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Title Author(s) Citation Issue Date Type 民主主義と平和の理論 : デモクラティック・ピース論争 について 山田, 敦 一橋研究, 21(4): 35-58 1997-01-31 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/5777 Right Hitotsubashi University Repository 3 5 民主主義 と平和の理論 - デ モ ク ラ テ ィ ツ ク ・ピ ー ス論 争 に つ い て - 山 田 敦 は じめに デモクラティツク ・ピース理論 ( De mo c r a t i cPe a c eTh e o r y , 以下 「 DP 理論」 と略記)の中心命題 は,簡潔 きわまりない。「 民主主義国同士 は戦争 を しない」 というものである。 あまりに単純に見えることもあって,DP理論 は直感的かつ無批判 に,「 歴 史的事実」であるかのように受 け入れ られている場合が少な くない。あるいは 逆 に,「 民主主義国イコール平和国家」 と喧伝す るイデオロギーの一種 のよ う にみなされて,頭か ら拒絶 されている場合 もある。 しか しなが らこれを社会科学理論の 1つ として,社会科学的な方法によって その検証 と精微化を行 うために,多 くの研究者が長年の努力を積み重ねてきた ことも忘れてはな らない。そのために続 けられてきた論争 - P論争」 と呼ぶ - 本稿 で は 「 D は,少な くとも1 9 7 0 年代に端を発 し,冷戦後 の9 0年代 に は米国の学会を中心に一層の盛 り上が りをみせ るようになった。 本稿 はこのDP論争の経緯をたどり,一見す ると単純なDP理論がなぜ これ ほどの論争を巻 き起 こしているのか,現在の論争のフロンティアはどこにある のか,そ して今後の研究課題 は何かを考察す るものである。それによって,D P理論が決 して無批判 に受 け入れてよいもので も, イデオロギーとして拒絶す べ きもので もないことが明 らかになろう。同時に,DP理論が今なお多 くの課 題を抱えなが らも, ポス ト冷戦の国際関係理論の 1つとして大いなるポテンシャ ルを もち, さらなる研究を重ねてい く意義のある理論であることを示 したい。 第 1-2節), 以下では, まず DP理論の概要 と論争の経緯を簡単 に説明 し ( 。論争点 は,変数 の定 それか ら個々の論争点を詳 しくみてい く ( 第 3- 5節) 義 と測定の問題 (「 民主主義 国」「 戦争」 とは何か),相関関係の問題 ( 民主主 3 6 一橋研究 第2 1 巻第 4号 義匡l 同士 は本当に戦争を しないのか) ,因果関係の問題 ( 民主主義国同士 はな 点 に整理 した。そ して最後に,DP 理論の今後の課 ぜ戦争を しないのか)の 3 題について考える ( 第 6節) 0 1 理論の概要 DP理論 に関する著書 ・論文は,1990年代 に入 ってか ら急増 した。 これはポ 理論が注 目されるよ ス ト冷戦時代を迎え,国際関係の理論 と実践の両面でDP うになったことによる。 まず理論面でいえば,DP 理論 は,冷戦期に形づ くられた リア リズム ( 現実 主義)に立脚 した匡l 際政治理論 に重大な疑問を投 げかけている。 リア リズムは 自助を原則 とするアナーキー ( 無政府状態)な世界を前提 としてお り,そこで はいずれの国 も - 民主主義国 も非民主主義国 も - 自己の生存を図 るため に,必要 とあ らば戦争 も含めたあ らゆる手段を行使するものとされる。国家の 行動を規定す るのは匡l 際 システム上の制約要因であり,政策決定者の資質や国 内政治体制の違 いはせいぜい第二義的な役割 しか果た し得ないとされているの Wal t z1 9 7 9 ) 。 ところが DP 理論 は,民主主義国同士であれば戦争 が である ( な くなる可能性を示唆 してお り,それが本当な らば,対外政策の決定要因 とし て国内政治体制の違いが第一義的な役割を果た しうることになる。 理論 は,民主主義の規範 ・信条が民主主義同士 さらに,後述するようにDP に戦争を思いとどまらせ る要因であると説明する。 これは,国家に 「 学習能力」 があるとす る最近の 「アイディア ・アプローチ」 と共通の理論的立場 であ り, この点で もリア リズムとは大 きく異なっている。 理論が注 目さ 次 に実践面では, ポス ト冷戦外交のガイ ドライ ンとして,DP れるようになったことがある。DP 理論のいうとお りに民主主義国同士が戦争 を しないとすれば,民主主義国の組み合わせが増えるほど戦争の蓋然性が低下 す るはずである。そこか ら,民主化の拡大 が世界平和 の実現 に向 けた 「正 し い」 ステ ップであるという議論 につながる。実際にこのロジックで,先進諸国 政府が非先進諸国への民主化支援を正当化する例が,すでにいくつもみられる。 クリントン政権 は旧ソ連 ・東欧諸国への民主化支援が 「アメ リカと世界の安全 保障に貢献する」 と再三強調 しているし,一部の国際金融組織が途上国に融資 条件 として民主化を求めている背後にもこのロジックがある ( 大芝 1 9 9 4 ) 。 民主主義と平和の理論 3 7 さて, このDP理論 については, はじめにいくつか注意が必要である。第 1 に,DP理論 は便宜上 「 理論」 と呼ばれているものの,実際には変数同士の因 果関係が必ず しも明確ではないことなどか ら,厳密 にいえば 「 仮説」 にすぎな Layne1 9 9 4) 。第 2に,ひとくちにDP理論 と言っても, いという見解 もある ( 実際にはい くつかのバ リエーションがある。正確を期すために,原文のまま以 下に並べてみよう ( 斜体 は筆者)0 ( a)De mo c r ac i e sdoT utf i h te g ac hot he r .( Le v y1 9 8 9;La yn e1 9 9 4 ) owarwi t he ac hot he r .( Cohe n1 9 9 4 ) ( a' )De moc r ac i e sdonotgot ( b)De moc r ac i e sr ar e l ygot owarwi t he ac hot he r .( Ma o za Rus s e t t 1 9 9 3 ) ( b' )De moc r ac i e ss e l dom i fe t ) e rgot owara gai ns tonea . mot he r . ( Owe n1 9 9 4 ) ( b")De moc r at i cc ount r i e sl ar e ]u e T ・ yu nl i k e l yt of i h te g at hot h e r . a ∫ r1 9 8 9 ) ( Rus s e t t& St ( b"' )De moc r ac i e sal 7 nO S tn e v e rf i h te g ac hot he r .( Ru s s e t t& St a r r 1 9 8 9 ) aのグループが 「民主主義国同士 は戦争を しない」 と断定 しているのに対 し,b のグループは 「 滅多に しない」 と述べて いる。 わずかな修正 のよ うに 見えるか もしれないが,実 は両者の連いが もっ意味は大 きい。民主主義匡‖ 司士 が絶対に戦争を しないのか,それとも例外の生 じる場合があるのかでは,検証 の作業 も,政策的インプ リケ-ションも,別のものになって くるか らである. 