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Vol.602(pdfファイル) - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部
2016 年 1 月 11 日発行 第 602 号 CONTENTS 「中国経済研究会」のお知らせ .............................................................. 2 中国ニュース 12.28-1.10 .................................................................... 3 中国における所得分配の最新の動向:挑戦と改革 <李実>..................................... 7 中国のアフリカ協力は“一帯一路”と結び付いている <福喜多俊夫>........................... 9 【中国経済最新統計】 ..................................................................... 13 1 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 「中国経済研究会」のお知らせ 2015年度第8回(通算第54回)の中国経済研究会は下記の要領で開催するこ とになりましたので、ご案内いたします。大勢の方のご参加をお待ちしており ます。 記 時 間: 2016 年 1 月 19 日(火) 16:30-18:00 場 所: 京都大学吉田キャンパス・法経済学部東館地下 1 階 みずほホール AB テーマ: 「中国民族系自動車メーカーの環境適応的成長戦略」 報告者:李 澤建(大阪産業大学経済学部准教授) 注:本研究会は原則として授業期間中の毎月第3火曜日に行いますが、講師の 都合等により変更する場合があります。2015年度における開催(予定)日は以下 の通りです。 前期:4月24日(金)、 6月5日(金)、 6月13日(土)、7月28日(火) 後期:10月20日(火)、11月17日(火)、12月1(火)、1月19日(火) (この研究会に関するお問い合わせは劉徳強([email protected])までお 願いします。なお、研究会終了後、有志による懇親会が予定されています。) 2 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 中国ニュース 12.28-1.10 HEADLINES ¾ 中国 2016 年に新消費を促進、新供給を増加、成長安定化に新たな力を注ぐ ¾ 中国 2015 年の対外貿易は未曾有の低迷、2016 年に優遇策を貫徹 ¾ 出国時税還付が観光業の急成長をリード ¾ 中国証監会、サーキットブレーカー制度を 8 日より一時停止 ¾ 2015 年の中国経済、消費時代が到来 ¾ 中国人の結婚恋愛状況の調査結果発表 ¾ 「一帯一路」の拡大、複数の FTA 交渉が加速 ¾ 世界で最もオフィス賃料が高い都市ランキング、北京がトップ 3 入り ¾ CES 出展企業の 3 割は中国企業 ¾ 海外留学帰国者が開発した 3D 煎餅プリンター、武漢で量産化 中国 2016 年に新消費を促進、新供給を増加、成長安定化に新たな力を注ぐ 【1 月 4 日 経済参考報】中国政府は 2016 年のマクロコントロールの基本方向に 変化がなく、明確な目標を踏まえて経済の合理的な成長を維持していくことを明ら かにした。複数の専門家によると、 「第 13 次 5 ヵ年計画」の初年に入り、 「サプラ イサイドの構造改革」を大前提として、「新」という文字をテーマに消費を推進し ていく計画だという。中国国家発展改革委員会(発改委)主任の徐紹史氏によると、 まず、消費を向上させるような新供給を拡大し、地方政府や企業の農村におけるブ ロードバンドの普及、中小都市の情報インフラや民間用インフラの建設を奨励し、 観光地のインフラ建設を推進する。また、積極的に新消費を育成する。中投顧問マ クロ経済研究員の白朋鳴氏によると、新消費は第 3 次産業の発展を促進し、新興産 業の発展を推進することができるという。 中国 2015 年の対外貿易は未曾有の低迷、2016 年に優遇策を貫徹 【1 月 5 日 経済新聞網】2015 年、対外貿易は未曾有の低迷に陥った。