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授業プリント
炭 素 の 同 素 体 C 60フ ラ ー レ ン 模 型 作 成
岩 見 沢 農 業 高 等 学 校 SS理 科 担 当
高 木 伸 雄( 時 間 講 師 )
中 村 諒 生( 理 科 教 諭 )
渡 井 陽 子( 実 習 助 手 )
炭素の同素体にはダイヤモンド、黒鉛が知られていたが、
1985年 に 黒 鉛 に レ ー ザ ー を 照 射 し た と き に 発 生 す る 蒸 気 の 中
に、新しい炭素同素体が発見された。フラーレンとよばれる
こ の 同 素 体 の う ち 、 バ ッ ク ミ ン ス タ ー フ ラ ー レ ン C 60が も っ
とも有名である。ほかにも炭素数の多いフラーレン類がある
が、その形は、最初に発見された、サッカーボール型のバッ
クミンスターフラーレンを、ひきのばしたような形をしてい
る。
Jmolに
Jmol に よ る C 60表 示
私たちは、化学基礎の授業の中で同素体の一つとしてこの
フラーレンを取り上げ、実験実習の授業時間に模型を作成させた。
授業の流れ
1時間の授業の中で、前半はフラーレンの説明と模型作成、後半は硫黄の同素体の
比較として単斜硫黄を作る実験及び事前に作っておいた斜方硫黄の観察を行った。
こ の レ ポ ー ト は C 60フ ラ ー レ ン の 模 型 展 開 図 作 成 及 び 授 業 中 の 生 徒 の 作 業 手 順 を 示
す。
模 型 展 開 図 は ジ ャ ス ト シ ス テ ム の ソ フ ト ウ エ ア 「 花 子 10」 を 使 っ て 作 成 し た 。
C 60フ ラ ー レ ン 模 型 展 開 図 ( A4サ イ ズ )
展開図を組み立てた模型
C 60模 型 展 開 図 は ケ ン ト 紙 な ど の 厚 め の 紙 に 印 刷 し 、 切 り 抜 い て 組 み 立 て て い く 。
最初あまり上手く行かなかったが、幾度か作り直し改良した結果、実際に使えるもの
ができた。特徴は以下の3点である。
①炭素原子を黒い円で表示した
②二重結合を太い赤線で示した(補足2参照)
③のりしろは一部のみにして短時間でサッカーボール状になるようにした
模型展開図の作成過程において、実習助手が生徒の目線で見て不都合な点や操作し
- 1 -
にくい点などを指摘し教諭が改良していくという過程を取った。例えば、当初は組み
立てた模型の上に、各炭素原子から1本ずつ二重結合が出るように色を付ける作業を
考えたが、実際にやってみると難しく、時間も随分取られることが分かったので、最
初から二重結合の部分には赤線を入れることにした。この模型展開図は実習助手と担
当教諭の協力によってできたものである。さらに、このリポート作成過程において、
いくつかの重要な指摘を同僚の五十嵐康二教諭から頂き、よりよいものになった。
《作
業》
①今回は授業時間の半分ほどを模型作りに使うために、模型展開図を事前に切り出し
ておいた。1枚の作業に、折り目を入れることを含めて40分程かかる。
(概略の形を作るのであれば、はさみで大胆に切っていくと時間が短縮できる)
この展開図を4人一組の各班に配布する。
②展開図を折れ線に沿って軽く曲げる。
③一度平らにして、全てののりしろにテープのりをつける。
(セメダイン等ののりを使って一つずつのり付けしていってもかまわない)
④のりしろの部分を指で強く押さえながら組み立てていく。
⑤のりしろが上手くつかない等の場合は上からセロハンテープで貼る。
(のりしろをとらないで、セロハンテープでつけていくと時間は短縮できる)
⑥組み立てが最後の方になると、指が入りにくくなるので、ボールペン等を使っての
りしろを押さえていく。
⑦完成したら、各面の頂点にある黒点(炭素原子)から伸びている単結合(黒線)が
