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ディーゼルハイブリッド車両用運転シミュレータの開発

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ディーゼルハイブリッド車両用運転シミュレータの開発
(鉄道総研月例発表会講演要旨)
ディーゼルハイブリッド車両用運転シミュレータの開発
車両制御技術研究部 動力システム
主任研究員 中村 英男
1.はじめに
ディーゼル車両の省エネルギー化、排気ガス対策などを目的として、ディーゼルハイブ
リッド車両が開発・導入されつつある。ハイブリッド車両の開発に当たっては、ハイブリ
ッドの目的を満足し、使用線区・使用条件を考慮した機器構成と機器仕様を検討する必要
がある。そのためには、様々な機器構成・機器仕様に対し、車両の走行性能、省エネルギ
ー効果、排気ガス低減効果を精度良く把握し評価する必要がある。その評価手法として、
ハイブリッド車両の走行に伴う運転曲線の作成とエネルギー消費量、排気ガス排出量など
の計算が可能な、ディーゼルハイブリッド車両用運転シミュレータを開発したので、その
概要について紹介する。
2.ディーゼルハイブリッド車両用運転シミュレータの特徴
開発したシミュレータの特徴を以下に示す。
(1) 車両走行に伴う運転曲線の作成、および燃料消費量、SOC(State of Charge:充電状態)
、
排気ガス(NOx、PM、CO、HC 等)排出量などを計算することができる。
(2) 汎用性が高く、シリーズ式とパラレル式のそれぞれの方式における様々なハイブリッド
車両の機器構成に適用可能である。
(3) 機器構成、機器仕様、および速度や SOC に応じて変化する機器の動作状態(動作モー
ド)の設定などを容易に行えるようにするため、ユーザインターフェース機能の充実を
図っている。
3.シミュレータの全体構成
シミュレータの全体構成を図1に示
既存の運転曲線作成システム(Speedy)を活用
す。シミュレータは、ユーザインター
フェース、運転曲線計算部、車両モデ
ユーザーインターフェース
車両条件
線路・走行条件
ル計算部から構成される。運転曲線計
運転曲線計算部(Speedy)
算部に関係するユーザインターフェー
ノッチ・速度・位置・経過時間
スと運転曲線計算部は、既存の運転曲
線作成システム(Speedy)を使用した。
この運転曲線作成システムに対し、新
運転曲線
燃料消費量・SOC
引張力・ブレーキ力
車両モデル計算部(エンジン・モータ・動力伝達装置・バッテリなど)
図1
たにハイブリッド車両の車両条件の入
1
シミュレータの全体構成
力に関係するユーザインターフェース、および引張力・ブレーキ力、燃料消費量、SOC 等
を計算する車両モデル計算部を付加することにより、シミュレータを構築した。
ユーザインターフェースから車両条件・線路条件・走行条件を入力することにより、運転
曲線計算部で運転曲線、車両モデル計算部で引張力・ブレーキ力、燃料消費量、SOC 等を
計算する。車両モデル計算部は、運転曲線計算部から走行状態の情報としてノッチ・速度等
を受け取り、その走行状態や SOC に対応してエンジン・モータ等の各機器の動作モードを
決定し、引張力・ブレーキ力を計算して運転曲線計算部に返す。運転曲線計算部ではその引
張力・ブレーキ力を用いて次の地点の速度・ノッチ等を計算する。これを逐次繰り返すこと
により運転曲線を作成する。この際、車両モデル計算部では瞬時燃料消費量・SOC 等を逐
次計算する。最終的なトータルの燃料消費量は、瞬時燃料消費量を積算することにより計算
する。
4.機器構成と動作モードの設定
ハイブリッド車両の各機器の特性や動作を設定するためには多くのデータを入力し、それ
らのデータからシミュレーションに必要な中間データを計算する必要がある。そこで、本シ
ミュレータでは、それらの作業を容易にするためユーザインターフェース機能の充実を図っ
ている。
以下に、機器構成の設定と動作モードの設定の概要について説明する。
(1)機器構成の設定
