凹凸が形成される
(韓・梶野 2010)
。
紙ベースからピンベースになって間もない頃,
視覚障害者らはこの点字ディスプレイをピンディ
スプレイと呼んでいた。ピンの材質はプラスチッ
ク製が多いが,ステンレス加工の鉄でできてい
るものもある。一文字を表す点字の一マスは 6 点
からなるが,点字ディスプレイの多くは 8 点から
なっている。残りの 2 点は漢字を表す点字に使用
したり,位置を示すカーソルとして使用するため
である。
点字は点字盤や点字タイプライターを使用し点
― 40 ―
点字ディスプレイとノートテーカー
字用紙に凹凸を付け手で読むものであるが,紙の
特性上,一度書いたものは再利用できず,硬い紙
に凹凸を付けるため,分厚く教科書一冊分がカ
バンに入らないという問題を抱えていた(牟田口
2005)。
それに対し,点字ディスプレイは紙を必要とし
ないため,「 Paperless Braille 」と呼ばれる。そ
して,点字ディスプレイは何度も点字を作り出す
ことができることから,海外では「再生可能な点
字ディスプレイ( refreshable braille display )」
と表現する場合もある。
日本では KGS 社が1984年にセル開発に成功し,
1985年からは『視覚障害者用コンピュータ点字表
示端末機』という名前で点字ディスプレイの発売
を開始した。
アメリカでは『ブレイルライト』という商品が
発売され,日本でも60万円前後で売られるよう
になった。ブレイルライトは既存の点字ディスプ
レイに点字入力のための 6 点キーを備え,点字入
力・保存・検索・閲覧が可能な一体型情報処理端
末機として,視覚障害学生にとっては大変魅力的
な商品であった。60万円前後というたいへん高
額なものであるにもかかわらず,大学生を中心に
重要な情報処理機器として認識され,使用者が増
えた。
2000年に KGS 社が,
『点字電子手帳』というタ
イトルで『ブレイルメモ16』をブレイルライトに
匹敵する機器として発売を開始した。アメリカ製
のブレイルライトに比べ,20万円という安価で
安定した性能が評価され,盲学生や教員を含め多
くの視覚障害者が購入するようになった。
BM16は,点字電子手帳という言葉が示してい
るように,既存のアウトプットのためのディスプ
レイとは大きく異なる特徴を備えていた。パソコ
ン画面のテキストを点字表示するための機能に加
え,インプット・アウトプットが単体でできる
ようになったのだ。BM16に備え付けられた点字
キーによりノートテイク・点字の編集・保存・検
索・閲覧などの機能をもつようになった。
点字電子手帳は,講義のノートを取るのに利用
できることから,アメリカでは「ノートテーカー」
と呼ばれている。
日本では KGS 社製の『ブレイルメモ』シリー
ズが多くのユーザーに使われており,点字でメモ
― 41 ―
をとる意味も込めて,点字電子手帳をブレイルメ
モと表現するユーザーも多い。
点字電子手帳の次世代製品としては,エクスト
ラ社から新たに『ブレイル PDA 』という高機能
点字電子手帳が発売されている。既存の点字電子
手帳の機能に比べ,PDA の機能を付加しており,
単体でメールやインターネットを点字・音声で使
用でき,墨字文章の作成・編集などもでき,メモ
リ容量が数十 GB のパソコン並みである。
ブレイル PDA は,視覚障害者に必要な録音図
書を再生するための機能や,授業や講演会などで
メモ代わりの録音をする機能などを備え,まさに
オールインワンの機器としての活躍が期待されて
いる。
エクストラ社から2008年 8 月に発売された『ブ
レイルセンスプラス』は,音声・点字携帯情報端
末ともいわれ,拡張性のある PDA に点字表示や
音声出力の機能まで備えた製品を発売するまでに
なった。
点字しか出力できない既存の製品にくらべ,液
晶に漢字かな混じり文章を表示し,音声も出力し
ている事から,先生と学生とのコミュニケーショ
ンも期待されている。
視覚障害者業界から日本産ブレイル PDA の必
要性も示唆されているが,開発コストやユニバー
サルデザインが普及した日本においては使いやす
さを重んじる傾向もあり,マルチタスクで高機能
なブレイル PDA の開発には時間がかかりそうで
ある。
4.点字ディスプレイとノートテーカー
日本ではノートテーカーを点字ディスプレイと
表現する場合が多いが,教育分野では正確な名称
を用いる必要性がある。
点字ディスプレイはメモリを持たず,パソコン
との接続が必要とされるもので,ノートテーカー
は単体で情報処理可能なものとしての区別が必要
である。
