...

Space and “Monodzukuri”

by user

on
Category: Documents
10

views

Report

Comments

Transcript

Space and “Monodzukuri”
随想
宇宙と「ものづくり」
(一財)素形材センター評議員・(一社)日本鉄鋼協会参与・(独)産業技術総合研究所特別顧問
脇 本 眞 也
最近ではテレビや新聞、インターネット上の個人ブログなどで宇宙に関する話題が盛んに採り
上げられている。一口に宇宙と言ってもその内容は多岐にわたる。日本が打ち上げ、人類史上初
の小惑星サンプルリターンを成し遂げた奇跡の宇宙探査機「はやぶさ」は言うに及ばず、来年打
ち上げを予定している「はやぶさ 2」も多くの関心を集めている。また日本がハワイに建設した世
界最高クラスの性能を誇る「すばる望遠鏡」の観測成果も話題となっている。さらに昨年 5 月に
は日本では 25 年ぶりの金環日食が見られたこと、今年 11 月にはアイソン彗星が白昼でも見える
大彗星になるとの予想があることなど、天文現象に関する話題も事欠かない。このような宇宙に
ついての話題は、華やかな研究成果や観測成果などが強調されることが多いが、実はそれを支え
ているのは地道な「ものづくり」の技の成果なのである。
宇宙探査機「はやぶさ」は、2003 年に内之浦宇宙空間観測所から M-V ロケット 5 号機で打ち
上げられ、太陽周回軌道に投入された。2005 年には小惑星「イトカワ」とランデブーし、小惑星
表面の試験片を採集し、2010 年に地球に帰還し、試験片が収められていたカプセルは「はやぶさ」
本体から切り離されて、オーストラリアのウーメラ砂漠に着陸した。このように結果だけを見る
と順風満帆にように思えるが、実は打ち上げから帰還まで約 7 年間、交信途絶など数々の技術的
トラブル続きであった。幾多のトラブルに見舞われながらもこれを乗り越えて当初のミッション
を完遂したのである。この苦難の「はやぶさ」の旅程については国民的な関心事となり、竹内結
子主演「はやぶさ /HAYABUSA」(20 世紀フォックス)、渡辺謙主演「はやぶさ、遙かなる帰還」
(東映)、藤原竜也主演「おかえり、はやぶさ」(松竹)など映画化もされる程となった。
当然のことながら「はやぶさ」は多くの重要部品から構成されている。全備質量はわずか 510
キログラムと一般的な自家用車の半分程度であるが、構体、コンピュータ、通信系(アンテナ等)、
電源系(太陽電池パネル等)、軌道制御系(イオンエンジンシステム等)、姿勢制御系、探査機器
(航法用センサ、探査用センサ等)、サンプラー系(プロジェクタ、カプセル、搬送機構等)、帰還
カプセル等、すべて「はやぶさ」のための特別仕様の部品ばかりである。私が調べただけでも 100
社以上の全国のわが国ものづくり企業が、開発・運用・回収サンプル解析に関わっている。しか
もその多くが中小企業であり、中には従業員 20 人の小規模企業も参加している。私の出身県の愛
媛県からも有限会社高橋工業が、サンプル採取装置の部品加工に参画している。まさに「はやぶさ」
は、我が国ものづくり企業が長年培ってきた技術力と職人の技の集大成といっても過言ではない。
「すばる望遠鏡」は米国ハワイのマウナ・ケア山(標高 4,205 m)山頂にある日本の国立天文台
の大型光学赤外線望遠鏡である。この望遠鏡は、1999 年にファーストライト(試験観測開始)を
した主鏡直径 8.2 m という世界最大級の一枚鏡を持つ反射望遠鏡である。観測開始後は数々の成果
を挙げている。冥王星にエタンの氷、カロンに水の氷を発見(1999 年)、太陽系外縁部の微小天体
を発見(2001 年)、宇宙の果てにある爆発銀河を発見(2002 年)、最も像の広がったクエーサー重
