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中国とインフラビジネスでどう向き合うか

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中国とインフラビジネスでどう向き合うか
「質の高いインフラ」海外展開
∼アジア・アフリカ地域∼
特
別
寄
稿
中国とインフラビジネスでどう向き合うか
AIIB問題やインフラ受注競争を考える
津上工作室代表取締役
津上 俊哉
いま日本は質の高いインフラ投資を海外に提供す
ることを国策にしようとしているが、中国が強大な
競争相手になっている。
これまでの中国は開発援助の受け手であり、ビジ
ネス面でも「広大な国内市場」に恵まれた分、海外
誤解の多いAIIB
日本では「AIIBは『一帯一路』のための銀行だ」
と理解している人が多い。加えて、国際金融慣行が
無視される、中国の露骨な国益追求の手段になるな
ど様々な疑念、警戒感も強い。
にあまり目を向けてこなかった。
「世界最大の輸出大
たしかに、初期のAIIB構想は「資本金の半分は中
国」と言っても、海外販路を持つ外資企業に「生産
国が出資」と伝えられるなど、国際金融機関として
拠点」を場所貸ししていただけ、の憾みがあった。
成り立つか疑問だったが、欧州諸国などが多数参加
しかし、AIIB(アジアインフラ投資銀行)や「一帯
した結果、
「仕上がり」がずいぶん異なる姿になった
一路」構想に象徴されるように、習近平政権の登場
ことは押さえておくべきだ。日米以外の主要国がほ
以来、その姿勢は一変した感がある。
とんど参加(将来的には80ヶ国を超えるとの観測も
ある)した結果、中国の比率が出資比率30%、議決
「経済大国外交」の背景
権比率26%程度まで落ちたことはその表れだ(注:
AIIBや「一帯一路」構想は、中国が著しい経済成
仮に日本がGDP見合いで加盟すれば、中国の持つ議
長で手にした財力を活かして、経済・外交の両面で、
決権が25%を割って、いわゆる拒否権も消滅する)
。
より能動的なプレイヤーになろうとする「経済大国
また、欧州諸国が雪崩を打つようにAIIBに加わっ
外交」の始まりを象徴する。そこには、大別三つの
たことで、中国は顔が立ったが、声の大きい少数株
動機がある。
主が多数参加した結果、身勝手な運営は許されなく
第一は、中国企業が輸出や投資などで海外に進出
するのを助けようとする動機だ。いま中国の多くの
製造業が深刻な過剰設備問題に見舞われている。
「広
大な国内市場が飽和してしまったので、新たな市場
を見つけたい」…我々に一番見えやすい思惑だ。
なった。このため、中国が「AIIBは一帯一路という
より、国際貢献に専念」と割り切る可能性もある。
そう推測するのは、中国がAIIB以外にも「一帯一
路」構想推進の専用機関として、シルクロード基金
(以下「基金」という)を設立しており、
「国益追及」
二つ目の動機は、援助外交で周辺諸国に言わば恩
は、この基金を使って気兼ねなく進められるからだ。
を売り、周辺との外交関係の安定化、有利化を図る
それらを考えると、AIIBを強く警戒する一方、基
ことであり、習近平主席は2013年10月にした「周辺
金については情報が乏しいせいで「ノーマーク」式
外交講話」で、そんな狙いを端的に述べている。ど
の論調は、的外れではないか。今後日本が中国とイ
ことなく破格の土産で「朝貢」を勧誘した昔の中国
ンフラの受注競争を展開していく際に手強い相手に
王朝外交を思い起こさせるし、日米などが進める
なるのは、実はAIIBよりも基金の方であろう。
TPP構想で中国が包囲されるのを防ごうという思惑
もここに含まれる。
AIIBは既に国際協調に前向きだ。と言うのも、
国内でライバル関係にある基金は、人民銀行のほか
見落としがちだが、中国は「経済の領域において
に海外投融資の経験が豊かで海外とのパイプが太い
中国の国際的な影響力、地位が急速に高まりつつあ
中国輸出入銀行、国家開発銀行、中国投資公司(ソ
る」ことをしきりに国内に向けて宣伝している。内
ブリン・ファンドCIC)が株主に並んでいる。加えて、
政が多事多難な折、国民のナショナリズム感情に経
中国の単独運営なので意思決定もAIIBより迅速だ
済面で穏当な充足の場所を見つけて、周辺諸国との
ろう。そう考えると、投融資を希望する国はまず基
外交・安保摩擦を抑制したいからだろう。これが三
金の門を叩くのではないか、そうなれば、AIIBは
つ目の動機だと言って良い。
客集めに苦労する可能性がある。だから、設立準備
12 「港湾」2016・1 特集●「質の高いインフラ」海外展開
中のAIIBが世界銀行やアジア開銀との協調融資に
前向きなのは理由があることなのだ。資本不足で融
第1号
パキスタンの水力ダムBOT事業への投資、
