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4−2 都市内任意高さの風速推定方法の検討

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4−2 都市内任意高さの風速推定方法の検討
4−2 都市内任意高さの風速推定方法の検討
1) 解析の目的
都市内風速の観測結果からでは、各観測点の観測高度が異なり、また周辺建物状況
との関連も異なることから、都市内でどこが強風域なのか、あるいは弱風域なのか把
握することは困難である。
本節では、常時監視局(2004年夏季)のデータを用い、各観測局の観測高さにおけ
る風速と周辺の建物高さ等都市形態パラメータとの関連を解析することにより、都市
内の任意の一定高さにおける風速推定方法を検討する。これにより、23区スケールの、
一定高さにおける風速を500mメッシュで推計し、23区内の強風・弱風域を示す、い
わば「風のポテンシャル分布図」を検討することを目的とする。
2) 解析の考え方(モデルの仮説)
一定高さにおける風速推定方法を考えるにあたって以下の仮説を考える。
・ 都市キャノピー層より上に出ている観測局の風速は「自然の」べき乗則にのっ
とって減衰している。
・ 都市キャノピー内の観測局は、周辺建物に影響され、べき乗則でその観測高さ
まで低減した風速(=都市構造物がない場合の風速、以下「自然風速」という)
より「過剰に」減衰しているはずである。
・ この過剰減衰率(比:観測風速/自然風速)は各観測高さの都市・建物パラメ
ータによって説明される。(森林気象水文学における「地面修正量」と同様の
概念)
なお、被説明変数である時間帯別平均風速(昼:12-17時、深夜:24-5時)は夏季
(6,7,8月)に限定し、東京タワー250mの風速が3m以上の条件で抽出した時間値を
平均した。
また、説明変数の都市パラメータは、観測局から半径500mの円内の範囲の建物GI
Sデータから集計した。
89
3) 解析結果
以下の解析では、まず①都市キャノピー層より上の観測局のデータからべき指数を
求め、都市キャノピー層より下(内)の観測風速の過剰減衰率(自然風速に対する比:
観測風速/自然風速)が何によって説明されるかを検討した。
①都市キャノピー層より上のべき指数
都市キャノピー層より上に出ている観測局のデータより、地表建物の影響を受けな
い風速の鉛直分布が「べき乗則」に則っていると仮定した場合のべき指数を求めた。
この結果は以下のとおりである。なお、「都市キャノピー層より上に出ている」との
判断は、観測高さが周辺500mの建物高さの累積度数の99%に相当する高さを超えてい
る観測局とした(図4−15参照)。東京タワー250m、107mを含む9局がこれに該当す
る。
・ べき指数は昼0.183、深夜0.299と求められ、相関係数もそれぞれ0.855、0.803
と高い値を示している(図4−14参照)。
・ このべき指数は、「窒素酸化物総量規制マニュアル」などに示されている「海
岸に近く緩やかな起伏をもつ松林が散在するような地形」の値(不安定時0.1中立0.2:安定時0.25∼0.3)と整合の取れた値となっている。
以下では上記を勘案し、べき指数昼0.15、深夜0.25として、べき乗則でキャノピー
層内の観測局の観測高さまで低減した風速(=自然風速)を推定する。
昼
深夜
7.0
7.0
0.1834
0.2994
y = 2.1903x
2
R = 0.6455
6.0
5.0
5.0
平均風速(m/s)
平均風速(m/s)
y = 1.1138x
2
R = 0.7313
6.0
4.0
3.0
2.0
4.0
3.0
2.0
2004年夏季 平均風速U>=3m 昼
1.0
2004年夏季 平均風速U>=3m 深夜
1.0
累乗 (2004年夏季 平均風速U>=3m 昼)
0.0
累乗 (2004年夏季 平均風速U>=3m 深夜)
0.0
0
50
100
150
観測高さ(m)
200
250
300
0
50
100
150
観測高さ(m)
200
図4−14 都市キャノピー層より上にある観測局から求めたべき指数
90
250
300
東京タワー4m
中央区晴海
港区白金
文京区本駒込
江東区大島
品川区豊町
目黒区碑文谷
大田区東糀谷
世田谷区世田谷
渋谷区宇田川町
中野区若宮
杉並区久我山
荒川区南千住
板橋区氷川町
80
75
70
65
60
55