韓(韓 2010c )は,日本でノートテーカーを点
字ディスプレイと表現する理由について次のよう
に分析している。
視覚障害児者の日常生活に必要な支援機器を給
付(貸与)する日常生活用具事業において,ノー
トテーカーの項目はなく,点字ディスプレイ項目
韓 星 民
のみが存在するため,企業はノートテーカーを
点字ディスプレイと呼ぶケースが多い。そして,
ユーザーも必要なノートテーカーを手に入れるた
めには点字ディスプレイ項目で申請を行わざるを
得ない事情が存在するとしている。今後,時代
に合った機器の正確な名称が使われる必要性があ
る。
現在日本で生産されている点字ディスプレイの
9 割以上はいわゆるノートテーカーであり,この
ノートテーカーは,PC 接続可能なため,点字ディ
スプレイの機能も備えている。
4.1. 機器の性能からみた分類
①シングルタスク(片方通信)
点字ディスプレイがこれに該当する。
(パソコンからのテキスト情報を点字表示する
機能のみ:2012年基準)
②デュアルタスク(二つのタスクの切り替えの
み)
KGS 社製のノートテーカー(点字電子手帳)
がこれに該当する。
(メインメニューと点字ファイル表示メニュー
が切り替わる:2012年基準)
③マルチタスク( 3 つ以上の複数のタスクを同時
実行可能)
EXTRA 社発売の HIMS 社製のノートテーカー
がこれに該当する。
( HIMS 社のブレイルセンスシリーズは,最大
7 つのタスクを同時に実行することができる。:
2012年基準)
4.2. ノートテーカーの比較
図1.点字ディスプレイ(機器にメモリを持た
ず,PC接続により,PCのテキスト情報を点
字で提示する機器。パソコンのディスプレイ
同様,点字ディスプレイもPCがなければた
だの箱に過ぎないものである。)
図2.ノートテーカー(点字入出力が可能で,
データの保存機能が備わっている機器。点字
ディスプレイに情報処理能力を付加した,視
覚障害者用ノートPCのようなものである。
)
― 42 ―
以下は現在日本で多くの学生から指示を得てい
る 2 機種を事例に,機器の内容概略を示す。
KGS 社製のブレイルメモポケット( BMPK )
は,小学生でも十分使いこなせる仕様となってい
る。
それに対して,HIMS 社製( EXTRA 社発売)
のブレイルセンス U2はマルチタスクで高額なた
め,BMPK が使えるようになってから導入する
のが望ましいと考えられる。
電源を入れた際,最初に立ち上がるメインメ
ニューを理解する事は,ノートテーカーの機能を
知る上で大変重要である。それぞれのメインメ
ニューについては,以下に詳しく説明する。それ
ぞれの項目(表 1 .参照)を外観して分かるよう
に BMPK は大変シンプルな機能であり,点字の
読み書きに適している。それに対してブレイルセ
ンス U2はインターネットやメール,DAISY 図書
の再生や録音など,本機一台あれば,視覚障害学
生にとって必要な機能が網羅された製品となって
いる。
5.教育分野における点字ディスプレイとノート
テーカー
視覚障害児者は点字盤を使い授業のノートをと
点字ディスプレイとノートテーカー
表1.KGS社製とHIMS社製のノートテーカーの機能比較
ブレイルメモポケット
( BMPK )
メインメニュー
1 .文章
2 .検索・移動・読み上げ
3 .編集操作
4 .レイアウト
5 .アクセサリ
6 .外部機器との接続
7 .各種設定
8 .セルフテスト
9 .ヘルプ
ブレイルセンスU2
メインメニュー
1 .ファイル管理
2 .ワードプロセッサ(点字データやテキストデータの作成と編集)
3 .電子メール
4 .GPSナビ
5 .プログラム(乗り換え検索,テレビ番組表,電子コンパス,サピエ,
電子辞書,簡単スケジューラ)
6 .アクセサリ(ゲーム)
7 .ソーシャルネットワーキング(ツイッター,グーグルトーク,msn
メッセンジャー)
8 .ウェブブラウザ
9 .DAISYプレーヤー( DAISY図書の再生)
10.メディアプレーヤー(オーディオデータの再生やボイスレコーダー
機能)
11.ラジオ( FMラジオ)
12.アドレス帳
13.予定帳
14.データベース管理
15.Bluetooth接続
16.ユーティリティ
17.オプション設定
18.ヘルプ
図3.KGS社製のブレイルメモポケット:BMPK(点
字の書き・読み・編集機能が中心だが,児童・
生徒が使える簡単仕様を特徴としており,世
界で最も軽量で持ち運びに便利である。
)
り,試験や文章作成などの速さが求められる場合
は点字タイプライターを使っていた。ところが,
点字盤や点字タイプライターは,硬い紙に物理的
