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1998C3.1.12
1.研究開発の内容
デ ィ ー ゼ ル エ ン ジ ン や ボ イ ラ ー か ら 排 出 さ れ る NOxに 対 し 、 大 規 模 装 置 で は ア ン モ
ニア等を還元剤とする脱硝技術が確立されている。しかしながら、コージェネレー
ションシステムのような比較的規模が小さい装置では、還元剤の取り扱い性からア
ンモニア脱硝は必ずしも適切な技術になっていない。
一方還元剤として炭化水素を利用する触媒研究が近年活発に行われており、中で
も Cu/ZSM5触 媒 は デ ィ ー ゼ ル エ ン ジ ン 排 ガ ス の 温 度 、 組 成 に 相 当 す る 条 件 で 各 種 炭 化
水素を還元剤として高い脱硝性能を示すことが知られている。そこで当グループで
は 中 小 規 模 の デ ィ ー ゼ ル エ ン ジ ン を 対 象 に 、 Cu/ZSM5触 媒 に よ る 燃 料 ( 石 油 ) を 還 元
剤 と す る 脱 硝 シ ス テ ム の 研 究 開 発 を 開 始 し た 。 昨 年 度 ま で の 研 究 で は 、 2kW級 デ ィ ー
ゼルエンジンを使った小型実験装置で石油を還元剤として効果的に利用するための
検 討 を 行 な い 、多 段 脱 硝 方 式 が 有 効 で あ る こ と を 確 認 し た 。そ し て 本 知 見 を も と に 、
ベ ン チ ス ケ ー ル 2 段 脱 硝 装 置 ( 13 6kW コ ー ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン エ ン ジ ン 対 応 ) の 設 計 ・
製作を行なった。
本 年 度 は 、 ベ ン チ ス ケ ー ル 2 段 脱 硝 装 置 と 13 6kW コ ー ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン の 結 合 運 転
を行ない、実用化のための課題抽出と対策について検討した。また脱硝装置に対し
て排ガス中のすすが悪影響を及ぼすことから、脱硝装置の前処理としてすす除去技
術の検討も合わせて実施した。
2.試験研究の結果と解析
2 . 1 ベ ン チ ス ケ ー ル 2段 脱 硝 装 置 の 運 転 研 究
装 置 の 概 略 と 主 な 試 験 条 件 を 図 1 、 表 1 に ま と め る 。 な お 2段 反 応 器 の 後 段 に は 未
反 応 の 還 元 剤 を 酸 化 除 去 す る た め 、 Pd触 媒 を 設 置 し て あ る 。
灯 油 還 元 剤 に よ る 運 転 結 果 を 図 2 に 示 す 。 2k Wデ ィ ー ゼ ル エ ン ジ ン を 使 っ た 小 型 実
験 装 置 と 同 様 、 2段 脱 硝 で は 少 な い 灯 油 量 で 1段 脱 硝 ( 1 段 目 反 応 器 前 段 か ら の み 灯 油
添 加 ) と 同 レ ベ ル の 脱 硝 率 が 得 ら れ 、 そ の 有 効 性 を 検 証 で き た 。 80%脱 硝 に 要 す る 灯
油 量 は 、 2段 脱 硝 で は 1段 脱 硝 の 約 70%で 済 む 。
表 1 ベ ン チ ス ケ ー ル 2段 脱 硝 装 置 の 主 な 試 験 条 件
136kWコ ー ジ ェ ネ レ ー シ ョ
負 荷 70∼ 80%、 灯 油 燃 料 、 NO=90 0∼ 1000ppm
ン
O2= 10%
運転条件
1段 反 応 器
Cu-ZSM5脱 硝 触 媒( 100cpiハ ニ カ ム );50∼ 10 0L
2段 反 応 器
Cu-ZSM5脱 硝 触 媒( 100cpiハ ニ カ ム );50∼ 10 0L
Pd系 酸 化 触 媒 ( 200 cpiハ ニ カ ム ) ; 25∼ 50L
ガス分析計
2段 反応 器
Cu-ZSM5
酸 化触媒
1段 反応 器
熱交 換器
還元剤
136kWコジェネ レー ション
図 1 136kWコ ー ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン 用 2段 脱 硝 装 置
100
2段 添加
脱硝率 %
80
1段 添加
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
C1/NOx(灯 油 添加量) mol/mol
12
図 2 ベ ン チ ス ケ ー ル 2段 脱 硝 装 置 の 運 転 結 果