高さ(m)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
50%
75%
90%
95%
累積度数(棟数)
97.50%
99%
練馬区石神井台
練馬区北町
足立区西新井
葛飾区鎌倉
江戸川区鹿骨
港区台場
練馬区練馬
江戸川区春江町
江戸川区南葛西
葛飾区水元公園
世田谷区成城
足立区綾瀬
品川区八潮
80
75
70
65
60
55
高さ(m)
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
50%
75%
90%
95%
累積度数(棟数)
97.50%
99%
図4−15 観測局周辺の建物高さ累積度数分布
91
②過剰減衰率(比:観測風速/自然風速)の検討結果
・ 過剰減衰率の説明変数として様々な都市形態パラメータ(建物高さ、建蔽率、
容積率等)を検討した結果、「観測高さ断面における空間率」(あるいは空隙
率=1−観測高さ断面における建物面積占有率)が最も相関係数が高く、説明
因子として適切であると判断された。
・ 都市キャノピー層内の観測局の過剰減衰率(比:観測風速/自然風速)と「観
測高さ断面における空間率」の相関係数は0.853と非常に大きく、また回帰式は
空間率が1.0の(建物がない)場合に過剰減衰比が1.0となる(回帰式が(1,1)
を通過する)ことから、この回帰式が過剰減衰率の推定式として妥当であると
判断される(図4−16左図参照)。
・ この結果から、都市内(23区内)の任意高さの昼の風速推定式としては
任意高さの風速=過剰減衰比*×東京タワー250m地点風速×(推定高さ/250)0.15
*過剰減衰比=3.7595×(推定高さの空間率)- 2.7677
として与えられる。
・ 推定式による、各観測局位置・高さにおける推定風速と観測風速の相関も相関
係数0.818と高い値を示している(図4−16右図参照)。
推定風速 vs 観測風速
2004年昼,べき係数=0.25
5
1
y = 0.9918x
R2 = 0.6685
y = 3.7595x - 2.7677
R2 = 0.7248
4
0.8
0.7
推定風速(m/s)
過剰減衰比<観測風速/自然風速>
0.9
0.6
0.5
0.4
3
2
0.3
1
0.2
0.1
0
0.8
0
0.82
0.84
0.86
0.88
0.9
0.92 0.94
観測高さ断面における空間率(-)
0.96
0.98
1
0
1
2
3
4
観測風速(m/s)
図4−16都市キャノピー層内過剰減衰比vs空間率及び推定値vs実測値の相関
「観測高さ断面における空間率」の具体的な例として、図4−17に神田司町局及び
江戸川区鹿骨局の観測局から 500m 範囲の建物分布図を示す。また、合わせて図4−2
に示した 2004 年夏季の風配図も示す。
測定局の空間率は、測定局周辺半径 500m において測定高さより高い建物(図中、赤
色建物)を除いた部分の面積率であり、下式で求められる。なお、建物高さは地上階数
×4m として求めている。
測定局の空間率 1.0
測定高さより高い建物の面積
半径500m円の面積
92
5
千代田区神田司町(H=27)
江戸川区鹿骨(H=9.5)
N
N
NW
NW
NE
NE
40
0.78 m/s
W
40
20
E
2.45 %
SW
2.31 m/s
W
SE
20
E
2.4 %
SW
S
SE
S
図4−17 測定局周辺の建物分布
(左:神田司町局:空間率 0.794、右:江戸川区鹿骨局:空間率 0.942)
神田司町局は測定高さ 27m と比較的高いにもかかわらず、周囲を観測高さより高い建
物により囲まれているため、夏季上空風の主風向である南風はカットされ、僅かに空間
が開いている方向の東風が卓越風向となっている。2004 年夏季の風速実測値は日平均
0.78m/s、昼平均 0.92m/s と1m/s を下回っている。表4−2に示したように、本地点は
東京タワー250m とのベクトル相関係数が低く、今回の解析からは除外しているが、先に
示した推定式で推定すると昼平均風速は 1.03m/s となり、(風向は近傍建物の偏向を受
けているにしても)このような稠密な場所でも、スカラー量としての平均風速は概ね妥
当な値が推計されている。
鹿骨局は東京タワー250m とのベクトル相関係数 0.920 と非常に大きく、広域的な風に
支配されている測定局と言える。2004 年夏季の風速実測値は日平均 2.31m/s、昼平均
3.11m/s、これに対し昼平均推計値は 3.04m/s と実測値とほぼ一致する。風配図は南が