に凹凸をつける方式で講義室に響き渡る音が問題
となった。周りもそれを使う本人も気になるとこ
ろであった。点字タイプライターの下に布のよう
― 43 ―
な下敷きを置き,ノートをとる時代もあった(菊
島 2000)。
2000年以降,点字電子手帳(ノートテーカー)
を用いることにより,静かな音で,点字タイプラ
イター方式の 6 点入力が可能となり,速く打つこ
とができた。書いた文章の編集も可能となり,現
在は多くの学生が用いる支援機器となっている。
現在数カ国の点字ディスプレイやノートテー
カーが日本で発売されており,上で述べたよう
な,点字ディスプレイのみの機能をもつものか
ら,点字電子手帳,ブレイル PDA,音声・点字
PDA まで多くの種類が登場しており,使い方や
値段にかなりの幅があり,支援技術専門家の意見
や当事者のヒアリングの上で機器を選ぶ必要があ
ると考えられる。
点字ディスプレイはパソコン画面表示を主目的
としているため,表示部が長くパソコンキーボー
ドの前後・下において使うケースが多い。本機器
は英語教育などで音声のみでは単語や文章理解が
難しい場合必要不可欠なものとなる。
ノートテーカーは,単体で点字の入力・貯蔵・
韓 星 民
編集・検索などができるため,活用範囲が広くな
る。特に,パソコンと接続し点字ディスプレイと
しても使用が可能である。
可能
・学習書や専門書など音声では理解が困難なた
め,点字文字を利用したほうが効率的な場合用
いる
6.学習補助具としての点字ディスプレイとノー
トテーカー
点字印刷や教科書が32マスで印刷される場合
が多いため,点字ディスプレイも32マスを超える
ものが望ましい。そして,パソコンに接続し,点
字表示する場合,スクリーンリーダーや自動点訳
ソフトなどが必要となるため,スクリーンリー
ダーと点字ディスプレイの対応関係について知る
必要がある(福井 1993)
。
以前,視覚障害者が活字を読むためによく用い
られた方法の一つが,支援者による点訳作業で
あったが,パソコンのスクリーンリーダーの性能
向上で誤読が減ったことや点訳ソフトの変換の正
確さが向上したことなどから,テキストデータや
インターネットからの情報入手の有効性が増して
いるのも事実である(青木 2010)
。
点字データから漢字かな交じり文を作る事は困
難だが,テキストデータがあれば,点訳ソフト
ウェアを使用し点訳ができるのである。そして,
スクリーンリーダーがインストールされているパ
ソコンであれば,いつでも読ませる事が可能にな
る。その上,視覚に障害を持った研究者が論文作
成の際に必要な引用文作成などに正確な漢字を用
いることもでき有効である(岩井 2009)。
点 字 電 子 手 帳( ブ レ イ ル メ モ ) や ブ レ イ ル
PDA の場合は32マス前後のものが,持ち歩くこ
とができ,点字ディスプレイとしても使えるた
め,教育支援機器として有効性が高い。
以下に,点字ディスプレイとノートテーカーの
機能による分類と教育への利用方法について考察
する。
2)ノートテーカー(点字入力・保存・点字出力)
・多くの点字データをメモリに保存可能で,持ち
運びが可能である。
・PCと接続することで,点字ディスプレイとし
ても使用可能。
・機器単体で持ち運ぶことが可能なため,点字読
書や点字メモがいつでも可能。
・ノートを取り,点字データとして保存し,デー
タの編集が可能である。
・点字データは点字プリンターに接続し,紙点字
への出力が可能。
・国語や英和など点訳辞書が使える。
・高機能ノートテーカーは,点字ノートパソコン
として使用可能。
6.2. 周辺機器との接続
6.1. 教育上の利用法
1)点字ディスプレイ(点字出力)
・PCの点訳・点字編集ソフトウェアに対応し,
点字編集時に有効に用いる事が可能
・点訳辞書などの発音記号などの点字が表示可能
・英語など音声で聞くことが難しく,読む必要が
ある際,パソコンのスクリーンリーダーが読み
上げた内容を点字出力を受け,確認することが
― 44 ―
点字ディスプレイやノートテーカーは以下の周
辺機器との接続が重要なポイントとなる。
・スクリーンリーダーに対応しているか。
・点訳ソフトや点字エディターに対応している
か。
・ATMや駅券売機などの周辺機器に接続可能か。
・スマートフォンやタブレットPC,携帯電話な
どに対応しているか。
7.コミュニケーションエイドとしてのノート
テーカー
視覚障害者でも使用可能なスマートフォンやタ
ブレット PC が登場するなか,点字ディスプレイ
やノートテーカーの役割も多様化されている。
韓国では,視覚障害者が普段使用しているア