例外が 1つで も見つかれば a は直ちに棄却 されるが,b について はその 1つ のケースだけか らは真偽を判定できない. また,a に従えば世界的な民主化 が平和実現の必要十分条件だということにな るが, b であ るな らば,民主化 に加えていかなる条件が必要なのか吟味 しなければな らない。残念なが ら,両 者の区別は研究者の間でも厳密になされているとは言いがたい状況 にあり, こ こではとりあえず,DP理論に大別 して 2つのバ リエーションがあることを指 摘 してお くにとどめる。 ,b いずれのグループも,民主主義国 「同士」 につ 第 3に,DP理論 は a いて述べているだけである。民主主義国そのものが平和的であるとは言 ってい ない。民主主義国が非民主主義国に対 して戦争に出ることは大いにありうるわ 3 8 一橋研究 第2 1 巻第 4号 けであ り,それはDP理論の支持者たちも認めている。論争 の初期 には, 「民 主主義国は (いずれの国に対 して も)平和的に行動す る」 と唱える研究者 もい た ( Rumme l1 9 8 3が代表)が,その後それを否定す る実証研究が相次 ぎ, 今 では通例,DP理論 といえば民主主義国同士,つ ま り二国間関係 ( dyad) に ついて述べた ものだけを指す と考えてよい。 2 論争の経緯 DP理論の源流 としては,カ ン トの 『 永遠平和のために」 lを挙げる研究者が 多い ( Doyl e1 9 8 3 ) Oそのほか, ウィルソンの1 4ヵ条に原型を見 出す ことがで きるか もしれない し,戦後の欧米諸国の関係だけに限れば,K ・ドイチュがい う「 安全保障共同体 ( s e c ur i t yc ommun i t y)」 に も近似 の考 え方 がみ られ る ( De ut s c h1 9 5 7,5 ) 0 しか しなが ら,現在の論争の直接的な出発点 となったのは,M・スモールと J・D ・シンガーによる1 9 7 6 年の論文である ( Smal l&Singer1976)o この 論文 は,Ba bs t( 1 9 7 2 )の指摘で当時注 目されていたが厳密に検証 されていな COW プロジェク トで作 か った民主主義 と戦争の関係 について,次節で述べる 8 1 6 1 9 6 5 年 につ いて統計学的分析 を行 った 製 されたデータベースをもとに,1 民主主義国 は互 いに戦争 を し ものであるOそ して この論文において初めて,「 ない」 ことが統計学的に有意であることが確認 された。ただ しスモールとシン ガーは, これをあ くまで も予備的な検証結果 とみな し, より綿密な検証を多 く の研究者が試みるよう呼びかけた。 9 8 0 年代を通 じて数多 くの実証研究が行われた。その過 これに触発 されて,1 程では Ru mme l( 1 9 8 3;1 9 8 5 )のように,「 民主主義国は (いかなる国が相手 で も)非民主主義国よりも平和的に行動する」 という仮説および検証結果 も堤 示 されている。 しか しその後, この研究のデータの選び方や処理方法に批判が 集まり, より適切な分析方法をとれば,民主主義国が戦争を起 こす可能性が非 民主主義国より低 いとはいえない ことが示 された ( Ch礼n 1 9 8 4; We e d1 9 8 4; a l i1 9 8 9 ) 。それによって,民主主義国 イ コール平 Doyl e1 9 8 6; Ma oz& Abdl 和的とす るような仮説 は論争の表舞台か ら消える。一方,民主主義国 「同士」 が戦争を しないことについては支持する研究が相次 ぎ,8 0 年代末 にはそれを揺 るぎない 「 法則」 と宣言す る研究者 まで現れた。 3 9 民主主義と平和の理論 1 9 9 0 年代に入 り,DP理論をめ ぐる議論 は再び活況を呈 しはじめる。それは 前節で述べたように, ポス ト冷戦時代を迎えて理論 と実践の両面でDP理論 に 注 目が集 まったか らであった。そこではまず,8 0 年代 にも議論 された問題点が 民主主義国」 と 「非民主主義 一層の注意深 さを もって検討 されたO第 1に,「 ,および 「 戦争」 と 「 平和」をいかなる基準で区別するか。 これ はとくに 国」 計量分析を行 う際に避 けて通れない,変数の定義 と測定の問題である。第 2に, 独立変数 ( 民主主義国同士であるかどうか) と従属変数 ( 戦争を しているかど うか) との間に,確かに相関関係が認め られるか。変数の定義 ・測定や時代区 分によっては,相関関係が認め られな くな りは しないか。 また,疑似相関関係 である可能性 はないか。 これ らの問題が,改めで慎重 に検討 された。 0 年代の研究 は,第 3の問題点 しか しなが ら9 因果関係 - に最大 の焦 点を当ててきた。すなわち,民主主義国同士が戦争を しないとすれば 「 なぜか」 の問題である。その際,研究者 には重要な謎解 きの課題が課せ られた。民主主 義国が互 いに戦争を しない理由だけでな く,民主主義国が非民主主義国 とはか な り頻繁に戦争を行 っている理由 も,首尾一貫 した論理で同時に説明すること である。 e( 1 9 8 3 )で ある。 この この課題に最初に正面か ら取 り組んだ研究が,Doyl 論文 はカ ン トの共和国論を土台に,民主主義国が一方では平和的に,他方では 暴力的に振 る舞 う 「 二面性」 に焦点を当てたものである。因果関係については その後 も多 くの研究が発表 され,Ma oz & Rus s e t t( 1 9 9 3 ) はそれ らをまと めて,「 制度的 ( 構造的)説明」 と 「 規範的説明」の 2つに整理 した ( 第 5節 で詳述)。 これをさ らに洗練 させて幅広 い実証研究 とともに提示 したのが Ru s s e t t( 1 9 9 3 )で,同書 は出版 されるやいなやDP理論のいわば集大成 と評 価 され,以後の論争は多 くが同書を中心に展開されることになった。 とはいえ, こうして練 り上 げ られてきた因果関係の説明がすべての研究者を 納得 させたわけではな く,現在に至 るも活発な論争が続いている。 「なぜ」 の なお,最近 まで 問題 こそ,現在のDP論争 における最大の焦点 といってよい ( own1 9 9 6がある)。 のDP論争の主要論文を収録 した論文集 として Br また最近 は,実証研究の方法にも変化が現れてきた。相関関係の有無が主た る問題 とされた8 0 年代 には計量分析がほとんどであったが,因果関係 に焦点が 0 年代 には,叙述的なケーススタディが増えているo機械的にデータを 移 った9 4 0 一橋研究 第2 1 巻第 4号 処理す る分析方法 に限界を感 じる研究者が増えたためであろう。 しか しそ うな ると,計量分析の場合以上 に分析結果の客観性が問題 とされ ること も増 え る0 いずれに して も,決定的 といえるような分析結果が得 られたとはとて も言 いが た く, まだまだ係争中の問題が多 く残 されているのが現状である ( それだけに 研究の意義があるともいえ るのだが) 0 で は次節 よ り,個 々の論争点を詳 しくみていこう。 3 論争点 (1) 変数の定義 と測定 第 1の論争点 は,DP理論 に含 まれ る変数 の定義 と測定の問題である。 最 も単純化 して言えば,DP理論 は,特定の二 カ国が民主主義国同士のペア であるか どうかを独立変数,その二 カ国が戦争を行 っているか どうかを従属変 数 とす るO したが って何 よりもまず, いかなる基準で 「 民主主義国」 とそ うで ない国 とを区別 し,かつ 「 戦争」の有無を判別す るかが問題 とな る。 