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人 山に登り, 山 人と生きる シェール道 サウスロード 山羊戸渡 (ゴートリッジ) ~六甲山系登山道「杣谷」整備計画~ 建09-12 今村 吉晴 コンセプト 徳川道 1938年(昭和13年)の阪神大水害以降,市街地の安全を守るために砂防ダムが積極的に造られてきた六甲山地では,現在,六 甲砂防事務所(国土交通省)により造られた砂防ダムが500基以上,兵庫県・神戸市などにより造られたものを含むと約1000基も の砂防ダムがある. しかし,それらの中には,過去の災害や平常時の堆砂により土砂が溜まったまま放置されて,いざという時に砂防ダムとし ての役割を果たせないものや,滝などの観光資源を隠してしまっているものがある. そこで,防災とレジャーの共存を果たすべく,砂防ダムが災害時に最大限の力を発揮でき,普段もレジャーの一部として利 用される計画をする. 敷地:杣谷(カスケードバレー) 杣谷峠 アゴニー坂 700 * 650 長峰山 (天狗塚,ドクターズノブ) 摩耶山と長峰山(天狗塚)との間の深い渓谷が徳川道の中 でも杣谷と呼ばれており,六甲山開発期の明治から大正 の頃,神戸市内からの六甲登山はもっぱらこの道が利用 されていた. その頃,外国人たちは六甲山上の別荘ヘ行くのに杣谷 口の五毛から徒歩で登るか駕籠に乗っていったといわれ ており,杣谷のことを「Cascade Valley(小さな滝の谷)」 と彼ら独自の名前で呼んでいたのが今でも杣谷の別名と して残っている.彼らは,杣谷をただ山上の別荘ヘ行く ためだけに利用したわけではなく,沢を遡行しながら小 さな滝群を見たり,雪が積もった時はスキーをしたりし て楽しんでいた. しかし,1938年(昭和13年)の阪神大水害で谷筋が著し く荒らされ,この災害以降も何度か大きな災害に荒らさ れたため,また,阪神大水害を受けて六甲山の砂防事業 が急速に進み,7基もの砂防ダムが谷沿いに下流から山 上までできたため,昔の面影はなくなっていった. 杣谷 徳川道 鉄道・ケーブルカー・ロープウェイ 砂防ダム 杣谷周辺概略図(現在) 0m 3km 1km 500m 600 摩耶別山 550 500 桜谷 450 *徳川道 江戸幕府は,参勤交代時の西国街道の通行にあたって,外国人の多い神戸で武士と 外国人の衝突事件を防ぐため,神戸を通らずに西国へ出る道としてこの道を造った. しかし,この新道は完成するかしないかくらいに徳川氏が大政を奉還し,必要がな くなってしまったため廃道となっていた. それが大正年代よりハイキングコースとして利用されるようになり,現在は徳川道 と呼ばれている. 杣谷 (カスケードバレー) 摩耶山 400 350 天狗道 1.5km 都賀川沿いに並んだ 水車小屋では,菜種 油の油絞り,酒造り 用の米の精米,そう めんの粉づくりなど の動力として都賀川 の流れを利用した. 300 250 青谷道 小さな滝群 上野道 200 五毛 0m 300m 1km 杣谷周辺図(六甲山開発期の頃のイメージ) S=1:5000 100m 500m 積雪時のスキー 水車小屋 支流から 登山ルート 支流から 駕籠 支流から レジャー:○ 居留外国人は徒歩か駕籠でこの谷を探勝しながら山上まで登り,積雪時はスキーをして楽しんだ 防災 :× 土砂災害が起こると下流域の市街地に大きな被害が出た 六甲山開発期の頃の杣谷 土砂の流れ 杣谷縦横断面模式図(六甲山開発期の頃のイメージ) シェール道 サウスロード 問題点:砂防ダムの堆砂 砂防ダムには,災害時,山から流れ出た土砂を受け止めて 下流の市街地を守る役割があるが,土砂が溜まることで徐々 にその役割も果たせなくなり,ただの邪魔者になりつつある 砂防ダムが増えてきている. 市立自然の家 徳川道 杣谷峠 摩耶第四堰堤 アゴニー坂 摩耶別山 700 1967年(昭和42年)の災害前後の五助堰堤 650 長峰山 (天狗塚,ドクターズノブ) 600 堆砂(小) 堆砂(中) 堆砂(大) 現在はこの途中段階の 砂防ダムが多く,防災 機能が落ちてきている 550 500 桜谷 摩耶第二堰堤 摩耶第三堰堤 放置 ・ 災害 放置 杣谷 (カスケードバレー) 450 水抜き 星の駅 摩耶山 流入土砂のほ とんどが堆砂 水抜きが詰まる と堆砂が加速 杣谷第二堰堤 砂防ダムとして 機能しなくなる 400 摩耶堰堤 350 天狗道 300 250 青谷道 杣谷堰堤 虹の駅 林道ばかりになった登山道 上野道 長峰霊園 200 永峰堰堤 0m 300m 1km 杣谷周辺図(現在) S=1:5000 100m 500m 小さな滝群(見る機会減少) ほぼ平坦な地で野生的にバ ーベキューなどが行われる 堰堤下はす ぐ市街地域 登山ルート 7基もの砂防ダム レジャー:△ 次々と設置された砂防ダムによりあまり谷床を歩かなくなり,かつてのようには楽しめなくなった 防災 :△ 過去の土砂災害で効果を発揮した砂防ダムも,土砂が溜まったままでは次の災害で役に立たない 現在の杣谷 永 峰 堰堤を越える道 