クセシビリティーに対応したスマートフォンを
ATM に接続させることで,ATM 操作が可能と
なっている。ノートテーカーも対応させるという
案は以前から出ているが,現在まだ実現には至っ
ていない。
欧米や日本においては,スマートフォンとノー
トテーカーの通信機能が進んでいる。
米国フリーダムサイエンティフィック社のノー
点字ディスプレイとノートテーカー
トテーカー( Focus 14 Blue )やドイツ BAUM
社のノートテーカー( VarioConnect )は,ブルー
トゥースなどの接続により,iPhone や iPad 用点
字表示端末として使用可能である。日本テレソフ
ト社が輸入販売している高機能・低価格のノート
テーカー(
「清華ミニ」:中国製点字セルを使用)
も iPhone や iPad などに接続可能となっている。
これまでの点字ディスプレイやノートテーカー
は,PC との接続が主であったが,今後はスマー
トフォンやタブレット PC,電子書籍,ATM な
どの周辺機器を含め,多様は機器との接続が期待
されている。 このように支援機器と周辺機器と
の接続(対応)はさらに増えていくと期待され
る。本稿では,このような役割を持つ支援機器を
「コミュニケーションエイド」と呼ぶことにする。
NTT ドコモ社のらくらくホンのようなユニバー
サルデザインによる製品や,iPhone,iPad のよ
うな視覚障害者が使える一般的な製品をすべて指
す言葉として「コミュニケーションデバイス」を
提案する。
7.1. コミュニケーションエイドと機械受容
視覚障害児童の IT 教育の経験によると,視覚
障害児者が使用可能ならくらくホン(音声読み上
げ機能搭載携帯電話)を上手に使っている子供
とそうでない子供ではコンピューターの習熟能
力に格差が生じていた。コミュニケーションデバ
イスになれている児童は機械に対する抵抗感が
なく,IT 機器の動作に対する理解度が高かった。
それに対しての反対意見も存在する。アメリカ
のコミュニケーションエイドの研究開発者 Chris
Park によると,高機能ノートテーカー使用児童
はパソコンへの移行が遅れる印象を持っていると
の事である。その理由として最近のノートテー
カーはパソコンと機能的に差がないため,パソコ
ンへの移行の必要性を感じないという。
今後機械受容によるメリットが大きいか,反対
に使いなれている支援機器から一般の機器への移
行がさらに難しくなるのかという科学的な検証が
必要である。
7.2. コミュニケーションエイドとコミュニケー
ンデバイスの違いについては上述したが,今後視
覚障害児者の教育を考える上で,この両者を抜き
にして教育を考える事はだんだん難しくなりつつ
ある。今後これらの支援機器を特別支援教育に積
極的な取り入れる必要性がある。
現在コミュニケーションデバイスに比べ,コ
ミュニケーションエイドは高額なものが多いた
め,使いこなせられるかどうか分からない問題も
あり,購入が見送らされる傾向がある。
筆者のこれまでの支援経験からすると小学校低
学年であっても興味さえあれば,コミュニケー
ションエイドの使用は可能であった。
コミュニケーションエイド導入時期に関して
は,今後,更なる研究が待たされるところである。
おわりに
点字ディスプレイやノートテーカーは日常生活
用具として支給される自治体が増えているが,支
給対象は18歳以上としている場合が多い。
アメリカやドイツ,イギリスなどでは小学校児
童でもノートテーカーを学習道具として取り入れ
ており,今後日本でも学習補助具としての役割が
期待されている。
高機能で高額なノートテーカーは現在多くの大
学生や仕事を持つ視覚障害者が使用している。比
較的に価格が安く,Dual-task を特徴とする KGS
社製の点字ディスプレイは今後小学生の学習補
助具としての期待は高い。今後,視覚特別支援学
校(盲学校)や特別支援学級においてノートテー
カーの普及が課題となっている。
注
★01 標準点字盤は,点字用紙 1 枚分を書くこ
とができる。点字紙 1 枚分の板の上に定規を
乗せる,定規は板の左右の穴に固定し,紙を
定規の上板と下板の間に挟み込み固定させ
る。定規の上板と下板に 2 行32マス分の穴が
点字と同じピッチで空いており,この穴の中
に,点筆を一点一点差し込み,点字(凹凸)
を書く。
参考文献
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― 45 ―
韓 星 民
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