2015 年 1 ~9 月における世界貿易額の減少幅は 2009 年以来の高水準となる。中国の輸出額 は 1~11 月のうち 9 ヶ月で減少し、輸入額は 13 ヶ月連続で減少となった。2015 年の輸出入総額は 30 年ぶりの減少となるだろう。関連部門は旧正月までに輸出税 還付、対外貿易企業の税負担の軽減、貿易の円滑化などに及ぶ一連の対外貿易安定 策を温めており、政策の潜在力を掘り起こし、政策の効果を発揮する考えだ。中国 商務部外貿司副司長の孫陸遜氏によると、2016 年対外貿易政策の重点は政策の実 行であり、対外貿易の新たな成長力を育成し、積極的な輸入政策を実施することな 3 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 どもあげられる。 出国時税還付が観光業の急成長をリード 【1 月 5 日 新華網】2016 年 1 月 1 日より、天津市、遼寧省、安徽省、福建省、 アモイ市、四川省は海外からの観光客向けに「離境退税政策」(出国時税還付)の 実施を始めた。これは消費を喚起し、中国観光業の吸引力を高め、地域の消費の伸 びを促進する重要な措置になる。中国国家観光局が発表した 2015 年第 3 四半期公 報によると、入国した海外観光客数、国内観光客数、海外観光客数の 3 つの指標を 計算したところ、インバウンド観光、国内観光、出国旅行客数が全体に占める割合 はそれぞれ 6%、72%、22%であった。旅行会社の統計によると、昨年第 3 四半期、 中国への観光旅行者数トップ 10 にランクインした国及び地域は 1 位から順に香港、 韓国、台湾、マカオ、米国、シンガポール、日本、タイ、ロシア、マレーシアだっ た。 中国証監会、サーキットブレーカー制度を 8 日より一時停止 【1 月 8 日 証券時報】7 日夜に中国証券監督管理委員会(以下:証監会と略称) の発表した通知によると、1 月 8 日から、A 株市場向けのサーキットブレーカー制 度の実施を見合わせるという。証監会は今年 1 月 1 日から、投資家、特に中小投資 家の合法な権益を守り、プログラム売買取引による株価の動きを抑制し、テクニカ ルリスク又は操作リスクに対処するための緊急時対策を取る時間を稼ぐことを目 的にサーキットブレーカー制度を正式に導入した。しかし、実施した 4 営業日のう ち 2 日はサーキットブレーカー制度の発動で売買取引が終了前に打ち切られた。証 監会の報道官である鄧舸によると、サーキットブレーカー制度は株価の急激な下落 を促した主因ではないが、直近 2 回の実施からすると、期待していた効果を収める ことはできていない。 4 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 2015 年の中国経済、消費時代が到来 【12 月 28 日 人民網】2015 年の中国経済に関する新指数が続々と発表されてい る。中国のインターネット小売額の年間増加率は 50%、映画の興行収入の年間増 加率は 40%強、11 月 11 日一日の電子商取引の売上高は 912 億 1700 万元に上った。 政府の統計データによると、1~9 月期に中国の経済成長率に対する消費の寄与度 は 60%近くに上り、通年の社会消費財小売総額は 10.7%前後の増加を呈する見通 しだ。2015 年、中国の自由貿易区戦略は大きな成果を遂げた。中国が締結して実 施した自由貿易協定は 14 に達した。12 月 20 日に発効した中国・韓国自由貿易協 定、中国・オーストラリア自由貿易協定は中国自由貿易戦略における最新の成果で ある。 中国人の結婚恋愛状況の調査結果発表 【1 月 11 日 新京網】北京大学社会調査研究センターは中国の大手お見合いサイ ト、百合網傘下の百合婚恋研究院と共に「2015 年中国人結婚恋愛状況調査報告」 (以下:報告)を発表した。2015 年に、年齢層別、学歴別、地域別に、恋愛、結 婚について調査が行われた。調査を受けた人のうち、半数以上(51%)は 18 歳ま でに初恋を経験したという。結婚年齢に関して、初婚年齢は 22~28 歳に集中し、 初婚年齢が 25 歳以上の男性は 63.29%を占め、同じく 23 歳以上の女性は 83.07% を占めた。幸福感と結婚への満足感に関しては、夫婦ともに結婚後 3~5 年時が最 低となった。 