2本、二重結合(赤線)が1本、合計4本の「結合の腕」が出ていることを確認す
る。
以下の写真は上記の文章に対応したものである。
①
⑤
②
③
⑥
⑦
④
生徒の様子
模 型 展 開 図 ( 花 子 フ ァ イ ル と PDFフ ァ イ ル ) を ダ ウ ン ロ ー ド 可 能 に し て あ る の で 、
自由に使用してほしい。花子を使うとのりしろを増やす、色を付ける等の変更を自由
に 行 う こ と が で き る 。 花 子 は 矢 印 キ ー の 操 作 で 図 形 を 0.1mm単 位 で 移 動 す る よ う に 設
定できる。細かな作業をするときには設定を変えるとよいと思う。
- 2 -
補足1
講談社で出版しているブルーバックス「動く分子事典」という本についているフリ
ー ソ フ ト ウ ェ ア Jmolは 分 子 の 構 造 を 3 次 元 で 表 示 さ せ た り 、 回 転 さ せ て 表 示 さ せ る こ
とができる非常に素晴らしいものである(現在は、より新しいバージョンのものをダ
ウ ン ロ ー ド し て 使 う こ と が で き る )。 こ の 授 業 の 前 に 1 時 間 使 っ て コ ン ピ ュ ー タ 教 室
で一人一人の生徒に基本的な分子の構造について操作・表示をさせているので、今回
の 授 業 で は こ の Jmolに よ り フ ラ ー レ ン を 表 示 し て 分 子 の 姿 を 見 せ る こ と が で き た 。
補足2
授業では、ダイヤモンドの写真と黒鉛の写真を見せた。学校にある黒鉛の固まりを
紙の上にこすると、線が書ける部分と書けない部分があることを示した。さらに、こ
れ ら の 原 子 の 並 び 方 を 写 真 で 示 し 、黒 鉛 が 何 故 鉛 筆 の よ う に 線 が か け る か を 説 明 し た 。
さらに、炭素が共有結合して出来ている一つの層が円形になったものがカーボンナノ
チューブ、その端をふさぐためには炭素原子5つが結合した五員環が必要であること
を 画 像 も 使 い な が ら 示 し た 。 フ ラ ー レ ン に は 炭 素 原 子 数 が 20、 60、 70、 100な ど 色 々
あ る が ど れ も 五 員 環 は 12個 に な っ て い る ( 炭 素 数 20の 分 子 は 非 常 に 不 安 定 で あ る )。
こ れ ら の 炭 素 原 子 の 結 合 は 、 電 子 の SP2混 成 軌 道 に よ る σ 結 合 が 3 本 ( こ れ ら は 同
一 平 面 上 に あ る ) と 2P軌 道 に よ る π 結 合 が 1 本 に な っ て い る 。 従 っ て 、 本 来 こ れ ら の
炭素の共有結合は同一平面上に存在すると安定になる。カーボンナノチューブやフラ
ーレンのように湾曲すると少し無理がかかることになる。生徒には簡単な性質を話し
たが、物質の性質をこのような結合から解き明かしていくのは大変興味深いことであ
る。なお、上記のσ結合は結合する炭素原子は決まっている(局在化している)が、
π結合は周りのいくつかの炭素原子間で結合している(非局在化している)ため、二
重結合の表示は便宜的なものである。
補足3
フ ラ ー レ ン Fullerene に つ い て ( Microsoftエ ン カ ル タ 総 合 大 百 科 2003よ り 抜 粋 )
60個 の 炭 素 原 子 か ら な る 化 学 式 C 6 0 の 分 子 。 形 は ほ ぼ 球 状 で 、 サ ッ カ ー ボ ー ル の 表
面 に あ る 20個 の 六 角 形 と 、 12個 の 五 角 形 の 頂 点 に 、 炭 素 原 子 が 位 置 し て い る 分 子 と 考
えるとわかりやすい。この炭素同素体の構造が、アメリカの建築家バックミンスター