この性能特性をもとに脱硝コストを試算し、従来技術であるアンモニア脱硝(尿
素水使用)とのコスト比較を行なった。結果を図3にまとめる。アンモニア脱硝の
コ ス ト 試 算 に 当 た っ て は 、 ア ン モ ニ ア ( 尿 素 熱 分 解 に よ り 発 生 ) と NO が 化 学 量 論 的
に反応すると仮定して計算した。また灯油、尿素水価格は平均的な工業価格を用い
た 。 図 3 よ り 、 灯 油 を 用 い た 2段 脱 硝 は 1段 脱 硝 に 比 べ て 優 位 性 は あ る も の の 、 ア ン
モニア脱硝と比べると低脱硝域では同等であるが高脱硝域では高コストとなった。
本 実 験 で 使 用 し た C u/ZSM5触 媒 は 、 デ ィ ー ゼ ル 排 ガ ス の 温 度 域 で 炭 化 水 素 を 還 元 剤 と
する脱硝反応では、現在のところ最も活性の高い触媒とされている。したがって石
油を還元剤とする脱硝システムにおいて、従来法であるアンモニア脱硝と同レベル
のコスト性能を目指すには新規高活性触媒の探索が今後の要素課題となる。
1
灯 油 1段 脱硝
0.8
還元剤コスト
灯 油 2段 脱硝
0.6
0.4
アンモニ ア(尿素 水 )
脱硝
0.2
0
0
20
40
60
脱硝率 %
80
100
図 3 灯 油 2段 脱 硝 と ア ン モ ニ ア ( 尿 素 水 ) 脱 硝 と の コ ス ト 比 較
次に触媒の耐久性能を調べるため、排ガスの連続流通試験を行なった。図4に結
果を示すが、時間の経過に伴い装置入口圧力の上昇と脱硝率の低下が確認された。
3600 時 間 経 過 後 、 装 置 を 開 放 し 点 検 し た と こ ろ 、 す す が 大 量 に 触 媒 ( 100cpi ハ ニ カ
ム型)に堆積していた。触媒は、すすの堆積・閉塞を防ぐために比較的セル数の小
さ い ハ ニ カ ム ( 100 cpi) を 用 い た が 、 効 果 は な か っ た 。
触媒を抜き出しすすをブローして再充填した後、脱硝性能を調べた結果を図中に
示 す 。 初 期 値 に 対 し て 入 口 圧 力 は 元 の レ ベ ル に 戻 る も の の 、 脱 硝 率 は 約 12 ポ イ ン ト
低い値となった。脱硝率の経時劣化は、すすの堆積も一因であるが、触媒自身の活
性も低下していたことになる。後述の排ガス前処理技術(すす除去)と合わせて、
触媒活性と耐久性能の改良が今後の課題と考えられる。
1400
60
1200
50
1000
←圧力
40
800
30
600
20
脱硝率→
400
入 口 350℃
SV 3000
C/N 6
200
10
0
0
1000
脱硝率 %
脱硝装 置入 口 圧力 mmH 2O
触媒 ブロー
すす除 去
↓
2000
経過 時 間 h
3000
0
4000
図4 ベンチスケール脱硝装置の連続試験
2.1
排ガス前処理(すす除去)技術の検討
(1)金属繊維フィルターの繊維径とすす捕集性能
排ガス中のすすを捕集する部材として、金属繊維フィルターを選定した。そこでま
ず金属繊維径とすす捕集性能の関係を把握するため、図5の評価装置によりすす捕集
実 験 を 行 な っ た 。 直 径 100mm の 金 属 繊 維 フ ィ ル タ ー を 評 価 装 置 に 取 り 付 け 、 80mg/m 3 程
度のすすを含む所定量のディーゼルエンジン排ガスを流し、すすを捕集した。すす捕
集 率 は フ ィ ル タ ー 差 圧 が 200mmH 2 O に な る ま で す す を 捕 集 し た 後 、 フ ィ ル タ ー を 取 り 出
し、乾燥後重量を測定して次式より算出した。なお排ガス中のすす濃度は、ボッシュ
式スモークメーターで求めた。
す す 捕 集 率 ( % ) = す す 堆 積 量 / ( 排 ガ ス 中 の す す 濃 度 ×捕 集 時 間 ) ×100
結果を表2に示す。繊維径が細いフィルターではすす捕集率50%が得られたが、
太いフィルターでは30%程度の低いレベルであった。
(2)排ガス流量の影響
次に排ガス流量とすす捕集性能の関係を調べた。表3に試験結果をまとめる。排ガ
ス流量が増加するほどフィルター差圧の上昇も速くなり、捕集時間が短くなった。ま
たすす捕集率は、排ガス流量が多いと向上する傾向が確認された。
捨てガス
T3
P2
アニューバー
流量計
T2
フィルタ
P3
P1
等速吸引
装置
大気圧
T1
コック
バルブ
ヒーター
Air
コック
ヒーター
コック
流量計
