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演習III(ムート・ゼミ)(法学研究科教授 曽野 裕夫)
演習Ⅲ(ムート・ゼミ) 法学研究科 教授 曽野 裕夫 ■シラバス 授業の目標 Course Objectives 世界各国から学生が参加する「Willem C. Vis International Commercial Arbitration Moot(ヴィス 模擬国際商事仲裁大会) 」 (2011 年 4 月,香港及びウィーンで開催)及び日本の国内大会である「模擬仲 裁日本大会」 (2011 年 2 月,京都で開催)への参加を通して,世界のなかにおける自分たちの位置をは かりながら,以下の到達目標を達成すること。 なお,これらの大会においては,わが国も締約国となって間もない「国際物品売買契約に関する国際 連合条約」 (ウィーン売買条約,CISG)を適用するが,その基本を習得することは,民法(債権法)の基 本の理解にもつながる。 到達目標 Course Goals ・ウィーン売買条約(CISG)の基本を理解すること。 ・国際商取引をめぐる紛争解決における法律家の役割を理解すること。 ・物怖じすることなく,英語で説得的な法律論を展開できるようにすること。 授業計画 Course Schedule 上記の3大会は,参加者が仮想の国際取引紛争を素材として, 「国際物品売買契約に関する国際連合条 約」 (ウィーン売買条約,CISG)を適用する模擬仲裁を行うものであり,これらへの参加とそれに向けた 準備がこの授業の中心となる(香港とウィーンについては,一方のみに参加するか,それとも両方に参 加するかは,受講者と相談のうえ決める。京都大会は参加する。)。これらの大会では,参加校は準備書 面(申立人側,被申立人側の2通)を予め作成し,口頭弁論に臨むことになる。 これらの3大会は,共通の仮想事例を用いるが,その仮想事例は 10 月初旬に公表される。したがって, この演習では前期を「基礎編」 ,後期を「実践編」として位置づけ,次のような内容で行う。 〔前期〕 ①ウィーン売買条約の内容を民法と比較しつつ理解すること,②国際商取引における紛争解決のし くみ(主に仲裁)の基本を理解すること,③過去の事例問題を用いて模擬仲裁の練習(準備書面の書 き方,口頭弁論の行い方を練習する)を行うことに重点を置く。 〔後期〕 事例問題の公表を待って,1月中旬までは受講者が協力して準備書面の作成に重点を置き,それ以 降は口頭弁論の練習に重点を置く。参考までに,例年のスケジュールは次のとおりである。 10 月初め 問題公表 12 月上旬 申立人側準備書面の締切り 1 月中旬 被申立人側準備書面の締切り 2 月下旬 京都大会,4 月上旬 香港大会,4 月中旬 ウィーン大会 なお,大会の開催時期は学期終了後であり,特に香港及びウィーンの大会は,年度をまたがること になる。詳細は参加者と相談して決めることにする。 (参考)香港大会の HP http://www.cisgmoot.org/ ウィーン大会の HP http://www.cisg.law.pace.edu/vis.html 成績評価の基準と方法 Grading System ゼミにおける議論や準備書面の作成等への建設的貢献を主たる基準として,平常点により評価する。 ■授業の取組・工夫等について 1 授業の目的・内容 この授業は,Willem C. Vis International Commercial Arbitration Moot とよばれる模擬国際商 事仲裁大会への参加を目的・内容として,2010 年度に通年で開講した演習である。この大 会は,架空の国際取引から生ずる紛争をめぐって,原告(申立人)と被告(被申立人)に 分かれた参加大学が,仲裁人役をつとめる法律家の面前で法律論を弁論する大会である(使 用言語は英語) 。1994 年以来,毎年 3 月又は4月にウィーンと香港で開催されており,この 授業で参加した 2011 年春の大会は,例えばウィーンでの大会には 63 の国と地域から 254 大学の参加があった。このような模擬裁判・模擬仲裁の大会は他にもいくつもあり,世界 的には標準的な法学教育の方法となっている。 問題が公表されるのは例年 10 月初めなので,前期の授業は「基礎編」として位置づけ, 学部生がまだ学習していない国際取引法についてのレクチャー,過去の大会の問題を用い た練習や,他大学との合同練習(具体的には同志社大学)の機会を設けた。そうして,後 期の「実践編」では,10 月から 1 月にかけて準備書面の作成・提出を行い,2 月の定期試 験終了後に,口頭弁論の練習を行い,4 月上旬に香港,4 月中旬にウィーンでそれぞれ約 1 週間にわたって口頭弁論に臨んだ。なお,日本からは他に早稲田大学,同志社大学,神戸 大学が参加しているが,これらの大学を主たる対象とした国内での合同練習試合が 3 月上 旬に京都で開催され,それにも参加した。 2 工夫(?) 以上のとおり,香港やウィーンでの大会は正規の授業期間終了後に行われる(2011 年の 大会は,翌年度の前期にまで食い込んだ)。学生がこの授業に費やすエネルギーは膨大で, 単位取得だけを目的としているのでは,決して割が合うものではない。だから,授業とし ては,本当は問題があるのかもしれない。また,2010 年後期には旅費の補助について理解 を大学から得ることができなかったので,経済的な負担も大きかった。それにもかかわら ず,この授業では,終始,教員が学生たちの熱気に気圧されているといってもよい。この 授業は 2009 年度から毎年開講しており,現在 2011 年度の授業参加者が,大会に向けた準備 をしているところであるが,状況は変わらない(なお,2009 年と 2011 年はありがたいこと に大学から旅費の補助をいただけた。)。 この授業に魅力を感じる学生は,大会に向けて能動的な授業参加が求められること,他 の学生との濃密な共同作業が必要になることに新鮮味を感じているのではないかと思う。 また,特に,口頭弁論では,教員に頼ることなく,自分たちで問題を解決しなければなら ないという責任感・緊張感も,学生たちの充実感のもとになっているであろう。さらに, 実際に海外に行き,国内外の同世代の海外の学生との交流を通じて,世界のなかでの自分 たちの立ち位置を知るというのも貴重な経験になっていると思われる。 だから,教員がしていることは,大会に参加するという明確な目標を示すこと,大会参 加の機会を提供することと,学生たちの議論や弁論の練習にとことん付き合ってやること ――といっても答えは与えない――に尽きているといってもよい。 3 今後の課題 以上のとおり,参加する学生の負担の大きな授業なので,大会に参加するのに必要な学 生数が集まるかどうかが毎年不安の種である。幸い,これまではこの授業の参加経験者が, 翌年も友人を連れて再び参加するというサイクルがうまく回っていた。これを回し続ける ことができるかどうかが最大の課題である。 (今回,エクセレント・ティーチャーに選出されたとのことですが,少人数の授業ですの で,学生1人がアンケートの回答を変えるだけで結果は大きく変動します。ですから,こ の結果には,統計としては大きな意味がないだろうと思うのですが,せっかくの機会です から,授業について紹介をさせていただきました。 ) ■学生の自由意見(良かったと思う点) ・前期の同志社大との合同ゼミがとてもよかったです。後期のメモランダムを書くまで非常に役に立ちま した。 ・この授業を通して,法律について深く考えられる機会を得られた。外国法に対する理解も深まった。 ・いろいろ思い出せて,勉強になれると思う。 ・にぎやかなゼミで活力があると感じている。皆さんからすてきな刺激を受けている。