・フラーが考案した幾何学的構造に似ていることから、バックミンスターフラーレン
とよばれるようになった。
炭 素 の 同 素 体 と し て は 長 い 間 、 ダ イ ヤ モ ン ド 、 黒 鉛 、 お よ び 不 定 型 炭 素 の 3種 し か
知られていなかった。これら同素体の炭素原子の配列は、おのおの異なるため、その
性 質 も ち が う 。 し か し 、 1985年 に 黒 鉛 に レ ー ザ ー を 照 射 し た と き に 発 生 す る 蒸 気 の 中
に、新しい炭素同素体が発見された。フラーレンとよばれるこの同素体のうち、バッ
クミンスターフラーレンがもっとも有名である。ほかにも炭素数の多いフラーレン類
があるが、その形は、最初に発見された、サッカーボール型のバックミンスターフラ
ーレンをひきのばしたような形をしている。
バックミンスターフラーレンは黒鉛にレーザーを照射してつくられたのが最初であ
るが、その量はきわめて少なかった。その後すぐに、ヘリウムガスの存在下で2つの
炭素棒の間にアーク放電をおこさせると大量に生ずることがわかった。今ではローソ
クの炎などの煤の中にこのバックミンスターフラーレンが存在していることもわかっ
- 3 -
ている。
フラーレン分子を利用しようとして多くの研究がおこなわれている。この分子のし
めすひとつの重要な性質は、炭素原子でできた中空の球であるフラーレン分子が、そ
の中にほかの原子をつつみこむというものである。また、管状フラーレンの中に金属
原子をいれると絶縁体の電線となる。もうひとつの重要な性質は、バックミンスター
フ ラ ー レ ン が そ の 中 に 物 質 を と り こ ん だ も の 、 た と え ば 、 カ リ ウ ム Kを と り こ ん だ
K 3 C 60 な ど が し め す 低 温 超 伝 導 現 象 で あ る 。 タ リ ウ ム と ル ビ ジ ウ ム イ オ ン を と り こ ん だ
フ ラ ー レ ン は -228℃ で 超 伝 導 を し め す 。 こ の 温 度 は 、 ほ か の 超 伝 導 物 質 が こ の 現 象 を
しめす温度より比較的高い。癌細胞を攻撃するバックミンスターフラーレン由来の物
質 も あ る 。こ の 物 質 は 酵 素 の 活 性 部 位 に 入 り こ み 、酵 素 活 性 を お さ え る と 考 え ら れ る 。
2001年 10月 、 ロ シ ア の ヨ ッ フ ェ 物 理 技 術 研 究 所 の グ ル ー プ が 、 フ ラ ー レ ン だ け で 磁
石をつくることに成功した。金属をまったくふくんでいない炭素だけのフラーレンが
磁力をもつことは従来の考え方だけでは説明できないが、プラスチックなどの有機物
だけで磁石をつくれる可能性が出てきた。磁石となるには原子核の周囲をまわる電子
の 向 き が そ ろ う こ と が 必 要 と な る が 、こ の フ ラ ー レ ン の 場 合 も 外 部 か ら の 磁 力 に よ り 、
フラーレン同士が結合した部分の電子の向きがそろうためではないかと考えられてい
る。
補足4
C 60 模 型 展 開 図 が う ま く 出 来 た の で 、 つ い で に 高 次 フ ラ ー レ ン の 模 型 展 開 図 を 作 り 、
組み立ててみた。模型展開図を見てわかるように、どのフラーレンも五員環6個、六
員 環 10個 が 片 方 に あ り 、 反 対 側 に も 同 じ も の が あ る と い う 構 造 に な っ て い る 。 そ の 間
に 5 の 倍 数 の 六 員 環 が 挟 ま っ て い る 。 す な わ ち 、 C 60で は 六 員 環 な し 、 C 70で は 六 員 環
5 個 , C 8 0 で は 六 員 環 10個 等 と な っ て い る 。 わ か り や す い よ う に 展 開 図 に は 色 を 付 け