これ は, 民主主義国を 0, そ うでない国を 1といったよ うにコー ド化 して統計学的手法 で分析す る場合 には, とりわけ重要 になる。変数をどのように定義 ・測定す る かで,分析結果がまった く変わ ることもあ りうるか らである。 この問題が論争 の当初か ら大 いに議論 されて きたのは当然 といえよう。 結論を先 に言えば,すべての研究者が納得 して採用 しているような 「 民主主 義国」 および 「 戦争」の定義 はない。 しか し,大部分の研究者がいわば叩 き台 として採用 して きた定義 はい くつか存在す る。 それ らの定義 を紹介 し, そのど こに批判が集 まっているのか, そ して現在 までのところどのような修正案が出 されているのか といった,論争 の フロンテ ィアを明 らかにす ることが本節の 目 的である。 a 代表的な定義 後続の多 くの研究者 に採用 された定義 の 1つに,DP論争のそ もそ もの きっ ma l l& Si n ge r( 1 9 7 6 ) の定義 が あ る。 この論文 は, 当時 かけをつ くった S Cor r e l at e sofWar ) プロジェク トの シンガーを中心 に旗揚 げされた COW ( 初期研究報告 として発表 された もので,論文中に示 された定義 は,同プロジェ Mi l i t a r i z e dI nt e r s t a t eDi s put e s )で ク トが作製 したデータベース,M ID ( M IDについては Goc hman & Maoz1 9 8 4 採用 されている定義 と一致す る ( に詳 しい)。 この論文が発表 された時点では,1 81 6 1 9 6 5 年 のデータが揃 って い 4 1 民主主義 と平和の理論 た。 そこでは, まず民主主義国 ( 原文 は b our ge oi sde moc r a c i e s )が,次の 3要 件を満たす国 として定義 された。( a)定期的 に選挙 が行 われ, その選挙 に野 党が政権党をめざ して参加で きること, ( b)成人 の少 な くとも1 0%が投票権 C )立法府が行政府を統制 ( c ont r ol )して いるか, あるいは行政 を もっ こと,( 府 と同等の権限を もっ こと - である。次に戦争 は, まず国家間 ( i nt e r s t at e ) の武力紛争に限定 され,内戦や植民地解放戦争 は除外 された。そのうえで,軍 事要員のなかで ( つまり一般市民の被害者 は除いて) ,戦死者 が交戦国合 わせ 0 0 0 人を越えた場合を 「 戦争」 と呼ぶ。それによって,海上封鎖や軍事動員 て1 のような威嚇 ・示威行為 と,小競 り合い程度の武力衝突 は除外 された。 yl e( 1 9 8 3;1 9 8 6) があ る。筆者 もう1つ,後に多 く引照 された定義 に Do のM ・ドイル本人 によれば,民主主義国に分類 される国の範囲を従来 よりも広 i be r a lr e gi me s ) げた点が特徴である.そこに示 された民主主義国 ( 原文 は l の定義 は, カン トの共和国論か ら抽出 した 4要素 - ①私的財産権 を認 め る 市場経済体制をとること,②匡l 際的にみて 「 主権国家」であること,③市民が 法の上で平等 とされ,信仰や言論の自由などの基本的人権を有す ること,④国 家運営の実権をもつのは,選挙 によって有権者の信任を受 けた立法府であるこ と- を最低条件 とす る。そのうえで付加条件 として, 成人男性 の参政権 が 0 % とす る) こと,女性参政権運動 が広範 な盛 り上 が り 「 広い」 (とりあえず3 をみせてか ら一世代以内にそれが認め られたこと,少な くとも3年間は 「 安定」 した政治状況を続 けていることなどを挙げた。戦争については上記 C O Wのデー タに依拠 して,やはり国家間の一定規模以上の武力紛争 に限定 してお り,1 9 8 0 年 までアップデー トした点を除けば S ma l l& Si n ge r( 1 9 7 6 ) と大差 はない。 独立変数,従属変数 ともに二分法で測定 している点 も同 じである。 3つ 目に,9 0 年代の代表 として Ru s s e t t( 1 9 9 3) の定義 を紹介 しよ う。 同 1 9 4 6 1 9 8 6 年)の国々を Gu r r ,Ja gge r s ,&Moore(1989) に示 書では戦後 ( された Po l i t yI Iというデータベースに準拠 し,De mo c r a c y ,Aut ho r i t a r i a n , 両者の中間の An o c r at i cに 3分類する。Pol i t yI Iは, ( a) どこまで競争 的 に政治参加が行われているか,( b) どこまでルールにの っとって政治参加 が 行われているか, ( C ) どこまで競争的に行政府の人事が行われて いるか, ( d) どこまで開放的に行政府の人事がなされているか, ( e ) どこまで行政府の トッ 4 2 一橋研究 第2 1 巻第 4 号 プの独走を食い止める制約が課 されているか - を基準 に,各国を11段階評 価 していた。B・ラセ ッ トはそれを もとに,他の若干の要素を考慮 して,マイ 0 0か らプ ラス1 0 0まで各国 にポイ ン トを与 え,-1 0 0 --2 5をAut ho r i ナス1 t a r i a n ,+3 0 -+1 0 0 を De moc r a c y,両者の中間領域をAn oc r at i c に分類 した。 このように従来の二分法ではなく三分法を採用 したことが, ラセ ットによる定 義の第 1の特徴である。第 2の特徴 は,上のような定義を第二次大戦後の諸国 0 世紀後半では民主主義が必 だけに適用 したことで, これは 「 古代ギ リシャと2 ず しも同 じものを意味 しなか った」 ( Rus s e t t1 9 9 3 ,1 5 ) とい う認識 による。 第 3に,上の定義ではスモール&シンガーが挙げた市民の法的権限や ドイルが 挙げた市場経済体制などの要件が省かれてお り, ラセ ットによれば,前 2者 に 比べてさらに民主主義国の敷居を下 げた定義 となっている。一方,戦争 につい CO Wのデータに依拠 し,それを1 9 8 6 年 までア ップデー ト ては前 2者 と同 じく させただけと考えてよい。 いずれの研究者 も分類結果を一覧表 として掲 げている。一例 として ドイルの 8 3 2 年の第 1次選挙法改正か ら民主主義 リス トを見 ると,たとえばイギ リスは1 国 と認め られている ( Sma l l&Singer1976では参政権の幅が問題 とされて 1 8 6 7 年の第 2次選挙法改正 まで認め られない)。一方, アメ リカは1 7 7 6 年 の独 9 5 1 年 立宣言か ら民主主義国に分類 されている。 日本 は戦後,主権を回復 した1 か ら民主主義国 とされる。時代別 に ドイルが民主主義国 として挙げる国の数は, 1 8 世紀 には 3カ国 (スイス,第一共和政下のフランス,独立宣言後のアメリカ) , 1 8 0 0-1 8 5 0 年 には 8カ国,1 8 5 0-1 9 0 0 年 には1 3カ国,1 9 0 0 -1 9 4 5 年には2 9 カ国, 1 9 4 5-1 9 8 2 年には5 0カ国である ( Doyl e1 9 8 6 ,1 1 6 4-6 ) O もちろんいずれの研究者 も,みずか らの定義 に問題が残 ることは認めている。 