ハイブリッド車両は多種多様な機器構成が可能である。本シミュレータでは、図2に示す
ように異なる位置に配置されたモータ3台を有する「基本となる機器構成」を定義し、この
構成機器の一部を無効にすることによって機器構成を設定する方法を採用した。なお、本方
法により通常のディーゼル車両やバッテリ車両を設定することもできる。
図3に機器構成を設定するための操作画面を示す。図3では、図2に示した機器構成に車
内空調などに電力を供給する補助電源装置(補機)を加えた機器構成がウインドウ画面に表
示される。機器構成の設定は、図3の操作画面上においてブロック図から必要な機器を選択
することにより、容易に行うことができる。
また、各機器特性の設定は、減速機のギヤ
パラレル式(エンジン直結モータ)の機器構成を設定
比・ギヤ効率、車輪径については本画面か
ら直接入力し、エンジン、変速機、モータ、
エンジン
変速機
モータ
モータ
バッテリ
モータ
減速機
輪軸
減速機
輪軸
バッテリについては形式を選択することに
より容易に行うことができる。
なお、各機器の形式を新たに定義する場
合は、その形式に対応する機器特性を別の
注:実線枠が選択機器、点線枠が非選択機器を表す
操作画面により入力しておく必要がある。
図2
エンジンの特性として、出力特性、燃費特
性、排気ガス特性の他に、エンジン駆動の
2
機器構成の設定のイメージ
編集中の車両形式を表示
コンボボックスから機器の形式を選択
数値を直接入力
無効の機器は不活性状態
図3
機器構成を設定するための画面
ラジェターファン、空気圧縮機などの
補機特性を入力することができる。変
速機の特性として、各速度段のギヤ
作成した境界データの一覧
比・ギヤ効率の他に、流体トルクコン
バータ特性を入力することができる。
バッテリの特性として、SOC に対する
開放電圧特性と内部抵抗を入力するこ
とができる。また、モータの特性とし
て、回転速度に対するトルク、入力電
力を入力することができる。
作成した境界データがグラフに描画され領域を構成
(2)動作モードの設定
ハイブリッド車両の制御では、エン
ジン・モータのノッチや変速機の速度
段など、各機器の動作モードが速度と
SOC に応じて変化する方式を採用して
いる。したがって、本シミュレータは
その制御方式に対応するため、動作モ
ードの領域の設定、およびその領域内
における機器の動作モードの設定を行
うことができる。
図4
動作モードの領域を設定するための
3
動作モードの領域を設定するための画面
操作画面を図4に示す。動作モードの領域とは、図4のグラフの横軸を速度、縦軸を SOC
とした平面を区切る複数の境界線に囲まれた領域である。境界線には速度に関する境界線
と SOC に関する境界線があり、境界データを入力することにより任意の折線を境界線とし
て作成し、領域を設定することができる。領域内における機器の動作モードの設定は、図
3とほぼ同じ操作画面により行い、各機器の動作モードを選択することにより容易に設定
することができる。動作モードの領域と機器の動作モードは、各力行ノッチ、各ブレーキ
ノッチ、惰行時、および停車時別に設定可能である。
5.シミュレーション結果の例
本シミュレータによる計算結果の例を図5に示す。図5では計算項目の一部しか表示し
ていないが、全ての計算項目の結果は CSV 形式で保存されており、様々な形式でのグラフ
表示や解析が可能である。
8
90
速度[km/h]
80
SOC[%]
70
瞬時燃料消費量[ℓ/h]
60
燃料消費量[ℓ]
7
6
5
50
4
40
3
30
2
20
10
1
0
0
0
2
4
図5
6
8
キロ程(km)
10
12
14
燃料消費量(ℓ)
速度(km/h),SOC(%),瞬時燃料消費量(ℓ/h)
100
16
シミュレータによる計算結果の例
6.おわりに
開発したハイブリッド車両用走行シミュレータは、既にハイブリッド車両の開発に活用
されている。本シミュレータの活用が、ディーゼル車両のさらなる環境負荷低減に寄与す
ることを期待する。
4
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