て区別してある。理科部等で生徒に考えさせたり、研究させるとおもしろいと思う。
ど の フ ラ ー レ ン も 五 員 環 は 12個 に な っ て い る 。 こ れ は フ ラ ー レ ン の よ う な 多 面 体 に
関 す る 幾 何 学 の 定 理 「 オ イ ラ ー の 多 面 体 定 理 」 か ら 12個 以 外 は 存 在 し な い こ と が 導 か
れる。この定理の示すところは多面体に関して、頂点の数-辺の数+面の数=2 とい
う 簡 単 な 式 で あ る 。( C 60で は 、 頂 点 の 数 - 辺 の 数 + 面 の 数 = 60- 90+ 32= 2 と な る )
フ ラ ー レ ン に つ い て 計 算 し て み る 。 五 員 環 の 数 を X、 六 員 環 の 数 を Yと す る 。 各 頂 点
は3つの面が合わさっているので、頂点は各面に3分の1が割り当てられる。また、
各辺は2つの面が合わさっているので、辺は各面に2分の1が割り当てられる。従っ
て、
上記の定理 頂点の数-辺の数+面の数=2 に代入すると
( 5X + 6Y)/3 - (5X + 6Y)/2 + X + Y = 2
こ れ を 解 く と 、 X = 12 と な る 。
す な わ ち 、 六 員 環 の 数 に 関 係 な く ( 上 記 の 式 を 解 く と Yが な く な る )、 五 員 環 は 常 に
12個 と い う こ と に な る 。
また、五員環は隣接しないという構造をとる。これは幾何学的な要請ではなく、経
験 則 で あ る 。六 員 環 に 比 べ て 五 員 環 は 炭 素 原 子 同 士 の 結 合 に 無 理 が か か っ て い る の で 、
隣接すると化学的に不安定な物質になるからである。
- 4 -
以下に4つのフラーレンの模型と展開図を示す。炭素原子を示す黒円と二重結合を
示す赤線は入れてない。
C
C
60
70
五 員 環 12
六 員 環 20
C
五 員 環 12
六 員 環 25
C
80
五 員 環 12
六 員 環 30
90
五 員 環 12
六 員 環 35
- 5 -
補足5
1 頁 目 に 示 し た C 60フ ラ ー レ ン の 模 型 展 開 図 中 の 赤 線 ( 二 重 結 合 ) の 位 置 は 、 規 則
的 な 形 を し て お り わ か り や す い が 、展 開 図 の 中 に 入 れ る 二 重 結 合 の 位 置( 組 み 合 わ せ )
は何通りもある。以下にその一つの例を示す。
C 60フ ラ ー レ ン 模 型 展 開 図 ( A4サ イ ズ )
展開図を組み立てた模型
補足6
補 足 4 の フ ラ ー レ ン は 炭 素 原 子 が 60か ら 順 次 10ず つ 増 え て い く ( 六 員 環 が 5 個 ず つ
増 え て い く ) も の を 表 示 し た が 、 例 え ば 炭 素 原 子 数 が 74、 82等 さ ま ざ ま な も の が 発 見
さ れ て い る よ う で あ る 。 し か し こ れ ら の 展 開 図 を 作 る の は 結 構 難 し い 。 以 下 に 、 C 78
の 展 開 図 と そ れ を 組 み 立 て た 模 型 を 示 す 。 C 80 と 比 べ る と 六 員 環 が 一 つ 少 な い 、 す な
わち炭素原子が二つ少ないだけであるが、五員環・六員環の配置や全体の形がかなり
違うことがわかる。
C
78
五員 環 12
六員 環 29
C 78 フ ラ ー レ ン 模 型 展 開 図
展開図を組み立てた模型
- 6 -
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