「一帯一路」の拡大、複数のFTA交渉が加速 【1 月 6 日 中国証券網】このほど、国務院は『自由貿易区における戦略の実施を 加速させる若干の意見』を公布した。中国は「東アジア地域包括的経済連携」 (RCEP)、中日韓、中国・湾岸協力会議など自由貿易協定(FTA)の交渉を推進 している。これまでに中国は 22 の国・地域と 14 の FTA を締結した。中国本土は 5 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 香港、マカオと「経済貿易緊密化協定」(ECPA)を締結し、台湾と「海峡両岸経 済協力枠組み協定」 (ECFA)を締結した。 「意見」では「一帯一路」沿線自由貿易 区の建設を積極的に推進し、 「一帯一路」沿線国と自由貿易区を共同建設し、 「一帯 一路」大市場を構築し、 「一帯一路」を速やかなルート、商業貿易のルート、開放 的なルートにすることが述べられている。 世界で最もオフィス賃料が高い都市ランキング、北京がトップ 3 入り 【1 月 7 日 中国日報網】事業用不動産サービスを提供する CBRE が調査報告書 を発表し、大中華圏は世界でオフィスビル賃料が最も高い地域になり、上位 10 都 市の中で大中華圏は 5 都市を占め、そのうち香港のセントラルは 2 位、同じく九龍 は 5 位、北京金融街は 3 位、北京中央商務区(CBD)は 8 位、上海陸家嘴は 9 位 であった。2015 年第 3 四半期の賃料データによると、イギリスのウエスト・エン ドが世界でオフィスビル賃料の最も高い都市である。インドのコンノートプレイス は 6 位、日本東京の丸の内・大手町は 7 位、シティ・オブ・ロンドンは 8 位だっ た。報告書によると、将来、サービス業の持続的かつ安定的な成長は世界オフィス ビル賃料の上昇を促す。 CES出展企業の 3 割は中国企業 【1 月 8 日 新華網】北京時間 1 月 6 日未明に業界の風向計と呼ばれる年に 1 回の 米家電見本市「CES」が開幕し、世界各国の電子大手がこぞって出展した。現地メ ディアによると、中国系企業が米国大手と共同で 2016 年の CES を主導している という。2016 年の CES に出展した企業は 4119 社、そのうち中国企業は 3 分の 1 近くに相当する 1300 社と過去最高となった。様々な新型カラーテレビは 2016 年 の CES の焦点になり、中国ブランドはほとんど CES を独占した。中国系カラーテ レビメーカーは知恵を絞って、続々と新技術を展示し、外国人消費者の関心を引き 付けている。 海外留学帰国者が開発した 3D煎餅プリンター、武漢で量産化 【1 月 7 日 新華網】海外留学帰国者、呂鑑濤氏をはじめとする開発チームが発明 した 3D 煎餅プリンターが 6 日に湖北省武漢市で展示され、量産化され本格的に国 内外の市場に投入され始める。この 3D プリンターで使用するインクは食用のもの を原料としている。操作者がまずはパソコン、タブレット PC、あるいはスマート フォンの APP で食品の図案を書いて原料を調合しておけば、プリンターは図案に よって人の顔などをイメージした食品を作れる。量産式典に出席した湖北 3D プリ ンター協会の関係責任者は「3D プリンティング技術は食品分野での応用はまだ空 白だと言え、3D 煎餅プリンターの登場は間違いなく 3D プリンティング技術の応 用範囲を拡大した」とした。 6 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 【中国経済シンポジウム 2015 内容紹介】③ 中国における所得分配の最新の動向:挑戦と改革 北京師範大学所得分配研究院執行院長・教授 李実 2011 年まで、中国経済は 10%前後の GDP 成長率で急速な成長を遂げてきたが、2012 年には GDP 成長率が 8%を下回り、2014 年には 7.4%まで低下した。下向き圧力に直面す る経済を回復させるには内需の拡大に重点を置くべきである。しかし、GDP に占める 消費の割合は 2006 年の 60%から 2012 年の 50%以下へと低下し、中国の国内消費の落 ち込みが続いている。そのなかでも、GDP に占める家計消費の割合の低下が顕著であ る。消費低迷の原因として、現段階の中国における社会保障制度の不完備及び都市住 宅価格の高騰による国民の貯蓄選好、所得格差の存在、富の分配の不平等などが指摘 されている。