極端に卓越しているが、これは近くの新中川放水路沿いの風が吹いているといったこの
地区の特性をあらわしている可能性が高い。
93
23区内の高さ別平均風速の推定は、以上の推定式を用い、東京都都市計画GISデ
ータから 500m メッシュの高さ別空間率を求め、上空風として東京タワー250m の観測
値:昼平均風速 6.3m/s を与えることにより23区内全域の3次元的な風速を推定した。
具体的な1つのメッシュの事例を図4−18 に示す。また、このメッシュにおける昼平
均風速の鉛直分布推定結果を図4−19 に示す。
図4−18 500m メッシュの建物分布(例)
(左:H=30m,空間率=0.84、右:H=50m,空間率=0.99)
風速の鉛直分布
250
都市内風速(例)
自然風速
(べき指数0.15)
200
高さ(m)
150
100
50
0
0
2
4
風速(m/s)
6
8
図4−19 500m メッシュ(例)における昼平均風速鉛直分布
94
4) 東京23区内一定高さにおける風速分布(風のポテンシャル分布図)
前項に示した推定式により、500m メッシュの建物パラメータを用いて、
地上 10m∼100m
の風速分布を推計した。図4−20 には H=10m∼50m の平面分布図を示す。また、図4−
21 には皇居を中心とした南北軸・東西軸における風速の鉛直分布図を示す。これらから
以下のことが読み取れる。
・ 千代田区、中央区、台東区など夏季に高温となる地域に弱風域が広がっている。
(図4−20)
・ 荒川流域に強風域が連続している。(図4−20)
・ 皇居から明治神宮にかけて弱風域を分断する地区が見られる。(図4−20)
・ 風速の鉛直分布図では弱風化する領域として都市キャノピー層が3次元的に捉
えられている。(図4−21)
(H=10m)
(H=20m)
図4−20(1) 23区内風速分布推定結果(H=10,20m)
95
(H=30m)
(H=40m)
(H=50m)
図4−20(2)23区内風速分布推定結果(H=30∼50m)
96
(断面位置図)
(南北断面)
(東西断面)
図4−21 23区内風速鉛直分布推定結果
97
4−3 まとめと今後の課題
1) 東京23区における風及び気温の基礎的解析
東京タワー250m の測定結果と他の常時監視局(一般局)のベクトル相関は高い相関を
示し、東京タワー250m が東京都区部上層の広域的な気象条件を捉えていることが確認で
きた。自排局については、観測高度が低いこともあり、近傍建物や街路配置に影響を受
けていることは明らかであり、主要な道路方向に先鋭化した風配図となっている。
夏季の風速の 1997 年以降の経年変化を見ると、平均風速に対する風速比はほぼ横ば
いといえるが、東京タワー25m、107m では継続的な風速比の低下(弱風化)の傾向が見ら
れる。東京タワー各高さの夏季時間帯別平均気温 10 ヶ年間の経年変化では、下層で若
干高温化の傾向は見られるが、上層はほぼ横ばいである。
今回用いた鉛直方向のデータは東京タワー1ヶ所のみである。このデータは広域的な
気象状況を概ね代表していることが確認できたが、今後、都区部各地において鉛直方向
の気象データの蓄積が進んだ際には、それらのデータを収集し、都区部上層の気象をさ
らに詳細に解析していくことが望まれる。
2) 都市内任意高さの風速推定方法の検討
常時監視局(2004 年夏季)のデータを用い、各観測局の観測高さにおける風速と周辺
の建物高さ等都市形態パラメータとの関連を解析することにより、都市内の任意の一定
高さにおける風速推定方法を検討した。これにより、都区部の、一定高さにおける風速
を 500m メッシュで推計し、都区部の強風・弱風域を図化することができた。
この成果は都区部の換気力ポテンシャルの評価を行うための基礎資料として活用で
きると考えられる。また、GISデータによる都市形態パラメータを用いて任意高さの
風速を推定することにより、都市キャノピー層内の弱風層厚の推定に貢献できることが
確認できた。
ただし、今回検討に用いたデータは、単年度データであることから、複数年データで
検討を行い、べき指数の安定性を見ることも必要と考える。また、今回は都区部全域を
評価することを目的としていることから、建物過密地区等の特別な条件の地域への適用
性について今後検討することが課題となる。
98
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