力レンズを発見(2003 年)、太陽系外に微惑星のリングを発見(2004 年)、土星の新衛星 12 個を
48
SOKEIZAI
Vol.54(2013)No.9
発見(2005 年)、127 億年前の宇宙に超巨大ブラックホールを発見(2006 年)、ホット・ジュピター
へ進化しつつある系外惑星を発見(2007 年)、123 億光年彼方でベビーブーム中のモンスター銀河
を発見(2008 年)、若い恒星周囲の円盤表面に氷を発見(2009 年)、かみのけ座銀河団に広がった
電離水素ガス雲を多数発見(2010 年)、爆発的な星形成をする「ロゼッタ - ストーン銀河団」を発
見(2011 年)、重い恒星の巨大な惑星を直接観測で発見(2012 年)、太陽型の恒星を周回する「第
二の木星」の直接撮影に成功(2013 年)、など世界の天文学会に貢献する新発見・素晴らしい研究
成果を次々に発表してきている。
「すばる望遠鏡」も当然のことながらハイテク技術が多数採用されている。例えば、コンピュー
タで制御された 261 本のアクチュエータと呼ばれるロボットの指が主鏡を裏面から支持すること
により、望遠鏡を傾けたときに生じる主鏡の歪みを補正し、常に理想的な形に保つようにする能
動光学という技術である。また望遠鏡を支える 500 トン余りの頑丈な構造は、摩擦を最小限に抑
えるために油パッドの上に浮かべられており、最新のリニアモーターを取り入れた駆動システム
で動くようになっている。さらに空気の揺らぎを抑える円筒形ドームも独特のものである。すば
る望遠鏡を支える最新技術はこれら以外にも多数あるが、殆どの技術は我が国の電機メーカー、
光学機器メーカー及び多数の部品製作で貢献した中小ものづくり企業の技術の集大成である。
すばる望遠鏡の製作は我が国独特の「精密重工業」と言っても過言ではなく、ものづくり職人の
技(わざ)の結晶でもある。
昨年 5 月には日本で 25 年ぶりの金環日食が見られた。太平洋側を沿うように金環日食が見られ、
多くの人が神秘的に光り輝くリングを見ることができた。この金環日食は、多くの天文アマチュ
アが天体望遠鏡や独自に工夫を凝らした撮影機材を持ち出して撮影・観測を行った。また今年 11
月にはアイソン彗星が太陽に接近し、金星や満月の明るさを超える大彗星になる可能性があると
予想されている。一部には白昼でも見える大彗星になるとの予想もある。これについても多数の
天文アマチュアが観測機材を工夫して、多面的な観測に挑戦するものと思われる。
今、我が国では天文関係の月刊誌には、天体望遠鏡や天体用カメラのみならず天文アマチュア
用に工夫が凝らされた多種多様の天体観測用機材の宣伝が掲載されている。最近は宇宙ブームに
乗って天文アマチュアの数が増えてきているとはいっても、天文マニアの使う天体望遠鏡や特殊
カメラ等の撮影機材のマーケットはそれ程大きなものではないと思われる。このような小さなマー
ケットでも我が国独特のものづくり企業がそれぞれ工夫を凝らして、多品種少量生産の代表のよ
うな天体観測機材の開発・生産に取り組んでいる。まさに我が国ものづくり企業の技術が天文学
の専門家のみならず天文アマチュアの観測をも支えていると言っても過言ではない。
以上のように、一見関係のなさそうな宇宙の世界とものづくりの世界であるが、宇宙観測や宇
宙探査を支えているのは、実は我が国ものづくり技術なのである。ものづくり技術なしには、100
億光年先の銀河の研究もできないし、宇宙探査機も飛ばないのである。このような思いを込めて、
時には夜空の星を眺めてみてはいかがでしょうか。カラオケで谷村新司の「昴−すばる」を歌う
人も、たまには夜空に瞬く散開星団「すばる」を見てはいかがでしょうか。
Vol.54(2013)No.9
SOKEIZAI
49
Fly UP