なお、格差や不平等は有効需要の増加を抑制し、国民経済の持続的成長 に水をさしている。したがって、調和のとれた社会の構築を目指し、社会主義を標榜 している中国にとって、市場経済化の促進とともに、上記の格差や不平等問題の解決 は喫緊の課題となっている。 一、中国の所得格差の実態 社会における所得分配の不平等を図る代表的な指標としてジニ係数が挙げられる。そ れは 0 から 1 までの範囲で表され、1 に近いほど格差が大きいことを示す。0.4~0.5 の 場合は、所得分配において格差がきつく、社会が不安定化する恐れのある状態である。 0.5 以上の場合、早急に是正が必要であると言われている。 中国国家統計局が公表したジニ係数の推移について考察してみると、2003 年から 2008 年までは上昇傾向を示しているが、2008 年の 0.491 をピークに、以後徐々に低下 し、2014 年には 0.468 となった。つまり、社会騒乱が多発する警戒ラインとされる 0.4 を上回っており、中国が危険水域に入っていることがデータで示されている。また、 「家 計所得調査」のデータによって算出した中国のジニ係数は 2007 年の 0.49 から 2013 年 の 0.45 へと低下した。そして、所得の最上位層と最下位層の間の格差も 2007 年の 25.2 倍から 2013 年の 21.7 倍へと縮小した。外国との比較では、中国のジニ係数は日本(0.33, 2012 年)、ドイツ(0.28, 2012 年)等の先進国のそれよりも高く、また、所得格差が 比較的大きいと言われている東欧諸国や東南アジアの一部の国よりも高い。要するに、 いずれのデータを見ても、中国全体のジニ係数は縮小しているが、世界において依然 として高いグループに属しているのが現状である。 全国の所得分配の不平等を都市内部、農村内部、都市-農村間に分解すると、2007 年から 2013 年において、全国の所得分配の不平等は都市-農村間の家計所得格差の縮 小により緩和されたが、都市内部と農村内部の所得格差は拡大し続けている。特に都 市内部の所得格差の拡大の原因として、近年、住宅価格の急激な上昇と富の急速な蓄 積が考えられる。中国の家計収入に占める財産収入の割合は 2007 年の 2%未満から 7 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 2013 年の 8%以上へと急速に上昇し、さらに、財産収入の所得格差への寄与度も大幅 に高まった。財産収入による格差を緩和するには、遺産相続税の徴収を通じて、富の 再分配を行う必要があろう。 中国の地域間経済格差も大きい。清華大学国情研究センター主任である胡教授による と、中国には「四つの世界」がある。先進国の水準に近い北京市や上海市といった第 1 世界、世界の平均所得を上回る広東省や江蘇省といった第 2 世界、発展途上国の水準 にとどまる中部各省といった第 3 世界、そして貧困地域に相当する貴州省やチベット 自治区などの西部地域といった第 4 世界が同時に存在している。以上のような 4 つの 世界の間には、一人当たりの所得・消費・教育・医療・住宅などの面において大きな 格差が存在している。 二、富の分配の不平等の現状 全国の住民を富の保有の少ない方から順番に並べ、10 階層に分類したうえで、2002 年と 2010 年の各階層の富の保有割合を計算した。2010 年の最上位層の富の保有割合は 2002 年の 2 倍で、62%となった。富が一部の人に集中する傾向が表れている。 また、ローレンツ曲線を用いて、富の分配の格差を測った。もしも、社会に所得格差 が存在せず、すべての世帯の所得が同額であるならば、ローレンツ曲線は 45°線と一致 する。所得や富の分布に偏りがある場合、ローレンツ曲線は下方に膨らんだ形になる。 中国社会科学院が調査したデータを利用し、2002 年と 2010 年の全国住民の富の分配の ローレンツ曲線を描くと、2010 年のローレンツ曲線の方が 2002 年のそれより下方に膨 らんでおり、富の分配の不平等が深刻化したことがわかる。さらに、同データによる と、農村内部と都市内部においても富の分配の不平等が深刻化したことが明らかとな った。 三、所得と富の不平等を削減するための改革と政策 2013 年以降、中国政府は格差縮小のため、一連の貧困対策を実施した。中国の戸籍 制度は労働者の移動を抑制しており、農村・都市間の所得格差をもたらす最大の原因 であると言われている。