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近年のアメリカのタクシーと食事事情
ボイスメール 6 月分 近年のアメリカのタクシーと食事事情 運転手は世界の各国、各地から 前回に引き続き、今回は私の目に映ったアメリカのタクシー事情、また日本食レストラ ンで見た一つの光景についてお話しましょう。 一昨年、「風と共に去りぬ」の出版 70 周年の取材でアトランタとニューオーリンズを訪 れ際、タクシーを 5 回利用しました。その都度、運転手に話しかけてみるように心がけま したが、そのときの会話のなかで、アメリカの歴史の一断面を見るような思いがしたので す。人種的には黒人が 3 回、白人が 1 回、東洋系が 1 回でした。 アトランタで最初に乗ったタクシーの運転手は黒人でした。出身国を訪ねたところナイ ジェリアだといいます。彼は私が降りる間際に言ったのです。「さあ、これから家に帰って ワールドカップを観るんだ。きょうはガーナとアメリカの対決だぜ。しっかり応援しなく っちゃ」 ちょうど、ワールドカップがドイツで開かれているときでした。 「どちらの国を応援するんですか?」と興味半分の私。「そりゃ、もちろんアフリカさ!同 胞のガーナよ。ギニア湾にあるお隣の国だしね」。アメリカに住んで 15 年になるというけ れど、私にはその心情がわかるような気がしました。 翌日に乗った運転手はハイチ出身。日本がブラジルに敗れた直後でした。「 “王者ブラジ ル”相手だからしょうがないよネ。自分は『どこの国を応援』というより、やはりブラジ ルのように高い技術を評価するネ」 アメリカはやはり「サッカー」よりも「野球」の国なのでしょう。行く先々でヨーロッ パや南米諸国のように、サッカーへの熱狂を感ずるような光景には一度も遭遇することは ありませんでした。 記憶に残るもう一人は、ニューオーリンズ空港からホテルまで乗ったタクシーの運転手 です。アジア系の顔と体つきでした。こちらをアジアの同胞と見たのか、最初はニコニコ 顔ながら、やがて厳しい表情で彼は言ったのです。 「あなたは、仕事が終わればまた家族がいる日本に帰れるんでしょう?いいですね!私の 出身はベトナムです。アメリカに来てもう 30 年。正確に言えば、母国から逃げてここに来 たのさ。自分は南ベトナムの軍人だった。アメリカが応援した戦争で北ベトナムに敗れた。 その直後、家族を残したまま亡命せざるを得なかったんだ!」 昨年 11 月、10 年ぶりにパナマを訪問しました。タクシーは往路のヒューストン、帰路の ニューヨークで計 4 回。そのつど運転手に話しかけましたが、今回も彼らの母国は多様で した。ヒューストンではエチオピアとエジプト、ニューヨークではドミニカとエクアドル を母国とするドライバーでした。それぞれが母国語なまりの英語です。 1 最初のエチオピアからの運転手には閉口しました。空港で私のトランクを奪うように車 に積み込み運転を始めたのはいいのですが、なんと目的のホテルとは反対の方向に走り、 メーターが 80 ドルになってから気がついたのです。 運転手は「電話で確認してみる」と。ところが彼の携帯電話は故障中。そこで、なんと アメリカに着いたばかりでまだ調整もしていない私の携帯電話を借りて、ホテルに場所を 確認しつつの運転になったのです。こちらは成田からの長旅で疲れ、時差で眠いのに、1 時 間以上も走り回られ、しかも料金 160 ドルを請求されたのです。当方には何の非もありま せん。ここは強く出るに限る!そこで私も日本語なまりの英語をまくしたてて反論、ドラ イバーの非を責め、100 ドルまで下げさせたのでした。 帰路のニューヨークでは 9.11 のテロ爆破点グラウンド・ゼロを訪れました。運転手はエ クアドル出身。私もかつて同国を訪れたことがあることから話が弾みました。首都キト郊 外にある赤道標が変わったことからガラパゴス諸島の環境汚染まで。グランド・ゼロでは 記念写真を撮ってもらったりして、アメリカでスペイン語が通じたうれしさに、思わずチ ップもはずんでしまったのです。 都合 3 回の訪米に際し 9 回乗ったタクシーの運転手の母国は、たまたまの偶然だったか もしれませんが、なんと 9 カ国。この多様性!単一民族国家で外国人の受け入れに厳しい 日本と比べて、大量の異民族を受け入れ消化していく大国アメリカの懐(ふところ)の深 さに改めて感銘したのでした せっかくの健康食もこれでは・・・ もう一つ。10 年ぶりのアメリカでの強い印象――それは太った人がぐんと増えているこ とでした。ぷっくりと腹が出て尻の肉も重いほどについている。ちょうど相撲の元小錦関 タイプの男女をいたるところで目にしたのです。滞在中に目にした範囲では、少なくとも 10 人に 1 人以上はそんな状態です。 これだけ太っていれば、動くのに大儀だし、第一、足腰に負担がかかり、内臓にも負担 がかかる。自ら短命への道を歩んでいるようなもの。アメリカの“国民病”のようにさえ 思えてきたものです。 理由は豊かな食糧事情からくるのでしょうが、まず食事そのものの量が多いことです。 清涼飲料を飲むための紙コップのサイズも、日本のものよりはるかに大きい。それになみ なみと注いでいます。こうした状況下で「日本食はヘルシー」だと、かなり前からアメリ カ人の間で、寿司や刺身も人気になってきています。 アメリカ滞在最後の夜、ニューオーリンズで日本食レストランに入りました。50 人ほど いる店内の客の 9 割はアメリカ人、日本人は数人だけでした。私はメニューから SUSHI DINNER(寿司夕食) を注文しました。寿司の盛り合わせに前菜的な煮物と味噌汁つきで 16 ドルでした。 ところが、出てきた寿司の皿を見て驚きました。丸い盛り皿の直径は 30 センチ以上。そ の真ん中に縦に 2 列で刺身や海老がのった、いわゆる握り寿司が 8 個、その両側にはシー 2 チキン等の入ったやや小ぶりの巻き寿司が 10 個ずつ(計 20 個)並んでいました。どれも海苔 は内側に巻かれ外側がご飯粒に覆われています。 味は結構いけるものでした。でも、量はどうみても日本で食べる 2 人分はあります。頑 張ってはみたものの結局、半分を残してしまう羽目になったのです。隣りのテーブルのア メリカ人が注文した TEMPURA DINNER(てんぷら夕食)を注視してみました。船盛り風 の器にさまざまな具のてんぷらが山のように盛られています。 「本当にあのすべてを食べら れるのかなぁ」なんて正直思ったのです。 他人事ながらそのとき私は言ってあげたい思いに駆られたのでした。 「健康食ということで、せっかく日本レストランに来たのだから、もう少し量を減らした ほうがあなたの健康のためにも、ふところのためにも良いんじゃないですかね」。 これって余計なお節介でしょうか?お世話になったアメリカの皆さん! 3