ディーゼル発電機
スバルSGD-3000S
2.7kW
2.7kW
図5 金属繊維フィルター性能評価装置
表2 フィルタ性能評価試験結果(金属繊維径の影響)
繊維径
細い
細い
細い
太い
太い
太い
太い
入口すす濃度 排ガス流量 フィルター差圧
ボッシュ%
L/min
mmH2O
7.5
100
55∼200
8.5
100
52∼200
8.0
100
52∼200
12.0
8.0
8.0
8.0
100
100
100
100
38∼200
40∼200
37∼200
37∼200
捕集時間
min
7.2
8.2
7.7
平均
12.2
19.8
16.8
17.0
平均
すす捕集率
%
55
39
48
47
40
25
34
29
32
表3 フィルター性能評価試験結果(排ガス流量の影響)
繊維径
太い
太い
太い
入口すす濃度 排ガス流量 フィルター差圧
ボッシュ%
L/min
mmH2O
10.0
50
10∼200
8.0
50
11∼200
9.0
50
13∼200
太い
太い
太い
太い
12.0
8.0
8.0
8.0
100
100
100
100
38∼200
40∼200
37∼200
37∼200
太い
太い
太い
8.0
8.0
7.0
150
150
150
73∼200
74∼200
73∼200
捕集時間
min
43.8
52.9
46.2
平均
12.2
19.8
16.8
17.0
平均
8.1
6.0
7.2
平均
すす捕集率
%
26
26
28
27
40
25
34
29
32
30
47
38
38
(3)フィルター積層化の影響
金属繊維フィルターを積層しすす捕集性能の変化を調べた。実験方法は前述と同様
である。表4に2枚のフィルターを密着させたときの試験結果を示す。同じ繊維径の
フィルターを2枚積層しても、また異なる繊維径のフィルターを上下入れ替えても、
すす捕集率に顕著な変化はなかった。次に2枚のフィルター間に隙間を設けて積層し
たときの結果を表5に示す。フィルター間に空間を設けることですす捕集率の向上を
図ったが、密着積層したフィルターと捕集率は変わらなかった。
表 4 フ ィ ル タ ー 積 層 効 果 ( 密 着 積 層 ; A太 , B細 )
フィルター
組み合せ
A+A
A+A
A+B
B+A
排ガス流量
L/min
100
100
100
100
入口すす濃度
ボッシュ%
8
8.5
8.5
8
捕集差圧
mmH2O
64∼200
67∼200
94∼200
76∼200
すす捕集率
%
41
39
45
43
表 5 フ ィ ル タ ー 積 層 効 果 ( 隙 間 を 設 け た 積 層 ; A太 , B細 )
フィルター
組み合せ
A+A
B+A
A+B
排ガス流量
L/min
100
100
100
入口すす濃度
ボッシュ%
7
7
7.5
捕集差圧
mmH2O
66∼200
72∼200
100∼200
すす捕集率
%
34
38
53
(4)すす捕集−燃焼試験
金属繊維フィルターを加熱し、捕集したすすを燃焼除去することで、連続的なすす
処理が可能か否か確認試験を行った。結果を図6に示す。一定流量の排ガスを流しな
がら、差圧が所定レベルに達したところでフィルターを加熱する。すすが燃焼し差圧
が回復した時点で加熱を停止する。以上のサイクルにより、連続的なすす処理が可能
であることが確認できた。また連続実験中のすす除去率の変化を図7に示す。すす除
去率は、ボッシュ式スモークメーターでスモーク濃度を測定し次式より算出した。
す す 除 去 率 = (入 口 ス モ ー ク 濃 度 − 出 口 ス モ ー ク 濃 度 )/(入 口 ス モ ー ク 濃 度 )×100
図7より、すす除去率はフィルターの捕集−燃焼状態に対応して変化するが、平均
す る と 約 50% と な る こ と が 確 認 で き た 。
差圧、温度、ガス流量
フィル ター 差圧
温度
排 ガス流量
0
50
100
150
時 間 min
200
250
300
図6 金属繊維フィルターによるすす捕集−燃焼連続実験
100
50
すす除 去 率
入 口 スモー ク
出口 スモー ク
スモーク濃度測定
40
60
30
40
20
20
10
0
排ガススモーク濃度
すす除去率%
80
スモーク濃度測定
0
0
50
100
150
時 間 mi
n
200
250
300
図7 連続実験中のすす捕集率の変化
( 5 ) 56kWエ ン ジ ン 用 前 処 理 装 置 の 試 作 と 運 転 試 験