からの眺望良し 掘削工事後の ため立入禁止 杣 谷 土砂の流れ 登山道から は見えない 杣 谷 2 摩 耶 2 摩 耶 支流から 支流から 杣谷縦横断面模式図(現在) 摩 耶 3 摩 耶 4 支流から ここから山上まで 石段の道が続く 六甲山系砂防事業の取り組み 都賀川流域の砂防ダムを例に ②排砂用固定クレーン 摩耶第三堰堤以外の重機が入れない砂防ダム これからの六甲山系砂防事業の費用目安 建設費(流路工や斜面対策工なども含む):約50億円/年 維持管理費:約10億円/年 土砂は溜まりにくいが, 砂防ダムとしての本来の 機能を損なう 人が入っていくのが困難な砂防ダムに溜まった土砂を,川の流れにまかせて下流側に流していく 排砂用固定クレーンのモデル 桂ヶ谷第二堰堤の場合 砂防ダム新設:約2.5億円 既存砂防ダムスリット化:約2億円 砂防ダムを新設するより環境への影 響が少なく,コスト削減にもなる. ただし,重機が入れる所に限る スリット型砂防ダム新設・既存砂防ダムスリット化 (2005年完成 ハチノス谷第二堰堤) 巻上機 排砂ホース 操作室 土砂移動 レール 吸入口 上下左右可動 バケット 砂防ダム設置 平常時の堆砂や災害により満砂 土砂の浚渫工事 浚渫工事により機能回復 (1956年 杣谷堰堤) (2010年頃 杣谷堰堤) (2011年~2012年 杣谷堰堤) (2012年12月撮影 杣谷堰堤) 操作室までの アクセス ② … 砂防ダム新設 さらに砂防ダム新設 (1972年完成 摩耶堰堤) (1979年完成 杣谷第二堰堤) 下流側の砂防ダムの延命 にはなるが,堆砂対策に はなっていない 幅や高さ,操作室の位置は砂防ダムに合わせる 東立面図 S=1:100 ③ ③人の利用と連動させて排砂 摩耶第三堰堤 ② 人がレジャーを楽しむ過程に,土砂の処理を組み込む 災害時には最大限の力を発揮するよう堆砂を抑 え,流してきた土砂も無駄にしない土砂管理へ ②既存の登山道からは 見えない滝を見る 振動ふるいによって分離され た砂礫はそのまま利用され, 泥水には固化材が混合される 水抜きにより土砂 が溜まりやすい フィルター プレス 解砕 装置 積込・運搬 有用土 配置図 S=1:500 混合された泥水は高圧フィルタ ープレスにかけられ,必要な強 度の脱水ケーキが製造される 脱水ケーキは解砕装置で細 かく砕かれ有用土となる A-A’断面図 S=1:200 0m ② 12m 平面図 S=1:200 4m ① 20m 0m 重 機 進 入 可 防災とレジャーの共存 普段は邪魔者扱いさ れている砂防ダムを レジャーの一部とし て利用する 300m 埋め戻し材・路床・覆土材・裏込め材などに有効利用 100m 500m 覆土 杣谷配置図 S=1:5000 路床材 裏込め材 路盤材 水抜き ② 砂礫 永峰堰堤の 堆砂敷から 浚渫土の処分費 がカットされ無 駄がなくなる A’ GL▼ 発電機 浚渫土 ①ウォールクライミング ④滝を間近で見 に行くなど 山奥から流してきた土砂をここで処理し,他所で建築資材などに有効利用していく 杣谷堰堤の 堆砂敷から A 滝を見る邪魔にならないように なるべく離れたところに設置 ③リフトで降りる &土砂の排砂 ② ①浚渫土を処理して有効利用 永峰堰堤~杣谷堰堤の間 土質改良機 北立面図 S=1:100 軽量 盛土 上流側 下流側 C 永峰堰堤~杣谷堰堤の間 浚渫土砂の処理プロセス 砂礫 山奥から流してきた土砂は杣 谷堰堤のクレーンの排砂ホー スから直接土砂溜めに下ろす 利用 分離 浚渫土 固化材添加 脱水改良 泥水 調整工程 解砕 混合工程 脱水工程 有用土 解砕工程 混合 分離 高低差を利用して必要な動力 を抑えた土砂処理プラント 長峰霊園 脱水 解砕 運搬 土質改良機 フィルタープレス 解砕装置 現在永峰堰堤に溜まっている 土砂は圧送ポンプで上げる B’ 登山道から土砂のリサイクル工程 が見学できる土砂処理プラント B 登山道から作業場が 見える程度に伐採 GL▼ C’ 0m B-B’断面図 S=1:250 30m 配置図 S=1:500 10m GL▼ C-C’断面図 S=1:250 50m 摩耶第三堰堤周辺 E’ 昔 これから 川の上を滑降する ターザンロープ 多数の小滝を見る → 少数の大滝を見る 積雪時のスキー → ターザンロープ 広い河原で食事 → 堆砂敷で食事 昔のように楽しみな がら砂防ダムの認識 を改めてもらう空間 砂防ダムを越えるため にできた現在の登山道 砂防ダムの役割を知ってもら うためのギャラリー&ベンチ 存分に楽しむためのロ ッカールーム兼更衣室 D’ 砂防ダムに対する認識 人がリフトで降り ると,連動して土 砂が排砂される 悪いイメージ 役割を知らない人もいる 現在 邪魔 危険 堆砂敷で自由に食事がとれる ように持ち出し可能な椅子な どを置いておくスペース D ウォールクライミングを して,現在の登山道から は見えない滝を見る 滝を間近で見 るための桟橋 砂防ダムのおかげで自分たちが住ん でいる街が守られていることを知る 利用後 気づき E 配置図兼平面図 S=1:300