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50巻5号( PDF 44kB)
N―129 1998年5月 認定医試験出題問題とそのポイント 平成 9 年度既出試験問題より 〔症 例 E〕 氏 名:Y.M. 年 齢:28歳 家 族 歴:特記すべきことなし. 既 往 歴:20歳時に SLE と診断され,以後内科にて薬物療法を 3 年間受けていた.過 去 5 年間は定期的な検診のみであり,妊娠には問題ないといわれている. 月 経 歴:初経12歳,月経は28日周期,整. 経血量中等,月経困難症なし. 妊 娠 歴:26歳にて結婚, 3 回経妊 0 回経産. 26 歳 自然流産 妊娠 8 週にて稽留流産と診断され,子宮内容除去術を受ける. 27 歳 自然流産 妊娠 7 週にて胎児心拍確認,妊娠 8 週にて突然性器出血,下腹部痛が出現し流産となる. 28 歳 自然流産 妊娠 6 週にて胎児心拍確認,妊娠 7 週で少量性器出血を認め,切迫流産の診断の もとに入院管理となる.妊娠 9 週に性器出血,下腹部痛増強し流産に至る.不規 則抗体陰性,感染症スクリーニング検査も異常はなかった. 主 現 訴:挙児希望 歴:流産を 3 回繰り返したため,次回妊娠への強い不安があり,また流産予防 の免疫療法があるということを知人から聞いて治療を希望している. 来院時所見:身長162cm,体重51kg.外陰部,腟は視診上正常.内診にて子宮は正常大 で前傾前屈,左右の子宮付属器は触知しない.ダグラス窩,仙骨子宮靭帯に は圧痛や腫瘤はない. 血液検査所見:一般生化学検査,尿検査:特記すべき異常なし. 出血・凝固系検査:正常. 甲状腺機能検査:正常. 自己抗体検査:抗核抗体陽性.IgG, IgM,補体は正常域内. 卵巣機能検査:卵胞期,黄体期でのホルモン値は正常. 基礎体温は二相性. 経腟超音波断層法所見:特記すべき異常なし. 〔症 例 E〕 ポイント(認定医制度卒後研修目標) : 本問題は免疫学的視点からみた不育症の診断と治療に関するものである.不育症とくに 習慣性流産に対する免疫療法,不育症と自己免疫異常の関連性について勉強しておく必要 がある.そのためにはまず,妊娠の免疫的維持機構,すなわち,同種移植についてまとめ ること.次に,不育症に対する免疫療法についてその概略を説明できるようにしておく. これは照射を行った夫末梢血約100ml からリンパ球を分離し,生理食塩水に浮遊させ患者 皮内に注射する方法である.このようなリンパ球接種を 1 カ月間隔で 2 回行い,妊娠を 病 N―130 日産婦誌5 0巻5号 許可する.その適応は 3 回以上の初期流産を反復する習慣流産症例であり,一般的検索 により原因が不明で,遮断抗体活性が陰性であることを条件にしている.さらに最近のト ピックスとして不育症と自己免疫異常が注目されているので,抗リン脂質抗体症候群につ いてまとめること.とくに抗カルジオライピン抗体,ループスアンチコアグラント,β2GPI 抗体などが一体なにを意味するのか充分把握しておくこと.これらについては研修コー ナーの49巻 9 号生涯研修プログラムに掲載されているので熟読することをすすめる. 〔症 例 F〕 氏 名:H.K. 年 齢:22歳 妊娠分娩歴:未婚, 0 回経妊 0 回経産 月 経 歴:初経11歳以後26日周期で順調であったが,平成 5 年 8 月初旬(20歳)の月 経以降は無月経となっている. 主 訴:無月経,体重減少 現 病 歴:平成 2 年春(17歳)頃より嘔気,嘔吐が出現し,近医にて神経性胃炎の診 断で治療を受けていた.平成 5 年夏(20歳)より上記症状の増悪と体重減 少(50kg→37kg)を認めた.低カリウム血症,低クロール血症を伴った嘔 気,嘔吐のため平成 7 年 6 月当院内科へ紹介入院となった.内科入院後の 精査では,消化管,腎臓等に器質・機能性疾患はなく,カリウム製剤と点滴 療法で電解質異常は改善されており,無月経の原因並びに治療目的に産婦人 科を紹介された. 両親は患者の出生直後に離婚し,現在は母方の祖母と母とで暮らしている が,母親を拒否することはなく,また食行動の異常や痩せへの願望も認めな い.現在,結婚を前提とした男性との付き合いがあり,無月経の治療を希望 している. 既 往 歴:上記以外には特記事項はない. 初診時所見:身長159.6cm,体重32.7kg(BMI : 12.8) 2 次性徴の発達は正常であるが, 体脂肪は極端に減少している. 男化徴候, 甲状腺腫,乳汁漏出はなく,深部腱反射も正常である.血液一般検査では軽 度貧血を認める以外は特記所見はない. 内分泌検査:プロゲステロン試験:陰性 エストロゲン―プロゲステロン試験:陽性 LH-RH(100 μg),TRH(500 μg)負荷試験 前 LH(mIU/ml) FSH(mIU/ml) PRL(ng/ml) TSH(μU/ml) 0.6 4.9 1.2 0.6 15 分 30 分 3.0 9.1 4.8 3.7 4.1 12.6 5.0 4.9 60 分 4.8 19.4 6.3 5.6 120 分 4.2 8.6 4.0 5.2 15 分間隔での血中 LH の頻回の測定では律動性分泌を認めなかった 〔症 例 F〕 ポイント(認定医制度卒後研修目標) : 今回は体重減少性無月経に関する問題である.これは1)神経性食欲不振症,2)スト N―131 1998年5月 レス,環境の変化,3)美容上の理由による本人の意志による減食,等によって,急激 ( 3 カ月∼ 1 年以内)に体重減少( 5 ∼10kg,元の体重の10∼30%)し,今まで順調で あった月経周期が無排卵,無月経になった場合を体重減少性無月経という.本疾患の特徴 は,既婚者より未婚者に多く,第 1 度無月経より第 2 度無月経に多い.無排卵症の14% が体重減少性無月経で,第 2 度無月経全体の1 3, 未婚者第2度無月経の2 3を占める.そ のほとんどは25歳未満である.本疾患の経過は,放置すると過半数が第 2 度無月経のま まの状態が続く.経過中に第 1 度無月経になった症例はそのほとんどがクロミフェン投 与により排卵可能となる.治療としては本症発症後できるだけ早く治療を開始したほうが 回復が早い.未婚者,既婚者に対する治療としては1)体重減少の誘因の除去,2)体重 の回復,3)クロミフェン投与,4)第 2 度無月経に対する estrogen-gestagen 療法や hMG-hCG 療法を症例により選択する.なお,本疾患では卵巣のゴナドトロピンに対す る反応性は正常に保たれており,hMG-hCG 療法を行えば排卵が期待できる. これらについては研修コーナーの49巻 2 号研修コーナーに掲載されているので熟読す ることをすすめる.