以 上 の 知 見 か ら 、 56 kWコ ー ジ ェ ネ エ ン ジ ン 用 排 ガ ス 前 処 理 装 置 を 設 計 ・ 製 作 し た 。
装置の概略を図8に示す。図中すす前処理装置には金属繊維フィルターを設置して
あり、これを加熱して捕集したすすを燃焼除去できる構造をとっている。
排気ガス
56kWコージェネ
デ ィー ゼ ル
パッケー
エンジン ジ
すす前処 理装 置
リアクター
アニューバ流量計
図8 排ガス前処理装置の概略
本装置により運転試験を行なった結果を図9,10にまとめる。図9では排ガス
前処理装置の差圧とフィルター温度の関係を示す。前述のモデル実験と同様、すす
捕集−燃焼のサイクルを連続的に行なえることが確認できた。
温度,差圧
装 置差圧
フィル タ温度
20
30
40
50
60
70
時 間 min
80
90
100
110
120
図 9 56kWエ ン ジ ン に よ る 排 ガ ス 前 処 理 装 置 運 転 試 験
図10では排ガス前処理装置前後のスモーク濃度(ボッシュ式)と、これらから
求 め た す す 除 去 率 の 変 化 の 様 子 を 示 す 。す す 除 去 率 は 30∼ 60% の 範 囲 で 変 動 す る が 、
平 均 的 に は 約 40% 程 度 の レ ベ ル が 得 ら れ る こ と が 分 か っ た 。
70
入 口 ボッシュ
出口 ボッシュ
除 去 率%
スモーク度%, 除去率%
60
50
40
30
20
10
0
0
2
4
6
8
10
12
時 間min
図 1 0 56kWエ ン ジ ン に よ る 排 ガ ス 前 処 理 装 置 の 運 転 試 験
14
3.
研究開発の成果
3 . 1 ベ ン チ ス ケ ー ル 2段 脱 硝 装 置 の 運 転 研 究
ア ン モ ニ ア 脱 硝 に 代 わ る 利 便 性 の 高 い 脱 硝 シ ス テ ム の 構 築 を 目 標 に 、 Cu/ZSM 5触 媒
による石油を還元剤とする脱硝システムの研究開発を実施した。石油を還元剤とし
て 効 果 的 に 利 用 す る 方 法 と し て 2 段 脱 硝 を 採 用 し 、 136kW コ ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン と 結 合
し運転研究を行なった。その結果、2段脱硝は1段脱硝と比べて少量の石油(灯油)
で同レベルの脱硝率が得られることを検証できた。一方、従来技術であるアンモニ
ア法と比べると、低脱硝域では同レベルであるが高脱硝域ではランニングコストが
高 く な る 試 算 を 得 た 。 ま た 3600 時 間 の 連 続 試 験 で は 、 脱 硝 触 媒 ( ハ ニ カ ム 型 ) へ の
すす堆積による圧損上昇と脱硝率低下が観察され、触媒自身の劣化も認められた。
3.2
排ガス前処理(すす除去)技術の検討
すす補集部材として金属繊維フィルターを選定し、繊維径とすす捕集特性の関係
を調査検討した。またフィルターを加熱し捕集したすすを燃焼させることで、連続
的なすす処理が可能であることをモデル実験で確認した。これらの知見をもとに、
56kW コ ー ジ ェ ネ レ ー シ ョ ン エ ン ジ ン 用 の 排 ガ ス 前 処 理 装 置 を 試 作 し 、 運 転 試 験 を 行
なった。その結果すす捕集−燃焼除去のサイクルを連続して行なえることが検証で
きた。
4.
まとめ
石油を還元剤とする脱硝システムは、アンモニア脱硝と比較しコンパクトで簡便
なシステムを構成できる要素はあるが、ランニングコストが高く触媒の耐久性能も
充分ではないことが分かった。還元剤として添加した石油は、脱硝反応とともに単
純燃焼によっても消費されることから、ランニングコストを下げるためには脱硝反
応の選択性が高い触媒を採用する必要がある。しかしながら、現在までに行なった
調 査 研 究 で は 、 現 状 の Cu/ZSM5 以 上 の 性 能 を 示 す 触 媒 は 確 認 さ れ て い な い 。 石 油 脱 硝
シ ス テ ム の 実 用 化 の た め に は 、 C u/ZSM5に 代 わ る 新 規 高 性 能 触 媒 の 開 発 が 今 後 の 重 要
な課題であろう。
C o p y r i g h t 1 9 9 8 P e t r o l e u m E ne r g y Ce n t e r a l l r ig h t s r es e r v e d.
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