現在、中国政府は戸籍制度改革を国の重要な政策課題として 位置付けている。また、農民の実質所得の上昇及び生活の向上を図りながら、農業税 の廃止や、穀物を生産する農民への補助金支給などの政策を実施するとともに、都市 と農村のインフラや、医療、年金、教育面などへの財政支出を増やした。ほかにも様々 な貧困対策プログラムが実施、強化されてきた。2013 年 2 月、国家発展改革委員会、 財務省、人力資源社会保障部が共同で所得分配制度改革に向けた 30 の政策を提案した が、今後、所得格差を継続して縮小できるかどうかはこれらの政策がいかに実施され るかにかかっている。 (文責:尹冠球) 8 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 アフリカ協力フォーラム -中国のアフリカ協力は“一帯一路”と結び付いている- 社団法人大阪能率協会常任理事、順利包装集団董事(在上海) 福喜多技術士事務所所長、東アジアセンター外部研究員 福喜多俊夫 2015 年 12 月 5 日の人民日報は、 「中国・アフリカ協力フォーラム・ヨハネスブルグサ ミット全体会議が 5 日に行われ、中国の習近平国家主席と南アフリカのジェイコブ・ ズマ大統領が共同議長を務めた。国家元首と首脳 42 人、ドラミニ・ズマ・アフリカ連 合(AU)委員長を含む、フォーラムのメンバー計 52 人が出席した。会議では「中国・ アフリカ協力フォーラム・ヨハネスブルグサミット宣言」と「中国・アフリカ協力フ ォーラム――ヨハネスブルグ行動計画(2016~2018 年)」が採択され、習近平主席が総 括演説を行った」と報じた。 中国は近年、アフリカとの関係を強化し、「一帯一路」構想とも関連付けているが、 中国とアフリカとの本格的な協力関係は、2000 年 10 月に北京で開催された中華人民共 和国とアフリカ諸国との公式フォーラムである「中国・アフリカ協力フォーラム」 (中 国語:中非合作论坛、英文:Forum on China–Africa Cooperation, FOCAC)に始まる。FOCAC は以降 3 年おきに開催されている。 中国のアフリカ協力について、人民網、新華網、中国網等の記事から最近の状況を整 理してみた。 1.中国・アフリカ協力フォーラムとは 中国は 1960 年代からアフリカ援助を行っているが、中国とアフリカの経済が進展し たのは 2000 年からで、そのきっかけが 2000 年 10 月に中国の呼びかけで開催された、 中国・アフリカフォーラムであった。中国・アフリカ協力フォーラムは 2000 年 10 月 を第 1 回として、その後 3 年おきに開催されている。 第 1 回:2000 年 10 月 10 日~12 日 中国・北京 第 2 回:2003 年 12 月 15 日~16 日 エチオピア・アジスアベバ 中国から温家宝首相、アフリカ諸国 44 カ国が出席。アジスアベバ行動計画 を採択 第 3 回:2006 年 11 月 3 日~5 日 中国・北京 中国・アフリカ発展基金が創設された。(中国政府が 10 億ドル拠出) 第 4 回:2009 年 11 月 8 日~9 日 エジプト・シャルム・エル・シェイク シャルム・エル・シェイク宣言を採択、2010 年から 12 年までの行動計画を 発表 第 5 回:2012 年 7 月 19 日~20 日 中国・北京 9 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 胡錦濤国家主席が今後 3 年間で 200 億ドルの低利融資を供与すると表明 第 6 回:2015 年 12 月 4 日~5 日 南アフリカ・ヨハネスブルク 習近平国家主席、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領が共同議長を務め、 国家元首と首脳 42 名、ドラミニ・ズマ・アフリカ連合委員長を含む、フォー ラムのメンバー計 52 名が出席。ヨハネスブルグ行動計画(2016~2018 年)が 採択された。 (なお、日本とアフリカ諸国との協力関係を話し合う場として、アフリカ会議(TICAD) が 1993 年に日本の主導で開催された。5 年に 1 回、これまで 5 回開かれており、前回の 横浜会議にはアフリカの 51 カ国が参加、首脳クラスの出席は 39 カ国に上った。