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A.14.18 原発
A14.18 福島第一原発からの漏出を監視している水モニターの放射能読み取り値が今月になって上昇し、 日本における公共用水に含まれる放射性同位元素の法定上限値の 750 万倍にまで跳ね上がっ た際、政府機関は即座に対応した。歴史上初めて、日本政府が海産物中の放射能に上限値を設 け、魚のスクリーニングを始めたのだ。インドや中国は最近になって日本の特定地域からの食品 の輸入を禁止した。また米国 FDA は輸入海産物に対して独自の放射能検査を運用し始めた。 Tallahassee にあるフロリダ州立大学の放射線地球化学者 William Burnett によると、食物のモニ タリングには意味がある。しかし彼は、海洋汚染に関する知覚リスクに過剰反応することに対し警 鐘を鳴らしている。「寿司を食べるのを止めるというのはおかしなことである」と彼は言う。これは海 洋哺乳類での同位元素の蓄積について分かっていること、および福島近海の放射線についての 報告に基づいた見解である。放射性同位元素は食物連鎖に迅速に広まっていくとは言え、人に対 する甚大な危険につながる可能性は低いと、Burnett や他の人たちは言っている。それが海洋生 物にとって意味することは、別の問題であり、それこそ、科学者が調査したいと考えているもので ある。 多くの海洋生物は、水から放射性同位元素を吸収しやすい。世界中の専門家は状況が落ち着 いて以来、日本で取り組もうと考えている研究を優先的に始めつつある。「環境に与える影響を研 究する新たな機会であり、多くの国がこの機会を利用したいと考えている。私たちはこの事故の跡 を何年にもわたって見ていくつもりだ」と Cherbourg にある IRSN の放射生態学者 Bruno Fievet は 言っている。 放射線が多くの海洋生物にどんな影響を及ぼすかについては、ほとんど分かっていない。この 理由の 1 つとして、海洋生物が異常なほどの抵抗性を持っているということが挙げられる。Fievet は、甲殻類や軟体生物の放射線致死量は、人間のそれよりも、数桁大きいと言っている。このた め、研究者が実験室で実験を行うことは危険で、非効率的なことになる。実験室で生物に害を与 えるには、福島県の海洋環境で観察されたものよりも、かなり高いレベルの放射線量が必要とな ると、Fievet は言っている。 こういった生物の単純な生理機能や塩分に富む環境もまた、いくらかの保護作用をもたらしてい る。人においてヨウ素剤が甲状腺を飽和させ放射性ヨウ素の結合を妨げるのと同様に、豊富に存 在する海洋塩分が海洋生物による放射性イオンの吸収を減らしているのである。 同時に、Fievet が付け加えるところによると、直接的な危険がないとは言え、それが「心配しなく て良いと言うための理由にはならない」。原発周辺の水にはセシウム 137 やヨウ素 131 といった、 微粒子の放射性同位元素が含まれている。生物や皮膚や食物からこれらを体内に取り込むこと ができる。セシウム 137 は半減期が 30 年であり、それゆえ周囲に何十年と存在し続けることにな ることから、より厄介である。その結果生じる内部被爆によって突然変異や成長阻害、生殖器官 に欠陥がもたらされる可能性がある。中には同位体の取り込みや体内濃縮に関して例外的な生 物もいる。こういった生物を捕食するより大きな生物は、一度に大量の放射線を浴びるかもしれず、 これにより悪影響の危険性を増す可能性がある。 しかし、海洋をきれいにするという点からは、この生物濃縮は有益なものかもしれない。植物性 プランクトンは多くの海洋食物連鎖の根底にあるものだが、その細胞膜表面にプルトニウムが結 合するため、それを数百万倍に濃縮することができる。植物性プランクトンを捕食するより大きな 生物はプルトニウムを吸収することができない。そのため、これら大型の生物はこれを固形の糞 便物質として排出する。これが海底に沈み、海表面近くにいる大部分の海洋生物から除かれるの である。同じように、みそ汁や寿司屋には欠かせない海草も、ヨウ素吸収材として働き、それを周 囲の海水と比較して 10,000 倍に濃縮する。研究者の中には放射性ヨウ素を吸収するための海草 を海全体に植え付けようと提案する者すらいるが、Fievet が言うには、それは問題を水から海草 に移し替えただけに過ぎないことから、この考えはおおよそ棄却されてきた。 多くの科学者は、結局、海がその膨大な大きさにより、放っておいても解決されるだろうと考えて いる。日本の沖合は、海底が急激に深くなっており、これが大きな希釈要因となる。IAEA の報告 によると、海岸から 31 キロの範囲を超えると放射線が 1000 分の 1 に落ち込む、とニューヨークに ある Stony Brook University の海洋生物学者 Nicholas Fisher は述べ、更に放射能がすぐに自然 環境の水準と区別できなくなると付け加えている。「人がちょっと付け加えたところで、スズメの涙 程度だ。」 Fievet は、IRSN の科学者が日本と共同で行いたいと考えている研究をまとめ始めていると言っ ている。アメリカの大学、エネルギー省、そして IAEA 海洋環境研究室に所属しているアメリカの放 射線生態学者はまた、長期間の研究が始まることへの関心も表している。「私たちは他に類を見 ない状況に面している。」そこでは、事故が海に対して直接的に影響を与えているのである、と IRSN の放射線生態学研究室の責任者 Dominique Boust は述べる。 いずれにせよ、Fisher は言う。「水に含まれる同位元素の濃度を知ることは喜ばしいが、海洋生 物の中で何が起こっているかを知ることはより重要である。」日本の中央水産研究所はいくつかの 種について調べはじめ、いくつかの魚ではセシウム 137 が増えていることを見つけた。それでもま だ、核兵器開発に係る研究やチェルノブイリ原発事故に係る研究から、セシウム 137 が蓄積して いる大型の魚が時間と共にそれを排出していることが分かっている。人が海洋環境に排出してい る他の有害物質と比較して、放射能流出による日本の魚への危険性は極めて低い、と研究者た ちは結論付けている。 〔解答例〕 1 (a) Food and Drug Administration (b) International Atomic Energy Agency 2 ①food chain ②isotopes ③sushi 3 (1)ヨウ化カリウムまたはヨウ素剤 (2)半減期 (3)内部被曝 (4)有害物質 4 和訳:直接的な危険がないとは言え、それが、心配しなくて良いと言うための理由にはならない。 理由:福島原発の近海には、セシウム 137 やヨウ素 131 などの粒子状の放射性同位体が含まれ ており、それらは、皮膚や食べ物を介して、海洋生物の体の中に取り込まれるので。 5 セシウム 137 は、ヨウ素 131 よりも半減期が長くより厄介である。セシウム 137 は、変異を引き起こ し、成長を妨げ、生殖器官に欠陥をもたらす。ヨウ素 131 は、ヒトの甲状腺に結合して人体に害を もたらす。 6 大きな魚が、濃縮された放射性物質を含む餌を食べることで、高濃度の放射線がそれらの体内に 蓄積されると、害をもたらす危険がある。一方で、利点もある。植物プランクトンはプルトニウムを 百万倍に濃縮できるが、そのプランクトンを大きな魚が食べても糞として放出され、海底に沈むの で、放射線による汚染を取り除ける。 7 ・海洋生物の放射線への抵抗性は高い。 ・海水にはたくさん塩分が含まれているので、海洋生物が放射性イオンを吸収する量が減る。 ・日本の沖では海底が落ち込んでおり、これが放射線を薄めてくれる。 ・セシウム 137 が、大きな魚の体内に蓄積しても、やがては排出される。