世銀の投資会社IFCとの共同投資
第2号
中国化工公司によるイタリアの
タイヤメーカー、ピレッリ買収への参加
第3号
ロシアヤマル半島の液化天然ガス事業会社
の持分10%の買収
資需要に応じきれていない世銀・アジア開銀側とし
ても融資額を増やすのと同じ効果が期待できるか
ら、ある種のウィン・ウィンになる可能性がある。
このように考えると、日本も当分加盟はしないが、
外からJICAやJBICなど日本の援助機関が共同事業を
実施して、
「若葉マーク」時代のAIIBを国際慣行の方
表 シルクロード基金の投資事例
に誘導する方が「大人の対応」ではないか。そうい
鉄鋼業の仕事には結びつきそうもない」ものが増え
う関係を維持していれば、AIIBの側からも「そろそ
てきた(表参照)
。投資を焦げ付かせたら大変だとい
ろ加盟してほしい」という要望がまた改めて寄せら
う意識が増してきたからだろう。
れるだろう。
破格の条件で中国に受注をさらわれる事例は今後も
「加盟するも良し、しなくても良し…」何年か経
生じうるという覚悟は必要だが、道理に合わないやり
っても、この選択の自由が保全されている状態が日
方は所詮長続きしないと達観する姿勢も必要だ。そ
本にとっていちばん有利であり、逆に「参加お断り
のうえで、今後大切だと思うことを何点か挙げたい。
とは言わないが、いまさら日本にポストを要求され
第一に、インフラが整備されれば、その利用に排
ても、応じるのは難しい」的な対応をされると、事
他性はないことだ。未だ国民みなが豊かとは言えな
実上日本には参加の選択肢が残されていないことに
い中国の負担で途上国のインフラが整備されるなら、
なる。
それはそれで地域や世界の経済にとって慶賀すべき
アジア開銀の場においても、AIIBとの関係につい
ことであり、日本はむしろその後に、どのようなビ
て、加盟国の大多数と考え方が大きく食い違ってい
ジネス活用ができるか、の知恵をひねるのも一案だ。
るというのでは、総裁を出す国としての日本の立場
にとって決して良いことはないと思う。
第二に、日本側も業者本位に「質の高いインフラ」
を押しつけている憾みはないか。
「インフラを売りたい」
点は中国もお互い様だが、中国が鉄道車両を現地組
中国とのインフラビジネス競争
立するといったオファーをしていることには学ぶべ
インドネシアの高速鉄道事業を中国に負けて失注
きだ。もともと日本は、30年近く海外進出を重ねて
してしまったことは、日本の関係者にとって衝撃だ
きた経験があるし、いまは万事人手不足で供給力に
ったようだが、中国との競争、対抗心で「熱く」な
も限界があるのだ。現地が喜ぶ調達方法を考える点
ってしまうのは考えものだ。
で、後発の中国に後れを取ってはならないだろう。
このように不採算でリスクも高いインフラ事業に
第三。インフラ受注競争に限らず、今後の中国と
ついて、低金利、政府保証も求めないというのは、
の関係を考える上では、広く長い視野で物事を見る
最初から贈与すると言うのと半分同じようなもので、
心がけが必要だ。
中国にこういう商法を展開されたら、日本は到底が
っぷり四つの競争をすることはできない。
遠大な「一帯一路」構想が登場して、今後10年は
かなりの威力を振るうかもしれない。しかし、歴代
しかし、こんな無謀なことができるのも中国の経
中国王朝の「朝貢」お土産攻勢だって、王朝の全盛
験の未熟さのなせる業であり、いったん焦げ付きを
期数十年しか続かなかった。中国経済の前途が決し
出したりしたら、国内で大きな反動が来るのではな
て平坦ではないことを思う時、最初の勢いが20年、
いか。と言うのも、昨今の中国では、政府の無駄遣
30年続くとは思えない。
「半分贈与」みたいな気前の
いに対する国民の目が格段に厳しくなる兆しがある
良い援助条件にも無理がある。
からだ。例えば9月に習近平主席が国連総会で発展途
「一帯一路」の評価が定まるのは100年後ではない
上国支援に向けた支援基金を設立し、20億ドルを拠
か。持続可能な経済合理性があるか、特定国だけで
出する意向を表明したが、国内ではネットを中心に
なく地域全体の発展のために役立っているか…二つ
批判や不満の声が挙がったという。
の条件を満たすインフラは100年後もじゅうぶん機能
そう言えば、先述したシルクロード基金も、当初
しているだろうが、どちらかの条件を欠くものは、
は「設備過剰で苦しむ鉄鋼業界などに新しい需要を
記念碑が立っているだけかもしれない…そう考えて
もたらす」と喧伝されて人気を博したが、発足後1年
日本の関係者は「慌てず騒がず」、相手国とのウィ
の間に決めた案件は、
「これではリターンは出ても、
ン・ウィンを心がけることだ。
特集●「質の高いインフラ」海外展開「港湾」2016・1
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