この時 アフリカから次回からは日本とアフリカで交互に開催すること、3 年に 1 回開催するこ とが提案され、次回の第 6 回は 2016 年 8 月下旬にケニアで開催される予定となっている) 2.中国のアフリカ協力の変遷 中国のアフリカ援助は 1960 年代後半に建設が決まったタンザニアとザンビア間の鉄 道援助から徐々に増加しているが援助額としては先進国に比べて少ない。アメリカン大 学国際関係学部デボラ・ブローティガム教授によれば(朝日新聞グローブ 2015 年 12 月 24 日)、2007 年のアフリカへの ODA の金額は米国 76 億ドル、仏 49 億ドル、英 28 億ド ル、日本 27 億ドル、独 25 億ドル、中国 14 億ドルとなっている。 援助額は小さいが大きいのは貿易と投資で、中国外務省によれば 2014 年の中国とアフ リカの貿易額は 2200 億となり、アフリカにある中国系企業は 2014 年末までに 3000 社を 超えたという。中国企業がアフリカに投資・建設した経済貿易パークは 20 カ所を超え、 パークに入居した企業は 360 社余りになる。その分野はエネルギーや鉱物生産、軽工業、 建材、紡績、衣類、機械製造、家電など多岐にわたり、累計投資額は 47 億ドル近くとな っている。 これまで中国のアフリカ貿易は「資源の買い漁りや、利益追求に偏り、粗悪品の輸出、 中国労働者の輸出で現地雇用が伸びない。現地人を雇用しても劣悪な労働環境を強いて いる」といった批判が絶えなかった。中国政府はこうした批判に対して、第 5 回中国・ アフリカフォーラム(2012 年 7 月)あたりから、アフリカ諸国民を意識した宣伝活動を 強化し、 「中国とアフリカの間には歴史が始まって以来今まで紛争は一度もなかった」 「鄭 和が 15 世紀はじめに(1417 年)に東アフリカまで航海したが、土地を奪ったり、金品 を強奪したことはない」 「中国とアフリカは補完関係にあり、ともに発展できる」と強調 している。また、第 5 回フォーラムの冒頭演説で胡錦濤国家主席(当時)は、これまで の学校建設や病院建設、マラリア予防センター建設の実績を強調、アフリカへの貢献を 全面に打ち出した。 中国は第 5 回フォーラムから、これまでの二国間協力からアフリカ連合(AU、アフリ カ 54 カ国・地域が加盟)との連携を強める動きを見せており、2015 年にはアフリカ連 合に代表部を設置した。 中国国際問題研究院の王洪一副研究員によると、中国・アフリカ協力は現在、従来の 10 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 分野にとどまることなく、生産能力協力や教育訓練、農業近代化、衛生、環境、人文交 流、安全協力など新たな分野へと不断に拡大している。双方の共同努力の下、中国・ア フリカの「新型協力」は現在、全方向・他分野で展開されつつある。 (中国網 12 月 5 日 付) 3.第 6 回中国・アフリカフォーラムの話題 習近平国家主席は第 6 回中国・アフリカ協力フォーラム首脳会議の開幕式で挨拶に立 ち、中国とアフリカの全面的な戦略パートナー関係の構築を推進するため、これから の 3 年間で 600 億ドルを拠出し、アフリカ諸国と共に「十大協力計画」を実行に移し ていきたいと強調した。これらの十大協力計画には、中国・アフリカ工業化協力計画、 中国・アフリカ農業近代化協力計画、中国・アフリカインフラ整備協力計画、中国・ アフリカ金融協力計画、中国・アフリカエコフレンドリー発展協力計画、中国・アフ リカ貿易と投資の利便化協力計画、中国・アフリカ貧困撲滅と福祉協力計画、中国・ アフリカ公衆衛生協力計画、中国・アフリカ文化協力計画、中国・アフリカ平和と安 全協力計画が含まれている。 会議では「中国・アフリカ協力フォーラム・ヨハネスブルグサミット宣言」と「中国・ アフリカ協力フォーラム・ヨハネスブルグ行動計画(2016~2018 年)が採択された。 4.中国のアフリカ協力と“一帯一路”の結び付き 第 6 回中国・アフリカ協力フォーラムで習近平国家主席が 3 年間でインフラ投資や その他の協力プロジェクトで 600 億ドルを拠出すると表明したことは、中国の国家戦 略である「一帯一路」構想をアフリカまで延伸し、構想にアフリカを組み込む意思が 見て取れる。