たとえばスモール&シンガー自身,形式上 は野党候補の立候補が認め られてい て も,実際には一党独裁 と変わ らないケースが多々あると述べているOそれに もかかわ らず これ らの定義が多 くの後続の研究者 に採用されてきたのは,仮説 検証のためにとりあえず何 らかの定義が必要 とされたことに加え,データが公 開されていたために利用の便が良か ったことが 1つの理由であろう。 しか しそ れ以上 に重要な理由として,後続の研究者が DP理論 に疑 いの目を向けたとき に,あえて先人 と同 じ方法を採用 したことがある。それは次節で詳述す るよう に,相関関係の検定 において,データそのものよりもその処理方法が問題視 さ 民主主義と平和の理論 4 3 れたことによる。統計学的な分析手法によっては相関関係が認められな くなる のではないか という問題を提起 した研究者たちは,あえてDP理論の支持派 と 同 じデータソースを用いて ( っまり懇意的にデータをっ くったという批判を封 じ込めて), より強力な反証を提示 しようと試みたのである。 b 定義をめ ぐる論争点 とはいえ,定義その ものを問題視す る研究者が多いことも確かである。それ は,なぜ成人の1 0% とか戦死者 1 0 0 0 人 とかに分岐点が設定されているのかといっ た,数字の大小の問題だけに限 られない。以下で取 り上げるのは, より本質的 な問題点 として研究者の間で議論 されているものである。 第 1に, まず全体的傾向として,わざと 「 狭い」定義を用いていないか。つ まり,民主主義国 と戦争を狭 く定義 してその数を意図的に減 らし,民主主義国 同士が戟争を しているケースが出て こないようにしているのではないか, とい う批判である。 もしDP理論の支持派が使 う狭義の定義を採用すれば,同理論 が当てはまるのは戦後の北米および西 ヨーロッパ地域だけになって しまうとい う批判 さえある ( Cohe n1 9 9 4,2 1 0 4) 0 第 2に,個々のケースにおいて 「 言い訳」を していないか。DP理論 に疑問 を投げかけるケースが見つかったときに,その場か ぎりの理由をつけて,それ を退 けている場合があるという批判である。その一例 とされているのが,第一 次大戦で民主主義国 と戦 った ドイツ帝国である。当時の ドイツ帝国では,立法 府が連邦参議院 と帝国議会か ら成 り,帝国議会では普通選挙が採用されていた。 ドイルは,同国を 「 簡単には判定できないケース」 として特別扱い し,国内政 治問題では民主主義的で も,軍事 ・外交問題では政府の権限が議会 に比べて著 Doyl e1 9 8 3,par t しく大 きか ったことを勘案 して,非民主主義国に分類する ( I ,21 6 ) 。 しか しそれな らば,同 じ理由で当時のイギ リス, フランス も非民主 主義国に分類 されて しかるべ きだという批判がある ( Layne1 9 9 4,41 4 4) 0 偏見」がみ られないか。たとえば参 第 3に,民主主義国の定義 に欧米的な 「 0% といった基準では低す ぎ 政権の幅を本当に問題 にするのであれば,成人の1 るように思える。 しか しそうす ることで,女性参政権が認め られず,奴隷制を 維持 していた時代の欧米諸国は民主主義国に認定 される。一方,今 日の非欧米 圏の国々の多 くは,欧米の研究者が設 けたその他の要件を満たせずに非民主主 義国に分類 されている ( Maoz& Abdl al i1 9 8 9,8;Or e n1 9 9 5,1 5 0 ) 。 4 4 一橋研究 第2 1 巻第 4号 第 4に,戦争を 「 匡l 家間」 に限定 していることへの批判がある。現代では国 家間の暴力があか らさまな戦争の形をとることは少なくなってお り,代わ りに 秘密工作や内戦への介入,代理戦争などが増えている。民主主義国の政府 はあ か らさまに武力を行使 して世論の反発を買 うことを恐れるか ら,余計 にそうし た目立たない手段をとろうとするか もしれない。 自由選挙で生 まれたチ リのア Fo r s yt he ジェンデ政権 に対す るアメ リカの転覆工作が, その一例 とされ る ( 1 9 9 2 ) 。 また内戟 に関 しては,南北戦争を除外す ることへ の批判が とりわけ大 きい。第 5節で述べ るように,南北戦争 は因果関係の説明にとって大 きなカギ を握 るケースとみなされているか らである。 第 5に,混乱を避 けるために定義を統一 させようとす る努力が研究者の間に み られない。そもそも民主主義国の呼び名か らしてd e mo c r ac y, l i be r a lr e gi me , l i be r alde moc r ac y,bo ur ge oi sde moc r a c y,l i b e r t a r i a ns t at e sな ど, まちま ちである ( Cohe n1 9 9 4,2 1 1 ) 0 それに対 して理論の支持者側 は, さまざまな定義 ・測定法をとっているにも かかわ らず,DP理論を支持する分析結果が相次いでいるこそ,DP理論の強 r obus t ne s s )を物語 っていると反論す る。 また,定義が 「 狭 い」 とい う批 さ ( 判 に対 しては,む しろ意図的に敷居を下 げてなるべ く多 くの国を民主主義国に 包含 させてきたと反論す る。実際, スモール&シンガー, ドイル,ラセットと, 後 になるほど緩い基準を採用 してきた。そのように民主主義国の リス トを膨 ら ませたにもかかわ らず互 いに戦争 しているケースが出て こないのは,DP理論 Ru s s e t t1 9 9 3,1 5)。 しか し の強 さを証明す るものであるとラセ ッ トはいう ( それに対 して も批判があって,たとえばR ・コーエンは,定義を緩めす ぎれば 「 民主主義国」「 戦争」 という概念を操作化 ・測定す る際の有効性 ( v al i di t y) が下が り,そもそも独立変数 と従属変数の関係を明 らかにすることができな く Cohe n1 9 9 4,2 1 3 ) 0 なると述べている ( 定義 に関 して,最近 1つの提案が出された。あ らか じめ数量的な基準を設け て杓子定規的に分類するだけでな く,ある国が相手国を民主主義国 とみな して いるかどうか,その国の 「 パーセプション」をもとに決める方法である。 この 方法をとると,たとえ既存の定義上 は民主主義国に入 る国で も,対立国の指導 者や国民にそうみなされていなければ,民主主義国 と認 め られない ( Owe n, 1 9 9 4 ) 。 しか しこの方法をとると当然,パーセプションを どのよ うに識別す る 民主主義 と平和の理論 4 5 かの問題が生 じて こよう。 また,パ ーセプションによって対外政策が決め られ るというよ りも,逆 に対外関係 によ ってパ ーセ プ シ ョンが形成 ・修正 され る Or e n,1 9 95 ) 0 ( 敵対国を非民主主義国 とみなすようになる) という指摘 もある( 4 論争点 (2) 相関関係 第 2の論争点 は相関関係 - つま り,民主主義匡l 同士 が戟争 を しない と本 当にいえるか どうかである。 この問題 は, 1つ には変数をどのよ うに定義 ・測定す るか に左右 され うる。 それについては前節で詳述 したので,以下ではその他の相関関係 に関す る論争 点を取 り上 げる。大 きな問題 と しては 2つあ り,本稿で はそれぞれを,「偶然 の結果」説および 「 疑似相関関係」説 と呼んで整理す る。 a 「偶然の結果」説 「 偶然 の結果」説 は,戦争 とい うものが滅多 に起 こらない大事件であるうえ に,民主主義国が国際社会全体 の ごく一部を占めるにす ぎない ことを理 由 に, 民主主義国同士が戦争 を して こなか ったのは宝 くじにはずれ続 けて きたの と同 じような偶然の結果で しかないと主張す る。 民主主義国同士の戦争がないのは,そ もそ も民主主義国の数が少 ないか らで あるとい う指摘 は,比較的早 い時期か らあ った。 それを統計学的な手法で裏付 Spi r o1 9 9 4) 0 けようと試みたのが,D ・スパイロである ( 理論 の支持者 たちがい うよ うに民主 スパイロが問題 としたのは, たとえDP 主義国同士 の戦争が過去 にゼロだ として も, それを もって 「 民主主義国同士 は 戦争を しない」 と言えるか どうかである。家族 の誰 1人 として宝 くじに当た っ た経験のない人 はい くらで もいるが,だか らといって 「 宝 くじは絶対 に当た ら ない」 と決めつ けることはで きない。 そ もそ もの当選確率が低 いうえに, その 家族が宝 くじの購買者全体 に占める割合が微 々たるものなのだか ら,当選経験 がゼ ロで も少 しも不思議ではない。要 は確率 の問題 なのである。 9 8 0年 に は世界 に1 5 6カ国 これをE E l 際関係 に当てはめて, スパイロはい う。1 0カ国 ( 2 6%)が民主主義国であ った。全体 の2 6%の国々 が存在 し, その うち4 が互 いに戦争を しなか ったというのは,注 目すべ き現象で あ るよ うに思 え る。 理論 は民主主義国 「同士」を問題 としているのだか ら,確率 も二 カ しか しDP 5 6カ国あると1 2 0 9 0 組 のペア 国のペアで考えていかなければな らない。世界 に1 4 6 一橋研究 第2 1 巻第 4号 ができ, うち民主主義国国同士のペアは7 8 0 組,つまり全体の6. 5% にす ぎな く なる。加えて, この年 に戦争を行 っていたペアは 2組 (ソ連 とアフガニスタン, イランとイラク) しかないか ら,世界全体で特定のペアに戦争が発生す る確率 は (2÷1 2 0 9 0-)0. 0 2%未満だったことにな る。 確率 0. 02% の出来事が全体 5%のペアに生 じなか ったとして も,何の不思議 もないとスパ イ ロは主張 の6. する ( i bi d,6 2 3 ) 0 これを統計学的に確かめるために, スパイロはゼロという数字の有意性検定 民主主義国同士の戦争がゼロなのは偶然 の結果 にす ぎ を行 った。すなわち,「 nul lhypot he s i s ) をたて, それが棄却で きるか どう ない」 という帰無仮説 ( かを確かめようとした。棄却できなければ,「 民主主義国同士 は戦争を しない」 という元の仮説が受 け入れ られないことになる。 技術的な細部 は省略するが,スパイロは確率計算を行 って,上の1 9 8 0 年のケー 8 0 組のなかに 1つ も戦争が生 じない確率を8 2. 9% と算出す る。 スで民主主義国7 民主主義国同士でな くて も,たとえば Sではじまる国名 の国が7 8 0組 あ って も 8割以上の確率で互 いにまった く戦争を しないことになるわ けであ り, 「1 9 8 0 年の民主主義国同士の戦争がゼロだったのは偶然 にす ぎない」 という帰無仮説 はとうてい棄却で きないと, スパイロは結論づける。彼 は同 じ計算を1 81 6 1 9 8 0 年の各年 について行い,第一次大戦中と第二次大戦中を除けば,すべて 「 偶然 の結果」で説明がつ くと述べ る。 しか も偶然では片づけられない時期 の うち, 第二次大戦中については,実際に民主主義国同士の戦争があった (フィンラン ドと連合国側) とみなすのである ( i bi d,6 5 7 4) 0 このスパイロの分析に, ラセ ットは次のように反論 した。第 1に, スパイロ は1 81 6 1 9 8 0 年を 1年ずつ細分化 して,それぞれの年 につ いて偶然で説明がつ く確率を計算 しているが,それは歴史を通年でみたときのDP理論の有意性を 覆い隠 して しまっている。民主主義匡l 同士が戦争を しないのが偶然 にす ぎない 確率が1 9 8 0 年で . 8 2 9 ,1 97 9 年で . 7 0 4だとして も, この 2年間 「 続 けて」偶然 8 2 9と . 7 0 4を掛 けて . 5 8 3に低下す る。 同 じ掛 け算 を にすぎなか った確率 は . 1 81 6-1 9 8 0 年で行 うと,「 1 6 5 年間を通 じて民主主義国同士が戦争を しなか った のが偶然にす ぎない確率」 は,. 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2となる。偶然で はとう てい片づけられないと, ラセ ットはいう ( Rus s e t t1 9 9 5,1 7 0 ) 0 第 2に,スパイロは世界のあ りとあ らゆる国の組み合わせでペアの総数を算 民主主義と平和の理論 4 7 出 しているが, この方法 もDP理論の有意性を不当に覆い隠す とラセ ットはい う。 スパイロが計算 に含めたペアの中には,距離的に離れていて,海外派兵力 もない小国同士のペアもある。そういうペアが戦争をす る可能性 は事実上ゼロ に等 しい。検討対象 は 「 戦争を行 う可能性が本当にあるペア」 に限定すべ きで あ り,その方法をとると,ペアの総数 はスパイロのように単純計算 した場合の 1 2 %程度 に減少す る。一方,民主主義国同士のペアは互いに戦争をす る可能性 . 5 のある中大国のペアが多いか ら,それが総数 に占める割合 はスパイロがいう6 %よりはるかに大 きくなる。それにより,偶然で片づけられる確率 もはるかに 低下するはずだと, ラセ ットは主張 した ( i b i d,1 7 1 3 ) a ラセ ットに対 し, スパイロは再反論を行 っている。上の第 1点 につ いては, 自分 も5 年,1 0 年,2 0 年--1 5 0 年単位の分析を行 い ( ただ しその方法 はラセ ッ トと異なる) ,その うえで 1年単位の分析 と同 じ結論に達 したのだと主張 した。 第 2点 については, アイディアとしては良いが実際に行 うのはむずか しいとい う。「 戦争を行 う可能性が本当にあるペア」 はいかなる基準 で選 び出せばよい のか。それは,ただでさえ変数の定義で もめているDP論争をいっそう堂々巡 S p i r o1 9 9 5 ) 0 りにさせ るおそれがあると, スパイロはいう ( 以上 は独立変数 と従属変数が 1つずつの二変量解析 における論争点であるが, 複数の独立変数を設 けた多変量解析では 「 解釈の違い」がさらに大 きな問題 と なっている。以下 にそれをみよう。 b 「 疑似相関関係」説 「 疑似相関関係」説 は,独立変数 と従属変数がともに第 3のファクターによっ て影響を受 け,見かけ上の相関関係 にあるだけではないかと主張する。たとえ ば,経済発展が国々の民主化を促進 し,かつ経済的相互依存関係をっ くりあげ てそれ ら諸国に戦争を思いとどまらせていることが考え られる。その場合 は経 済発展 が平和 に結 びつ いているのであ り, 民主主義 と平和 は疑似相 関 関係 ( s p u r i o u s n e s s )に しかない。 疑似相関関係の可能性 は,論争のかな り早 い時期か ら指摘 されていた。