中国が今世紀に入ってから建設を請け負った海外で最長の鉄道でアンゴ ラ全土を横断する「ベンゲラ鉄道」では、プロジェクトの工事期間中、実践訓練と教 官による指導を通じて、すでに 1 万人余りの現地労働者が電気溶接や機械操作、通信 業務などの各種の専門化した技術労働者に成長している。中国は“一帯一路”をアフ リカまで延伸する素地は十分出来ていると見ていることは間違いない。 新華社がネット上で掲載している「一帯一路」構想の具体的なルートによると「シ ルクロード経済ベルト」は西安から甘粛省の蘭州、ウルムチ、コルガス(カザフとの 国境付近)を通過した後、中央アジアを南西に下りテヘランを通過、さらに北西に向 かいイスタンブールに到達、ここでボスポラス海峡を渡り北上、モスクワを経由した 後、西へ向かい、ドイツのドウイスブルグを経て、ロッテルダムで南下、ヴェニスに 到達し、海上ルートと交わる。これに対し、 「21 世紀海のシルクロード」は、福建省福 州から広州、海口、北海等を経てハノイに到達、その後マラッカ海峡を南下、ジャカ ルタ、クアラルンプールを経てスリランカのコロンボとインドのコルカタに向かった 後、インド洋を渡ってケニアのナイロビに到達する。その後、アフリカ大陸に沿って 北上し、紅海を通って地中海に抜け、アテネ、ヴェニスに到達し、陸上と交わる。 2014 年 5 月、李首相がケニアを訪問した際、‘東アフリカ交通回廊’建設構想を提 唱、ナイロビとケニア最大の港モンバサ間を結ぶ 38 億ドル規模の鉄道プロジェクトで 11 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 合意、2015 年 1 月、王毅外相のケニア訪問の 際にも同プロジェクトが確認されている。ま たケニア以外でも、中国はジブチ、タンザニ ア、モザンビーク、マダガスカルでの港湾整 備計画を表明しており、中国の「一帯一路」 構想の展開は融通無碍である。新華社がネッ ト上で発表する「一帯一路」構想図もたびた び更新されている。 「一带一路国家地图好搜图片」より転載 以上 12 京大東アジアセンターニュースレター2016/1/11 No.602 【中国経済最新統計】 ① 実 質 GDP 増加率 (%) 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 2014 年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 12 月 2015 年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10 月 11 月 10.4 11.6 13.0 9.0 9.1 10.3 9.2 7.7 7.7 7.8 7.7 7.4 7.4 7.5 7.3 7.3 7.0 7.0 6.9 ② 工業付 加価値 増加率 (%) ③ 消費財 小売総 額増加 率(%) ④ 消費者 物価指 数上昇 率(%) 18.5 12.9 11.0 15.7 13.9 10.0 9.7 9.7 10.4 10.2 10.3 10.0 9.7 8.3 12.9 13.7 16.8 21.6 15.5 18.4 17.1 14.3 11.4 13.2 13.4 13.3 13.3 13.7 13.6 12.0 8.8 8.7 8.8 9.2 9.0 6.9 8.0 7.7 7.2 7.9 12.2 11.9 12.5 12.4 12.2 11.9 11.6 11.5 11.7 11.9 1.8 1.5 4.8 5.9 ▲0.7 3.3 5.4 2.7 2.6 2.7 2.6 3.1 3.2 3.0 2.5 2.0 2.5 2.0 2.4 1.8 2.5 2.3 2.3 2.0 1.6 1.6 1.4 1.5 10.2 10.0 10.1 10.6 10.5 10.8 10.9 11.0 11.2 0.8 1.4 1.4 1.5 1.2 1.4 1.6 2.0 1.6 1.3 1.5 5.6 5.9 6.1 6.8 6.0 6.1 5.7 5.6 6.2 ⑤ 都市固 定資産 投資増 加 率 (%) 27.2 24.3 25.8 26.1 31.0 24.5 24.0 20.7 19.4 20.2 21.4 19.6 19.2 17.6 17.2 15.2 19.8 ⑥ 貿易収 支 (億㌦) ⑦ 輸 出 増加率 (%) ⑧ 輸 入 増加率 (%) ⑩ 外国直 接投資 金額増 加率 (%) ▲0.5 4.5 18.7 23.6 ▲16.9 17.4 9.7 ▲3.7 5.3 