上の 経済発展による説明は,その代表的なものである。他 にも以下の ものが,民主 主義に代わる独立変数の候補 とされてきた (カ ッコ内は各変数に関わる仮説) 。 ( a)地理的距離 ( 遠 く離れている国同士 はど戦争を しにくい) ( b)政治的安定度 ( 長期政権を維持 している国同士 はど戦争 を しに くい) 4 8 一橋研究 第2 1 巻第 4 号 ( C )経済的豊かさ ( 貧 しい国同士 はど戦費がまかえないか ら戦争を しに く いという仮説 と,上述のように豊かな国同士 はど経済的相互依存ゆえ に戦争を しにくいという仮説がある) ( d)軍事力 ( 軍事力が括抗 している国同士 ほど戦争 を起 こしやす い とい う仮説,差があるはど強い側が戦争を しかけやすいという仮説,差が 縮まりは じめている場合 はど戦争が起 こりやすいという仮説などがあ る) ( e ) 同盟関係 ( 同盟を結んでいる国同士 はど戦争を しに くいとい う仮説。 戦後の平和を冷戟の産物 とみる) こうした競合する変数を前にして,なお民主主義 と平和の相関関係を証明で きるか。 この問題を解 くために, 2通 りのテス トが行われてきた。 1つは多変 量解析によって競合す るファクターの相対的重要性をみること, もう 1つは代 替の独立変数候補の影響を統計学的に 「コントロール」 し,疑似相関関係の可 能性をチェックす ることである。結論を先 に言えば, ここで も解析結果につい て評価が分かれているのが現状である。 1 9 9 2 )が ある。 1つ 目の多変量解析のなかで注 目され る研究 に, Br e me r( 筆者の S・プレメールによれば, これが諸 ファクターの相対的重要性の判定に 正面か ら取 り組んだ初の研究であるという。実際,論争のきっかけをっ くった Smal l& Si nge r( 1 9 7 6 )は最 も単純な二変量解析を行 ったにす ぎず, それゆ え自分たちの分析を予備的作業にす ぎないと位置づけたのであった。 COWのデータを素材 に,特定の二 プレメールはスモール&シンガーと同 じ カ国が戦争を行 う可能性を左右すると考え られる諸 ファクターの相対的影響力 を多変量解析で明 らかにしようと試みた。対象期間 は1 8 1 6 1 9 6 5 年であ るO そ して,次の順番で戦争を 「 起 こしやすい」 という結果を得た。 ( 1 )国境を接 し ている国同士 ( 2 )同盟関係を結んでいない匡l 同士 経済的に遅れている国同士 ( 3)一方 もしくは両方が ( 4 )一方 もしくは両方が非民主主義国の国同士 ( 5 )軍事力に大 きな差がない国同士 ( 6 )一方 もしくは両方が大国である国同 の順である ( Br e me r1 9 9 2 ,3 3 6 8 ) 0 2つ目の疑似相関関係を調べた研究 としては,Z・モーズとラセ ットによる Ma o z&Ru s s e t t1 9 9 3 ) 。 彼 らは戦後 の1 9 4 6 1 9 8 6 年 を対象 に, ものがある ( 士- まず,上の ( a)∼( e ) に掲げたような競合す るファクターと一緒に多変量解析 4 9 民主主義と平和の理論 を行 って も,なお 「 民主主義国同士であるかどうか」が統計学的に有意な影響 力を もっていることを示 した。その上で,競合す るファクターをコントロール ( 統計学的手法によってその影響力を排除) し,再び有意な結果 を得 た。 要す るに,地理的距離の大小や経済発展の度合いなどに関わ らず,民主主義E E l 同士 であるかどうかが戦争の有無に影響 しているわけであり, ラセ ッ トらはそれを もって疑似相関関係の可能性が取 り除かれたと結論づけている ( i b i d,6 3 2 3 ) 0 これ らの結果をどう解釈するかは,評価が分かれるところである。 ラセ ット らは,二変量解析でみたときの相関関係でさえ 「 偶然の結果」 として疑 うスパ イロに強 く反論す るとともに,多変量解析の結果を もとに 「 疑似相関関係」の 可能性 も否定す る。他のファクターも戦争の可能性に影響す ることはラセ ッ ト らも認めるが,それで もなお,民主主義その ものに独立 した影響力がある点を 強調 して,DP理論の支持理由とす る。 しか しプルメールの分析結果を受 け入 れるな らば,民主主義の影響力 は他のファクターと比べて第 4位 で しかない。 そのことは,政策面 においてとりわけ大 きな意味を もとう。戦争を少な くする ためには,民主化支援 よりも経済支援や同盟づ くりのほうが有効であるという 政策的インプ リケーションが引 き出せ るか もしれないか らである。 そ して何 より,何位にランクされるにせよ,民主主義 と平和の間に相関関係 があるとするな らば,両者が結びついている理由をどう説明す るのか。それが 次 にみる因果関係をめ ぐる論争点である。 5 論争点 (3) 因果関係 第 3の論争点 は因果関係 - つまり,民主主義国同士が戦争 を しないとす れば 「なぜか」の問題である。すでに述べたように, これが現在のDP論争で 最大の論争点であるといってよい。 因果関係の説明は, これまでにDP理論の支持者たちによって 「 制度的説明」 と「 規範的説明」の 2つに整理 されている。それぞれがどのような内容で, ど のような批判を受 けているのか,以下でみてい く。 a 制度的説明 1つ目の制度的説明 ( i n s t i t u t i o n a le x p l a n a t i o n s ) は, 民主主義国が互 い に戦争を しない理由を,民主主義的な政治制度の特色 ク ・ア ンド・バ ランスや世論の役割 - か ら説明する。 政府と議会のチェッ 5 0 一橋研究 第2 1 巻第 4号 その要点 は,以下の通 りである。( 1 )民主主義国では,政府と議会の間にチェッ ク ・アン ド・バ ランス機能が働 くうえに,世論やマスメディアの役割が大 きい ため,政策決定を制約する要因が多 く,武力行使の決定までに時間がかかる ( 2 ) したがって民主主義国同士であれば, ともに決定までに時間がかかるため, 互いに奇襲攻撃を受ける心配な しに時間をかけて交渉による問題解決を図るこ 3)一方,非民主主義国では独裁者が独断的に戦争の決定を下す とができる ( ことができるため,民主主義国はそういう国か らの奇襲攻撃を恐れて先制攻撃 4 )非民主主義国同士の場合 も,決定 までの制約が比 に出る場合がありうる ( Rumme l1 9 8 3,5 6; 較的小 さいため,対立が戦争 にエスカ レー トしやすい ( s e t t1 9 8 3,62 6;Rus s e t t1 9 9 3,3 8 4 0 ) 。 Ma oz& Rus これを検証す るために Mo r gan & Sc hwe bac h( 1 9 9 2 ) は, ( a) 政策決定 者の選出方法 ( 民選か世襲制かなど) ( b)行政府 と立法府の力関係 ( C )政 治的な競争性 ( 野党や利益団体などの存在) の 3つ によって政策決定者への 「 制約度」を高 ・中 ・低に三段階評価 し, そ うした制約度 が高 い国同士 ほど, 制度的説明が示唆す るとお り戦争を行 う可能性が低 いことを統計学的に示 した。 また Bu e nodeMe s qui t a &Lal man( 1 9 9 2 ) は, ゲーム理論 を用 いて制度 的説明を支持す る議論を展開 している。 しか し制度的説明には,多 くの批判が向けられている。第 1に,指導者が政 策決定において何 らかの制約を受けるのは,民主主義国だけに限 られないO独 裁体制 とされる国であって も,指導部内の権力争いや人民蜂起への懸念か ら, 一人 もしくはごく一部の人間によって好 き勝手 に政策決定がなされているわけ Mor gan & Campbe l l1 9 9 1,1 9 0;Hag an1 9 9 4,1 9 4 ) 0 ではない ( 第 2に,民主主義国の政治制度や世論が戦争を食い止める要因になるかどう r al l yr ou nd t h ef l a g"現象 を想 かは,そのときどさの状況に左右 される。" 起す るまで もな く,世論が戦争を強 く後押 しすることは十分 に考 え られ る し, 議会やマスメディアについて も同 じことが言える。それ らは指導者に戦争を思 いとどまらせ るか もしれない し,逆に戦争へと追 いやるか もしれない。1 8 9 8 年 の米西戦争では,乗 り気でないマ ッキンレー政権を世論が戦争へ突 き動か した Le vy1 9 8 9,9 0;°han1 9 9 3,2 0 8 9;Owe n1 9 9 4,9 1 ) 0 といわれる ( 第 3に,同 じ国で も時代によって国内政治上の制約の度合いは異なる。たと えばアメ リカで も,建国か ら今 日に至 るまでに,大統領の実質的権限に幾度 も 51 民主主義 と平和の理論 の大 きな変化があった。 ビスマルク時代 とヴィルヘルム 2世時代の ドイツ帝国, あるいは ドゴール体制下 とそうでない時期の戦後 フランスを同一視す ることに も疑問が残 ろう ( Hagan1 9 9 4,1 9 4 ) 。 そ して第 4に,最 も決定的な弱点 として, これでは民主主義国が非民主主義 国 とはかな り頻繁 に戦争する理由を説明で きないと批判 されている。制度的説 明において世論の役割が強調 されているのは,戦争が もた らす人的 ・経済的な コス トを国民が嫌 うという前提に立 っているか らであるが,そ うしたコス トは 非民主主義国が相手の戟争で も同 じであろう。な らばなぜ,非民主主義国が相 °han1 9 9 3,2 0 9;Di xon 1 9 9 4, 手のときは世論が戟争抑止力 とな らないのか ( 1 8;Layne1 9 9 4,1 2 ) 0 論争の経緯 ( 第 2節)で触 れたよ うに,論争 の初期 には Rumme l( 1 9 8 3) のように,民主主義国は相手を問わず平和的に行動す るという仮説を支持す る 9 7 6 1 9 8 0年 統計学的分析 も出された。 しか しこれは後に,分析対象 の期間が 1 ときわめて短 く, しか も歴史的に特殊な時期を選んだためであるという批判が 相次いだ。We e d( 1 9 8 4 ) ,Ch礼n ( 1 9 8 4),Maoz & Abdol al i( 1 9 8 9) な ど, いずれの統計学的分析で も,民主主義国が-国単位でみたときに非民主主義国 よりも戦争を行 う可能性が低 いという仮説を支持する結果 は出ていない。 繰 り返 しになるが,DP理論には,民主主義国同士が戦争 を しない一方 で, 非民主主義国 とはかな り頻繁 に戦争を行 っている理由を同時に説明するという 課題が課 されている。現在では,少な くとも制度的説明 「だけ」ではその説明 がつかないという意見が大勢を占める。現在, より注 目されているのは次の規 範的説明のほうである。 b 規範的説明 2つ 目の規範的説明 ( nor mat i vee xpl anat i ons) は,民主主義国が互 いに 戦争を しない理由を,民主主義の規範的 ・文化的な特質 に暴力ではな く平和的手段を用いようとす ること - 利害対立 の解決 か ら説明す る。 その要点 は,以下の通 りである。 ( 1 )民主主義国においては,暴力ではなく, 交渉や妥協 によって利害対立の解消を図るべ きだとす る規範が浸透 している ( 2 ) この規範が国家関係 にも適用 される。すなわち民主主義国同士であれば, 互いに相手国の指導者 も平和的手段 による問題解決を望むはずだと考え,たと え利害対立が生 じて も戦争に訴えることはしない ( 3 )一方,民主主義国の人 5 2 一橋研究 第2 1 巻第 4号 間の目には,非民主主義国の指導者が暴力 も辞 さない野蛮な存在 と映 る。それ ゆえひとたび紛争が生 じると,相手の奇襲攻撃を防 ごうとして民主主義国か ら 攻撃 に出ることもありうる ( 4)非民主主義同士の場合 も,互 いに相手の暴力 Ma oz & Ru s s e t t への疑心暗鬼か ら対立が戦争 にエスカ レー トしやす い ( 1 9 9 3,6 2 5;Ru s s e t t1 9 9 3 ,3 0 3 8 ) 。 DP理論の支持者たちは,以上の論理によって,民主主義国が非民主主義国 とは戦争をする理由 も同時に説明されたと主張す る。制度的説明と違 って,氏 主主義国に内在する危険性 - みずか らの基準で相手 を非民主主義的 と判断 し,「われに正義あり」 と確信すれば,む しろ積極的に戦争 に出 ることが十二 分 にあ りうること - が盛 り込 まれている点に注 目されたい。 理論的な観点か らも, この規範的説明は重要である。上記か ら明 らかなよう に,規範的説明は,国家の対外政策決定における規範および信条の役割を強調 するOそれは近年注 目されている 「アイディア ・アプローチ」あるいは 「 省察 ( r e f l e c t i v e )アプローチ」 と共通の理論的立場であ り,冷徹な費用便益計算 の みを国家の戦略決定要因 とみなす リア リズムとは理論的前提が異なる。 リア リ ズムに挑戦 しようとする理論家たちがDP理論 に注 目している理由が,そこに ある。 統計学的に規範的説明を裏付 けよ うと した研究 も多 い。Ma o z &Ru s s e t t 郵 こ浸透 している度合いを, 政治 的安定度 ( 1 9 9 3 )は,民主主義的規範がそのl ( 現体制が長 く続いているはど規範が社会 に浸透 していると仮定) と, 政治的 暴動の件数や死者数 (ともに少ないほど民主主義的規範が強いと仮定)で測 り, それが戦争の発生率 と統計学的に有意な相関関係 にあることを示 した0 しか し, この説明にも批判が向けられている。批判者が 「 反証」 としてとり 。C O W プロジェク トをは わけ重視 しているのは, アメ リカの南北戦争である じめとす る戦争の定義か らすれば,南北戦争 は国家間の戦争ではな く,単なる 内戦 としてDP理論の対象か ら除外 される。 しか し批判者側 は,戦争か内戦か は別 として, これが規範的説明に疑 いの目を向けさせる重要な材料だと主張す る。確かに北軍 と南軍 は国同士 として争 ったわ けで はなか ったが,建国以来 「 民主主義国」に分類 されているアメ リカの一部 として,民主主義的規範 を共 有 していたはずである。その両者が,国家間の戦争 よりも多数の死者を出 して 相争 ったということは,民主主義的規範なるものにどこまで力があるといえる 民主主義と平和の理論 5 3 のか。同 じ言語や文化 を共有す るグループ同士の内戦す ら食い止め られないと C血an 1 9 9 3,2 0 7; した ら, どうしてそれが外国同士 の戦争を抑止で きるのか ( 1 ) 0 Layne1 9 9 4,4 0 4 計量分析の結果を疑問視す る声 も上が っている。 1つには規範の操作化 と測 定が きわめてむずか しい と考 え られ るか らで, た とえば Maoz & Rus s e t t ( 1 9 9 3 )が代理変数 に用 いた政権の存続期間に して も, その長 さが民主主義的規 範 の浸透度 を示 しているとはか ぎらない。