24.1 0.6 4.9 1.2 2.3 -42.6 14.2 -4.5 4.0 -1.5 3.4 -6.6 0.2 -17.0 -14.0 1.9 1.3 22.2 10.3 ⑪ 貨幣供 給量増 加 率 M2(%) ⑫ 人民元 貸出残 高増加 率(%) 17.6 19.9 20.8 18.5 ▲11.3 38.7 24.9 4.3 7.2 10.8 7.1 7.4 7.5 5.4 8.6 0.4 10.8 10.4 -11.3 0.7 -1.7 5.5 -1.5 -2.1 7.2 4.6 -6.7 -2.3 ⑨ 外国直 接投資 件数の 増加率 (%) 0.8 ▲5.7 ▲8.7 ▲27.4 ▲14.9 16.9 1.1 ▲10.1 ▲8.6 1.2 -11.7 -16.8 -8.2 -9.3 -3.4 4.41 -8.6 1.3 6.1 0.5 8.4 10.3 14.0 5.2 9.4 8.7 -8.6 6.1 17.3 16.6 16.9 17.9 15.6 13.3 11.5 13.9 13.4 12.6 1020 1775 2618 2955 1961 1831 1549 2303 2590 178 285 152 311 338 256 3824 319 -230 77 185 359 316 473 498 310 454 545 496 28.4 27.2 25.7 17.2 ▲15.9 31.3 20.3 7.9 7.8 5.1 7.1 -0.4 5.6 12.7 4.3 6.1 10.5 -18.1 -6.6 0.8 7.0 7.2 14.5 9.4 15.1 11.6 4.7 9.5 17.6 15.7 16.7 17.8 27.6 19.7 13.6 13.8 13.6 14.5 14.7 14.2 14.3 14.2 13.6 12.2 13.2 13.3 12.1 13.2 13.4 14.7 13.5 12.8 11.6 12.1 12.0 11.0 9.3 15.7 16.1 15.9 31.7 19.8 14.3 15.0 14.1 14.3 14.1 14.3 14.1 14.2 14.1 13.6 14.3 14.2 13.9 13.7 13.9 14.0 13.4 13.3 13.2 13.2 13.4 13.6 13.1 9.6 9.9 11.6 9.9 9.1 6.8 9.3 10.8 600 606 31 341 595 465 430 602 603 616 541 -3.3 48.3 -15.0 -6.5 -2.4 2.8 -8.4 -5.6 -3.8 ー7.0 -6.8 -20.0 -20.8 -12.9 -16.4 -17.7 -6.3 -8.2 -13.9 -20.5 ー19.0 -8.9 2.2 49.8 0.3 2.9 -14.0 4.6 9.6 23.9 5.2 2.5 27.7 -1.1 0.1 1.3 10.2 8.1 1.1 5.2 20.9 6.1 2.9 0.0 10.6 11.1 9.9 9.6 10.6 10.2 13.3 13.3 13.1 13.5 13.7 14.3 14.7 14.7 14.4 14.3 14.4 15.7 15.7 15.8 15.6 15.3 注:1.①「実質 GDP 増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。 2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1 月と 2 月の前年同月比は比較できない場合があるので注意 されたい。また、( )内の数字は 1 月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。 3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に 対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の 86%(2007 年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの 貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。 出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。 13