独裁政権が,効果的に民衆 の不満を Far be r& Gow且1 9 9 5,1 2 6 ) 0 押 さえつけているだけか もしれないか らである ( こうした指摘 を受 けて,最近 は機械的な計量分析だけでな く, カギを握 ると み られ る事例 を詳細 に調べ る叙述的なケーススタデ ィが増えて きた。た とえば Owe n( 1 9 9 4) は, アメ リカの対外政策形成 における民主主義 的規範 の役割 を み るために,1 7 9 6 9 8 年の対仏政策,1 8 0 3 1 2年 , 1 8 61 1 6 3年 , 1 8 9 5 1 9 6年 のそれ ぞれにおける対英政策の合計 4ケースを検討 し,民主主義国が相手国を民主主 義国 と認 めた場合 には,相手国の指導者を信用 して戦争を思 いとどまった こと を示 した ( ただ し相手国を民主主義国 と認 めるか どうかは, もっぱ らその国の 1 9 9 5,c h.5) は1 8 9 8 年 に起 きた 2つ の事 指導者 の主観的判断による)0Ray ( 件- 仏英 の ファシ ョダ危機 と米西戦争 - のケーススタデ ィを行 い, や は り規範的説明を支持す る結果を示 している。 しか しなが ら,DP理論 に否定的なケーススタデ ィの結果 も出 されてい る。 Layne( 1 9 9 4 ) は,民主主義国同士が戦争 の一歩手前 まで い った 「ニア ミス」 のケース 4つ - 米英 の トレン ト事件 ( 1 8 6 1 年),同 じく米英 のベネズェラ危 機 ( 1 8 95 9 6 年) ,仏英 の ファショダ危機 ( 1 8 9 8 年) , 仏独 のル ール危機 ( 1 9 2 3 年)- を検討 し, いずれのケースで も戦争が回避 された理由は, リア リズム 流 の戦略的計算で説明がつ くと述べている。 いずれのケースで も国内世論 は好 戦 ムー ドに沸 き,政治家 も戦争を辞 さぬ構えを貫 いて,開戦前夜 の状況にまで 至 った.一方が寸前で折れたのは, 自国の戦力が劣 ると判断 してやむな く譲歩 したか らにす ぎず,民主主義的規範 の影響 は認め られなか ったという。か くし て筆者の C ・レイ ンは,DP理論 よりもリア リズムのほうに軍配を上 げる。 そ して,民主化支援が平和 に直結す るといった 「 希望的観潮」 に警鐘 を鳴 らすの Layne1 9 9 4,49 ) 0 である ( このようにDP 理論 をめ ぐる最近の論争 は,DP 理論 その ものについてだけ 5 4 一橋研究 第2 1 巻第 4号 でな く, よ り広 く, リア リズムのパ ラダイムに挑戦す る側 とそれを守 る側 との 論争, さ らにはポス ト冷戦 の外交政策論 にまで発展 している。それゆえ今後は, 定義や検証方法などの技術的な論争だけにとどま らず 化のために不可欠ではあるが - それ も理論 の精微 理論面 と実践面の両方 で もっと視野 を広 げ た研究が必要であると思われる。最後 に次節で, そのための研究課題 を考察 し よう。 6 今後の課題 - むすびに代えて 理論 と実践 の両面でDP理論 の意義 をいっそ う高めるためには,次のような 研究課題への取 り組みが必要かつ有意義であると思 われる。 第 1に,理論の奥行 きを深 めることである。 とくに論争の焦点である 「なぜ」 の問題 について, よ り掘 り下 げた研究が必要である。すでにある因果関係 の説 明には多 くの係争点が残 る。因果関係のメカニズムをよりよ く明 らかにす るた めには, まず一方で,詳細 なケーススタデ ィの蓄積が欠かせない。民主主義的 p r o c e s st r a c i n ga n a l 規範が政策決定 に結 びっ くプロセスを詳細 に追 う研究 ( y s i s )は, ここ 2-3年で登場 して きたばか りであ り,今後 とも積み重 ねて い く必要がある。同時に もう一方で,多数 のケースか ら規則性を抽出す る計量分 析 に もまだまだ活躍の余地がある。DP理論か ら演鐸的に導 き出され る仮説 を 多 くつ くり,それぞれについて検証を行 うことで, よ り多方面か らDP理論を p i r o( 1 9 9 4 )は,規範的説 明 テス トす ることがで きるか らである。 た とえば S ,「民主主義国同士のほうが か ら演緯 される仮説 として ( 互 いに信頼 しあ うか ら) そ うでない二 カ国 よりも同盟す る確率が高 い」 を挙 げ, その統計学的な分 析を提案 している。同様 の ( 仮説抽出-検証) の作業を多 く行 うほど,理論 は 精微化 され,検証の有効性 も高 まるであろう。 同士 は戦争 を しない」 第 2に,理論 の幅を広 げることである。 「民主主義 匡l ということのはかに も,理論的 ・政策的イ ンプ リケーションの大 きな問題 はた n s f i e l d& S n y d e r( 1 9 9 5 )は,民主主義国であるか ど うかだ くさんある。Ma けではな く,民主主義国へ と移行す るプロセスを問題 とした。そ して,民主化 の途上 にある国 は,非民主主義国 よりもかえ って戦争 を起 こ しやす くなるとい う興味深 いパ ター ンを発見 している。同様 に,た とえば同 じ民主主義国で も議 会制 と大統領制で戦争の可能性 に差が出 るか どうか,福祉型国家 と自由放任型 民主主義 と平和の理論 5 5 国家 とではどうか,国家の タイプによって戦争の規模 ( 期間や死者数など) に 差が出るか どうかなどの問題設定がで きよう。 こうした幅広 い問題設定をす る ことで,そ こで得 た結果をDP理論その ものに取 り込んでいくことができるし, 政策上 もより多 くの示唆が得 られよう。 第 3に,他 の理論 との連係 を強めることである。DP理論その ものだけに論 争を終始 させ るのでな く, この論争 を通 じて国際関係論 の全体 にとって意義 あ る研究成果が生 まれ るように,DP理論を国際関係論 の全体的な理論体系のな かに位置づけ,他理論 と連係 させなが ら研究を進 めてい く努 力 が必要 であ る。 すでに述べた とお り,DP理論 は規範 ・信条を重視す る点でアイデ ィア ・アプ ローチと理論的立場を同 じくす るが, それぞれの理論の研究者 はときお り互 い に引照 しあ うだけで,互 いの研究成果を統合 しようとする努力は今のところはっ きりとみ られない。 また,DP理論 は リア リズムに挑戦す る理論 とみなされて いるが,両者 を補完 させあ うための努力が な されて もいい。 「分析 の レベル」 でいえば, リア リズムはシステム ・レベル,DP理論 は国内 レベルを中心 とす るが,DP理論 の研究を進 めることで,両 レベルを統合 した理論づ くりに向か え るか もしれない。 たとえば, システム ・レベルで経済的相互依存がある (ま たはない) ときに,国内政治体制の違 いによって戦争を行 う可能性 に違 いがあ るか, といった問題設定が可能であろう。 DP論争 はもっぱ ら米国を中心 に展開 されてお り, E] 本人 を含 め外国人研究 者 の声 は,た とえあって もほとん ど届 いていないのが現状である。非欧米圏の 民主主義国である日本か らの論点 は歓迎 され るに違 いない。 日本人研究者 の積 極的な参加 ・貢献が急務 といえよ う。 参考文献 Ba bs t ,De a n.1 9 7 2." 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